名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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とりあえず完成したので投稿。

本来の予定では一気に事態が進行していく所まで描く予定でしたのですが、描写を進めて行った際に話の内容から全体的に考えてみると、ここの部分に関しては二分割よりも三分割した方が良さそうだと思ったため、急遽三分割として投稿する事としました。

それでは、前回の続き。
行秋の煙緋との聞き取り調査の話からです。


_俺はそう確信している

Side:胡桃

 

「そうだよ、皆。それで煙緋の聞き取り調査を受けていた僕は、こうなってしまったからには何もしないというわけにはいかないと思ったんだ。そうして彼女に他に出来る事は出来ないかと、そう彼女に聞いて見たんだ」

 

「ほぉ…。それが先の、嘉明の前に行秋と煙緋の二人が現れて合流した経緯に繋がるという訳か…」

 

「その通りだよ、鍾離さん」

 

行秋は鍾離のその言葉に同意するかのように頷く。

 

「それで煙緋にそう言って尋ねたら、煙緋は煙緋が連れていた千岩軍の人達と話し合ったんだ。そうして僕の身分が飛雲商会の会長の次男である事、そして僕自身が商会の方である程度慕われていたという事から、逃亡を許してしまった幹部達や一派達に対して僕も煙緋と共に説得や投降勧告を行えば、彼らがそれに応じる可能性が高いのではないかと結論に至ったんだ。そうして僕は煙緋と行動する事になったというわけなんだよ」

 

「ほぉ…、そういう彼女と行動を共にした経緯と言うのはそういう経緯だったのか」

「へぇ…、そう言う経緯だったんだね」

「そうだったのですか」

「そういう経緯だったんだ。成程ね」

「へぇ、成程。そういう経緯だったんだな。納得だぜ」

 

行秋の説明に納得した様子を見せる鍾離や胡桃、また雲菫と香菱、そして嘉明。

 

「そう言う事だよ。皆。そして僕は正式に煙緋の協力者として認められて、彼女や千岩軍の人達と行動を共にすることになったんだ。そうして僕は彼らを案内しては彼らを見つけ出し、煙緋や千岩軍と共に彼らへの説得や投降勧告を行っていったんだ」

 

「ふむ、成る程…」

「そうだったんだね…」

「成程…」

「そうだったんだ…」

「へぇ、成程だぜ…」

 

行秋の説明に鍾離、胡桃、雲菫、香菱、嘉明はそう呟く。

 

「行秋さん。その説得や投降勧告の結果はどうなったんですか……?」

 

そして雲菫は行秋にそう尋ねた。

 

「うん。結果的には大半以上は僕や煙緋による説得、それに投降勧告に応じてくれたよ。それでも一部の者達は更に逃亡を図ったり抵抗する者もいたんだけど、煙緋が率いていた千岩軍の部隊が取り押さえて連行していったり、制圧したりしていったよ」

 

「そうだったんですか、それは良かったです。上手く行って…」

 

雲菫は行秋の話から安堵した様子を見せる。

 

「良かったよ…。上手く行って…」

「そうだな、堂主殿」

 

胡桃は腕を組みながら、また鍾離も胡桃と同じく安堵した様子を見せる。

 

「良かった…。あれ?それならどこで、この騒ぎに繋がってくるの?ねぇ、行秋」

「良かったぜ…。うん?そういや、この暴徒騒ぎはどうして起こったんだ?なぁ、行秋」

 

だがそこで香菱と嘉明が雲菫と同様に安堵するも、その安堵がすぐに疑問へと変わり、この騒ぎに繋がってくる原因についてを行秋に尋ねる。

 

「うん、その事なんだけどね。説得や投降勧告に失敗し、逃亡を図ったうちの商会の商会員達を追いかけてチ虎岩区で千岩軍の兵士達が取り押さえる事に成功した時、すぐ近くで何やら大きな騒ぎが起こっている事に気づいたんだ」

 

「大きな騒ぎ…?」

「大きな騒ぎだって…?」

 

行秋のその発言に香菱と嘉明は首を傾げる。

 

「うん。大きな騒ぎだよ。それで状況を確認する為に、僕たちはそっちの方に確認しに行ったんだ。そうしたら壁際で尻もちをついている数人の人達と、その人達を追い詰めるように十数人の男達がいたんだ」

 

「なんだって!?」

「えぇっ!?」

「そ、それは…!?」

「それって…!?」

「それは…!?」

 

行秋から告げられたその内容に香菱と嘉明、そしてまた鍾離や胡桃や雲菫達は驚いたように反応する。

 

「うん。そうだよ。逃走していた反刻晴派、その過激派の者達の騒動と同じことがその場に起きてしまっていたんだ。まぁ、ここ港湾区よりかは規模も小さく、また人数も少なかったけどね……」

 

行秋はそこで一区切りすると、行秋や胡桃達の目の前で起きてしまっている猛り狂って千岩軍に怒号を飛ばす男達の集団をその視界に映し、そしてそんな胡桃達に視線を戻して彼らへと話を続け始める。

 

「だけど、幸いにも彼らが反刻晴派のその者達に襲い掛かるような事にはなっていなかったよ。なぜなら僕らが駆け付けた頃には既に数人の別の千岩軍の兵士達と数名の七星八門の職員達、そして彼らを率いていた“甘雨”と呼ばれた人が、そんな男達の前に割り込むようにして立っていて、彼らを止めようと必死に説得していたからね」

 

「なに、甘雨がか…?」

「え、甘雨?甘雨って、港湾区の火災を担当している人だったよね?」

「そうですね。胡桃さん。あの時、職員達の代表さんが言っていた人ですよね」

「そうだよね、胡桃、雲菫。確か茶館まで走ってきた臨時の伝令兵が言っていた人だよね?」

 

甘雨という名前を聞いた鍾離は食いつくかのように反応し、また胡桃達もそれぞれ反応する。

 

「そうだよ、皆。今は港湾区の火災の件を指揮し、そうして彼らの先頭に立っている人だよ。とにかく甘雨さんが説得してくれていたおかげで、既に彼らはある程度冷静になってくれていたんだ。そのおかげで煙緋さんと甘雨さんが共に彼らを説得したら完全に止まってくれて、そうして彼らは千岩軍に反刻晴派の身柄を渡してくれたんだ。本当に良かったよ。何事も無くて…」

 

「そうだったのか…。本当に良かったぞ。事なきを得て……」

「うん、そうだね。良かったよ…。本当に……」

 

行秋のその説明に鍾離と胡桃は安堵した様子を見せる。

 

「本当にだよ。何事も無く終わってね…。まぁ、そしてその後は煙緋さんは甘雨さんと話し始めて、お互いの情報共有とかを始めたんだけど……」

 

行秋はそこまで言うと、そこで少し間を置いた。

 

「………」

 

そして何かを考えるそぶりを見せる行秋は改めて胡桃達にその視界に収める。

 

 

 

 

 

「_胡桃、それに鍾離さん達。一つ、良いかな?」

 

彼はそう言うと、胡桃と鍾離達へと問いかけるようにそう尋ねる。

 

「うん?なに、行秋?」

「うむ、どうしたんだ。行秋殿?」

「行秋さん、どうなされましたか?」

「どうしたの?行秋?」

 

胡桃達はそれぞれ行秋にそう尋ねると、彼はそこで話を続ける。

 

「うん、実は煙緋さんと甘雨さんが情報共有をしている時に気になった単語があったんだけど…。それに関して何か分かる事ってあるかな?」

 

行秋はそう言うと、胡桃達にそう尋ねる。

 

「気になった単語?」

「行秋殿、その単語とは何だ?」

「なんなのですか、その単語と言うのは?」

「なになに、その単語って?」

 

胡桃と鍾離は疑問符を浮かべながらそう呟き、それを聞いていた雲菫と香菱も疑問符を浮かべている。

 

「うん。それは“先に居る者達”っていう単語だよ」

 

「あぁ、その単語か。確かにそれは俺も気になっていたぜ。それにその時の情報共有の時だけでなく、彼女達と別れるまでに何度も煙緋と千岩軍の隊長達が、その単語を口にしていたよな?」

 

行秋のその問いに嘉明も同じ疑問を抱いていたのか、行秋に頷きながらそう答える。

 

「うん、そうだね。確かに僕達が煙緋さんや千岩軍達と別れる寸前に、そんな単語を煙緋さん達が口にしていたよね。だけどその言葉、その言葉が指し示す意味っていうのはつまり…」

 

「あぁ、分かってるぜ。少なくとも今回の騒ぎって言うのはそう単純な話じゃないってことくらいはな。反刻晴派の職員達、反刻晴派に協力している民間人の協力達とは別に、更に先にいる存在…。つまりは反刻晴派やその協力者達に対して何者かが関与、もしかすると彼らを操っている可能性すらあるってことだよな?」

 

行秋の説明に嘉明はそう解釈すると、二人はそれを深く考えるように考え込む。

 

「えっ!?反刻晴派が操られている!?」

「えぇっ!?ちょっと待ってよ…!?」

「先に居る者達…。ふむ…。まさかだとは思うが……」

 

行秋達の会話に胡桃と香菱は驚愕の表情を見せ、鍾離は僅かに驚いた表情を見せながら深く考え込む。

 

 

 

「_いや、待ってください!!もしかして…!?」

 

そして雲菫は何かに気付いたのか、すぐに鍾離の方に向き直る。

 

「…雲菫殿。そのもしかしてだと、俺は思うぞ」

 

「ですよね…」

 

鍾離と雲菫は何かを察したかのようにそう言うと、雲菫と鍾離は同時に険しい表情を浮かべる。

 

「えっ?雲菫、それに鍾離さん…?あっ……」

「二人とも…?あっ、待って。もしかして茶館で話してたあれと関係あったりする…?」

 

胡桃と香菱は雲菫と鍾離の表情を見て、何かを察したかのようにそう呟く。

 

「うん?胡桃達はこの単語に心当たりがあるようだね」

「どうやらそのようだな。なぁ、教えてくれないか?胡桃、それに鍾離さん達」

 

行秋と嘉明は胡桃達のその反応を見て、胡桃達にそう尋ねる。

 

「う~ん、その事なんだけどね…。あれってあくまでも噂や憶測での推測だし……」

 

胡桃は悩める様子でそう答える。そして困ったかのような表情を浮かべながら雲菫の方へと視線をやる。

 

「そうですね…」

 

雲菫はその視線に答えるかのように彼女は頷きながら、行秋と嘉明の方に向き直る。

 

「…行秋さん、嘉明さん。その事に関しては私から説明しますね」

「うん、分かった。それじゃあさっそくだけど、僕達にその事を教えて」

「あぁ、頼むぜ」

 

雲菫は彼らにそう言い彼らも彼女にそう告げると、改めて雲菫は真剣そうな表情で話し始める。

 

「はい、分かりました…。まず先に言っておきますが胡桃さんが言いました通り、これらはあくまでも噂や憶測での推測です。その事を念頭に置いておいてくださいね」

 

「うん、分かったよ」

「あぁ、分かったぜ」

 

雲菫のその言葉に行秋と嘉明はそう答える。

 

「分かりました。それでは改めて説明させて頂きますね。まずこれらに関しては私がよく劇を披露している舞台の茶館で、そこで私が耳にした噂、劇を見に来てくれたお客様から話をしてくれた内容です」

 

「雲菫の舞台?緋雲の丘の方にある?」

 

「よく劇を披露しているところって、和裕茶館って事か?」

 

「はい、そうです」

 

行秋と嘉明の疑問に雲菫は頷きながら答える。

 

「成程…。雲菫、そこでどのような噂が流れていたんだい?」

 

「そう言う事か…。あぁ、そうだな。劇を見に来てくれたお客さんからどんな話を聞かせて貰ったんだ?」

 

「はい、それはですね。まず___」

 

行秋と嘉明に改めて問われた雲菫は、まずその噂についてを話し始める。

 

 

 

「___」

 

「_っ!?」

「_なっ!?」

 

そして雲菫が語る数々の噂話や茶館を訪れた客人達から教えてもらった内容に、行秋と嘉明は驚きの声を上げる。

 

 

「ふむ…」

「うーん…」

「…」

 

そしてまた、一度その話を聞いていた鍾離や胡桃達も改めて雲菫が語る数々のそれらに対し顔をしかめては、渋い表情を見せている。

 

 

 

 

「_以上が、私が聞いた噂話や客人達から聞いた話の内容となります。行秋さん、嘉明さん」

 

そうして説明を終えた雲菫は、行秋と嘉明の二人に視線を向けながらそう言い終える。

 

「う、うん…」

「あ、あぁ…」

 

行秋と嘉明は雲菫に返事することなく、雲菫が語ってくれたそれらを必死になって吞み込むかのように、ただ相槌を返してはその場で固まってしまっている。

 

「うむ…。まぁ、そうなるな…」

「まぁ、そうなるよね…。だって想像つかないもん…」

「うんうん、そうだよね…。信じられない事ばかりだもん…」

 

そうして彼ら二人は何か考えるそぶりを見せている傍ら、鍾離や胡桃と香菱は雲菫が語ってくれた事に対し、行秋達に共感を示す。

 

「…あ、ありがとう。雲菫。とても興味深い話だったよ」

「…あぁ、そうだな。行秋。雲菫、ありがとうな。色んな事を教えてくれて」

 

そうして完全に固まってしまっていた行秋と嘉明は、雲菫に対してお礼の言葉を口にする。

 

「はい、お役に立てたなら良かったです。行秋さん、嘉明さん」

 

「うん、そうだね…」

「あぁ、そうだぜ…」

 

そうして行秋と嘉明は雲菫にそう言うと再び黙り込む。だが先ほどとは違い、まるで改めて胡桃達が自分達に合流してくるまでの煙緋達との出来事を思い返しているかのような、そんな表情を浮かべていた。

 

 

 

「_そう言う事だったんだね。嘉明」

 

「_あぁ、そうだな。行秋。ようやく分かったぜ」

 

「うん、全ての辻褄、今までの璃月や璃月港で起きていた事の全てが納得できたよ」

 

「あぁ、そうだな。それにこの暴動騒ぎや別の場所で起きている火災騒ぎも自然発生で発生した事じゃないって事もな」

 

そして行秋と嘉明はそう呟くと、互いに頷き合う。

 

「えっ、行秋さん、嘉明さん?どういう事ですか?今ので、何が分かったのですか?」

 

雲菫はそんな彼らにそう尋ねる。

 

「うん、それはだね。___」

「あぁ、それはだな。___」

 

雲菫に尋ねられた行秋と嘉明の二人はそう答え、自らが至った結論を雲菫に告げる。

 

「えっ…!?」

「なんですって!?」

「嘘でしょ!?」

「ほぉ…。ありえなくはない……」

 

そうして行秋と嘉明達の結論を聞いた雲菫と胡桃と香菱は驚き、また鍾離もそれに同意し深く思考するかのように顎に指を当てる。

 

 

「_えっ、えっと。つ、つまりですよ。行秋さん。今起きている暴動騒ぎや火災騒ぎ、これらは人為的に引き起こされたってことですか?」

 

雲菫は驚きを隠せない様子で、行秋と嘉明の二人にそう尋ねる。

 

「うん、そうだよ。僕の聞き間違いでなければ、煙緋さんと甘雨さんが言っていた言葉、“煽動”、そして“放火”。これらの言葉は確実にこの暴動騒ぎや火災騒ぎが人為的に起こされた事を指し示している事になるよ」

 

「あぁ、行秋の言う通りだぜ。璃月港で起きている暴動騒ぎ、それに火災騒ぎ…。なぁ、いくらなんでもおかしくないか?偶然にしてはあまりにも出来過ぎているだろ?」

 

行秋と嘉明の二人はそう雲菫に答える。

 

「た、確かに…。言われてみれば……」

 

雲菫はそう呟くと、改めてその考えに思い至ったのか、その顔を青ざめさせる。

 

「うん…。確かにそうだよね……」

「言われてみれば、確かにそうだけど…」

 

そして胡桃と香菱はそう言いつつも、どうしても信じられない、受け入れる事は出来ないといった表情を浮かべている。

 

「………」

 

そうして鍾離はただ独り目を瞑り、腕を組みながら何か考え込んでいる。

 

「鍾離さん…」

 

雲菫は無言で考え込んでいる鍾離へと、不安そうな表情を向けながら声を掛ける。

 

「………」

「………」

 

行秋と嘉明は目の前で佇むかのように、ただ沈黙している鍾離を見据える。

 

「鍾離さん…」

「しょ、鍾離さん…」

 

そしてまた、胡桃や香菱も沈黙している鍾離へと視線を向ける。

 

 

 

「_行秋殿、嘉明殿。とても興味深い話、ありがとう」

 

そうしてその瞬間、沈黙していた鍾離は目をゆっくりと開きながら行秋と嘉明の二人にそう告げた。

 

「鍾離さん…」

「っ…」

 

行秋と嘉明は鍾離が続けるの次の言葉に、ただ静かに耳を澄ませる。

 

「行秋殿、嘉明殿。行秋殿と嘉明殿の考え、その予測は間違っていない。俺はそう確信している」

 

「っ!!鍾離さん!!」

「おぉ!!まじか!!鍾離さん!!」

 

そして鍾離からその返事を聞いた行秋と嘉明は、その予想を肯定された事への驚きから、目を見開かせながら鍾離に向かってそう叫ぶ。

 

「鍾離さん…!?ほ、本当ですか!?」

 

鍾離の確信したという言葉に雲菫は驚き、彼にそう尋ねる。

 

「あぁ、本当だ。俺はそう確信した。しかも今起きているそれらの騒動、これはかなり計画的な物だ。おそらくその場凌ぎで打ち立てた粗略な物では無い。以前より計画されていた物、少なくともそれなり以上の時間はかけ、そうして綿密に作り上げられた計画だと思う」

 

「っ!!やはりか…!!」

「っぅ!!やっぱりか…!!」

 

行秋と嘉明は鍾離の肯定を聞いた瞬間、同時に思わずそう叫ぶ。

 

「そ、そんな…!?や、やっぱり……!!」

「これは計画されていたって事…!?」

「以前より計画されていたって、ど、どうして、こんな事を…!?」

 

そうして鍾離の肯定を聞いた雲菫や胡桃と香菱は、驚きや焦りの感情を露わにする。

 

「あぁ、そうだ。間違いない。これは計画に基づいた騒動だと思う。行秋殿が語ってくれたその“先に居る者達”。彼らはこの日を迎えてしまう事を事前に察していた。そしてこの日のために綿密な計画を立て、用意周到に事を運んでいたのだろう」

 

「彼らは察していた…ですか?」

 

「あぁ、その通りだ。雲菫殿」

 

鍾離は雲菫にそう頷きながら、行秋と嘉明の二人に視線を向ける。

 

「行秋殿、嘉明殿…。お前達に一つ聞きたいのだが、よろしいだろうか?」

 

「うん。なんだい、鍾離さん?」

「おぉ、何でも聞いてくれ。鍾離さん」

 

行秋と嘉明は、鍾離の問い掛けにそう答える。

 

「ではお言葉に甘えて、質問させてもらおう…。行秋殿、嘉明殿。行秋殿は飛雲商会の者として様々な話を耳に入れ、嘉明殿は鏢師として璃月中の色んな街や集落を歩き、そうして様々な物を目にしてきたと思うが、___」

 

鍾離はそこまで言うと、一拍の間を置いてから再び行秋と嘉明の二人に問い掛ける。

 

 

 

 

「___二人は最近この璃月港、また璃月の街や集落といったところで、何か気になるような話、何か変わった事は無かっただろうか?」

 

「気になるような話…?あっ」

「何か変わった事…?あぁ」

 

鍾離の問いに行秋と嘉明は、何かを思い出そうとして、すぐに思い当たる節があったのか同時に呟く。

 

「ふむ、なにか心当たりがあるようだな…」

 

「うん、あるよ。鍾離さん」

「あぁ、あるぜ。鍾離さん」

 

「そうか。それなら是非、俺、そして彼女達に聞かせてはくれないだろうか?」

 

「うん、勿論だよ。鍾離さん」

「あぁ、もちろんだぜ。鍾離さん」

 

行秋と嘉明はそう言いながら頷くと、まずは行秋の方から話し始める。

 

「僕の場合だと昨日になるけど、僕の商会の商会員達がモンドの商人達との取引を終えて璃月に帰国してきたって話があったんだ。それでその時に彼らは不思議な光景を目にしたみたいなんだ」

 

「不思議な光景だと?」

 

「うん、そうだよ。鍾離さん。璃月とモンドとの国境、“石門”の辺りで普段より多めの千岩軍の兵士達が周囲の巡回をしていたらしいんだ。しかも、それだけじゃない」

 

「それだけではない?」

 

「うん、鍾離さん」

 

鍾離の問い掛けに行秋は頷くと、続けてその続きを話し始める。

 

「彼らの話だと、数日前のあの日。石門やその周辺には数十人規模の千岩軍の兵士達が、そして同じく数十人規模のモンドの西風騎士団の騎士達が彼らと合同で見回りをしていたみたいなんだ」

 

「っ…。やはりか……」

「えぇっ!?西風騎士団!?」

「本当ですか!?なんで彼らが!?」

「噓でしょ!?普通、彼らはモンドにいるんじゃないの!?」

「おい、まじかよ!?そっちは西風騎士団かよ!?」

 

行秋がそう口にした瞬間、行秋と鍾離を除くその場にいる全員はそれぞれ驚きの表情を浮かべる。

 

「うん、そうだよ。皆。それと嘉明、嘉明は『そっちは西風騎士団かよ』って言ってたけど、嘉明も嘉明で似たような変わった事があったんだね?」

 

行秋は嘉明が思わず放ったその言葉に対し、行秋は彼にそう尋ねる。

 

「あぁ、そうだぜ。行秋。実はな、俺は数日前に仕事の関係で遺瓏埠の方にいたんだ。それでその時の遺瓏埠も行秋と同じように、いつもより多い数の千岩軍の兵士達が街の見回りをしてたんだ。あれは多分、少なくとも普段の二倍程度はいたかもしれないな」

 

「本当かい!?普段の二倍って…。まさか遺瓏埠で何かが起きてしまった、とでも言うのかい……?」

 

「あぁ、本当にだぜ。しかもそこに居たのは、大勢の千岩軍の兵士達だけじゃなかったんだぜ?」

 

嘉明は行秋の言葉に頷きながら、そう話を続ける。

 

 

「___実はあそこにはフォンテーヌの警察隊の奴らもいたんだぜ」

 

「_っ!!フォンテーヌの警察隊!?」

 

行秋は嘉明が口にしたその言葉に、驚きを隠せない表情でそう叫ぶ。

 

 

「_ほぉ…」

「_嘘ぉっ!?」

「_け、警察隊ですか!?」

「_遺瓏埠にフォンテーヌの人達がいたの!?」

 

鍾離は静かに、そして胡桃と雲菫と香菱達は驚いた表情でそれぞれそう叫ぶ。

 

「あぁ、そうだぜ。本当に驚いたぜ。ここは璃月なのに、まさかフォンテーヌの警察隊の奴らがいるなんてな」

 

「本当にそうだよ。因みに警察隊の彼らはどれくらいいたんだい?」

 

「どれくらい?そうだな…。それなり以上は居た気がするな。あの時の千岩軍の兵士達並みの数がいたというわけじゃあなかったが、それでも俺が見た限りだと数十人どころか、まずおそらくは五十人以上いたと思うぜ」

 

「ご、五十人以上!?そんなにいたのかい!?」

 

「あぁ、本当だぜ。そして彼らは行秋が言っていた石門の西風騎士団と同じく、遺瓏埠の千岩軍達と一緒に見回りをしていたんだぜ」

 

「そ、そうだったんだね…」

 

「あぁ、そうだぜ。本当に信じられないような光景だったぜ…」

 

「本当にだよ…」

 

嘉明の説明に行秋は驚き、思わずそう呟く。

 

 

 

「_ねぇ、ねぇ。嘉明」

 

その時、胡桃が嘉明に向かってそう声を掛ける。

 

「ん?どうした、胡桃?」

 

「ねぇ、嘉明。何で遺瓏埠にそんな数多くの千岩軍が、それにフォンテーヌの警察隊がいたの?」

 

「あぁ、その事か…。実は俺もその事が気になって、遺瓏埠の千岩軍や警察隊の奴らに尋ねてみたんだが…」

 

嘉明はそこまで言うと、一拍の間を起き、そして再び話し始める。

 

 

 

「_実は、あんまり詳しく教えてくれなかったんだよな…。ただ『特別警戒中のため』だとか、『璃月とフォンテーヌ合同の特別警戒任務』だとか、そんな曖昧な事しか言っていなかったぜ」

 

「特別警戒任務…?」

 

胡桃は嘉明が口にしたその単語に首を傾げながら、そう呟く。

 

「ほぉ…。璃月とフォンテーヌの特別警戒任務……」

「璃月とフォンテーヌ、千岩軍と警察隊合同のですか?」

「二か国合同の特別警戒…。いったい、何に対して警戒をしているんだろう……」

 

そうして鍾離、また雲菫と香菱は首を傾げながらそれぞれそう呟く。

 

「特別警戒任務…?同じだ……」

 

その時、行秋はそう呟く。

 

「うん?同じ?行秋、それってどういう事だ?行秋の所でも同じようにそう言われたのか?」

 

行秋の呟きを聞いた嘉明は、彼にそう尋ねる。

 

「うん、そうだよ。実は僕の商会員達も、嘉明と同じように石門にいた千岩軍の兵士達や西風騎士団の騎士達に尋ねてみたらしいんだ。そうしたら彼らも嘉明の所と同じく『璃月とモンドによる合同の特別警戒任務』と言っていたんだ」

 

「へぇ、行秋の所もそうなっていたんだな…」

 

「うん、そうだよ。あとはそうだね。確か僕の商会員達の彼ら曰く、『璃月とモンドの国境警備を特別強化している』だとか、そんなことまでも言っていたね…」

 

「国境警備の特別強化か?」

 

「うん、そうだよ。国境警備の特別強化さ」

 

行秋は嘉明が繰り返したその言葉に同意するように、彼は頷きながらそう言う。

 

「ふむ…」

「国境警備の特別強化…」

「行秋さんの所は璃月とモンド、嘉明さんの所は璃月とフォンテーヌ、ですか…」

「うーん、行秋の話を聞いていると、嘉明の遺瓏埠も国境警備強化のため、って感じがするね…」

 

そうして二人のやり取りを聞いていた鍾離と胡桃達は、思わずそう呟く。

 

「うん、確かにそうだね」

「あぁ、言われてみれば確かにそうだな」

 

そして香菱の指摘に同意するかのように行秋と嘉明は頷く。

 

 

 

「_待って。モンドとフォンテーヌが璃月の千岩軍との合同の特別警戒を行っているなら、稲妻とスメールはどうなるわけ?璃月の隣国との共同で行っているみたいだけど、この二か国も行っているの?」

 

その時、モンドとフォンテーヌの話を聞いていた胡桃は彼らの話に合った国境警備強化という点から、稲妻とスメールの方へと話の視点を転換させる。

 

「うむ…。言われてみれば、その通りだ。堂主殿」

「い、言われてみれば確かにそうですね。胡桃さん。北のフォンテーヌに、東のモンド、この二か国が共同で国境警備の強化を行っているのですから、西のスメールと南の稲妻も何かしらの行動を行っていると考えるべきですよね…」

「そうだね、胡桃。稲妻は島国で陸続きではないから、何か特別な事はしてないかもしれないけれど、スメールは陸続きだから、スメールは何か特別な事をやっているかもしれないよね…」

 

胡桃の疑問に同意するように、鍾離と雲菫、また香菱はそう語り合う。

 

「うーん、稲妻とスメール…」

「稲妻とスメールか…」

 

そうして胡桃達にその疑問を投げかけられた行秋と嘉明は、それぞれそう呟く。

 

「うん。確かにそうだね…。嘉明、君の方は何かこの事に関して、知っている事はないかい?」

 

行秋はそう嘉明に問い掛ける。

 

「あぁ…。いや、特にないな。俺はその稲妻とスメールの二か国に関しての話は聞いた事がないな。行秋の方はどうだ?何か聞いた事とかはないのか?」

 

「うーん、僕も嘉明と同じだよ。稲妻とスメール…。ここ最近だと、特にこれといった話は聞いていないね。それにスメールの方に行っている僕の商会員達は、まだ璃月に帰国してないからね。彼らが帰国さえしてくれれば、何か話を教えてくれるかもしれなかったのだけれどね……」

 

行秋はそう呟くと、溜め息を吐きながら肩を竦める。

 

「あー、そうか…。行秋、タイミングが悪かったな」

 

「本当にだよ。嘉明。でもおそらく、稲妻はともかくとしてスメールの方は、何か特別な事でもしているんじゃないかな?」

 

行秋は嘉明の言葉に頷きながら、そう推測する。

 

「ふむ…」

 

そうして二人のそのやり取りを見ていた鍾離は、ふと顎に手を当てて何か考え事をする。

 

 

 

 

 

「___ふふ~ん?鍾離さん、鍾離さんはこの事に関して何か知っている事があるみたいだね?」

 

「_むっ、堂主殿」

 

そして鍾離のその仕草を目ざとく見ていた胡桃は、鍾離に言い放つ。長年の付き合いから胡桃が、鍾離は何か知っている事を見抜いたからだ。

 

 

「_おや、鍾離さん。何か知っていたのかい?」

「_おっ、鍾離さん。何か知っていたのか?」

「_鍾離さん、何か知っていたのですか?」

「_鍾離さん、教えて。知っている事を」

 

そうしてまた行秋と嘉明、そして胡桃と雲菫と香菱は、鍾離の方を注目する。

 

 

 

「うむ、そうだな。___」

 

そうして鍾離は行秋と嘉明、胡桃達の疑問に答えるべくその口を静かに開いたのであった。




次回もこの続きです。

そうして次回こそは、一気に事態が進行して行くところまで描写して良ければと思います。


それでは次回の投稿まで、また気長にお待ちください。
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