名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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とてつもない分量に達してしまいましたが、何とか書き上げられたので投稿。

今回は前回の続き、胡桃達が行動開始したところです。

そうしてようやく一気に事態が進行、急変していきます。


_岩山破蓄!!

Side:胡桃

 

「_どけぇ!!千岩軍!!そこをどけえ!!」

「_いい加減に退け!!千岩軍!!道を開けろ!!」

「_邪魔立てするな!!千岩軍!!そのクズどもを渡しやがれ!!」

「_さっきから、お前達千岩軍はどっちの味方なんだ!!てめぇら!!まさか刻晴様に危害を加えようとした奴らの、味方なんかじゃねぇんだろうな!?」

「_そうだ!!この野郎!!おまけに千岩軍の中にもゲス野郎どもの考えに同調したクソ野郎どもがいやがるって話を聞いたぞ!!どうなってやがんだ!?」

「_そうだ!!そうだ!!それに後ろのクズどもをここまでして、必死に守ろうとするのは些かおかしいんじゃねぇのか!?まさかとは思うが、てめぇら後でこいつらをこっそりと逃がすつもりじゃねぇだろうな!?」

「_そうだそうだ!!どうなってんだ!!千岩軍!!おい!!答えやがれ!!この野郎!!お前ら、本当にこのクズどもの身柄を抑えるんだろうな!?実はこいつらを連行した後に、こっそり解放するなんてふざけた真似はしねぇだろうな!?おい!!」

「_てめぇら!!さっさとその反刻晴派のクソ野郎ども引き渡せ!!俺達の手で懲罰を!!断罪をするんだ!!さぁ、早く引き渡せ!!千岩軍!!」

 

「_しつこいぞ!!いい加減に諦めろ!!」

「_そうだ!!いい加減に諦めたらどうなんだ!!お前達!!」

「_お前達こそ、何ふざけたことを言っているんだ!?」

「_そうだそうだ!!我ら千岩軍がこの者達をこっそりと逃がしたり、解放するだと!?ふざけるのも大概にしろ!!」

「_そうだ!!そんな言いがかりは止めろ!!我々がそんな真似をするわけがない!!」

「_我らは璃月七星の名の下に、この者達を捕らえて総務司まで連行するのだ!!そのような戯言に惑わされるな!!」

「_そうだ!!そうだ!!そもそもの話、そう言うお前達はどうなんだ!?」

「_お前達こそ、この者達を引き渡した後にそのまま逃がすつもりなんじゃないのか!?」

 

「_あぁ!?ふざけんじゃねぇぞ!?」

「_もう一度言ってみろ!!この野郎!!」

「_あぁ!!何度だって言ってやる!!お前達こそどうなんだ!?」

「_ここまで必死になって引き渡しを要求するとは、お前達こそ我々から見て十分に怪しいぞ!!」

 

 

港湾区、璃月港の船着き場であり埠頭であるこの場所にて響き渡る男達の怒号。

 

怒り狂う港湾区の労働者達とそれを抑えようとする千岩軍達の互いの怒鳴り声は治まる事無く、むしろより一層の激しさを増しながら周囲に響き渡る。

 

 

 

「_くっ…!!千岩軍達が完全に壁になっているせいで、隙間から労働者達のリーダーや中心人物が誰なのかを調べるのは厳しいぞ…!!嘉明!!そっちはどうなってる!?」

 

「_あぁ、行秋!!こっちも駄目だ!!千岩軍達が必死になって反刻晴派の壁になっているせいで、隙間すらも見つからないし、見つけてもすぐに埋められて確認できない!!」

 

そうしてそんな千岩軍の真後ろ、胡桃の号令を受けた行秋と嘉明は互いにそう叫び合いながら彼らも必死になって、千岩軍の兵士達の隙間から港湾区の労働者達のリーダーや中心人物達を見つけ出さんと奮闘していた。

 

 

「くそっ…!!このままじゃ思うように確認できない!!どうすればいい!?やっぱり鍾離さんを呼ぶべきか…?あっ……!?」

 

そして悪戦苦闘をしているその最中、嘉明はとある物を見つけ、またその物からとある事を思いついて思わず驚きの声を漏らしてしまう。

 

「っ!!行秋!!」

 

「っ!?どうしたんだい!?嘉明!?」

 

「行秋!!あそこを見てくれ!!あれ、使えるんじゃないか!?」

 

そうして行秋は嘉明の指さす方向、労働者達や千岩軍の兵士達から離れたそれらに対して視線を向ける。

 

 

「_あれって木箱…?あれが一体……。はっ!!そう言う事か!?」

 

行秋の視線の先には、港に停泊していた船に詰め込まれていただろう大小様々な大きさの木箱。それらの木箱が大量に地面に並べられたり詰み上げられており、それら港湾区の荷置き場の一角の光景を見た行秋は嘉明の意図を察したのか目を見開かせながら、嘉明に向かってそう叫ぶ。

 

「あぁ!!そうだ!!行秋!!あれを利用しようぜ!!」

 

「あれらをか!!いや、ただ…」

 

行秋はそう言うと改めて地面に置かれている木箱やその木箱の上にさらに積み上げられた木箱等を見る。

 

 

嘉明が考えていたのは、あの積み上げられた木箱を登っていく事で十分な高さを確保し、その上で労働者達と千岩軍達を見下ろす形で、労働者達のリーダーや中心人物を探し出そうというものだ。

 

だがしかし、ある程度は整列されているように木箱は設置されているものの、積み上げられた木箱の上を登っていくのは危険が伴うし、仮に登る事自体は出来たとしてもそこから探し出すというのも、彼ら労働者達の集団から少し離れてしまっているため彼らのリーダーや中心人物を見つけるのがかなり難しいし、そもそも見つけられるのかは分からない。

 

 

だが、それでも…。

 

 

 

「_いや、確かに危険だが…!!やるしかないか!!嘉明!!」

 

行秋は直ぐに迷いを振り切ると、嘉明の名を呼ぶ。

 

「おぅ!!行秋!!行くか!?」

 

「あぁ!!嘉明!!行こう!!一度あの木箱の上から探してみよう!!」

 

「そうだな!!上手く見えないこの場より、上から見下ろした方が良いもんな!!」

 

「うん!!そうだね!!なら、早速行こう!!」

 

「おぅ!!」

 

そして行秋と嘉明はそう言い合うとと互いに頷き合い、木箱や積み上げられた木箱を登る為に行動を開始していく。

 

 

 

 

 

 

 

「_落ち着け!!落ち着け!!とにかく落ち着いてくれ!!」

「_頼むから!!もう本当に諦めてくれ!!この者達の身柄は、お前達に渡す事はできないんだ!!」

「_お前達の怒りはよく分かる!!だが、それでも俺達千岩軍は命令に従って連行しなければならないんだ!!」

「_お前達!!今すぐ元の場所に帰ってくれ!!ここで本当に暴れられたら、俺達はとても困るんだ!!」

 

そこは行秋と嘉明が先ほどまでいた場所とは違う他所。そこでも声を張り上げながら猛り狂う労働者達に対して、壁になりながらそう叫ぶ千岩軍の一団がいた。

 

 

「___すみません。そ、そのぉ…」

「___あ、あのぉ…」

 

そうしてそんな千岩軍の背後で恐る恐る声を掛ける少女達。雲菫と香菱は、おずおずと千岩軍の兵達に向かってそう声を掛けた。

 

 

「_おい!!もう戻れ!!帰ってくれ!!」

「_いい加減にその者達の事は諦めろ!!身柄は渡さん!!」

「_この者達は我々が連行するんだ!!もう諦めてくれ!!」

「_もう退いてくれ!!最悪、お前達全員拘束する事になってしまうぞ!!」

 

だがしかし、千岩軍の兵士達には雲菫と香菱のその声が耳に入っていないのか、彼らは気づく事なく労働者達と相対し続けている。

 

 

 

「_っ!!駄目です…!!」

「_っ!?全然気づいてくれないよ…!?」

 

雲菫と香菱の二人は頭を抱えて、思わずそう呟く。

 

 

「ねぇ、雲菫!!どうするの!?」

 

思い通りに進まない香菱は焦るようにして、雲菫にそう問いかける。

 

「このままでは彼らに気づいてもらえません!!やはり気を配りながら声をかけるのは、無理です…!!」

 

「そうだよね!!そうだよね!!雲菫!!だったら…!!」

 

雲菫は苦虫を噛み潰したように顔をしかめながら香菱に向かってそう答え、雲菫のその答えを受け取った香菱は覚悟を決めたかのような表情を浮かべながら、雲菫に向かって言葉を続ける。

 

 

 

「___雲菫!!思い切ってやるしかないよ!!彼らに気づいてもらうには、もう気を配ってられない!!」

 

「___っ!?本気ですか!?香菱さん!?」

 

香菱のその提案に、雲菫は驚きながら香菱に向かってそう問いかける。

 

「うん!!だってこのまま何も進展が無かったらまずいよ!!もし彼ら労働者達と対話する機会が訪れてしまった時に、何も準備してなかったら…!!」

 

「た、確かにそれはその通りですが…!!ですが!!しかし……!!」

 

香菱のその提案に雲菫は思わず、たじたじとしてしまう。

 

 

「_っぅ!!分かっています!!分かっていますが…!!」

 

雲菫は香菱の顔、そうして千岩軍達の背中に隙間から見える労働者達の姿を行ったり来たりしながらそれぞれ見つめる。

 

 

最悪なのは雲菫と香菱達が気づいてもらえるように大声で呼びかけ、そしてそれに千岩軍の兵士達が驚いて彼女達に気を向けてしまったが故にその壁に穴が空いてしまう事。

そうして暴徒と化しつつある彼らが穴が空いてしまった千岩軍の壁の間をすり抜けて、そしてそのまま反刻晴派達に暴行や凶行に及んでしまう事だ。

 

だが、そうでもしない限り…。

 

 

「_っ…!!やるしか…、ないようですね……!!」

 

そうして雲菫も覚悟を決めたかのような表情を浮かべる。

 

リスクは大きい。だが、それでもやるしかないと雲菫は判断した雲菫は香菱の顔、香菱の目を見つめると、香菱に向かってこう叫んだ。

 

「香菱さん!!やりましょう!!そうですね…、あそこの彼です!!彼に無理やり話を聞いてもらいましょう!!」

 

「うん!!やろう!!雲菫!!あそこの彼ね!!分かった!!それ以外の人達はすぐに目の前の労働者達の方に意識を戻してもらうようにしよう!!」

 

雲菫のその叫びに香菱は頷き、二人は定めた一人の千岩軍の兵士の背中を見据え、そうして近づいていく。

 

 

 

「_香菱さん…!!」

「_うん!!雲菫…!!」

 

二人は視線を交わし、そうしてお互いに何をすべきかを確認し合って意志を疎通させる。

 

 

 

「_すみません!!私達の話を聞いてください!!こっちに来てください!!」

「_ごめんなさい!!でも、お願いだからこっちに来てぇ!!」

 

二人はその男の服の左右を掴むと無理やり引っ張り、香菱と雲菫はその男を引き剥がそうとして、そう叫ぶように呼びかける。

 

「なっ!?なんだ!?お前達は!?」

 

そうして無理やり引っ張られるその千岩軍の兵士は当然、驚いた様子で雲菫と香菱の顔を交互に見つめながらそう叫び声をあげる。

 

 

「_はっ!?おい!?」

「_おい!!誰だ!?お前達!?」

「_おい馬鹿!!何をやってるんだ!?」

「_お前達!!一体何やってんだ!?」

 

そしてまた当然、その彼の周囲にいた千岩軍の兵士達はある意味で奇行に走っているとしか思えない香菱と雲菫達の行動に驚きの声を上げ、そして雲菫と香菱に向かってそう叫ぶ。

 

 

「すみません、彼をお借りします!!彼が空いた分の穴を直ぐに埋めてください!!」

「本当にごめんなさい!!そして私達の事よりも、彼ら労働者達の方を見ていて!!」

 

香菱と雲菫は兵士達に謝りながら、千岩軍の兵士達に大声でそう呼びかける。

 

 

「_は!?お、おい!?くそっ…!!」

「_何を…!?ちっ…!!おい!!」

「_ぐっ!!一体何が…!?あぁ!!分かった!!」

「_っぅ!!分かってる!!俺とこいつでカバーに入る!!」

 

雲菫と香菱の呼びかけに、千岩軍の兵士達はそれぞれの反応を見せながら、すぐに彼が抜けた分の穴が別の兵士達で埋められていく。

 

「_うん?なんだ…?」

「_なんだ?今のは…?」

 

そうしてすぐ目の前で行われた雲菫達と千岩軍の兵士達の一部始終に港湾区の労働者達は一瞬困惑したかの様子を見せる。だがそれ以上の事はせず、目の前で直ぐに埋められていく穴をただ黙って見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

「___よし!!上手く行きました!!」

「___うん!!良かったよ!!上手く行って!!」

 

そうしてまた千岩軍の壁に確かに穴が開き、労働者達に隙を見せてしまっていたものの彼らはその隙を突くよう事はしなかったため、彼女達は安堵の表情を浮かべる。

 

 

「_は?え?あっ?」

 

そして雲菫と香菱達に服を引っ張られて無理やり連行されるその千岩軍の兵士は、何が起きているのかが分からないと言った様子でそんな声を上げながら、困惑したまま雲菫と香菱達に引っ張られながら彼女達の顔を交互に見つめる。

 

「本当にすみません!!こうでもしないと大切な話が出来なかったんです!!」

「ごめんなさい!!でも、そうでもしないと千岩軍の人と話も出来なかったの!!」

 

「千岩軍と?俺達とか?」

 

「はい、そうです!!」

「うん、そうだよ!!」

 

「い、一体何の用なんだ…?」

 

顔を交互に見つめられていた雲菫と香菱の二人は彼にそう答え、そうして彼は戸惑いながら二人に向かってそう問いかける。

 

「はい!!単刀直入に聞かせてください!!貴方達のリーダー達は誰なんですか!?」

「うん!!教えて!!貴方達、千岩軍の兵士達の隊長達は誰なの!?」

 

「は?お、教えるだって?教えたところで何になるんだ…?というか、お前達は何者なんだ?」

 

雲菫と香菱の問いかけに対し、その千岩軍の兵士は困惑しながらそう答える。

 

「はい!!私達は緋雲の丘にいた総務司の職員さん達や千岩軍の人達に協力していた身の者達です!!」

「うん!!雲菫の言う通りだよ!!それで私達はこの騒ぎを終わらせるために、一度貴方達、千岩軍の隊長達と話をしたいの!!」

 

「なんだって!?つ、つまり君達は緋雲の丘地区からきた俺達千岩軍の協力者っていうことなのか…!?」

 

その兵士は雲菫と香菱の二人の言葉を聞いて、信じられないと言わんばかりの表情を作りながらそう叫ぶ。

 

「はい!!そうです!!私達はこの騒ぎを終わらせるために、この場にやって来ました!!」

「うん!!そうだよ!!それに私達は刻晴の友達なの!!私達ならこの騒ぎを止められる手段を知ってるの!!」

 

「はっ!?刻晴様、玉衡様のご友人なのか…!?それにこの騒ぎを終わらせられる方法があるのか…!?」

 

その千岩軍の兵士は雲菫と香菱のその言葉に目を見開き、そうして驚きの声を上げながら二人の顔を見つめる。

 

「はい!!その通りです!!だから、お願いです!!今すぐ、私達を貴方達兵士達の隊長達の元まで連れて行ってください!!」

「うん!!お願い!!刻晴と友達、玉衡との友人である私達なら、どうにかして止められる方法があるの!!ただ、そのためには千岩軍の協力も必要かもしれないの!!」

 

「っぅ!?そ、そう言う事だったのか…!?」

 

雲菫と香菱の二人は千岩軍の兵士達に向かってそう叫び、彼女達の話を完全に理解したその千岩軍の兵士は雲菫と香菱の二人の顔を交互に見つめながら、彼女達のその呼びかけに反応する。

 

 

 

「___よし!!分かった!!君達を俺達の隊長達の元へと連れて行く!!だからさっきのその話をより詳しく、今の事態を止める具体的な方法を俺達の中隊長達にしっかり説明してくれ!!」

 

「_はい!!勿論です!!ありがとうございます!!」

「_うん!!勿論だよ!!ありがとうね!!」

 

そうしてその兵士はすぐさま決断を下して雲菫と香菱の二人に向かってそう叫び、彼女達はその兵士に向かって感謝の言葉を述べる。

 

「あぁ!!こちらこそありがとう!!本当に助かった!!よし、早速ついてきてくれ!!中隊長達はこっちだ!!」

 

「はい!!」

「うん!!」

 

そして雲菫と香菱はその兵士の先導に従って、彼の後ろについて行く。

 

 

 

 

 

 

 

「___冷や冷やしたが、とりあえずは上手く行ったようだな。胡堂主殿」

「___そうだね、鍾離さん。見た感じ千岩軍の兵士の後ろを雲菫達が歩いているから、雲菫と香菱はその兵士を説得する事に成功したみたいだね」

 

そうして兵士の先導に従う雲菫と香菱達を遠方から、千岩軍の兵士達の後ろにいる反刻晴派の者達やその協力者達を見張るように立っていた鍾離と胡桃は、距離が離れているが故に詳細なやりとりは聞こえないものの、それでも雲菫と香菱の二人が無事に一人の千岩軍の兵士を説得することに成功した様子を見た彼らは安心したかのような表情を浮かべる。

 

「しかし、あの時は本当に肝を冷やしたぞ。自分達に気づいてもらうために、無理やり千岩軍の兵士を引っ張ろうとするから、思わず止めに入りそうになってしまった。あれで更に状況が酷くなったら、どう対処すべきかと思うと…」

 

「あはは、まぁ、そうだね。確かに強引すぎる手段だと思うし、あれで千岩軍の壁が崩れたりしたら、それこそ取り返しのつかないことになっていたと思うよ。でもまぁ、そういうリスクを覚悟の上で、雲菫達はあの手段に出たおかげで事態は進展し出したみたいだしね」

 

「うむ、確かにその通りだ。堂主殿。そのリスクを取ったおかげで、こうしてまだ一人とはいえども千岩軍の兵士が彼女達の話を聞いて、そして彼女達に協力してくれるようになったのだからな」

 

鍾離はそう言って、顎に手を当てて頷く。

 

「そうだね。それに雲菫達が千岩軍の兵士の後ろを歩いているという事は、もしかするとあの人を介して千岩軍の隊長達に雲菫達が接触するのかもしれないね」

 

「あぁ、そうだな。胡堂主殿の言う通りだ。このまま上手く行きさえしてくれれば、千岩軍の隊長達を通じてここにいる千岩軍全体が俺達に協力してくれるようになるかもしれない」

 

「うん、そうだね。鍾離さん。そうなれば、本当に万々歳だよ」

 

胡桃と鍾離はそう言いながら雲菫と香菱、また雲菫達に協力して先導を行っている千岩軍の兵士に期待した視線を送りながら、そう話し合う。

 

「そうだな、堂主殿。ここにいる千岩軍達が協力してくれれば一気に状況は好転していくはずだ。無事に上手く行くように祈ろう」

 

「そうだね、鍾離さん。雲菫達が上手く、千岩軍達との協力を結べるよう私も祈っておくよ」

 

そうして胡桃と鍾離の二人は、雲菫と香菱達が千岩軍の兵士達との協力を結べるよう、彼女達の無事と成功を祈る。

 

 

「………」

「………」

 

そして胡桃と鍾離はさり気なく、地面に座り込んでいる男達の方に視線を送る。

 

 

 

 

「___も、もうおしまいだ!!」

「___た、助けてくれ!!死にたくない!!」

「___はっ…!!あ、あぁ…!!嫌だ!!嫌だぁっ!!」

「___た、助けてください!!帝君!!帝君!!改めますから!!どうかぁ!!どうかぁっ!!」

 

地面に座り込んでいた反刻晴派の者達やその協力者達は、それぞれそんな悲鳴を上げながら地面に座り込んだ状態で身体を震わせる。

 

 

頭を垂れて絶望している者。

半狂乱になって天に向かって必死に祈りを捧げる者。

気が狂ったかのように泣きじゃくる者。

地面に頭をこすりつけながら命乞いをする者。

 

 

「_はぁ…。全く、こんな事を起こさなければ良かったのに…」

「_はぁ…。完全に自業自得だ…」

 

そんな絶望のどん底に叩き落された彼らの姿を見つめる胡桃と鍾離は複雑そうな表情を浮かべながら、それぞれがそのように呟く。

 

少なくとも逃走や逃亡を図るつもりの者はなく、また反抗や反旗を翻す気の者達はいない。

完全に諦めきった様子の彼らを見るに、彼らによってこれ以上事態が大きく動いていく事は無いであろうと、彼らはそう見て判断した。

 

「とりあえず、大丈夫そうだな。胡堂主殿」

 

鍾離は目の前の反刻晴派の者達のその様子を見つめ、そう胡桃に言い放つ。

 

「うん、そうだね。鍾離さん」

(一先ず、ここは大丈夫そうだね。良くも悪くも労働者達に怯え切っているから、彼らも何かをするなんてことはないかもね…)

 

胡桃も鍾離と同じように、眼前の反刻晴派の者達と労働者達の様子を見てそう判断する。

 

「さて、彼女達は…」

「雲菫、香菱…」

 

そうして鍾離と胡桃は再び、雲菫と香菱達の方に視線を向ける。

 

 

「___」

「___」

「___」

「___」

「___」

 

 

視線の先は胡桃と鍾離達が立つ場所から正面の場所、雲菫と香菱を先導していた千岩軍の兵士が間に立ち、そうしてその両側に雲菫と香菱の二人と千岩軍の隊長とその副官と思われる二人の千岩軍の兵士達が、互いに向き合うようにして立って話し合っている光景であった。

 

 

「_うむ、雲菫達は上手く行っているようだな。堂主殿」

「_良かった、良かった。どうやら上手く行きそうみたいだね。鍾離さん」

 

雲菫と香菱、そして千岩軍の隊長達が双方、向き合って話し合うその様子を窺い見た鍾離と胡桃は満足そうな笑みを浮かべながら、そのような事を言い合う。

 

 

ここまでくれば、千岩軍の兵士達が胡桃や鍾離達に協力してくれるようになるのは、時間の問題であると言えるだろう。

そうなれば対話する機会が訪れた時に強力な援軍となるだろうし、また彼らが自分達に合流してくれた事で自分達の選択肢も増える事になる。

 

例えば…。

 

 

「_っ。やはり、危なっかしいな…」

「_っ。行秋、嘉明…」

 

鍾離と胡桃達は鍾離と行秋と嘉明達の方に視線を向け、顔をしかめながら不安そうな表情を浮かべる。

 

 

 

 

「___くっ、あと…。もう少し、なんだ……!!」

「___ぐっ。くそっ!!思った以上にぐらつくな……!!」

 

行秋と嘉明は千岩軍の兵士達より離れた場所、港湾区の荷置き場の一角に積み上げられていた大小様々な木箱、それらの木箱の上に立って千岩軍の兵士達よりも高い位置から労働者達を見下ろしながら、必死になって彼らのリーダーや中心人物達を探そうとしていた。

 

 

「っ…。どうか、無事に……」

「っぅ…。お願いだから、怪我とかだけはしないで……」

 

行秋と嘉明のそんな姿を遠くから見ていた鍾離と胡桃は、そんな心配そうな表情を浮かべてそう呟く。

 

 

木箱自体にはある程度の安定性はあるとはいえ、木箱が積み上げられていること。また彼らはなるべく労働者達に近づく為に箱の端の方に立ってしまっているため、それらの箱は思った以上にぐらつきふらついてしまっている。

 

 

それが故、何かがあればすぐに足場が崩れ落ちてしまいそうでもあった。

 

万が一、転倒して足場が崩れ落ちてしまえば行秋達は少なからず怪我、打ちどころが悪ければ骨を折るといったような大怪我を負ってしまうのではないかと、胡桃達は心配でしょうがなかった。

 

しかしそんな胡桃達の不安など気にすることなく、またそんな大きなリスクを背負ってでも、行秋と嘉明は労働者達のリーダーや中心人物達を見つけ出そうとしていた。

 

 

それはまさしくハイリスクハイリターン。

 

そのような高いリスク、大きな危険性を背負ってでも行秋達が労働者達のリーダーや中心人物を見つけ出すことさえできれば、それは機会が訪れた時の大きな優位性へと繋がっていく事になるであろう。

 

 

 

 

「…」

「…」

 

鍾離と胡桃達は互いに見合わせる。

 

 

とにかく今、まずは彼らの無事を祈る。

そして出来るだけ早く、雲菫達が彼ら千岩軍の兵士達の協力を取り付けてくれることを願う。

 

少なくとも千岩軍の兵士達の協力さえ得られれば、労働者達の壁となっている彼らがただ労働者達を抑えようとするだけでなく、彼らもまた行秋達と同じようにこの労働者達の誰がリーダー、誰が中心事物たちなのかを探そうとするはずだ。

 

 

そうなれば行秋と嘉明の二人はこのような危険性の高い方法を取る必要はなくなり、もっと安全な方法で彼らを見つけようとすることが出来るようになるだろう。

 

 

 

 

そうして、その時であった。

 

「___胡桃さん!!鍾離さん!!」

「___胡桃!!それに鍾離さん!!」

 

「_っ!?」

「_っぅ!?」

 

その時、胡桃と鍾離は自分達に掛けられるそんな声に反応し、すぐさま声の方向へと振り返る。

 

 

「_胡桃さん!!鍾離さん!!どちらでもいいので来てください!!」

「_胡桃!!鍾離さん!!どっちでもいいから来て!!」

 

振り返った先には胡桃と鍾離達の元へと駆け寄る雲菫と香菱の姿が、そして___

 

 

 

「_彼らが代表者達のようだな!?」

「_はい、そのようです!!」

「_よし、これで!!」

 

雲菫と香菱の後ろを先ほどの千岩軍の兵士達の隊長と副官、また彼女達と隊長達と仲介したあの千岩軍の兵士が駆け寄ってきていた。

 

 

 

「___踏ん張れ!!あと、もう少しのようだぞ!!」

「___あぁ!!もう少しらしい!!あともう一踏ん張りなようだ!!」

「___緋雲の丘からの協力者らしい!!彼らにはこの状況を終わらせられる手段があるようだ!!」

「___あぁ、どうやらそのようだな!!ここが正念場なようだ!!踏ん張るぞ!!お前ら!!」

 

そうしてまた胡桃達が視線を更に奥の方にやれば、隊長と副官たちが抜けた穴を別の千岩軍の兵士達がそれを塞ぎつつ、それぞれがそう口々にしながら希望に満ちた表情で互いに励ましあっては、時折り胡桃達の方にチラ見しながら視線を送っているのが見える。

 

「よし!!鍾離さん!!どうする!?」

 

「あぁ!!堂主殿!!そうだな…!!」

 

胡桃と鍾離は互いに顔を見合わせて、視線を送り合う。

 

 

「あぁ、堂主殿…!!ここは、俺が行こう!!」

 

「うん、そうだね!!それに緋雲の丘での職員達や兵士達の代表者とのやり取りを行っていたのは主に鍾離さんだったしね!!お願い!!鍾離さん!!」

 

視線を送り合う胡桃と鍾離は頷きあいながら、直ぐに決断をしたかのようにそう言葉を交わす。

 

 

「あぁ!!分かった!!堂主殿、行ってくる!!」

 

「うん!!鍾離さん!!行ってらっしゃい!!」

 

そうして鍾離は雲菫達の元へと駆け出し、胡桃はその駆け出す鍾離の背中を見送る。

 

 

胡桃達の代表者である鍾離と、ここの千岩軍の兵士達の責任者である隊長達。あとは彼らとの会話が終われば正式にここの千岩軍達は胡桃達に協力してくれるはずだ。

 

そうなれば更に自分達の行動がしやすくなり、また千岩軍の兵士達とも上手く連携していくことでここの労働者達の注目を自分達に集めさせて、そうして対話する機会を強引にでも作り出すことが出来るようになるだろう。

 

 

 

「あともう少しだよ…!!」

(行秋、嘉明…!!)

 

胡桃は駆ける鍾離から行秋達の方に意識を向ける。

 

 

「_っぅ!!」

「_ぐぅっ!?」

 

行秋と嘉明は相変わらずぐらつきふらつく木箱の上を悪戦苦闘しながら、上から労働者達のリーダーや中心人物達を探し出さんと懸命になっていた。

 

あまりにも危ない橋を渡っているため、このまま無理をさせ続けてしまえば行秋と嘉明はいつかきっと怪我をさせてしまうのかもしれない。

だから一刻も早く、鍾離と隊長達が話を終えて千岩軍の兵士達の協力を得られるようになることを祈らずにはいられなかった。

 

「行秋、嘉明…!!」

(頑張って!!あと、もう少しだから……!!)

 

胡桃は行秋と嘉明の姿を心配そうに見つめながら、彼らにそう心の中でそう呼びかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___そうしてまた胡桃が完全に行秋と嘉明達の方に意識を向けていた、その時であった。

 

 

 

「_あっ…?」

「_えっ…?」

 

その時、鍾離の方に駆けていた雲菫と香菱達が呆けたような声を発し、目を僅かに見開かせる。

 

 

「_むっ…!?」

「_なっ…!?」

「_はっ…!?」

 

雲菫と香菱達の後ろを駆けていた千岩軍の隊長達も雲菫達と同じように、茫然とした様子で声を発する。

 

 

 

 

彼らの瞳に映っていたのは___。

 

 

 

 

 

「___はぁ、はぁ、はぁ」

 

___ゆらりと静かに立ち上がっていた一人の反刻晴派の男。そしてその男の震える片手にはその男の護身用具なのか、片手剣にも満たさない程の小さな“短剣”を握っており、胡桃のすぐ後ろで彼女の背中を見つめていた。

 

 

「_はぁっ、はぁっ、はぁっ…!!」

 

その男の呼吸は乱れたまま、更に息を荒くする。労働者達に追い詰められすぎて気でも狂い、そうして精神が壊れてしまったのかのようにその場で不気味に立ち尽くす。

 

 

「_胡桃さん!!後ろ!!後ろ!!」

「_胡桃!!後ろ!!後ろを見てぇ!!」

「_おい!!馬鹿!!やめろ!!やめるんだ!!」

「_何を考えているんだ!!手に持っているものを捨てろ!!」

「_馬鹿野郎!!何を考えているんだ!?お嬢さん!!すぐに逃げるんだ!!」

 

雲菫達と千岩軍の隊長達は一斉に叫び、騒ぎ出す。

 

 

「_な、なんだ?なっ!?」

「_は…?おい、嘘だろ!?」

「_どうしたんだ?はっ…!?」

「_えっ?なっ!?おい!?」

 

そして雲菫達と千岩軍の隊長達の叫び声に、この場に居た千岩軍の兵士達も反応するかのように思わず後ろを振り向き、硬直する。

 

 

「_うん?いったい、どうしたんだ?なっ…!?」

「_あぁ?なんだ、今のは?…おい!?」

「_どうした?何があった?ちょっとどけ、見させろ…。う、嘘だろ!?」

「_どうしたんだ、いったい?上手く見えない…。はぁっ!?」

 

そうして聞こえてきた雲菫達と千岩軍の隊長達の叫び声、また千岩軍の兵士達のざわめきに労働者達も反応して、千岩軍の壁の後ろで何が起きたのかを確認しようと背伸びをしたり、彼らの隙間から向こうを覗き込むように確認し、出来事を把握した彼らは驚愕に目を見開く。

 

 

「_えっ?どうしたんだい?はっ!?ふ、胡桃!?くっ!?」

「_なっ?急にどうしたんだ?はぁ!?くそっ!!胡桃!!ぐっ!!」

 

そうしてまた雲菫達と千岩軍の隊長達の叫び声、千岩軍の兵士達のざわめきに労働者達が一斉に驚愕の表情を浮かべたことに戸惑ったことに、行秋と嘉明達は困惑しながら彼ら労働者達の視線を追ってみる。そして追った先で何も気づいてない胡桃と胡桃の背後に短剣を手にしていた反刻晴派の男の姿を、行秋と嘉明達は見てしまって反射的に彼女の元に駆け寄らんとその場から飛び降り始める。

 

 

 

 

 

 

 

「___えっ?み、みんな、いったい、どうしたの?私の後ろに、何かあるの?」

 

そうして何も気づいていない胡桃は雲菫達と千岩軍の隊長達の慌てふためき様、また千岩軍達や労働者達の注意を一点に集めるように固まっている状況に気づき、困惑した様子でそう呟きながら自分の後ろを振り返る。

 

 

 

 

 

「_えっ…?」

 

そして後ろを振り返った胡桃は、ようやく状況を把握する。

 

 

 

「_はぁっ…!!あぁっ…!!あぁぁっっ…!!」

 

そこには短剣を手にしていた男が荒々しい息を吐きながら、胡桃を捕まえようと短剣を手にしていない方の腕を伸ばしながらすぐそこにまで迫ってきていた。

 

 

「あっ…___」

 

胡桃は男のその血走った目と、狂気に満ちたその表情を見て思わず硬直する。

 

 

 

 

 

そうしてその時であった。

 

 

 

 

 

「_っぅ!!」

 

 

 

「_えっ?」

(_い、今のは?)

 

その時、胡桃のすぐ真横を茶色い何かが凄い勢いで通り過ぎたような感じがし、彼女は目を大きく見開かせる。

 

 

 

 

 

「___岩山破蓄!!」

 

 

「_っ!?」

 

そうして目の前で起きた出来事に胡桃は釘付けになる。

 

目の前にはいつの間にか鍾離が胡桃を守るように立ちはだり、そうして彼女を守るかのように両腕を広げながらそう発すると同時に、彼の周りに黄金の輝きを放つシールドのようなものが展開されてその男の接近を阻んでいた。

 

 

 

「_がぁっ!?」

 

そうしてその男はそのままの勢いで鍾離のシールドに衝突して、片手にあったその短剣を手放しながら後方に大きく弾かれつつ、大きくよろめきながら後ろの方へと倒れこむ。

 

 

 

「_っ!!くそがぁっ!!」

 

そして倒れたその男は手放した短剣を再び手に握ろうとしながら、怒りに声を震わせる。

 

 

「_このっ!!大人しくしろ!!」

「_馬鹿野郎!!動くんじゃねぇ!!」

「_大人しくしろ!!この外道野郎めっ!!」

 

「がぁぁっ!?くそがっ!!離せ!!離せぇ!!」

 

そうしてその時、胡桃と鍾離の横から雲菫達が連れてきた千岩軍の隊長達がその男に組み付いて、その動きを制限し拘束していく。

 

 

 

「___しょ、鍾離さん…。はっ!!鍾離さん!?大丈夫!?」

 

胡桃は自分を守るために前に割り込んだ鍾離の背中を呆けたような様子、またほんの少しだけ顔を赤らませながら見つめていたが、すぐさま我に返って心配そうに彼に呼びかける。

 

 

「_胡桃殿、俺は大丈夫だ。胡堂主殿、堂主殿も大丈夫か?怪我はないか?」

 

そうしていつの間にか黄金の輝きを失っていた鍾離は、胡桃に呼びかけられてそのまま後ろを振り返る。そうしてまた真剣な表情を浮かべながら胡桃にそう問い返す。

 

「はぁ、良かった…。うん。私は大丈夫。鍾離さんのおかげで怪我は一切ないよ。ありがとう、鍾離さん」

 

「そうか…。なら良かった……」

 

そんな胡桃の返答に、鍾離はほっと安堵したかのような小さな微笑みを浮かべる。

 

 

「_胡桃さん!!鍾離さん!!大丈夫ですか!?お二人とも!?」

「_胡桃!!鍾離さん!!大丈夫!?怪我してない!?」

「_胡桃!!鍾離さん!!二人とも!!大丈夫!?怪我はしていないかい!?」

「_胡桃!!鍾離さん!!大丈夫か!?怪我はないか!?」

 

そうしてまた、少し遅れて雲菫達や行秋達も胡桃達の元へと駆け寄り、それぞれ焦慮と心配の感情を露わにしながら、胡桃達にそう確認を行う。

 

「うん、大丈夫だよ!!雲菫、香菱!!行秋、嘉明!!」

 

「あぁ、俺も大丈夫だ。心配をかけてすまない、皆」

 

胡桃は雲菫達と行秋達にそう返し、鍾離も謝罪の言葉を付け加えて述べる。

 

「いえ、良かったです…。本当に……」

「はぁ、本当に良かった…。何事も無くて……」

「良かった…。もし胡桃や、鍾離さんに何かがあったら……」

「ふぅ、本当に良かったぜ…。本当に心臓に悪いぜ……」

 

胡桃達の返答に雲菫、香菱、行秋、嘉明の四人はそれぞれ大きく安堵しながら、口々にそう呟く。

 

 

 

 

「___馬鹿野郎!!無駄な抵抗は止めろ!!」

「___とんでもない事をしやがって!!」

「___っ!!よし!!これで!!」

 

「___くそがぁ!!離せぇ!!離せぇっ!!死にたくないんだよ!!あいつらを止めるには、人質しかないんだよ!!」

 

そうして胡桃達や雲菫達、行秋達がそれぞれ安堵している傍らで、千岩軍の兵士の隊長達と隊長達によって完全に拘束されたその男のそんな怒声と罵声が響く。

 

「人質、ですか…」

「うわっ…」

「人質…。助かりたいがためとはいえ……」

「ちっ…。そんな理由か……」

 

胡桃を襲おうとした男のその言葉に雲菫達は引いたかのような不快そうな表情を、行秋達は怒りの表情を浮かべる。

 

「人質…。ふむ……」

 

そしてその男の言葉を聞いた鍾離は静かにそう呟き、また怒気を含めるかのように少しの苛立ちを含ませた表情を浮かべる。

 

「人質…」

(私を、ね…)

 

そうして鍾離と同じく、その男の言葉を聞いていた胡桃は怒りを含めた複雑そうな表情を浮かべる。

 

 

反刻晴派の者達にとっては絶望的な状況。千岩軍に追われている方がまだマシな程の絶望的状況。

 

いつ怒り狂った労働者達が千岩軍の壁を突破し、そうして大勢の暴徒化した彼らが自分達に襲い掛かってくる恐怖。

 

言葉にはならない程の悲惨な結末を迎えかねず、また命の保証さえもない。

 

 

 

「_くそぉ!!嫌だ!!嫌だぁ!!死にたくない!!死にたくないっ!!こんなところで殺されたくない!!殺されたくないっ!!」

 

地面に組み伏せられて完全に拘束された男は絶望と恐怖に、そしてまるで迫りくる死を目の前にした生への渇望のように、そんな絶望と恐怖に満ちた叫び声を上げる。

 

 

追い詰められきった彼、反刻晴派の者が講じた自身の身を守る最後の手段というのは、意識をちょうどを外していた胡桃を人質とする事。

 

すなわち胡桃の身柄を盾として自分達を襲おうとする労働者達の暴動を抑え込むと言った方法だ。

 

 

 

 

「はぁ…」

 

胡桃はため息をつく。

 

 

それはまさに苦肉の策というべきか、生への渇望の為に倫理観や道徳の一線を踏み越えたが故に、まともな状態であれば決して行わないような下策だ。

 

そうして追い詰められきっていた彼、精神状態も正常かどうか怪しい、正気なのかどうかも分からないような状態の彼は、ただ死にたくない、助かりたいという願いの為だけに胡桃に蛮行を働こうとしたのであろう。

 

 

 

「………」

 

胡桃は黙って、その哀れな男を見下ろす。

 

彼女はそんな彼の行いに対して、怒りや苛立ち、それから憐れみといった感情を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「___っ!?」

「___あっ!?」

 

そしてその時、鍾離と胡桃は何かに気づいたかのように、その場でハッとする。

 

 

それは自分達の目の前で行われてしまった想定外の蛮行、完全に想定外の出来事。

今の状況下では、港湾区の労働者達を刺激してしまう行為は完全に自殺行為。

 

その男にとっては苦肉の策であるが、今のこの璃月港の港湾区を取り巻く状況下においては下策中の下策。愚策そのものと言っても過言では無い。

 

そしてそのような凶行を怒り狂っていた港湾区の労働者達の前で見せつけては何が起きるのか、それは火を見るよりも明らかであろう。

 

 

「_まずい!!」

「_待って!?」

 

鍾離と胡桃は焦燥しきった表情でお互いにそう言うと、すかさず労働者達と彼らの壁となっている千岩軍の方に顔を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

「___あのクソ野郎!!ふざけるなぁ!!」

「___人質だぁ!?舐めてんのかぁ!?」

「___あれだけ泣きわめいていて、そんなことをするのかぁ!?」

「___この野郎!!やっぱりこんな奴らを許しちゃあならねぇ!!」

「___そうだそうだ!!だから俺達が懲罰してやらなきゃならないんだ!!」

「___もう死刑確定だ!!ゲス野郎どもには死があるのみだ!!」

「___そうだ!!反刻晴派を許すな!!反刻晴派はこの場で処刑だぁっ!!」

「___おぉ!!そうだそうだ!!もうあいつら全員ぶっ殺してやれぇ!!」

 

鍾離と胡桃の二人が顔を向けた瞬間、まるで火山が噴火したかのように労働者達の怒りの声が大きく膨れ上がっていく。

 

「___っ!?ま、まずいです!!」

「___えっ!?嘘でしょ!?」

「___なっ!?そ、そんな!?」

「___っぅ!?な、なんてこった!?」

 

そうして労働者達の爆発する怒号に行秋達や雲菫達も動揺し、彼らは焦燥を露わにする。

 

 

 

「_ぐっ!?なんて事だ!!っ!!君はそこで待機!!この男の事を見張れ!!よし!!戻るぞ!!」

「_っぅ!?はい!!中隊長!!私はここで見張ります!!」

「_っ!?はっ!!中隊長殿!!早く戻りましょう!!」

 

そしてまた凶行を行った男を取り押さえていた千岩軍の隊長達を始めとする三人の兵士達は、隊長が他の者達にそう命令を行ったのをきっかけに、千岩軍の隊長と副官の男はそれぞれ慌ただしく動き出した。

 

「そ、そんな…」

(ま、まさか間に合わなかったの…?)

 

胡桃は走り去っていく千岩軍の隊長に副官の後ろ姿を見つめながら、そんな絶望と悲壮感に染まった声を発する。

 

 

 

いよいよ“その時”が訪れようとしている。

 

 

蛮行した反刻晴派の者によって、労働者達の怒りは頂点に達しようとしている。

 

このまま労働者達が完全に暴走してしまえば、完全な暴徒と化してしまって反刻晴派に危害を加えるべく千岩軍の壁を突破しようとするだろう。

 

そうして壁を形成している千岩軍らは、彼らを冷静にさせる事は不可能と判断して暴徒達を実力行使して無力化しようとするかもしれない。

 

そうすれば、ここ璃月港の港湾区はいよいよ収拾がつかない事態へと発展していくだろう。

 

 

 

 

 

「………っ」

 

胡桃は苦々しげな表情を浮かべ、また背中に冷や汗をかいて目の前の光景から視線を外す。

 

 

人質を求めて反刻晴派のその男が蛮行を働いた事。

その人質というのがまさかの自分であった事。

 

それらを併せて彼女は何も出来なかった自分の無力さ、また不甲斐なさという無念さと、もうどうする事はできないという圧倒的な絶望感に何も言えなくなってしまった。

 

 

 

 

「___おい!!そこをどけぇ!!千岩軍!!」

「___そうだそうだ!!そこをどけよぉ!!千岩軍!!」

「___そうだそうだ!!そこをどけよぉ!!千岩軍!!」

「___そうだ!!邪魔立てするんじゃねぇ!!千岩軍!!」

「___おぉ!!そうだ!!いつまでも邪魔立てする千岩軍どもめ!!」

「___そうだ!!さもなければ、まずはお前らからぶっ殺すぞ!!」

「___そうだ!!どきやがれ!!千岩軍!!てめえら全員ぶっ潰すぞ!!」

「___どけぇ!!異様に反刻晴派のクズ野郎どもを守りやがって!!」

「___てめえらはもう反刻晴派の味方なんだろぉ!?違うのか!?あぁ!?」

 

 

それはまさに、我を忘れかけている暴徒達。怒りに身を焦がし、完全に理性を失いかけている大男達。

 

彼らの中には手にしてた木材や角材を高く掲げて千岩軍の兵士達を威圧しており、またその他の者達も千岩軍を威嚇するかのような大声で罵詈雑言を発している。

 

 

 

「___お、落ち着け!!お前達!!」

「___手に持っている物を下ろせ!!危ないだろうが!!」

「___確かに今起こった事は赦せない事だ!!だがかといって、お前達に彼らの身柄は渡さない!!」

「___落ち着けって、言っているのが分からねえのか!!お前達!!」

「___言っている事が分からないのか!?諦めろと言っているのだ!!」

「___これ以上やると引き返せなくなるぞ!!俺達に任せてくれ!!」

 

 

そして罵詈雑言を発して威嚇や威圧をする労働者達に対して、千岩軍の兵士達も負けじと大声を張り上げる。そうしてまた一部の兵士達は___。

 

 

 

「_いい加減にしろ!!これ以上我ら千岩軍に刃向かうというのであれば、我々も実力行使せざるおえないぞ!!」

「_そうだ!!これは命令だ!!ただちにお前達の木材や角材を下ろせ!!大人しくお前達はそこから退け!!そして元居た場所に帰れ!!」

「_そうだそうだ!!これは警告!!最後の警告だ!!大人しく我々の指示に従え!!今ならまだ間に合うぞ!!」

「_そうだ!!最終警告だ!!万が一、我ら千岩軍にそれらを振り下ろしたり、掴みかかるようなことをするのであれば、それ相応の報いを受けるぞ!!」

 

 

 

___反刻晴派を制圧するために使用していた非殺傷用の武器の木製片手剣をすぐに振るえるよう、自身の片腕を剣のすぐ近くに控えさせるように構えたり、木製の槍を身に着けていた兵士達の場合であれば槍を握る手に力を込めたりしていた。

 

 

 

 

 

「___ど、どうしましょう!?」

「___こ、このままじゃ!?」

 

雲菫と香菱は、そんな千岩軍の兵士達と労働者達の睨み合いを目の当たりにしながら焦りの声を出す。

 

 

「___どうする!?止める為に割って入るのかい!?」

「___いや!!どう考えても無理だぜ!!俺達六人で千岩軍と労働者達合わせて百人以上だ!!そんな人数が相手じゃ、いくらなんでも無理だ!!」

 

そして行秋と嘉明も焦りの表情で、それぞれそう言い合う。

 

 

「_っ…!!もう少し早く千岩軍の隊長達と話し合えてさえいれば……!!」

 

そうして鍾離までも焦りと悔しさが混じった表情で、静かにそう呟く。

 

 

 

もはや一触即発。

 

この様子であれば千岩軍側から仕掛ける事は無くとも、いつ千岩軍の兵士達が労働者達に攻撃されてもおかしくはない。

 

彼ら港湾区の労働者達である大男達はまるで親の仇でも見るかのような鋭い眼光で千岩軍の兵士達を睨み、今にも手に持った木材や角材を千岩軍の兵士達目掛けて振り下ろしかねないような気概さえ感じられる。

 

 

そうなってしまえば彼ら、“先に居る者達”が打ち立てたとされる計画、“璃月港転覆計画”は次の段階へ移行する。

 

そして一気にこの騒ぎは大暴動へと発展し、やがて彼らの手腕によって暴動騒ぎを更に昇華させた上で璃月港全体へと波及させていき、この璃月の港湾都市は混乱と混沌の渦に飲み込まれていく事だろう。

 

 

 

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

 

雲菫達と行秋達、鍾離はあまりの惨状に言葉も出ない。

 

 

 

 

 

「…いや」

(待って…)

 

そうしてその時、目の前の惨状に目を逸らしていた胡桃は、何かに気づいてもう一度目の前の惨状に目を向ける。

 

 

 

「_どけよ!!千岩軍!!」

「_道を開けろ!!千岩軍!!」

「_お前達こそ退け!!解散しろ!!」

「_それらを下ろせ!!そして元居た場所に戻れ!!」

 

目の前は相変わらず、千岩軍達と港湾区の労働者達が酷い罵詈雑言と大声を張り上げながら睨み合っている。

 

 

 

「………」

 

しかし胡桃は気にすることなく、その罵詈雑言や彼らの張り上げる大声の内容に耳を傾ける。

 

 

 

「___おい!!お前ら千岩軍!!おかしいとは思わねぇのか!?」

「___てめぇら千岩軍は、人々を守るのも仕事なんじゃないのか!?」

「___だったらさっき“人質にされそうになった女”のあれを見て、何も思わないわけがねぇはずだ!!」

「___そうだそうだ!!本当はお前ら千岩軍も赦せないんだろ!?“危うく人質にされかけたさっきの彼女”、その彼女を背後から襲い掛かったクソ野郎を!!」

「___そ、それは!?ぐっ、ぐぅっ!!た、確かに“彼女”にした事は赦されない事だ!!だが!!それとは別の問題だ!!」

「___ぐっ!?確かにそうだ!!“さっきの少女”を人質にしようとした事は!!だが、それとこれとは話が別だ!!」

「___そうだ!!確かにそれとこれとは、話が別だ!!だからこそ、彼らの身柄は我々千岩軍が抑えなければならない!!」

「___確かに赦されない!!だがかといってだ!!ここでお前達の言う懲罰、ただの私刑をするわけにもいかない!!」

 

 

 

「_や、やっぱり…!!」

 

労働者の大男達と千岩軍の兵士達の怒鳴り合いを、胡桃は確信を得たかのような声でそう呟く。

 

 

彼らの話題の中心人物というのは完全に胡桃、自分自身の事だ。

 

先ほどの反刻晴派の男が胡桃の事を背後から狙って襲い掛かろうとした事、それを目撃していた労働者達や千岩軍達の兵士達の共通の話題というのは、正にそれしか無い。

 

 

そうであるならば___。

 

 

 

「_っ!!」

(い、行けるかもしれない…!!)

 

胡桃はほんの一握りの希望を見出す。

 

 

今目の前で行われている千岩軍の兵士達と労働者達の怒鳴り合いの中心にあるのは自分だ。

 

そしてそれは今の状況であれば自分が彼らに介入する余地、またその正当性があるという事。

 

つまり、自分を介して彼らと対話する機会を得られるかもしれないという事。

 

 

「っ!!」

 

その事に気づいた胡桃は周囲を見渡す。

 

 

対話を行うには彼ら労働者達と千岩軍の兵士達、そのすぐ近くである程度の高さを確保できる場所、もしくは物が必要だ。

 

労働者達のリーダーや中心人物が誰なのか、それは未だに明らかになっていない。

 

それなら彼ら全員に語り掛けるように、彼らが自分の話を耳にしやすいような高い場所に上がって、彼らを見下ろすように話さねばならないだろう。

 

 

 

「_よし!!」

(あった!!)

 

そうして胡桃はようやく、その理想の物を見つけ出す。

 

彼女の目の前にあったのは、先ほどまで行秋達がいた港湾区の荷置き場の一角、その隅にあった“大きめの木箱が一つ乗っている荷車”であった。

 

 

 

 

 

「____雲菫と香菱!!行秋と嘉明!!それに鍾離さん!!」

 

胡桃は彼らの名前を呼びかける。

 

 

「_どうしましたか!?胡桃さん!!」

「_どうしたの!?胡桃!?」

「_どうしたんだい!?胡桃!?」

「_どうした!?胡桃!?」

「_どうした!?胡堂主!?」

 

そうして胡桃の掛け声に反応したかのように雲菫達や行秋達、鍾離は一斉に胡桃の方へと視線を向ける。

 

 

「皆!!あそこにある大きな木箱が乗っているあの荷車を、あの辺りにまで持ってきて!!」

 

胡桃はそれぞれを指さしながら、彼らにそう指示を飛ばす。

 

「あの荷車ですか!?」

「あの大きめの木箱が乗っている奴!?」

「あの辺りに持ってくるのか!?」

「あの辺りって、ちょうど千岩軍の真後ろの辺りって事か!?」

「ふむ…」

 

雲菫達や行秋達、鍾離は胡桃が指差した先を目で追い、胡桃が指差した場所を確認する。

 

「うん!!そう!!ごめん!!もう説明する時間は無いの!!今すぐあそこまで持っていって!!」

 

胡桃は雲菫達や行秋達、鍾離にそうはっきりと言い切る。

 

「分かりました!!胡桃さん!!」

「分かったよ!!胡桃!!」

「あぁ!!分かったよ!!胡桃!!」

「おうよ!!分かったぜ!!胡桃!!」

「あぁ!!任せろ!!堂主殿!!」

 

雲菫達や行秋達、鍾離は胡桃の指示に従い、それぞれが駆け出す。

 

 

 

 

「_よし!!行くぞ!!せーの!!ぐっ!!」

「_よし!!行きましょう!!せーの!!くっ!?」

「_うん!!行こう!!せーの!!っぅ!?」

「_あぁ!!せーの!!っ!!」

「_おう!!せーの!!っぅ!!」

 

そしてその荷車に対して鍾離は荷台を引っ張り、行秋と嘉明は荷車の真後ろから荷車を押すように、雲菫と香菱は荷車の真横の部分に立ってそれの中央部分を片手で掴むようにしながら、力を合わせてその荷車を胡桃の指定した場所まで移動させ始める。

 

「頑張って、皆…」

 

そうして先に千岩軍の兵士達の真後ろについていた胡桃は、少しだけ不安そうな表情で彼らを見守る。

 

 

思った以上に荷車の上にあった大きな木箱の重さが重かったのか、もしくはあの荷車自体が相応以上の重量があったのか、あるいはその両方か。

 

とにかく一刻も早く、行秋達や雲菫達が荷車を胡桃の指定した場所まで移動させられるのを、胡桃は祈るような気持ちで見守りつつ千岩軍達と労働者達の様子を伺う。

 

 

 

「___どきやがれ!!千岩軍!!まずはお前達からぶっ潰すぞ!!」

「___道を開けろ!!千岩軍!!俺達に反刻晴派どもを懲罰させろ!!」

「___諦めろ!!お前達にはこの者達の身柄は渡さん!!そして俺達は決して退かん!!ここは退かないぞ!!」

「___何度やっても同じことだ!!お前達の気持ちは理解できる!!だが!!無理なものは無理だ!!いい加減に諦めるんだ!!」

 

 

 

「_っ………」

 

胡桃は顔をしかめる。

 

 

相変わらず千岩軍の兵士達と労働者達との言い合いはどこまで行っても平行線だ。

 

そしてお互いにかなりイラつているのか、労働者の大男達と千岩軍の兵士達の怒鳴り声は先ほどよりもさらに大声になっている。

 

 

 

「___胡桃殿!!」

 

 

「_っ!?鍾離さん!!」

 

その時、鍾離の声がすぐ近くから聞こえた事に気づいた胡桃は即座にその声がした方を振り向く。

 

 

「___お待たせ致しました!!胡桃さん!!」

「___お待たせ!!胡桃!!」

「___待たせたね!!胡桃!!」

「___何とか間に合ったようだな!!胡桃!!」

 

そしてそこには先ほどの鍾離、そうして雲菫達と行秋達が額に汗を浮かべて息を少し切らせながら、やりきったかのように胡桃に笑顔を向ける。

 

 

「_うん!!皆!!ありがとう!!これで…!!」

 

胡桃も彼らに笑みを返すと、口角を上げながら固定された荷車、また荷車に置かれていた木箱の高さを確認するかのように見つめる。

 

「…うん。十分そうだね。よし…!!」

 

胡桃は満足げに頷くとさっそく行動に移り、固定された荷車、そして荷車の上にあった大きめな木箱の上に上がり、そうして千岩軍の兵士達と港湾区の大男達を見下ろすようにその場に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

「_胡桃さん…。成程……」

「_胡桃…。そう言う事ね……」

「_胡桃…。そうか、そう言う事か……」

「_胡桃…。成程。今、ここで試みるという事か……」

「_胡桃殿…。ふむ、成る程……。あぁ、行けるはずだ。煙緋殿のように……」

 

そしてまた、荷車の木箱の上に立った胡桃の行動を見て、雲菫達と行秋達と鍾離は彼女の意図を察したかのようにそう呟き、まるで彼らも覚悟を決めたかのような表情を浮かべて、彼女の次の行動を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___この場にいる千岩軍の人達の皆!!それに港湾区の人達の皆!!この場にいる全員!!私の話を聞いて!!」

 

そうして胡桃は、まるでこれから壇上の上で演説でもするかのように、堂々とした振る舞いでこの場の全員にそう呼び掛けたのであった。




それでは次回、まずは前回の予告通りに今回のこれの続きに入る前に、第8幕の始まりを描いていければと思います。

次回の投稿まで、また今しばらくお待ちください。


—————
追記1
文章表現におかしいところがありましたため、修正を行いました。(釈放するだと!?→解放するだと!?)

追記2
他にも文章表現におかしいところがありましたため、修正を行いました。(“彼女に”→“彼女”に)
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