名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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とてつもない分量となりながらも、ようやく完成したので投稿。

リアルに多忙となっていったため、投稿が遅れてしまいました。


今回は第七幕の続き、「胡桃がまるで壇上の上で演説でもするかのように、堂々とした振る舞いでこの場の全員にそう呼び掛けた」というシーンからです。


_私は往生堂七十七代目堂主、胡桃!!

Side:胡桃

 

「___あぁ!!今度はなんだ!!あ、あれは…!?」

「___っ!!今度は何なんだよ!?あっ…!?彼女は……!?」

「___なんだなんだ!?今度は何なんだ!?はっ…!?」

「___何だ!?今の声は!?あぁっ…!?いや、彼女は……!?」

 

胡桃の声に気づいたのか、労働者達の大男たちは声の主は誰なのかを確認しようと声がした方向に荒々しく顔を上げると彼女の姿が視界に入る。そうして彼らにとっては予想外の人物であったのか、胡桃の姿を確認すると先ほどまで千岩軍に浴びせていた罵詈雑言や怒鳴り声とは打って変わり、驚いたかのような声を上げる。

 

 

「___っ!?誰だ!?えっ…!?」

「___っぅ!?今度は何だ!?あっ…!?」

「___今の声は!?あぁっ…!?」

「___誰だ!?なっ!?彼女は…!?」

 

そうして千岩軍の兵士達も胡桃の声に反応するかのように、一斉に胡桃の方へ振り返る。そうして彼らも彼らで予想外の人物であったのか、胡桃の姿を確認すると驚きの声を上げる。

 

 

「_か、彼女は!?いや、まさか…!?」

「_彼女はさっきの!?まさか、今から始めるのか…!?」

 

そしてまた雲菫と香菱達と話し合い、そうして彼らの代表者でもある鍾離と話しそびれた千岩軍の中隊長とその副官も胡桃の姿を見かけて驚きの声を上げる。

 

 

「よし!!」

(まずは上手く彼らの意識を私に向けられた!!)

 

胡桃は満足げに頷きながら、内心ガッツポーズをする。

 

今のだけでも労働者達側の千岩軍に対する怒りや憎しみと言った負の感情は、胡桃の方に注目した事によりそれらがある程度は消え去った。

また千岩軍の兵士達も胡桃の方に意識を向けた事により幾分か冷静な状態へと戻っていた。

 

「うんうん、よしよし」

 

胡桃は労働者達や千岩軍の兵士達の様子を隅々から見渡しながら、満足そうに頷く。

 

 

そうして彼女はそのまま彼らに言葉を紡ぎ始める。

 

 

 

 

「___まず、私の事を心配してくれた労働者達の皆!!本当にありがとう!!見ての通り、私は無事だよ!!怪我等は一切してないよ!!」

 

胡桃はそう言いながら、自身の無事を労働者達にアピールする。

 

 

「そして_」

 

胡桃はそう言うと後ろの方に振り返る。

 

 

 

「___私を人質にしようとした反刻晴派やその協力者達!!そんな彼らを!!私達は赦すわけにはいかないよね!!」

 

後ろを振り返った胡桃は指を指しながら、千岩軍に拘束されたその男や地面にへたり込んでいるその者達にそう強く言い放つ。

 

 

 

「_おぉ!!よく言った!!」

「_おぉ!!そうだ!!よく言ってくれた!!」

「_そうだそうだ!!彼女の言う通り、赦してはならないんだ!!」

「_そうだよな!!そうだよな!!あの外道共は赦しては駄目だ!!」

「_そうだ!!そうだ!!もっと言ってやれ!!あいつらを赦すな!!」

「_そうだよな!!間違いない!!ただでさえ重い罪を犯しているのに、更に罪を犯すなんて赦せないぞ!!」

「_そうだ!!その通りだ!!玉衡様に害を為そうとするだけに飽き足らず、自分達が助かるために彼女を人質にしようとしたんだ!!赦せるわけがない!!」

「_あぁ!!その通りだ!!そもそもの話、璃月の要人である刻晴様に危害を加えるような計画を立てた時点で、そいつらの罪は確定している!!そんな奴らを赦す必要がない!!」

 

胡桃の言葉を聞いた港湾区労働者の大男達は一斉にそう声を上げ、そうして千岩軍の兵士達から胡桃を人質にしようとした反刻晴派の者達へと怒りの矛先が完全に切り替わる。

 

 

「_ひっ!!ひぃ!!こ、殺される!!遂に殺されちまう!!」

「_い、嫌だ!!死にたくない!!」

「_ま、待ってくれ!!は、早まらないでくれ!!」

「_ち、違うんだ!!た、ただ!!そいつが…!!」

 

そうして怒りの矛先を向けられた反刻晴派の者達は各々わめき、また一部は必死に弁解しようとするも誰にどう言い訳をすればいいのか分からず、彼らはただ口ごもってしまう。

 

 

「_なっ!?何を…!?」

「_はっ!?おい!?」

「_おい!!嘘だろ!?」

「_っ!?どうして!?」

 

そしてまた、胡桃のまさかのその言葉に千岩軍の兵士達は一斉にざわめきだす。

 

 

 

「___っぅ!?なんで煽るような事を言うんだ!?」

「___待て!!彼女なりの考えかもしれん!!」

 

そうして千岩軍の兵士達と同じように、胡桃のその言葉を聞いていたこの千岩軍の中隊の中心人物である副官とその中隊長がそれぞれそう言う。

 

今の胡桃の言動は、完全に彼らを扇動し反刻晴派を襲わせようと煽っているようにしか見えず、どこからどうみても彼ら千岩軍達を裏切ったようにしか見えない。

 

 

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

 

だが雲菫達と行秋達、そして鍾離はその事に一切動じない。

 

 

彼らには分かっているのだ。この局面でそんな馬鹿な事はしないし、むしろその逆だと。

 

彼女の意図として、まずは労働者達の意識を自分の方に向けさせる。千岩軍達や反刻晴派への敵意や憎悪といった物を、胡桃への興味や注目に変化させるという事を。

 

 

「よし…」

(まずは上々かな…?)

 

労働者達に背中を向けていた胡桃は、最初の一歩は成功したという事に内心笑みを浮かべながら、そう静かに呟く。

 

自分の背中に彼らの注目が集まっている事を実感していた胡桃は、そのまま後ろへと振り返る。

 

 

「でもね!!___」

 

胡桃はそこまで言うと一度言葉を区切り、彼ら労働者達の様子を確かめるように見回す。

そうして一通り見回し、間違いなく彼らの意識が自分の方に向いている事を確認した胡桃は区切った言葉の続きを語り始める。

 

 

 

 

「___反刻晴派!!まず今の彼らは!!絶対に生きてもらわなければならないの!!」

 

胡桃は断言するように強く言い切りながら、改めて反刻晴派の者達を指差す。

 

 

「_お、おい!?」

「_どういうことだ!?」

「_はぁっ!?」

「_な、なんだと!?」

「_ど、どうしたんだよ!?」

「_何を言ってるんだ!?」

「_おい!?俺達の味方なんじゃないのか!?」

「_自分で何を言ってるのか分からないのか!?」

 

そして先ほどまでのj胡桃の言葉を否定する彼女の言葉に港湾区の労働者達は一斉に動揺し、ある者は唖然とし、ある者は疑問の声を上げ、ある者はそんな彼女を非難する。

 

 

「_えぇっ!?」

「_おいおい!?」

「_はぁ!?何を考えているんだ!?」

「_どっちなんだ!?」

 

そうして胡桃のその言葉を聞いていた千岩軍の兵士達も混乱するかのようにそう叫び出す。

 

 

「_えっ…?」

「_はっ…?」

「_なっ…」

「_い、一体…」

 

そして反刻晴派やその協力者達までも胡桃の急なその言葉に困惑する。

 

 

「_なっ…。こ、これは、一体……」

「_ふむ、やはりか…」

 

そうしてまた、胡桃の言葉を聞いていた千岩軍の副官と隊長達はそう言いながら彼女を見つめる。

 

先ほどまでの彼女の言葉を否定し、全てをひっくり返したことによってこの場は混沌と化す。

 

 

「うん_」

(_悪くない反応だね…)

 

胡桃は小さく頷く。

 

 

完全にカオスとなってしまったこの場であるが、胡桃にとってはそれが望んでいた事。

 

この場の中心を完全に自分の物とする事で、労働者達の意識を完全に胡桃の方に向けさせる。

 

そうして労働者達の意識が完全に自分の方へと向かうという事は、千岩軍の兵士達や反刻晴派の者達への憤怒や憎悪が散るという事でもあり、とりあえずは千岩軍の兵士達と反刻晴派の者達への敵意が消え去り、一時的ではあるが千岩軍の兵士達と反刻晴派の者達は安全を確保できたという事になる。

 

 

「_おい!!何か言えよ!!」

「_どうしてだよ!?」

「_なんであのクズ共を擁護するんだよ!?」

「_なぜ、彼らを守るんだ!?」

 

労働者達はそれぞれ胡桃にそう訴える。

 

 

 

 

 

「___そんなのは彼女のため!!私達の大切な友達の刻晴の為に決まっているからでしょ!?」

 

「_っ!?」

「_っぅ!?」

「_ぐっ!?」

「_ぅっ!?」

 

そうして胡桃はそんな彼らの訴えを跳ね除けるかのように大きな声で叫び、彼女のあまりにもの剣幕に労働者の大男達は思わず怯み、黙り込む。

 

 

「_いや…。待て…!!それよりも……!?」

「_今、なんて言った!?聞き間違いか…!?」

「_おい!!俺の聞き間違えか!?今、あの方の友人って…!?」

「_あぁ!!確かに言ったぞ!!刻晴様の友達だって!?」

 

そしてその次の瞬間、胡桃の“大切な友達の刻晴”という言葉を聞いた大男達は、より一層にざわつき始める。

 

 

「_はぁっ!?本当なのか!?」

「_えっ!?ほ、本当なのか!?」

「_彼女は玉衡様のご友人なのか!?」

「_それに彼らや彼女達も刻晴様の友人なのか!?」

 

そうしてまた、胡桃のその言葉を聞いた千岩軍の兵士達も一斉にざわつき始める。

 

 

「_はっ…?」

「_えっ…?」

「_玉衡の友人…?」

「_あの女の…?」

 

そしてまた、胡桃の言葉を聞いた反刻晴派の者達やその協力者達も唖然とした表情で、胡桃のその言葉に注目し始める。

 

 

 

 

 

「___私の事、私達の事、信じられない!?刻晴の友人だってことを!!」

 

「_そ、それは…」

「_いや、それは…」

「_急に言われても…」

「_まぁ、そうだよな…」

 

胡桃はそのままの勢いで押すかのように、港湾区の労働者達の大男達に向かってそう叫ぶ。

 

胡桃のその言葉には確かな力強さと、そしてそれが事実であるかのような迫力があり、先ほどまで怒りに身を委ねていた労働者達の大半以上は勢いを失って怯んだかのように、それぞれ困惑した表情を浮かべながら顔を見合わせる。

 

 

だが___

 

 

 

「_そんなの信じられるか!!」

「_いきなりそんな事を言われて信じる奴がいるかぁ!!」

「_そうだ!!そうだ!!でたらめ言ってるんじゃねぇぞ!!」

「_何か証拠があるのか!?あの方と友人だって言う証拠がよぉ!!」

 

___その労働者達の中の一部の集団、大男達の集団の中で中央部の比較的前の方に位置していた男達が彼女の言葉を真っ向から否定しにかかる。

 

 

 

「へぇ、信じられないんだ…?」

 

そうして胡桃は、自分を否定したその男達の姿をみてニヤリと笑う。

 

 

 

これで説得すべき者達が明らかになった。

 

 

彼らがこの労働者達のリーダー達なのか、中心人物たちなのか、それは分からない。

 

だがしかし、少なくとも彼らを納得させて刻晴の友人であることを認めさせる事が出来たとすれば、今困惑している他の大男達も同時に納得させて認めさせ、そうして彼ら労働者達を行秋が話してくれた煙緋の時のように冷静な状態に持っていく事ができるだろう。

 

そうすればいよいよ対等に対話する機会を作り出す事ができ、今この璃月港で水面下で進められている陰謀についてを彼らに伝える事ができるようになる。

 

そうしてやがては真実を知った彼らの協力を得て、その陰謀である璃月港転覆計画を阻止する事も可能となるだろう。

 

 

 

 

 

「___私の事、私達の事、信じられない!?」

 

「_あぁ!!当たり前だ!!」

「_そうだ!!そうだ!!」

「_信じられるわけがないだろ!!」

「_そんな話、信じる奴なんかどこにいる!!」

 

胡桃のその言葉に、否定しにかかったその男達はその勢いのまま叫び続ける。

 

「そう!!だったら!!___」

 

胡桃はそこまで言うと、その男達を指差して___

 

 

 

「_今から証明してあげる!!そして私達が貴方達を納得させてあげる!!」

 

___そんな彼らを睨みつけるような真剣な眼差しを向けながら、胡桃はそう叫んだ。

 

 

 

「_なっ!?」

「_はっ、はぁ!?」

「_しょ、証明するだと…!?」

「_俺達を納得させるだと…!?」

 

そうしてその男達はまさか胡桃はそこまではっきりと言い切るとは思わず、驚きの表情で胡桃を見つめる。

 

 

「_おい、嘘だろ…!?」

「_い、今からか…!?」

「_証明、できるのか…!?」

「_何をするつもりなんだ…!?」

 

そして困惑の表情を浮かべていた半数以上の労働者達である大男達も、胡桃のその発言を聞いて思わずそう声を上げる。

 

 

「_証明だと…!?」

「_で、出来るのか…!?」

「_っ!?で、出来たとすれば…!!」

「_っぅ!?頼む…!!ど、どうか…!!」

 

そうしてまた千岩軍の兵士達も驚きの表情で胡桃を見つめ、また一部の兵士達は胡桃が彼らを納得させるかさせないかで、彼らが完全な暴徒となって自分達千岩軍に襲い掛かって来るかどうかまでかかっているという事を直感的に感じ取り、彼女に祈るかのように顔を俯かせて胸の前で両手を組んでは、彼女に祈るようにそう呟く。

 

 

 

 

「___お、おい!!証明するだって、どうやって証明する気だ!!」

「___そうだ!!そうだ!!その前にお前は誰だ!!何者だ!?」

 

そして先ほどの胡桃の言葉に驚きの表情で固まり、彼女の事を否定しにかかった男達の内の更に一部の者達は、我に返ったかのように胡桃に向かってそう叫ぶ。

 

「あっ、そう言えば、私が誰なのか、私の自己紹介がまだだったね…。___」

 

ニヤリと笑いながら胡桃はそう呟き、そして___

 

 

 

 

 

 

 

「___私は往生堂七十七代目堂主、胡桃!!そして今代玉衡、刻晴の友人であり!!そうして彼女の玉衡としての覚悟を見届けてきた者だよ!!」

 

_胡桃は自分の事を指差しながら、自らの正体を叫び明かす。

 

 

 

「___っ!?往生堂の堂主…!?」

「___往生堂…、緋雲の丘にある葬儀屋か!?」

「___往生堂か…!!名前くらいは聞いたことあるな!!」

「___確か往生堂って歴史が長い葬儀屋だったか…!?」

「___玉衡と往生堂の堂主…。決して釣り合わないというわけではないな…!!」

「___ま、まさか、ほ、本当の事なのか…!?じゃ、じゃあ、彼女の周りにいる彼らも…!?」

 

往生堂という言葉、また胡桃のその堂主という身分。

それだけで彼ら港湾区の労働者達は、予想だにしていなかった彼女の正体に一斉に驚いてどよめく。

 

 

「_か、彼女はそんな人物だったのか…!!」

「_なっ…!?そんな人物と刻晴様は知り合いだったのか!?」

「_ま、まさか、彼女がそんな人物だったとは…!!」

「_し、信じられん!!し、しかし…!!」

 

そして千岩軍の兵士達も、胡桃の正体に驚きを隠せずざわつき始める。

 

「ふっ。そんなに驚いちゃって…。そして!!私の周りにいる五人は、_」

 

港湾区の労働者達の大男達や、ここにいる大勢の千岩軍の兵士達のそれぞれの反応に気を良くした胡桃は、そんな彼らに向かって余裕の笑みを浮かべながら更に言葉を続ける。

 

 

 

 

 

「_万民堂のコックの香菱!!雲翰社の役者である雲菫!!飛雲商会の坊ちゃんであり次男坊の行秋!!和記庁、鏢局の鏢師である嘉明!!そうして私の往生堂の客卿である鍾離さん!!いずれにせよ!!全員、玉衡刻晴の友人であり、彼女との付き合いがあった者達だよ!!」

 

胡桃は労働者達、千岩軍の兵士達に向かって堂々とそう宣言するかのようにそう叫んだ。

 

 

「_なに!?万民堂のコックだと!?」

「_彼女は!!あぁ、間違いない!!万民堂の香菱だ!!」

「_そうだな!!あの料理人だ!!」

「_雲菫!?名前くらいは聞いたことがあるぞ!!」

「_和裕茶館でよくやっている劇の役者さんだよな!?」

「_俺はあまり劇を見た事はないが、だが和裕茶館以外の公開舞台で遠くから彼女を見た事がある!!間違いなく彼女だ!!」

「_飛雲商会の坊ちゃんだと!?彼がか…!?」

「_あの大商会の!?いや、聞いたことはあるが…!!」

「_往生堂の堂主と同等、いやそれ以上の大物じゃないんじゃないか…!?」

「_嘉明!?和記庁の鏢師って…!?」

「_あぁ、間違いねぇ!!あの坊主だ!!この前、俺達の荷物をここまで完璧に護送してきてくれた、あの坊主だ!!」

「_前に遺瓏埠の連中が、頼りがいのある金等級鏢師がいるって話をしていた、あの坊主か…!?」

「_往生堂の客卿…!!さっき反刻晴派から胡桃を守り抜いた男か……!!」

「_あの男、よくチ虎岩でお茶を飲んでるところを見かける只者ではなさそうなと思ってた男じゃねぇか…!!」

「_客卿か…!!確かにどこともなく只者では無い気配、それにかなり徳や教養の高そうな風格を漂わせているな…!!」

 

 

労働者の大男達達、そして千岩軍の兵士達は揃って、胡桃が紹介した彼らの正体にそれぞれ驚きの声を上げる。

 

 

労働者達は全員が全員、香菱達や行秋達の全員の事を知っているわけでは無かったものの、それぞれが彼らの内の一人の顔やその存在を知っていたために、特に疑う余地もなく彼女達のその身分を認識する事が出来た。

 

そしてまた千岩軍の兵士達も、香菱達や行秋達がちょっとした有名人であったために、港湾区の労働者達と同じようにその素性を把握できた。

 

 

 

「___香菱殿、雲菫殿。それに行秋殿、嘉明殿」

 

「_うん、鍾離さん」

「_はい、鍾離さん。分かっています」

「_うん、鍾離さん。おそらくこの順番だよね」

「_あぁ、鍾離さん。自分の番が来た時に、彼らに何を話すべきかはもう考えてあるぜ」

 

胡桃によって労働者達や兵士達の注目を浴びている鍾離は小声で彼らに注意するかのようにそう呼びかけ、呼びかけられた香菱達や行秋達も真剣な表情を浮かべながら小声でそう答える。

 

胡桃がしてきた事、そして彼ら労働者達の大男達を味方に引き込むためにすべき事。それらを考えれば彼らがすべき事、そして後に彼がやる事、やらないといけない事は一目瞭然である。

 

 

 

 

「_なっ!?そうだったのか!?…だ、だが!!」

「_そ、そんな!!…し、しかし、やはり信じられないぞ!!」

 

そうして彼女の事を否定しにかかった男達の一部の者達は彼女達の正体、また自分達の周りの同じ労働者達である仲間の大男達の反応に飲み込まれるように驚きの表情を浮かべながら、胡桃のその説明に納得しようとするもののやはりまだ完全には信じる事が出来ずに、混乱した様子でそう叫ぶ。

 

 

 

「ふふふ、まぁ、そりゃあ、そうだよねぇ!!それだけでは信じてもらえないよね!!だから私、私達はそれを証明する為に!!これから___」

 

胡桃は自身や自分達の事を否定した男達の勢いが完全に削がれ、そして全員が全員の注目が自分達が集まっているのを確認しながらニヤリと笑いながら、とある宣言を行う。

 

 

 

 

 

「___私達は友人である刻晴との話、刻晴と過ごした時のエピソードや、彼女と行動を共にした時のこぼれ話や逸話と言った、とにかくいろんな事を貴方達に教えるよ!!」

 

胡桃は不敵な笑みを浮かべながら自信満々に、そして堂々と宣言した。

 

 

「_なっ…、刻晴様との話だと!?」

「_な、なにぃ!!刻晴様のエピソード!?」

「_あの方のこぼれ話や逸話だと!?」

「_そのような話があるのか!?」

 

 

胡桃のその宣言に、自分達の事を否定した男達を含む港湾区の労働者の大男達は一斉のその発言に反応する。

 

 

「本当だよ!!私達は刻晴と、彼女と多かれ少なかれ確かに時間を過ごしたの!!だから彼女との話やエピソードはあるよ!!そして___」

 

 

胡桃はそこまで言うと、自身や自分達の事を否定した男達に向かって指を指す。

 

 

 

 

 

「___これから私達は刻晴と共に過ごした時の話、玉衡とのエピソードを話すからその話が嘘か本当か貴方達が判断すればいいと思う!!」

 

「_なっ!?」

「_はっ!?」

 

胡桃は男達に向かってそう宣言し、その言葉を受けたその者達は驚きの表情で固まる。

 

 

 

「_もしも私達が玉衡との友人であると嘘を吐いているならば、これから私達が語るエピソードは即興の作り話であるからおかしな点や変な所、それに妙な点や胡散臭い所があるはずだから、玉衡を慕う貴方達港湾区の労働者達であれば、その違和感に気付くはず!!そうでしょ!?」

 

「_た、確かに…」

「_い、言われてみれば…」

「_そうだな、間違いない…」

「_あぁ、気づけるはずだ…」

 

胡桃のその言葉に否定した大男達や、それ以外の労働者達も納得したかのように頷く。

 

 

「_そうでしょ!!であるならばこれから私達が話す刻晴との話や、これから語る彼女とのエピソードにおかしな点や変な所も無く、そうして妙な点も胡散臭い所が無いのであれば!!それは私達のその話が事実であり、そうして私達は玉衡との友人であると証明する事が出来る!!そうでしょ!?皆!!」

 

胡桃は自分の話を聞く彼ら労働者達一人一人に対して、そのように訴えかけるようにしてそう叫ぶ。

 

 

「_あぁ、その通りだ!!」

「_全くもってその通りだ!!」

「_語ってやれ!!その話やそのエピソードを!!」

「_そうだ!!証明してやれ!!自分達は玉衡の友人であることを!!」

「_そうだ!!そうだ!!胡桃の言う通りだ!!」

「_話を聞かせてくれ!!胡桃達と刻晴様の話を!!」

 

そうしてその訴えに呼応するかのように千岩軍の兵士達、また一部ではあるが港湾区の労働者達の一部も胡桃達側に付いたかのように、胡桃のその発言に対してそう叫ぶ。

 

 

「_っ!?」

「_っぅ!?」

 

そしてそんな彼ら労働者達の一部や千岩軍の兵士達の熱狂のようなその反応に、胡桃の事を頭ごなしに否定しにかかった男達はただただ目を見開かせながら、混乱する。

 

 

 

 

「___さぁ!!私の話を聞いてくれる!?語らせてくれる!?私達の友人である刻晴との話を!!」

 

そして胡桃は改めて指を彼ら、彼女の事を否定した男達の方に指を指し示しながら、彼らに向かってそう叫ぶ。

 

「_そうだそうだ!!まずは語らせてやれ!!」

「_否定なんていつでも出来る!!まずは彼女達の話を聞いてやろう!!」

「_そうだ!!まずは話を聞いてからだ!!全てはそれからだ!!」

「_彼女達が本当に玉衡様かどうかの判断は話を聞いた後からでも良い!!まずは話をさせてやれ!!」

 

そうして胡桃達に困惑、戸惑っていた大多数の労働者達も決して彼女の味方となったわけではないものの、一先ずは彼ら自身も胡桃達の事を信用して彼女達の話を聞いてみるという判断を下したようで、彼ら大多数の労働者達も胡桃達にその話をするように促すと同時に、胡桃達を否定していたその男達を非難するかのように次々とそう叫び始める。

 

 

 

「_っ!!わ、わかった!!ひとまずは話を聞いてみようじゃないか!!」

「_っ!!あぁ!!分かった!!そうしてやる!!話を聞かせてくれ!!」

 

そしてそのように言って胡桃達の事を頭ごなしに否定しにかかっていた男達も、労働者達や千岩軍の兵士達からのその反応にようやく自分が間違っていたという事を受け入れられたのか、あるいは受け入れざるをえなくなったのか、他の労働者達や千岩軍の兵士達と同様に胡桃達の話を聞かんと、彼女達の話に耳を貸す事にしたようであった。

 

 

 

「___ありがとう!!それじゃあ、早速だけど話をさせてもらうよ!!」

 

そうして胡桃はようやく労働者達が納得してくれた事に安堵し、改めてコホンと咳払いをすると顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「_とある日の夕暮れ時の璃月港。璃月港内の『チ虎岩地区』と『緋雲の丘地区』を結ぶとある橋。その橋の上にて黄昏るように夕日を見つめ、そうして独り夕日を眺めていた少女。少女が独り、そこに佇んでいた」

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

大男達や千岩軍の兵士達が耳を貸したために辺り一帯が静寂に包まれ、その静寂を突きさすかのように静かだがはっきり聞こえる胡桃の声だけが響き渡る。

 

そしてそんな語り部の胡桃は、まるで講談師のように身振り手振りを付け加えながら、胡桃は夕暮れ時の一人佇んでいた少女の話を語り始める。

 

 

「_その少女にとっては忘れられない一日。そして彼女の全ての始まりであり、そんな彼女の全ての原点でもある一日だった」

 

 

「なぁ、その少女って…」

「あぁ、おそらく…」

「そうだろうな…」

「刻晴様…」

 

胡桃の話に男達は小声なでそれぞれ反応する。そして男達は更に耳をすませる。

 

 

「_その日、彼女は正真正銘の大切な人との最期の別れを行った。彼女と彼はもう二度と会う事はない。なぜなら彼の肉体は、往生堂七十七代目堂主、堂主である私の手によって火葬して彼を、先代玉衡であった彼女の大切な人、刻晴の叔父の魂を死者の世界へと旅立たせたのだから」

 

「なっ…!?」

「はっ…!?」

「先代玉衡だと…!?」

「刻晴様の叔父をか…!?」

 

男達は胡桃のその言葉を聞き、目を見開いて驚きながらざわつく。

 

 

「先代玉衡様…!?」

「先代玉衡って…!?」

「あぁ、あの御方だ…!!」

「そう言えば、刻晴様はあの方の娘でもあったな…!!」

 

そうして千岩軍の兵士達までもがその正体が先代玉衡であったために、思わず驚きの声を上げてしまう。

 

 

「_そう。先代玉衡であった、刻晴の叔父を旅立たせたの」

 

胡桃はそこまで言うと顔を上げて、天を見上げる。

 

まるでその視線の先に胡桃自身で旅立たせた刻晴の叔父の魂があるかの様に、そしてそれと同時に刻晴に対して思いを馳せるかのように。

 

 

「_旅立たせたあの方は私が堂主になってから初めて見た人かもしれない。あの人は一切の後悔や未練とか全く無さげみたいだった。それどころか、残された者達のこれからの事を期待していたみたいだったんだ。あそこまで清々しい人、今でも私が見てきた限りは二人といなかったよ」

 

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

 

胡桃のその話に自分達でも気づかない程に聞き入ってしまっている労働者達の大男達や千岩軍の兵士達は、そんな彼の最期や刻晴と彼との別れに対して静かにその思いを馳せる。

 

 

「_そうして独り夕日を眺めていた少女、叔父と最期の別れをした刻晴はただ独り佇む。彼女の頬には一筋の涙が滴り、涙の雫が橋の下を流れる小川にポタリと落ちていた。やはり彼女は心の底では、まだ叔父の死を受け入れてなんかいなかった。刻晴は受け入れきれていなかった」

 

「そうだろうな…」

「その悲しみ、とても辛いだろうな…」

「あぁ、その痛み、よく分かる…」

「俺達には想像もできねぇほど辛かっただろう…」

 

胡桃のその言葉に、労働者達や兵士達はうんうんと頷きながらその思いを分かち合うかのようにしてそう呟く。

 

「あの時の私は刻晴に対して大切な人と別れてしまった事に対する同情を抱き、そしてあの時の彼女の様子から彼女の心の奥底には鋭い棘が刺さっていしまっていた事を理解し、容易にはそれを取り除く事ができない、その場で刻晴を完全には立ち直らせる事はできないと分かっていた。だから普段の私であれば、彼女に慰めの声をかけるなりしていたのかもしれない。でも何故だったんだろうか_」

 

胡桃はそう呟くと、ふと言葉を止める。

 

 

 

 

 

「___あの時の私は刻晴に対して同情と同時に、確かな“怒り”の感情を抱いてしまっていたんだ」

 

そうして胡桃はふと上の空になって、まるであの当時の事を思い出しているかのように、その場でそう呟く。

 

 

 

「_いつどんな時も、死を軽く扱ってはいけない。死を理解し尊重してこそ、生きる価値を理解できる。あの人は確かに天命をまっとうした。定められた運命、決定づけられた使命、それらをまっとうした。人生でやり遂げたい事や、やり遂げなければならないを見つけ、そうしてそれらの結果問わずして確かに全てをやり遂げた。だからあの人は天へと昇る資格を得て、天へと昇っていった」

 

「天命…」

「運命、か…」

「使命をまっとうする、か…」

「天へと昇る資格…」

 

胡桃のその言葉に、労働者達や兵士達はそう呟いて思いに耽る。

 

 

「_私は私なりにあの人の死を理解し尊重した。そしてその上で今を生きる私達の価値を解釈した。そして火葬している最中に気づいたの。刻晴の叔父、は彼女に対して何かを託している事を。刻晴に使命といったもの、彼女に運命や天命といえるような何かを残していると…」

 

「託した…?」

「何かを残した…?」

「先代様が託したもの…」

「刻晴様が託されたもの…」

 

労働者達や兵士達は、口々にそう呟いてはそれが何だったのかを想像してみる。

 

 

「_刻晴の叔父、彼が彼女に託したもの、それに残したもの。それは今でも分からない。でも少なくとも、彼にとっては刻晴にどうしても残しておきたいもの、託していきたいものだというのは、私には分かった。そしてそれはそう単純なものでは無く、そうしてそれを彼は刻晴であれば、自身の自慢の娘である彼女であれば、まっとうしきってくれるとそう疑いなく信じていたんだ」

 

胡桃は静かにそう語り、そしてまた天を見上げる。

 

 

「…そう!!だから!!だからこそ!!だからこそなんだよ!!_」

 

そうして胡桃はその時の事を完全に思い出したかのように、そうしてその当時の謎がようやく解けたかのように、見上げていた顔を労働者達の方へと向ける。

 

 

「_私は刻晴が今のまま落ち込んだままでいるのは駄目だと思ったんだよ!!彼女は叔父から何かしらのものを託されている!!そしてそれは、彼女の天命、運命、使命、そういったものと言い換える事の出来るものに違いなかった!!そうして彼女の叔父はそれをまっとうしきてくれるはずだと期待して死者の世界へと旅立ったの!!だから!!もしもあの時に橋で黄昏ていた刻晴が立ち直れそうになければ、彼女にきつい言葉の一つや二つぐらいかけてでも立ち直らさせようと思ったの!!」

 

感情を爆発させていた胡桃はそこまで言うと、冷静さを取り戻さんとするように一度深呼吸をし、そしてまた語り始める。

 

 

「_でも、それは余計な心配だったよ。それどころか彼女の強さをまざまざと見せつけられたんだ。まさか刻晴が、あんなすんなりと叔父との別れを受け止められるとは思いもしなかった。あれは完全に私の余計な心配だったよ。本当に良かったよ」

 

胡桃はそこまで言うと嬉しそうに、そして誇らしげな表情をしながら笑みを浮かべる。

 

 

「そうだったのか…」

「そうなのか、良かった…」

「流石だな、あの方は…」

「あぁ、そうだな。本当に良かった…」

 

胡桃のここまでの話を聞いていた港湾区の労働者達や千岩軍の兵士達も、彼女の話から刻晴が叔父の死を受け止められた事を知り、安堵の表情を浮かべる。

 

 

「うん、本当にだよ。本当に良かった…。あっ、そう言えば……_」

 

胡桃はそこまで言うと何かを思いついたかのように、労働者達の方へと再び視線を向ける。

 

 

 

「_ねぇ。刻晴の天命、運命や使命、言い換えれば彼女の原点や原動力、それは一体何だったと思う?」

 

胡桃は問いかけるかのように、労働者達や千岩軍の兵士達にそう問いかける。

 

 

「刻晴様の天命…?」

「運命や使命…?」

「あの方の原点、か…」

「あの御方の原動力か…?」

 

「言われてみれば、何なんだ…?」

「何なんだろうな…?」

「少なくとも刻晴様の叔父に関連するものだと思うが…」

「やっぱり先代玉衡様と関連のあるものか……?」

 

胡桃の問いかけに対して、労働者達の大男達と千岩軍の兵士達がそれぞれ腕を組んだり、顎に手を当てて考え込みながらそう呟く。だが思うような答えが出てこないのか、お互いに顔を見合わせながら首を傾げる。

 

 

「_ふふっ。まぁ、そう簡単には出ないよね。私も意外だったし。まぁ、簡単に分かる事じゃないと思うから仕方ないよ」

 

胡桃は彼らの様子に苦笑いを浮かべながらそう呟く。

 

「刻晴の原点、原動力。それは『“叔父様”みたいな“立派な人”になりたい』という願い、そして___」

 

彼女はそこまで言うと、その当時の事を思い出したのか、あるいはその光景を思い浮かべているのか。彼女は満面の笑みを浮かべながらこう口を開く。

 

 

「___『この国が好きだから』、だよ」

 

「_この国が好きだからだと…?」

「_璃月が好きだからか…?」

「_なっ、そう言う理由なのか…?」

「_そんな理由だったのか…?」

「_そのような理由だったとは…」

「_意外過ぎるな、刻晴様のそれは…」

「_そんな理由、だったのか……」

「_この国、璃月が好きだから、か…」

 

胡桃のその言葉に、港湾区の労働者達と千岩軍の兵士達は意外そうに目を丸くする。労働者達や兵士達関係なく驚いているようであった。

 

 

「_ふふっ、本当にそうでしょ?意外過ぎるでしょ?私もそう思ったよ。それにそれだけじゃないんだ」

 

胡桃はそんな労働者達や兵士達の反応を楽しむかのように、笑いながら言葉を続ける。

 

 

「_刻晴は、『この璃月、帝君や仙人達、そうして数多くの人々の思いを受け止めながら成長してきた璃月というこの国が好き、この国家が本当に大好きなんです』とか、『璃月の数千年の歴史。その歴史の中で多くの苦難や災難、そして喜びがあって、璃月という国は今日に至るまでの成長と発展を遂げてきた。そしてその璃月を、もっと誇りのある国にしていきたい、胸を張って誇れる国にしたい…。この長い歴史を紡いできた璃月という国家をもっとより良い国にしていきたい』とまで言っていたんだよ。本当に驚いたよ」

 

胡桃はそう語りながら、刻晴が璃月を好きだと語ったあの時らの事を思い出してか、とても優し気な笑みを浮かべていた。

 

 

「_帝君や仙人達の思いを受け止めてきた璃月…」

「_数多くの人々の思いを受け止めながら成長してきた璃月…」

「_数千年の歴史を歩んできた璃月…」

「_多くの苦難や災難、そして喜びがあった璃月…」

「_成長と発展を遂げてきた璃月…」

「_長い歴史を紡いできた璃月…」

「_誇りのある国にしていきたい、か…」

「_胸を張って誇れる国にしたいか…」

「_璃月をもっとより良い国にしていきたい、か…」

 

胡桃のその言葉に大男達と兵士達は深い感銘を覚えたかのように、各々がそう呟く。

 

 

「_璃月という国家をより良い国にしていきたい……」

「_この璃月を誇れる国にしたい、か……」

「_刻晴はそのような事をずっと考えていたのか…」

「_彼女はそのような…。俺達はなんてことを…」

 

そうしてまた、胡桃達の後ろで地面に座り込んでいた反刻晴派の者達やその協力者達までもが、刻晴の思いを知り感銘を受けたかのように言葉を溢す。そしてそれと同時に彼ら反刻晴派の者達が犯した罪、犯そうとした罪の重さをその心の内で感じとり、その顔が後悔のものへと染まっていく。

 

 

「うん。本当に彼女の思い、それはどこまでも真っすぐで純粋なものだったよ…。ふふっ、でもまぁ、___」

 

胡桃はそう言いながら、さり気なく労働者の大男達や千岩軍の兵士達、また反刻晴派の者達の様子を確認する。

 

いずれにせよ、刻晴の思いや内面に深く感銘、深い感動をしているようで、今の彼らは完全に怒りや憎しみ、また恐れと言ったそれら負の感情は浄化されたかのように完全に消え去っており、ただただ胡桃が語るその話の一つ一つに聞き入っていた。

 

 

「_その話、その立派な人になりたいという話や璃月が大好きという話は、どちらかといえば刻晴と私との話ではなく鍾離さんとの話であるから、それは一番最後の楽しみにとっておこうか」

 

「ほぉ。そうなのか…」

「なっ。そんな…」

「そうなのか、ふむ…」

「そうだったのか。まぁ、良いだろう…」

 

「成程。続きが気になるな…」

「鍾離とのエピソードか…」

「往生堂の客卿とか…」

「彼の話か。早く続きを知りたいな…」

 

胡桃のその言葉に労働者達や千岩軍の兵士達がそう反応し興味を示す。それぞれその話がとても楽しみである者、良いところで話が中断されてやきもきしている者、その話が気になって早く続きを聞きたい者など、反応はそれぞれであった。

 

 

「ふふっ、ごめんねごめんね。でも順番は順番だから、ね?」

 

胡桃がそう謝ると労働者達や兵士達も『まぁ仕方ないか』といった様子で首を左右に振る。

 

 

 

 

 

「じゃあ、私と刻晴とのエピソードの話はこれにて終了…。よし!!それじゃあ皆!!次は香菱のエピソードだよ!!これから交代するから少し待っててね!!香菱!!用意はできてる!?」

 

胡桃はそう言うと自身が立つ荷車のすぐ間近、香菱のいる方へと視線を向ける。

 

 

「香菱!!用意はできてる!?」

 

「うん!!用意はできてるよ!!いつでも大丈夫!!」

 

胡桃が立つそれに隣接するように立っていた香菱は、胡桃に自信ありげにそう答える。

 

「よしっ!!香菱!!ふっ!!」

 

胡桃は香菱の返答に満足そうに頷くと、そのまま香菱の隣に飛び降りる。

 

「うんっ!!任せて!!胡桃!!よいしょっ!!よいしょっと!!」

 

そしてバトンタッチするかのようにして香菱は胡桃が立っていた荷車の大きな木箱の上へと駆け上がるように一気に跳躍していく。

 

 

 

 

「_うわっ…」」

 

そうして香菱は大きな木箱の上に立ち、大勢の労働者の大男達や千岩軍の兵士達の注目を浴びて思わずそんな声を漏らす。

 

 

 

「___香菱!!」」

 

「_っ!?」

 

そしてそんな時、真下に居る胡桃のその呼びかけに、香菱は驚きながらそちらの方へと視線を向ける。

 

 

 

「_行けるよ!!自分を信じて!!私達を信じて!!」

 

胡桃は自信満々、不敵な笑みを浮かべながらそう香菱に鼓舞をする。

 

 

 

 

「あっ…。うん!!そうだったね!!ありがとう!!胡桃!!」

 

そうして胡桃の鼓舞を受けた香菱は、思わずにやけながら彼女に感謝の言葉を告げる。

 

 

 

 

 

「_よし!!それじゃあ始めるよ!!まずは私の自己紹介から!!私は香菱!!万民堂のコックの香菱!!___」

 

そして自身を取り戻した香菱は、目の前の胡桃達や大勢の労働者達の大男達の視線を一身に浴びながら自身の自己紹介を行い、刻晴とのエピソードを語り始める。

 

 

 

「___」

 

香菱のエピソード。

 

 

とある日、急に現れた謎の少女。その少女に万民堂で働きたいと言われて、そのままウェイターとして、そうして見習いの料理人として万民堂で働き始めた日々。

 

そしてその過程で休憩を惜しんでまで上達する為に凄まじい努力を続ける彼女の姿に香菱は感銘を受け、いつしかその少女の事を気に入って好きになっていった事。

 

そうしてまた、その過程で璃月港周辺や港近郊でのちょっとした食材探しの旅や、軽策荘で女二人で食材の猪を追いかけまわした話。また万民堂でとある総務司の職員や月海亭の職員が入ってきた際、何故かその職員達を避けたりその席に料理を届ける際にその客に対して妙な圧力を掛けていた話。そして閉店時の万民堂で香菱が彼女が自身の助手になるべく、様々な料理の技術を教えて込んでみた話。

 

そして急に訪れた彼女との別れに唖然とし、惜しみながらも彼女の背中を押した時の話。また時折料理をするために万民堂に帰って来るという約束をした時の話。

 

そうして後日に万民堂での職員の話や労働者達の話から彼女の正体を知ってしまった時の驚き、そうしてそれと同時に彼女に対する誇らしさやそんな彼女への感謝を改めて強く感じた時の話。

 

 

 

「___」

 

雲菫のエピソード。

 

 

とある日の和裕茶館。劇の予行演習を終えた直後に急に現れた不思議な少女。その少女に雲菫の劇団で働かせてほしいと懇願され、茶館のオーナーの範二の思惑も相まって雲菫の劇団で働く事が許された彼女。

 

雲菫が初対面の時、そして働き始めた当初の時の彼女と言うのは不思議な人、また少し胡散臭くて、色々と隠し事が多い怪しい人だと雲菫はそう思っていた。だが彼女の劇団で奔走する彼女の姿やその働きぶりを見ていて、雲菫は段々と彼女を信用していき、そうしていつしか完全に彼女に心を許して信頼し、彼女の事を好きになっていった事。

 

その過程で彼女が時折見せた常人離れした努力家な一面。そして彼女が担当する劇の小道具や衣装管理の仕事といった裏方業務の雲菫達の想像を超える程の丁寧さ加減の仕事っぷり、そうして最終的には雲菫の劇団の裏方責任者の補佐役という立場までになり、劇団全体を影から支える存在となった彼女。

 

そうしてまた雲菫の脚本作りの手伝い。その過程での彼女が持つ膨大な璃月の数多くの物語や仙人達や岩王帝君を始めとする伝説の数々、また璃月の伝統文化や伝統工芸品の由来といった知識や、彼女なりの考えや解釈といったものを雲菫に教えた時の事。そしてまた、脚本づくりで使う伝記や伝説を取り扱った書籍探しとして万文集舎を始めとする璃月港中の書店を雲菫と彼女とで巡り回った時の事。

 

そうして雲菫、雲菫の劇団である雲翰社にとってもかけがえのない存在へとなりつつあったその時、急に訪れてしまった彼女との別れ。雲菫、また彼女の劇団員はあまりにも急すぎる出来事に一同は驚愕し唖然となったが、それでも惜しみなく彼女に感謝を伝えて彼女の為に劇団は門出の会を開いて彼女を祝福し、彼女の劇団からの旅立ちを盛大に見送った事。

 

そして後日、和裕茶館で客達の話や一部の劇団員の話からあの不思議な少女の正体が、お忍びで訪れた璃月七星の玉衡本人の可能性が高いという可能性が高いという事が判明した事。そうしてその直後に総務司から、新規に始める事になった文化保護と文化促進の事業の試験として和裕茶館の修繕費用の補助や雲菫の劇団の雲翰社への一定額の支援金の投入が決定されたという話や、雲菫宛てに届いた差出人不明の数々の璃月の物語や伝説を取り纏めた書籍、そして璃月の伝統関連を取り纏めた本が届けられ、それらについて察した雲菫や雲菫の劇団員達の目が熱くなったという事。

 

 

 

「___」

 

行秋のエピソード。

 

 

とある日の万文集舎。行秋がいつものように訪れたその書店、その書店で見かけた面白そうな新人の書店店員である少女。

 

最初の頃は、特にその彼女に関して興味も関心も無かった行秋。だが普段通りにその書店に通い、そしてその彼女の事を見かけるたびに彼女に対して妙な違和感を抱き、感じるようになっていったという事。

そうしてそれがきっかけで彼女に興味を持った行秋はその少女に話しかけ、彼女とそれなりに親しくなっていったという出来事。

 

彼女と関わる中で、彼女が持っていた璃月の伝統文化や伝統工芸品に関する多種多様な知識、また仙人や帝君の逸話や伝説に関する知識の数々、他にもその万文集舎にある全ての本の内容が頭に入っていると言わんばかりの知識量に行秋は彼女に対する評価をさらに大きく上げて、彼はいつしかそんな少女に尊敬の念を抱くようになっていった。

 

 

そうしてまた、彼女と関わっていた際に気づいた違和感や妙な感覚。それの正体が彼女の振る舞いと所作によるものであった事。当初の行秋は彼女は普通の一般庶民の人間かと思っていたが、彼女の歩き方や動き方が実はわざと崩した方法で動いていた事に気づいたという事。

 

行秋自身、自らの正体が飛雲商会の次男坊であるという事から振る舞いや所作に関する教育は受けている。彼自身は飛雲商会の会長の座を継ぐ立場ではないものの、それでも飛雲商会という大商会の会長一族の次男という立場からそれ相応以上の教育は受けており、それらが無意識レベルに染みついている。

だからこそ、彼女の振る舞いや所作の教育を受けていたが故に気づく事が出来た行秋は、すぐさま彼女がただの一般人や庶民ではないという事を看破した。

 

そしてそんな彼女の所作や仕草、行秋でもしっかりと観察しなければ完全に気づく事はできないある意味で高度で独特なその振る舞いと所作に感銘を受けるとともに、彼女の正体が自分と同じく大商会の人間、もしくはどこかしらの名家の人間であったり、また少なくとも璃月の上流層の人間であると彼は推測した。そしてそれら振る舞いや所作の点からでも、行秋は彼女に敬意を抱くようになっていったという話。

 

 

そうしてそんなとある日、彼女の正体が少なくとも璃月港在住の一般人や庶民ではなく、それ相応以上の身分の人間である事に気づいた後の日。

いつも通りに行秋と彼女が万文集舎で話をしていた際に、書店の階段で子供が転げ落ちるというトラブルが起きてしまったという出来事。

 

その瞬間、それに気づいた行秋はすぐさま助けようとしたが、彼女はそれよりも早く転げ落ちかける子供を抱きかかえて自らをクッション代わりにしてその子供を助けだしたのだ。

幸いにも彼女は子供を守るようにしっかりと抱きかかえながらも、それと同時にしっかりと受け身を取ってその子供を庇いながら転がり落ちる事に成功し、さらにはその際に多少足をひねった程度で済んだのあった。

 

行秋はこの出来事を通じて、彼女の持つ正義の心、義侠心というものをまざまざと見せつけられた。そしてその事でますます彼女に対する尊敬の念、経緯の念を強め、そうして彼女の事を大層気に入り、面白い人だと印象づけたという話。

 

 

そうして近いうちに彼女に自らの正体を教えたり、彼女の持つ様々な知識の中にあった妖魔関連の話から、彼女に自らの親友である“妖魔退治一族の方士少年”を紹介してみるのも面白いかもしれないと思い立っていた行秋は、その日いつも通り万文集舎を訪れた。

だがその時に彼女の姿が見当たらず、書店の店長に彼女についてを訪ねたところ、彼女が先日に私事でこの書店をやめてしまったという話を聞かされ、彼は驚きを隠せなかったと同時に非常に残念に思ったという話。

 

 

そしてその後日、どうしても彼女の事が諦めきれなかった行秋は友人にその人物に関して聞き出してみたり、自らの身分や立場を利用して手が空いていた飛雲商会の者達に彼女に関する情報収集をお願いしてみたりした結果、友人から聞き出して分かった情報と飛雲商会の者達が情報集を行って集まった情報から、最終的な結論としてあの者はおそらく璃月七星の玉衡本人の可能性が高く、あの時の彼女はお忍びで玉京台から緋雲の丘まで降りてきて書店で働いていたのであろうという事。そうして彼女がわざわざ緋雲の丘まで降りてきて、そこで働いていた理由というのはおそらく、彼女本人による璃月港の庶民や一般人の暮らしや璃月港の商い、そして璃月港の実情などを知る為だったのであろうという事が分かった。

 

そうして判明したこれらの事から行秋は大層驚いて感銘を受け、そして今現在も引き続き彼女は身分を偽って緋雲の丘等に降りてきており、どこかで彼女は璃月港の実情を知るために璃月港の庶民や一般商人達と共に働いているという結論に至り、その結論を受けた行秋はいつか必ず再開するであろう彼女との再会を心待ちにしながら、再び彼女と巡り合ったその日に自らの正体を明かして彼女と友達になろうと心に誓ったという話。

 

 

 

「___」

 

嘉明のエピソード。

 

 

璃月港のとある日。嘉明が護送の為にいつも通り璃月港の船着き場の荷置き場を訪ねた際に見かけた、その場所で荷役作業をしていた新人と思われる印象的な一人の少女の話。

 

その現場というのはそれなりに重労働で大変な場所、また海風の強い船着き場のすぐ傍と言う事もあり、それなり程度には過酷な環境であり、仕事もそこそこに大変であった。

だがそんな場所にて彼女は周囲の男達に負けないほどテキパキと働いており、正確にそして素早く荷物の積み下ろし作業を行っていた。彼女は女性という事も相まって体力や力というのは男性よりも劣るもののただ想像以上に呑み込みが早く、彼女自身の物覚えも非常によかった。そのため力仕事は彼女一人に任せられないが力をそこまで必要としない繊細な作業であれば彼女一人でも十分であった。

 

そしてそんな彼女に対して遠目で彼女を見ていた嘉明や、その現場で働いていた彼女の同僚である男達は皆、彼女のその働きっぷりや仕事ぶり、また彼女の熱心さに対して非常に感心していた。そうしてまたそんな彼女に刺激されたのか、一部の者達はやる気や士気が上がっていたため、その現場の雰囲気が以前よりも活発的になっているという印象を嘉明は受けたという話。

 

 

そうしてそんな日々を送っていたとある日。

 

嘉明が璃月港から遺瓏埠までの積み荷を護送する仕事、いつも通り璃月港の船着き場へと向かうために埠頭へと通ずる道を通って荷置き場へと赴くと、そこに彼の事を待っていたかのよう荷車の隣に立っていた印象的な少女。その日の嘉明の護衛対象という出来事。

 

当初の嘉明というのはまさか、その護衛対象と言うのがずっと気になっていた印象的な少女であったため、嘉明は驚きを隠せなかったが、それと同時に嬉しくも思った。

 

 

そしてその荷車に積まれた積み荷、積まれていた物は比較的軽い物であったため普段より重くはない代物であったが、それでも女性である彼女にとっては重たそうな荷車であった。

その為、嘉明は彼女の事を気遣ってその荷車を引っ張ろうかと考えていたが、彼女は既に重たい荷車の効率の良い動かし方、引っ張る時の身体の前傾姿勢の角度、力の入れ方、また重心の置き方や重心の移動の仕方、そして荷車を引っ張る際の呼吸法等の全てを熟知していたようで、彼女が体力を極力使わずにそれでいて効率良く荷車を引っ張る姿を見て嘉明は感心した。

 

 

そうして璃月港の荷置き場から目的地の遺瓏埠の荷置き場までの道のりと言うのも、とても印象的であった。

 

それは彼女との会話。どうして少女はこんな力仕事を行っているのか、それは社会勉強の為だから。璃月港で暮らしているのか、また家族と共に暮らしているのか、璃月港に住んでいる、またある意味一人暮らしに近い暮らしをしている。といったような事を嘉明は彼女に尋ねながら道を行った事。

 

また少女からも嘉明に対して、璃月港の外はどうなっているのか、璃月港から遺瓏埠までの道のりに危ない場所や危険そうな場所はないのか、逆に璃沙郊方面の道は実際どうなのか、そうして璃月と各国との国境地帯との街道や道路の状況、また治安の実情はどうなのかといった事を彼女は嘉明に対して尋ね、嘉明が少女のそれらに関して真剣に答えつつも、それはそれで印象付けられたという話。

 

そうして道行く半ばで日常的に立ち塞がる魔物のヒルチャール達や、宝盗団を始めとする悪党達。

当初の嘉明は少女が彼らと遭遇するのは初めてであり、そうして初めてが故にパニック等を起こしてしまうのではと懸念していたが、それは杞憂であった。その時の彼女はまるで慣れていたかのように冷静さを失わず、そして時には嘉明より先に伏兵の存在や待ち伏せの罠に気づき、それを回避して見せて嘉明を驚かせ、そうして時には嘉明が大勢の魔物や悪党達と応戦している最中で嘉明が取り逃したそれらを彼女は、彼女自らの“雲来剣法”を以って迎撃、撃退せしめて見せたりもして、嘉明は驚愕したという話。

 

そしてまた、璃月港の大通り、璃月港から遺瓏埠までの道中、そして遺瓏埠の街中。至る所で見かけた千岩軍の兵士達は大半が彼女の顔を見て思わず凝視してしまったり、またどういうわけか誤って彼女に敬礼をしてしまったりと、嘉明は何度もそれらを目の当たりにしていた。

 

彼ら曰く、遠くから見た彼女の姿が俺達の隊長の上に当たる人であったり、彼女の雰囲気から自分達を総括している人達の内の一人である“あの人”と誤認したとの事。千岩軍の兵士達のそのような言い分や言い訳に嘉明は驚愕し、困り切ったかのような笑みを浮かべていた彼女に対して、目の前の彼女はほぼ確実に只者ではない人物で間違いないと心の中で確信したという話。

 

 

そしてそんな濃厚すぎる仕事を終え、いつか彼が気になった少女の正体、好奇心からもっと彼女に近づき、彼女が嫌がりさえしなければその少女の正体は何者なのかと問いただそうと考えた事。

そうしてそのような決意を行って嘉明が暫くの間、遺瓏埠や遺瓏埠周辺の護送の仕事を一週間程度こなした上で璃月港に戻ってきたその日。

 

その日、彼女と出会った船着き場の荷置き場に辿り着いた彼は、彼女が家庭等の事情で仕事を辞めていたという話を聞いて驚き動揺し、そして非常に残念な思いでいっぱいであったという話。

 

 

そしてその後日、彼がいつも通り仕事をしていく時にとある事に気づいたという出来事。

 

それは以前から嘉明が問題と感じていた璃月港と遺瓏埠を結んでいた街道や交通路の治安、並びに一部の道がほとんどの手入れがなされていなかったが故の荒れ具合が、いきなり改善されていたという事。千岩軍の巡回の回数や巡回ルートがより適切になった事により街道に出没する魔物や宝盗団が減少し、また一部荒れていた交通路が修繕されたことにより、例えば地面の窪みに荷車の車輪が嵌まって立ち往生してしまうというトラブルが格段に減少したという事。

 

これら出来事に嘉明は大いに驚き、また彼が彼女が仕事を辞めていたという話を聞いた数週間後の“とある出来事”、彼の知り合いである“飛雲商会の次男坊”が彼に‘面白そうな少女’についてを尋ねられて、そのまま嘉明が彼と情報共有を行った結果、彼女の真の正体に勘づいて驚愕したという事。

 

そしてそれらの出来事により、“飛雲商会の次男坊”に触発される形でいつかどこかで彼女ともう一度会話して彼女の事を知り、そうして彼女と友達になりたいと強く思ったという話。

 

 

 

「___」

 

そして鍾離のエピソード。

 

 

それは刻晴の叔父を火葬した日、彼女に対する良い噂話と悪い噂話を耳にしていた日々、そうして“反刻晴派”の存在を知ってしまった日、刻晴が胡桃と鍾離との約束を果たして万民堂で直々に料理を振舞う事で奢る事となった日、そしてその当日で鍾離の配慮不足により誤って反刻晴派の話を刻晴本人にしてしまった日、そして今日に至るまでの日々、そうして今この瞬間を迎えるまでの話。

 

 

鍾離は語る。

 

刻晴の原点、原動力。それは『“叔父様”みたいな“立派な人”になりたい』という願いについて。

 

この国が好きだからという思いについて。

 

そうしてまた『この璃月、帝君や仙人達、そうして数多くの人々の思いを受け止めながら成長してきた璃月というこの国が好き、この国家が本当に大好きなんです』とか、『璃月の数千年の歴史。その歴史の中で多くの苦難や災難、そして喜びがあって、璃月という国は今日に至るまでの成長と発展を遂げてきた。そしてその璃月を、もっと誇りのある国にしていきたい、胸を張って誇れる国にしたい…。この長い歴史を紡いできた璃月という国家をもっとより良い国にしていきたい』という言葉について。

 

 

そうして鍾離は語った。

 

先の刻晴の叔父を火葬した日から今この瞬間を迎えるまでの話を絡めた上でこの言葉から鍾離が感じ取った刻晴の思いや感情。

 

それは彼女に影を落とすかのようなもどかしい悔しさと身もだえするかのような苦悩、そしてそんな状況下の決して諦めないという決意と覚悟。

 

そうしてそれらの根本にあったのがどこまでも真っすぐで純粋な思いと願い。

 

 

それは璃月を発展させてきた者達への憧れと誇り。そして彼らが発展させた璃月を自分や自分達が受け継ぎ、自分や自分達の手でこの誇りある璃月を前へと推し進めて黄金の未来へと紡いでいきたいという、そんな願いと決意という話。

 

 

 

 

 

「_ほぉ、凄い…!!」

「_おぉ、流石だ…!!」

「_成程…」

「_そう言う経緯だったのか…」

「_それは、辛いだろうな…」

「_それは悲しいだろうな…」

「_刻晴様…!!」

「_玉衡様…!!」

 

胡桃に続き、香菱、雲菫、行秋、嘉明、そして鍾離のエピソードを聞いていた労働者達である大男達はそれぞれ、興奮、興味、同情、そして感銘。彼らの刻晴に対するエピソードに様々な感情を見せ、そうしてその彼らの刻晴のエピソードに対して思い思いに感想を述べる。

 

 

「_おぉ…!!」

「_そうなのか…!!」

「_そう言う事か…」

「_そのような事が…」

「_それは…」

「_そのような経験を…」

「_ほぉ…!!」

「_流石だ…!!」

 

そうして労働者達である大男達と同じように、彼らの刻晴とのエピソードの話を聞いていた千岩軍の兵士達も、労働者の大男達と同じように様々な感情を見せては、それぞれの感想を述べる。

 

 

「_そ、そうだったのか…」

「_そのような事が…」

「_俺達はそのような方を…」

「_刻晴…、様……」

 

そしてまた、彼らの刻晴とのエピソードを聞いていた反刻晴派の者達までも、彼らの話を聞いて自分達が知らなかった彼女の裏の事情、そして彼女の思いを知った事で様々な感情を見せながら感想を述べ、そうして各々が自分達が彼女にしてしまった事に対する後悔や、それに対する罪悪感に、彼らはその顔を曇らせていく。

 

 

「___ふっ」

 

そうして刻晴とのエピソードを語り終えた鍾離は壇上代わりの止めた荷車の木箱の上から地面に降りる。

 

「お疲れ様、鍾離さん」

 

「あぁ、ありがとう。胡桃殿」

 

「うん。それじゃあ、行ってくるよ」

 

「あぁ」

 

そして地面に降り立った鍾離に対して胡桃がねぎらいの言葉をかけると、そのまま今度は胡桃が壇上代わりの荷車の木箱の上に登る。

 

 

 

 

 

「………」

 

木箱の上に立った胡桃は黙って港湾区の労働者達の大男達、また千岩軍の兵士達、そうして地面に座り込んでいる反刻晴派の者達やその協力者達の様子を確認するように一人見渡す。

 

 

「_今までの話…。これらは……」

「_あぁ、そうだな…。不自然な所は特に……」

「_あぁ。特におかしな点は無かったぞ…」

「_そうだな。それに変な点も見当たらなかった…」

「_もしかすると、本当に彼らは…?」

「_いや、もう疑うまでもないんじゃないか…?」

「_そうだな、それにこれらの話。その場で適当に考えながら話した作り話とは思えんよ」

「_あぁ、そうだ。それに話している時も不自然に話が途切れたり、話の辻褄が合わなくなるような事も無かった」

 

港湾区の労働者達である大男達はそれぞれそう言い合いながら、改めて目の前にいる胡桃達を見て確証を得られたかのように頷いていた。

 

 

「_なぁ…、今までの話ってよぉ……」

「_あぁ、そうだろうな。間違いない…」

「_正直、あの御方の友人だとは完全に信じてはいなかったが…」

「_俺もだ。だが…」

「_あぁ、間違いない…」

「_彼らは本物だ…」

「_本物の刻晴様の友人達だ…」

「_そうだ。本物の玉衡様のご友人達だ…」

 

そうして彼らのエピソードの話を聞いていた千岩軍の兵士達は、各々がひそひそとそのように言い合う。

 

 

「_やはり、彼らは…」

「_彼らと彼女達は…」

「_彼らの正体と言うのは本当に…」

「_信じられないが、だが…」

 

そうしてまた、千岩軍の兵士達の後ろの地面にへたり込んでいた反刻晴派の者達やその協力者達までもが、皆それぞれそう言いながら各々が彼らの正体に対して確信を得たかのようにお互いに頷きあっていた。

 

 

 

「___ふふっ」

 

そしてこの場にいる労働者の大男達や千岩軍の兵士達、そしてまた反刻晴派の者達やその協力者達の様子を一通り確認した胡桃は不敵な笑みを浮かべる。

 

ここにいる彼らのほとんどが完全に自分達が刻晴との友人で間違いないという確信を得たという事であり、そうしてそれは彼女達の事を確かに刻晴との本物の友人であると認めたという事と同義であったからだ。

 

 

 

「………」

 

そうして胡桃は改めて見下ろし、“説得すべき者達”の様子を見る。

 

 

「_こ、ここまでとは。こ、これは…」

「_っ。ま、まさか、本当に……」

 

そしてそんな胡桃の視線に対して、彼らは気まずそうな表情を見せながら、そう言葉を漏らす。

 

 

「_ねぇ。どう?私、そして私達が刻晴の友人である事、それを今この場で証明できたと思うけど。どうかな?私達の事、信じてもらえる?」

 

「っぅ」

「そ、それは…」

 

そんな彼らは胡桃のそんな言葉に対して、息を詰まらせる。彼らはお互いに視線を交わし合い、困り果てたかのような表情をして頷きあいながら、ただその言葉に対して押し黙る。

 

 

「………」

 

胡桃は無言のまま腕を組み、そうして真剣な表情を浮かべながら彼らの返答をただ静かに待つ。

 

 

「………」

「………」

 

その者達は重苦しい空気の中、なおも押し黙ったままお互いがお互いに視線を送り合っていた。

 

 

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

 

そしてその彼らの様子を香菱や雲菫、行秋と嘉明、そして鍾離達は静かに見守るかのようにして待機する。

 

 

「「「「「「「「………」」」」」」」」

「「「「「「「「………」」」」」」」」

 

そうして他の労働者の大男達と、この場にいる千岩軍の兵士達もその者達の様子を無言で見守っていた。

 

 

「「「「………」」」」

 

そうしてまた反刻晴派の者達やその協力者達までもが、この異様な静寂な中でただその様子を見守るかのようにしていた。

 

 

 

「………」

 

腕を組んだまま胡桃は堂々とした様子で彼らを見つめ、そしてしばらくの沈黙がこの場を完全に支配した。

 

 

 

そうして___。

 

 

 

 

 

「___あぁ!!もう分かったよ!!俺達が間違っていた!!」

 

___その重苦しい沈黙に耐えかねたかのようにして、胡桃の事達を否定していたグループの一人が大声でそう叫んだ。

 

 

 

「_俺達が悪かった!!申し訳ない!!」

「_あぁ!!お前達は本物の刻晴様のご友人だ!!」

「_すまなかった!!俺達が間違っていた……!!」

 

そうしてその一人がそのように叫んだことをきっかけに、他の者達も次々と胡桃達、そして刻晴と友人である事を認めた上で謝罪の言葉を叫んだ。

 

 

 

「_ふふっ、良かった。認めてもらえて…。それじゃあようやく、本題に移れるね?」

 

そして胡桃は、ただ不敵な笑みを浮かべてそう言った。

 

 

 

「___それじゃあ、さっそくだけど冷静に話を聞いて!!全てを説明するから!!」

 

そうして胡桃は改めて真剣な表情を浮かべながら、今度は落ち着いた声色でそう言った。

 

「そこにいる反刻晴派!!まず今の彼らは!!絶対に生きてもらわなければならないの!!そしてその理由というのは_」

 

胡桃はそこまで言うと、息継ぎをして、そして再び口を開く。

 

 

 

「___今、この璃月港で密かに進行している彼らの“璃月港転覆計画”を阻止するためなんだよ!!」

 

 

「_っ!?“璃月港転覆計画”!?」

「_は、はぁっ!?」

「_えっ!?なんだ!?それは!?」

「_り、“璃月港転覆計画”だと!?」

「_な、なんだ!?その計画は!?」

「_そんな計画が進行していたのか!?」

「_なんなんだ!!それは!?」

「_そ、そんな計画があったのか!?」

 

そして胡桃はそう叫ぶと、労働者の大男達は一斉に驚愕の声を上げ始める。

 

 

「_“璃月港転覆計画”、だと…!?」

「_なんなんだ、その計画は!?」

「_待て!!状況的に今の状況はその計画と関係があるって事なのか!?」

「_まさかこれは、その計画に基づいて引き起こされた事なのか!?」

 

そうして千岩軍の兵士達、この場の隊長や副官を除く一般の千岩軍の兵士達も、彼らはまるで何も知らされていなかったかのように一斉に驚愕し、そしてその計画と今の状況の関連性を察して一様に騒ぎだす。

 

「うん!!そうだよ!!そして今のその計画というのは最終段階の直前辺りまで進行していているはずなの!!そうして次の段階、最悪最終段階へと移行する引き金となるのは___」

 

胡桃はそこまで言うと、地面にへたり込んでいる反刻晴派の者達とその協力者達の方を指さす。

 

 

 

「___貴方達労働者が、あそこの反刻晴派の者達やその協力者達に懲罰を与える為、それを邪魔するここにいる千岩軍の兵士達に襲い掛かる事!!そして彼ら“先にいる者達”にとっての理想は、千岩軍の兵士達を振り切って用なしとなった反刻晴派の者達やその協力者達に危害を加え、そうして反刻晴派の者達が貴方達によって殺される事!!それが次の段階や最終段階への引き金になるの!!」

 

「_なんだと!?」

「_はぁ!?」

「_そ、そんな事が!?」

「_し、信じられん!!」

「_そ、それでは…!?」

「_仕組まれたって事なのか…!?」

「_俺達は利用されていた…!?」

「_こうなるように誘導されていたって事か…!?」

 

労働者の大男達や千岩軍の兵士達はそれぞれ、驚愕と動揺を隠せないといった様子でそう言葉を口にしていた。

 

 

「_へっ、俺達は殺されるように仕組まれていた…?」

「_おい、それって、俺達を…!?」

「_俺達は生贄にされていたって事か…!?」

「_その計画を次の段階に進める為に、俺達の命を利用していた…!?」

 

そして反刻晴派の者達や協力者達までもが、自分達まで利用されていたという事に気が付くと、呆然とした様子でそう呟いた。

 

 

 

「その通りだよ!!これから詳しく説明するから!!一から順番を追って説明していくから!!だから冷静になって話を聞いて!!まず___」

 

そうして胡桃は、自分達を刻晴の友人である事を認めた事で冷静さを取り戻してくれた港湾区の労働者達である大男達、彼らを止める為に彼らと対立していた千岩軍の兵士達、そしてその兵士達の後ろでへたり座り込んでいた反刻晴派の者達やその協力者達に、胡桃達が辿り着いた今の璃月港を巡る“真実”を詳しく説明し始めたのであった。

 

 

 

 

 




ようやくここまで来れた…。7幕の終わりも見え始めてきました……。
(今更ですが胡桃達のシーン、璃月キャラ6人もののキャラ達が同じ場所に同時に存在し、そうしてそれぞれがそれぞれの動きとその動きの結果や影響を考慮しながら描写するとなると、ここまでの負担になってしまうとは思いませんでした…。しかも直接的な描写はしていませんが璃月港の民衆の動きや璃月港に滞在している一般人達の動き、そうして千岩軍や七星八門等と言った職員達、反刻晴派の職員達や彼ら“先に居る者達”の動き等、彼らそれぞれの動きやそれぞれの状況の推移に気を付けながら描写しつつ、おまけに彼らや変動する璃月港の裏で煙緋や甘雨、そしてまだ姿は見せていませんが夜蘭や凝光、刻晴の動きをも気にしながら書かなければならないという想定以上の高負担…。ただもうここまで来たら、最後の最後まで書き上げたいとは思いますが)


なお今月に関しましては、お盆休みでそれなりの連休が確保できましたので投稿ペースもそれに併せて、それなり以上には向上していきそうです。
そのため今月中にこのまま第8幕と並行しながら、この第7幕を終わらせていければと思います。


それでは次回、いよいよ大詰め。
このまま一気に最終回の直前辺りまで、物語が進行して行ければと思います。



それではまた、次回の投稿まで今しばらくお待ちください。
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