名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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ようやく完成したので投稿。今回も中々大変でした…。(前回(約27,000字程度)よりも今回(約22,000字程度)は文字数は少なかったため多少負担は良くはなってはいるものの…。)

今回も7幕の続き。前回の胡桃が労働者である大男達を始めとする彼らに対し、胡桃達が辿り着いた今の璃月港を巡る“真実”を詳しく説明し始めて行ったところ、そうしてその説明が終わったところからのスタートからです。


_総員敬礼!!外部特別顧問検察官様!!

Side:胡桃

 

「___という事だよ!!」

 

雲菫や行秋、そして鍾離達が辿り着いた今の璃月港を巡る“真実”を語り終えた胡桃は、そう話を締め括る。

 

「………」

 

そうして彼女は彼らの様子を伺うように、辺りを見渡す。

 

 

 

「_し、信じられん…」

「_し、しかし…」

「_扇動に乗せられた、だと…?」

「_なぁ、信じられるか…?」

「_いや、とても…。だが、刻晴様のご友人達の話だ……」

「_正直、信じられん。だが、冷静になって考えるとこうなるまでにおかしな点もあった…」

「_不審人物。俺達の中に紛れ込んだ者達…」

「_紛れ込み、か…。いや、待て。この場合、見かけない顔…?初めて見かけた奴…?」

 

港湾区の労働者達である大男たちは胡桃の話にそれぞれ反応を見せながら、訝しげな様子であったり、考え込むような仕草を見せる。

 

 

「_そ、そのような事が…」

「_まさか裏でそのような事が…」

「_全ては仕組まれていた…」

「_そんな事が俺達の知らない水面下で…」

 

千岩軍の兵士達も同様に険しい表情を浮かべたり、動揺したりと様々な反応を見せていた。

 

 

「_そ、そんな。そんな事って…」

「_俺達反刻晴派は、既に…」

「_くそっ…!ならば、最初から……!!」

「_どのみち、俺達はもう…」

 

そしてまた反刻晴派の者達やその協力者達も、頼みの綱としていた“彼ら”に最初から見捨てられていた事。裏切られ利用され、そして今に至れば彼らの思惑によって命の危機にすら晒されていた事を知り、絶望した様子で頭を抱える。

 

 

 

「…ふぅ」

(まぁとりあえずは、悪くはないんじゃないかな…)

 

そうして語り終え、彼らの様子を黙って観察するかのように沈黙していた胡桃は、そんな事を考えながら両手を組んでいた。

 

だがしかし、彼女の顔には楽観的な笑みは一切浮かんでいなかった。

むしろどちらかといえば彼女は、険しい表情を浮かべていると言えるだろう。

 

「………」

 

目の前の彼らはとりあえずは冷静になって胡桃の話を聞いてくれた。そしてそのおかげで彼らは真実を知って納得はしてくれたようではあった。

 

 

だが話を理解して納得し、そうしてそれらの話全てを受け入れてくれるかどうかに関しては、また話が別なようだ。

 

 

「うーん…。うーん……」

「っ…。俺達は……」

「分かっている。分かってはいるが…」

「くそっ…。まさかこんな…。そんな……」

 

胡桃が見下ろしている港湾区の労働者達の男達は、各々そんな言葉を呟いては頭を抱えたり、落ち着きをなくして挙動不審になったり、はたまた呆然としていたりと様々な反応を見せていた。

 

どうやら彼らは納得はしてもらえたようだが、完全には認めきる事が出来ないといった様子だった。

 

 

「う~ん…」

 

胡桃は難しそうな表情を浮かべる。

 

 

彼女も彼らの事は十分に理解できる。

 

彼らの複雑すぎる心境、やり場のない数多の感情。

 

刻晴のためだと思って自らの意志で自分達が一斉に立ち上がったと思ったら、実は“彼ら”によってそうなるように仕組まれたことであった事。

 

 

全ては彼らのシナリオに従って反刻晴派の者達を追いかけまわすように誘導されていた。

そしてしまいには自分達が引き金となって、この璃月港が更に混乱の渦中に引き摺り込まれていき、そうしてこの璃月港が戦乱や戦火に見舞われていく。

 

そんな事態に陥るように仕向けられていたと言われ、そうしてそれらの説明に納得をしてしまったからだ。

 

 

無論、彼らの中にはいくらなんでもそんな事は認められず否定しようとする者もいた。

だが否定しようとすればするほど否定できる要因が全くない事に気づかされ、むしろその逆にそれが真実であるという証拠であるとも思えてしまうのだ。

 

そしてそれ故に彼らは完全に混沌とした感情の渦に飲み込まれ、そうして胡桃の話した“真実”を受け入れたくても受け入れきることができず、どうしようもない焦燥感に襲われては身悶えしかできないという、そんな状況に陥ってしまっていたのだ。

 

「うーん…。どうしたら……」

 

そんな彼らにどう声をかけたらいいのか分からず、胡桃はただただその混沌とした状況を観察する。

 

 

 

___そうしてその時であった。

 

 

 

 

 

 

 

「___おい!!そこをどけ!!」

 

その時、労働者達の中心辺りでそんな叫び声が上がった。

 

 

「っ!?」

 

突如上がったその叫び声に胡桃は驚き、そうしてそちらの方を見る。

 

声が上がったのは丁度労働者達の集団の真ん中辺り、先の胡桃達を否定していたグループとそうではないグループの境界辺りであった。

 

「今の声は…」

(彼、なのかな……)

 

胡桃は先程の一声の主が誰であるかを察する。

彼女の視線の先には混乱し困惑していた大男達とは違い、しっかりと強い意志を宿した目でこちらを見据えていた男の姿があったのだ。その男は睨みつける程ではないものの、それでも鋭い目つきでこちらを見つめていた。

 

 

「_あぁ?あ、あんたか」

「_うん?今のは、あいつか…」

「_あん?あぁ、お前か。分かった」

「_うぅん?あぁ。分かった、道を開ける」

 

その男の一声に労働者の大男達が彼の方に顔を向けて姿を確認すると、彼の指示に従うかのようにして彼の前方を塞いでいた者達が左右へと分かれ、そして道を開ける。

 

 

 

「_へぇ…」

(成程…)

 

そうして彼と彼らとのその一連の流れを見ていた胡桃は、ようやく目的の人物を見つけたと言わんばかりに満足げな笑みを浮かべながら頷く。

 

 

「_ふーん…」

「_成程…」

「_彼のようだね…」

「_ここの労働者達のリーダーのようだな…」

「_ふむ。彼が、か…」

 

そうして今の出来事に香菱や雲菫、行秋や嘉明に鍾離達はそれぞれそう反応を示す。

 

 

 

 

「___おい、確かお前は往生堂の胡桃、刻晴様の友人である胡桃であっていたか?」

 

そしてその男は胡桃の前まで立つと、その鋭い目つきで胡桃を睨みつけるかのようにしてそう尋ねた。

 

「うん。そうだよ。私は胡桃。そう言う貴方はここの労働者達のリーダーと考えていいんだよね?」

 

胡桃はその目をしっかりと見つめ返しながら、そう問い返す。

 

「あぁ、間違いない。まぁ完全になし崩しではあったが、実質俺がここの者達をまとめている者という事になる」

 

「そっか。じゃあ、それで?私に何か言いたい事でもあるのかな」

 

そう言って胡桃は彼に微笑みかける。

 

「あぁ、あるとも…。俺はあんた達の話を聞いて、あんた達の胡桃達が刻晴様のご友人である事に疑いはない。あんた達は正真正銘の刻晴様の友人で間違いないと、そう確信している」

 

「うん。そう言ってくれると、嬉しいよ」

 

胡桃はそう答えると、再び彼に微笑みかける。

 

「あぁ。だがその話、あんたが話してくれたその“真実”を今の俺達、今の俺はどうしても受け入れられない。だから改めて問おう。その話、それらは全て真実であると、そう言いきれるのか?」

 

そう言って彼は再度、胡桃の事をその鋭い目つきで睨みつける。

 

「うん、これは私達が辿り着いた真実。決して間違いや誤りなんかはない。そう断言できるよ」

 

そうして胡桃も彼に真剣な、そして鋭い目つきで見つめ返しながらそう答える。

 

「………」

 

その胡桃の言葉に彼は深く考え込むように、僅かに顔を俯かせる。

 

「ふむ…。そうか……。そうであるならば……」

 

彼は何か逡巡するかのように俯いたまま、ぶつぶつとそんな事を呟く。

 

 

「_よし、良いだろう。胡桃、少なくともあんた達は嘘をついていない。それは認めよう。だがその真実が本物なのか、本当の事なのかは証明できていない。だからこそ、俺は俺なりのやり方でそれらを確かめてやる」

 

そして彼は何かを決めたかのようにして、そう答えた。

 

 

 

 

 

「___おい!!千岩軍!!」

 

その次の瞬間、彼は千岩軍の兵士達に向かってそう叫ぶ。

 

 

「_な、なんだ!?」

「_ど、どうした!?」

「_な、何の用だ!?」

「_何用だ!?」

 

突如、彼が叫んだその言葉に千岩軍の兵士達は驚いたかのようにして、その彼に視線を向ける。

 

 

 

「お前ら千岩軍!!ここにいるお前らの中で一番偉い奴は誰だ!?俺の前に出てこい!!」

 

彼は千岩軍の兵士達に視線を向けながら、そう叫ぶ。

 

「一番、偉い者?」

「俺達の中で一番偉い人となると…」

「一番偉い奴か?それだと…」

「この場合、俺達小隊達を統括している中隊のあの人になるよな…」

 

その男のその言葉に千岩軍の兵士達はお互いに顔を見合わせ、そして頷き合っては一斉にとある人物へと視線を向ける。

 

 

「_中隊長殿」

「_あぁ、行こう。彼の元へ」

 

彼らの視線の先には胡桃が労働者の大男達を説得する前に香菱と雲菫が胡桃と鍾離の元へと連れて行こうとした二人。

そして危うく胡桃を人質にしようとした反刻晴派の者を取り押さえたこの場に居た千岩軍の兵士達を取り纏めていた中隊の隊長とその副官である男の姿があり、彼らはお互いに頷きあいながら、彼の元に近づく。

 

 

「_お前がこの千岩軍の一番偉い奴。ここの千岩軍の兵士達の責任者という事で間違いないな?」

 

「_あぁ、その通りだ。俺がここの千岩軍、この中隊を統括し指揮している者である中隊長だ」

 

そうして彼ら労働者の大男達を取り纏めていたリーダーと、この千岩軍の兵士達を統括していた中隊の中隊長がお互いに向かい合う形で対峙する。

 

「………」

「………」

 

そしてその様子を中隊長の副官の男と胡桃は固唾を飲みながら、見つめていた。

 

「それで?俺に何の用なのだ?」

 

「あぁ、俺はここの千岩軍達を纏めているあんたに確認したい事があるんだ」

 

「確認したい事?それは何だ?俺に答えられることであるならば、何でも答えてやろう」

 

そうして大男達のリーダーである彼は自身の前に立つ中隊の中隊長に尋ねる。

 

 

「_あぁ、俺があんたに確認したい事。それはさっき胡桃が話してくれた“璃月港転覆計画”、それを裏付けるような話を千岩軍の間で出回っていないのかを知りたいという事だ。そしてあるならあるで、それを包み隠さずそれら全て、正直に話してもらいたいという事だ」

 

「_な、なに?」

 

リーダーの彼のその言葉に中隊の中隊長は驚いたように僅かに目を見開かせる。

 

「全てを、か…?」

 

「あぁ、そうだ。全てをだ。無論、話してはならない事柄もあるという事は重々承知してはいる。だがそれでも敢えて、その全てを俺や俺達は知りたいんだ」

 

「全てを知りたい、か…」

 

「あぁ、そうだ。そうしてそれら裏付けるような話、それらが俺達を完全に納得させるに足りるものであるとしたら、俺達はそこの反刻晴派やその協力者達をお前達千岩軍に完全に譲ってやってもいいと思っている…。_」

 

リーダーの男は中隊長にそこまで言うと後ろを振り向く。

 

 

 

 

 

「___そうだろう!?皆!!」

 

そうして後ろを振り向いたリーダーの男は、自分に付き従ってきていた港湾区の労働者の大男達に対してそう叫ぶ。

 

 

「_あぁ!!その通りだ!!」

「_勿論だ!!異論はない!!」

「_胡桃のその話の裏付けが取れたならばな!!」

「_全てはあんた、中隊長次第だ!!」

 

リーダーの彼の叫びに港湾区の労働者の大男達は次々とそう叫ぶ。

 

 

「うむ、全てか…」

 

中隊長は難しそうな表情を浮かべて考え込む。

 

「全て、か…」

 

「………」

(やっぱり、難しいのかな…?)

 

そうして中隊長の副官の男も難しそうな表情を浮かべながらそのように呟き、そして中隊長と副官のその反応に胡桃は少しだけ不安そうな表情を浮かべる。

 

 

やはり話せない事もあるのだろうか。

 

 

今のそれ、今のギリギリな状況下で労働者達の大男達のリーダーの男が条件付きではあるが譲歩してきたという、胡桃達にとっても千岩軍の兵士達にとっても、願ってもない最後で最大なチャンスとも言えるような機会だ。

 

 

だがその機会をみすみす逃してしまうかもしれないという、そんな不安が胡桃の頭の中をよぎる。

 

 

「…やはり、答えられないのか?」

 

「そ、それは…」

 

労働者のリーダーである男は中隊長のその反応に、怒気を孕んだ声、そして残念そうな表情でそう尋ねる。そうしてリーダーである彼のそれに対して、中隊長は答えあぐねているかのように戸惑いの表情を浮かべていた。

 

 

 

 

「___いや…!!全てはこの状況を終わらせるため…!!そして玉衡様である彼女の為だ…!!」

 

そして戸惑い、悩めていた中隊長であったが、やがて彼は意を決したかのようにしてそう叫ぶ。

 

 

「_ま、まさか!?全てを俺達に教えてくれるのか!?」

「_っ!?えっ!?えぇっ!?本当に!?」

 

労働者のリーダー、また胡桃は中隊長が決断した内容を察し、心底驚いたような反応を示す。

 

 

「_おい、嘘だろ!?本気で言ってるのか!?」

「_彼らに教えるのか!?機密事項までをもか!?」

「_それって、俺らすらも知られてない事を教えるってことだよな!?」

「_それは後で大きな問題にならないか!?下手すれば軍法会議とかにもならないか!?」

 

そして中隊長の言葉に、彼の配下にあった千岩軍の兵士達が一斉にどよめく。

 

 

「___待ってください!!中隊長!!駄目です!!それは駄目です!!」

 

そうしてまた、その決断内容を察した中隊長の副官の男は焦ったかのような表情で、慌てた様子で中隊長に向かって叫びながら駆け寄る。

 

 

「_黙れぇ!!全責任は俺が背負う!!」

 

「_っぅ!!」

 

中隊長は駆け寄る副官の男に怒鳴り、怒鳴られた副官は怯んだかのようにしてその足を止める。

 

 

「確かに機密事項を、一般の兵士達には知らされていない、隊長達にしか知らされていない情報、そういった機密事項を彼らに教えてしまえば俺は最悪投獄される事にもなりかねないだろう!!だがしかしだ!!璃月港で起きた事態の大きさや情勢の深刻さを見誤ってはならん!!」

 

中隊長はそこまで言うと一瞬だけ胡桃や鍾離達の方に視線を向け、そうしてすぐに副官の方に視線を戻す。

 

 

「それに彼女達!!胡桃さん達や鍾離さん達のおかげで掴めたこの場のここの千岩軍の代表である俺と港湾区の労働者達のリーダーである彼とのこうした対話や交渉の機会、それを無駄にしてしまう事だけは絶対に避けねばならん!!」

 

「し、しかし…」

 

副官の男は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべて、そう呟く。

 

 

 

 

「…もう一度言おう。全責任は俺が背負う。投獄されることになっても俺は一向に構わん。それよりかは璃月港で発生しているこの混乱を鎮める事が最優先事項だ。その為ならば、自分自身の身などどうなっても構わん」

 

 

「そ、そうですか…。はぁ……」

 

そして躊躇う副官の男に、中隊長は改めて覚悟の意を示す。

 

 

 

 

「_分かりました。そこまで仰るのであれば私は止めません。そしてもしその時が来ましたら、私は全力で中隊長殿を弁護させて頂きます」

 

そうして躊躇っていた副官の男は中隊長の覚悟に折れ、そうして彼のそんな覚悟の言葉に意を決したのか、口を開く。

 

「_あぁ、ありがとう…」

 

中隊長はそう言って敬礼する副官の男に向かって、同じく敬礼を返す。

 

 

 

「中隊長。そ、そんな。そうするしか…」

「なぁ、もし本当にそうだったら…」

「あぁ、分かってる。投獄されるところを黙って見過ごす訳にはいかない…」

「あぁ、そうだな。俺等が止めないとな。あの人と一緒に弁護してやろう」

 

そうして中隊長の覚悟を目の当たりにした千岩軍の兵士達は、ひそひそとそんな会話を交わしながら、彼らも彼らで覚悟を決めたかのようにして頷く。

 

「千岩軍にはあんな男がいたんだな…」

「あぁ、本当にだ。正直、見くびってた。あんな男もいたとはな…」

「なぁ、俺達もよぉ…。もしもその時が来たら……」

「あぁ、そう思っていた。その時が来たら手伝おう。恩を仇で返すわけには行かないからな」

「そうだな。その時は俺達も手伝おう…。あいつら兵士達と共に、あの中隊長を弁護してやろう」

「あぁ、そうだな。そうしよう。絶対に。あの男は絶対に助けるぞ。守り抜いてやる」

 

そして労働者達の大男達もまた中隊長の覚悟を目の当たりにし、そうして彼に感銘を受けたかのようにしながら、それぞれそう誓い合う。

 

 

「_ねぇ。万が一に備えて、この事は必ず刻晴に伝えないといけないよね」

「_そうですね。彼はわざわざ投獄されるリスクを背負ってくれたのですから」

「_うん、そうだね。それに彼女の権力であれば、彼を助け出す事もできるかもしれない」

「_あぁ、そうだぜ。自分の身を顧みずにそこまでしてくれたんだ。絶対に助け出さないとな」

「_その通りだな。香菱殿に雲菫殿、行秋殿に嘉明殿。この出来事は必ず刻晴殿に伝えよう。そして中隊長殿が投獄されるのを防がなければ」

 

そうして香菱や雲菫、行秋や嘉明に鍾離達は決心を固めるかのようにして頷き合う。

 

 

「_ありがとう、本当に…」

 

そしてまた、胡桃もまた、静かに彼に向かってそう呟く。

 

 

 

「_本当にありがとう。まさかあんたがそこまで言ってくれるなんて思ってもみなかった……」

 

そして労働者達のリーダーである男は感服しきったかのような、そんな様子で改めてそうお礼を言った。

 

「あぁ、気にするな。それにさっきも言ったが、この璃月港で発生しているこの混乱を鎮める事が最優先だからな。それを止められるならば、今はそれが最善だと考えたまでだ…。ただ、俺からも一つ良いか?」

 

「あぁ、なんだ?」

 

中隊長のその言葉に労働者達の大男達のリーダーは応じる。

 

「一つ、了承してほしい事がある。俺は先程胡桃が話してくれたそれらを裏付ける話、全ては持ち合わせていない。だから俺はお前を満足させることができないと思う」

 

「なに?どういうことだ?」

 

「あぁ、俺はあくまでも中隊長。一応は胡桃の話の大半を裏付ける話は知ってはいるがそれら全てをなると、やはり最低でも大隊長クラスの人間でないと分からない。俺は中隊長同士の会議である中隊長会議や、それに同じ大隊に所属している小隊長クラスの者達を交えた中小連隊会議に参加し、そこで反刻晴派の話や胡桃のその話、璃月港転覆計画と関連してそうな話を知ったんだ。だから胡桃の話の大半を裏付ける話を持ち合わせているとは言ったんだ」

 

「あぁ、成る程。だからあんたはそう言ったのか」

 

「そうだ。だがしかしだ。それと同時に胡桃のその話の中には、俺が初耳な話も多数あったんだ。その中でも特に『反刻晴派は何者かに操られている可能性が高い』といった話、胡桃の話が正しければ『“先に居る者達”と呼ばれる者達が反刻晴派を裏から操っている可能性が非常に高い』という話というのは、本当に初耳だったんだ」

 

「ほぉ、そうだったのか…」

 

中隊長の話にリーダーの男は真剣な様子で考え込む。

 

「へぇ、そうだったんだね…」

 

そして中隊長の話を聞いていた胡桃も驚いたかのようにして、そう呟く。

 

 

 

「_つまりあんたの大隊長に会って話を聞かなければ、確認のしようがないという事、か…」

 

そして労働者の大男達のリーダーである男は、顎に手を当てながらそう呟く。

 

「あぁ、残念ながらな。俺の大隊長や他の大隊長達、つまりは璃月港や遺瓏埠といった璃月の都市の警備や治安維持、防衛等を担当している責任者達。それに加えて碧水管区や瓊璣野管区、璃沙郊管区と言った各地域の軍管区を統制しているそれぞれの担当者達、そして時には七星本人達も一同に集まって行われている大隊長会議に参加している者でなければ、胡桃が話してくれたその話を十分に裏付ける事はできないという事なんだ」

 

「そう言う事だったのか…」

 

中隊長の説明に納得したかのようにリーダーの男は頷きながらそう呟く。

 

「あぁ、そういう事だ。だから胡桃の話を裏付けるには俺だけじゃ力不足だ。最低でも大隊長、理想は七星本人、それか大隊長会議に天権本人と共に参加していた『天権の‘民間協力者’で‘外部特別顧問検察官’である“彼女”』がこの場にいなければ、それが出来ないんだ」

 

「ふむ、成る程…」

 

そうして中隊長のその言葉にリーダーは腕を組んで考え込みながら顔を俯かせる。

 

 

 

「_あぁ、分かった。あんた達の事情もしっかりと理解した。それならばまずは、俺にあんたが知りうる限りの事、中隊長が知っている限りの事を全て教えてくれ」

 

そしてリーダーの男はそう結論を出すと、顔を上げて中隊長に向かってそう言った。

 

「あぁ、それくらいならお安い御用だ」

 

「そうか、感謝する」

 

中隊長は了承するかのように彼に頷きながらそう答え、そんな中隊長の言葉にリーダーの男の彼も感謝の言葉を述べると、改めて中隊長の方に向き直った。

 

 

 

「_それでは早速だが、あんた達が知っている事を教えてくれ」

 

「あぁ、勿論だ。まず___」

 

そうして労働者達のリーダーにそう促された中隊長は、彼に知っている事を話し始める。

 

 

 

「_成程、そんな事が…」

「_そのような話が…」

「_ほぉ、つまりそれはそれに繋がるという事…」

「_成程な…。ふむ、成る程…」

 

そして中隊長の説明を聞く労働者達の大男達はそれぞれ興味深そうに、あるいは納得したかのようにして頷く。

 

「_そ、そのような話が…」

「_俺達の知らない所でそのような事が…」

「_確かに中隊長のその話は関連がありそうだな…」

「_成程。そう繋がってくるわけか…」

 

そうしてまた中隊長のその話を聞く千岩軍の兵士達もそれぞれがとても興味深そうに、あるいは納得したかのようにして頷きながらその話を耳に入れていく。

 

 

 

「___ふ~ん?」

(そんな話が千岩軍の間で流れていたんだ…)

 

そうして胡桃も彼の話を聞きながら、腕を組んで考え込む。

 

 

「_へぇ…」

「_成程…」

「_そうだったんだ…」

「_それは…」

「_ふむ…」

 

そしてまた、香菱や雲菫、行秋や嘉明に鍾離達もまた、千岩軍の兵士達と同じようにしてその話を耳に入れていた。

 

 

 

 

「___というのが、俺が知っている全てだ…」

 

そうして千岩軍の中隊長が労働者達のリーダーへの説明を終えて、その説明を終えた彼は一仕事終えたかのように息を吐く。

 

 

「_成程、そんな話があんたの所属している大隊の間で話されていたんだな…」

 

そして中隊長のその説明を聞いたリーダーの男は納得がいったかのようにして頷く。

 

「あぁ、そうだ。どうだ?今の話で胡桃が話してくれた話の裏付けは取れたか?」

 

「あぁ、そうだな…。いや、やっぱり不十分だ」

 

「だろうな。そんな気がしていた」

 

リーダーの男のその答えに、中隊長は困ったような笑みを浮かべながらそう答える。

 

「…やっぱりあんたの言う通り、俺は最低でも大隊長クラスに直接会って話を聞かなければ納得できないな」

 

「まぁ、そうなるだろうな。はぁ…」

 

中隊長はリーダーの男の言葉に深くため息をついた。

 

 

「_だが、しかしだ」

 

「うん?」

 

労働者達のリーダーは、そんな中隊長にそう声をかける。

 

「あんたは俺達に機密情報でもあったそれらを教える為に、自分が投獄される危険性やリスクを承知の上で千岩軍のそれら規則を破り、そうして俺達にあんたが知りうる限りの全てを教えてくれた。だから、あんたからは十分以上の誠意を感じたよ」

 

「そうか。それは良かった…」

 

リーダーの言葉に中隊長は少し安堵したかのようにしてそう答える。

 

「あぁ。だから俺もあんたに、せめてもの誠意を見せようと思う」

 

「誠意だと?」

 

中隊長はリーダーのその言葉に少しだけ目を丸くしながらそう尋ねる。

 

「あぁ、そうだ」

 

それに対してリーダーの男ははっきりと頷く。

 

 

「_俺や俺達はまだ納得してはいないが、あんた中隊長が俺達の為にしてくれたことを考えたら、何もしないわけにはいかなくなったからな。俺はあそこにいる反刻晴派とその協力者について、あんた達千岩軍に幾分か譲歩してやろうと思う」

 

 

「_譲歩…だと?」

 

そうして中隊長はリーダーの男のその言葉に目を見開かせる。まるで今言われたことが信じられないとでも言わんばかりに。

 

「なに?」

「譲歩だと?」

「本当か?」

「本気で言ってるのか?」

 

リーダーの男のその発言に千岩軍の兵士達はざわつく。

 

「あぁ、本当だ。___」

 

それに対してリーダーの男は断言するかのようにして頷きながら、続きの言葉を紡ぐ。

 

 

「_まず今までと変わらず、あそこの反刻晴派とその協力者達の身柄を千岩軍のあんた達が連行する事は認めん。そこまでは良いか?」

 

「問題ない、良いだろう。それで?」

 

「あぁ、そして俺達からもそこにいる反刻晴派やその協力者達の身柄を引き渡しを要求するなんて事はやめよう。俺達へ彼らの身柄を引き渡さなくていい。その代わり、あんた達千岩軍の兵士達と共にそこの反刻晴派や協力者達が逃げ出したり、変な事をさせないように俺達と千岩軍達との共同監視とさせてくれ」

 

「共同監視だと?」

 

中隊長は意外そうに目を丸くしながら、そう尋ねる。

 

「あぁ、そうだ」

 

それに対してリーダーの男ははっきりと頷いて答える。

 

「とりあえず反刻晴派の件に関しては棚上げ、彼らをここに留めるという形でこの件は一度保留としよう。そうして胡桃が俺達に語ってくれた璃月港転覆計画について、これを早急に白黒はっきりさせたいと思う。_」

 

リーダーはそこまで言うとチラッと一瞬だけ、胡桃や鍾離達の方に視線を向けるとすぐに中隊長の方に視線を戻す。

 

「_彼女の話が正しければ反刻晴派と璃月港転覆計画に関しては関係性があるどころか、密接な関わりがある。だからまずはその璃月港転覆計画に関しての裏付けを行い、確かな確証が得られるかどうかを確認したいんだ…」

 

そしてリーダーの男はそこまで言うと再び後ろを振り返る。

 

 

 

 

「___おい!!お前ら!!お前らもそれで問題は無いよな!?」

 

そうして背後に居た労働者達の大男達に向かってそう声をかける。

 

「_あぁ、問題ない!!」

「_問題無いぜ!!」

「_構わん!!」

「_それなら文句はない!!」

 

リーダーの男に問われた労働者達の大男達達は、それぞれそう答えながらリーダーの男に向かって大きく頷く。

 

 

「_だ、そうだ」

 

「ふむ…」

 

労働者達の返答にリーダーの男は満足げな笑みを浮かべながら中隊長の方へと向き直り、中隊長も彼らのその返答や反応を吟味するかの如くして考える。

 

 

「_承知した。良いだろう」

 

そして少しの間があってから、中隊長は軽く首を縦に動かして頷く。

 

「あぁ、ありがとう。感謝する」

 

「それはこちらのセリフだ。本当に感謝する」

 

そしてリーダーの男は中隊長に向かって深く頭を下げる。彼のその行動に、中隊長も同じくして頭を下げる。

 

 

 

「___ふぅ、本当に良かった」

 

そうしてこのグループの労働者達のリーダーの男と、ここの千岩軍の兵士達の中隊長のやり取りを間近で見届けた胡桃は、心の底から安心したかのような表情で見つめながら静かにそう呟く。

 

「_良かった…」

「_本当にです…」

「_本当に良かった…」

「_あぁ、同感だぜ…」

「_うむ、本当にだ…」

 

そうしてまたリーダーの男と中隊長の話が綺麗に纏まった事に対して、香菱や雲菫に行秋や嘉明に鍾離もそれぞれ安堵のため息を付く。

 

 

 

「___それでは早速だが、頼めるか?」

 

「___あぁ、分かっている。元より俺も、大隊長をこの場に呼び出すつもりではいたんだ」

 

リーダーの男が改めて中隊長にそう尋ねると、彼は頷きながらそう答える。

 

 

「_伝令兵!!」

 

「_はっ!!」

 

そうして中隊長がそう叫ぶと一人の兵士が彼の元へと駆けてくる。

 

「直ちに伝令を!!先ほどまで起きた事を大隊長に報告し、そして大隊長達にこの場に来てくれるように要請しろ!!」

 

「はっ!!承知致しました!!」

 

中隊長は兵士にそう命令し、彼はそれに敬礼して答える。

 

「それでは、伝達してきます!!」

 

「あぁ!!行ってこい!!頼んだぞ!!」

 

そうして伝令兵が中隊長にそう告げ、中隊長はそれに頷きながらそう返す。

 

 

 

 

___その時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「___待てぇ!!止まれぇ!!…あれ?」

「___お前達!!離れろ!!…うん?」

「___おーい!!お前達!!落ち着け!!…うん、衝突は?」

「___おい!!落ち着け!!…衝突していないだと?」

 

その時、千岩軍の兵士達や労働者の大男達に向けて、慌てた様子の叫び声達が響き渡る。

 

 

「_な、なんだ?」

「_どうした?」

 

中隊長とリーダーの男はその叫声に振り返る。

 

 

「_い、今の声って?」

「_今の声は?」

「_まさか?」

「_あぁ?何だ?今の声は?」

「_今の声って?」

「_うん?今のは…?」

 

そして中隊長の副官を始めとする他の千岩軍の兵士達や労働者の大男達も同じくその声の方へと振り返る。

 

 

 

「___えっ、今のって?」

 

「_今の声って?」

「_向こうからですよね?」

「_うん?まさか…!?」

「_あぁ?もしかして…!?」

「_ふむ…。もしかすると…」

 

そうしてその声達に荷車の木箱の上に載っていた胡桃に、香菱や雲菫は何が起きたのかを確認するかのようにそちらの方に顔を向けて、そして行秋や嘉明に鍾離に関してはその声から何が起きているのかを推察したのか、少し遅れてそちらの方へと顔を向けた。

 

「_あれ?おい、これって?」

「_どういう状況だ?」

 

「_衝突寸前じゃなかったのか?」

「_どうなっていやがる?」

 

そこにはここにいる千岩軍の中隊とは別の部隊と思われる兵士達と、ここにいる港湾区の労働者の大男達の同僚と思われる別のグループの大男達が、それぞれ中隊の兵士達とリーダーの男の大男達の冷静な様子を前に、戸惑ったかのような様子を見せていた。

 

 

 

「___彼らって、ここの中隊の兵士達と労働者達の男達の騒ぎを止めにやって来た別の人達ってこと?」

 

胡桃はその光景を目の当たりにしながら、そう呟く。

 

 

 

「___おい、前を開けろ。俺と“彼女”を通らせろ」

 

「_あ、申し訳ありません」

「_申し訳ありません。今、道を開けます」

 

「_あぁ、悪い。今どいてやる」

「_すまねぇ。通ってくれ」

 

そうして胡桃が言った別の人達、別グループの港湾区の労働者である大男達と別部隊と思われる千岩軍の兵士達の集団の真ん中あたりから、一人の男の声とそんな男の声に反応した兵士達と大男達の会話が響いて、目の前の男達の集団の真ん中部分が二つに割れるように開き始めていき、声の主の男と声の主が言っていた“彼女”の姿が現れる。

 

「___あ、あれは?」

 

「_だ、誰だ?あの二人は?」

「_あの男とあの女は?」

「_とりあえず只者ではなさそうだが…」

「_何者なんだ?あの二人は?」

 

そんな二人を見つめて口々に呟くここの労働者の大男達のリーダーとその配下である大男達は半分興味津々、半分警戒とでもいった様子でその二人の男女を見つめる。

 

 

 

「___うん…?待て!?まさか!?あの方々は!?」

 

「_あれは?まさか…?」

「_遠くてよく見えないが…。もしかして……?」

「_彼らは、まさか…!?」

「_待て、あの二人って…!?」

 

だがそんな労働者の大男達のリーダーとその配下である大男達とは対照的に、中隊長とその部下達の千岩軍の兵士達は一斉にその二人を見つめて、目を丸くして驚きを隠せずにいる。

 

「___えっ、誰?」

 

「_誰だろう…?」

「_誰でしょうか…?」

 

そして胡桃、それに香菱や雲菫は遠くの方にいる二人の男女を目を細めて見つめながら、そう呟く。

 

 

「_っ!?が、嘉明!!」

「_っぅ!?あぁ、行秋!!間違いない!!」

「_ほぉ…。久しぶりに彼女を見かけたが……」

 

そうして行秋や嘉明、鍾離は遠くにいる彼女の正体が分かったのか、それぞれ驚いた表情になってそちらの方に視線を向ける。

 

 

 

「___総員敬礼!!外部特別顧問検察官様!!大隊長殿!!」

 

「「「「_外部特別顧問検察官様!!大隊長殿!!」」」」

 

そして中隊長とその配下の千岩軍の兵士達は、一斉に敬礼しながらその男女二人組に向けて声高らかにそう叫ぶ。

 

 

 

「___なに!?外部特別顧問検察官!?それに大隊長だと!?」

 

「_彼らがか!?」

「_あの二人がか!?」

「_あの女とあの男がそうなのか!?」

「_あの二人がそうなのか!?」

 

そうして遠くの方にいる二人の男女に視線を向けていた労働者達のリーダーである男と労働者の大男達の集団は、その二人の正体を知るや否や驚きの声を上げる。

 

 

 

 

 

「___ふむ、大隊長。どうやら全速力でここに来る必要は無かったようだな」

 

「___はい、どうやらそのようです。正直、ここに辿り着く時には最悪な事態に陥っているかもしれないと覚悟していましたが…。どうやらその心配は杞憂だったようです。特別検察官様」

 

そしてその男女、一人は千岩軍の大隊長。中隊長よりも少しだけ年上と思われ、そうして兵士としてそれなり以上の経験は積んできたのか少し傷等が目立つものの、体格や顔立ちがそれなりに良い男。そして___。

 

 

 

「_あぁ、本当にだ。はぁ、本当に疲れた。事態は一刻を争うと思っていたから焦ってはいたが…。まったく、後であの天権に文句の一つや二つくらい言ってやらないと……」

 

「_ははは、本当にお疲れ様です。外部特別顧問検察官様。正直、貴女様の体力が持つかどうかが心配でしたが、そのご様子ですとどうやら大丈夫のようですな」

 

「大丈夫じゃない!!私は一般人!!一般の民間協力者だぞ!!まぁ私も体力はそれなり以上にあるし、多少なりとの護身も出来るから体力もそれなり以上の自信はあったが、それでも千岩軍の兵士達と共にここまで長時間連続、そして全力で走り続けるなんて初めてだったんだぞ!!少しくらいは加減しろ!!」

 

「ははは、申し訳ありません。ですが貴女様の発言通りに私の思った以上に体力があって、そして走る速度やペースも悪くはなく、息もそこまで上がっていなかったようなので。それに貴女様が自分自身で『私は大丈夫だから全速力で行け!!璃月港を悪意から救うためなら、例え私が疲れ切ったとしていても無理やりにでも走らさせろ!!』と仰られましたので」

 

「あぁ、言ったさ!!確かに私はそう言ったよ!!確かに言ったが、それでも限度と言うものがあるだろう!!どんどんペースやスピードが上がっていって、私は本当にもうへとへとだったんだぞ!?それに私の体力は“それなり以上”であって、お前達千岩軍のような日頃から訓練や鍛錬で鍛えている兵士達ほどの体力ではないんだぞ!?」

 

「はは、それはまことに申し訳ありません。“煙緋”様」

 

_そこには翡翠の瞳に、薄めの朱の髪。そして金の装飾が施された赤い帽子に、璃月の薄着を身に纏い腰に“炎の神の目”を身に着けている彼女、“煙緋”が額の汗を腕で拭いながら、千岩軍の大隊長とそんな会話をしながら中隊長達の元へと向かっていた。

 

 

「_煙緋さん!!」

「_煙緋!!」

 

そうして煙緋の姿を確認した行秋と嘉明は、一目散に中隊長の元へと歩く煙緋の元へと向かって駆け出す。

 

 

 

「___えっ!?そうなの!?」

 

「_あの人が!?」

「_彼女がですか!?」

 

そして行秋と嘉明のその会話に胡桃、香菱と雲菫が驚き、改めて彼女の姿を見つめる。

 

 

「_あぁ、そうだ。彼女が煙緋だ。胡堂主殿、それに香菱殿に雲菫殿」

 

また鍾離は腕を組み、まるで久々に孫でもあったかのような表情で煙緋を見つめながら胡桃達にそう説明する。

 

 

「うむ。堂主殿、それに香菱殿に雲菫殿。まずは煙緋の元に行き、彼女と合流しよう」

「あっ、そうだね。鍾離さん。行こう」

「うん、そうだね。行こう、鍾離さん」

「そうですね、鍾離さん。行きましょう」

 

そして鍾離は胡桃達にそう声をかけて彼女の元へと歩き出すと、胡桃達も鍾離の後ろを追いかけるように煙緋のいる方へと向かう。

 

「___煙緋さん!!煙緋さん!!」

「___煙緋!!煙緋!!」

 

「_むっ。おぉ!!君達か!!行秋殿!!嘉明殿!!」

 

そうして大隊長と共に中隊長の元へと辿り着き、その場に立っていた煙緋の元に行秋と嘉明が駆け寄り、そんな彼らを煙緋は微笑みながら出迎える。

 

「_行秋殿、嘉明殿。この場を見る限り、どうやら上手く鎮められたようだな」

 

「はい。まぁ、完全ではありませんが…。本当に今、煙緋さん達が来てくれて助かりました…」

「あぁ、そうだぜ。だが行秋の言う通り完全はないがな。本当に煙緋さん達が良いタイミングで来てくれて良かったぜ…」

 

煙緋の言葉に行秋と嘉明は頷いて答える。

 

「うん?完全ではないだと…?」

 

「ふむ…。中隊長、説明してくれたまえ」

 

「はっ、大隊長。実は___」

 

そんな彼らの言葉に煙緋が首を傾げ、またその言葉を聞いていた大隊長は訝しむかのような表情で中隊長に説明するように命令し、大隊長の言葉を聞いた煙緋も中隊長へと視線を向けた。

 

「___といった事がありまして…」

 

「_成程な」

「_ほぉ、そう言う事があったのか」

 

そんな中隊長の説明を聞いた大隊長と煙緋は、頷きながらそう言った。

 

「煙緋様…」

 

「あぁ、分かってる。事の顛末は大体把握した。そして中隊長が独断でやってしまった機密情報の提供、ある意味で千岩軍の内部情報の漏洩、軍の重大な規律違反をもな」

 

大隊長は隣に立つ煙緋にそう言いながら、彼女は腕を組みながら中隊長を見定めるかのようにして見つめる。

 

「っ、大隊長殿、煙緋様。本当に申し訳ありません…。処罰を受ける覚悟はできています。全責任は私が背負います。ですのでどうか、私の副官や他の千岩軍の兵士達だけは…」

 

中隊長はそんな大隊長と煙緋に深く頭を下げて、そう言った。

 

「中隊長…」

「ふむ……」

 

そうしてそんな中隊長に対して、大隊長の男と煙緋は無言で彼を見つめる。

 

「_煙緋さん。どうか彼の罪を軽くしてやってくれないか。ここにいる労働者達と千岩軍達が衝突の回避を決定づけたのは、彼が彼ら労働者達にその事を伝えたからなんだ」

「_あぁ、そうだぜ。煙緋さん。そうして労働者達側からも千岩軍に譲歩して、反刻晴派の引き渡しをとりあえずは諦めてくれたんだぜ。彼の決断や覚悟がなければ、また再び衝突の危機が訪れてたかもしれなかったからな」

 

「………」

 

そうして無言を貫く大隊長と煙緋に対し、行秋と嘉明は煙緋に中隊長を擁護するかのようにそう言い、そしてそう言われた煙緋は無言で行秋と嘉明を見つめる。

 

「そうだよ。全くもって行秋と嘉明の言う通り。だから私からも彼の罪を軽くしてほしいの」

「うん、そうだよ。だから、お願い。彼を助けてあげて」

「はい、その通りなんです。ですので、お願いします。彼を助けてあげてください」

「彼女達の言う通りだ。中隊長殿の貢献は無視出来ない。是非とも嘆願を聞き届けて欲しい」

 

そして行秋達の後ろに立って合流していた胡桃、香菱と雲菫、そして鍾離も煙緋に頼み込むようにしてそう言う。

 

「ふむ、そうか…」

 

煙緋は眉を寄せ、少し考えるような様子を見せる。

 

 

 

「___おい!!俺からも頼む!!中隊長をどうか救ってやってくれ!!せめて投獄だけは免れるように!!」

 

「_俺からも頼むぜ!!中隊長を救ってやってくれ!!」

「_あぁ!!そうだ!!頼む!!彼を救ってくれ!!」

「_そうだ!!そうだ!!中隊長の罪を軽くしてくれ!!」

「_そうだ!!彼を救ってくれ!!中隊長を守ってやってくれ!!」

 

そうして行秋達の懇願や胡桃達の嘆願に触発されたかのように、この場の労働者達のリーダーの男を筆頭にして一斉に労働者の大男達が煙緋に嘆願し始める。

 

「___っ!!私からもお願いします!!煙緋様!!」

 

「_煙緋様!!お願いします!!中隊長の罪を軽くしてください!!」

「_特別検察官様!!お願いします!!彼の罪を軽罪にしてやってください!!」

「_煙緋様!!頼む!!中隊長を救ってやってくれ!!」

「_なんなら止めなかった俺達にも責任がある!!だから、頼む!!中隊長を救ってくれ!!」

 

そうしてまた中隊長の副官の男やその配下の千岩軍の兵士達までも、煙緋にそう嘆願する。

 

「ふむ…」

 

そうして続々と上がる煙緋への嘆願の声に煙緋は難しそうな表情を浮かべながら、中隊長本人や彼の配下の副官やその部下である千岩軍の兵士達、そうして労働者達のリーダーの男に労働者達の大男達、また行秋達や胡桃達の面々へと視線を向ける。

 

 

「_煙緋様…。どうなされますか……」

 

そしてその最中、煙緋の隣に立つ大隊長は煙緋にそう尋ねる。

 

「…そうだな」

 

そんな大隊長の問いに対して、煙緋は大隊長の方に顔を振り向かせる。

 

「中隊長殿が犯した罪の件だが、まぁ無罪とはいかないだろう」

 

「そうですよね…」

 

そんな煙緋は少しだけ間を置いてから、大隊長にそう言う。

 

「だが、しかしだ。彼、___」

 

煙緋はそこまで言うと大隊長から視線を中隊長へと向けて、続ける。

 

 

「_中隊長殿の功績というのは確かに大きいし、それに情状酌量の余地もあるだろう」

 

そして煙緋はまた少し間を置いてから、中隊長に向かってそう言う。

 

「なっ、ほ、本当ですか?煙緋様?」

 

そうして煙緋にそう言われた中隊長本人は驚いた表情を浮かべながら、顔を上げて煙緋にそう尋ねる。

 

「ほ、本当か!?」

「本当ですか!?煙緋様!?」

 

そうしてまた懇願していた労働者達のリーダーの男や、中隊長の副官の男も煙緋にそう尋ねる。

 

「あぁ、本当さ」

 

そんな彼らに対して煙緋は軽く頷きながら言葉を続ける。

 

「彼ら労働者達、完全に無関係な第三者達にそれら情報を流してしまったのは重大な問題ではあるが、それ以前に今の港湾区においては彼らと千岩軍達が衝突するかしないかの瀬戸際で、万が一衝突してしまえはそれどころではなくなるというとても切羽詰まった状況だった。そしてそんな危機的状況下において、その状況を鎮めるためには並大抵の手段、それこそ今回の場合であれば千岩軍の兵士達が武力を使って鎮圧したとしても良くはならないし、むしろ致命的な悪手にしかならなかっただろう」

 

煙緋はそこまで言うと中隊長の千岩軍の兵士達、そしてここにいる労働者の大男達の顔、一人一人を順番に見るように彼らの様子を眺めていく。

 

「そう考えるとこの非常に特殊な状況、そして限られた手段の中で禁じ手そのものであるそれら機密情報を労働者達に教えるという、ある意味枠組みを越えた最善な決断と行動をした中隊長殿の功績というのは計り知れない。そこは評価すべき所であり、それと同時に処罰を行う際に大きく考慮しなければならない点でもある。そうだろう、大隊長?」

 

「はっ、煙緋様。仰る通りです」

 

「ふっ、そうだろう。であるならば___」

 

煙緋の問いに対し大隊長は頭を下げて答え、そうして煙緋は頷きながら中隊長を安心させるかのような優しい微笑みを浮かべて、こう言った。

 

 

 

「___中隊長殿。私、天権と契約を結んでいる外部特別顧問検察官である私は、私が今日見た事や知った事、記録した事は全て天権に報告、共有する事になっている。無論、今回のこの件も天権の凝光に報告予定だ。それ故、その時には中隊長殿の処罰に関して多少の口添えをしてやろうと思う。だから、安心してくれ」

 

「_なっ!?天権様に口添え!?ほ、本当ですか!?」

 

煙緋のその言葉に中隊長は驚きと喜びが入り混じったような表情を浮かべて、煙緋にそう尋ねる。

 

「あぁ、本当だとも。中隊長殿、それに今の私の立場というのは、半分璃月七星の人間みたいなものだからな。それ故に私の言葉の半分は、天権の意志であると考えくれて問題は無い。それに凝光本人もこのような出来事があったと知ったら、彼女本人も中隊長殿の刑罰を軽くするよう千岩軍に働きかけるはずだ」

 

「ほ…、本当ですか!?」

 

煙緋のその言葉に中隊長は驚きと喜び満ち溢れたかのような表情で、煙緋にそう尋ねる。

 

「あぁ、本当だとも。大隊長」

 

「はっ、煙緋様。中隊長、よく聞け。おそらくではあるが今のこの反刻晴派殲滅作戦を終えた後、貴様には待機命令が出るはずだ。自宅待機になるか、もしくは千岩軍の本部がある総務司の待機室といったところで待機となるだろう」

 

煙緋に声をかけられた大隊長は、中隊長に向かってそう言って続ける。

 

「そしてそんな待機命令が下されて暇をしている貴様には千岩軍の高官、もしくはもしかすると引き続き煙緋様か天権の凝光様本人が直々に会いにくるかもしれない」

 

「えぇっ!?」

 

そんな大隊長の言葉に驚く中隊長。そしてそんな中隊長に向かって、大隊長は続けて言う。

 

「そうしてそこで改めて煙緋様か凝光様達により詳細な事情説明を求められた後、後ほど行われる軍の会議でその件が議題となった際に特別検察官様や天権様達が直々に、俺達千岩軍の隊長達や高官達に陳情や要望をしてくれるだろう」

 

「そ、そんな。そこまで…」

 

そんな大隊長のその言葉に中隊長は驚きと感動で表情を満たし、そんな中隊長に向かって大隊長はこう告げる。

 

「そしてその後に行われる貴様の軍法会議では、貴様の功績と煙緋様や凝光様達の陳情や要望によって定例の判決よりも軽い刑罰が下される可能性が高いと思われる」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「あぁ、本当だとも。そうですよね、煙緋様」

 

「あぁ、その通りだ。大隊長殿」

 

大隊長のその言葉に煙緋は頷いて、大隊長のその意見に同意する。

 

「おそらく中隊長殿が投獄されたり極刑に処されるような事態にはならないはずだ。やってしまった事自体は重大な物であったため降格処分といったものはあるとは思うが、降格処分と言っても軽い程度のもの。そしてそれに合わせて一時的な配置転換や異動どいった事、あとは懲戒処分として数か月から一年程度の給付減額がなされると、そういった処罰の類いで収まるはずだ。だからそこまで酷く心配する必要はないぞ」

 

「本当ですか…!?ありがとうございます!!煙緋様!!ここまでの寛大な処置を私に!!」

 

そんな煙緋のその言葉に中隊長はうっすらと涙を流しながら、煙緋に頭を下げて感謝の言葉を言う。

 

 

 

「___よ、良かった。中隊長。重罪にならなくて…。ありがとう。煙緋さん、大隊長」

「___中隊長…。本当に良かったです…。本当にありがとうございます。煙緋様、大隊長殿」

 

そして中隊長に煙緋と大隊長の話を聞いていた労働者達のリーダーの男と中隊長の副官の男も、安心したかのような表情を浮かべてそんな二人と煙緋に深く頭を下げて感謝の言葉を言う。

 

「_はぁ、本当に良かったぜ…」

「_あぁ、本当にだぜ…」

「_あの女の寛大さには感謝しかないな…」

「_あぁ。本当にあの中隊長が助かって良かった…」

 

そうしてまた、彼らの話を聞いていた労働者の大男達はホッとしたかのような表情を浮かべて、それぞれそんな言葉を交わし合う。

 

「_はぁ、よかったぁ…」

「_本当に、よかったぁ…」

「_中隊長、投獄されなくてよかった…」

「_煙緋様に本当に感謝しなければな…」

 

そしてまた、彼らのやりとりを見ていた千岩軍の兵士達も安堵の表情を浮かべて、そんな会話を交わす。

 

「_ふぅ、本当に良かったぁ…」

「_本当に良かったよ。彼が助かって…」

「_はい、本当にです。あの人が重罪にならなくて…」

「_良かったよ、本当に。彼が投獄されるなんて事にならなくて…」

「_あぁ、本当にだぜ。中隊長の罪が軽くなりそうで…」

「_その通りだな。本当に良かった。煙緋殿には感謝しきれないな…」

 

そうして胡桃を始めとする香菱達や行秋達、そして鍾離までもがそれぞれの心境で安堵の声を上げていた。

 

 

 

「___さてと」

 

そして全員が全員安堵していた最中で、煙緋が静かにそう呟くと労働者の大男達のリーダーに視線を向ける。

 

「_改めての確認となるが、お前がここの労働者達のリーダーという事で間違いは無いかな?」

 

「_うん?あ、あぁ、その通りだ」

 

煙緋のその言葉に労働者達のリーダーの男は、彼女にそう答える。

 

「そうか。それではお前達が気になってる事を私に何でも聞いてくれ。包み隠さず全てに答えるぞ」

 

「なっ!?本当か!?」

 

「あぁ、本当だ」

 

リーダーの男は煙緋のその言葉に驚いて思わずそう尋ね、煙緋は彼に頷いてそう答える。

 

「…煙緋様。本当によろしいのですか?」

 

「あぁ、構わない」

 

その時、煙緋の隣に立つ大隊長が煙緋にそう尋ね、煙緋は横目で大隊長を見ながらそう答える。

 

「中隊長殿、それに胡桃殿達がそこまで語ってしまったのだ。ならばもう隠す必要は無いだろう。それにこの反刻晴派殲滅作戦というのは璃月港全体を巻き込んだ作戦行動であるのだから、璃月港の民や民衆は認知しているし、いつまでもそれらを隠し通すわけにもいかないからな。それに天権様曰く、この作戦が終わった後に行われる全ての内部処理や後処理が終わり次第、今回のこの件を璃月の民衆、またテイワット全土に公表する予定だそうだ。今回の件は少なくともモンド、フォンテーヌ、スメール、稲妻の四ヶ国とは関係があるようだからな」

 

「成程。そうだったのですね…」

 

煙緋のその言葉に納得し頷く大隊長。

 

「うむ、そういう事だ。さて、それでは改めてお前達が気になっている事、知りたい事を私に何でも尋ねてくれ。お前達が知りたい事、胡桃殿が語ってくれたその璃月港転覆計画に関しての裏付けるための話や情報、それらの確証が得られるまで、私はどこまでも答え続けよう」

 

「あ、あぁ。分かった。それじゃあ、さっそく_」

 

リーダーの男は煙緋のその言葉に頷き、労働者達のリーダーは煙緋に尋ね始める。

 

 

「………」

「………」

 

「「「「………」」」」

「「「「………」」」」

 

そうしてリーダーの男と煙緋の会話に千岩軍の副官の男とその配下の兵士達、また労働者の大男達も静かに耳を傾け始める。

 

 

「_へぇ…」

「_そうだったんだ…」

「_そんな事が…」

「_ほぉ…」

「_成程な…」

 

また胡桃達を始めとする彼ら、香菱達や行秋達や胡桃達の面々も、煙緋達の会話に興味深げに耳を傾けなからその内容に思わずそう呟いていた。

 

 

「_というわけだ。さて、他には何か質問等といった物はあるか?」

 

「_成程、そう言う事だったのか。そうだな…」

 

そうしてリーダーの男と煙緋の問答も一通り終わったのか、一旦そこで会話が止まる。

 

「…いや、もう無いな」

 

「そうか。それは良かった」

 

そうしてまたリーダーの男は満足したかのように煙緋にそう言うと、煙緋もそれに頷きながら答える。

 

「それで、どうだった?お前は胡桃殿が語ってくれた璃月港転覆計画、今の話でこれについての裏付けが、そうして確証は得られたか?」

 

そして煙緋はリーダーの男にそう尋ねる。

 

「あぁ、そうだな…」

 

尋ねられたリーダーの男は今までの話を振り返るように、少しだけ考え込むような仕草を取る。

 

「………」

 

「………」

 

「「………」」

 

「「「「………」」」」

 

そんなリーダーの男の様子を煙緋や大隊長、中隊長や彼の副官の男、そうしてその他千岩軍の兵士達が静かに見守る。

 

「…あぁ、そうだな。煙緋さん」

 

そうして少しの沈黙の後、リーダーの男は何か決心したかのような表情を浮かべて煙緋に視線を向ける。

 

「あぁ、全てに納得がいった。裏付けは十分に取れたから、確証も得られた。ありがとう、煙緋さん」

 

「そうか。それなら良かった……」

 

煙緋はリーダーの男の言葉に、本当に安心したかのように微笑んで頷く。

 

「ふぅ…」

「よ、良かった…」

「良かった…」

 

「_はぁ、良かった」

「_あぁ、本当にだ」

「_ふぅ、これで」

「_あぁ、なんとかなったな」

 

リーダーの男が確証を得られたという言葉に、大隊長を始めとする中隊長やその副官に、その他千岩軍の兵士達はそれぞれ安堵の息をつく。

 

「_良かった…」

「_本当にだよ…」

「_本当にです…」

「_うん、本当に…」

「_あぁ、本当にだぜ…」

「_うむ、本当にその通りだ…」

 

そうしてまた胡桃や香菱達、行秋達や鍾離もまた、それぞれ安堵の声をもらす。

 

 

 

「___それでは、反刻晴派や協力者達の身柄はこちらで預かるぞ」

 

「_あぁ、構わない。そいつらを連行してくれ」

 

煙緋がそう言うと、リーダーの男は地面に座り込んでいる反刻晴派の者達や協力者達に視線を向けながら頷く。

 

「分かった、ありがとう。それでは、大隊長」

 

「はっ。煙緋様。おい!!連れていけ!!彼らを全員連行しろ!!」

 

「はっ!!大隊長!!」

 

「了解しました!!大隊長!!」

 

そうして煙緋は頷きながら大隊長にそう言うと、大隊長も頷いて部下たちにそう言って指示をする。

 

「おらっ!!立てっ!!」

「行くぞ!!逃げようと思うなよ!!」

「お前達を全員連行する!!」

「一列になって歩け!!早くしろ!!」

 

「わ、分かってる…」

「逃げようなんざ、考えてない…」

「分かったっての…」

「っ。分かってる。逃げないから…」

 

そうして反刻晴派の者達らは大隊長らに命令された千岩軍の兵士達によって、彼らは大人しく連行されていく。

 

「「………」」

「「………」」

「「「「………」」」」

「………」

「「「「………」」」」

「「「「「「………」」」」」」

 

そしてその様子を煙緋と大隊長、中隊長と副官、その配下の千岩軍の兵士達、また労働者のリーダーの男、リーダーの男に付き従っていた労働者の大男達、そうして胡桃達の面々が静かにその様子を見守る。

 

「…さて、と。これで一先ずは片付いたな」

 

そして煙緋はそんな一息ついたかのようにそう呟く。

 

 

 

そうしてその時であった。

 

 

 

「___煙緋さん。ちょっと良いか。俺達に千岩軍の協力を、俺達に“先に居る者達”に関する捜査を協力させてくれないか?」

 

その時、労働者のリーダーの男が煙緋にそう言う。

 

「ん?協力だと?それに“先に居る者達”に関する捜査の協力だと?…元よりお前達には千岩軍に協力するようにお願いしようと考えていたが、どうしてまた急に?それにどうしてよりによって“先に居る者達”に関する捜査の協力をしたいんだ?」

 

煙緋は労働者のリーダーの男にそう尋ねる。

 

 

 

「あぁ、その事なんだが…。実は俺達の中に俺達と同じ格好をしていた不審な人物。最近入った新人というわけでもない“不自然な人物が数人混ざっていた”んだ。そいつらはもう離れてはいるがな」

 

「なんだって!?」

「そ、それは!?」

 

リーダーの男の言葉に煙緋と大隊長は食いつくかのように反応する。

 

 

「___な、なんだって!?」

「___もしかするとその人物達というのは!?」

 

「_おい、嘘だろ…!?」

「_それって、もしかして…!?」

「_あぁ、もしかすると…!?」

「_いや、もう間違い無いだろ…!!」

 

そうしてその言葉を聞いていた中隊長と副官、また千岩軍の兵士達は一斉に驚きの表情を浮かべる。

 

 

「_その人物達って…!?」

「_ま、まさか…!?」

「_その人物達こそが…!?」

「_扇動を行った人物という事か!?」

「_ここの労働者達を暴動へと煽った人物じゃないか!?」

「_っ…!?間違いない…!!その人物は確実に…!!」

 

そうしてその言葉に胡桃、香菱、雲菫、そして行秋、嘉明、鍾離もまた、驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「_あぁ、その通りだ。そいつらこそ、その“先に居る者達の手先”とみて間違いだろう」

 

リーダーの男も、千岩軍の兵士達や煙緋達の反応に対して静かに頷きながらそう答える。

 

 

 

「おい!!こっちに来い!!」

 

「おぅ!!」

「あぁ!!」

 

そうしてリーダーの男が後ろを振り返って呼びかけると、その呼びかけに呼応する形で大男達の中の数人の男達が声を上げながら現れる。

 

「おい!!まだそいつらの顔は分かるか!?それにどっちに向かって離れて行ったのかも分かるか!?」

 

リーダーの男は大男達に向かってそう尋ねる。

 

「おぅ!!顔はまだ覚えてるぜ!!それにあっちの方だ!!」

「あぁ!!勿論だ!!それにあいつらはあっちの方に向かっていったぞ!!」

 

男達はそう言いながら、彼らはとある方向へと指し示す。

 

 

「_あっちの方向?」

「_あっちの方?」

「_確かあちらの方にあったのは?」

「_チ虎岩地区?いや、違うな。むしろ…」

「_あぁ、あの指さしている方向的に…」

「_ふむ…。少々、厄介な所へ逃げたかもしれないな」

 

胡桃と香菱に雲菫は男の指さす方向へと眺めるように視線を向け、行秋と嘉明はそう言い合いながらその指の先を見つめ、そして鍾離は少し難しそうな表情になってそう呟く。

 

 

「_煙緋様。確か、あの方角と言うのは…」

 

大隊長はそう呟きながら煙緋の方へと視線を向ける。

 

 

「_あぁ、間違いない。大隊長」

 

そんな大隊長の視線に煙緋は答える。

 

 

 

 

「___あの方角は不審火騒ぎが起きている倉庫群。場合によっては消火作業を行っている場所。火災騒ぎを担当している甘雨先輩が居る方向だ」

 

_そして煙緋は改めてそう告げたのであった。

 




今回でようやく胡桃達に煙緋が合流する所まで行けました。

このペース(今の2万文字以上の文章量を維持した場合)だと、最終回含めてあと2話、多くても3話となりそうです。(本当は「_俺はそう確信している」の時点で、残り5話か6話程度まで行ったら最終回を迎えられるよう頑張っていたのですが、今回で6話目まで行ってしまったので予定通りに終わらせられませんでした(汗)。本当にすみません(滝汗))

とりあえずこのまま8月中はコツコツと、そうして一気に描写して行って7幕を終わりに導いて行ければと思います。


それでは次回はこの第7幕を2回投稿しましたので、予定通りに第8幕の2話目の更新を行おうと思います。



それではまた、次回の投稿まで今しばらくお待ちください。


—————
追記1
文章表現におかしいところがありましたため、修正を行いました。(私はそれに今の私の立場というのは、→それに今の私の立場というのは、
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