名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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完成したので投稿。


今回も前回の続き。

煙緋達がいる船着き場や荷置き場で暴動を引き起こそうとしていた“先に居る者達の手先達”が、甘雨がいる火災騒ぎが発生している倉庫群の方に向かって現場から離れて行ったことが明らかになったところからです。




_甘雨殿の事をどう思っているのかも気になるな

Side:胡桃

 

「___う~ん」

(かなり面倒な方向に逃げられちゃったかもね…)

 

胡桃は腕を組みながら、内心そう呟く。

 

 

「_うむ、これは少々面倒な事に…」

 

そしてそんな胡桃の内心を代弁するかのように、煙緋がそう呟く。

 

 

反刻晴派を裏から操っていた“先に居る者達”、その者達の手先であった人物達が甘雨のいる倉庫群の方へと逃げていった事。

 

今の倉庫群の状況というのは、未だに火災騒ぎの混乱が収まっておらず、そうして場所によっては消火作業を行っている場所すらある状況のはずだ。

 

そんな混乱している倉庫群というのは千岩軍の追跡から逃れる絶好の煙幕、隠れ蓑となる。また彼らの目的が璃月港からの脱出であれば、理想的な脱出経路にもなりえる絶好のルートでもある。

 

 

「_因みにその“先に居る者達の手先”、君達とその者達が離れたのは、いつ頃なのだ?」

 

煙緋はリーダーの男によって、彼らを目撃していたというその大男達にそう尋ねる。

 

「あぁ。それならまぁ、だいたい三十分前か、それ以上といったところじゃないか?」

「そうだな。それなりに時間は経っちまっているから、その辺りで間違いないはずだぜ」

 

彼らを目撃していた大男達は煙緋にそう答える。

 

 

「_ふ~ん。三十分前か、それ以上…」

 

そうして彼らのその答えを聞いていた胡桃は、難しそうな表情を浮かべてそう呟く。

 

「三十分前かそれ以上…」

「三十分前か、それ以上ですか…」

「三十分前かそれ以上なのか…」

「三十分前か、それ以上か…」

「三十分前、もしくはそれ以上…。ふむ……」

 

そうしてまた、彼らの答えを聞いた香菱に雲菫、行秋と嘉明、そして鍾離も難しそうな表情を浮かべてそう呟く。

 

 

 

 

「___大隊長殿」

 

「_はっ」

 

顎に片手を当てて、何かを考えていた煙緋は大隊長へと視線を向ける。

 

「彼ら曰く、今から三十分前かそれ以上前に、この暴動騒ぎが発生していたここ船着き場や荷置き場を中心とするエリアから、火災騒ぎが発生している倉庫群を中心とするエリアに移動したとの事であったが…。その者達はまだその場に留まっていると思うか?」

 

「…いえ、煙緋様。その可能性はもうかなり低くなっていると思われます」

 

大隊長は煙緋の質問に対して、横に首を振ってそう答える。

 

「やはり、か。大隊長殿、私も同感だ。ここにいたその者達は、私達が次々と労働者達に説得しては冷静にさせ、そうして彼らを自分達の味方に引き込んでは、次々とその者達がばら撒いていた暴動と言う名の火種を消し止めていた所をどこからか見ていたはずだ。そんな私達の行動をみていたその者達は自分達の策略の失敗を悟り、これ以上の続行は困難であると判断し、即座に撤退を決断してこの場を去ったはずだからな」

 

煙緋はそう自身の見解を大隊長に告げる。

 

「はい、煙緋様のご推察の通りかと。そうして火災騒ぎが発生しているそちらに逃走した彼らはおそらく、放火等を行っていると思われる仲間の者達に合流し、そうして彼らに対してここ船着き場や荷置き場の状況を共有しているはずです。そしてその共有を受けたその者達と、実際に暴動を引き起こそうとした彼らは最終的に自分達の謀略が失敗し、計略が破綻してしまったと判断、撤退を決断してその場から立ち去ってしまっていると考えられます」

 

そして大隊長は煙緋のその考察に頷きながら、そう自身の見解を述べる。

 

「そうだろうな、私もそう思う。それに火災騒ぎ、不審火騒ぎが起こっているあそこ。今のあそこは実際に発生してしまった火災を何とかしようと、大勢の者達がその現場に入ってきていたり、また実際の状況がどうなっているのかを確認する為、それ相応の人数の千岩軍や職員達が現場へと入ってきている筈だ。そんな状況下で放火等と言った細工をそれ以上行うのは難しいだろうし、彼らも彼らで引き際を探っていたはずだ」

 

「そうですね。私もそう考えます。煙緋様」

 

そして煙緋が大隊長に自身の見解をそう告げると、大隊長もそれに頷く。

 

「ふむ、そうか…」

 

煙緋はそこまで言うと周囲の状況を確認するかのように、辺り周りをぐるりと見渡す。

 

「ふむ…。取り合えずは、他の隊の伝令兵達がやってくる気配はなし、か……」

 

煙緋はそう呟くと、自身の顎に片手を当てて何かを考えるかのように瞑目する。

 

 

「_大隊長殿」

 

そうして少しの沈黙の後、煙緋は大隊長に声を掛ける。

 

「はっ、煙緋様。いかがなさいますでしょうか?」

 

そして煙緋に声を掛けられた大隊長は、そう尋ねる。

 

「あぁ、大隊長殿。この船着き場や荷置き場で起きていた暴動騒ぎは、ほぼ完全に鎮静化したと見てもいいだろう。少し前まで連続発生していた伝令兵達経由による私への緊急報告や支援要請も、今は全く来ていないからな」

 

「はい、確かにそうですね。煙緋様。となりますと、私達第3大隊の任務も変更、任務目標の更新という事になりますでしょうか?」

 

「あぁ、その通りだ。大隊長殿」

 

煙緋は大隊長のその質問に、そう頷く。

 

「今現在の璃月港は千岩軍の第1大隊から第9大隊という、それぞれ多数の大規模な部隊かつ大勢の兵士達が反刻晴派殲滅作戦に参加している。だがそれも火災騒ぎと暴動騒ぎ、そしてそれに付随して発生してしまった多数のトラブルによって、それぞれの千岩軍もそれらの緊急対応によって思うように身動きが取れなくなってしまっている。それが故、作戦行動そのものに支障が出てしまい千岩軍、そうして璃月七星達が璃月港に敷いていた包囲網は徐々に崩れ始めている」

 

「はっ、煙緋様。確かにその通りであります。本来の予定とはだいぶ様変わりしてしまった現状のため、特に璃月港の各地区の捜索や警戒活動を行っていた大隊達は、緊急対応の為に本来の活動を一時中断、一旦停止して対処に当たってしまっています。そのため璃月港内の捜索体制が、非常に手薄になってしまっているはずです」

 

「その通りだ、大隊長殿。確か璃月港各地区で捜索活動、警戒活動を行っていた千岩軍の第4大隊から第6大隊、そして璃月港の出入り口と璃月港内の各要所で検問等を専門的に行う第7大隊、それぞれの本来の活動が停止してしまっているのは、非常にまずい」

 

「はっ、その通りです。煙緋様。反刻晴派の過激派の拘束を担当する第1大隊、強硬派の身柄を取り押さえる第2大隊、そして急進派をこちら側に寝返らせる煙緋様の警護等を担当します我ら第3大隊、その第1大隊から第6大隊が火災騒ぎや暴動騒ぎ、そうしてそれに付随したトラブルの対応で身動きが取れなくなってしまっているのは、大きな痛手と言っても過言ではありません」

 

「あぁ、そうだ。大隊長殿の仰る通りだ。幸いにも第2大隊は甘雨先輩達が強硬派達の拘束に成功、第3大隊は私が急進派を寝返らせられたから、それぞれの主要目的を達成しているため特に問題も無い。それに第1大隊の主要目的である過激派の拘束も、さきほどまでの暴動騒ぎの延長線上の出来事と言える事から、こちらも大きな影響はない。だがしかし…」

 

「はい、煙緋様。しかしながら、本来は第4大隊から第7大隊の4個大隊で行うはずの璃月港各地区で捜索活動や警戒活動。そうしてそれら任務活動にある真の目的、万が一取り逃しましてしまった際に行われる反刻晴派残党の追撃活動。これを第7大隊と支援としてやってきた待機部隊の第8大隊合わせた二個大隊の規模でしかで行えていないので、非常にまずいです…」

 

「あぁ、本当にその通りだ。未だに主要メンバーを含む過激派の残党は逃走中なんだ。このままでは璃月港からの逃走、最悪国外への逃亡を許してしまう恐れがある。大隊長殿…」

 

「はい、煙緋様…」

 

煙緋がそこまで言うと、大隊長も煙緋のその言葉に同意するように頷きながら、そう答える。

 

 

 

 

「___えっ…?」

(今、璃月港ってそんなに酷い状況だったの…?)

 

煙緋と大隊長の話を聞いていた胡桃は思わず、そんな声を出してしまう。

 

 

「_えっ…?」

「_そ、そんな…」

「_今、そんな事に…」

「_そんな状況になっていたのか…」

「_ふむ。これは思った以上に…」

 

そうして胡桃と同じく煙緋と大隊長の話を聞いていた香菱達に行秋達、そして鍾離もそんな声を漏らす。

 

「あっ…。う、うん!!うんっ!!」

 

そして胡桃を始めとする彼ら彼女達のそんな声を聞いてしまった煙緋は咳ばらいをする。

煙緋の不注意により、彼らを不安にさせてしまった事に気が付いた煙緋はこれ以上、不安の思いにはさせまいとその話を打ち切るかのように本命の話題へと話を切り替える。

 

 

 

 

「___コホン、大隊長殿」

 

煙緋はそう咳払いをすると、大隊長に声を掛ける。

 

「はい、煙緋様」

 

「第3大隊の任務を更新する。現状、今ここにいる第3大隊は大隊長が率いる本隊である第1中隊とそれに同行していた第3中隊、そうしてこの場で合流を果たした第2中隊という計3個中隊、おおよそ4分の3程度の第3大隊の兵士達がここに集結している」

 

「はい、煙緋様。その通りです」

 

「あぁ、大隊長殿。そうしてその第4中隊を除く第3大隊は、それぞれ一個中隊と二個中隊に分離し、私の元を離れてそれぞれとある行動を取って欲しい」

 

「はっ、了解しました。煙緋様。但し、特別検察官様。我ら千岩軍には貴女様、煙緋様の身の安全を確保する責務があります。そのため我ら第1中隊の内の第2小隊を、煙緋様の護衛に着かさせて頂きたいと考えていますが、よろしいでしょうか?」

 

大隊長は煙緋のその言葉に頷くと、そう尋ねる。

 

「む…。それでは第1中隊の人員が三分の二までに減少してしまうではないか、私の護衛などせいぜい一個分隊程度でよいとおもったのだが……」

 

「いえ、煙緋様。貴女様の身の安全を確保するという責務を負った我ら千岩軍としては、貴女様になにかありましたら困るのです。それこそ先に居る者達の手先が退いたと見せかけて、実は煙緋様を狙っていた、という可能性も捨てきれません。最低でも十数人程度の兵士達だけは、貴女様のすぐ傍で護衛をさせて頂きたいのです」

 

大隊長はそう言うと、煙緋に頭を下げてそうお願いをする。

 

「ふむ、そうか…。あぁ、分かった。良いだろう」

 

「ありがとうございます。それでは煙緋様。先ほど申し上げましたとある行動についてをご教示して頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、勿論だ。大隊長殿。まず任務更新の最終目標だが、それは火災騒ぎや暴動騒ぎに付随した多数のトラブルの対応を行っている第5大隊と第6大隊、これら二個大隊の支援と対応の引継ぎだ」

 

「支援と引継ぎですか?」

 

「あぁ、そうだ。大隊長殿。彼らの支援に入り、そうして引継ぎを行う事で第5大隊と第6大隊を本来の璃月港各地区の捜索活動、警戒活動の任務に戻らせる。それが最終目標だ」

 

「成程…。早急に彼らを本来の任務に戻らさせる事で璃月港に敷いてある包囲網、また捜索体制や警戒態勢を本来のものへと戻し、崩れつつあるそれらを立て直すのですね?」

 

「あぁ、そうだ。大隊長殿」

 

大隊長のその言葉に煙緋は頷く。

 

「そのため、まず分離した一個中隊はそれぞれ散開し、この場にはいない第3大隊の第4中隊の面々と、私達と同じく暴動騒ぎの警戒や抑制を行っている第1大隊に任務の変更を伝達してくれ。変更内容は、その他多数のトラブルを対応している第5大隊と第6大隊の支援だ」

 

「はっ、了解しました。迅速にかつ確実に伝達を行います」

 

「あぁ、頼むぞ。大隊長殿。続いて第3大隊の二個中隊に関してだが、___」

 

煙緋はそこまで言うと大隊長から視線を外し、この場に居た労働者の大男達のリーダー、また煙緋と大隊長が連れてきていた味方となっていた別のグループの労働者の大男達のリーダーの方に視線を移すと、そちらへと視線を向ける。

 

 

「_まず二個中隊の行動に関してはお前達、労働者達の協力や支援をお願いしたい。頼めるか?」

 

「あぁ、勿論だ。俺達は何をすればいい?煙緋さん」

「勿論だ。任せてくれ。何をすればいいのだ。煙緋さん」

 

それぞれのリーダーである2人の男達は、煙緋のその言葉に頷く。

 

「分かった。ありがとう、感謝する。改めて二個中隊とそれぞれの労働者達に関してだが、まずはお前達は火災対応を行っている第2大隊と第4大隊がいる倉庫群の方まで向かって欲しい。ただしその場へ向かう際は、ただ単純にその場へと向かうのではなくて第3大隊と一緒に、その道中で“先に居る者達の手先”が残した手がかりや手がかりになり得る情報等がないかを探しながら向かってくれ」

 

「ふむ、証拠探しだな。煙緋さん」

「あぁ、分かった。煙緋さん」

 

煙緋のその言葉に労働者達のリーダーの男達はそれぞれ頷く。

 

「そうして現場に到着したら、千岩軍の二個中隊は第2大隊と第4大隊の隊長達、そしてその場を纏めている甘雨さんにここの状況と私が任務の更新を行った事を伝達しつつ、その場に手掛かり等も残されていないかの確認も行ってくれ。そして現場の千岩軍に伝達する際は、第2大隊は引き続き火災騒ぎの対応を、第4大隊の半数は第5大隊と第6大隊の支援、もう半数はここ荷置き場や船着き場で発生した暴動騒ぎの警戒に入るようにしてくれと、それぞれ伝達してくれ」

 

「成程、承知しました。倉庫群に移動する際は移動しながら証拠探しや手掛かりの探索を行い、倉庫群に辿り着いてからは第2大隊と第4大隊の隊長達、並びに甘雨様を始めとする月海亭や七星八門の職員達の各リーダー達への情報共有を行いつつ、現場で引き続き手がかりの捜索を行えばよろしいのですね。承知いたしました。煙緋様」

 

大隊長は煙緋のその言葉に頷く。

 

「あぁ、その通りだ。大隊長殿。そしてお前達、労働者達に関しては私達の第3大隊の二個中隊達と同行し、そうして現場の隊長達と会ったらその場で人手は足りているかを聞いて見てほしい。場所によっては人手が足りていない場所があるかもしれないし、もしかするとその場にいる隊長達であればどの場所が人手不足なのかを知っているかもしれないからな」

 

「あぁ、分かった。煙緋さん」

「了解した。煙緋さん」

 

「あぁ、ありがとう。頼んだぞ。あ、待ってくれ。あとそれと___」

 

そうしてリーダーのその返答に頷いた煙緋は大隊長の元に視線を戻そうとするが、何かを思い出して再び労働者達のリーダーの男達へと視線を向ける。

 

 

「__できれば君達、労働者達も多少は残って私と同行をしてほしい。一応私の元には一個小隊分の千岩軍の護衛が着いているわけだが…、彼らと同じ程度の十数人程度の人数は私と同行してほしい」

 

「十数人か?」

「煙緋さんの元に?」

 

「そうだ」

 

リーダー達の言葉に肯定するかのように、煙緋は縦へと頷く。

 

「実は私も火災騒ぎの現場の方に行こうとは考えてはいるのだがその前に、念のため暴動騒ぎがあったここ荷置き場や船着き場、またその周辺の要所要所の見回りをしておきたいのだ」

 

「見回りか?」

「この辺りをか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

煙緋は彼らリーダー達にそう頷くと、そのまま言葉を続ける。

 

「今のところは私への緊急報告や支援要請と言ったそれらが無いから、ここ荷置き場や船着き場で暴動騒ぎや衝突が起きかけているような事といったような事は無くなったとは思うが、それでも一度自分の目で確認はしておきたいからな。万が一、どこかで小さな騒ぎあったとしたら即座に介入してその騒ぎを鎮静化させようと思っているんだ。そうしてスムーズに鎮静化させるには私や千岩軍の兵士達だけではなく、お前達労働者達もその場にいてくれた方がいいし、また_」

 

煙緋はそこまで言うと、“胡桃達”の方に視線を向ける。

 

 

「_彼女達や彼らもいてくれた方が非常に助かるからな」

 

煙緋は胡桃達に目を向け、そうして彼女達にもそう告げるかのように労働者のリーダー達へと告げる。

 

 

 

 

「___へぇ」

(_私達も一緒に行くんだね…)

 

胡桃は僅かに口角を上げる。

 

 

それは煙緋のその言葉から、彼女が胡桃達の事を認めたように感じられたから。

煙緋のその言葉は、胡桃からすれば自分達を煙緋に認められたような気がして嬉しかったからだ。

 

 

「_私達も行くんだね…」

「_私達も行くんですね…」

「_ふむ…。嘉明」

「_あぁ、分かってるぜ。行秋」

「_成程。それならばもしも、その現場に出くわしたら煙緋殿の期待に沿えるよう、尽力しなければな」

 

そうして香菱に雲菫、行秋と嘉明、そして鍾離もまた、煙緋のその言葉に込められた意味を理解し、それぞれ嬉しそうな笑みを浮かべながら頷く。

 

「成程、そう言う事か。ならば…」

「そういう事か。そういうわけなら…」

 

そして煙緋のその説明に納得したかのように、それぞれの労働者のリーダー達はお互いに目を合わせる。

 

 

 

 

 

「___おい!!誰か、煙緋さんと共に行動してくれる奴はいるか!?」

「___話は聞いたな!?誰か彼女と行動してくれる奴はいるか!?」

 

そうして彼らリーダー達はそれぞれの労働者の大男達に問いかけるようにそう声を上げる。

 

 

 

「_なら、俺が残ろう!!」

「_あぁ、俺もだ!!ここに残るぞ!!」

「_俺も!!俺もだ!!彼女と一緒にいるぞ!!」

「_俺も残って煙緋さんと一緒に行動しよう!!」

 

そうして労働者達のリーダーの男達に呼応するかのように大男達も声が張り上がり、そうして張り上げた大男達はリーダーの前に立つように彼らの前に並び立つ。

 

 

「よし!!頼んだぞ!!お前ら!!」

「煙緋さんを任せたぞ!!お前達!!」

 

「あぁ、任せてくれ!!」

「俺達に任せてくれ!!」

 

リーダー達のその言葉に呼応するように大男達はも口々にそう声を上げる。

 

 

「_ふっ。護衛の一個小隊に加えて、彼らも煙緋様と同行するのであれば心配はありませんね。特別検察官様」

 

「あぁ、そうだな。大隊長殿。大隊長殿、それでは…」

 

「はっ、心得ております。煙緋様」

 

煙緋のその言葉に大隊長は頷くと、大隊長は自分の兵士達に視線を移す。

 

 

 

 

 

「___第3大隊!!総員!!整列!!」

 

「_っ!!」

「_っぅ!!」

 

大隊長のその一声に、胡桃達の元に居た中隊長を含む第3大隊の兵士達は一斉に背筋を伸ばす。

 

 

 

「_俺達と煙緋様達の話を聞いていたから分かると思うが!!俺達第3大隊は任務の更新、任務変更がなされた!!これよりそれぞれを割り当てるので、決して聞き逃さないように!!」

 

「「「はっ!!大隊長!!」」」

 

「まず___」

 

大隊長のその言葉に第3大隊の兵士達はそう頷くと、大隊長は大声で第3大隊の兵士達にそれらを告げていく。

 

 

 

「_以上だ!!分かったな!?」

 

「「「はっ!!大隊長!!問題ありません!!」

 

「よし!!」

 

そうして大隊長はそう頷くと、その視線を煙緋へと移す。

 

 

「_煙緋様、お待たせしました。第3大隊はいつでも行動を開始できます」

 

「あぁ、ありがとう。大隊長殿。それでは___」

 

そうして煙緋は、胡桃達の方へと視線を向ける。

 

 

 

 

 

「_第3大隊!!任務を開始せよ!!崩壊しつつある反刻晴派包囲網、そして璃月港の捜索体制、警戒態勢を立て直すのだ!!」

 

「「「「はっ!!外部特別顧問検察官様!!」」」」

 

煙緋は声高らかに号令を発する。

 

 

「_よし!!それでは諸君、それぞれ行動を開始するぞ!!」

 

「「「はっ!!大隊長!!」」」

 

そうして煙緋の号令を発せられた千岩軍の兵士達はそれぞれ大隊長の指示通り、一個中隊はその場で散開するようにそれぞれの方向へと駆け出し、大隊長が率いる一個小隊を除いた二個中隊は甘雨のいる火災騒ぎが起きている倉庫群の方面へと向かって駆け出す。

 

 

「_よぉし!!俺達も行くぞ!!お前ら!!」

「_俺達も行くぞ!!遅れるなよ!!」

 

「おぅ!!行くぜ!!」

「行くぞぉ!!」

「絶対に手掛かりをみつけてやる!!」

「見逃さないぞ!!絶対に!!」

 

そうしてまた、大隊の後を追いかけるように労働者のリーダーである男達も駆け出し、その後ろを労働者の大男達が各々に声を上げながら走っていく。

 

 

 

「_どうか、何事もなく…。無事に……」

 

そして煙緋はそんな彼らの背中を見送りながら、静かにそう呟く。

 

「………」

(お願い。何か手掛かりを見つけてきて…)

 

そうして胡桃も煙緋と同じように黙って彼らの背中を見つめながら、内心静かにそう願う。

 

「「「「「………」」」」」

 

そうしてまた、香菱達や行秋達も煙緋や胡桃と同じ心境なのか、それぞれがそれぞれ黙って彼らを見つめるのであった。

 

 

 

 

「___特別検察官様…」

 

「_はっ…」

 

そして煙緋達が静かに彼らが去っていた方向をじっと見つめていたその時、煙緋の隣に立っていた千岩軍の兵士が煙緋へと声を掛ける。

 

「煙緋様、大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ。申し訳ない。小隊長殿。私は感傷にふけすぎてしまったようだな…」

 

「いえ、お気になさらずに。特別検察官様」

 

煙緋の言葉に千岩軍の兵士はそう答える。

 

「あぁ、すまない。そ、そうだな。大隊長達は大丈夫なはずだ。行ってしまった彼らに対し、あまりにも心配し過ぎていたようだ。ふぅ…。さて、と……」

 

煙緋は深呼吸すると、行秋や嘉明、そうして胡桃達の方に向き直る。

 

 

「_行秋殿、嘉明殿。それにおおよそ、お初にお目にかかる胡桃殿達も、もう大丈夫であろうか?出発しても問題は無いだろうか?」

 

煙緋はそのように胡桃達へとそう問いかける。

 

「うん、僕は大丈夫。胡桃達は?」

「あぁ、俺も問題ない。胡桃達はどうだ?」

 

行秋と嘉明はそう答えると、彼らは胡桃達の方へと目を向ける。

 

「うん、私も大丈夫だよ」

「大丈夫だよ。いつでも行けるよ」

「はい、私も大丈夫です」

「俺も問題は無い。いつ行ってもいいぞ」

 

胡桃、香菱、雲菫、鍾離は、行秋と嘉明にそう答える。

 

「うん、分かったよ。煙緋さん」

「あぁ、分かったぜ。煙緋さん」

 

行秋と嘉明は彼女達の返答に頷くと、煙緋にそう告げる。

 

「よし、分かった。小隊長」

 

「はっ、我々も問題はありません。我ら第2小隊はいつでも出発できます。特別検察官様」

 

煙緋にそう問いかけられた千岩軍の小隊長は、そのように煙緋に返答する。

 

「そうか、分かった。お前達も問題はないな?」

 

「あぁ、問題ない!!」

「いつでも出発できるぞ!!」

「俺達はもう出発できるぞ!!」

「いつでもいいぜ!!」

 

そうしてこの場に残って煙緋に同行する事になっていた労働者の大男達も、それぞれ彼女にそう返答する。

 

「ふむ、そうか。なら___」

 

そして全員に確認を終えた煙緋はそこまで言うと、改めてこの場にいる全員へと視線を向けてから行秋や嘉明、そうして胡桃達の方にそれぞれ目を向ける。

 

 

 

「___行秋殿、嘉明殿。胡桃殿達。出発しよう。まずはこちらからだ。ついて来てくれ」

 

「_うん、行こう。煙緋さん」

「_あぁ、行こうぜ。煙緋さん」

「_行こう。煙緋さん」

「_そうだね、行こう。煙緋さん」

「_行きましょう。煙緋さん」

「_うむ、行こう。煙緋殿」

 

煙緋が彼らにそう言うと歩き出し、そして行秋や嘉明、そうして胡桃、香菱、雲菫、鍾離はそう答えると、彼らは煙緋の後ろをついていくように、彼女の後ろをついて行く。

 

「_よし、我々も行くぞ」

「はっ、小隊長殿」

「行きましょう、小隊長殿」

「_よし!!俺達も行くぞ!!」

「あぁ!!」

「おう!!」

 

そうしてまた煙緋を警護する千岩軍の小隊の隊員達や、煙緋と同行する為にその場に残った労働者の大男達、二十人から三十人程の男達も彼女達の後を追いかけるように歩き出し、そうしてその場を去っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————

 

 

 

 

 

「___ここも問題は無さそうだな。行秋殿、嘉明殿」

 

「_うん、そうだね。煙緋さん」

「_あぁ、そうだな。煙緋さん」

 

港湾区の船着き場や荷置き場を歩き回る煙緋、それに行秋や嘉明達はそれぞれそう言い合いながら、その場における一通りの状況を確認し終えていた。

 

 

 

「_ふむ、次に行こう。行秋殿、嘉明殿。それに胡桃達ども」

 

「うん、煙緋さん」

「あぁ、煙緋さん」

「うん、行こう。煙緋さん」

「行こう、煙緋さん」

「行きましょう、煙緋さん」

「あぁ、行こう。煙緋殿」

 

そして煙緋が再び次の目的地へと歩き出し、その後ろを行秋や嘉明、胡桃達四人も煙緋の後をついていく。

 

「ねぇ、ねぇ、煙緋~」

 

「うん?どうした胡桃殿」

 

「さっきの万民堂の香菱との研究の話の続きを教えてよ。私、凄く気になっちゃったんだ~」

 

そうして歩くペースを上げて煙緋の隣に並んだ胡桃は、そう煙緋へと話しかける。

 

「あぁ、あの話か。勿論良いぞ。先ほども言った通り、私の好物と言うのは豆腐でな。豆腐に関しては、私はかなりのこだわりがあるんだ。それでその日、万民堂を訪れた際に、香菱殿がいたんだ。それで___」

 

そして胡桃にそう答えた煙緋は、万民堂での香菱とのやり取りを楽しそうに胡桃へと話し出す。

 

 

煙緋達があの場を出発してから、それなりの時間が経った。

 

まず本来の目的である暴動騒ぎが発生していた荷置き場や船着き場の見回りに関しては、予定通りに各地の見回りを行い、そうして特にその場所で暴動騒ぎや衝突騒ぎと言ったような問題は起きていなかった。

 

またその際には煙緋の任務変更の命令を受け取って、第5大隊と第6大隊のいる現場に急行していた第3大隊の第4中隊や第1大隊の面々達とも遭遇し、予定通り着実に煙緋の命令した通りの任務をこなしている事が確認できた。

 

そしてまた第4大隊の兵士達も時間が経てば経つほど、その港湾区の船着き場や荷置き場で見かけるようにもなって行ったという事から、暴動騒ぎの警戒の引継ぎも順調である事が伺えた。

 

 

続いて移動の最中に煙緋と同行していた行秋や嘉明、胡桃達四人は当初、既に彼女と行動を共にしていた行秋と嘉明を除く彼女達は煙緋とは初対面の為、少しだけ彼女に対して緊張を抱いていたものの、煙緋が気を効かせて胡桃達に自己紹介を行った結果、彼女達のその緊張がほぐれた。

 

そうしてまたその過程で、胡桃達の中の香菱だけは実は厳密には煙緋とは初対面では無かったことが発覚し、香菱が食堂を訪れて何度も豆腐を注文して評論家のように味わって食べていた不思議なお客さんである煙緋の話をした結果、煙緋と胡桃達は打ち解け、そうして当初は完全に赤の他人で初対面な人と言った関係から、ちょっとした知り合い同士、もしくは新しくできた友人のような関係性へとなっていったのであった。

 

 

 

 

「_よし、最後のここも問題はなさそうだな」

 

「うん、そうだね。煙緋」

「そうだね、煙緋。良かったぁ、本当に」

「そうですね、煙緋さん。良かったです。本当に」

「そうだね、煙緋さん。何事もなく、本当に良かったよ」

「そうだなぁ、煙緋さん。本当に良かったぜ」

「そうだな、煙緋殿。何事も無く、本当に良かった」

 

そうして璃月港の港湾区各地の船着き場や荷置き場を歩き回っていた煙緋は満足気に頷き、胡桃達や行秋達も安心したかのように煙緋の言葉に頷く。

 

「何事も無く良かったです」

「本当にです。小隊長」

「そうですね、小隊長」

 

「あぁ、本当に良かったぜ」

「俺達の出番も出て来なくてなぁ」

「あぁ、本当にだ。よし、この辺りはもう大丈夫って事だな」

 

そうしてまた煙緋達の元に控えるように同行していた千岩軍の小隊の兵士達や、労働者の大男達もまた安心しきったようにそう口々に告げる。

 

「あぁ、そうだな。お前達、ここまで本当にご苦労だった。感謝するぞ」

 

「はっ、ありがとうございます。煙緋様」

「おぅ、ありがとうな。煙緋さん」

 

そして煙緋は千岩軍の兵士達や労働者の大男達の方にも労いの言葉をかけ、小隊長や同行している大男達の実質的なリーダーとなった男もまた煙緋にそう答える。

 

「あぁ、本当にありがとう。みんな」

 

煙緋はそう言うととある方向に視線を向ける。

 

その視線の先にあるのは港湾区の倉庫群。

火災騒ぎで騒ぎとなっていた場所、場所によっては消火作業等も行っている混乱と喧騒に包まれている場所であり、そうして甘雨が居る場所でもある。

 

 

「_ふむ、黒煙等は見えないな…」

 

煙緋は静かにそう呟く。

 

幸いにも倉庫群から黒煙等が空に上がる様子も、倉庫群から火の手が上がる様子もなかった。

そしてその事に煙緋は安堵した様子を見せる。

 

 

「_煙緋さん、次は倉庫群に向かうのかい?」

「_煙緋さん。倉庫群の方に向かうのか?」

「_ねぇ、煙緋。次って、あそこ?」

 

「あっ。行秋殿、嘉明殿。それに胡桃殿」

 

煙緋は、行秋や嘉明に胡桃の三人に声を掛けられて振り向く。

 

「あぁ、そうだぞ。三人とも。次はあそこの予定だ」

 

煙緋はそう答えると、再び倉庫群の方に目を向ける。

 

 

 

「_黒煙等は上がってはいない。倉庫群の状況は思った以上に大丈夫そうだな…。よし」

 

そうして煙緋は頷くと、胡桃達の方へと再び目を向ける。

 

「胡桃殿達、それに小隊長殿達、そして私に付いて来てくれたお前達。これより倉庫群に向かって出発するぞ」

 

「うん、分かったよ。煙緋」

「分かったよ、煙緋」

「分かりました、煙緋さん」

「うん、了解だよ。煙緋さん」

「あぁ、了解だぜ。煙緋さん」

「うむ、承知した。煙緋殿」

 

そして煙緋はそう言うとそのまま歩き出し、胡桃達も煙緋の後を追って歩き出す。

 

「_はっ、煙緋様。我らも行くぞ」

「了解です。小隊長」

「行きましょう、小隊長」

 

「_よし、行くぞ」

「おぅ、行こう」

「あぁ、行こう」

 

そうして千岩軍の兵士達や労働者の大男達もまた、煙緋と胡桃達の後に続いて歩き出し、そうして煙緋達は倉庫群の方へと向かって歩いていく。

 

「…ねぇ、ねぇ。煙緋」

 

「む、どうした。胡桃殿」

 

そして煙緋の斜め後ろの方に居た胡桃が煙緋に声を掛ける。

 

「ねぇ、煙緋。私達、これから倉庫群の方に向かうという話だけど、倉庫群のどこに向かうの?」

 

「あぁ、その事なんだけどな。___」

 

煙緋はそこまで言うと、一度そこで言葉を止める。

 

 

「_実はまずは、甘雨先輩のところに向かおうと思う」

 

「甘雨先輩?」

「甘雨…。あぁ、彼女か……」

 

煙緋のその言葉に胡桃は首を傾げ、既に彼女と直接会った事のある行秋は彼女の顔を思い出しながらそう答える。

 

「甘雨さん…。確か、火災騒ぎを担当している人だよね」

「そうですね、香菱さん。不審火騒ぎの対応している人です」

「そうだぜ。香菱、雲菫。そして、倉庫群の職員達や兵士達を取り纏めている人でもあるぜ」

「ふむ、その通りだ。確か火災騒ぎを担当している彼らを率いている人物でもあったな。香菱殿に雲菫殿。そして嘉明殿」

 

そうして煙緋のその言葉に香菱、雲菫、嘉明、そして鍾離が頷く。

 

「うん、そうだ。皆。甘雨先輩は港湾区の倉庫群の火災騒ぎを担当し、そうして実際に消火作業の指揮を行ったり、自ら消火を行っている人だ」

 

煙緋はそう言うと、前方の方に視線を戻す。

 

「そうして私達はまずは甘雨先輩の元に合流し、あの人から今の倉庫群の状況の確認、そしてここで起きていた暴動騒ぎのより詳細な情報共有を行おうと思う。その上で私達は必要に応じて、倉庫群の消火作業の手伝い等を行う事になると思うぞ」

 

「成程ね…」

 

煙緋の説明に胡桃は納得したかのような表情を浮かべる。

 

「分かったよ。煙緋」

「分かりました。煙緋さん」

「うん、分かったよ煙緋さん」

「あぁ、分かったぜ。煙緋さん」

「承知した。煙緋殿」

 

そうしてその説明に納得の意を示すように香菱達や行秋達、そして鍾離も頷く。

 

「ありがとう、みんな。それでは悪いが、少し急ごう。倉庫群はそこまで離れてないし、先ほど確認した通りあそこはおそらく大丈夫なはずだが…。やはり甘雨先輩の方はどういう状況なのかが、一刻も早い確認が必要だ。少しペースを上げるぞ」

 

煙緋はそう言うと歩くペースを速め、やや早歩きと言った様子で歩き出し、胡桃達や行秋達も煙緋の後を追って早歩きで移動し始める。

 

 

「_ねぇ、煙緋さん」

 

そうして早歩きで移動している最中、ふと行秋が煙緋に声を掛ける。

 

「ん?なんだ、行秋殿?」

 

「いや、少し気になったんだけど。煙緋さんが言う甘雨さんって、具体的にどのような人なのかが気になってね」

 

「甘雨先輩がか?」

 

「うん、そうだよ。煙緋さん」

 

煙緋のその言葉に行秋はそう答える。

 

「あっ。確かにそれは私も気になる」

「うん、そうだね。私も気になるな。先輩、でしょ…」

「確かに気になりますね。それに先輩、ですか…」

「言われてみれば確かに気になるぜ。二人はどういう関係なんだ?」

「ふっ。確かにそうだな…。それに煙緋殿は、甘雨殿の事をどう思っているのかも気になるな」

 

そうして行秋のその疑問に胡桃達は煙緋や甘雨について興味を示し、それぞれが彼女にそう告げる。

 

「私と甘雨先輩、か。そうだな…」

 

煙緋は煙緋は歩きながらそう呟くと、顎に手を当てる。

 

「そうだな…。甘雨さん、甘雨先輩というのは…。まぁ、色んな意味で私の先輩とでも言える人だな。私はかなり、あの人のお世話になってきていたからな」

 

煙緋は甘雨の事を、そして彼女との出来事の事を思い出すかのようにしながら、ゆっくりと言葉を選ぶかのようにそう告げる。

 

「お世話になっていたんですか?」

 

「あぁ、そうだぞ。行秋殿」

 

煙緋は行秋のその問いかけに対して頷く。

 

「私があの人の事を先輩というのは…。まぁ、私がこの璃月港に住み始めた時、その時にあの人から璃月港について色んな事と教わったからという事もあるからだな」

 

「璃月港についてですか?」

 

「うん、そうだぞ。例えば昼食を取るなら万民堂がおすすめって教えてくれたり、なにか怪我とかをしたり急病人を見つけた時には不卜廬にまで連れて行くのが一番良いと教わったりと、璃月港で暮らしていく上での色々な事を教えて貰ったからな」

 

煙緋はそう行秋の問いに答える。

 

「へぇ、そうだったんですか。煙緋さん」

 

「あぁ、そうだぞ。行秋殿。あとは純粋にあの人の仕事ぶりに関しても尊敬しているからな」

 

「お仕事をですか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

煙緋はそこまで言うと、彼女はどこか嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「あの人は月海亭の職員、そうして璃月七星達の秘書を務めていて、そうして彼女の身分が七星全体の秘書という事も相まってとても多忙で中々に厳しい仕事をこなしているんだ。だが彼女は今まで、そのような仕事を少しも苦しそうな顔をせず、顔色一つ変えずに完璧にこなしてきているんだ。だからあの人の仕事っぷりに感服して、尊敬しているんだよ」

 

煙緋はそうにこやかに語る。

 

「そうなんですか、煙緋さん」

 

「あぁ、そうなんだ。行秋殿。お互いに私は法、甘雨先輩は行政に携わる者として、法と行政がそれなりに重なる部分があるからこそ、私はあの人の仕事人としての素晴らしさを真に理解し、彼女を尊敬していると言えばいいのか。甘雨先輩のその仕事の態度や姿勢、そしてそんな彼女の手腕や実力にとても敬意を抱いているんだ」

 

煙緋はそう行秋に告げる。

 

「そうなんですか…」

 

行秋はそんな煙緋の話を聞いて、どこか感心したような表情を浮かべる。

 

「へぇ、そうなんだ…」

(成程ね……)

 

そうしてその話を聞いていた胡桃は、内心で納得するように頷く。

 

「へぇ、そうだったんだ…」

「成程、そうだったんだですね…」

「へぇ、そうだったのか…」

「ふむ、成る程。彼女を尊敬している、か…」

 

そして香菱や雲菫、嘉明や鍾離もまた納得し、感服したかのように頷きながら、それぞれ煙緋の話を聞いていた。

 

「まぁ、そう言う事だ。そして___」

 

煙緋はそこまで言うと鍾離の方に顔を向ける。

 

 

「_鍾離殿の甘雨殿をどう思っているのかという質問に関しては、先ほど述べた通り尊敬する人、そうして私の事をお世話してくれた大切な人だな。だからこそ、何かがあれば先輩の事を全力で助けたいとも思ってるし、彼女が何かに困ってたり悩んでいたら、私は力になりたいとも思っている。実際に彼女は“とある事で悩んでいた”から、何回かその相談に乗ったりもしたからな」

 

煙緋はそう言うと、甘雨が言っていたその“悩み事”についてを思い出したのか、彼女は難しそうな表情を浮かべる。

 

「ほぉ…。悩み事か……」

 

「甘雨さんに悩み事ですか?煙緋さん」

 

煙緋のその言葉に鍾離は興味深げそうにそう言い、行秋はその悩み事に関して興味深そうに尋ねる。

 

「あぁ、そうだ。悩み事だ」

 

「へぇ…。煙緋さん。それは、何なのでしょうか?」

 

行秋は興味深げにそう煙緋に尋ねる。

 

「あぁ、それはだな…。いや、待て」

 

行秋にそう尋ねられた煙緋は、そのままの勢いで甘雨の悩みについて答えそうになるが、その途中で何かに気づいたかのように言葉を止める。

 

「うん?煙緋さん?」

 

行秋は急に黙り込んだ煙緋に首を傾げる。

 

「いや…。行秋殿。申し訳ないが、その質問には答えられないな」

 

「答えられない、ですか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

煙緋は縦に頷きながら、行秋に対して答える。

 

「実は甘雨先輩が私に話して来たその悩み事なんだが…。まぁ、その何といえばいいのやら…、甘雨先輩自身に関する悩みなんだ……」

 

煙緋はどう説明すればいいのか、それを考えながら話す。

 

「甘雨さん自身の…?」

 

「あぁ、そうだ。行秋殿。先輩のそれはかなりデリケートな物でな…。端的に言ってしまうと、甘雨先輩自身の出生や出自に関する事なんだ……」

 

煙緋は眉をひそめながら、そう行秋に告げる。

 

「甘雨さんの出生と出自ですか?」

 

「あぁ、そうなんだ。行秋殿。だからそんなデリケートな話は、先輩の了承無しに私は行秋殿達には話せない」

 

煙緋は申し訳無さそうな表情を浮かべながら、そう行秋に対して答える。

 

「そうですか…、分かりました」

 

煙緋のその反応を見て、行秋も煙緋のその反応に納得して引き下がる。

 

「へぇ、そう言う事なんだね…」

(出生や出自に関する悩み事ね…)

 

そうして煙緋と行秋のやり取りを傍らで聞いていた胡桃は、煙緋のその説明を聞いて納得する。

 

「成程…」

「そう言う事ですか…」

「成程だぜ…」

 

そして香菱や雲菫、嘉明もまた、煙緋のその話で納得したような表情を浮かべる。

 

「ふむ…。成程…。悩み事……。ふむ……」

 

そうしてまた鍾離も腕を組みながら、まるでその悩み事について何か心当たりがあるかのように、神妙な表情を浮かべながら煙緋の話を聞いているのだった。

 

「煙緋さん、ありがとうございます。とても興味深い話でした」

「煙緋、私こそありがとうね。本当にとても興味深い話だったよ」

 

「ふむ、そうか。行秋殿、それに胡桃殿。それは良かったぞ」

 

そうして煙緋は行秋と胡桃に礼を言われると、微笑む。

 

 

 

 

 

「___まだ通るな!!先にこっちが優先だ!!」

「___おい!!道の真ん中付近は極力通るなよ!!左側通行を厳守しろ!!」

「___すまない!!通るぞ!!急げ!!」

「___よし!!通り終わったな!!次はお前達だ!!さっさと行け!!」

「___ありがとうな!!行くぞ!!」

「___あぁ!!行くぞ!!」

 

その時、煙緋や胡桃達の耳にそんな声が響く。

 

 

「_ふむ。なんだかんだ、もう着いてしまったようだな」

 

「そうだね、煙緋。ここが…」

「そうだよね、煙緋。それにしても…」

「そうですね、煙緋さん。そして、これは…」

「そうですよね、煙緋さん。それにしても、これはどうやら…」

「あぁ、そうだな。煙緋さん。そうして…」

「そうだな、煙緋殿。そしてここが倉庫群。ふむ、思った以上に…」

 

そうして煙緋がそう呟くと同時に、彼ら胡桃達もまた煙緋と同じ事を呟く。

 

 

 

そこは璃月港の港湾区の中心地と言っても良い場所。

この港湾区の中心機能が集まる場所の一角。

 

璃月で随筆と言っては過言では無いほどの多くの物資や貿易品といった商品が行き交い、保管される場所である“璃月港港湾区の倉庫群”。

 

 

煙緋と行秋や胡桃達が甘雨に関する事を話している間に目的地である、璃月港港湾区の倉庫群に、彼らは今到着していた。

 

「ふむ…」

「「「「「「…」」」」」」

 

煙緋と胡桃達は周囲の状況を改めて見渡して観察する。

 

 

煙緋達が見る限りだと現在の倉庫群は無秩序な大混乱に陥ってはいないという事が明白であった。

 

 

倉庫群の道、通りの十字路やT字路の真ん中に木箱、もしくは脚立や踏み台の上に乗った千岩軍の兵士達が立っていた。そうして彼らはそれぞれ、倉庫群の道や通りの交通整理を行っていた。

 

そしてそんな彼ら兵士達の指示に従って荷車を引いていた倉庫群の職員や千岩軍の兵士達、そしてこの現場の労働者であろう作業員の大男達や港湾区の近くにいた力自慢であろう民間の協力者達であろう男達が、彼ら交通整理を行っている千岩軍の兵士達の指示に従って道や通りの通行を行っている光景が煙緋達の目に入る。

 

 

 

「ほぉ…」

 

そうして煙緋は行ったり来たりしている荷車の中身を興味深げに観察し、またその荷車の積み荷の中身自体にも序列がある事に気づくと、煙緋は感心したかのように声を漏らす。

 

「へぇ…」

(色んな物が行ったり来たりしてるけど優先順位とかもあるんだね…)

 

そして煙緋と同じく流れていた荷車に興味があった胡桃は、煙緋と同じくその事に気づいてそれらに対して感心させられたかのように声を漏らした。

 

 

「_怪我人が通るぞ!!道を通らせてくれ!!真ん中を通らせてくれ!!」

「_消火用の水の運搬車が通るぞ!!まだ現場は完全に鎮火しきれてないんだ!!俺達の通行を優先させてくれ!!」

「_うん!?救急運搬車か!?分かった!!もう少し左に寄る!!」

「_消火水運搬車か!?分かった!!おい!!輸送車の隊列はその荷車で一旦止まれ!!彼らの通行を優先させる!!」

「_分かった!!先に行け!!早くしろ!!」

「_あぁ!!ありがとう!!恩に着る!!」

 

響き渡る男達の声が煙緋達の耳元を通り過ぎる。

 

「う、うわぁ…」

「す、凄いです…」

「こ、これは…」

「や、やべぇな…」

「ふむ、この整然とした状況。もしかすると彼女の指示によるものか…」

 

そうして香菱達や行秋達、そして鍾離もその光景に声を漏らす。

 

「_こ、これは…」

「ここはこうなっていたのか…」

「思った以上に…」

 

「_す、すごい…」

「すげぇ…」

「そこまで酷い事にはなってなさそうだな…」

 

そうしてまた千岩軍の兵士達や労働者の大男達も、目の前のその光景に声を漏らす。

 

 

忙しなく動きながらも秩序ある行動を行う荷車の群れに、その荷車を引いているそれぞれの身分や立場関係なく引いていく男達。

 

真ん中辺りが空いていた道路を怪我人等を乗せた荷車が通り過ぎて行き、十字路の方では近くの川や海の水を大量に汲み入れてきたのであろう、大量の水で満載となっていた消火水運搬車の群れが横切るように通り過ぎて行く。

 

言うなれば倉庫群で火災騒ぎが発生した為、商いの品や貿易の品を避難させるトラックの群れの中で救急車や消防車の群れがそれぞれ動き回り、その救急車や消防車の群れを手信号による交通信号で彼らを優先させる警察官や、サイレンによって彼らの存在に気づいたトラックの運転手が自身のトラックを、彼らが通りやすいように道の端へと止めるような光景が煙緋達の目に入る。

 

 

そしてそのような光景に彼ら煙緋達、また千岩軍の小隊達や労働者の大男達は目を奪われる。

 

 

「_むっ。胡桃殿達、もう少し左に寄ろう。彼らの邪魔になるわけにはいかない」

 

「そうだね、分かった」

「うん、分かった」

「そうですね、分かりました」

「そうですね、煙緋さん。分かりました」

「あぁ、分かったぜ。煙緋さん」

「承知した。煙緋殿」

 

そうして十字路の近くまで来た煙緋達は煙緋が胡桃達の方を見て、彼女達にそう言うと胡桃達もまた煙緋に言われた通り、多種多様な荷車を引いている男達を妨げぬようにと道の左側へと移動する。

 

 

 

「___うん…?あぁっ!?煙緋様!!」

 

そして十字路の前に立った煙緋達に気づいた千岩軍の兵士は、驚いたようにそう叫んで大急ぎで敬礼をする。

 

「_はぁっ!?煙緋様だと!?」

「_本当だ!!彼女だ!?」

「_待て!!これって彼女を優先した方が良いのではないか!?」

「_止まれ!!煙緋様だ!!きっと急ぎの用事だ!!」

 

そして煙緋の存在に荷車を引いていた男達は気づいたと同時に、彼らは慌てて急停車しようとしたり、道を譲ろうと大急ぎで端に止めようとしたりと、一気に大騒ぎになる。

 

 

「あぁ!!待て待て!!お前達!!私は急ぎの用事でここを訪れたのではない!!通常通りにしてくれ!!君!!交通整理を止めるな!!そのまま続けてくれ!!」

 

そして煙緋は自身の存在のせいで一気に騒然となった事に、煙緋は慌てながら、その千岩軍の兵士や彼らにそう指示する。

 

「は、はい!!煙緋様!!よ、よし!!そのまま前に進め!!」

 

「わ、分かった!!」

「了解だ!!」

「分かった、今すぐ行く!!」

「すみません!!今すぐ行きます!!」

 

そうして煙緋のその言葉を聞いた千岩軍の兵士達と荷車を引いていた男達は一斉に作業を再開し、煙緋はそんな彼らの様子を見て安堵する。

 

「ふぅ、よし。良かった…。どうなるかと……」

 

「本当にだよ…」

(あ、焦ったぁ…)

 

そうして煙緋と胡桃は、まさか自分達がその場に現れただけでここまで大騒ぎになるとは…と、共にそう思っていた。

 

「び、びっくりしたぁ…」

「驚きました…」

「まさか、あんなことになるなんて…」

「本当にだぜ…」

「あぁ、本当にだ…」

 

そうしてまた香菱達や行秋達、鍾離も彼らの言葉に同意する。

 

 

「_君!!ちょっと良いかい!?」

 

「はっ!!なんでしょう!!煙緋様!!」

 

煙緋は通りを流れる荷車、交通状況を確認しながらチャンスと言わんばかりに交通整理を行っている千岩軍の兵士に声を掛け、千岩軍の兵士もチラッと見ながら彼女にそう答える。

 

「すまないが、甘雨先輩の居場所を知らないか!?私は彼女に荷置き場や船着き場の状況を報告をしに来たんだ!!それとこちらの状況を確認しにな!!」

 

煙緋は彼にそう説明しながら甘雨の居場所を尋ねる。

 

「そう言う事ですか!!煙緋様!!それでしたら、確か甘雨様はあちらの方にいられたかと思われます!!」

 

彼はそう言いながら、甘雨がいる方向に指さす。

 

「ふむ…。あっちか…」

 

煙緋は顎に指を添えて考え込む。

その方向は倉庫群の中心か、それとも反対側に位置するという所を意味するのか。

 

「まぁ、仕方ないか」

 

煙緋はそう言うと顔を前へと向き直す。

 

 

甘雨の正確な居場所は分からないし、彼に指さす方向が倉庫群の中心地なのか、それとも反対側を差しているのかは分からない。

 

彼に更に問おうにも、また交通量が増え始めており、それに準じて彼も忙しくなってきている。

 

そんな状況の彼に煙緋は、これ以上負担を掛けてはいけない。そう判断し、彼に具体的な場所を尋ねるのは諦める事にした。

 

 

 

「___胡桃達殿、小隊長達殿、それにここまで付いて来てくれたお前達労働者達殿。とりあえず、まずはこのまま真っすぐ進むぞ。そうして道中会う交通整理を行っている兵士達に甘雨先輩の居場所を尋ねながら、先輩の元まで行こうと思う。良いな?」

 

煙緋はそう言うと胡桃達や行秋達、そして彼女達に同行してくれた千岩軍の小隊の兵士達や、荷置き場や船着き場にいた労働者の大男達にそう尋ねる。

 

 

「_うん、勿論だよ。煙緋」

「_うん、分かったよ。煙緋」

「_分かりました、煙緋さん」

「_はい、分かりました。煙緋さん」

「_あぁ、分かったぜ。煙緋さん」

「_承知した。煙緋殿」

 

胡桃達や行秋達は煙緋の言葉にそう頷く。

 

 

「_はっ、煙緋様。了解しました」

「了解しました、煙緋様」

「了解です、煙緋様」

 

「_あぁ、分かった」

「おぅ、分かったぜ」

「分かったぜ」

 

そうして煙緋や胡桃達にここまで同行してくれた兵士達や大男達もまた、煙緋に向かってそれぞれそう答える。

 

「ありがとう、みんな。あともう少しだ。あともう少しで、甘雨先輩の元に辿り着けるぞ」

 

煙緋は胡桃達に礼を言うと、これから進む方向を見やりながらそう呟く。

 

 

 

「___よし!!そこの荷車とそこの荷車!!そこで一度止まれ!!次はこっちを通行させる!!」

 

その時、交通整理を行っている千岩軍の兵士が一声が響き渡り、煙緋の前を横切って行った荷車の群れの流れが止まる。

 

 

「_よし!!止まったな!!よし、今度はこっちだ!!通れ!!通行を始めろ!!煙緋様!!どうぞ!!そして煙緋様にご同行している皆様方もお通りください!!」

 

その千岩軍の兵士は手招きしながら、煙緋の方を見てそう促す。

 

 

「_あぁ!!分かった!!よし!!皆!!行くぞ!!」

 

「うん!!行こう!!」

「行こう!!」

「行きましょう!!」

「あぁ、行こう!!」

「行こうぜ!!」

「うむ、行こう!!」

 

そうして煙緋のその一言で胡桃達や行秋達は一斉に動き出し、十字路を直進する。

 

「_了解です!!煙緋様!!」

「了解!!」

「分かりました!!」

 

「_あぁ、分かった!!」

「行こうぜ!!」

「行くぞ!!」

 

そうしてまた彼女達の後ろを煙緋を警護している千岩軍の兵士達と、煙緋に付き添っていた労働者の大男達が、その十字路を横断するように直進していく。

 

 

そして彼らはまず、先程の交通整理を行っていた千岩軍の兵士が指差した場所である倉庫群の中心地、その方向に向かって歩みを進め始めて行ったのであった。

 

 




次回に続きます。

とりあえず次回は最低でも甘雨と合流を果たし、そうして第七幕最終回に向けて未だに登場していない三人。“夜蘭”、“凝光”、“刻晴”の内の一人(理想は二人)は登場させていければと思います。



それではまた、次回の投稿まで今しばらくお待ちください。





—————
追記1
・セリフに誤りがありましたため、修正を行いました。(半減してしまう→三分の二までに減少してしまう)
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