名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

59 / 69
投稿できる分は既に完成し、現在の文章量等を鑑みた結果、投稿する事を決意したので投稿。
(前回の最新話(「_甘雨殿の事をどう思っているのかも気になるな」)を投稿してから二万六千字程度までの随筆を行う事ができ、話は甘雨と合流、甘雨達とのやり取り、そうして甘雨達以外の次のシーンの話の途中までと、そこまで作成する事が出来ました。ですがこれをそのまま次のシーンが終わるまで描写してから投稿するとなると、またもやとんでもない膨大な文字数となってしまうという問題が発生しました。そのためいくらなんでもこのまま投稿するわけにはいかないと判断した為、今回はおおよそ2万字程度でかつキリの良い所までを今回の話として投稿しようと思います)

今回は甘雨との合流を果たし、そして甘雨が担当していた火災騒ぎが発生した倉庫群の話等。そうしてこの後に続く次のシーン、次のシーンである本章最終局面への導入シーンとなります。


それでは前回の煙緋達が甘雨の合流を試みている所の続きからです。


_俺から甘雨殿に一つ、助言をしよう

Side:胡桃

 

「___ふむ。どうやら甘雨先輩は倉庫群の中心ではなく、向こう側の奥の方にいるみたいだな。まだもう少し、時間がかかりそうだな…。すまない。胡桃殿、行秋殿。それに皆」

 

「_うん、そうだね。煙緋。でも、良かったよ。確実に近づいているわけみたいだし」

「_そうですね、煙緋さん。でも大まかな場所は分かったわけですし。きっと、もう少しですよ」

 

璃月港港湾区の倉庫群。

その倉庫群の通りを煙緋達は歩いていき、道を歩く煙緋は顔を前へと向けながらそう呟く。

 

そして彼女は後ろを振り向いて胡桃や行秋、その他香菱達や嘉明達、またここまで付いて来てくれた千岩軍の兵士達や労働者の大男達にそう謝罪する。

 

そうしてそれに対し、胡桃と行秋は彼女を励ますように煙緋にそう言う。

 

 

「_いや、大丈夫だよ。このまま行こうよ、煙緋」

「_気にしないでください。煙緋さん。確実に甘雨さんの元には近づいているのですから」

「_あぁ、そうだぜ!!煙緋さん!!このまま行こうぜ!!気を落とすなって!!」

「_彼らの言う通りだ。煙緋殿。それに甘雨殿の元までは、そう遠くはないはずなのだからな」

 

煙緋のその言葉に香菱や雲菫、そして嘉明に鍾離もそう励ます。

 

 

「_お気になさらないでください。煙緋様。大丈夫です」

「大丈夫ですよ、煙緋様。このまま行きましょう」

「大丈夫です、煙緋様。このまま歩みを進めて行きましょう」

 

「_気にするな、煙緋さん。このまま行こう」

「そうだそうだ。気にするなよ、煙緋さん」

「あぁ、このまま行こうぜ。甘雨さんまでそう遠くはないんだからさ」

 

そうしてここまで付き添ってくれた千岩軍の兵士達や労働者の大男達も、それぞれ口々でそう励ます。

 

「あぁ…。本当にありがとうな、皆。よし、このまま行こう。甘雨先輩の元まで、そう遠くはないはずなのだからな」

 

煙緋はそんな彼らに感謝の言葉を告げ、そう改めて呟くと奥の方へとまた進んでいき、その後ろを胡桃達、そうして兵士達や大男達も歩いてゆく。

 

 

 

煙緋達が倉庫群に着いてから、既に十五分程度以上は経ったのであろうか。

 

煙緋達は荷車の群れの流れに乗って、ゆっくりとであるが着実に前へ前へと進んでいた。

 

そして煙緋は道中、十字路やT字路に立っていた交通整理を担当している千岩軍の兵士達一人一人に甘雨の居場所を尋ね、そうして甘雨が居る場所を少しずつ特定しながら進んでいった。

 

 

そうして煙緋はようやく甘雨の居場所の特定の決定打となる多数の証言を手に入れる事ができ、その場所に向かって煙緋達は歩みを進めていったのであった。

 

 

 

 

 

 

「_はっ!!煙緋様!!甘雨様はあちらの方になります!!このまま真っすぐ進んでいただければ、いずれかは甘雨様達の元に辿り着けると思います!!」

 

「そうか!!ありがとう!!すまない!!邪魔をしてしまって!!」

 

「いえいえ!!煙緋様のお役に立てたようで良かったです!!」

 

とある十字路の前で止まり、十字路の真ん中に立っていた交通整理中であった千岩軍の兵士に尋ねた煙緋は彼の返答に満足げに頷く。

 

「もう少しだね、煙緋!!」

 

「あぁ!!そうだな!!胡桃殿!!」

 

そうしてそんな煙緋に対して胡桃は嬉しそうな表情を浮かべながら彼女にそう言い、それを言われた煙緋もまた満面の笑みを浮かべながら胡桃にそう答える。

 

「うん!!そうだね!!本当にあと、もう少しのようだね!!」

「はい、本当にです!!あともう少しで…!!」

「うん!!本当にだよ!!ようやく彼女の元へ…!!」

「あぁ!!早く彼女の元に行きたいな…!!」

「ふっ、そうだな…!!このまま真っすぐ歩き続ければ、ようやく辿り着けるぞ……!!」

 

そして香菱や雲菫、行秋に嘉明、そうして鍾離もまた、煙緋と同じように嬉しそうな表情を浮かべながら、そう呟く。

 

 

「_よしっ!!そこの荷車とそこの荷車!!お前達荷車は、その停止棒の隣で止まれ!!」

 

「あぁ!!分かった!!」

「分かった!!止まるぞ!!」

 

その瞬間、交通整理を行っていた千岩軍の兵士の一声が響き、彼の指示を受けた荷車はその位置で停止する。

 

 

「_よしっ!!次だ!!煙緋様!!それに煙緋様にお付きの皆様方!!お待たせしました!!どうぞお通りください!!」

 

そうして荷車達が止まった事を確認したその兵士は煙緋達に向かってそう言うと、煙緋達に向かってそう言いながら敬礼をする。

 

「あぁ!!分かった!!ありがとう!!よし!!それじゃあ行くぞ!!皆!!」

 

そして煙緋はそんな千岩軍の兵士に対して感謝の言葉を告げると、再び煙緋は歩みを進める。

 

「うん!!行こう!!煙緋!!」

「行こう!!煙緋!!」

「行きましょう!!煙緋さん!!」

「あぁ!!行こう!!煙緋さん!!」

「おぅ!!行こうぜ!!煙緋さん!!」

「あぁ…!!行こう!!煙緋殿!!」

 

「_行きましょう!!煙緋様!!」

「了解です!!煙緋様!!」

「承知しました!!煙緋様!!」

 

「_おぉ!!行こう!!煙緋さん!!」

「行こう!!煙緋さん!!」

「行こうぜ!!煙緋さんよぉ!!」

 

そしてまた胡桃達や行秋達、そうして煙緋に同行する千岩軍の兵士達や労働者の大男達も彼女にそう言いながら、煙緋の後ろを付いていくように彼女の後を追ってゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「___ふぅん…」

(やっぱり実際にあったんだね…)

 

そうして煙緋の後ろを歩く胡桃は、偶然視線を向けた先にあった“それ”に対して心の中でそう呟く。

 

胡桃が偶然視線を向けた先、そこにあったのは“そこで実際に不審火騒ぎや火災騒ぎがあったという事実”とも言える物証。

 

 

 

「_やはりこれが火災の原因か…?一番激しく燃えたのはこれみたいだが……」

「_そう、みたいだな…。この燃えた木箱の中にあったこれ…、これは瓶なのか?」

「_そうと見て間違いないだろう。それにその割れた瓶らしき上に不自然に敷かれていた干し草のような物。こいつは只の干し草じゃない。おそらくこいつは…」

「_あぁ、そうだ。それに幸い燃えずに残っていたここの部分を嗅いでみろ。この独特な匂い。香膏、そして何かしらの肥料がそれぞれ混じり合ったような独特な匂いだ。つまりはおそらく…」

「_そう言う事だろ。言うなれば、これは延焼材。もしくは燃焼材と言えるだろう。そうしてこの割れた瓶も、よく一部の宝盗団の連中が扱っている炎元素の投擲瓶と似たような物じゃないか?」

「_あぁ、そうだな。つまりはこの炎元素の瓶が木箱の中で吊るされていて、それが何らかの形でその延焼材や燃焼材の方に落下して割れて、そうして一気に燃え上がっていったという事か…」

「_あぁ、大方その辺りだろう…。もしもこれに火薬、いや例え大砲用の火薬でなく、花火のような民生品の火薬であっても、それが木箱の中に一緒に入っていたとしたら…。あぁ、それはもうちょっとした爆弾にすらなってしまっていたのかもしれないな…。そしたら大惨事だったぞ……」

「_本当にだ。あと気になるのは…。確か不審火があった他の現場の近くには、例えば倉庫の窓や扉。それに近くに止まっていた荷車に不審に結ばれていたロープがあったんだよな…。やっぱり関係あると思うぞ。どう考えても、どう考えたとしてもな」

「_俺もそう思う。よし。もっともう少し、くまなく探してみよう。何か見つかるかもしれない」

「_あぁ、そうだな。探してみよう。まだ俺達は、何かを見逃しているかもしれない」

「_そうだな。もっと探してみよう。他の場所でもそんな不思議な物が見つかったんだ。ここでも何かしらの物は見つかるはずだ。絶対にな」

「_あぁ、そうだ。探してみよう。この木箱が発火装置なら、それを起動させるための起動装置。つまりは起動させるための何かしらのカラクリが、この木箱の中身と繋がっていたはずだ。それを探してだしてやろう。そうすれば何かが分かるはずだろう」

 

胡桃の視線の先に会ったのは現場検証を行っていた大勢の千岩軍の兵士達。

そして焼け崩れた木箱らしき残骸と、炎の勢いを物語るように倉庫の壁に燃え残っていたそれ。

成人男性の腰辺りの高さにまで広がっていた焦げ跡の黒い斑点。

 

 

「_ふぅ。本当に良かった。炎が広がらなくて、延焼とかしないで…」

「_本当にだ。建物全体に燃え広がるなんて事にならなくてよかったぞ」

「_あぁ。そうだ。本当にありがとうな。巡回待機していてくれたあんたら消火水運搬隊の連中がいてくれて、本当に助かったぜ。大事にならなくてよかった」

「_本当にだ。すぐに駆けつけて来てくれたおかげで本当に助かったぜ。ありがとうな」

「_はい。我々も間に合う事ができて、本当によかったです」

「_いえ、こちらこそ。また貴方達も荷車の進入に邪魔になりそうな物、それらを事前にどかしてくれて本当に助かりました。本当にありがとうございます」

「_こちらこそ。本当に良かったです。それに辿り着いたらすぐに、疲労困憊の私達の代わりに貴方達がバケツを持ってここの水を汲み、そうして消火活動をしてくれたおかげでもあります」

「_本当にです。あの時の私や私達は、あの重い荷車を引っ張って来るだけでかなり疲労困憊でしたから…。本当にありがとうございました」

「_良いって事よ!!それに俺達の倉庫、俺達の職場は俺達で守る!!そういうもんだ!!」

「_あぁ!!そうだぜ!!それに今日の倉庫の騒ぎがここまで一気に落ち着きつつあるのは“あの女の采配”によるおかげだしな!!本当に感謝しかないな!!」

「_ははっ、“あの方”ですか。確かに感謝しないといけませんね。あの人の決断、そしてあの方がしてくださいました我らへのご指示に対して…」

「_そうですね。“甘雨様”には感謝してもしきれません。流石は七星全体の秘書を担っている方です。やはりとても頭が切れ、とても胆力のある方でした。あの方がいなかったらと思うと…」

 

そうしてすぐ近くには、先ほどまで消火作業を行っていたのか数台の荷車に地面に置かれた数多の数のバケツ、その周りに集まる別の千岩軍の兵士達やここ倉庫群の労働者であろう大男達、そして月海亭や七星八門の職員であろう男達や近くに居た民間人の協力者達であろう者達。

 

彼らはそう、互いに感謝の言葉を言い合っていたのであった。

 

 

 

「_はぁ、本当に良かった…」

(彼らの言う通り、何事も起こらなくて)

 

そうしてそんな彼らの様子を見ていた胡桃は、周囲の景色を振り返りながら小さくそう呟く。

 

「良かった…」

「本当にです…」

「本当だよ…」

「何事もなくな…」

「うむ。本当にだ…」

 

そして胡桃のその呟きに同意するように香菱達や行秋達、鍾離もまた同じような心情であったのか、彼らも頷きながらそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「___よし、着いた!!甘雨先輩はこの辺りのはずだ!!」

 

その時、煙緋がそう声を上げる。

胡桃達が物思いにふけっている間に、彼女達はようやく甘雨が居るであろう場所の近くまで辿り着けていたのであった。

 

「この近くだよね?」

(彼女は、甘雨はどこにいるんだろう?)

 

道を真っすぐ歩き続け、少し広い通りに出た胡桃は辺りを見渡しながら、甘雨の居場所を特定しようと首を動かす。

 

「う~ん。どこだろう?」

「この辺りのはずですが…」

「おかしい…。この通りは妙に人がいない」

「そうだな、行秋。ここあんまり人通りがないのか?」

 

香菱達と行秋達は胡桃と共に辺りを見渡しながら、口々にそう呟く。

 

 

 

「_むっ。煙緋殿。ちょっと良いか?」

 

その時、鍾離は何かを見つけたかのような様子で煙緋にそう声を掛ける。

 

 

「どうした?鍾離殿?」

 

そして煙緋は鍾離の方に振り返りながら、彼にそう声を掛ける。

 

「煙緋殿、あそこを見てくれ。あそこにかなりの人だかりができているようだぞ」

 

「人だかり…?あぁ、確かに……」

 

煙緋は鍾離のその言葉を受け、彼の視線の先の遠くを見据える。

 

煙緋の視線の先にあった彼が指さしたその場所。

そこには確かにかなりの人だかりができているように見えた。

 

「人だかり?た、確かに…」

「確かに、たくさん人がいるね…」

「かなり人が集まっていますね…」

「それだけじゃない。かなりの荷車もあの辺りに止まっているな」

「本当だ…。いったい、何が起きているんだぜ……」

 

胡桃達と行秋達はそれぞれそう言い合いながら、煙緋と鍾離の視線の先を見やる。

 

「やはりあそこで、何かが起きたのか…」

 

煙緋は真剣そうな様子で、そう呟く。

 

 

「_失礼します、煙緋様。どうしますか、あちらへ行かれてみますか?もしかすると、あちらの方に行けば甘雨様の居場所も何かしらが分かるかもしれません」

「_おぅ、煙緋さん。あの場にいってみるか?小隊の隊長さんの言う通り、あの場に行けば甘雨さんという煙緋さんの探し人の情報も掴めるかもしれないぞ」

 

煙緋の言葉を聞いていた彼女と同行する千岩軍の小隊長と労働者の大男達のリーダーは、煙緋にそう声を掛ける。

 

「そうだな…。よし、行ってみるか。あの場へ。行くぞ!皆!!」

 

そして煙緋は彼らの言葉を受けるとそう呟き、その人だかりが出来ている場所へ向けて歩き出す。

 

「うん!!行こう、煙緋!!」

「行こう!!煙緋!!」

「行きましょう!!煙緋さん!!」

「あぁ、行こう!!煙緋さん!!」

「行こうぜ!!煙緋さん!!」

「うむ!!行こう!!煙緋殿!!」

 

「_了解しました!!煙緋様!!」

「承知しました!!煙緋様!!」

「行きましょう!!煙緋様!!」

 

「_よし!!行こう!!煙緋さん!!」

「行こう!!煙緋さん!!」

「おぅ!!行こう!!煙緋さん!!」

 

そうして彼ら胡桃達と行秋達、煙緋と同行していた千岩軍の兵士達と労働者の大男達はそれぞれ、煙緋の後に続くようにその人だかりの方へと駆け足で向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「___あっ、あれは…!!」

 

そんな彼らの中、煙緋は何かを見つけて思わず駆け足をやめてしまい、力なく歩きながら驚きの声を上げる。

 

「えっ…!?」

(う、噓でしょ!?ま、まさか…!?)

 

胡桃もまた煙緋が見つけたそれ、それが何なのかを理解してしまい、彼女も思わず走るのをやめてしまって、そのまま力なく呆然とする。

 

煙緋と胡桃の視線の先に会ったのは、うっすらと空に昇るかのように伸びる黒い煙。つまりそれは黒煙、そこで何かが燃えてしまっているという事実。

 

「えっ…」

「ま、待ってください…」

「そ、そんな」

「お、おい。まさか…」

「っ。火事、なのか…?」

 

「_ま、まさか…」

「そんな…」

「なんて事だ…」

 

「_嘘だろ…?」

「あそこ、燃えてるのか…?」

「おい、やばいんじゃないか…?」

 

そうして煙緋や胡桃と同じく香菱達や行秋達、また千岩軍の兵士達や労働者の大男達までもが、その場で呆然と立ち尽くすかのように足取りが重くなる。

 

 

 

 

 

「_っ!!急ごう!!皆!!」

 

そしてその光景に唖然としていた煙緋は我を取り戻したかのように、胡桃達や行秋達にそう呼びかけては全力で走り出す。

 

「っ!!う、うん!!分かったよ!!煙緋!!」

「分かったよ!!煙緋!!急ごう!!」

「行きましょう!!煙緋さん!!」

「うん!!行こう!!急ごう!!煙緋さん!!」

「あぁ!!行こうぜ!!煙緋さん!!」

「あぁ!!急ごう!!煙緋殿!!」

 

「_はっ!!煙緋様!!」

「行きましょう!!煙緋様!!」

「急ぎましょう!!煙緋様!!」

 

「_あぁ!!煙緋さん!!」

「行こう!!煙緋さん!!」

「急ごう!!煙緋さん!!」

 

そうして胡桃達や兵士達、大男達も揃って煙緋にそう答えては、彼女の後に続くように全力で走り出す。

 

 

 

 

 

「_すまない!!どいてくれ!!私達を通してくれ!!」

 

煙緋は全力で駆けながら目の前の、まるで野次馬の様に人だかりを作っていた者達にそう叫ぶ。

 

「うん…?え、煙緋様!?」

「なんだ…?煙緋様だと!?」

「なに!?あっ、本当だ!!」

「え、煙緋様だ!!」

「はぁっ!?本当だ…。あ、あぁ!?お、おい!!道を開けてやれ!!煙緋様が通るぞ!!」

「なに!?ほ、本当だ…。あ、おい!!ボーっとすんな!!道を開けろ!!彼女が通るぞ!!」

「はぁ!?なんだと!?ほ、本当だ…!!いや、あぁ!!分かった!!」

「ほ、本当だ!!おい!!どけ!!道を開けろ!!もっとそっちに寄れよ!!」

 

煙緋の叫び声を聞いたその群衆は彼女の姿を見て驚愕したが、一部の者達がすぐにハッと我に返り、彼らはそれぞれそう言いながら慌ててその場から退くように道を開けてゆく。

 

 

 

「_すまない!!ありがとう!!通らせてもらうぞ!!」

 

そうして煙緋は目の前に出来つつあった道に突っ込んで行き、また彼らをかき分けて行きながら一気に前へと進んでいく。

 

「ごめん!!ありがとう!!」

「ありがとうね!!」

「ありがとうございます!!」

「ありがとう!!」

「ありがとうな!!」

「ありがとう、恩に着るぞ!!」

 

そして胡桃達もまたそれぞれそう叫んでは、煙緋と同じように群衆をかき分けつつ彼女の後に続くように、前へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

「___よし!!着いた!!なっ…!?」

 

そうして群衆の道を抜けた煙緋は、その先で広がっていた光景に絶句し、その場に立ち止まる。

 

 

「_えっ…!?」

「_っぅ!?」

「_っ!?」

「_こ、これは…!?」

「_おい、これは…!?」

「_っ…!!ほぉ……」

 

胡桃達も煙緋のすぐ後ろまでやってきてはその光景を目にし、目を見開くように驚愕する。

 

 

「_なっ…!?」

「こ、これは…!?」

「この光景は…!?」

 

「_っぅ!?」

「なんだ、これは…!?」

「ま、まさか…!?」

 

またそのすぐ後にやって来た煙緋の千岩軍の兵士達や労働者の大男達も、胡桃達や煙緋と同じように目の前の光景に絶句し、その場で思わず立ち止まってしまう。

 

 

彼らの目の前に広がっていたのは、燃え盛る炎が轟々と燃え盛っているような光景ではない。

 

 

 

 

むしろその逆だ。

 

 

 

 

 

 

「___ふぅ…」

 

 

本来は燃え盛っていたのであろう木箱の山。その木箱の山からは赤い熱気ではなく、白い冷気が立ち込めていた。

 

燃え盛っていたはずの木箱の山、その山からはまるで氷寒の地にそびえ立つ山脈とでも言うのように、霜雪の白い冷気が地面に向かって伸びていた。

 

そうしてその木箱に付着するように、所々に蓮のような氷の華が咲き誇り、また火元目掛けて叩きつけられたかの如くあちこちに氷柱がそびえ立っていた。

 

 

 

そしてその光景を作り出した張本人である一人の“少女”。

 

“氷の神の目を身に着けていた少女”が鋭い眼差しで、冷気が立ち込めるその木箱の山を睨みつけるように静かに佇みながら、それらをじっくりと眺めていた。

 

 

 

 

 

「_なんとかなって、本当に良かったです。どうにか炎を完全に消し止める事に成功して…」

 

彼女は静かにそう呟くと、ゆっくり白銀に輝いていた弓矢を下ろしてそのまま仕舞い、そうして安堵するかのように小さく息を吐く。

 

 

 

 

「す、凄い…」

「たったの一人で…」

「七星秘書はあんなこともできるのか…」

「彼女一人で、完全に鎮火したぞ…」

 

野次馬達からそんな声が上がり、彼らは目の前の光景をただ呆然と眺めていた。

 

 

 

「_“甘雨”、先輩…」

 

煙緋は目の前の光景をただ呆然と眺めながら、小さくそう呟く。

 

 

 

 

 

「彼女が…」

(甘雨…)

 

そうして胡桃はその光景にただ呆然と、そう小さく呟く。

 

 

 

「彼女が、煙緋が言っていた…」

「あの人が、甘雨さん…」

「や、やっぱり只者では…」

「す、すげぇ。何だよ、あの人…」

「ふむ…。甘雨、か…。ふっ……」

 

そしてまた香菱達や行秋達、鍾離がそれぞれそう静かに呟く。

 

 

 

「_え?煙緋さん…?」

 

その時、“氷の神の目を身に着けていた少女”、“甘雨”が後ろを振り返る。そうして彼女の瞳に煙緋の姿が映る。

 

「っ!!か、甘雨先輩……!!」

 

そして煙緋は甘雨が自分の事に気づいたことを理解すると、そのまま甘雨の元へと煙緋は走り出す。

 

「え、煙緋!!」

「煙緋!!」

「煙緋さん!!」

「っ!!嘉明!!」

「あぁ!!行秋!!」

「っぅ!!行くぞ!!二人とも!!」

 

胡桃達は急に走り出した煙緋を追いかけるように、その場から慌てながら走り出していき、また出遅れた行秋達も胡桃達に続いて慌てて走っていく。

 

「_っ!?煙緋様!?行くぞ!!」

「はい!!隊長!!」

「分かりました!!隊長!!」

 

「_お、おい!!くそっ!!行くぞ!!」

「おぅ!!」

「行こう!!」

 

そうして更にその後ろを煙緋達と同行していた千岩軍の兵士達と労働者の大男達が慌てて追いかけて行った。

 

 

「_先輩!!甘雨先輩!!大丈夫ですか!?」

 

「え、煙緋さん!?わ、私は大丈夫ですか…。そ、それよりも、近いです!!」

 

そうして煙緋は甘雨のすぐ目の前まで駆け寄ると、心配するように甘雨にそう呼びかけながら甘雨の事をじろじろとあちこち見回す。

 

煙緋が自身のすぐ目の前にまで駆け寄ってきた事に甘雨は驚くと同時に、煙緋との距離が近すぎたためか少し赤面しながらそう叫ぶ。

 

「あっ!?す、すみません!!先輩!!でも、お怪我はありませんか!?大丈夫ですか!?」

 

「煙緋さん…。私は大丈夫ですよ。ほら、ご覧の通り。どこも怪我していませんよ」

 

そう言って甘雨は、煙緋に自身の身体を見せびらかすかのようにその場でくるりと回ってみせる。

 

「そ、そうですか…。よ、良かった……」

 

「まったく、煙緋さんったら…。心配のしすぎですよ……」

 

そうして煙緋は安心しきったように、甘雨は呆れたように、お互いにそう呟く。

 

 

「煙緋ぃ!!」

「煙緋!!」

「煙緋さん!!」

「煙緋さん!!それに甘雨さん!!」

「煙緋!!」

「煙緋殿!!」

 

「_煙緋様!!」

「「煙緋様!!」」

 

「_煙緋さん!!」

「「煙緋さん!!」」

 

そしてそんな二人の後ろから煙緋の後を追いかけていた胡桃達や、千岩軍の兵士達に労働者の大男達がその場に追いついて煙緋の後ろ側に並ぶ。

 

「っ!?えっ、えっと。あ、行秋さん…。あの、煙緋さん。これはいったい…」

 

そうして煙緋の後ろに控えるように並んだ一同を見て甘雨は混乱し、唯一面識のあった行秋は除いて一人一人の顔を眺めながら、煙緋にそう問いかける。

 

「あっ…。そう言えば先に説明をしなければいけませんね。すみません、甘雨先輩。まずは彼らの事を紹介しますね」

 

「はい、お願いします。煙緋さん」

 

「まず、こちらにいらっしゃる方は順番に胡桃殿___」

 

煙緋は甘雨にそう言いながら胡桃達や千岩軍の兵士達、そして労働者の大男達を紹介していき、そうして暴動騒ぎが起きていた港湾区の船着き場や荷置き場で何が起きたのかを説明を行い、そしてまた彼らとの出会いや経緯を説明していく。

 

 

「_ふむ…。成程…。そのような事が……」

 

煙緋の説明を聞く甘雨は興味深げに耳を傾け、また同時に納得するかのように小さく頷く。

 

 

「_という事です。これで全てです。甘雨先輩」

 

そうして甘雨に説明をし終えた煙緋は、甘雨にそう告げる。

 

「成程…。事情はよく分かりました。ありがとうございます、煙緋さん。そちらでは、そのような事が起きていたのですね……」

 

甘雨はそう言うと、煙緋がしてくれたそれらの説明を今一度思い返すかのように考え込む。

 

 

「_分かりました。改めて、ありがとうございます。煙緋さん。煙緋さんのおかげでそこで起きていた暴動騒ぎの全てを鎮静化させることができたようなので、本当に良かったです」

 

そして甘雨は煙緋に感謝するように頭を下げ、煙緋にそう伝える。

 

「いえいえ!!頭を上げてください、甘雨先輩!!それに、全ては私の力ではありません!!」

 

「ふふっ、そうでしたね。煙緋さん」

 

煙緋は慌てて甘雨に頭を上げるように言い、それを聞いた甘雨は微笑みながらそう告げる。

 

 

「_改めまして私は月海亭の秘書、七星様達の秘書を行っています“甘雨”という者です。行秋さん、そして胡桃さん達を始めとする皆様方、本当にありがとうございます。貴方様達のおかげで港湾区の暴動騒ぎは、無事に鎮静化させる事ができました。月海亭、並びに七星八門を代表して感謝申し上げます。本当にありがとうございました」

 

そうして甘雨は煙緋のすぐ横や後ろにいる胡桃達、また彼らと同行していた千岩軍の兵士達や労働者の大男達に向けて深々と頭を垂れながら感謝の言葉を述べる。

 

「いえ、甘雨さん。頭をあげてください。それにこれは、僕達の友人である刻晴さんの為です」

「そうだよ、甘雨。えっと、甘雨さん。頭をあげてよ。行秋の言う通り、これは私達の友達の刻晴の為だしね。彼女の為なら、当然でしょ?」

 

行秋と胡桃はそう甘雨に告げる。

 

「はい、分かりました。そうですね、行秋さん、胡桃さん。ふふっ、刻晴さんは本当に良いご友人を持ってくれたようですね。本当に嬉しいです…。それと胡桃さん。言いづらいようであれば、煙緋さんみたいに呼び捨てでも大丈夫ですよ。私の事は気兼ねなく、甘雨と呼んでください」

 

「え、そう?…じゃ、じゃあ。今度から甘雨と呼ぶね」

 

「はい、お願いします。胡桃さん」

 

甘雨は胡桃にそう言われると、彼女は微笑みながら小さく頷く。

 

「ふっ、甘雨先輩。それに胡桃殿」

 

そうして煙緋は甘雨と胡桃のやり取りを微笑まし気に見つめながらそう呟く。

 

「ふふっ。他の皆さんも、もし胡桃さんみたいに言いづらいのであれば、よろしければ私の事はそのまま甘雨とお呼びください。無論、さん付けでも大丈夫ですよ」

 

「うん、分かったよ。甘雨。私は甘雨と呼ぶね」

「分かりました。私は普段からさん付けで呼んでいますので、甘雨さんと呼ばせて頂きますね」

「おぉ!!ありがとうな!!甘雨さん。だけど俺は甘雨さんと呼ばせてもらうぜ」

 

そうしてまた甘雨が笑みを浮かべながら香菱達にそう言うと、香菱や雲菫、嘉明もまた笑みをこぼしながら甘雨にそう話しかける。

 

「うむ、俺は“甘雨殿”と呼ばせてもらおう」

 

そして鍾離もまた甘雨に笑みを浮かべながらそう言う。

 

 

 

 

 

「___えっ…!?」

 

そうしてその瞬間に甘雨はまるで雷を打たれたかのように驚愕する。

 

「………」

 

甘雨は鍾離の顔をじっと見つめながら、そのまま静かに黙り込む。

 

 

 

「_ふむ、どうかしたのか?甘雨殿?」

 

「あっ…。す、すみません。しょ、鍾離さん……」

 

そして甘雨にじっと顔を見つめられていた鍾離は、甘雨にそう問いかけると、甘雨は慌てて我に返り、彼にそう答える。

 

「…甘雨先輩。鍾離さんが、どうかしたんですか?」

 

煙緋は目の前で鍾離を見つめて固まっていた甘雨にそう問いかける。

 

「あっ…。い、いえ、何でもありません!!気にしないでください、煙緋さん!!」

 

甘雨は慌てながら煙緋にそう答えると、彼女から顔を背けるように鍾離の方に視線を向ける。

 

「へぇ…」

(どう考えても、甘雨と鍾離さんは何かしらがありそうだったけど…?)

 

そして胡桃は甘雨と鍾離の様子を、二人の顔を見ながら静かにそう考える。

 

 

 

「_その、私は鍾離さんに対して妙な既視感や感覚を覚えたので、つい見つめてしまいました…。その鍾離さんの、その、近くて遠くて、そうしてその、なぜか鍾離さんの話し方や雰囲気というのが、その。“私が背中を追いかけていたあの人”、“大切なあの人”と似ていたような気がして…」

 

そうして甘雨は煙緋や胡桃に聞こえない程の小さな声でぶつぶつと、静かに呟く。

 

 

「ふむ…」

 

そしてまた鍾離は、甘雨のその様子に腕を組む。

 

甘雨のその小さな声が彼には聞こえてしまったのか、それとも甘雨の考えていた事を察したのか、鍾離はただ静かに甘雨の事を見つめていた。

 

 

 

 

「_あの先輩、甘雨先輩…。甘雨先輩!!」

 

「っ!?あっ、あ、煙緋さん!?」

 

そうしてまたもや固まってしまっていた甘雨に対し、煙緋は彼女に向かって大声で呼びかける。

 

「先輩、本当に大丈夫ですか?疲れが溜まっているのでしょうか…?」

 

「疲れ…ですか。きっとそうかもしれませんね。今日、そして今日を迎えるまでのあの日からずっと。“煙緋さんと私に、凝光さんと夜蘭さんとの話し合い”を行ったあの日からずっと、私は気を一切休めてはいなかったのですから……」

 

甘雨はそう言って、今までの出来事を思い出すかのように静かに目を細める。

 

「やはり、そうだったのですか…。なら、先輩。もしよろしかったら明日、甘雨先輩は私と一緒に付き合ってくれませんか?」

 

「えっ、明日ですか?明日も仕事なのですが…」

 

「いえ、今の先輩の状態を自分でよく見てください。そんなんじゃ仕事に影響が出ます」

 

「い、いやでも……」

 

甘雨は困ったかのように目を泳がせる。

 

「先輩、明日から私は数日程度は完全に休もうと考えています。なので、ちょうど良いんです。私と付き合ってください。久しぶりに私と璃月港やその周辺を散歩しませんか?」

 

煙緋は甘雨にそう提案する。

 

「散歩ですか…?」

 

「はい、そうです。私は一度リフレッシュし、リラックスした上で、また全てを切り替えて仕事を再開したいと思っていました。甘雨先輩もせめて、リラックスは無理だとはしてもリフレッシュくらいはしましょう。ですので、一日私に付き合ってください」

 

煙緋は甘雨に優しく微笑みかけながら、彼女にはっきりそう伝える。

 

「そ、そうですか…。で、ですが…。どうしましょう……」

 

甘雨は煙緋のそれに、困ったかのように考え込む。

 

 

「_別に良いんじゃないの?一日くらい休んじゃってもさ、問題無いと思うよ」

 

その時、胡桃が甘雨にそう話しかける。

 

「えっ、胡桃さん?」

 

甘雨は胡桃まで話に入ってくると思ってはいなかったのか、少しだけ驚いたかのような表情で胡桃の方に顔を向ける。

 

「だってさ、煙緋の言う通り甘雨の状態ってかなり無理しているような気がするもん。少しくらい休んだって罰は当たらないと思うよ?」

 

「そ、そんな事は…」

 

甘雨は胡桃の言葉に反論しようとするが、途中でそれを止めてしまう。

 

「それにさ、甘雨。もし、このまま疲れが溜まったまま仕事をして何かあったとしら、それを知った彼女、刻晴はどう思うよ?きっと心配しちゃうだろうし、悲しむよ?」

 

「そ、それは…」

 

胡桃は甘雨にそう問いかけ、甘雨はその事まで頭に入れていなかったのか、またも困ったかのように黙り込む。

 

「…甘雨さん。僕も胡桃の言う通り、君は一日くらい休んだ方が良いと思うよ」

 

「行秋さん…」

 

そんな甘雨に、今まで様子を見るように沈黙していた行秋までもが甘雨にそう訴えかける。

 

「甘雨さん。ここは君の為に休むんじゃなくて、刻晴の為に休むんだ。休んで、それで一日リフレッシュして、そうしてまたいつもの君に戻ってくれれば良いんじゃないか?」

 

「刻晴さんのため、ですか?」

 

「そうだよ。他の皆はどう思う?」

 

行秋は甘雨にそう言った後に、香菱達や嘉明達にそう問いかける。

 

「うん、確かにその通りだと思うよ。何かあったら、刻晴が悲しんじゃうよ」

「私もそう思います。それに無理は禁物ですよ、甘雨さん」

「あぁ、俺もそう思うぜ。それにそんなんじゃ、いつか無理が祟っちまうぜ」

 

香菱や雲菫、嘉明の三人はそれぞれ甘雨を説得するようにそう話す。

 

 

 

 

「_俺も同じだ。甘雨殿。お前は少しくらいは休んだ方が良い。それに休む事も仕事の一つだ」

 

鍾離は腕を組みながら真剣な様子でそう甘雨に告げる。

 

 

「鍾離さん、休む事も仕事の一つなのですか…?」

 

甘雨は鍾離にそう尋ねる。

 

 

「そうだ、甘雨殿。休む事も仕事の一つ、日頃から体調を整え、いざという時にはその実力を遺憾なく発揮できるように心身共に十分な準備をしておく事も重要な事だからな…。それともう一つ。俺から甘雨殿に一つ、助言をしよう」

 

鍾離は甘雨の目を見つめながら、真剣な表情を浮かべながら甘雨にそう語る。

 

 

「助言ですか……?」

 

甘雨は鍾離の話に首を傾げる。

 

「あぁ、そうだ。甘雨殿、___」

 

鍾離は甘雨に頷くと、真剣な表情を浮かべながら彼女への言葉を続ける。

 

 

 

 

「_お前は大切な人の為にどこまでも頑張れる心優しい人だ。そしてそれはとても素晴らしい事だ。だがそれと同時にお前は、自分も相手から大切な存在である事を忘れがちな所があると思う」

 

「っ!?」

 

甘雨は鍾離の言葉に目を見開く。

完全に図星であったのか、または今までその事に思い当たっていなかったのか、彼女は驚きの表情で鍾離の事を見つめる。

 

 

 

「大切な人、それはかけがえのない大切な存在だ。そして甘雨殿が刻晴殿の事を大切に思っているように、刻晴殿も甘雨殿の事を大切に思っているのだ。そんな大切な人、かけがえのない大切な存在である甘雨殿に何かがあれば、刻晴殿や煙緋殿、そして凝光殿達を始めとするその他の彼らもきっと悲しむだろう…」

 

 

「そう、ですね…」

 

甘雨は鍾離のその言葉に、力なくそう呟く。

 

 

「甘雨。お前は、自分も相手から大切な存在である事、それを絶対に忘れるな。心に刻め。そうしてもっと自分の事や相手の事に対して、俯瞰的に、客観的になって考えろ。…良いな、甘雨殿?」

 

「…はい、鍾離さん。ありがとうございます。それらをしっかり肝に銘じておきます」

 

「あぁ、そうしてくれ。甘雨殿」

 

「はい、分かりました。鍾離さん」

 

甘雨は鍾離にそう言われ、そうして少し吹っ切れたかのように、微笑みをその顔に浮かべる。

 

 

「_それでは煙緋さん。後ほど凝光さんに、明日はお休みすると言っておきます。明日は煙緋さんとお散歩でもするとしましょう。よろしくお願いしますね、煙緋さん」

 

「はい、勿論です!!甘雨先輩!!明日は璃月港の色んな所を見て回りましょう!!」

 

「ふふっ、そうですね」

 

甘雨は満面の笑みを浮かべる煙緋に微笑みながらそう話す。

 

「ふふっ…」

「良かった、良かった」

「本当に良かったです」

「うん、良かったよ。本当に」

「あぁ、本当にだぜ。良かったな」

「ふっ…。そうだな、本当に良かった」

 

そしてそんな甘雨と煙緋の二人の様子を見つめる胡桃達は、彼女達の話がひと段落ついた事にほっと胸を撫で下ろしながらも、今の彼女達の様子を見て同じように微笑みをこぼすのであった。

 

 

 

 

「___さて、話を元に戻しましょうか」

 

そうして甘雨は仕切り直すかのようにそう言うと、改めて煙緋や胡桃達の方に向き直る。

 

「まずはここの状況に関しましてですが、現状は火災騒ぎの沈静化、事態の終息へと順調に向かっているようです。今現在の私が知りうる限りだと初期消火に失敗し、そして建物全体に炎が包まれるという大火に発展したという報告は入ってきていません」

 

「ふむ、そうなのか…」

 

「はい、そうです。煙緋さん。また一部の千岩軍の兵士達による倉庫群全体の見回りを行っているのですが、彼らの報告の限りではちょっとした不審火騒ぎ、例えば木箱がいきなり発火するといった現象の報告はありましたが、それが延焼していって倉庫や建物にまで燃え移ってしまったというような事例は今の所ありません」

 

「なるほどな…」

 

煙緋は甘雨からの説明に納得するかのように頷くと、甘雨は言葉を続ける。

 

「ただ、この倉庫群で木箱がいきなり発火するという現象があったのは事実です。そしてなぜ、それらが急に発火してしまったのかという理由は明らかになっていません。現在も千岩軍の皆さんが発火した現場の調査や検証を行っており、幾つかの有力的な理由や仮説を組み立てる事はできているのですが、まだ明確な原因を特定するまでには至っていないのが今の現状となります」

 

「成程。甘雨先輩の倉庫群の状況はそのような状況だったのか…」

 

甘雨のその説明に煙緋は腕を組みながら納得したように頷く。

 

「ふーん、そうだったんだ」

(成程ね)

 

そして煙緋の隣で甘雨の話を聞いていた胡桃は、静かに考え込みながらそう呟く。

 

「ふーん、成程ね…」

「そうだったのですか…」

「成程…」

「そうなっていったのか…」

「ふむ、成程…」

 

そうして甘雨のその話を聞いていた香菱達や行秋達、鍾離もそれぞれ静かに頷きながらそう呟く。

 

「因みに甘雨先輩、ここ倉庫群で実際に放火があったという話はありましたか?」

 

「いえ、煙緋さん。それが無かったのです。ですので、捜査の方もかなり難航しています」

 

「無かった?ふむ…。これは想像以上に厄介だな」

 

煙緋の質問に甘雨は首を横に振り、甘雨のその答えに煙緋は小さく唸りながらそう呟く。

 

 

煙緋の言う通り、確かにかなり厄介な状況になってしまった。

 

放火があった、つまりそれはその付近に放火犯がいたという事実になる。

 

そしてその付近にすぐ大勢の千岩軍を配備させる事ができれば放火犯、もしくは不審者や怪しい人物を発見する事が可能となる。

そうしてその者を拘束できれば、反刻晴派を裏から操っていた“先に居る者達”へと繋がる手掛かりとなりえるのだ。

 

 

 

だがしかし、未だに放火があったという話が出てこない。

 

それはつまり、彼ら“先に居る者達”に繋がる手がかりが途絶えつつあるという事になりかねない。

 

 

最悪、これ以上の手掛かりが掴めない可能性が大いにあった。

 

 

 

 

「それは、まずいね。このままだと…」

「どうしよう、このままじゃ…」

「はい。このままでは逃げられてしまいます…」

「あぁ、本当にまずい事になったのかもしれない…」

「あぁ、やばいぜ。本当に逃げられるかもしれない…」

「流石、巧みに扇動を行っていた者達の仲間だ。やはり一筋縄ではいかないか……」

 

胡桃達、皆が焦りの表情を浮かべる。

 

このままでは“先に居る者達”が逃げてしまう。

 

「_む…。か、甘雨先輩…!!」

「_あっ…。あ、え、煙緋さん!!どうしましたか…!?」

 

そうして煙緋は胡桃達の間で流れているあまりにも重苦しい空気を察し、その空気を一掃せんと少し大げさに甘雨に話しかける。そして甘雨も甘雨で煙緋の意図をすぐに理解したのか、彼女も少し大げさにそれに応じる。

 

「その、ここ倉庫群で千岩軍の兵士達が交通整理を行っていましたが…。あれも、甘雨先輩のご指示という事で良いのでしょうか?」

 

「は、はい。その通りですよ、煙緋さん。私が訪れた時の当初の倉庫群はかなり酷い大混乱に陥ってました。それこそ急いで状況を確認しなければならない時に、あちこちで我先へと荷物や品を避難させようと荷車を走らせては、様々な場所で衝突事故や多重事故を引き起こしていたので」

 

「えっ、そうだったのですか…?」

 

煙緋は甘雨のその話に思わず素の声で聞き返す。

 

「えっ、衝突事故に多重事故…?」

(ここ倉庫群って、最初はそんな酷い状況だったの?)

 

そしてその話を聞いていた胡桃も、その事について思わずそう呟く。

 

「えぇ、そんな事が起きてたの?」

「えっ、そのような事が起きてたのですか?」

「衝突事故に多重事故だって?」

「そんな事がここで起きてたのか?」

「ほぉ…。まさかそのような事が起きていたとは……」

 

そうして胡桃のその呟きに香菱達や行秋達、そして鍾離も興味津々とでも言わんばかりに興味深そうにそう呟く。

 

「はい、そうですよ。煙緋さん、そして皆さん」

 

甘雨はそんな彼らの疑問に答えるかのようにそう話を切り出す。

 

「当初、ここに駆けつけた私はあまりにものの惨状に愕然としました。ここまで酷い状況だったのかと…。ですがそれと同時に、もはや一刻の猶予も許されないという事をすぐに悟り、そして私はすぐに行動を開始しました。幸いにも今の私は煙緋さん並みに近い権限を、この場にいる千岩軍の兵士達や職員さん達全員の指揮や指示を出せるような権限を凝光さんより預かっていましたので」

 

「ふむ…。甘雨先輩、その後はどうしたのですか?」

「うんうん、それで甘雨はどうしたの?」

 

煙緋と胡桃は興味津々と言った様子で耳を傾けながら、甘雨に話の先を催促する。

 

「はい、煙緋さん。胡桃さん。ひとまずここ倉庫群が無秩序となってしまう事を防ぐため、まずは単純に『左側通行厳守』というルールを徹底させました。こうする事で交通事故や多重事故、また正面衝突といったそれらの事故の防止と、それら事故によって引き起こされる荷車の大渋滞や大行列といった事象を防ぐ事にも努めました」

 

「なるほど。正面衝突を防止するために左側通行か…」

 

煙緋は甘雨のその説明にそう呟く。

 

「はい、煙緋さん。その通りです。そしてすぐにその場に居た千岩軍の兵士達の皆さん、また職員の皆さん達やその他の民間協力者の方々が周りの人達に伝達してくれたおかげで、迅速にそのルールがここの倉庫群全体へと行き渡っていきました」

 

甘雨はそこで少し言葉を切り、それからこう続ける。

 

「そしてそのルールのおかげで、倉庫群の大混乱が多少は落ち着きました。そうして少し落ち着いたことで私の元に、この倉庫群の現状に関する情報が少しずつ集まるようになりました。例えば第4区画の第2倉庫周辺で煙が上がっているのを目撃したとか、第1区画の第5倉庫の出入り口前に自力では歩くのが難しいほどの怪我を負った人達が三人程いたとか、第3区画の第6倉庫に水が満載となっている荷車が数台止まっている、とかです」

 

「へぇ…。左側通行を徹底させただけでも、それなりな効果があったんだね……」

 

胡桃は甘雨のその説明に納得しながらそう呟く。

 

「はい、その通りです。胡桃さん。その単純なルールというのが、それなり以上の効果がありました。そうしてより倉庫群の混乱を抑える為、私はルールの浸透具合に注意しながら一つずつ新しいルールを、ここの皆さんがすぐに理解できる単純なルールを順番に追加していきました」

 

「単純なルールですか?」

「単純なルール?」

 

甘雨のその説明に煙緋と胡桃は首を傾げる。

 

「えぇ、そうです。単純なルールというのは例えば、『倉庫群内の十字路等の交差点では、いかなる理由であろうとも一時停止を必ず行う事』、『倉庫群内の道の真ん中辺りは、開けるように努める事』、『倉庫群内では、原則走るという行為は禁止』といったルールを追加していき、それらを浸透させるためにその場に居た千岩軍の皆さんや職員さん達等に伝達を行い、そうして私も自らこの倉庫群を駆けながらルールの周知徹底に努めました」

 

甘雨はそう言い終えると、一息つくかのように煙緋や胡桃達から視線を逸らし、そうして再び口を開く。

 

「そうして私が臨時で定めましたそれらのルール、ここ倉庫群の秩序回復とそれら維持のための基本的な交通ルールが皆様達のお陰もあってすぐに浸透してくださいましたため、混乱の大きさも小さくなっていきました。そうして倉庫群の統制をある程度は回復させられましたので、続いて私は手が空いていた千岩軍の兵士達や、職員の皆様達に民間人の協力者達を私の目の前に招集させて、それぞれ彼らに役割を持たせることとしました」

 

「ほぉ、役割を…」

「千岩軍や職員達だけでなく、民間の協力者達も…?」

 

煙緋と胡桃の二人はそれぞれ甘雨のその話に、興味深そうにそう呟く。

 

「はい、そうです。彼らにそれぞれの役割を持たせました。体力と判断力等の両方に長けている千岩軍の皆様達、体力に自信のある千岩軍以外の皆様達、そして体力には自信のないもののの、判断力等には自信のある千岩軍以外の職員さん達や民間協力者達の三者達に振り分け、その上で千岩軍の皆様には倉庫群の交通整理係や倉庫群の区画間情報伝達係等、体力に自信のある方々にはその時に制定した怪我人や消火水を運搬する緊急荷車の運搬係等、先の千岩軍を除いたそれ以外の方達には割り振られた区画内の情報収集係に、また緊急時には区画内にいる交通整理や区画間情報伝達を担っている千岩軍への通報係等といった形で振り分けました」

 

「ほぉ、成る程…。それでこのような秩序が…」

「凄い…。だからここは火災騒ぎが起きていた場所なのに、こんなに平然で居られたんだ」

 

煙緋と胡桃は甘雨のその説明に、素直に感心する。

 

「はい、そうです。煙緋さん。そして胡桃さん。そうしてそれぞれの役割を与えられた彼らの尽力によって今に至るというわけなのです」

 

甘雨は説明を終えたかのようにそう話を締めくくる。

 

「そうだったの…」

「そう言う事だったのですか…」

「成程…」

「すげぇ…」

 

香菱達や行秋達は甘雨のその説明に、感心したかのようにそう呟く。

 

「ふむ、成る程…。感服したぞ、甘雨殿。甘雨殿がそのような最善な判断を下し続け、そうしてこの倉庫群を掌握していったこと。これによりこの倉庫群は、こうして火災騒ぎが起きていたとは思えない程に秩序が回復していったというわけだったのだな……」

 

鍾離は顎に手を当てながら、そう静かに呟く。

 

「はい、その通りです。皆さん、それに鍾離さん…。それに今になって思ったのですが、結果的にはここまで秩序を回復させた事が“先に居る者達”への、彼らの手先である放火犯達への強力な牽制へと繋がったのかもしれませんね……」

 

「あぁ、俺もそう思うぞ。甘雨殿」

 

甘雨のその言葉に鍾離は静かに頷く。

 

「牽制ですか…?先輩?」

 

「はい、そうです」

「あぁ、その通りだ。煙緋殿_」

 

煙緋のその疑問の言葉に甘雨と鍾離は頷き、そうして鍾離が甘雨のそれを説明するようにこう続ける。

 

「_ここまで秩序を回復させられてしまえば、放火等を行おうにもあまりにも不審すぎる動きで目立ちすぎてしまい、すぐに他の千岩軍や職員達に彼らの正体がバレてしまう状況となってしまった。だから更なる混乱を誘おうにも、彼らの手段の殆どが甘雨殿が敷いたルールによって完全に封じ込められてしまった。だからこそ、彼らのここ倉庫群での目論見は失敗に終わったんだ」

 

「な、成る程…。そう言う事ですか、甘雨先輩?」

 

鍾離の説明に煙緋は納得が行ったのか、頷きながら甘雨にそう尋ねる。

 

「はい、その通りです。だから倉庫や建物が炎上するなんていう事態が、発生しなかったのかもしれません。今になって考えれば、彼らは急激にここの秩序が回復させられていく様、混乱してそれぞればらばらに動いていた職員さん達や千岩軍の皆様達の動きが、一気に統制のある動きに変わっていった様子を目の当たりにして、身動きが取れなくなってしまったのでしょう。煙緋さん」

 

「あぁ、甘雨殿の説明の通りだ。そして身動きが取れなくなりつつある彼らはここでの謀略を断念し、おそらく事前に倉庫群内に潜ませて設置した発火装置のような物でしか、混乱を誘う事しかできなくなったのだろう。そうして彼らも彼らで、ここからの脱出を決断したはずだ。いつ自分達に疑いの目が向けられてしまうのかが分からないし、それは時間の問題と考えてしまう程に甘雨からの強烈なプレッシャーや圧力がかけられていると、彼らはそう感じていたはずだからな」

 

甘雨、そして甘雨の説明を追加するかのように鍾離は考察したそれらを煙緋にに話す。

 

「成程、そう言う事か…」

 

煙緋は彼らのそれらに納得したかのように、顎に手を押し当てながら静かに呟く。

 

「へぇ、成程ね。だからか~」

「成程ね。それなら、納得だよ。彼らの動きを封じ込めていたんだね」

「そう言う事だったのですね。偶然とはいえ、彼らを縛り付けていたんですね」

「成程、だから結果的にこうなったわけか。彼らの好き勝手をさせなかったからこそ、今の状況へと繋がったのですね」

「あぁ、納得だぜ。甘雨さんの敷いたそれらルール等のおかげで、彼らが行おうとした悪行を未然に防いでいたというわけか」

 

そうして甘雨と鍾離のその説明に胡桃達も、それぞれがそれぞれで納得したかのように静かにそう呟く。

 

 

 

そしてその時であった。

 

 

 

 

「___いたぞ!!甘雨様ぁ!!」

「___甘雨様ぁ!!緊急報告と緊急連絡です!!」

 

「_っ!?」

 

その時、甘雨を呼ぶ男達の声と慌ただしく甘雨の方に走ってくる足音が聞こえてきた。

 

「_なっ!?」

 

「っ!?」

「えっ!?なになに!?」

「どうしたんですか!?」

「緊急報告だと!?」

「緊急連絡だって!?」

「っ…!!い、いったい……!?」

 

そうして煙緋、胡桃達はそれぞれ声のした方へと視線を移す。

 

 

「_なっ!?」

「緊急報告!?」

「緊急連絡だと!?」

 

「_おいおい…!?」

「どうしたんだよ!?」

「何があったんだ!?」

 

そうして今まで甘雨や煙緋に胡桃達のやり取りを見守るかのように胡桃達の後ろで控えていた千岩軍の小隊達、また煙緋に同行していた労働者の大男達も一斉に、その声がした方向へと視線を向ける。

 

 

 

 

「_はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!!よ、良かったぁ…!!それに煙緋様もいる……!!」

「_ぜぇ、はぁ!!ようやく、届けられる…!!二人の元へと……!!」

 

そこには二人の千岩軍の男達が息を切らしながら甘雨の下に駆け寄り、そうして疲れ切っていて限界だったのか甘雨の目の前で思わずその場で片膝立ちになってしまった光景であった。

 

 

「だ、大丈夫ですか!?お二人とも!!」

 

甘雨は大慌てでしゃがみ込んだ二人の千岩軍の男達に、そう声をかける。

 

「大丈夫か!?二人とも!?」

 

煙緋も甘雨と同じように心配そうな表情を浮かべる。

 

「だ、大丈夫!?」

「大丈夫!?」

「大丈夫ですか!?」

「大丈夫かい!?」

「おい、大丈夫か!?」

「大丈夫か、二人とも…!?」

 

そうして胡桃達や行秋達も大慌てでその二人の千岩軍の男達を心配する。

 

「はぁ、はぁ…。甘雨様、煙緋様、それに皆様方。だ、大丈夫です……」

「ぜぇ、はぁ…。お、お見苦しい所をお見せしました……」

 

二人の千岩軍の男達はそれぞれそう苦しそうな声をあげながら、ゆっくりと立ち上がっては直立不動となって、甘雨達に敬礼を行う。

 

「大丈夫なんですか…?そ、それならいいのですが……」

「大丈夫なのか…?ま、まぁ、そう言う事ならばいいのではあるが……」

 

甘雨と煙緋はどう見ても無理してそうな千岩軍の二人に対し、心配そうな表情を浮かべながらそれぞれそう述べる。

 

「は、はい。大丈夫です。それよりも…」

 

「あ、あぁ…。まずは緊急報告です、甘雨様、煙緋様。未確認情報、真偽検証中の為、正確な情報とは言えませんが、“チ虎岩地区”にて最低でも複数人、不審者達を見かけたとの通報が、我ら千岩軍に多数寄せられました……」

 

「えっ!?本当ですか!?」

「なっ!?なに!?本当か!?」

 

二人の千岩軍の男達はそう小さく呟き、呟いたその内容に対し甘雨と煙緋は食いつくかのようにそう反応する。

 

「えっ!?チ虎岩地区!?本当なの!?」

「えぇっ!?チ虎岩区で!?嘘でしょ!?」

「チ虎岩地区でですか!?そこで見かけたのですか!?そんな事が…!!」

「チ虎岩地区でだって!?そこまで逃げられたのか!?本当なのかい!?」

「チ虎岩区って、万民堂がある場所じゃないか!?まじかよ!?」

「なっ…!?本当なのか!?それなら、もう璃月港を脱するのも時間の問題ではないのか!?」

 

そうして胡桃達もまた、千岩軍の男達がもたらした情報に大いに驚愕する。

 

「はい。残念ながら、その情報に間違いはなさそうです…」

「チ虎岩地区のあちこちで、そのような証言が複数寄せられました…」

 

二人の兵士の千岩軍の男達は息を整え、甘雨と煙緋に報告する。

 

「分かりました。他には何か情報はありませんか?」

「分かった。他に情報はないだろうか?この際、まだ真偽を検証中の情報でもいい」

 

甘雨と煙緋は二人の千岩軍の男達に、そう質問する。

 

「は、はい…。実は私も信じられない情報なのですが、彼らが不審者であると判断した理由の一つというのが、彼らは璃月港の建物の屋根から屋根へと跳び移りながら移動していたからなんです」

「そうなんです。しかも当たり前のように屋根から屋根へと高速で跳び移りながら移動していたようです。そしてその際に彼らはまるで、隊列や編隊を組むように移動していたとの事でした。そのためかなり規律や統制が取られている、異様な集団であったようなのです…」

 

二人の千岩軍の男達はそれぞれ、そう甘雨と煙緋に報告する。

 

「屋根から屋根へと跳び移りながら…」

「しかも隊列や編隊を組みながら…」

 

甘雨と煙緋はそう静かに呟くと、互いに顔を見合わせる。

 

「屋根を跳び移りながら…」

「そんな移動方法で…」

「それでいて当たり前のように…」

「しかも隊列を組むかのようにしながら…」

「編隊を組むようにしながら高速で移動を…」

「ふむ…。こうなってくると、もはやこれはそれなり以上の経験や訓練を積んだ工作員といっても過言ではないかもしれないな」

 

そうして彼ら兵士達の話を聞いていた胡桃達は彼らからのその情報、予想だにしなかった異質な情報に、彼らは思わず息を飲む。

 

 

「分かりました。ありがとうございます。お二人とも。それでは緊急連絡とはなんでしょうか?」

「成程…。分かった。ありがとう、二人とも。そしてその緊急連絡とは、いったいなんなんだ?」

 

甘雨と煙緋はそれぞれ千岩軍の男達にそう尋ねる。

 

 

「_はい、実はこれを、この書状を甘雨様や煙緋様にお届けするようにと、総務司所属を自称する謎の人物が我々に直接手渡してきたのです」

「_そうなんです。しかもこの書状ですが、この書状は総務司からの物と思いきや、実は差出人が総務司からでは無かったんです。甘雨様、煙緋様。封にある印章、これを見てください」

 

二人の兵士はそれぞれ、片方の男はそう言いながら服の中から彼らの言うその書状を取り出し、もう片方の男も片方の男が取り出した書状を見つめながら、甘雨と煙緋達にそう説明する。

 

 

「その書状ですか…?拝見させていただきますね……」

 

甘雨はそう言いながら、その男達から差し出された書状を受け取る。

 

 

 

「えっと。印章、印章…。ふぇっ!?」

「どれどれ…。はぁっ!?な、なんだって!?」

 

そうして受け取った甘雨と、横から甘雨が手に取っている書状の印章を見た煙緋も、その印章が持つ意味を理解したのか、思わずそう叫ぶ。

 

 

 

 

 

「___こ、これは…!?天権様の印章ですよ!?」

「___こ、これは、凝光殿から私達への書状という事なのか!?」

 

甘雨は驚いた様子でそう叫び、煙緋も驚愕の表情でそう叫ぶ。

 

 

「うぇっ!?嘘ぉ!?」

「えぇっ!?そうなの!?」

「天権様からのですか!?」

「七星からの書状だって!?」

「おいおい!?まじかよ!?」

「なっ…!?なんだと……!?」

 

そして胡桃達もまた、甘雨達のその言葉に驚愕する。

 

「_なっ!?あの御方から!?」

「天権様から!?」

「凝光様から!?」

 

「_おい!?七星からだって!?」

「嘘だろ!?あの方からなのか!?」

「おいおい、嘘だろ!?本当なのか!?」

 

そうしてまた煙緋の警護を行っていた千岩軍の小隊の兵士達や、彼女と同行していた港湾区の労働者達の大男達も揃って驚きの声をあげる。

 

 

「はい、そうです!!これは間違いありません…!!とにかく、凝光さんから送られた書状の中身を確認しましょう…!!煙緋さん、隣に立ってください!!一緒に見ましょう!!」

 

「あ、あぁ!!分かりました、甘雨先輩!!一緒に凝光殿の書状の中身の確認をしましょう!!」

 

そうして甘雨は凝光が送ってきた書状の封を切り、そのまま甘雨と煙緋の二人は凝光の書状の内容を確認し始めたのであった。

 

 

 

 

 




それでは次回に関しましてはこの第7幕を2回投稿しましたので、今度は第8幕3話目の更新を行おうと思います。


それではまた、次回の投稿まで今しばらくお待ちください。



—————
追記1
・前書きに一部不正確な部分がありましたため、追加修正を行いました。(最新話を投稿してから→前回の最新話(「_甘雨殿の事をどう思っているのかも気になるな」)を投稿してから)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。