名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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準備が出来たので投稿。

なお、本来であれば一話に纏めて投稿しようかと思ったのですが、思った以上に長くなってしまったので、今回は前半として投稿します。

また、今回はちょっとした解説もあります。


_“凝光の目”に?

Side:瞬詠

 

「はい、“煙緋法律事務所”。ここが私が最初に瞬詠さんをご案内する場所になります」

 

「おぉ、ここがか。……なんというか、意外だな。凝光さんの話だと行政機関等の“七星八門”を中心に巡ると言っていたから、まずはそう言う所からかと思ったが…。まぁ法律事務所というわけだから、別に間違いというわけではないな」

 

瞬詠はそう言いながらも目の前の建物から甘雨に視線を向け、そして首を傾げる。

 

「はい、そうですね。ただ、何と言えば良いのか…。ここを訪れた理由と言うのは、私の友人であり大切な人…。そして私の自慢な後輩である“煙緋”さんを、是非瞬詠さんに紹介したかったからなのです」

 

甘雨は少しだけ恥ずかしそうにしながらそう言う。

 

「ほぉ、友人で大切な人ねぇ……。そして甘雨の自慢の後輩である法律家……か。ふふっ、成る程な……」

 

瞬詠は甘雨のその言葉に興味深そうに笑う。どんな人物がこの建物の中にいるのか、そんな興味が湧いてきたのだ。

 

「では、早速ですが彼女の事務所にお邪魔しましょう…。お邪魔します」

 

甘雨はそう言うと、煙緋法律事務所の扉を潜って、瞬詠もその後に続く。

 

 

 

「___いらっしゃい、ここは煙緋法律事務所。今日は何のご用件かな…。あっ」

 

そして煙緋法律事務所の扉を潜って、事務所の中に入った二人の目の前には自分の事務所を訪れた来客者達を迎え入れようと声を掛けながら視線を向けていた一人の少女。

翡翠の瞳に、薄めの朱の髪。そして金の装飾が施された赤い帽子に、璃月の薄着を身に纏った活発的な雰囲気を放ちながら、そうして腰に“炎の神の目”を身に着けている彼女、甘雨と瞬詠の話題の人物である“煙緋”の姿がそこにあった。

 

「甘雨先輩じゃないですか!珍しいですね、先輩がここを訪れるなんて」

 

「こんにちは、煙緋さん。元気にしてましたか?」

 

そして煙緋は事務所の扉を開けて入ってきた人物を見るなり、驚きの声を上げる。そうしてとても親し気に甘雨に対して声を掛けた。

 

「…」

(ほぉ、この女が…)

 

またそうして瞬詠も黙って、興味深げに煙緋に視線を移す。

 

「えぇ、私はこの通りいつも元気ですよ。それで、どうされたんですか?先輩がここに来るなんて珍しいですね。立って話をするのもなんですから、こちらに座ってください」

 

「それは良かったです。ありがとうございます、煙緋さん。お邪魔します」

 

甘雨はそう言いながら、煙緋の案内に従って向かい側の席の方に向かう。

 

「失礼する」

 

そして瞬詠も甘雨の後を追うように、甘雨の後ろを歩く。

 

「…ほぉ」

 

そうして煙緋もどこか興味深げに瞬詠に視線を向ける。

そして甘雨と瞬詠が煙緋に促されるままに向かい側の椅子へと座ると、煙緋は反対側の自分の席に腰掛ける。

 

「それで今日は一体どのようなご用件で?何か私に相談したいことが?」

 

「いえ、そういう訳ではありませんよ」

 

「そうなのですか?では何故、甘雨先輩がここに?珍しいですね」

 

「はい。実は、凝光さん直々の命で彼にこの璃月港を案内していたのですが、今後の事を考えると、彼を煙緋に会わせるべきかもしれないと思いまして。なのでこうして彼を煙緋の元に連れてきて、挨拶しに来たんですよ」

 

甘雨はニコニコとしながら、煙緋にそう告げる。

 

「なるほど、そういうことだったのですか…いや、待て。凝光の命令だと?」

 

そして甘雨の凝光の命と言う言葉、また甘雨がこの男と共に行動していたと知った煙緋はとても驚いたかのような表情を見せた後、興味深そうに目の前に居る男の方に視線を向けた。

 

「…君、君は何者なんだい?凝光とはどういう関係なんだ?教えてくれないかな」

 

「あ、あぁ…自分の名前は瞬詠。つい先日、何故か凝光さんの直属の部下になることになったばかりの者だ。よろしく頼む、煙緋さん」

 

「な、なんだと!?凝光の直属の部下だと!?」

 

瞬詠は煙緋の方を見ながら自己紹介をし、瞬詠の自己紹介を受けた煙緋は瞬詠の言葉に目を見開き、驚きの声を上げる。

 

「えぇっ!?そうだったのですか!?」

 

そうして甘雨も目を丸くし、驚愕の表情を浮かべながら、瞬詠の事を見つめる。

 

「…?」

(うん?凝光さんの奴、甘雨にはこの事を知らさせていなかったのか…?本当に、何を考えているんだが、あの人は…)

 

瞬詠はそんな二人の様子に、少しだけ不思議そうな表情を浮かべていた。

 

「え?甘雨先輩は知らなかったんですか?」

 

「はい。全く知りませんでした」

 

そして甘雨のその反応に煙緋も甘雨がその事実を知らなかったという事に驚きの表情を浮かべ、甘雨は煙緋にこくりと首を縦に振る。

 

「凝光さんからは、ただその、『璃月港をじっくりと巡ってもらおうと考えているわ』と言われてただけなんです。凝光さんはそんな事を一言たりとも言ってなかったはずなんですが……。彼はもう数日間以上、群玉閣にいる凝光さんと一緒に過ごしていたようなので、私はてっきり、凝光さんの心許せる取引相手やビジネスパートナーであったり大事な客人、または凝光さんの気の許せるご友人か、あるいは家族のように仲が良い方なのかと思っていたのですが……」

 

甘雨は顎に手を当てて考え込む。そして少し真剣そうな、難しそうな表情を浮かべた。

 

「な、成る程…。それじゃあ、彼は。瞬詠は、甘雨先輩が思っている以上に、凝光と親しい間柄ということなのか」

 

「そう言う事になりますね…」

 

煙緋と甘雨は瞬詠をじっと見つめながら、お互いに考え込むような表情を浮かべた。

 

「…いや、別に凝光さんと仲が良いとか、旧知の仲とかそういうわけではないからな」

 

そしてその二人の様子に対して瞬詠は、否定するように小さく頭を振る。

 

「そ、そうか。……でも、そうなるとますます分からない。瞬詠、君はあの凝光の直属の部下になったという訳だが、彼女は君に何をやらさせようとしているんだ?」

 

煙緋は訝しみながら、そう瞬詠に尋ねてくる。

 

「それは…__」

(…っ、やっぱり、あの人の考えている事がよくわからんな)

 

瞬詠は煙緋の疑問に対し、なんと答えようかと思考を巡らせる。

 

「__…正直、自分も分からない。ただ、凝光さんに群玉閣に連れてこられた時に、『瞬詠、貴方は最終的に私の直属の部下になってもらい、そして貴方には“私の目”になってもらうわ』って意味不明なことを言われたんだ」

 

「“凝光の目”に?……は?何だ、そりゃ。一体どういうことなんだ?……うむ」

 

「“凝光さんの目”ですか?それは…」

 

煙緋は眉間にシワを寄せながら、凝光の意図が読めずに困り果てる。甘雨も同様に困惑した表情で首を傾げた。

 

「…」

 

煙緋は考察するかのように腕を組み、目を瞑って下を向きながら、考え込んでいる。

 

そしてゆっくりと目を開くと、瞬詠の方に視線を向けた。

 

「…瞬詠。因みにだが、君は法曹界の者なのか?それか例えば、司法の先進国であるフォンテーヌで最先端の法律を学んで、法学を修めた者であったりするのか?」

 

煙緋はふと思い浮かんだのであろう可能性を口に出す。

 

「いいや。自分は法曹界の者でもないし、法律家でもないぞ」

 

「成る程…」

 

煙緋は瞬詠の言葉を聞いて、何かに納得したかのように呟く。

 

「…」

 

煙緋はじっと瞬詠の顔を見据える。

 

「…うむ、その辺りが線か…」

 

そうして煙緋は独りでにとある一つの結論を導き出したのか、納得したかのように呟く。

 

「…」

 

そして煙緋は改めて瞬詠の顔を見る。

 

「…瞬詠。君が私達の目に映らないところで、君がどんな活躍をしていたかは知らないが、恐らくは君にはそれなりの実力があると凝光は判断したということだ。それに、凝光は君の事をかなり買っている。…瞬詠、君は凝光に群玉閣に連れて来られる、いや凝光に璃月七星の元に引き抜かれる前は、何をやっていたんだ?」

 

煙緋は瞬詠を見据えながら尋ねる。

 

「ん?自分か?…自分は___」

 

瞬詠は昔を懐かしむように、一瞬だけ過去を思い返した。

 

そして煙緋と甘雨の二人に自分の経歴を語り始める。

 

「__その凝光さんに引き抜かれる前は“北斗の姐さん”の“南十字船隊”、その旗艦の“死兆星号”の元で過ごしていたぞ」

 

「そ、そうだったんですか!?」

 

甘雨は驚きの声を上げる。

どうやら甘雨ですらもかつての自分達、南十字武装船隊の話や偉業の事を知っており、目の前の男、瞬詠がその武装船隊、旗艦であった北斗の船に乗っていたことに驚いたようだ。

 

「ほぉ、あの“南十字船隊”、しかもその旗艦の“死兆星号”か…」

 

そして煙緋も瞬詠の言葉に感心した様に相槌を打つ。

目の前の男はその話や偉業、あの日あの海で起こった地獄のような海戦の生き残りであり、さらにはあの“北斗”の船に乗っていた。つまりは彼女の部下でもあったという事に興味深げな視線を瞬詠に向ける。

 

「…」

 

そうして煙緋の瞬詠を見る目が先程よりも少しだけ鋭く、真剣味を帯びる。

 

「成る程な……」

 

そして煙緋は感心したかのように何度も頷いた。

 

「ふむ…」

 

「…」

 

「…」

 

煙緋はまじまじと瞬詠の顔を見つめる。そしてそんな煙緋の様子を甘雨も無言で見つめ、瞬詠はそんな二人の様子を気にすることなく、昔を思い返すように小さく頷きを繰り返していた。

 

「…瞬詠、君は私達が想像もつかないような危険な戦場を生き抜いてきたのかもしれないね。私は君に興味が湧いたよ。…君は南十字船隊で何をしてきたんだい?」

 

煙緋は興味津々といった様子で瞬詠に尋ねる。

 

「うん?自分がやってきたこと?…うーん___」

(やってきた事か…。意外と色んな事をやってきたしな、それに本当に多種多様な事をやってきたし……)

 

瞬詠は自分がこれまでしてきた事を、一つ一つ思い返しながら、じっくりと思案する。

 

「___まぁ、まぁ、色々とやってきたな。死兆星号に乗ってる時は船隊の会計関連を怖いお姉さんに手伝わされたり、死兆星号の料理人達の料理を手伝わされたり…」

(他にも場合によっては自分達の船隊や艦隊、場合によっては複数の艦隊や合同艦隊の編成や管理、運用の補佐といったことまで色々とやったっけな……)

 

そして瞬詠は脳裏に、これまでの自分がやってきた仕事の光景が思い浮かぶ。

 

「…そして後は、船隊の上空を飛んだり、艦隊の周辺海域を飛び回ったりしてたな。むしろこっちが本業みたいなものだったな」

 

瞬詠はそう答えて苦笑いする。それこそが南十字武装船隊の旗艦である北斗の船、“死兆星号”で瞬詠が行っていた本業のようなものであったというものだとでも言わんばかりに。

 

「…船隊の上空を飛んでいた?……君にとってはそれが当たり前のことなのか?」

 

「…周辺の海をも飛んでいたのですか?……えっと、失礼ですが瞬詠さんは人間なんですよね?」

 

そして煙緋と甘雨は言葉を失う。そして唖然とした表情で瞬詠を見た。

 

それもそうだろう。

まず普通の人間であるならば、艦隊の周辺海域や死兆星号の上空以前、つまりは空をを飛び回るという行為など、それは有り得ない事なのだから。

 

「おい、甘雨。どう言う意味だ?自分はれっきとした人間だぞ。だが、まぁ___」

 

瞬詠は甘雨の発言に怪訝そうな表情を浮かべ、首を傾げる。そしてそのまま口を開く。

 

「___最初に良い感じの風さえ吹いてくれればそのまま空を飛ぶなんてことは日常的であったし、後はただ少しばかり他の人間よりも『感覚』、それに『勘』に優れてるだけだよ…」

 

そうして瞬詠は何でもないように言ったのであった。

 

 

 




後半も一週間以内。
もしくは上手い事、早めに進められる事ができたのならば、数日後にでも投稿予定です。


—————
◎解説
・煙緋法律事務所について
→『煙緋法律事務所』についてになりますが、こちらはゲーム本編や実際のマップにあるわけではなく、煙緋のプロフィール画面の所属にて『煙緋法律事務所』とありましたため、そちらを採用しております。
 私の独断となりますが、煙緋は璃月港で有名な法律家。そんな彼女が自分の事務所、また璃月港に住居を構えてないというのはおかしいと思ったため、こちらはある意味でありますが『独自設定』として、「“煙緋法律事務所”は璃月港のチ虎岩地区(往生堂のすぐ近くにある橋を冒険者協会側に渡った先のエリアの事。チ虎岩地区には冒険者協会の他にも、大衆食堂でもある万民堂や武器屋の寒鋒鉄器などがある)に事務所を構えている」という事にしようと思います。

 なお余談ですが、過去に私の旧作を読んでいただいた方であれば分かると思われますが、璃月港には『チ虎岩地区』の他にも、『玉京台地区』、『緋雲の丘地区』と言った地区があります。こちらの璃月港の地理関連に関しては、後日改めて詳細な描写、並びに解説を行えればと思います。
 
 またこれも余談になりますが、本作品は原神のマップのスケール引き延ばしを行っております。作者個人的な考えになりますが、原神の世界観がこんなにも壮絶で壮大だったのであれば、原神の世界そのものも、もっと広大であっても良いだろうと思ったためです(特に大勢の人々が住んだり、大勢の人たちが集っている事で各国の首都機能をも担っているモンド城や璃月港、また天領や花見坂等の稲妻城、スメールシティそのものやフォンテーヌ廷などは)。そのためゲーム本編よりも璃月港や璃月、そしてテイワットそのものの地理が巨大化しておりますので、各シーンの風景や背景を拡大解釈を行いながら読んでみると、もしかしたら楽しめるかもしれません。



—————
追記1
・前書きの誤字修正を行いました。

追記2
・最後のシーンの文章の修正を行いました。
→『煙緋の「…船隊の上空を飛んでいた?」と、甘雨の「…周辺の海をも飛んでいたのですか?」の台詞から。
 精査したところ、旧作からシーンを持ってきた際にコピーミスやコピーの欠落があったのを見落としていました。そのため最後のシーンの修正、並びに旧作の方でも本作品との連動のため、修正を行っています。
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