名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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完成したので投稿。

今回は前回の続き。
甘雨と煙緋が凝光からの書状の確認を行い始めた所、そして最終局面の前半部分となります。


それでは甘雨と煙緋が書状の確認を行い、そうしてその確認を終えた所からです。


_つまりは“凝光様の私兵部隊”なのです

Side:胡桃

 

「___っ!?成程、そう言う事だったのですか…!?」

「___っぅ!?な、成る程…。しかしまさか、裏でそのような事を…」

 

そして凝光からの書状の中身の確認を終えた甘雨と煙緋の二人は、それぞれがそう呟きながら頷く。

 

 

 

「_ねぇ、ねぇ。煙緋、甘雨、その書状にはなんて書いてあったの?」

 

胡桃は凝光からの書状の中身の確認を終えた甘雨と煙緋に対して、そう尋ねる。

 

 

「うん、そうだね。なんて書いてあったの。甘雨、煙緋」

「是非とも教えてください。甘雨さん、煙緋さん」

「中身を教えてください。甘雨さん、煙緋さん」

「あぁ、教えてくれ。甘雨さん、煙緋さん。二人とも」

「その内容を教えてくれないか?甘雨殿、煙緋殿」

 

そうして香菱達や行秋達、そして鍾離も甘雨と煙緋に対してそう尋ねる。

 

「はい、分かりました。まず、先ほどのお二人方が教えてくださいました真偽検証中のあの話、『“チ虎岩地区”にて屋根を跳び移りながら移動している不審者達を見かけた』という話なのですが、___」

 

甘雨はそう言いながらチラッと、甘雨と煙緋にその情報を伝えてくれた二人の兵士の千岩軍の男達の方を振り返って見る。

 

 

 

 

「_あの話は真実です。間違いはありません。ただし、その者達は不審者ではありません」

「_あぁ、その通りだ。信じられないと思うが、あれは私達の味方だ」

 

甘雨と煙緋は真剣な表情で、伝令してきたその兵士達や胡桃達にそう答える。

 

 

「味方…?」

「我ら、千岩軍のですか…?」

 

その二人の兵士の男は甘雨達の言葉に、そう呟く。

 

「はい。そうです」

 

甘雨はその二人に静かに頷きながら、胡桃達の方に顔を向ける。

 

 

 

 

「_皆さん。これから説明しますこれらの中にはある意味、今の時点の璃月においては最高機密に当たる情報も含まれていますので、どうかこの事は私達の間で内密にお願いいたします」

「_甘雨先輩の言う通りだ。この書状の中には私でさえ知らされていなかった事柄があった。だから君たちの事を信頼、信用して共有しようと思うが、どうかこれらは私達との内密として欲しい」

 

甘雨と煙緋は胡桃達に、そう警告する。

 

 

「最高機密…。うん、分かったよ。甘雨、煙緋」

「えっ、なんなの…。分かったよ、甘雨、煙緋」

「そ、それは…。分かりました、甘雨さん、煙緋さん」

「それは…。分かりました、甘雨さん、煙緋さん。内密にするよ」

「なんだそりゃ…。あぁ、分かったぜ。二人とも」

「ふむ…。分かった、内密にしよう。その契約、しっかりと果たそう」

 

そうして胡桃達もそれぞれ真剣な表情を浮かべながら、甘雨と煙緋に向かってそう頷く。

 

 

「_はい、わ、分かりました。甘雨様、煙緋様」

「_分かりました。甘雨様、煙緋様」

 

そして凝光の書状を持ってきた彼ら二人も頷きながら、甘雨達にそう言う。

 

 

「_は、はっ。承知しました!!」

「了解しました!!」

「承知しました!!」

 

「_お、おう!!分かった…!!」

「ここだけの秘密というわけだな…!!」

「俺達の間だけだな!!分かったぜ…!!」

 

そうしてまた煙緋に付いて来ていた千岩軍の小隊達や労働者の大男達もまた、只事でない事を察してか、彼らも彼らで真剣な表情を浮かべながら甘雨と煙緋にそう頷く。

 

 

「ありがとうございます、皆様」

「助かるよ。みんな」

 

そして甘雨と煙緋もまた、胡桃達にそう礼を述べる。

 

 

 

「_それでは説明の続きをさせていただきましょう。まず彼らの正体となりますが、彼らは千岩軍とは独立した部隊、“特別任務部隊”、通称“特務隊”と呼ばれる部隊の一員です」

 

「特務隊…?」

 

胡桃は甘雨のその言葉に首を傾げる。

 

 

「千岩軍とは独立した…?」

「千岩軍とは違うのですか?」

「い、いったいどういう…?」

「ど、どういうことだ…?」

「ふむ…。そのような部隊が……」

 

香菱達や行秋達、鍾離はそれぞれが不思議そうにそう呟く。

 

 

 

「_はい、その通りです。彼らの正体は璃月七星、天権様が試験的に創設しました“特殊部隊群”、つまりは“凝光様の私兵部隊”なのです」

 

「凝光様の私兵部隊…!?」

「そんな部隊があったのか…!?」

 

甘雨の説明に凝光の書状を持ってきた兵士達は驚いたように、そう声を上げる。

 

 

 

 

 

「はい、そうです。そうして彼らは私達が反刻晴派の対処を行っている間、裏で璃月港や璃月港近郊、またその周辺の全てを監視していました。そして彼らは“先に居る者達”、その手先達を完全に捉えていたようなのです。また現在は、反刻晴派の過激派主要メンバーの逃亡をわざと許し、そうして璃月港郊外で合流した彼ら手先の護衛達の誘導に従っている過激派主要メンバー達を尾行、彼らの本拠地の特定を試みているようなのです。そうしてまた___」

 

「あぁ、甘雨先輩の言う通りだ。それに凝光殿の特務隊の一部は先に居る者達の中に潜り込むことに成功し、そうして暴動騒ぎや火災騒ぎを引き起こそうと試みた彼ら、先に居る者達の手先達の合流地点や脱出地点を絞り込むことにも成功したようなのだ。そしてその地点に罠を張って待ち伏せを行っているとの事のようなのだ。そしてまた___」

 

そうして甘雨と煙緋はここにいる胡桃達、また兵士達や大男達に説明を続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

「___畜生!!どうしてこんな事に!!どうして!!どうしてなんだ!?」

「___全て失敗しちまった!!どうして、こんな!!畜生!!」

「___とにかく急ぐんだ!!目的地までに!!捕まりさえしなければ問題はない!!」

「___逆に捕まったら俺達は確実に殺されるぞ!!死にたくないなら走れ!!死ぬ気でな!!さもなければ俺達全員、粛清される事が決定になっちまうぞ!!そうなればおしまいだ!!」

「___そうだ!!七星達に処刑されるんじゃない!!‘あの御方’達が放つ“刺客”によって殺されるんだ!!だからこそ!!さっさとここから離れないと!!完全に見切りを付けられる前に!!」

「___そんな事は分かってる!!俺だって死にたくない!!完全に逃げ切れなくても、ある程度逃げ切れさえすれば、まだチャンスはある筈なんだ!!それに弁明や弁解の余地だってな!!」

 

暗雲立ち込める空の下、璃月港郊外より離れた場所。

璃月港近郊の端にある造幣局の“黄金屋”よりも更に離れた場所。

 

璃月港西側にある“璃沙郊”という地域。

 

 

その地域にて海岸を目指して全力で走りながらそう言い合う男達。

 

 

 

“先に居る者達の手先”。

 

璃月港の港湾区各地で暴動騒ぎや火災騒ぎを引き起こす事で璃月港全体を混乱の渦に引き込もうとした、この騒動の黒幕である“先に居る者達”の手下達。

 

そして璃月港を混乱の渦中に引き摺り込む事で、“彼ら”の手駒と化した反刻晴派、特に彼らとの繫がりが強い過激派の主要メンバー達の璃月港からの脱出を支援するため、大騒動を引き起こす事で千岩軍や七星達の追跡や追撃を防ぐという目論みのために、璃月港に潜り込んで暗躍をしようとしていた男達。

 

そんな彼ら、十数人の男達は今、必死になって全力で走る。

 

_もっと璃月港から離れなければ、一刻も早く目的地である脱出地点に辿り着かなければ、と。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…!!」

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ…!!」

「ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ…!!」

 

男達は恥や外聞、またプライドや面子などを気にする余裕などなく、只々必死になって走る。

 

実際は後ろから千岩軍の兵士達が追いかけて来ているなんて事はないが、だが見えない追っ手が自分達の首根っこに刃を突きつけながら追いかけて来ていると本気で信じ切っているような、そんな必死の形相で走る。

 

そうして男達は必死になって走ったおかげか、野原や丘、遠くにあった千岩軍の物見櫓が見える景色から、後方の天然林と目の前の平原、そうして遠方の海まで見渡せる平野のような景色へと変化する。

 

 

 

 

「_よし…!!」

「_もう少しだ…!!」

「_行けるぞ…!!」

 

そしてそんな景色に変化した事に、男達は歓喜したかのような声を上げる。

 

目的地は近い。

璃月港、そして璃月からの脱出ポイントである男達の秘密の脱出地点は、もう目と鼻の先。

 

そんな目的地まであと少しと言った状況に対して、男達は決して気を緩めているというわけではなさそうだが、それでも安堵したかのような表情を浮かべながらそう呟く。

 

 

「どこだ…?例の場所は……?」

「この辺りであっているはずだ…」

「よく探せ、よく探せば見つかるはずだぞ…」

 

そうして男達はゆっくりと歩きながら、今自分達の居る平野をキョロキョロと見渡しながらそう呟く。

 

 

 

 

「_あっ…。あったぞ……!!」

 

その時、一人の男がそう声を上げながら指をさす。

 

 

「本当か!?おぉ…!!」

「あそこか…!!」

「よし!!何とかなりそうだな…!!」

 

そしてその男が指差した方向に他の男達も視線を向けながら、彼らはその顔を明るくさせる。

 

 

彼らの指差す先にあったもの。

 

それは一言でも言えば草木に覆われていた廃村、人の営みなぞ感じさせない朽ちた家屋にぼろぼろな建物群。

 

またかつてこの廃村には漁村という側面もあったのか、いくつかの小さな桟橋に加えて、海に面した場所に建てられている独特な建物達も点在していた。

 

そしてそれらは舟の収納庫を担っている1階部分と、住居スペースと思われる2階部分が兼ね備えられた独特な建物、いわゆる舟屋と呼ばれるような幾つかの建物が、閑散とした雰囲気を漂わせながら廃村の海沿いに建てられていた。

 

 

 

 

「_よし、行こう!!」

「_あぁ、行こう!!」

「_とっとと、こんな所から離れよう!!」

 

だが男達は、そんな目の前の廃墟群や廃村の光景を見てもなお、心の底から嬉しそうな表情を浮かべながらそう言って、その場所に向かって駆け出す。

 

そう、その場所こそ彼らの璃月から脱出するための拠点。

 

この廃村となっていた漁村、放棄されたこの漁村を接取して更には偽装等を施されたそれらは、“彼らの拠点”であり“脱出地点”でもあった。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「ふぅ、ふぅ、ふぅ」

「ひぃ、ひぃ、ひぃ」

 

男達は再び、全力で走る。

 

 

彼らの計画は、万が一扇動等に失敗した時の計画は、意外と単純な物であった。

 

 

 

それは海上ルートを使って、璃月から隣国のスメールへと脱出を果たすという事。

 

男達の計画ではまずこの廃村に扮した拠点から、小型や中型の帆付きのボートで海岸沿いを海上で移動する。

 

そして璃月とスメールの国境地帯に置かれている彼らのより大きな拠点。

ここのような偽装等はなされていないがカモフラージュにより隠蔽された拠点で、ここよりも進んだ設備等があって充実している拠点、そうしてスメールへの密入国を行うための中継地に辿り着く事であった。

 

 

そうして辿り着いた中継地であるその秘密の拠点で二週間程度の間待機した後、彼らの間接的な協力者であるスメールの民間人達が所有しているスメール船籍の輸送船が、璃月港からスメールのオルモス港に向けて航行してくる予定だ。

 

そしてその上で船を流された遭難者という形でその船に合流して乗船を行い、そうしてオルモス港についたらそのまま“彼らの協力者達”の指示に従いつつ彼らに身を寄せながら、ほとぼりが冷めるのを待ち続けるという、璃月からの追っ手を完全に断ち切る計略であった。

 

 

 

「_はっ、本当に良かった。これで追っ手の心配をせずに過ごす事が出来るな。オルモス港に着きさえすれば、もう不安におびえる必要も無い。その代わり、かなり制約を受ける事になるがな」

「_そうだな。たしか最悪、半年から一年くらいの間は、オルモス港から出られないかもしれないという話だったかな。璃月から、七星達からの追跡を完全に逃れる為には、仕方がないとはいえ」

「_別に構わん。捕まるよりかは断然まだましだからな。それにオルモス港には俺達の味方がそれなりいるにいるという話みたいだから、完全に安全な環境とも言えるんじゃないか?」

 

男達は駆けながら、それぞれそのように言い合う。

男達が“この計画”についての説明を、万が一失敗した時の脱出計画についての説明を受けた時の話を思い出しながらそう言い合う。

 

 

オルモス港には彼ら、“先に居る者達に協力しているスメールの暗部の人間達”がいる。

またそんな“暗部の支配下や影響下にある幾つかのエルマイト旅団の派閥や彼らの傭兵団”、また数自体は多くはないものの直接的にも間接的にも協力関係を結んでいる“民間人や一般人達”、それに“教令院の事務員達等”まもでが大勢いる。

 

それ故、彼ら“スメール暗部の人間達”と共にオルモス港にいてさえすれば、自分達の身の安全を保障してくれるという説明を男達は受けていた。

 

 

だからこそ“先に居る者達の協力者である彼ら”の庇護のもと、オルモス港で時間を過ごし続けていれば璃月から追っ手の手が来たとしても逃れる事は十分出来るという話であった。

また現地の教令院勢力下のエルマイト旅団の団員達やその他傭兵達、それにオルモス港に派遣されている教令院の教令官達やマハマトラ達ですらも自分達の存在に気づけず、自分達の事を見逃して放置してくれるだろうという説明を男達は受けていた。

 

 

 

そうであるからこそ、彼らは絶望の中から希望の光明を見出す事が出来たのだ。

 

 

 

 

「_よし。やっと着いた」

「_あぁ、ようやく着いたな」

「_やっとここへ辿り着いたぞ」

 

そうして男達はようやく目的のその場所に辿り着く。

 

 

廃村の入り口。

 

朽ちた家屋や劣化してかなりぼろぼろになっている建物、またそれらの廃村の建物群を覆うように生い茂った草木や草花、また更にはその草木や植物を覆い隠すように生い茂っている木々達が広がっている。

 

そしてまたその奥には、比較的綺麗な状態の桟橋や多少ぼろくはなっているものの、十分に風雨を凌げるほどにはしっかりしてそうな舟屋が複数。

 

 

そう、この場所こそが偽装された彼らの拠点の内の一つ、そして璃月からの脱出地点。

 

「にしても、本当に…」

「あぁ、本当にそうだな…」

「見た目は完全に廃墟だよな…」

 

男達はゆっくりとその廃村の中に足を踏み入れながら、感心したかのようにそう呟く。

 

 

一軒一軒の家屋や倉庫は長年放置されたかのように見える程のボロボロに朽ち果てた建物であるように見える。

 

しかしながら、これらの建物をよく見てみるとどこか使われていたような跡があったり、また玄関の扉が開きっぱなしな建物ののそこから覗くにぼろぼろな建物と不釣り合いなほど、その建物の内装は普通に暮らせそうなほどに意外としっかりしていた。

 

この偽装を施された廃村風の拠点というのは、遠くから見れば人など住んではいなさそうな廃村、そして廃村の中に入って軽く見回しても遠くから見た印象と同じように、古ぼけて朽ちた建物や、ボロボロな状態の建物にしか見えない。

 

だがしかし、これらの建物群はよく見てみると要所要所の部分は板でしっかりと補強をされており、そうして男達が聞いた話が正しければそれぞれの建物は玄関等の外と触れている所はわざと穴を開けたりぼろぼろな状態にしているだけで、建物の玄関の先などでは普通に居住が出来るほどに補強がされて比較的綺麗な物となっているらしい。

 

そのためこの廃村に扮した拠点は全ての建物が問題なく使えるような状態であったので、拠点としての食料や武器の備蓄機能、また居住機能もしっかりとしていた事からある意味で、秘密基地とでも呼ぶべき拠点となっていた。

 

 

 

「_うん?」

 

そしてその時、彼らの内の一人がその場で立ち止まる。

 

「おい、どうした?」

「どうしたんだ?何で止まった?」

 

そうして立ち止まったその男に対して、隣に立っていた仲間の二人の男がそう声をかける。

 

 

「_あ、いや、その、なんて言えばいいのか…。何だか、妙だなと思って」

 

そしてその男は、そう言いながら周囲の様子を確認するかのように、きょろきょろと辺りを見回す。

 

「妙?何がだ?別に特に変わった様子は無さそうだが…」

「一体どうしてだ?特に何かがあったわけじゃないだろ…」

 

二人の男はそう尋ねながら、その男と同じように周囲を見回す。

 

「いや、そのな…。あまりにも静かすぎると思って…。いくら廃村の偽装を施しているからといって、あまりにも静かすぎないかと、思ってな……」

 

「静かすぎる?ここがか…?俺はよく分からないが…。ここに来るのは初めてだし……」

「…正直、分からんな。俺達はこうして今日初めて、ここを訪れたわけだしな……」

 

彼の指摘にその二人の男達は、少し困惑しながらそう答えるのであった。

 

 

 

「_おいおい。そうか?ここはそういうもんじゃないのか?」

「_お前の気にし過ぎじゃないのか?」

「_きっと、疲れてるんだよ。今日は散々だったしな」

 

そして彼のその指摘に対し、その二人の男以外の男達はそう言葉を返す。

 

「そう、なのか?確かに、今日が散々な一日。人生最悪な一日だったのは間違いないが…」

 

その男もまた、どこか納得できなさそうな表情を浮かべながらそう呟く。

 

「まぁまぁ、そんな事は言わずにさっさと行こうぜ?」

「そうだな。確かまずは、あの一番綺麗な状態の建物に行くんだっけか?」

「そうだ。あの建物に行って、ここを仕切っている奴に顔を出さないといけないんだ」

「成程、分かった。それなら、行こう。挨拶しないとな」

「あぁ、分かった。早く行こう。待たせ続けるのも悪いからな」

「そうか、分かったぞ。ならば、早く行って顔を出そう」

 

そして彼とその二人の男以外の男達は、それぞれそう言い合うと拠点の中へと歩き出す。

 

「………」

 

だが彼は、その場から動かない。

 

 

「_あいつら、行っちゃったが…。まぁ、とりあえずは俺達も行かないか?なぁ?」

「_行っちまったか…。おい、俺達も行くぞ。置いていかれるわけにもいかないしな」

 

そうして彼の隣に立っていた二人の男達は、彼にそう促すかのようにそう声をかける。

 

「あ、あぁ。そうだな、行こう…」

 

そして彼は、その二人の男達の言葉に同意するかのように頷くと、その男二人と共に歩を進め始める。

 

「………」

 

男は歩きながら目の前の男達の背中を見つめる。

 

 

 

「_だが、オルモス港か…。なぁ、オルモス港。スメールは何があるんだ?」

「_さぁ、俺はよく分からないな…。ただ璃月にはない、珍しい食べ物が沢山あるみたいだぞ」

「_そうらしいな。スメールだと。確かカレーシュリムプっていうエビが入ったカレーという食べ物があったはずだ。あの料理はかなり特徴的な料理って話だ」

「_そうだな。あとはシャフリサブスシチューや、シャワルマサンドっていう郷土料理の食べ物があったはずだな。璃月の料理とは全く違う独特な料理がな」

「_あぁ、そうだな。あとは確か、スメールシティの方にタフチーンやら、デーツナンっていう美味しい物もあった筈だ。スメールには結構な数の料理があるようだぞ」

「_そうだな、そうだな。ははっ。そう考えると、ある意味でスメールへの長期の観光旅行って言えるかもしれないな。うん、スメールの料理を楽しむというのも悪くはない」

「_確かにな。まぁ、一仕事は終わったんだ。半分くらいは休暇や休養だと思って、まずはオルモス港中の飲食店を食べ歩きして回るのも悪くないかもな」

 

目の前の男達は呑気そうに笑いながらそんな談笑に花を咲かせている。

 

「…やはり、考えすぎていただけなのか?」

 

そんな彼らの雑談を聞きながらその男はそう呟く。

 

「あぁ、きっと、そうさ。もう仕事は終わったんだ。いつまでも考え込むのはやめておけ」

「そうだ。俺達の仕事は、もうこうして終わったんだ。今はこれからの事、オルモス港でどのように過ごすかだけを考えようぜ。何を食べようとか、どこを見てみようとか、そういう事をな」

 

そんな彼の呟きに、二人の男は励ますかのようにそう答える。

 

「そうだよな…。オルモス港に着きさえすれば、璃月からの追っ手の心配をせずに……。うん?」

 

彼は自分の事を励ましてくれる男達の言葉に同意するかのようにそう言おうとしたが、その途中で何かに気づいたのか、急に訝しげな表情へと変える。

 

「ん?どうした?」

「何かあったのか?」

 

そうして急変したその彼の様子に、二人の男は怪訝そうな表情を浮かべながらそう尋ねる。

 

 

 

「…なぁ?この辺り一帯って、一度大雨でも降ったのか?」

 

彼は訝しげな表情を浮かべながら、二人はそう尋ねる。

 

「は、雨?大雨?」

「ん?どうしてだ?」

 

指摘するかのようにそう尋ねる彼に対して、二人の男達は不思議そうな表情を浮かべる。

 

 

「いや…、だって、な。___」

 

男はそう言いながら、とある方向を指差す。

 

 

「…は?」

「…え?」

 

そうして二人の男達はその男の指差した方向に顔を向ける。

 

 

「_はは、なんだかスメールが楽しみになって来たな」

「_そうだな。色々と見どころがありそうじゃねえか」

「_現地に着いたら、色々と見て回って楽しもうぜ」

「_あぁ、そうだな。海外旅行だと思って気楽に過ごそうぜ」

「_そうだな。一週間後が本当に楽しみだ。オルモス港が楽しみだ」

「_そうだな、そうだな。本当に待ちきれないぜ」

 

指差す方向はそう言って互いに笑い合う男達。

そして笑い合う男達が行く先の足元を指すかのように、彼は指差す。

 

 

 

「_何で、あそこだけ“大きな水たまり”がある?短時間で大雨が降ったなら、あそこだけじゃなくて他の所や周りの道にも水たまりがある筈だ。だが、なぜ水たまりはあそこしかないんだ?」

 

彼は二人に尋ねるかのように、そう指摘する。

 

 

 

「水たまり…?た、確かに…。どうしてなんだ……?」

「言われてみれば…。なんであの“積み重ねられた木箱”の前に、水たまりが…?」

 

二人の男達は彼のその指摘に動揺したかのような表情を浮かべ、そう呟く。

彼ら三人の男達の視線の先に居る他の男達の集団は、不自然に出来上がっていた水たまりを気にすることなく、そのまま水たまりの上を通るようにスタスタと歩いていた。

 

そして、その次の瞬間であった。

 

 

 

 

「___うわぁ!?」

「___ぎゃあ!?」

「___いやぁ!?」

 

その瞬間、先頭を歩いていた数人の男達の姿が消えて、彼らの悲鳴のような声がその場一体に響く。

 

「_っ!?おい!?どうした!?」

「_なッ!?何が起きた!?」

「_おい!?大丈夫か!?」

 

そして、そんな男達の悲鳴のような声に彼を含む三人の男達は、その場に駆けつけるかのように慌ててその水たまりの場所に向かって走り出そうとする。

 

 

「_お、おい!?なんだ、これ!?」

「_お、“落とし穴”ってことか!?」

「_ど、どうして!?な、なんで!?」

「_何で、こんな所に落とし穴があるんだよ!?」

「_そ、そこまでは深くはなさそうだが…!?」

「_ど、どうなってんだ!?いったい、何が起こってやがる!?」

 

 

そうして目の前で3人の男達が落下した事に、水たまりの上で狼狽える男達はそれぞれにそんな声を上げてる。

 

 

 

 

「___っ!?ま、まさか!?」

 

駆け付けようとした彼は何かに気づいたのか、もしくは何かに対して勘づいたのか水たまりの場所に向かって走り出すのをやめて、むしろその場所から離れるように数歩その場から後ずさりをする。

 

 

「_お、おい!?」

「_どうしたんだ!?」

 

そしてその彼が突如、その場を離れて後ずさった事に対し、彼の隣で控えていた二人の男達は立ち止まって驚きながら、彼にそう声をかける。

 

「_落とし穴、それに不自然な水たまり…!!間違いない!!あれは、“罠”だ!!」

 

「はっ、罠ぁ!?」

「なっ、罠だと!?」

 

彼のその言葉に対して、二人の男達は思わず驚愕の声を上げる。

 

 

そうしてその直後___。

 

 

「_えっ…?ぎゃぁ!?」

「_は…?ぐぁっ!?」

「_なにが…?ぐぅっ!?」

「_うん…?あがぁっ!?」

「_今のは…?あぎゃぁ!?」

「_なんだ…?がぁっ!?」

 

水たまりの上にいた男達は悲鳴のような声と共にその場で悶絶し、男達はそれぞれが倒れこんだり、またよろめきながらふらふらと力なく、その場を数歩動いたりする。

 

 

「_っ!?やはり…!!」

 

「い、今のは…!?き、奇襲か…!?」

「攻撃か…!?この場所はバレているという事か…!?」

 

そうして水たまりの上にいなかった男達は、すぐ目の前で起きた出来事に戦慄する。

 

 

彼らの目の前で、水たまりのすぐ隣にあった積み重ねられた木箱目掛けて何かが男達の前を通り過ぎて行ったと思った瞬間、その木箱が破裂するかのように突然爆裂した。

そしてその木箱の中にあったと思われる“紫色に染まっていた液体が入っている瓶”が大量に割れ、また他の木箱の中にあった大量の‘水’のそれらが男達の身体中に飛び散ったのだ。

 

 

そして先ほどの“それ”、男達の身体に飛び散った“紫色に染まっていた液体が入っている瓶”の正体は男達にとっては良く知る物。

 

‘宝盗団等がよく使っている元素投稿瓶’、“雷元素投擲瓶”が水たまりの上にいた男達へと飛び散り、また駄目押しと言わんばかりに木箱の中に大量に入っていた“水”がその男達の身体中に飛び散ったのだ。

 

 

そうしてその光景を見た三人の男達は直ぐに状況を把握する。

 

 

 

「_っ!?い、今のはどこから!?あっちか…!?」

「_“雷元素の投擲瓶”に、大量の“水”…!?」

「_くそっ!!‘感電反応’というわけか…!!」

 

彼が木箱目掛けて飛んで行った何かの正体を確認し、そうしてそれがどこから飛ばされたのかを確認しようと周囲を見回しながらそう呟いている最中、彼の隣に居た二人の男達は目の前で発生した現象に対して、そう叫ぶ。

 

 

そうそれは、『元素反応』。

 

“雷元素”と“水元素”という2つの異なる元素が絡み合ったことにより発生した元素反応、『感電』という効力によって発生した現象だ。

 

 

 

「___いた…!!」

 

そしてその時、彼は何かを見つけたかのように、そう声を張り上げる。

 

「いた!?何がだ!?」

「どこだ!?どこに何がある!?」

 

そうして彼のその叫びに、彼の隣に居た二人の男達は彼と同じく周囲を見回しながらそう尋ねる。

 

 

「あそこだ!!あそこを見ろ!!」

 

彼はそう言いながら、彼が見つけた“それ”を指すかのように指を差す。

 

「_どこだ!?…あ、あれは!?」

「_あっちか!?…なっ!?」

 

そして二人も彼の指差した方向、“それ”が見えて驚きの声を上げる。

 

 

 

 

「___ちっ。あの三人は引っかからなかったか…」

 

そう、そこにいたのは一人のとある男。

 

 

その男の手には普通のボウガンよりはやや大きめのボウガン、おそらく中距離から遠距離の狙撃用なのであろう、スナイパーボウガンとでもいうべき代物。

 

そして彼の足元には建物の屋根の色や模様と酷似していた布が乱雑に置かれている。

 

そうしてその男の服装も完全に、屋根の色に溶け込むように茶色の服の格好をしていた。

 

 

そしてそれは全体からして、完全にここに訪れる男達を待ち伏せする為にここに潜んでいた伏兵とも言うべき存在であることが明らかであった。

 

 

 

 

「_まぁ、いい…。奴らは罠にかかったぞー!!やれー!!やりやがれー!!」

 

屋根の上に立つその男は、罠にかかったその男達を見下ろしながらそう叫ぶ。

 

 

「_また来やがったな!!待っていたぜ!!お前達が、ここに来るのをよぉ!!」

「_この野郎!!璃月港を滅茶苦茶にしようとしやがって!!覚悟はできているんだろうな!?」

「_俺達の璃月港を滅茶苦茶にしようとしたんだ!!覚悟しろよ!!この野郎!!」

「_覚悟しやがれ!!この悪党共!!外道どもめ!!玉衡を利用しようとしたクズどもめ!!」

「_安心しろ!!ぶっ殺しはしねーよ!!ただ大人しくしてもらうためだ!!」

「_馬鹿野郎どもが!!スメールに逃げようなんぞ!!そんな事を許すわけねーだろうが!!」

 

そうして突如、その罠の周辺にあった建物の扉が開くとそこから大勢の男達。

“千岩軍の兵士達の格好をした者達”や“七星八門の職員の格好をした者達”、また“冒険者協会の格好をした者達”、そうして例えば“漁師の格好をした者達”を始めとする“璃月港の一般人達の格好をしていた者達”という多種多様の様々な格好をした男達、それぞれ木剣や木槍を手にしていたその者達が一斉に罠にかかっていた者達を取り囲むように展開し、その者達を襲いかかるかのように一斉に飛びかかった。

 

 

「_あがぁっ!?」

「_ぎゃあっ!?」

「_ぐぅっ!?」

「_ぐはぁっ!?」

「_いぎゃぁ!?」

「_あぎゃぁ!?」

 

そうして多種多様な格好をしていた者達に襲われた男達は、彼らの一撃をまともに受けて力なく倒れ込む。

ある者は首を木剣で叩かれて気絶、またある者は木槍で腹部を突かれて悶絶といった具合で、一気に多種多様な彼らに制圧されていく。

 

 

 

「なっ!?なにっ…!?」

「こ、こいつらは…!?」

「ま、まさか…!?」

 

そして目の前で仲間の男達が、千岩軍の兵士達の格好をしていた男達や冒険者協会の格好をしていた達に制圧されていく光景を信じられないといった様子で見つめてしまう。

 

 

 

 

「_くそっ、逃げるぞ!!」

 

「あぁ!!分かってる!!」

「なんてこった!!畜生!!」

 

そうして目の前の光景に固まってしまっていた男達は、彼のその言葉にハッとなったかと思うと慌ててその場から逃げ出そうと後ろを振り返る。

 

 

「_はっ!!馬鹿野郎どもめが!!自分達は逃げられると思っていたのか!?」

「_お前達は、ここから逃げられると思ってるのか!?それなら諦めるんだな!!」

「_おい!!武器を隠し持っているなら、大人しく地面に捨てろ!!」

「_そうだ!!地面に捨てるんだ!!そうすればあの男達のような目に合わせん!!」

「_おぉ!!そうだ!!逆に何か不審な動きをしてみろ!!後悔する事になるぞ!!」

「_そうだ!!そうだ!!最悪の場合、お前達はここで死ぬことになるぞ!!」

 

「なっ!?」

「なにぃ!?」

「っぅ!?」

 

男達が振り返った先に居たのは同じく多種多様な格好をしていた者達。

木剣ではない真剣を手にしていた七星八門の職員の格好をしていた者達や、ボウガンを構えていた漁師の格好をしていた者達や璃月港の一般人達の格好をしていた者達。

 

いずれも彼を含む三人の男達のように罠にかからず、その場で直ちに制圧する事が出来なかった者達を強制的、力ずくで拘束するための者達が彼らを包囲するかのようにその場に立っていた。

 

 

 

「前からも後ろからもか!?」

「くっそぉ!!なんてこった!?」

「っ!?ど、どうすれば!?」

 

いつの間にか自分達が窮地に陥ってしまった事に驚きを隠せない様子の男達は、その場で狼狽える。

 

「っ!?」

 

そして彼は後ろを振り返り、水たまりのあった方に視線をやる。

 

 

「_おい!!いい加減、諦めろ!!お前達はここで捕まるんだ!!」

「_お前達は何かしらの武器を隠し持ってんだろ!?捨てろ!!」

「_一度しか言わない!!武器を捨てろ!!もしくは両手を上げろ!!」

「_諦めろ!!お前達はもうおしまいだ!!抵抗しても無駄だ!!」

「_スメールには行かせん!!璃月で報いを受けろ!!ゲス野郎どもめ!!」

「_往生際が悪いぞ!!さぁ、武器を捨てろ!!もしくは両手を上げるんだ!!」

 

そうして罠にかかった仲間達の方に居た彼らも口々にそう言いながら詰め寄るかのように、一歩ずつゆっくりと迫ってくる。

 

 

「くそっ…!!」

 

彼は悪態をつく。目論見が外れたと言わんばかりに。

 

 

彼の視線の先にあったのは、彼らが手にしていたのは木剣や木槍ではなく、真剣や本物の槍、それにボウガンといった武器であった。

 

いつの間にか持ち替えていたのであろう。

罠にかかっていた仲間達であれば、あとはもう一撃加えれば制圧できるという考えがあり、そうして罠にかからなかった自分達に関しては制圧用の非殺傷用の武器では不足であると考えの元、すぐに武器を持ち替えていたのであろう。

 

先ほどまで後ろの方にこっそりと展開していた真剣やボウガン持ちの男達よりも数は多いものの、先ほどまでの彼らの装備と言うのが非殺傷用武器という事もあって、もしかすると強行突破でこの場から逃げ出す事は可能なのではないかと彼は考えていたのだが、どうやらそれは浅はかな考えであったようだ。

 

 

「_おい、どうするんだ!?」

「_大人しく降伏するのか!?」

 

彼の隣に立っていた二人の男達は、そう彼に詰め寄るかのように叫びながら尋ねる。

 

「っ…!!」

 

彼は辺りを必死に辺りを見回す。

 

 

「_おい!!いい加減に、両手を上げるんだ!!」

「_繰り返す!!これが最後の警告だ!!両手を上げるんだ!!」

「_お前達に逃げ場なぞ無い!!大人しく両手を上げろ!!」

「_武器を持っているなら捨てろ!!無いなら両手を上げろ!!」

「_往生際が悪いぞ!!ここから逃げられるとでも思っているのか!?」

「_大人しく指示に従え!!さまなければ、痛い目を見る事になるぞ!!」

 

三人の男達を包囲する多種多様な格好をしていた者達は、口々にそう言いながら彼ら三人にゆっくりと近づいてくる。

 

「おい、本当にどうするんだ!?」

「このままじゃ、本当にまずいぞ!?」

 

二人の男達は焦燥しきった様子で、彼にそう詰め寄るかのように言う。

 

「…っ。大人しく降伏するだと……?そんなの___」

 

そうして二人の男達に問い詰められていた彼は意を決したように、そう呟くと。

 

 

 

 

 

「_そんな選択肢、俺達には無いんだよ!!できないんだよ!!」

 

彼はそう叫びながら服の中から“それ”を取り出して構える。

 

 

「なっ!?」

「そ、それは!?」

「おい、嘘だろ!?」

「なんで、そんなものが!?」

「まだまだあったのか!?」

「全ては押収されたんじゃ!?」

 

そうして彼が手にして構えた“それ”に対し、多種多様な格好をした者達は一斉に目を見開き始めながらざわめき始める。

 

 

 

「_だよな!!俺達に選択肢なんて、無いよな!!」

「_そうだよな!!俺達に残された道は無いんだ!!」

 

そして彼の隣にいた二人の男達も、彼に同意するかのように頷きながら彼と同じ“それ”を取り出して構える。

 

「なっ!?お前達もか!?お前達もそれを持っていたのか!?」

「嘘だろ!?それは一つだけじゃなくて、三つもあったのか!?」

「くそっ!!甘く見てたのか!?まさか、まだあったとは!!」

「最悪すぎる!!“フォンテーヌからのそれら”はまだまだあったのかよ!?」

「とにかく、あの男達は危険だ!!おい!!どけ!!前に立つな!!」

「あの武器は危険すぎる!!どけ!!射線上を開けろ!!」

 

そしてまた残りの男達の二人も彼と同じ“それ”を手にして構えた事により、その場に一気に動揺と混乱が巻き起こり、その中でボウガン持ちの者達はそれ以外の者達にそう呼びかけながら彼らを射線上から離れるように促す。

 

 

男達三人が手にしていた“それ”。

“それら”は“小型の武器”、黒く輝く“拳銃”であった。

 

 

 

 

 

「_邪魔立てするなぁ!!」

「_投降とかお断りだぁ!!」

「_くたばりやがれぇ!!」

 

男達は躊躇うことなく、手にしていた拳銃の引き金を引きまくり、その場で乱射し始める。

 

「っぅ!?撃って来たぞ!?」

「っ!?やっぱり本物か!!」

「くっ!?先手を取られた!!」

「ぐっ!?退避!!退避ぃ!!」

「ぐぅっ!!下がれ!!下がれぇ!!」

「ちっ!!建物の裏か中まで逃げろ!!」

 

三人の男達を取り押さえようとしていた多種多様な格好をしていた者達は恐れをなしたかのように、その場から建物の裏や建物の中へと退避する。

 

 

幸いにも彼らの銃撃と言うのはあくまでも牽制のための射撃のようであって、彼ら三人は狙いを絞って射撃しなかったのか、彼らが放った銃弾は多種多様な格好をしていた者達に命中することは無かった。

 

だが牽制目的と思われるとはいえ、実際に銃撃を受けてしまった彼らはやむを得ず、その場から退避する。

 

 

 

「_よし!!おい!!お前ら!!こっちだ!!来い!!」

 

そして銃を乱射していた彼は自分達を拘束しようとした多種多様な格好をしていた者達が全員、一時的にこの場から退いた事を確認した直後、自分達の傍に立っていた二人の男達に呼びかけて走り出す。

 

「あぁ!!分かった!!」

「分かった!!今、行く!!」

 

そうして彼の呼びかけに応じて二人の男達も、彼の後を追いかけるように走り出す。

 

 

 

「_はぁ、はぁ、はぁ…!!」

「_ふぅ、ふぅ、ふぅ…!!」

「_ひぃ、ひぃ、ひぃ…!!」

 

三人の男達はそのまま家と家が直ぐ近くまで隣り合う事で出来ていた細道を走る。

 

 

「っ!?逃げたぞ!!」

「追え!!逃がすな!!」

「急げ!!絶対に逃がすな!!」

「この地から絶対に出すな!!」

「待て!!絶対に捕まえてやる!!」

「逃がすか!!待ちやがれ!!」

 

そうして三人の男達が逃げ出したことに対し、退避していた多種多様な格好をした者達がその場に集結し、一斉に三人を追いかけ始める。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…!!」

「ふぅ、ふぅ、ふぅ…!!」

「ひぃ、ひぃ、ひぃ…!!」

 

三人の男達は必死になって、その細道を走り抜ける。

 

今の男達にとっては短いその細道が、途方もなく長く感じる。

 

 

後ろから迫って来る圧倒的な数の追っ手達、おそらくどころか確実に七星の天権が放った者達から感じるその殺気に、男達はただ恐怖する。

 

 

 

「_くそっ、どうにかしないと!!」

「_畜生、このままじゃぁ!!」

「_くそぉ!!死にたくねぇ!!」

 

だがそれ以上に恐れるのは“自分達を統括している者達”、いわゆる“先に居る者達”であり、実質的な“璃月裏社会のトップ達”。

 

そうして彼らの‘統括者であるあの御方’、また実質‘あの御方’に仕える“あの御方の幹部達”と呼んでも過言ではない、残酷で冷酷な実力者達。

 

 

そんな彼らはどこからか、今も自分達を監視しているように思えてならない。

 

そして天権が放ったその者達に捕まった事を確認してしまえば、最期。

すぐさま口封じのために自分達の元に絶対的な“死”を与えにやって来るだろう。

 

 

 

「っ…!!」

「っぅ…!!」

「ぐっ…!!」

 

そうして万が一天権の放った追っ手達に捕まってしまった際の末路、自分達の成れの果ての姿を思い浮かべてしまった男達三人は、途端に顔色が僅かに悪くなる。

 

 

自分達を統括する者達、“先に居る者達”は徹底的な秘密主義、徹底した秘匿管理を行っている。

 

そのため、外部の協力者達はおろか内部関係者にすらも、仕事や任務の為に必要となる情報以外は一切渡すこともしなければ、少しの共有をも行う事すらしない。

あらゆる情報に対して自由に閲覧し、その情報をやりとりする事が許されているのは事実上‘あの御方’、あの御方に従者のように付き従う彼ら“幹部達”のみだ。

そしてそれ以外の方法があるとすれば、それはもっと原始的な方法と限られてしまう。

 

それも前提条件として“ある程度の立場の人間”である事、もしくは“特定の役割を担っている人間”でなければ特定の情報の入手はおろか、その情報の存在すら知ることもできないだろう。

 

 

だからこそ、仮に何か情報を入手したくても末端の人間は勿論の事、組織の通常の構成員や外部の協力者達では一切の情報を、また“特殊な情報”の存在すらをも知る事さえ許されないのだ。

 

 

 

 

「_はぁ、はぁ、はぁ…!!」

「_ふぅ、ふぅ、ふぅ…!!」

「_ひぃ、ひぃ、ひぃ…!!」

 

 

であるからこそ、絶対に捕まってはならない。

 

捕まってしまえば最期、自分達を始末する為に天権が放った追っ手達を含め、その場にいる全員がまとめて皆殺しにされてしまうのがオチだ。

 

 

 

 

「_っ!?」

「_なっ!?」

「_なにっ!?」

 

そうして必死になってその細道を走り抜けていた男達は、短くも長いように感じられたその細道を抜けた先に広がっていたその光景に思わず絶句する。

 

 

 

「_逃げ切れると思ったか!?いい加減に諦めろ!!」

「_そうだ!!お前達は既に包囲されているんだ!!」

「_お前達がここを訪れた時点でもう全ては決まったんだ!!」

「_そうだ!!もう大人しく投降しろ!!命が惜しければな!!」

「_さぁ!!いい加減、その拳銃を捨てろ!!捨てるんだ!!」

「_さもなければ、後悔する事となるぞ!!お前達!!」

「_そうだ!!お前達が更に抵抗するというのであれば、容赦しない!!」

「_そうだ!!そうだ!!これ以上、抵抗するならば拘束ではなく排除する!!」

 

細道を先に広がっていたその光景と言うのは、自分達の左右に三人ずつと前方に二人ずつの“とある格好をした男達”、“黒と青の装束に身を包んで腰には片手剣をぶら下げていた男達”がボウガンを手にして彼ら三人にそれらを向けていた光景。

そうして道の左右を挟み込み、前方の大きな木の両隣りに立っていた彼らが、拳銃を所持していた三人のその男達に対してそう警告する。

 

 

「ま、まさか…」

「誘われていた…?」

「誘導されていた…?」

 

拳銃を手にしていた男達は、静かにそう呟く。

 

 

 

「_よし!!何とか!!追いついたぞ!!」

「_ようやく、この三人を追いついたぞ!!」

「_さぁ、いい加減に諦めるんだ!!お前達!!」

「_お前達三人は完全に包囲されているんだからな!!」

「_お前達の手にしている拳銃を捨てろ!!今すぐだ!!」

「_そうだ!!今すぐ!!今すぐ、それを地面に捨てるんだ!!」

 

そうして更には彼ら三人を後ろから追っていた千岩軍の兵士達の格好をしていた者達や、冒険者協会の格好をしていた者達といった多種多様な格好をしていた者達が彼ら三人の男に追いつき、それぞれ片手剣や槍、そうしてボウガンといった物を構えながら、その三人の男達に対してそのように警告する。

 

 

「_ぐっ、くっそぉ!!ふざけるなぁ!!俺達の、逃亡の、邪魔をするんじゃねぇ…!!」

「_ふざけんな!!俺達は捕まるわけにはいかないんだよ!!それ以上、近づくなぁ…!!」

「_くそがぁ!!俺達は、ただ死にたくないだけなんだよぉ!!こっちに、来るなぁ…!!」

 

そうして追い詰められた男達三人は周囲に拳銃を向けながら、口々にそう叫ぶ。

 

 

「_っ!!しつこいぞ!!お前達!!いい加減にしろ!!」

「_そうだ!!そうだ!!いい加減に諦めろ!!お前達!!」

「_往生際が悪すぎる!!もういい加減に諦めるんだ!!」

「_抵抗は無駄だ!!いい加減に諦めろ!!お前達!!」

「_そうだ!!そしてこれ以上、抵抗するのであれば排除する!!」

「_本当に命が惜しいのであれば、今すぐその拳銃を地面に捨てろ!!」

 

そしてまた、彼ら3人の男達を包囲する黒と青の装束に身を包んだ男達や多種多様な格好をしていた者達は、それぞれそう警告しながら改めて武器を構える。

 

 

 

「_うるさい!!そこを退けぇ!!」

「_黙れ!!いいからそこをどけぇ」

「_うるせぇ!!どきやがれぇ!!」

 

そうしてまた、その男達も反抗するかのように必死になり、怒鳴り散らかしながら威嚇する。

 

 

 

 

「「「「「「___っ!!」」」」」」

 

「「「___っ!!」」」

 

 

完全なる一触即発。

 

 

黒と青の装束に身を包んだ男達や多種多様な格好をしていた者達は、武器を握る手に更に力を込める。

 

そして三人の男達も拳銃の引き金に指をかけ、いつでも発砲できる状態へと移行する。

 

 

何かちょっとしたきっかけさえあれば、その一触即発の状態から本格的な戦闘に発展しかねない、そんな状況。

 

 

 

_だがその時だった。

 

 

 

 

 

 

「___全員、武器を下ろしなさい」

 

 

「「「「「「_っ!?」」」」」」

 

 

「「「_っ!?」」」

 

 

その時、とある方向から“女性の声”がその場に響き渡る。

 

 

「_おい、今のって…。あそこからだよな…」

「_あ、あぁ…。あっちから聞こえたような…」

「_そうだな、間違いない。あの“木”の方からだ…」

 

男達三人はそう言いながらも、警戒するかのようにその“声”のした方角に視線を向けながら拳銃を構える。

 

 

 

「「_分かりました」」

「「_了解しました」」

「「_承知しました」」

 

そうして黒と青の装束に身を包んだ男達や多種多様な格好をしていた者達は一斉にその声に従うように、各々が自らの武器を下げる。

 

「なっ…!?武器を下ろした…!?」

「嘘だろ…!?すんなりとか…!?」

「はぁ…!?な、何者なんだ…!?」

 

男達は自分達を包囲していた彼らが自らの武器を下ろしたことに驚きつつ、改めてその声が聞こえてきた“前方の大きな木”の方へと視線を向ける。

 

 

 

 

 

「_お、おい!!誰だ!?何者だ!?」

「_誰だ!?俺達の前に出てこい!!」

「_木の後ろのいる奴!!姿を表せ!!」

 

そして男達は拳銃をその大きな木の方に構えながら、その声の主に対してそう叫ぶ。

 

 

「_ふふっ。言われなくても、そのつもりよ」

 

そうしてその声の主は軽く笑いながらそう言うと、木の後ろからゆっくりとした足取りで男達三人の前に、その姿を現す。

 

 

 

 

 

「_っ!?ま、待て…!?お、お前。お前は、まさか…!?」

「_その格好!?それにお前の“それ”!?まさか、お前が…!?」

「_そうだ!!間違いねぇ!!元凶、全ての元凶の女だぁ…!!」

 

男達三人は目を見開かせ、口を大きく開けながらそう叫ぶ。

 

 

 

 

 

「___ふふふ。貴方達は私の事を知ってるみたいだけど、私は貴方達と初対面だから、ここは『初めまして』、とでも言うべきかしら?」

 

‘その女性’、エメラルドグリーンのような清らかな瞳に、サファイアのような綺麗な髪の女性。

青いオーバーコートに、シルバーの装飾が施されたダークカラーのボディスーツのような格好。

そして腕には白いブレスレット、マントのような毛皮の白衣を後ろから下げ、太ももの一部を露出させたハイブーツを履いている女性。

そうして太ももには神に認められし者である証、“水の神の目”を身に着けていた女性。

 

‘夜蘭’は、不敵な笑みを浮かべつつそう言いながら、男達三人を見据えたのであった。




次回はこの続き、夜蘭視点でのこのシーンの続きから、最終局面の中半となります。

なお本幕第7幕に関しては、次々回でようやく最終回を迎える予定です。


そのため、本来の予定であれば次々回は第八幕の続きとなりますが、本幕もあと2話の予定の為、8幕更新は一旦停止してしまう事をご了承ください。



それでは次回の投稿まで、また今しばらくお待ちください。
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