名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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完成したので投稿。

今回は最終局面の中半。
前回の“三人の先に居る者達の手先達”が夜蘭やその配下の者達によって追い詰められたシーンからです。

今回で、ようやく色んな事が明らかになります。


_‘アビス教団’や‘ファデュイ’に続く“第三勢力”

Side:夜蘭

 

「_お、お前は…!!あ、“蒼き閃光”……!!」

「_て、てめえは…!!俺達をここまで追いやった…!!」

「_き、貴様ぁ…!!よくも、ぬけぬけと……!!」

 

夜蘭の姿を見た男達はすぐに彼女の正体に感づき、口々にそう言って彼女を睨む。

 

「ふふっ。私の事、そう睨まないでちょうだい?それに私が貴方達を追いやった、なんていうのも随分と人聞きが悪いわ。私はただ、貴方達と同じように“上の命令”に従っていただけよ?」

 

そうして敵愾心むき出しの三人の男達に対し夜蘭は、落ち着いた様子を崩す事無くそう答える。

 

「お前ぇ…!!ふざけんなぁ…!!」

「っ!!舐めてんのかぁ…!!てめぇ…!!」

「舐めやがって…!!ぶち殺すぞ…!!」

 

そしてまるで、夜蘭のその余裕な態度に怒りを爆発させたかのように男達三人は、それぞれが改めて拳銃を構えて夜蘭に照準を合わせる。

 

 

「_っ…!?おい!!お前達!!」

「_っぅ…!?おい!!銃を下ろせ!!」

「_ぐっ…!?夜蘭様に銃を向けるな!!」

「_ちっ…!!この野郎!!銃を捨てろ!!」

 

そしてまた、夜蘭に拳銃を向けた三人の男達に対し、彼らを包囲するかのように展開していた夜蘭の部下達や協力者達でもある黒と青の装束に身を包んだ男達や、千岩軍の兵士達の格好や冒険者協会の格好等の多種多様な格好をしていた者達の一部は彼女を守るかのように、彼らを威嚇するようにそう叫びながら再び剣や槍、それにボウガン等を構える。

 

「_君達!!武器を下ろしなさい!!」

 

そうしてその時、当の本人である夜蘭は武器を構えた自身の部下や協力者達に対し、即座にそのように指示する。

 

「っ!!い、夜蘭様!?」

「なっ!?し、しかし…!!」

「ど、どうしてですか…!?」

「危険です!!夜蘭様!!」

 

夜蘭に指示された部下達や協力者達達は、当然その指示に対して異を唱える。

 

「いいからその武器を下ろしなさい!!大丈夫だから!!私の指示に従いなさい!!」

 

だが夜蘭はなおもその部下や協力者達に対し、そう指示を出す。

 

「っ…!?は、はい!!」

「わ、分かりました!!」

「も、申し訳ありません!!」

「っ!!了解しました!!」

 

そして改めて、夜蘭のその指示に従って武器を下ろす部下達や協力者達。

 

「っ…。い、いったい、何を…」

「な、何を考えているんだ…」

「何をするつもりなんだ…」

 

そうしてその三人の男達は警戒したまま、武器を下ろすように指示を出した夜蘭に対して問いかけるようにそう言う。

 

 

「ふふっ。そう警戒をしないでちょうだい。私は君達の立場、そして今の君達を巡る状況を理解しているわ。もう君達は、後がない。そうでしょう?」

 

夜蘭はそう言いながら、その三人の男達に対して不敵な笑みを向ける。

 

「っ…!?だ、だったら、どうしたぁ!!あぁ!?」

「そ、そうだと言ったら、どうしてくれるんだぁ!?」

「なんだ!!見逃してくれるとでも、言うつもりかぁ!?」

 

夜蘭の言葉に、男達はそう叫ぶ。

 

「ふふっ、見逃すつもりはないわ。だけど私はみすみすと、君達が口封じのために殺されるのを見逃すつもりもないわ」

 

「っ!?」

「なっ!?」

「はぁ!?」

 

自分達をここまで追い詰めたリーダー格である彼女が、自分達を見逃さずに捕らえた上で、自分達の命を助けると同義な事を言ってのける。

そして男達三人は夜蘭のその言葉、彼女の意味不明な言動に対して何を言っているのを理解できず、思わず彼らは絶句する。

 

 

 

「_っ…!?おい!!お前は、いったい何を考えているんだ!?」

「_ふざけているのか!?俺達を助けるつもりだとでも言うつもりか!?」

「_て、てめぇ!!ふざけているのか!?ここまで追い詰めといてか!?」

 

そうして三人の男達は夜蘭のその予想外の発言に、それぞれ怒りを爆発させる。

 

「ふざけてなどいないわよ。それじゃあ、少し言い方を変えましょうか?」

 

夜蘭はあまりにも自分に怒鳴りつける男達に対して、苦笑いしながらそう言うと少し考え、言葉を続ける。

 

 

 

「_君達には選択肢がある。君達はここで自らの意志で、“先に居る者達”という組織からの離反を決断し、そして私達の元へと寝返って“天権”側の人間となる。というような選択肢が、ね?」

 

「っ!?何だと!?」

「なっ!?なに!?」

「そ、そんな事が!?」

 

男達三人は、目を見開いて思わず驚きの声を上げる。

 

 

自分達の事を助け出すどころか、夜蘭達の仲間として迎え入れるという事。

 

それと似たようなことを、夜蘭は彼らにそのように言い放ったからだ。

 

 

 

「…蒼き閃光。お前は、何を考えているんだ?何をさせようとしている?」

「…そうだ。お前はいったい、お前達は何を考えているんだ?」

「…俺達を寝返らせ、迎え入れるなんて、本当の目的は何だ?」

 

三人の男達は夜蘭に対して、訝し気にそう問いかける。

 

だが彼女のその話、その提案自体は悪い話という訳ではないようで、即座に断るような事はしなかった。

 

 

「目的?ふふっ、そうね。君達がそう疑問に思うのも無理はないわね」

(どう考えても怪しいし、何かを隠しているとしか思わないしね)

 

夜蘭はそんな三人の男達の問いかけに対して、不敵な笑みを浮かべながらそう答える。

 

「それはもちろん、君達が持っている情報が目当てよ」

 

「情報?」

「情報か?」

「情報だと?」

 

目的を明かした夜蘭に対して、警戒しつつも夜蘭のその言葉の意味を問いかける男達。

 

「えぇ、そう。特に“先に居る者達”。その彼らを統率している‘統率者’であるその者がどのような人物なのかという情報。そうしてその者に付き従っている“実力者達”、“5人の幹部達”に関する情報、例えば幹部の内の一人である“姿隠しの‘御曹司’”という人物とかの情報を、ね?」

 

「なっ!?そ、それは!?」

「ど、どうして!?それを!?」

「なぜそれを知っているんだ!?」

 

夜蘭は男達の質問にそのように答え、改めて自分達の目的を彼らに告げると、それに対してその男達は彼女が口にした“その情報”、“特殊な情報”に分類分けされる情報について驚きの声を上げる。

 

「ふふっ。それは私が、そして私達がもう数年以上前から地道にその事を調べて、彼らの事を追いかけ続けていたからよ。…彼ら、“先に居る者達”の妨害を受け、そして彼らの罠に嵌り、そうして彼らの放った刺客達の襲撃によって私達の仲間が一人、また一人と失いながらも、彼らの事を追い続け、そしていつか必ずその全てを暴き出してやる、という信念。_」

 

夜蘭はそんな三人の男達のその反応に不敵な笑みを浮かべつつも、今までに自分達が辿って来た壮絶な道のりを思い出すかのように静かに語る。

 

 

「_そうしてその信念のもと、文字通りの血がにじむような努力、そしてその努力の最果ての先に貴重な情報の入手とその代償としての暗殺という理不尽な結末を迎えてしまった彼らの犠牲を無駄にしないため…!!そうしてそんな彼らの弔いの為にもね……!!」

 

そしてそれらの出来事を完全に思い出したかのように、夜蘭はその手を強く握りながらその男達に対してはっきりとそのように答える。

 

「「「………」」」

 

そしてそんな様子の夜蘭に対し、その男達もまた思わず黙り込む。

 

 

「_おい、だったら残念だったな。俺達は別に大した情報は持ってはないぞ」

「_あぁ、そうだな。俺達はお前達が求めているような情報なぞ、持っていない」

 

そうして黙り込んでいた男達の内、真ん中の男の両隣にいた男達は、夜蘭に向かって嘲笑うようにそう告げる。

 

「あら、君達は今更そんな嘘を吐く必要なんてないわよ?だって君達は確実に、何かしらの情報を持っているという確信が私にはあるんだもの」

(そう、その“証拠”が目の前にあるわけだしね)

 

そしてそんな男達の嘲笑いに、夜蘭もまた不敵な笑みを浮かべながらそう答える。

 

「は?何を言ってんだ、お前?」

「適当な事を言ってるんじゃねえぞ」

 

男達二人は夜蘭のそんな反応に、それぞれそう反論する。

 

「あら?私は適当な事を言ってないわよ。それにこうして目の前にその“証拠”が、“決定的な証拠”が私の目の前にこうしてあるわけじゃない」

 

夜蘭はそんな男達の反応に、余裕そうな態度を崩す事無くそう反論する。

 

「はぁ、証拠だと?」

「お前の目の前に?」

 

二人の男達は困惑しながら、夜蘭に向かってそう問いかける。

 

「えぇ、そうよ。私の目の前に」

(まぁ、彼らにとっては意外過ぎて、すぐには気づけないかもしれないけどね…)

 

しかし夜蘭はそんな二人の男達の質問に対して、不敵な笑みを浮かべるとそう答える。

 

「は、いったい証拠って…」

「どういうことだよ…」

 

男達二人は、戸惑いながら何が夜蘭の言う証拠なのかを考える。

しかし考えても考えても、夜蘭の言う証拠の正体がわからずに首を傾げる。

 

 

 

「_はっ、そう言う事か。蒼き閃光が言う証拠というのは」

 

そしてその時、三人の男達の中で真ん中に立っていた男だけが夜蘭の言う証拠の正体に気が付き、呆れたかのような口調でそう呟いて、夜蘭を狙っていた拳銃を下ろした。

 

「へぇ…。ふふっ……」

(どうやらその証拠が何なのかが、はっきりと分かったようね…)

 

夜蘭は興味深そうな笑みを浮かべながら、鋭い視線をその真ん中の男に向ける。

 

「お、おい。あの女の言う証拠が分かったのか?なんなんだ、それは?」

「証拠の正体が分かったのか?なら教えてくれ。それはなんなんだ?」

 

そうして真ん中に立っていた男以外の二人の男達は、その男に向かってそう問いかける。

 

「あぁ、あの女が言っている証拠。それは“これ”の事だ」

 

その男はそう言うと、自身が握っていた“拳銃”を提示するかのように二人の男達に向かって軽く掲げる。

 

「っ!?なんだと!?…あっ」

「はぁっ!?拳銃!?…あぁ」

 

そしてその男の言葉に二人の男達は驚愕したかのように目を見開かせると、やがてはその男が言っている事、言いたい事を理解して、それぞれ納得したようにそう声を漏らす。

 

「ふふっ、ようやく分かったみたいね」

 

夜蘭はそんな男達の反応に、満足そうに頷きながらそう告げる。

 

「ちっ。冷静に考えたら、当たり前の話だ。上の連中はなんだかんだ言って、例え組織の末端の人間であったとしても、最低限の生存率や生還率の事も考えている。上の奴らは人使いが荒いかと思いきや、意外とそういう所はちゃんとしていて無駄な損失とかを避けようとするからな」

 

真ん中に立っているその男は夜蘭の言葉にそう答えると、呆れたように肩をすくめる。

 

「上の奴らは例え組織の末端の人間であったとしても最低限の自衛程度は出来るよう、ちょっとした大きなナイフ程度であれば例外なく全員に支給しているんだ。上の連中にとっては替えの利く駒みたいな存在であったとしても、その駒が駒なり最低限の役割は果たすための自衛手段を用意してくれている。だからこそ相応の人材であれば、与えられる武器の貴重性や経済性を度外視してでも必ず与えられる。例え、こういう貴重な“拳銃”ですらも、な」

 

真ん中のその男はその手に持った“拳銃”を見つめながら、夜蘭にそのように言い放つ。

 

「えぇ、そう言う事よ。つまり分かりやすい話、君達構成員の役職や立場というのは君達が持たされている武器である程度、判別出来るという事よ」

 

そうして夜蘭は腕を軽く組みながら、その真ん中の男に対してそのように答える。

 

「あぁ。確かにそうだな。普通の奴らなら片手で扱える剣だ。もしくは飛び道具としての何かしらの元素投擲瓶、それくらいだしな…」

「そう言われてみればそうだな。後は槍、そうして弓矢なりボウガンを持たされるのが普通だ。それなのに俺達だけ、これだったら…」

 

男達二人は徐々に小さな声になりながらも、夜蘭の言葉に対してそう呟く。

 

「ふふっ、そういう事よ。普通の構成員達がそのような武器を持たされているのに、君達だけそのような貴重なハイテクな武器、もしくは近代武器のような代物を持たされているという事。それはつまり君達が、普通の構成員達よりも上の立場の人間であるという事の証左でしかない。最低でも君達は“彼らや彼女達”が辿り着いた『璃月港転覆計画』、その計画の実行部隊の取り纏め役とかなんじゃないの?………おそらく、いえ確実に、ね?」

 

夜蘭は意味あり気な笑みを浮かべながら、彼らに向かってそのように告げる。

 

「「「………」」」

 

そして夜蘭のその言葉に、三人の男達は黙り込む。

 

 

ここまで正確な推理をされて、いったいどのような反応を示せばよいのか。

 

男達の視線や目の動きは、そのような困惑の色で彩られていた。

 

 

「_沈黙は肯定と受け取るけど、いいかしら?」

 

夜蘭は沈黙する男達に対し、まるで焦らすかのようにそう尋ねる。

 

「………」

「い、いや、違う。お、俺達は…」

「ま、待て。決めつけるんじゃねぇ…」

 

夜蘭のその言葉に対し真ん中に立つその男は無反応を貫いたが、両端に立つその男達は、夜蘭のその言葉に対して思わず反論する。

 

「あら?違うのかしら?じゃあ、なんなのかしら?」

 

「そ、それは…」

「お、俺達は…」

 

男達二人は夜蘭のその言葉にたじろぎ、何とかして言葉を絞りだそうと試みる。

 

 

「_おい、もうやめろ。蒼き閃光。いや、夜蘭。お前のその推論。間違ってない。正解だぞ」

 

そしてその時、真ん中に立っていた男が一歩前に踏み出ると夜蘭に向かって、その男達二人の言葉を遮るかのようにそう言った。

 

「なっ!?お、おい!?」

「なんで認めるんだよ!?」

 

男達二人はその男を非難するかのように、そのように叫ぶ。

 

「そんなのは決まっているだろう。あの女は既に確信に至っていて、それで今更になって俺達が彼女を騙すのは無理があるから以外に何があるって言うんだ。それどころか夜蘭はお前達二人を焦らさせて、余計な事を言わせようとしたり、何かしらの探りでも入れようとしていたんだぞ?」

 

「はっ!?」

「なに!?」

 

そしてその男は二人の男達にそう言って男達二人を黙らせると、その男の視線は夜蘭のその笑顔に向けられる。

 

「あら、残念ね。君達二人から面白い話が聞けると期待していたんだけどね」

(全く、目の前のこの男に邪魔されちゃったわね…)

 

夜蘭はそのような男の行動に対して、苦笑しながら心の中でそんな愚痴をこぼす。

 

「因みにだけど、ここの男達のリーダーというのは君で合っているかしら?」

 

そして夜蘭は、興味津々な様子でその男にそう尋ねる。

 

「あぁ、そうだ。ここの男達のリーダーというのであれば、間違いない」

 

そうしてその真ん中に立っていたその男は首を縦に振る。

 

「へぇ、やっぱりそうなのね。という事は、今回の璃月港転覆計画の実行部隊の取り纏め役達の総括も君かしら?」

 

「さぁ、それはどうだと思う?」

 

その男は無表情のままそう夜蘭に返す。

 

「あら…。ふふっ、そうね。どうなのかしらね?」

(ふっ…。中々、面白い男じゃない……)

 

その男のその態度と返答に、夜蘭は口元を手で隠しながら軽く笑った。

 

そしてその男のその態度と返答に対し、夜蘭は目の前の勘の良い男は思った以上に、中々に見応えがあるような男であると彼女はそう判断する。

 

「ふっ…」

 

そうして夜蘭はそんな男に対して、ある程度は彼を認めたかのように少しだけ上機嫌そうにしながら、彼の事を鼻で笑う。

 

「はっ…」

 

そうしてまた、真ん中に立つその男は夜蘭の意図や考えた事でも読み取ったのか、夜蘭に向かって嘲笑を浮かべる。

 

 

「_まぁ、そんな事は別に良いだろう?それよりも、さっさと本題に戻せよ。蒼き閃光」

 

そうしてその男はそう言い、夜蘭に対して早く本題に戻るように促す。

 

「ふふっ、それもそうね。それじゃあ、お望みどおりに本題に戻るわね」

 

夜蘭はそんなその男の言葉に思わず笑ってしまいながらも、その本来の目的に話題を戻す。

 

 

「_単刀直入に言うわ。先ほど言い直した通り、君達には選択肢がある。ここで“先の者達”から足を洗って、私達の側へ来るという選択肢がね」

 

夜蘭は鋭い視線を男達三人の男達に向けると、三人に向かってそう告げる。

 

「ふむ、そうか。足を洗う、か…」

「うーん。完全に裏切るという事か…」

「そしてそちら側に付くという事か…」

 

男達三人は夜蘭のその提案に対して、それぞれそう呟く。

 

「えぇ、そうよ。今の君達に取っては悪くはないんじゃない?」

 

夜蘭はそんな男達の呟きに、彼らに向かってそう提案する。

 

 

「_確かにそうかもしれない」

「_あぁ、悪くはないだろう」

 

そうして両隣に立つその男達は頷きながらそう言う。

 

 

そして___。

 

 

 

「_だが、お前は分かってない!!あの御方達を!!」

「_そうだ!!あの方達の事を分かっていない!!」

 

その二人の男達は夜蘭のその言葉に激昂しながら、自身の拳銃を再び構えて夜蘭に向かってそう叫ぶ。

 

 

「っ!?」

「っぅ!?」

「おい!!」

「あの野郎!!」

「くそっ!!」

「また拳銃を…!!」

 

そうして夜蘭に拳銃を向けた事に対し、彼女の部下であった黒と青の装束に身を包んだ男達や彼女の協力者である多種多様な格好をしていた者達は、それぞれその男達を睨みつける。

 

ただこの時は、つい先ほど夜蘭に注意をされたこともあって、それぞれがそれぞれの武器を構えるなんて事はしなかった。

 

 

「ふふっ。私の提案を断るのね?悪くない話だと思ったのだけけれど」

 

夜蘭は残念そうであり、でもどこか少し面白そうな様子で肩を竦める。

 

「当たり前だ!!あの方達を裏切るなんて、そんな真似が出来るわけがない!!」

「幹部の連中の“化け物達”!!あんな“理不尽な化け物達”を敵に回せるわけがねえ!!」

 

男達は必死になって夜蘭に向かって、そのように叫ぶ。

 

 

「_へぇ、“化け物達”…。“理不尽な化け物達”……」

(面白い事を聞けたわね……)

 

夜蘭は男達の言葉に、思わず笑みを深める。

 

 

そしてそれと同時に確信する。

 

男達の怯え具合と、その顔に浮かぶ恐怖に染まるその表情。

それらから男達が語ったその“幹部達に関する情報”は、全て真実であると。

 

「私の提案に乗ってくれれば天権という盾、そして七星という名の璃月の庇護が付いてくる。そう言ったら?そのような状態であれば、君達の言う幹部達もそう簡単に手出しをしてこないんじゃないの?」

 

夜蘭は男達に対してその笑みを浮かべたまま、そのように二人の男達に提案を続ける。

 

「っ!?そ、それは…」

「っぅ!?それは…」

 

二人の男達は夜蘭の言葉に揺らぎ、そうして視線を泳がせる。

 

そうして追い詰められきっていった二人の男達は必死に打算する。

 

 

現状、粛清決定間近な状況で、それから逃れられるかもしれないという選択肢。

 

だがそれを選べば最後、裏切り者となり粛清対象者となるのは確定。

そして粛清のためにその刺客が、自分達の命を狙ってくることは免れない。

 

但し、天権の庇護下にあれば少なくとも目の前にいる“蒼き閃光”と呼ばれる夜蘭という実力者、それにその仲間達や協力者達が自分達の事を守るために力を貸してくれるのは間違いない。

 

 

 

_だが、それで撃退しきれるかどうかは未知数ではあるが。

 

 

 

 

「_ふふっ、君はずっと黙り込んでいるけど、どうするのかしら?」

 

そうして夜蘭はずっと静観していた真ん中の男に対して、そう問いかける。

 

「………」

 

だがその男は夜蘭のその問いかけには答えず、ただ黙って夜蘭の事を見つめる。

 

ただ彼も彼で夜蘭のその提案内容に対し、少なからずの興味を持っているようであった。

 

 

「_俺達はもはや進めば地獄、引けば地獄というどうしようもない状況だ。結局のところ、こういう業界に足を踏み入れ、そして“あの方達”と関わってしまったという事。それはつまり、絶対に切れる事の無い鉄と血の鎖に繋がれてしまったという同義だ。彼らは来るものは拒まないが、去る者は決して許さない。だからこそどんなに遠くに逃げたとしても、その鉄と血の鎖を辿って“絶対的な死”がどこまでも俺達を追いかけてくるだろう。そうして彼らはその障害となった者も、必ず殺し尽くす。人の形をした怪物、具現化された狂気そのものだ」

 

そしてその男は独白でもするかのように夜蘭に向かってそう告げる。

 

「_ふ~ん。鉄と血の鎖。それに人の形をした怪物、具現化された狂気そのもの…」

(さっきから、“彼ら”についてとんでもない比喩や例えで話をするわね。…まぁ、それだけ危険な人物達という事で間違いは無いという事のだけれど)

 

夜蘭は彼のその言葉に対して深く頷く。

 

 

彼のその表現はどう見ても行きすぎな物であるのだが、夜蘭は的確であると、そう彼女は感じた。

 

長い間、そして決して少なくはない犠牲を払いながら得てきた情報。夜蘭の手元に集まった様々な情報を基に考えれば、それらは決して間違ってはないと言い切れるのだ。

 

 

「………」

 

夜蘭は思わず眉をひそめる。

 

 

 

彼女が追いかけ続けてきた“先に居る者達”。

 

やはり彼らは、ただの一般的な犯罪者集団などではない。

 

 

 

それは璃月の裏社会の頂点に立つと言われている者達。

 

そしてテイワット中の宝盗団等の一部の団員達や各国の裏社会や暗部に属する一派達と契約を結び、そうして奪取した宝物や価値の高い物からテイワット各国の違法な物を取り扱う者達。

 

また彼らが所有している“秘密市場”。違法な‘武器兵器市場’としての一面から、例えば名高い“フォンテーヌ製の武器や兵器”ですらをも取り揃え、また‘人身売買市場’の側面すらを持っているとされている事から、例えば“感染を恐れて捨てられたり身投げさせられたり、場合によっては拉致や誘拐などされた不治の病を患っているスメール人達の身柄”でさえも売買されていると噂されている彼らの“ブラックマーケット”の所有者達。

 

璃月の裏社会を牛耳り、そうして璃月はおろか彼らが所有しているブラックマーケットの巨大な流通網関係や、強大に構築された彼らの闇ルートのネットワーク関連で璃月周辺国であるモンドやフォンテーヌ、またスメールや稲妻の裏社会や闇の住民達、またそれぞれ各国の暗部の人間達にすら影響を与えてしまっている“あの御方”と呼ばれる人物、それにその人物に付き添うように従う実質的な“幹部達”。

 

 

当初の夜蘭や彼女の部下や仲間達、また七星のリーダーである凝光の予想すらをも上回るあまりにも強大すきる“彼ら”。

 

 

 

 

_そんな彼らは、決してただの一般的な犯罪者集団なわけがない。

 

 

 

 

 

 

「_まったく、本当に面倒ね。今日の璃月港の大騒動、反刻晴派騒ぎのせいで、完全に認めざるを得なくなっちゃったわよ…」

(最終的な目的は同じく不明。だけど今日のように璃月をを何かしらの目的で混乱と混沌に引き込もうとした“先に居る者達”という名の彼らは、テイワットを何かしらの目的で混乱と混沌に引きずり込もうと暗躍している‘彼ら’、‘アビス教団’や‘ファデュイ’に続く“第三勢力”であるという事を、しっかりちゃんと認めないといけないわね…)

 

夜蘭は呆れたように、そしてそれでいて困ったようにそう肩を竦めながら笑う。

 

 

 

「…はっ、そうか。それは何とも嬉しくて、誇らしい事だな。アビス教団やファデュイと同等だと認められるとは。まあ、俺達がやってきた事やその規模を考えたら、当然の事であるがな…」

 

そしてそんな夜蘭の言葉に対し、彼女の目の前で独白するかのように呟いたその男は呆れたように、そしてせせら笑う。

 

「えぇ、本当によ。私や凝光は別に君達の事を軽視していたつもりはなかった。少なくとも璃月の文化財等を狙う大規模な派閥の宝盗団、それなり以上の場数は踏んでいる凄腕達の集団という程度には考えていたわ。だからあくまでも別枠のアビス教団やファデュイとは違う。一般的な犯罪集団の枠組みの中で最大規模でかつ、最も危険な組織的な犯罪者集団としてしか捉えていたわ」

 

夜蘭は静かながらも、キッパリとそう言う。

 

「まぁ、そうだろうな。上の連中は天権やその配下の者達が自分達の実態に簡単に気づかれないよう、様々な偽装工作や隠蔽活動を徹底的にしてきたんだからな。例え俺達の拳銃騒ぎをきっかけに、フォンテーヌの“マレショーセ・ファントム”に所属するエージェント達の連中が嗅ぎつけたとしても、ある程度は時間を稼がせる事だって可能な程にな」

 

「へぇ、やっぱりそうだったのね。完全にやられちゃったわよ。おめでとう。君達の日頃の努力によって私達を出し抜いたわ。そのおかげで君達はもう、一般的な犯罪組織ではなくなったわよ。君達はもう、このテイワットで暗躍しているアビス教団、そして本部のあるスネージナヤ、スネージナヤの隣国であるフォンテーヌやナタ、そしてそれぞれの国々を挟んだ隣国であるスメールの方にまで勢力を伸ばして本格的な活動を活発化させつつあるファデュイと同等レベル、一般的な犯罪者集団とは違う例外的な敵対的な勢力。七星達、そして璃月が最も警戒している“アビス教団”、“ファデュイ”に続く“第三勢力”。“先に居る者達”という名の第三の“国家転覆謀略勢力”として、璃月から認められることになったわよ。正式にね。凄いじゃない。昇格、本当におめでとう」

 

夜蘭は男が予想した通りの言葉を告げると、薄く笑って彼に向かって拍手をする。

 

「ははっ、そりゃあどうも。だがまぁ、正直遅すぎると思ったがな。どうせお前さん達が、そういう指定をしてくるのだったのであるならば_」

 

彼はそこまで言うと、夜蘭に対して乾いた笑いを浮かべる。そしてそのまま、その男はその話を続ける。

 

「_以前のスメールで、『天権や蒼き閃光どもが送り込んできたお前達の仲間の工作員達や諜報員達の十数人が、“スメールを担当していた幹部のあの方”の命令によって皆殺しにされる』前に指定した方が良かったと思うがな。そうじゃなきゃ、あんな惨劇が起る事はなかっただろうに」

 

 

「_っぅ!?そ、それは…!?」

(なっ!?ど、どうして、それを…!?)

 

そして夜蘭はその男のその言葉に一瞬息を詰まらせ、そうしてその話に食いつくかのよう彼のことを睨む。

 

 

「_お、おい!?」

「_なんでそれを!?」

「_知っているのか!?」

「_ま、まさか!?」

「_こいつはその場に!?」

「_て、てめえ!!」

 

そして彼のその言葉に夜蘭の部下や仲間達、その協力者達が一斉のその男に対して殺気立つ。

 

 

「_君はまさか、その場に居たのかしら?あの日の“彼ら”、スメールに潜入した“スメール方面隊の面々”が殺される瞬間、“死域”を利用した策略によって壊滅していったその瞬間を…!!」

 

夜蘭はそうして彼を睨み付けたまま、静かに問いかける。

 

「いや、違うぞ。俺はあくまで、偶然その話を耳にしたにすぎない」

 

彼は夜蘭の言葉に首を横に振って、そう答える。

 

 

「ふ~ん、そうなのね。でも、その話を知る事が出来たという事は_」

 

夜蘭はそこまで言うと、鋭い視線のまま僅かに口角を上げて彼に問い掛ける。

 

 

「_君、それに君達の正体は“幹部に近い人間”なのかしら?言うなれば“幹部直属の部下”とでも言った立ち位置のところなのかしら?」

 

夜蘭は視線を彼から反らさないまま、そう尋ねる。

 

 

「_っ!?」

「_っぅ!?」

 

そして夜蘭のその言葉に男達三人の内の二人の男、彼らは目を見開きながら夜蘭の事を見つめ、そして無言のまま彼女から目をそらす。

 

「………」

 

そうして真ん中に立っていたその男は、夜蘭に対して動揺や困惑の色を一切見せる事はなく、ただ静かに夜蘭の事を見つめる。

 

「さて、どうなのかしら?そろそろ君の口からそれの事を答えてもらいたいのだけれども?それにまたスメール方面隊の話以外の様々な事も、ぜひ私に教えてほしいのだけれども?」

 

夜蘭はそんな彼に対してまるで問い詰めるかのように、ただ冷たく静かにそう問い掛ける。

 

 

「_ふんっ、そうだな」

 

そんな夜蘭に対して真ん中に立っていた男は鼻で笑うと、そう答える。

 

「半分正解で半分間違いと、言っておこう。俺達は確かに“幹部に近い人間”だ。だが俺達は幹部直属の人間では無い。俺達は“幹部直属の部下の配下、その人物直下の人間”だ。だからあの人経由で、その話を聞く事が出来たんだ。そしてだからこそ、絶対に_」

 

その男はそこまで言うと、夜蘭の事を睨みながら拳銃を構えて引き金に指をかける。

 

 

「_彼らは俺達の離反、俺達の裏切りを決して許さない。確実に幹部直属の部下やその配下達、下手すればその上の幹部本人が直々に率いて、俺達を抹殺しにやって来る。絶対にだ」

 

そうして男は夜蘭に向かって、殺意を込めた瞳でそう宣言する。

 

 

 

 

「…私や凝光達の保護下にあったとしても、駄目なのかしら?」

 

夜蘭はそれに対して僅かに目を細めながらそう言う。

 

「はんっ、駄目に決まっているだろう。良い例が今日に至るまでの反刻晴派騒ぎだろうが。璃月港の人間達がある程度は間接的とはいえ、彼らの思惑に従って動いていたんだぞ。これのどこに蒼き閃光や天権による保護の有効性や効力、そして信頼性がある?」

 

「っ…」

(そ、それは…)

 

男のその言葉に、夜蘭は何も言い返せず口籠る。

 

それは他ならぬ、事実であったのだから。

 

 

「ぐっ…」

「っぅ…」

「そ、それは…」

「確かにそうだが…」

「だが、かといって…」

「し、しかし…」

 

そうして夜蘭の部下達や協力者達も、また男が告げた彼らにとってあまりにも残酷な事実に動揺を隠せない。

 

「…へぇ、という事は私の提案は受け入れてもらえないという事になるのかしら?」

 

夜蘭は彼らのその様子から、察していた。いや察せざるを得なかった。

 

「あぁ、そうだ。受け入れるわけがない。俺個人的にはこうして目の前で話をした蒼き閃光の夜蘭と、その上の人物である天権の凝光の事は認められる。だがしかし、こうして直接目にしたお前達の配下の人間達の低落ぶり、そしてそれに見合った能力の無さでは受け入れられるわけがないだろう。それでは規模や数の暴力、全体的な構成員や協力者達の規模の差に加えて、有能な人間の数の差という数の暴力によって蹂躙され、そしてそのまま全員が殺されるのがオチだろうな」

 

 

「_あぁ!?おい!!どういうことだ!!」

「_おい!!ふざけているのか!?」

「_何を言いやがる!!この野郎!!」

「_お前!!もう一回、行ってみろ!!」

「_自分の立場をわきまえろ!!」

「_この野郎!!ここで殺してやろうか!!」

 

男がそう言い切ると、その男の言葉に腹を立てた彼女の部下や協力者達が一斉に、各々が下げていたボウガンや剣と言った武器を構えて男に殺意を向ける。

 

「っ!?何をやっているの!!全員!!武器を下ろしなさい!!」

 

そうして男の挑発に乗ってしまった夜蘭の部下達や協力者達に、夜蘭は鋭い声でそう制止する。

 

「し、しかし!!夜蘭様…!!」

「い、夜蘭様!!この男は…!!」

「この男は我々を!!我々の事を…!!」

 

だが彼女の部下達や協力者達は夜蘭の言葉にすぐに従わず、彼女に反論する。

 

 

「貴方達の気持ちは分かるわ!!でも今だけは抑えなさい!!本当に勝手な事はしないで!!」

 

「夜蘭様…。っ……!!」

「ぐっ…。分かりました…!!」

「っぅ…。はい、夜蘭様……!!」

 

そうして夜蘭は彼女の部下や協力者達にそう言うと、彼らは渋々といった様子で武器を下ろす。

 

 

「_夜蘭。俺の言いたい事。よく分かっただろう?」

 

そして男は拳銃を下ろしながら彼女の部下や協力者達の様子を見て、薄く笑いながらそう言う。

 

「…はぁ。えぇ、そうね。頭が痛くなったくらいにわね…」

(本当によく分かったわ。仲間思いなのは良い事なんだけど、本当に…)

 

夜蘭は苦笑いを浮かながら、そう答える。

 

「そうか、それならよかった。だがまぁ、_」

 

その男はそう言うと、夜蘭から視線を外す。そしてその男は、_

 

 

「_まずはお前達、蒼き閃光の部下達や協力者達は決して無能では無いという事は、ここで俺が断言してやろう」

 

_その男や両隣に居る男の三人を包囲するかのように、周りを取り囲むように彼を睨む自身の部下と協力者達の方を見て、そう言う。

 

 

 

「ちっ。なにが言いたい?」

「あぁ?何言ってんだ?」

「調子に乗ってんのか?」

「黙れよ。この野郎…」

「ふざけんなよ、てめぇ…」

「このくそ野郎が…」

 

夜蘭の部下達や協力者達はその男に向かって、殺意を向けながらそう言う。

 

「はっ、そう殺気立つなよ。少なくとも蒼き閃光と共に俺達の事を追いかけ、そうして今日俺達の仲間達を取り押さえる事には成功したわけなのだから、少なからずそれ相応の実力、また判断力や決断力には長けていると言いたいだけだ」

 

男は自身に向けられる殺気に対し、涼しそうな顔をしながら眉一つ動かさずにそう言う。

 

「はっ…」

「ちっ…」

「あぁ、そうか…」

「そうかよ…」

「…話を続けろよ」

「…言いたい事は何だ?」

 

そうして男の話を聞いた夜蘭の部下達や協力者達は、自分達がけなされているわけでは無いという事もあって各々が多少の冷静さを取り戻し、そうして男のその言葉をそれぞれが聞き入れる。

 

「_あぁ、ありがとう。話を続けさせてもらおう。そして俺達とお前達の最大の違いというのは、そういう仲間思いな所があるのかないのかという事だ。そうしてそういう仲間思いな所があるからこそ、少なくとも幹部直属の部下、またその部下直下以外の人間達であれば。そんな彼らは基本的にある意味寄せ集めみたいな側面を持った連中であるから、連携力やそれぞれの臨機応変さな側面でもそいつらをも上回ると思う。だから、まぁ筋とかは悪くは無いと思うぞ」

 

その男は夜蘭に部下達や協力者達を一瞥しながら、そう言う。

 

「あら、ありがとう。私の仲間や協力者達をほめてくれて、それで君はいったい私達にどうしてほしいのかしら?」

 

夜蘭は男の言葉を聞いて、その事に対して軽く微笑みながらお礼を言うと、そう男に問う。

 

「そうだな、蒼き閃光。先ほど述べた通り、夜蘭の部下達や協力者達というのはとても仲間思いで、お互いに信用、信頼しているという事だ。そしてそれは、俺達はそれを利用した“第三の選択肢”が取れるという事になる。だが“最後の選択肢”は、とてつもなくリスクは高いものだがな…」

 

男は夜蘭の問いにそう答える。

 

「へぇ、“第三の選択肢”。“最後の選択肢”ね…」

(とてつもなくリスクは高い…。いったい、どういう選択肢かしら?)

 

夜蘭は興味深げな笑みを浮かべながら、男に向かってそう呟く。

 

「リスクが高いだと?」

「とてつもなくか?」

「なんなんだそれは?」

「いったい、それは?」

「どういう選択肢なんだ?」

「どんな方法なんだ?」

 

そうして夜蘭の部下達や協力者達も、夜蘭と同じように興味深そうな表情でその男に問いかける。

 

「あぁ、それはだな___」

 

そしてその男は夜蘭や彼らに説明をしようとする。

 

 

その時であった。

 

 

「_俺達の第三の選択肢、最後の選択肢、か…」

「_そうだ。その方法しか、ないじゃないか…」

 

その時、夜蘭から目をそらしていた二人の男達が夜蘭の方に視線を向け、そうして先ほどの真ん中の男と同じようにゆっくりと拳銃を構えて引き金に指をかける。

 

「な、なんだ?」

「どうしたんだ?」

「あの二人。いったい…」

「はぁ?なんでだ?」

「選択肢と関係あるのか?」

「ど、どういうことだ?」

 

その二人の不審な行動に夜蘭の部下達や協力者達は、訝しげな表情で彼らに視線を向ける。

 

「_えっ?…っ!?」

(ま、まさか…!?)

 

夜蘭もその男の不審すぎる行動に視線を鋭くさせて、そうしてその男達の様子を観察してすぐさまに何かを察し、そして驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「_はぁ、はぁ、はぁ」

「_ふぅ、ふぅ、ふぅ」

 

その男達の身体は長い間、精神的に極限状態にいたためか、かなり息を上げながら小刻みに身体が震えている。

 

そうしてその男達の表情というのは苦痛や苦悶に満ち溢れていた表情であり、その中にほんの僅かな笑みが混じっている。

 

そしてその男達の瞳、その瞳の奥底には追い詰められ切ったが故に理性や冷静さといったものが完全に消えてしまっており、狂気的な何かが映り込んでいた。

 

 

「_おい、何をやっているんだ。銃を下ろせよ…。っ!!っぅ!?」

 

そうして真ん中に立っていた男は両隣の男達にそう言いながら、二人の男達の顔を覗きこむ。そして両隣の男達のその表情、そして瞳の中に映りこんでいた狂気の存在に気が付き、それに目を見開かせる。

 

 

「おい馬鹿!!やめろ!!銃を_」

 

その男は、追い詰められすぎて精神的に錯乱状態となった二人の男達に対し、必死になってその銃を下げるよう怒鳴る。

 

 

「_そうだ!!第三の選択肢というのは、目の前にいる蒼き閃光!!この女に危害さえ加えられれば、とりあえずはあの方達への言い訳の理由にはなる!!」

「_そうだ!!そうだ!!最後の選択肢!!それは目の前の女の命を奪えないとしても、数日でも行動不能にさえすれば、ひとまずの言い訳は立つ!!」

 

そして両隣の男達は一歩前に出て、そう叫び散らかす。

 

「なっ!?」

「嘘だろ!?」

「くそっ!?」

「なんてこった!!」

「最悪だ!!」

「夜蘭様を守れ!!」

 

そうして発狂したかのように叫び散らかした二人の男達の言葉に夜蘭の部下や協力者達は、目を見開かせながらそれぞれの武器を手に取ろうとする。

 

「おらぁ!!くたばれぇ!!蒼き閃光!!」

「女ぁ!!そのまま死ねぇ!!地に伏せろぉ!!」

 

二人の男達はそう叫んで前進しながら、夜蘭目掛けて発砲しようと引き金に力を入れる。

 

 

「_馬鹿野郎!!」

 

「がっ!?な、何を!?」

「っぅ!?お、おい!?」

 

その時、真ん中に立っていた男は二人の男達のその凶行を止めようと、片方の男を羽交い絞めするかのようその両肘を後ろから羽交い絞めにし、そうしてもう一人の男を足蹴りにしてよろめかせる。

 

 

 

「_っ!!」

 

そうしてその次の瞬間、夜蘭の太もも部分にある“水の神の目”が輝くと同時に彼女の姿がその場から消えた。

 

「なっ!?ど、どこに消えたんだ!?」

 

そして足蹴りにしてよろめいていたその男は、夜蘭の姿が一瞬で消えた事に驚いて目を見開き、そうしてその場で立ち止まる。

 

 

 

「_捕まえた…!!」

 

「がぁっ!?」

 

その次の瞬間、その男の身体にまるで爆発でもしたかのような強烈な衝撃が走り抜けて夜蘭の“水元素で作られた糸"、夜蘭の“命の糸”が男の身体を縛り付けて拘束される。そしてそのままその男の身体は地面に転がるように倒れ込んで、その男が手にしていた拳銃が宙を舞って地面に落ちる。

 

 

 

「っぅ!?くそぉ!!くそがぁ!!離れろぉっ!!」

 

「っ!?ぐぅっ!?うぉっ!?」

 

そうしてその光景を間近で見たその二人の男の片割れの男は、怒りの声を上げながら羽交い絞めしているその男の拘束を振り解き、羽交い絞めをしていたその男は地面へと投げ出される。

 

 

「はぁ、はぁ…。くそっ!!ふざけんな!!邪魔立てしやがって!!」

 

「っぅ!?」

 

そうして狂気的になっていた男は、怒りの表情を浮かべながら先ほど羽交い絞めにされていたその男に視線を送ると、そのまま拳銃の銃口をその男に向ける。

 

 

「_っ!?」

(まずい…!!)

 

夜蘭はその男の絶体絶命的な状況に、僅かに目を開かせて驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「この野郎!!お前はしばらく大人しくしてろぉ!!」

 

怒りの表情を浮かべて狂気に陥った男は、夜蘭を守るために羽交い絞めして振り解かれた男めがけて連続して引き金を引いていく。

 

 

「っ!!っぅ!?ぐっ!?がぁっ!?ぐがぁっ!?」

 

振り解かれて地面へと投げ出されたその男は、放たれる銃弾を回避しようと地面を蹴る。

そして最初の数発は何とか回避できたものの、しかし連続して放たれる銃弾全てを回避する事が出来ずに何発かは撃たれてしまったのか、男は激痛に表情を歪ませながら脇腹を抑える。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…!!」

 

そうして狂気的な瞳を宿していたその男は続いて、荒い息をしながら手慣れた様子で拳銃の弾丸の装填を一気に行っていき、再びその男に銃口を向けて引き金に指をかける。

 

 

「_させない!!」

 

「ぐっ!!っぅ!?」

 

その時、装填中であった男の手に対し“一本の水の弓矢”が飛来して、その男の拳銃をその手から吹き飛ばさせる。

 

 

「この野郎!!蒼き閃光が!!」

 

そして拳銃を吹き飛ばされたその男は、弓矢を手にしていた夜蘭に対して怒りの表情を浮かばさせながら懐からナイフを取り出し、そのまますぐ近くの夜蘭目掛けて刃を振るわんと彼女に襲い掛かろうとする。

 

 

 

「_やめろぉ!!」

 

「がっ!?」

 

そうして夜蘭に襲い掛かろうと踏み出した瞬間、脇腹を抑えながら激痛に耐えていたその男は、咄嗟にナイフを手にしていた男の片足に払いを行い、その男はその場で再び転倒し地面へと倒れ込みながら、ナイフを手放していく。

 

「今よ!!彼を取り押さえて!!無力化しなさい!!」

 

そしてナイフを手放して地面に倒れ込んで言った事を確認した夜蘭は、すぐさま彼女の部下達や協力者達に取り押さえるように指示する。

 

 

「分かりました!!」

「承知しました!!」

「はっ!!了解です!!」

「この野郎!!よくも!!」

「大人しくしろ!!この野郎!!」

「夜蘭様を撃とうとしやがって!!」

 

そうして夜蘭の指示を受けた部下達や協力者達はそれぞれ、地面に倒れ込んだその男に対して怒りの表情を浮かばせながら飛び掛かり、彼のその身体を拘束しに掛かる。

 

 

 

「くそっ!!離せ!!離せぇ!!」

 

「うるさい!!大人しくしろ!!眠れ!!」

 

「がぁっ!?っぅ…」

 

そして地面に倒れ込んでいたその男は、夜蘭の部下達や協力者達の拘束を逃れようと必死になって抵抗していたものの、しかし彼らの内の一人がその男の首筋に手刀を打ち込み、男を気絶させる。

 

「はぁ、はぁ…。良かった…。ぐっ……」

 

脇腹を抑えながら足を払った男は安堵したかのように息をつくも、すぐにまた撃たれた脇腹から激痛が走り、苦悶の表情を浮かべる。

 

 

「おい!!大丈夫か!?」

「撃たれた場所は大丈夫か!?」

「大丈夫か!?しっかりしろ!!」

「撃たれたのは、お腹辺りだけか…」

「意識は大丈夫そうだな…」

「出血はそこまで酷くは無さそうだな…」

 

夜蘭の部下や協力者達は、地面に倒れ込んでいたその男を完全に制圧し終えると、すぐさまに彼のその身体を心配して彼の元に駆け寄りながら声をかける。

 

 

 

「_どきなさい、君達!!」

 

「はっ!!夜蘭様!!」

「すみません!!夜蘭様!!」

「分かりました!!夜蘭様!!」

 

そしてそんな彼らの後ろから夜蘭が駆け付け、彼女は彼らにそう言って道を開けさせながら、地面に倒れているその男の元へと駆け寄る。

 

 

「お腹は大丈夫!?傷は!?私に見せなさい!!早く!!」

 

「っ。そこまで重傷を負った訳じゃない。身体に穴は開いてないぞ。少しは落ち着け、ほら」

 

夜蘭は地面に倒れ込んでいるその男の前で膝を着くと、男にそう言いながら男が抑えていた脇腹の辺りを確認するために顔を近づける。

そしてその男は皮肉気な笑みを浮かばせながら夜蘭にそう返そながら、両手で抑えていた脇腹をどけて彼女に脇腹の様子を見せる。

 

「…良かった。貫通していたわけじゃないのね。本当に良かったわ…」

(どうやら、弾丸が男の脇腹を掠っただけみたいね…。不幸中の幸いってところかしら……)

 

夜蘭は彼の脇腹の様子を確認する。

そうして夜蘭は銃撃を受けたその男の状況が、思った以上に悪くは無さそうである事に安堵する。

 

銃撃を受けた男の脇腹は確かに多少の出血はしてはいるものの、実際は銃弾が掠っただけのようであったため、大量出血による失血の危険性や命の危険、その他命の別状等も無さそうであった。

 

 

「_夜蘭様!!夜蘭様ぁ!!」

「_良いのがありました!!」

「_これをお使いください!!」

 

その時、数人の男達が夜蘭に叫びながら彼女の元へと駆け寄ってくる。

 

「うん?あら、それは…!!」

(助かったわ…!!)

 

夜蘭は自分の名前を呼びながら駆け寄って来る男達の方に視線を向けると、そう驚愕と歓喜の表情を浮かべて心の中で呟く。

 

 

彼らの手持ちにあったのは、まさに今の夜蘭が求めていた物。

 

包帯を始めとする簡易的な医療道具一式であった。

 

 

「夜蘭様!!拠点の倉庫の中にありました!!」

「これがあれば、その男の止血も十分出来ます!!」

「これを使ってください!!彼への応急処置に!!」

 

そうして彼らは夜蘭の横で膝を着き、それら医療道具一式を彼女に差し出しながら、そう声をかける。

 

「えぇ!!ありがとう!!助かったわ!!」

 

そうして夜蘭は彼らにそう感謝しながら、受け取ったそれら医療道具一式を手に取っていく。

 

「_よし!!これから応急処置を行うわ!!君は彼を起き上がらせて彼の背中を押さえてあげて!!君は彼に肩を貸してあげて彼の腕を支えてあげて!!そして君は隣で私の補助を!!」

 

「はっ!!夜蘭様!!」

「了解です!!夜蘭様!!」

「任せてください!!夜蘭様!!」

 

夜蘭のそれぞれの指示を受けた男達は、それぞれがそれぞれの位置に付き、そうしてその男を起こして腕を支えていく事で応急処置を施す態勢を整えていく。

 

「ぐっ…」

 

そうして応急処置を施されるその男は、上半身を起き上がらせた事で苦悶の声を上げながら、彼らに支えられる。

 

 

「_よし。これから君の掠った脇腹の止血を行うわ。その時にはそれなり以上の痛みが走るかもしれないけど、我慢してね?」

 

「あぁ、分かった。それじゃあ、頼む…」

 

そして包帯等を手にした夜蘭は起き上がらせられたその男にそう声を掛けると、その男は苦悶の表情を浮かべながら軽く頷く。

 

「えぇ、任せなさい。それじゃあ、始めるわよ…」

 

そうして夜蘭はそう言うと、真剣な表情を浮かばせながらその男への止血処置を始める。

 

 

「………」

 

「…っ。ぐっ……」

 

夜蘭は無言でその男の処置を行っていき、そしてその男は夜蘭の処置による激痛を必死に堪え続ける。

 

「「「………」」」

「「「「「「………」」」」」」

 

そしてその様子を夜蘭の指示に従ってその男を支えたり夜蘭の道具を管理する者達、またそれらの様子を夜蘭達の周りに立っていた彼女の部下達らは無言で見守る。

 

 

 

「_よし、これで終わりよ」

 

それからしばらくして男への応急処置を終えた夜蘭は静かにそう言うと、彼の顔の方に視線を向ける。

 

 

「どう?大丈夫かしら?痛みの方は?」

 

「あぁ、大丈夫だ…。痛みは、なんとかな…。先ほどよりかは、な……」

 

男はそう苦痛で苦悶の表情を浮かべながらも、ほんの僅かな笑みを浮かばせながらそう返す。

 

 

「そう…。それなら、良かったわ…」

(本当に…)

 

そうして夜蘭は男のその反応を見て、安堵の笑みを浮かべたのであった。




次回はこの続き、夜蘭による応急処置が終わったところからとなります。

それでは次回、いよいよ本幕、そして刻晴過去編の最終回の予定です。


次回の投稿まで、また今しばらくお待ちください。


—————
追記1
・セリフとタイトルの修正を行いました。(混乱と混沌に引きずり込もうと暗躍し続けている‘アビス教団’、‘ファデュイ’、それに続く“第三勢力”→混乱と混沌に引きずり込もうと暗躍している‘彼ら’。‘アビス教団’や‘ファデュイ’に続く“第三勢力”)


追記2
・明らかにおかしい描写の部分がありましたので修正を行いました。(夜蘭と先に居る者達の手先達の最初(『見逃さずに捕らえた上で』辺りと、その前後)のシーン)
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