名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

63 / 69
取り合えず、投稿できる分は既に出来ていたのでその分は投稿。

前回、第7幕の最終回にすると言いましたね。(しかも『ここまで描写できたのならば、必ず終わらせます』と言いました)
すみません、無理でした。(滝汗)


まず取り合えず、文字数が2万字くらいまでの文量まで作成する事が出来ました。
ですがその時点でもまだ、刻晴のシーンの中盤辺りまでしか進みませんでした。

そしてそうなるとおそらく、前回の時点での予定であった凝光のシーンと刻晴のシーンをそのまま単純に合わせますと、少なくとも現在の状況を鑑みるに3万字以上に達してしまう見込みとなってしまいました。


3万字オーバーは流石に長すぎるので、そのため今回は凝光(正確には凝光達)のシーンと、刻晴のシーンの最初の部分を投稿しようと思います。

最終回を楽しみしていた方々がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ありません。
今度からこうならないように、もう少し気を付けます。



それでは前回の続き。
拘束された反刻晴派がいる地下牢に甘雨や煙緋、凝光が現れたシーンからです。


_君達が、反刻晴派ね?

Side:凝光

 

「煙緋さん、甘雨さん…」

「て、天権の凝光様…」

「ま、まさかこんな所に…」

「ど、どうしてここへ?」

「ほ、本物だよな…?」

「見間違えじゃないよな…?」

 

牢屋の中にいる反刻晴派の者達はそれぞれ困惑しながら、彼女達の姿を見つめる。

予想だにしていなかった者達の登場により、それぞれが唖然としてしまったり、見間違えかと思ってしまったりと、彼らはそれぞれの驚きを隠せずにいた。

 

 

「ははっ、面白い事を言う。そうですよね、先輩。私達は本物だぞ。反刻晴派の皆」

「ふふっ、そうですね。煙緋さん。私達は正真正銘の本物ですよ。反刻晴派の皆さん」

 

「ふふふ」

(本当に面白い事を言ってくれるわね…)

 

そして反刻晴派のそのような言い様に対し、煙緋や甘雨、それに凝光はそれぞれ笑みを浮かべる。

 

「ほ、本物、か。まぁ、そうだよな…」

「いや、まぁ、偽物なわけがないよな…」

「ま、まぁ、普通に考えたらそうだよな…」

「た、確かに。偽物なわけがないな…」

 

そうして、彼ら反刻晴派達はそう口々に言う。

 

 

「_あ、あの煙緋さん。甘雨さん。そして凝光様…」

 

その時、反刻晴派の一人が恐る恐るといった様子で、煙緋や甘雨そして凝光に向かって声をかける。

 

「ん?どうしたんだ?」

「どうしましたか?」

 

「どうしたのかしら?」

 

煙緋と甘雨、凝光はその男に視線を向ける。

 

「あ、あの…、その…。どうして煙緋さんや甘雨さん、凝光様はここにいらっしゃったのかが、気になりまして…」

 

その男はおずおずとした様子で、煙緋や甘雨達に向かってそう尋ねる。

 

「ふむ、どうしてここを訪れたのか、か…」

「どうしてここにやってきたのか、ですか?」

 

煙緋と甘雨は、その男の言葉を繰り返しながらその男を見つめる。

 

「そ、そうです…。な、なぁ、そうだろう?皆?」

 

その男は彼女達から感じるプレッシャーから目を逸らしながら、周りにいた仲間の反刻晴派の者達にそう確認する。

 

「お、おう。そうだな」

「そ、そうだな。気になるぞ…」

「た、確かに気になるな…」

「な、何の用なんだろうな…?」

 

そうして助けを求めるようにそう言った先ほどの男に対し、その他の反刻晴派の者達も頷きながら、その男の問いに同意する。

 

「ふっ、そうかそうか…」

「ふふっ、そうですか…」

 

そして、あまりにもよそよそしい反刻晴派の者達のそのような態度に、煙緋と甘雨は面白おかしそうに口元を歪めながら、彼女達の真ん中に立つ凝光の方に視線を向ける。

 

 

「_凝光殿」

「_凝光さん」

 

「えぇ、分かっているわ。煙緋、甘雨」

 

凝光は煙緋と甘雨にそう言うと、一歩前へと出る。

 

「貴方達…」

 

凝光は静かにそう呟くと、反刻晴派の一人一人の顔を眺めるように静かに見回す。

 

「っ…」

「ぁ…」

「っぅ…」

「ぐっ…」

 

そうして彼女のその見る者全てを魅了してしまいそうな鋭い視線で見つめられた彼らは、恐れ慄くようにして凝光から視線を逸らしていく。

 

 

「_はぁ…」

 

反刻晴派のその者達のそんな姿を見た彼女は、小さくため息を吐く。

 

 

 

「…単刀直入に言わせてもらおうかしら」

 

「っ!!」

「っ!?」

「っぅ!?」

「っぁ!?」

 

そして凝光が発したその一言に、牢屋の中に居る反刻晴派の者達は一斉に背筋を伸ばす。

 

 

 

「_貴方達は、どうして刻晴の事を疎んでは蔑ろにし、そうして彼女を嵌めて玉衡の座から引きずり降ろそうと画策し、こうして暗躍していたのかしら?」

 

「そ、それは!?」

「それは…!?」

「ぎょ、凝光様!?」

「て、天権様…!?」

 

凝光のそれは核に迫るような質問。そしてそんな質問を受けた彼ら反刻晴派の者達は一斉に慌てふためきながら互いに顔を見合わせる。

 

 

 

「_そうだぞ。なぜお前達は、そのような事をしようとしたんだ?」

「_そうです。どうして貴方達は、このような事をしようとしたんですか?」

 

そして凝光のその質問に乗っかるようにして、煙緋や甘雨もそのように尋ねる。

 

 

「煙緋さん…」

「甘雨さん…」

「そ、それは…」

「その、それは…」

 

そうして煙緋や甘雨にもそのような事を尋ねられた反刻晴派の者達は、それぞれそう言い淀む。

 

「………」

「………」

 

煙緋と甘雨はそんな彼らの様子を静かに見つめながら、彼らが喋り出すのを待つ。

 

「………」

 

そして凝光は腕を組みながら、ただ静かに反刻晴派の者達を見つめる。

 

 

「_答えなさい。答えないと、何も分からないわ。それとも私のこの質問に、答えられないというわけなのかしら?どうなのかしら?」

 

「っぅ…」

「そ、それは…」

「そ、その…」

「お、俺達は…」

 

そうして凝光のその言葉、また彼女自身から発せられる威圧感に、彼らは思わず一歩後ろへと下がってしまう。

 

 

 

「_へぇ、そうなのね」

 

そんな彼らのその反応を見た凝光は、冷徹な視線を彼らに向けながら発すると彼らから背中を向ける。

 

「残念。どうやら時間の無駄だったようね。煙緋、甘雨、行くわよ」

 

凝光は完全に反刻晴派の彼らから興味を失くしたかのように横目で彼らにそう言い放つと、そのまま煙緋と甘雨にそう声をかける。

 

「あぁ。そうだな、凝光殿」

「はい、そうですね。凝光さん」

 

そして煙緋と甘雨も凝光のその言葉に頷きながら、凝光と共に行こうとする。

 

 

その時であった。

 

 

 

 

「_待ってください!!天権様!!凝光様ぁ!!そ、そんなの…。そんなの!!元々は、あの女が滅茶苦茶すぎたからに決まっているじゃないですか!!」

 

その時、牢屋の中にいた一人の男が牢屋の柵を掴みながら、凝光に向かってそう言い放つ。

 

 

「ほぉ…」

「へぇ…」

 

その男のその言葉に反応するかのように、煙緋と甘雨は後ろを振り向く。

 

 

「_刻晴が滅茶苦茶すぎたから…。成程ね」

 

そうして凝光は興味深そうに後ろを振り返り、その男の事を見つめる。

 

「っ…。ぎょ、凝光様…。そ、その……」

 

そして凝光に見つめられたその男は思わず息を呑み込み、そうして自身が言ってしまった事の不味さに気付く。

 

 

「成程、成程ね。実に興味深いわ…」

 

凝光は牢屋の柵に向かってゆっくりと歩きながら、彼から視線を外さないまま静かにそう言い放つ。

 

「ひっ…!?お待ちください!!凝光様!!ご、誤解です!!誤解なんです!!確かに刻晴を、いえ刻晴様を玉衡の座に座る事を認め、最終的な彼女の就任を認可したのは七星リーダーたる凝光様でございますが、決して凝光様への批判を言ったわけではございません!!」

 

そして凝光の見下すような視線に恐怖したその男は、必死に先ほどの自分の失言を取り消そうと凝光に向かってそのように弁解する。

 

「………」

 

「ひっ!?」

 

そうして凝光が牢屋の柵のすぐ目の前まで近づくと、その男の事を静かに見下ろし、その男はまるで蛇に睨まれたかのように体を硬直させる。

 

 

 

「_今の言葉はどうであれ、私は私への批判としか受け取らないわ。但し当時の彼女が、就任当初の刻晴が滅茶苦茶な部分があったという事に関しては、まぁ一理あるわね」

 

「…えっ?」

 

凝光が硬直していたその男に向かっていったその言葉。

凝光のその言葉には彼の言い分を認めると言ったような含みが含まれており、その事に気づいた彼は思わずそんな素っ頓狂な声を漏らす。

 

 

「私の所には、ほぼ毎日のように彼女の執務や政務に関する報告が来ていたわ。そして刻晴が経験不足であるが故に、毎回毎回周囲を派手に巻き込んで、執務や業務を止めてしまったり停滞させてしまったなどの、半分苦情染みた内容もね」

 

凝光は静かだが、しかしハッキリと聞こえるような口調で、彼にそのような事を伝える。

 

「だから貴方が言っているその事、別にその事自体は否定するつもりはないわ」

 

そして凝光は先ほどまで鋭かった視線を少し和らげ、それでいて声のトーンを少し落としながらそう言う。

 

「っ…。は、はぁ……」

 

そして凝光のその言葉を聞いた男は、安堵のため息を吐く。

 

「…他の者達もどうだったのかしら?やはり実際に、その時の刻晴の政務や執務、振る舞いは問題だらけだったのかしら?」

 

凝光はゆっくりと周りを見渡しながら、目の前の男の後ろや横に取り巻いていた他の反刻晴派の者達に向かってそのように尋ねる。

 

「えっ…」

「い、いや…」

「それは…」

「そ、その…」

 

凝光にそう尋ねられた他の者達は困惑したかのように視線を彷徨わせ、やがて気まずそうに目を伏し目がちにする。

 

「お、おい。お前達…」

「ど、どうするんだ…?」

「どうするって言ったって…」

「いや、これって。でも…」

 

牢屋の中に居る者達は互いに顔を見合わせながら、どうしようかと意見を交わす。

 

 

「………」

 

 

そんな牢屋の中に居る者達の事を凝光は面白そうに見つめる。

 

「_反刻晴派の皆ども。凝光殿は純粋に興味を持って聞いているんだ。遠慮はいらない。この際、正直に刻晴殿に対して思っていた事に関して話すと良い」

「_反刻晴派の皆さん。戸惑うのは分かりますが、今はそこまで深く考えずに思った事を口にしてしまっても大丈夫ですよ。遠慮なさらずに言ってしまってください」

 

そうして凝光と彼らのやり取りを見守っていた煙緋と甘雨達は、彼らを後押しするかのようにそう話す。

 

「えっ…?本当にですか……?」

「本当にか?本当に良いのか…?」

「ほ、本当に大丈夫なのですか…?」

「煙緋さん、甘雨さん。良いのですか?」

 

彼らは煙緋と甘雨までもが、自分達が思っている事を口にしても良いと言ってきた事に驚き、思わずそう聞き返す。

 

「勿論だ。そのような心配はしなくていい。何を言っても大丈夫だから、安心して述べると良い」

「はい、大丈夫です。自分の思っている事を正直に言ってしまって構いません。安心して下さい」

 

煙緋と甘雨のその優しい言葉と、そして安心させるような笑み。

 

「えっ。は、はい…」

「わ、分かりました…」

「そ、そうですか…」

「そう言う事だったら…」

 

そうして彼女達のその言葉と笑みに多少は安心したのか、反刻晴派の彼らは戸惑いながらお互いに頷き合う。

 

 

「_ま、まぁ。本当に最初の刻晴さんは滅茶苦茶だったよな。特にこっちに指示を出して俺達がその指示に従って動いている時に、その指示を取り消して別の指示を俺達にしてきたりとかな…」

 

そしてそのような最中、反刻晴派の一人が意を決したかのようにして、そう話し始める。

 

「あぁ、あったな。そんな事が。あれは本当に酷かったぜ。だったら最初から、そんな指示や命令を出してくるなって話だ。それに指示を出すなら、もう少し考えろって話だ」

「そうそう。それに加えて刻晴さんの指示の内容、その指示の出し方が下手くそすぎて、こっちは間違って受け取ってしまって、後で大変な事になったもんな。全部やり直しだ」

「そうだそうだ。指示の内容はもっと具体的に言えって話だ。あとその指示は、問題なく実行できるかどうかとかも考えろって話だ。しかも、問題なのはそれだけじゃない」

「そうだよなそうだよな。状況判断の無さ、玉衡として求められる能力や知識が完全じゃなく、経験不足や思慮不足という所まで、本当にあの時の刻晴さんは酷かった」

 

そうしてその一人が話し出すと、次から次へと刻晴に関する悪いエピソードが湧いて出て来る。

 

「ふふっ、そういえばそうだったわね…」

(玉衡になった直後の刻晴は本当に酷くて、彼女の事関係で大変だったわね…)

 

凝光は彼らが話す刻晴のその悪いエピソードに、口元に手を当てながら微笑を浮かべる。

 

「なっ。た、確かに事前に聞いていたが、そこまで酷かったとは…」

 

煙緋は彼らのその言い様に驚いて目を見開く。

 

「そ、そうですね…。確かにあの時の刻晴さんは、本当に何も分かっておらずとても大変でした。私のサポートがあって、何とかなったようなものです。そしてその事も相まって、何人ものの職員さん達が私に対し、『直ちに凝光様達は玉衡の刻晴を辞めさせるべきだ。そして空いた玉衡に関しては暫定処置として、甘雨さんが玉衡代行として就任するべきだ。だから甘雨さんから、凝光様達にそのような提言をしてくれないか』とお願いしてきたほどでしたね……」

 

甘雨は当時の事を思い出し、その時のあまりの酷さの状況加減に思わず苦笑いを浮かべる。

 

「あぁ、そうだろう。甘雨さん。確か結構な人数が、甘雨さんの所に行ったって話じゃないか?甘雨さんから助けてもらうため、その時の月海亭のその状況を何としても打破する為に」

「それなら俺も聞いた事あるな。確か十数人くらいの不満を持ったそれぞれの奴らが、甘雨さんの所に行って直訴してきたって話だったか。あの時のあいつらは、もう必死だったそうじゃないか」

「そうらしいな。このまま刻晴に月海亭を荒らされ続けられたら、玉衡以外の七星絡みの案件の進捗にも支障が出かねないってな。そうなればいずれ、総務司等にも影響が出るって話だったしな」

「そうだな。それに本人に悪気等は一切無く、真面目に取り組んでいるのは分かるんだが、それでもあれは許容できないってな。このままじゃ七星八門、そして璃月港に影響が出るかもってな」

 

甘雨のその言葉に、牢屋の中に居る反刻晴派の者達はうんうんと頷きながら、彼らはそのようにそう言い合う。

 

「はい、そうでしたね。私も彼らの言い分は理解できますし、彼らの言っている事に間違いはありませんでした。ですのでどうやって彼らを納得させ、そしてどのように説得していけばいいのかと、本当に頭を悩ませましたよ」

 

反刻晴派の者達のその言葉に対し、甘雨もその時の事を思い出して呆れ笑いをしながら、彼らにそう答えるようにそう言う。

 

「ふふっ、そう言えばそのような事もあったわね」

(私に報告してきた甘雨の疲れ切った顔が、今でも鮮明に思い出せるわ…。あの時は本当に大変だったわね、甘雨)

 

凝光は当時の事を思い出しながら、そのような事を心の中で思いつつクスクスと笑う。

 

「ほぉ、成る程。そしてそれが、今の反刻晴派へと繋がる一つの出来事というわけか…」

 

そうして彼らの話を聞いていた煙緋は彼らのその話に、顎に手を当てながらそんな事を呟く。

 

「あぁ、そうさ。煙緋さん。その通りだ。このような出来事が多々あったから、今の反刻晴派が出来上がっていったというわけなんだ。彼女にこれ以上、滅茶苦茶にされない為に」

「そうだ。そしてその時、当初の頃の刻晴が月海亭で色んな事をしでかしてくれたから、今のようにこうなったんだ。このままじゃ、月海亭は本当にまずい事になると思ってな」

「あぁ、そうだ。その通りだ。それに俺達も何の理由も無く、刻晴を玉衡の座から引きずり降ろそうとしていたわけじゃない。そこは勘違いしないでほしい。全ては月海亭を守るためだ」

「あぁ、そうだそうだ。俺達だって、その時の刻晴が月海亭を引っ掻き回すような事をしなければ、こんな事はしていなかったんだ。反刻晴派は、ある意味で不可抗力な存在なんだ」

 

そして煙緋のその呟きに反応するかのように、彼らは真剣な眼差しを煙緋へと向けながらそう答える。

 

「成程…。うん、分かった。まぁ、確かにその点においては、君達に非は無いだろう。うん…」

 

煙緋は彼らのその言葉に、目を閉じながら静かに頷く。

 

 

 

「_だが、しかしだ。それならそれで、お前達に一つ尋ねておかなければならない事がある」

 

そうして煙緋は、牢屋の中に居るそんな彼らを鋭い視線で見つめながら尋ねる。

 

 

「な、なんだ?煙緋さん?」

「なんだ?尋ねたい事って?」

「な、なんでも答えるぞ」

「あぁ、正直に。なんでもな」

 

牢屋の中の彼ら、反刻晴派の彼らは煙緋のその気迫に少し気圧されながらも、しかしそれでも自身のその意思、自分達の意志を煙緋へと示す。

 

「そうか…。なら言ってやろう。お前達、反刻晴派に一定の正当性はある。それは認めよう。だが、しかしだ。お前達、反刻晴派はその話の中に混じって、_」

 

煙緋はそこまで言うと鋭い視線をさらに鋭くし、そして少し怒りを滲ませたような声色で言葉を続ける。

 

 

「_『次の玉衡の席を確実に空席にする為に今は手を組もう』だとか、『刻晴がどれくらい持つのか、玉衡の座をいつ手放すになるのか見ものだな』とか。それに『次の玉衡は誰になるのか、誰に気に入られて取り入られたら良いのだろうか?』とか、そう言った散々な話もあったらしいが…。この悪意に満ちた刻晴への態度や言動、それについてはどう思っているんだ?」

 

「なっ!?」

「えっ!?」

「っ!?」

「っぅ!?」

 

煙緋のその怒気の込められたその言葉に、彼ら反刻晴派の者達は思わず気圧され、一歩後ろへと後退する。

 

 

「ふふっ、そう言えばそうね…」

(彼らはこの事に関して、どう思っているのかしら…?)

 

そして凝光も、煙緋のその言葉に同意するかのように頷くと、彼ら反刻晴派を見据えるかのように見つめる。

 

「そうですね…」

 

そうして甘雨も、煙緋のその言葉に凝光と同じように頷くと、その場で腕を組んで彼ら反刻晴派の者達の事を見つめ始める。

 

 

「そ、それは…」

「その…」

「い、いや…」

「それに関しては…」

 

彼らは少しの間、そのような煮え切らない言葉を繰り返しながら視線を右往左往させる。

 

 

それは彼ら反刻晴派という本質を突いた問い。煙緋のその問いかけは、まさに核心を突いたかのような問いであった。

 

そしてそんな彼ら反刻晴派の者達の言葉を静かに待ちながら、彼女達は目を細めて彼らを見つめている。

 

「…そ、それは、あまりにも酷すぎ_」

 

 

 

「___正直に答えなさい」

 

「_っ!?」

 

そうして彼らの内の一人が恐る恐ると言った様子で、煙緋の問いかけに答えようとしたその時、その途中で凝光が言葉を遮るようにそう告げる。

 

「ぎょ、凝光様…!?」

「っぅ!?い、いや!!」

「俺達は本当に…!!」

「あぁ、それはあまりにも…!!」

 

彼らは必死になって弁明しようとする。

 

だがそんなのはどう見ても、誤魔化しているようにしか見えなかった。

 

「…はぁ、一度しか言わないぞ。凝光殿の言う通り、私の質問に対して正直に答えるんだ。もしそうしないのであれば、もう私達の話はそこで終わりとしようではないか」

「…そうですね。煙緋さんの言う通り、彼女の問いに対して正直に答えてあげてください。もしもそうしないのであれば、残念ながらもう私達の話はここで終わりです」

 

そしてそんな彼らに対して、煙緋と甘雨は冷たい視線と言葉を向ける。

 

「そ、それは!?」

「待ってください!!」

「煙緋様!?甘雨様!?」

「お、俺達は…!?」

 

煙緋と甘雨のその言葉に、牢屋の中にいる反刻晴派の者達は皆一同に動揺する。

 

 

「_ふふっ。なら特別にもう一度だけ、言ってあげるわ」

 

そして凝光は、彼女達のその言葉に動揺していた彼らのその反応を見て、少し口元を緩ませるともう一度彼らに言葉を投げかける。

 

 

 

「___正直に答えなさい。そうでなければ、この話はもうおしまい。私達はここを後にするわ」

 

 

「_っ…!?」

「_っぅ…!?」

「_凝光様…!?」

「_天権様…!?」

 

凝光の最終通牒。

凝光のその言葉に、反刻晴派の者達は更に動揺する。

 

 

「さぁ、どうする?」

「どうしますか、皆さん?」

 

そしてそんな彼らの事など気にした様子もなく、煙緋と甘雨は改めて彼らに問いかける。

 

 

 

「_っぅ!?あぁ!!そうだよ!!刻晴のその話は、俺達も盛り上がっていたよ!!あの無能な女は、どうせ次への繋ぎにしかすぎないだろうってな!!」

 

地下牢に響き渡るその叫び声。反刻晴派の一人は彼女達の圧力に暴発したかのようにして、自暴自棄にそう叫んだ。

 

 

「あぁ!!そうだ!!そうさ!!それにあの時は月海亭や総務司等の七星八門のあちこちで、あの女の次を巡って色んな人達がそれぞれ動き始めていると噂もあったくらいだしな!!」

「そうさそうさ!!あの女はあくまでも繋ぎなのさ!!そしてそう遠くない内に璃月七星達は彼女を見限り!!そうして玉衡の頭を挿げ替えるだろうって話で俺達は盛り上がっていたしな!!」

「そうだ!!だから俺達は誰が次の玉衡の座に就くのか、誰に媚びを売った方が有利になりそうかと盛り上がっていたのさ!!立場の向上、また昇進にも繋がりそうだったしな!!」

「実際問題!!あの女は玉衡としての責務を果たすどころか、周囲の足を引っ張るような存在だった!!だったらそんな話が月海亭や総務司といった七星八門で流れるのも当たり前だろ!!」

 

そしてその者の叫びに呼応するかのように牢屋の中の反刻晴派の者達は、まるで開き直ったかのようにより一層声を大にしてそう叫ぶ。

 

 

 

 

「_ほぉ、成る程…。まぁ、お前達のその目論見は派手に外れたがな。立場の向上や昇進はおろか、お前達はこうして重罪を犯した大罪人という身分になってしまったのだから。残念だったな」

「_成程、そう言う事ですか…。それでしたら、実に残念でしたね。最終的に貴方達は、こうして逮捕されて牢屋の中に入る事になってしまったのですから。全てが無駄となってしまいましたね」

 

煙緋と甘雨は、そんな反刻晴派の者達のその言葉を聞き、うんうんと頷きながら同意しながらも、彼らを嘲笑するかのような表情を浮かべる。

 

 

「こうなるくらいであれば、例えばもう少し刻晴殿の事を見極めようとした方がではないか?そうすれば彼女の真価を、そして凝光殿達が彼女を玉衡に任命した理由を理解できたはずだろうに…」

「こうなってしまうのでしたら刻晴さんの事を信じる事はしなくても、もう少し様子を見るなどといった行動でもすれば良かったですのに。そうすれば彼女の本質に気づけたかもしれません…」

 

そして煙緋と甘雨達は、そのまま彼ら反刻晴派の者達を嘲笑するかのような表情と口調でそう言い放つ。

 

 

「っぅ…!?」

「そ、それは…!?」

「うぐっ…!?」

「なっ…!?」

 

そうして彼女に嘲笑されながら、そんな事を言われた反刻晴派の者達は、牢屋の中で驚愕と動揺に目を見開く。

 

「ぐぅ!!それは…!!」

「いや、刻晴は…!!」

「だが最初の頃は…!!」

「そんな事は…!!」

 

彼らは怒りの表情を露わにしながら、甘雨や煙緋達に言い返そうとする。

 

しかし煙緋や甘雨に言い返そうにも、彼女達の言い放ったことは紛れもない事実であり、何の反論も出来ないものであった。

 

 

「こ、刻晴が悪いんだ…。あの女、実はあんな真価をその身に隠し持っているとは思わず……」

「そうだ。全てはあの女が悪いんだ…。ある意味、俺達は嵌められたようなものなんだぞ……」

「あの女があんなに化ける事が分かっていたのなら…、俺達はこんな事をしなかったぞ……」

「あぁ、そうだ…。それならむしろ中立の立ち位置に立つなり、認刻晴派に回っていたぞ……」

 

牢屋の中にいるその者達は振り絞るかのようにそう言うが、先ほどまでの気力や怒気はどこに消えたのやら、完全に意気消沈した様子を見せながら彼女達にそう言い放つ。

 

 

 

「_ほぉ。そうであるならば、ただ泥舟の反刻晴派から抜け出せばよかったのではないのか?」

「_成程。それでしたら、すぐ認刻晴派に回ってしまえばよかったのではないのでしょうか?」

 

煙緋と甘雨は、彼らの力無きその言葉に対して淡々とそう言い返す。

 

「そ、それもそうではあるが。だがしかし…」

「お、遅すぎたんだ。全てが何もかも…」

「分かってる。だがその時には、もう既に…」

「無理だったんだよ。抜け出すのが…」

 

牢屋の中の彼らは、諦めたようにそう呟く。

 

「ほぉ、成る程。そうか…。お前達の事、お前達の言いたい事はよく分かった…」

「成程、そうですか。そう言う事ですか…。改めて貴方達の事を理解できましたよ…」

 

煙緋と甘雨はそんな反刻晴派の者達の言葉に、冷たい視線と言葉を向ける。

 

「ふふっ、成程ね…。はぁ、全く呆れたわ……」

(全く、酷い有り様ね)

 

そうして彼らと彼女達のやり取りを見守っていた凝光は、腕を組みながら彼ら反刻晴派の者達に対し、溜息を零す。

 

「「「「………」」」」

 

牢屋の中にいる彼らは完全に沈黙する。

 

煙緋や甘雨達のその冷たい視線と言葉に、もう彼らは何も言い返せなくなってしまった。

彼女達の言い合いに完全に打ち負かされ、そして自分達のプライドや誇り、心までもをズタズタにされてしまった。

 

 

そして今のそんな彼らの瞳には、彼女達に対する恐怖が宿っており、その体は僅かに震えていた。

 

 

 

「___全く本当に大違いだ。方や璃月の現状を真摯に見つめつつ、璃月の歩むべき未来と向き合って思い悩み、そうして未熟でありながらも前へと歩みを進める“刻晴”殿。そして方やそんな彼女の足を引っ張るはおろか、彼女を陥れようと画策し、そうして結果的には自覚がないまま璃月の秩序を搔き乱そうとした目の前に居る、牢屋の中に入れられた“愚か者達”」

 

「「「「っ…」」」」

 

煙緋の冷めきったそのそんな言葉が牢屋中に静かに響き渡り、彼ら反刻晴派はその身を震わせる。

 

 

 

「___ふふっ。えぇ。本当にそうですね。“刻晴”さんと彼らとではもう大違いです。むしろ彼女と比べること自体が、彼女への失礼に当たってしまうのではないかと考えてしまう程に、ここの者達は酷すぎる人達です。人を見る目が無く、そして権力欲といった欲望に弱すぎて、下劣で卑劣な儲け話にたぶらかされてしまうような、“愚かな人達”としか思えません」

 

「もう、止めてくれ…」

「っぅ。も、もう…」

「煙緋さん、甘雨さん…」

「もう何も言わないでくれ…」

 

そして甘雨も煙緋に同意するように頷きながら彼らを罵倒し、そうして甘雨の心ないその罵倒に、反刻晴派の者達は弱く、痛々しい口調でそう呟く。

 

「ふふっ。本当に愚かで、そして可哀そうな人達ね…。貴方達は……___」

(まぁ、同情はしないけれども……)

 

そうしてまた、凝光も妖しい微笑みをその口元に浮かべながら、牢屋の中に居る反刻晴派の者達を見つめながら、そのまま口を開く。

 

 

 

「___実に滑稽。えぇ、本当に。自分達が何をやっているのかが分かっておらず、そうして自分達の利益にしか眼中が無いから、こういう事になってしまう。本当にどうしようもない連中だわ。だから、その職位に留まってしまっていたというのに。そしてそんな貴方達、反刻晴派だから“彼ら”の存在に気づけないわけね」

 

凝光は皮肉たっぷりに、呆れたように彼ら反刻晴派の者達の事を嘲笑う。

 

「っぅ!?それは!?ぎょ、凝光様…!?」

「天権様!!もうやめてください…!!」

「それに“彼ら”とは、いったい何なんですか!?」

「何が言いたいのですか!?天権様ぁ!!」

 

反刻晴派の者達はもう限界と言わんばかりに、まるで泣き叫ばんとするかのような勢いで凝光に訴えかけ、そして一部の者達は凝光がさり気なく言い放った“彼ら”という言葉に食らいついては、凝光にそう問いかける。

 

 

「ふふっ、そうね。特別に教えてあげても良いわよ」

 

そして凝光は、まるで釣り針に獲物がかかったとでも言わんばかりに、口元に浮かべている妖しい笑みを更に深めながらそう言う。

 

 

 

 

「___“彼ら”とは貴方達、“反刻晴派を裏から操っていた者達”の事よ。貴方達はその“彼ら”の意志に従って動いていたのよ。貴方達にはその自覚が全く無かったようだけれども」

 

「はっ!?」

「なっ!?」

「えっ!?」

「っぅ!?」

 

凝光のその言葉に、彼ら反刻晴派の者達は素っ頓狂な声を上げる。

 

「お、俺達は操られていただと…?」

「俺達反刻晴派がか?冗談だろ…?」

「流石にそんな事は無い、よな…?」

「し、信じられないぞ。そんな事…」

 

彼らは凝光のその言葉に驚愕し、呆然としながら各々がそう呟く。

 

 

「_残念ながら、凝光殿の言った事は事実だぞ。反刻晴派」

「_そうですよ。反刻晴派の皆さん。今のは事実です」

 

そしてそんな彼らに対し、煙緋と甘雨は彼らのそれらを否定するかのように、冷徹にそう言い放つ。

 

「なっ…!?は、はぁ……!?」

「嘘だろ!?じ、事実なのか…!?」

「俺達は、本当に操られていた…?」

「い、いくら何でも、それは…!!」

 

煙緋と甘雨のその言葉は、彼ら反刻晴派の者達にとってはあまりにも衝撃的であり、そして受け入れがたい事のようで、彼らは首を大きく横に振りながら、その現実を否定しようとする。

 

 

 

「_ふふっ、良いわよ。それなら私から話せる範囲で貴方達、反刻晴派の急進派や強硬派、そして過激派達の裏側でいったい何が起きていたのかという事を、じっくりと教えてあげるわ」

 

そしてそこに凝光が、妖しげな微笑みを浮かべながら彼ら反刻晴派の者達にそう言う。

 

 

「お、俺達反刻晴派の裏側で起きていた事だって?」

「ほ、本当の事なのか?俺達が操られていたのって?」

「信じられない、とても信じられない。だが、しかし…」

「それなら、いったい何が起きていたというんだ…」

 

反刻晴派の者達は困惑し、それぞれが見合わせながら凝光のその言葉の真偽を測りかねていた。

 

「えぇ、本当よ。貴方達が信じられないというのは分かるけれど、事実は事実。これからその事に関して、貴方達に説明してあげるわ。一度しか説明しないから、よく聞きなさい」

 

「説明…。あ、あぁ。分かりました。凝光様。お願いします」

「わ、分かりました。是非とも、説明をしてください。天権様」

「そ、そうだな。凝光様の説明を聞こう。まずはそれからだな」

「そうだ。真偽はまず、天権様の話の内容を把握してからだな」

 

凝光は半信半疑な様子の反刻晴派面々に向かってそう言うと、凝光のその言葉を受けた彼らは、一先ず凝光の説明を聞く事にし、彼女の話に耳を傾ける態勢を取った。

 

「えぇ、良いわよ。それじゃあ、話を始めましょうか。まず___」

 

そうして凝光は、彼らに語り始める。

 

 

 

「___」

 

「なっ、はぁっ…!?」

「そんな、馬鹿な…!?」

「おいおい嘘だろ!?」

「そんな事が!?」

 

反刻晴派の彼らに語る凝光と、凝光のその話に食いつくかのよう、驚愕と困惑を叫ぶ反刻晴派の者達。

 

 

「ふむ。まぁ、それはそうなるだろうな…」

「はい。そうですね。そうなりますよね…」

 

そうしてそんな彼らの様子を、煙緋と甘雨は納得したかのような表情をしながら見つめ、彼女達は何度も頷きながら呟く。

 

 

 

 

「___というわけよ。これが全て。そして反刻晴派の裏側で起きていた事よ」

 

そして一通りの事を話し終えた凝光は、そう言い終えると彼らの反応や様子を静かに観察する。

 

 

「ば、馬鹿な!!そんな事が…!?」

「そのような事が起きていたのか…!?」

「し、信じられない!!いや、だがしかし…」

「っぅ!?これは、本当の事なのか…」

 

凝光の話を聞き終えた反刻晴派の彼らは、それぞれがそれぞれの反応を見せ、信じられないといった様子で凝光や煙緋達の事を見つめたりしながら、それぞれが話し合う。

 

 

 

 

「_いや、だが…。元々はと言えば、俺達のこれは……」

「_俺達は過激派の奴らを仲介して、ここまでの計画を…」

「_あぁ。俺達はただアドバイスを元手に、ここまでの事をしてきたんだ…」

「_俺達は“外部の協力者達”の助言やアドバイスに従っていた…。つまり……」

 

そうして多少冷静になった彼らは、凝光の話からとある事に気づいてしまう。

 

 

自分達、反刻晴派が行って来た刻晴を玉衡の座から引きずり降ろすための計画や算段というのは、自分達の手で作られた物や生み出されたものではない。

 

自分達それぞれ“急進派”と“強硬派”は、過激派のメンバー経由での『アドバイス』や『助言』というの名の巧みな誘導に従っていた事に過ぎないと。

 

 

だからこそ、凝光が語った反刻晴派は裏から操られていたという話。反刻晴派は“裏に居る彼ら”の意志に従うように、動かされていたという事に。

 

 

 

「「「「………」」」」

 

そして彼らは一様に黙り込む。

 

あまりにも衝撃的な真実に対し、顔を隠す者、天井を仰ぎ見る者、口を開けて呆然する者、視線が定まらない者。

彼らは凝光が語って聞かせた真実に、ただただ言葉を失い、その場で固まる。

 

 

「ふふっ…」

(どうやら彼らは完全に理解し、その事に関して認めたようね)

 

そしてそんな彼らの様子を静かに観察していた凝光は小さく微笑むと、そう心の中で呟く。

 

「ふむ、ようやく受け入れたか…」

「やっと認めてくれたようです…」

 

そうして煙緋と甘雨の二人も、凝光と同じくしてそう呟く。

 

 

 

「_甘雨」

 

そして彼らのその様子を一通り見終えた凝光は、その視線を甘雨に向けると静かにそう呼びかける。

 

「はい、分かりました。凝光さん」

 

甘雨は凝光の意図を汲み取ったかのように彼女にそう頷くと、その場で固まっていた反刻晴派の面々に視線を向ける。

 

「んっ、んんっ。反刻晴派の皆さん。少々、よろしいでしょうか?」

 

甘雨は彼らにのしかかる重い空気を振り払おうとするかのように、軽く咳払いをしてはそう問いかける。

 

「な、なんだ?」

「どうした?」

「いったいなんだ?」

「なんだよ、甘雨さん」

 

甘雨の呼びかけに、それぞれ茫然自失としていた彼ら、反刻晴派の者達は正気を取り戻したかのように甘雨に話しかける。

 

 

「いえ、実際のところ。反刻晴派の皆さんは今の玉衡様である“刻晴”さんについて、どう思っているのかを気になりまして。実際問題、貴方達は彼女の事をどう思っているのですか?」

 

甘雨は反刻晴派の者達に向かってそう問いかける。

 

「刻晴だと?」

「彼女か?」

「あの女の事か…」

「はっ、あいつか…」

 

甘雨のその問いに対し、彼らはそれぞれそう呟く。

 

 

「はい。そうです。実際は貴方達、反刻晴派の急進派や強硬派の皆さん方は、刻晴さんの事をどう評価しているのか、それがふと気になりまして。正直にお答えいただけないでしょうか?」

 

甘雨は真剣な表情を浮かべながら、彼らにそう問いかける。

 

「正直にか。あぁ、そうだな……」

「別に構わないが。うーん…」

「刻晴、あの女の実際の評価か…」

「まぁ、そうだな。あの女は…」

 

彼らはそれぞれ腕を組んだり、顎に手を当てながら甘雨のその質問に対して考え始める。

 

「「………」」

 

「…ふふっ」

(さて、彼らは彼女の事をどう評価するのかしら?)

 

そしてそんな彼らの様子を甘雨や煙緋は静かに観察し、彼ら反刻晴派が持つ刻晴への評価がどのようなものかを心待ちにする。

 

 

「_彼女は、本物だ。確かに玉衡としての資質を、そして璃月七星になる資格をその身に秘めさせていた女だ。だからこそ、だからこそだ。あぁ、間違いない。彼女は本物の玉衡だな」

「_俺も同じだ。認めるのは癪だし、悔しい事でもあるが…。あの女は俺達はおろか、他の七星達とも全く違う奴だった。そうしてああいう奴だからこそ、玉衡の座に相応しいのかもしれない」

「_そうだな。あの女、あの玉衡はそうだな…。不屈の玉衡と言えるだろう。どんなに蔑まれようが、どんなに後ろ指を刺されようが。絶対に屈する事は無い。常に前を歩き続ける玉衡だった」

「_そうだな。間違いない。あの女は絶対に諦めなず、曲げず曲がらなかった。そうして誰も見ていない所でも、ひたすらに努力をし続けていた女だった。だからこそ、認めざる負えない」

 

彼らは率直に、刻晴に対する評価を甘雨や煙緋達に告げる。

 

「ほぉ、成る程…。意外と刻晴殿の事を高く評価するのだな……」

 

そして彼らの正直なその評価に、煙緋は顎に手を当てながら感心したかのようにそう呟く。

 

「ふふっ。やはり、そうだったのね。まったく、本当に面白いわね…。ある意味で実は反刻晴派こそが、刻晴の真の理解者たる者達だったとはね……」

(彼らこそ刻晴の本当の姿。そうして彼女本来の価値を理解し、そしてある意味で誰よりも間近で、多くの苦悩に苛まれながらもひたすらに前を向いて歩き続けた彼女の在り方を、間近で見届けた者達とも言えるのだから…)

 

凝光は彼らの評価に納得をするかのように静かに呟き、そうして嬉しそうな笑みをその口元に浮かべる。

 

 

「成程、そうでしたか…。そう言う事でしたら、実は反刻晴派の皆さん達は皆が、彼女の事を、刻晴さんの事を裏では認めていたという事でよろしいのでしょうか?」

 

甘雨は彼らのその言葉から、反刻晴派の者達がずっと明らかにしてこなかった彼らの真の刻晴の評価を知り、彼女達にそう問いかける。

 

 

「あぁ、そうだな。甘雨さん。間違いない。あの女は本物だ。それはもう、認めるしかない。俺達には刻晴のような事は出来ない。それにあの女の尋常ではない執念とかもな」

「その通りだ。それに政務や執務の傍らで余暇が出来たら、休まず記録室や資料室に引きこもって、全てに目を通すなんて出来るわけがない。なんでそんな事が出来るのかが不思議なくらいだ」

「そうだなそうだな。おまけに政務や執務が無い休みの日には、あの人は身分を偽装して璃月港の一般人達や労働者達と汗を流して、働いていたという話じゃないか。現場や現実を知るために」

「そうらしいな。そう考えると俺達のあの人じゃ、本当に天と地ほどの差がある。認めざる負えない。何がどうしてあんな事を平然とやりきれるのか、俺達にはあんなの理解できないぞ」

 

彼ら反刻晴派の者達は甘雨の質問に答える形で、目の前の甘雨やその後ろの凝光や煙緋達に対し、自分達の考えや感想を口に出してはそう答える。

 

「成程、実はそう思っていたのですね。反刻晴派の皆様方は…」

 

そうして彼らの実際の刻晴への評価を聞いた甘雨は、静かにそう呟きながら彼らに頷く。

 

 

 

「_凝光様」

 

そして甘雨は、静かに凝光へと視線を向ける。

 

「えぇ、分かっているわ」

 

そんな甘雨の視線に応えるように頷くと、凝光は甘雨に向かって口を開く。

 

 

 

「_やはり貴方達反刻晴派は、刻晴の事をかなり高く評価していたのね。ふっ、本当に惜しいわね。それなら勇気を出して、覚悟を決めて、そんな反刻晴派から早く抜け出せばよかったのに」

 

凝光は牢屋の中の反刻晴派の方に視線を向けて、彼らに向かってそう告げる。

 

 

「そ、それは。確かにその通りだが…」

「ま、まぁ…。その通りではあるが…」

「それは、ごもっともな話ではあるが…」

「凝光様の言う通りではあるのだが…」

 

そして牢屋の中の反刻晴派の彼らは、凝光のその言葉に対してそれぞれがそんな反応を見せては、少しだけ不服そうな様子を見せる。

 

 

「___ふっ…。まぁ、良いわ。そろそろここの出入口で待ち続けている“彼女”やその“付き添い”も、ここに入ってきてもらって参加してもらいましょう」

 

凝光は少し残念そうな様子を見せながらも、その口端に僅かに笑みを浮かべては彼らにそう告げる。

 

「“彼女”、だと?」

「はっ?だ、誰だ?」

「いったい、誰だ?」

「誰の事なんだ?」

 

そうして凝光のその呟きを聞いた反刻晴派達は、怪訝そうな表情をしながらそれぞれそう呟く。

 

 

「_それは、今の私達が話題にしている“彼女”の事よ」

 

「な、なにっ!?」

「なんだと!?」

「はぁっ!?」

「い、いるのか!?」

 

凝光は笑みを浮かべながら牢屋の中の彼らの疑問や驚愕に答えると、凝光のその答えを聞いた彼ら反刻晴派は一様に驚き、そうして一斉に地下牢屋の出入り口の方向に視線を向ける。

 

 

 

 

「___入りなさい!!“刻晴”!!それに“夜蘭”!!」

 

そしてその次の瞬間、凝光はその出入り口に向かって、そう呼びかける。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

そうして熾烈な稲光のような紫の独特な瞳に、猫耳ヘアーとも言える璃月の双螺髻(そうらけい)と呼ばれる伝統的な特徴的な髪の結い方をしている紫の腰までの長さのツインテールをしていた少女の“刻晴”。

 

 

 

「ふふっ」

 

そしてそんな刻晴の後ろにエメラルドグリーンのような清らかな瞳に、サファイアのような綺麗な髪の女性である“夜蘭”。

 

 

その二人が、地下牢の出入り口へとその姿を現したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————

 

Side:刻晴

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_あれが、あの者達が反刻晴派…」

(私を陥れようとしていた者達…)

 

地下牢の出入り口で静かにそう呟きながら、思わず拳に力が籠る。

 

「…ふふっ。どうしたのかしら、刻晴?」

 

そして夜蘭は笑みを浮かべながら、刻晴の顔を覗きこむ。

 

「いえ…、なんでもないわ。色々と考え事をしていただけよ。夜蘭」

(そう。私は、道を誤ってしまった彼ら反刻晴派についてを…)

 

そんな夜蘭に、刻晴は首を横に振りながらそう答える。

 

「そうだったのね…。刻晴、緊張しているわね?」

 

夜蘭は刻晴のその言葉に納得をしてから、優しく穏やかな声色でそう問いかける。

 

「えぇ…。まぁ、緊張していないわけじゃないわ。ただ、私は_」

 

刻晴はそこまで言うと、少しだけ静かに目を伏せながら考え込む。

それは自身の中で今の自分の中で渦巻いている自らの感情に整理をつけるかのように、自分自身へと意識を向けては自らと向き合う。

 

 

「_反刻晴派の彼らに対して、怒りや悲しみ、それに同情や申し訳なさと言った感情を抱いていただけ…。ただ、それだけよ」

 

そうして刻晴は夜蘭にそう告げると、ゆっくりと目を開ける。

彼女の瞳には、強い決意のような物、一種の覚悟のような物がその瞳に宿していた。

 

 

「そう。なら、大丈夫そうね。それなら、行きましょう。玉衡、刻晴。全てを終わらせましょう」

 

夜蘭は安心したかのような表情で刻晴にそう言うと、改めて彼女の斜め後ろに立つ。

 

 

「えぇ、そうね。行きましょう。この反刻晴派騒ぎ、最後は私自らの手で終止符を打つわ」

 

刻晴はそう言うと、凝光達と反刻晴派の者達が居る牢屋にゆっくりと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

「っ…」

「こ、刻晴…」

「刻晴…」

「彼女だ…」

 

牢屋の中に居る反刻晴派の者達は彼女の歩く姿に目が釘付けになる。

彼女の歩く姿、七星としての風格を漂わせながら自分達の元に歩み寄る彼女のその姿に。

 

 

 

 

「「「_玉衡様」」」

「「「_刻晴様」」」

 

そして地下牢を歩く刻晴に対し、地下牢の出入り口付近の両壁辺りにいた千岩軍の兵士達は彼女に向かって一斉に敬礼する。

 

 

「_ありがとう。楽になっていいわよ」

 

 

「「「はっ、了解しました。玉衡様」」」

「「「はっ、承知しました。刻晴様」」」

 

刻晴はそんな千岩軍の兵士達にそう言うと、彼らは敬礼をやめる。

そして彼ら兵士達は、直立不動の体勢で歩みを進める刻晴の後ろ姿を見送る。

 

 

 

 

「ほぉ…。これはこれは…。これこそが七星、玉衡の刻晴殿か……」

「刻晴さん…。本当にここまで…。本当に大きく見違えました……」

 

そして刻晴の風格溢れるその姿に、煙緋や甘雨は感嘆とした様子でそう呟く。

 

 

「本当に変わったわ。ここまでの短い間、そんな短い間でここまで上り詰めてくるなんて、本当に大したものよ。刻晴。先代玉衡であった貴女の叔父、彼と並ぶ日も遠くは…ね。ふふっ」

 

そうして凝光もまた、感慨深い様子で刻晴に対して告げるかのように、静かにそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___君達が、反刻晴派ね?」

 

そうして刻晴は牢屋の中に居る反刻晴派の者達の目の前に立ち、静かに彼らにそう問いかける。

 

 

「っ。そ、そうだ。どうした?」

「あぁ、そうだ。玉衡。何用だ?」

「そうだが…。な、なんだ?」

「い、いかにも…。何の用だ?」

 

そして刻晴に声を掛けられた反刻晴派の者達は、彼女の事を警戒するかのようにそう答える。

 

「そうね。君達には言いたい事が幾つもあるわ。だけど、まずはまぁ…」

 

刻晴はそこまで言うと、目の前の反刻晴派の面々に何と声を掛けるべきかを考えるかのように、口に手を当てながら彼らを見つめている。

 

 

「「「「……」」」」

 

反刻晴派の面々はそんな刻晴を訝しんだり、警戒したりと様々な様子で見つめる。

 

「そうね。___」

 

そして刻晴は自らの言葉を決めたように頷くと、彼らに向かって告げる。

 

 

 

「_お願いだから。私にこれ以上、君達の事を失望させないで…」

 

刻晴は反刻晴派の面々に静かにそう告げる。

 

 

「えっ?はっ…?」

「なっ…。今、何て?」

「おい、聞き間違えか?」

「ど、どういう事だ…」

 

刻晴のその言葉を掛けられた反刻晴派達は、それぞれ目を丸くさせたり、首を捻ったり、頭に手を当てる。

 

刻晴が彼らに語ったその言葉。

その言葉の意味を理解しきれず、また一部の者達は彼女のその言葉に何らかの意味や裏があるのではないのかと、彼女に向けて疑惑の視線を送る。

 

 

 

「_言葉通りの意味よ!!私をこれ以上、君達の事で失望させるな!!」

 

「「「「っ…!?」」」」

 

そして反刻晴派達の態度を見かねた刻晴は、思わず感情的になっては、大きな声でそう反刻晴派の者達に怒鳴りつけ、そんな刻晴に怒鳴られた彼らは、あまりの気迫に思わず後ずさってしまう。

 

 

「っ…。私は君達を、反刻晴派の者達に対して_」

 

そんな刻晴は、深呼吸をして気持ちを落ち着かせながら、改めて反刻晴派の者達に自身の思いを伝えようとする。

 

 

 

 

「___私は君達、月海亭や総務司等を始めとする七星八門を長い間支えてくれた君達ベテラン達に対し、少なからずの敬意や憧れを持っていたわよ…」

 

そうして刻晴は真剣な表情で彼らの事を見つめなら、彼らにそう告げたのであった。

 




次回こそ、必ず第7幕の最終回とします。

10月になってからリアルに少しずつ忙しくなり始めておりますが、既にある程度の製作は済んでいたため、最終回はなるべく早めに(理想は11月の上旬中には)投稿したいと思います。


それでは次回の投稿まで、今しばらくお待ちください。


—————
追記1
一部の特殊タグがうまく機能していなかったため、修正を行いました。

追記2
一部台詞の修正を行いました(君達が反刻晴派ね?→君達が、反刻晴派ね?)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。