本当であればいつもどおり9時に投稿する予定でしたが、最終確認や最終調整に時間が掛かってしまったため、30分ほど後ろにずらしました。
それに本来の予定であれば11月の上旬中に投稿予定だったのですが、リアルの方で本格的に忙しくなってきてしまったため、纏まった時間の確保が思うように出来なくなり始めました。
とはいえ、完成させることが出来て良かったです。
なお余談ではありますが、今回本当は幾つかとあるタグを追加するべきか悩みましたが、敢えて今回はつけていませんのでお願いします。(よく考えるとまだ付けるのには早いと思いましたし、本当にちょっとしかそのタグの要素が無いので…)
それでは改めて、刻晴過去編の最終回。
刻晴が牢屋の中に居る反刻晴派達に自身の思い(彼らに経緯や憧れを持っていた)を伝えたシーンからです。
Side:刻晴
「えっ…!?」
「はっ…!?」
「なにっ…!?」
「俺達に…!?」
そして反刻晴派の者達は、刻晴のその突然の言葉に思わず驚き、そして互いに顔を見合わせる。
「えぇ、そうよ。君達にとっては信じられないかもしれないわ…。だけど私は君達の事を、一度でも蔑んだり、または見下したり、嘲るなんて事はあったかしら?」
刻晴は彼らに対して自身の言葉の真偽を問うかのように、そう問い掛ける。
「っ!!それは…」
「そ、それは…」
「俺達に対して…」
「そんな事…」
反刻晴派達は刻晴のその質問に、上手く答える事が出来ずに口ごもる。
「まぁ、そうよね。答えられるわけがない…。でも、例えそんな君達でも私は、君達の事を認めていたわ。璃月の月海亭や七星八門の職員として、私達七星達、そしてこの璃月そのものを、献身的に支えてくれた者達としてね。心の底からそう言えるわよ。だから私は、それ相応の敬意、憧れを抱いていたわ…」
刻晴は静かに、それでいて力強くそう告げる。
「っ。ほ、本当かよ…」
「そ、そんな。そんな事…」
「ほ、本気で言ってるのか…?」
「お、おい。冗談だよな…?」
刻晴にそう告げられた反刻晴派の者達は、困惑したかのような表情でそう言う。
「まぁ、信じられないわよね。でも、それは事実よ。それなのに…。君達、どうしてこんな馬鹿げた事をしてしまったのよ?こんな事をしたらどうなるのか、分からないわけじゃないでしょ?」
「ぐっ。そんなのは…」
「っ…。っぅ……」
「そんな事は、とっくに…」
「分かってる。そんなのは…」
刻晴がそう問いかけると、反刻晴派の者達はバツが悪そうな表情で言葉を濁らせる。
「_まぁ、良いわ。起こってしまった事は、もうしょうがないわ。そして璃月港をこんな事態に陥れてしまった君達、反刻晴派の君達にはそれ相応の責任を取ってもらわなければならないわ。それは、もう分かっているでしょ?」
そして言葉を濁らせていた反刻晴派の者達に対し、刻晴はそんな彼らを咎めるように静かな口調でそう言う。
「っぅ!!そんなの!!」
「ぐっ!!それは、もう!!」
「分かってるさ!!」
「言われなくとも!!」
刻晴の宣告のようなその言葉に、反刻晴派の者達はその顔を恐怖と絶望に染めて、全てを諦めて投げやりにそう答えを返す。
「そう、分かっていたのね。なら改めて、君達の処遇に関して、私から簡単に説明してあげるわ」
刻晴はそう言うと、その瞳の鋭さが増す。
「「っ…!!」」
「「っぅ…!!」」
彼女のその言葉と、その鋭い視線に反刻晴派の者達は、まるで心臓を鷲掴みにされるかのような強烈な圧迫感に襲われて、その身体を震わせる。
「_君達の処遇に関してだけれど、まぁ事前に煙緋の説明を受けた通り、君達の刑は一段階は引き下がるから、死刑や無期禁錮刑と言ったの極刑等は避けられるわ。でもその代わり、反刻晴派の各派閥の中心人物は五十年程の有期禁錮刑、それ以外の者達も中心人物にどれくらい近かったかによって、最長で三十年年程の有期禁錮刑なり有期懲役刑となる筈よ」
刻晴は淡々と、そしてどこか冷酷さすらも感じさせるような淡々とした口調で、反刻晴派の者達にそう告げる。
「っ…。わ、分かっていた……」
「あぁ、そんな事は分かってる…」
「自分達のしでかした事を考えたら…」
「あぁ、もう覚悟はしていた…」
そうして刻晴のそのような宣告に、反刻晴派の者達は次々にそう呟く。
「そう、分かっていたのね。それなら、もう一つ_」
そして彼らのその反応に、刻晴は特に気にする様子を見せることなく、そのまま続きの言葉を紡ぐ。
「_それに加えて君達、過激派やその他の急進派や強硬派を除いたこの牢屋の中に居る急進派や強硬派の者達である君達の場合に限っては、特令として『執行猶予五十年』が付与されるはずよ」
刻晴は、特に気にする様子もなく淡々とした口調でそう告げる。
「えっ!?はっ!?」
「なんだと!?」
「今、何て言った!?」
「聞き間違えか!?」
反刻晴派の者達は刻晴のその発言に、驚きの声を上げる。
「だから、『五十年程の執行猶予が付与される』って、言ったのよ。私の言ってる事、分かる?」
刻晴は呆れたかのような表情で、反刻晴派の者達にそう告げる。
「い、いや!!そう言う事じゃない!!」
「なんで!!俺達に執行猶予を!?」
「普通はそのまま実刑じゃないのか!?」
「そうだ!!何を考えているんだ!?刻晴!!」
刻晴にそう告げられた反刻晴派の彼らは、自分達の置かれている状況と刻晴の発言の矛盾に混乱し、そう叫ぶ。
「なんで…、ね。まぁ、理由は大きく二つあるわね」
「理由は二つあるだと…?」
「な、なんだそれは?」
「いったい、どんな理由だ?」
「どのような理由なんだ?」
刻晴は彼らにそう説明すると、反刻晴派の彼らは混乱しながらも刻晴にそう問いかける。
「そうね。一つは、『いざと言う時に覚悟を決めて行動に移せる人材である君達は、璃月にとってはきっと有用で役に立つ』だからかしらね」
刻晴はそう答えると、静かに彼らの顔を眺めるように視線を巡らせる。
「覚悟を決められる…」
「行動に移せる…」
「それは、いったい…」
「ど、どういう…」
反刻晴派達は刻晴のその言葉に、困惑したような表情を浮かべながら尋ねるかのように呟く。
「えぇ、それはね。私を嵌めようとした度胸やその実行力、それ自体は悪い事ではあるけどそれと同時に目を見張らせるものではあるわ。なら月海亭や七星八門を務めてきたベテランの職員達全員を処刑や処罰する事は、璃月の手痛い損失に繋がりかねないわ。だから、このまま全員を処刑や処罰するわけにはいかないと凝光に言ったのよ。ね、凝光」
刻晴はそう言うと、凝光の方に視線を向ける。
「えぇ、そうね。私や煙緋は反対していたけど、私達は刻晴に押されてしまってね。彼女の熱意や思いの強さに圧倒されちゃったわよ。『それなら玉衡を辞めてやるわ』なんて、特に卑怯だわ」
「あぁ、そうだな。私も最後まで反対していたが、まさかそこまで頑になって彼らを守ろうとするとは思わなかったぞ。それに途中で甘雨先輩も刻晴殿の方に回り、彼女の味方になるなんて」
凝光はその時の事を思い出したかのように、彼女は苦笑いをしつつ刻晴にそう言い、煙緋も苦笑いをしながら刻晴、そして隣に立つ甘雨の方に視線を巡らせながらそう言う。
「ふふっ、すみません。凝光さん、煙緋さん。あの時は、刻晴さんの熱意や思いに感化してしまいまして。それに反刻晴派に潜入し、実は彼らの多くが完全な悪人ではないという事を知ってしまったので、つい…。ですので、特に大半の急進派や一部の強硬派達だけは、どうしても……」
甘雨は凝光と煙緋に申し訳なさそうに、そう答える。
「ふふふ、あの時の刻晴と甘雨、そして凝光と煙緋の言い合いは、今思えば本当に見ものだったわね。私は私で個人的な理由から、どっちの味方にもならずに中立を貫いたけど。だけどそのせいで刻晴や甘雨、凝光や煙緋からの無言の圧力や自分達の側につきなさいというそれぞれの視線を、のらりくらりと完全にかわしきるのに苦労して、本当の本当に大変だったけれどね」
そして夜蘭は当時の様子を思い出し、そうして彼女も苦笑いをしながらも、面白おかし気そうにそう呟く。
「そ、そこまでの事を。し、したのか…」
「お、俺達を守るために…。そこまで……」
「刻晴は、いや刻晴様は本気で俺達を…」
「ゆ、玉衡。いや、玉衡様。お、俺達は…」
彼女達のその話を聞いていた反刻晴派の者達は、互いに見合わせたり、隣にいる者と視線を合わせたかと思うと、次第に刻晴の方へと視線を向ける。
「…んっ!んっ!んぅっ!!まぁ、とにかく_」
反刻晴派の者達の注目を浴びた刻晴は、少しだけ気恥ずかしそうに咳払いをすると、改まったように言葉を続ける。
「_今後、この璃月を前に推し進めていく時には、この私を嵌めようとした気概や度胸を持った人材、いざと言う時に覚悟を決めて行動に移せる人材である君達は、璃月の未来にとって必要不可欠で、貴重な人材であると私は思っているわけ。だからこそ君達全員には私の玉衡という力を使って、執行猶予を付与して救済しようと考えているの。少なくとも今現在の私の玉衡と凝光の天権は、この処置を推進する立場にいるわ。そして君達を最終的に釈放する側に立っているわけよ」
「_えぇ。刻晴の言う通りよ。まだ確定というわけではないけれども、今のところ千岩軍による君達の取り調べや反刻晴派のあらゆる事に関する調査が終わるまでに、一度七星全体に招集をかけて、君達の処遇に関して協議する予定だわ。そしてその協議では大方、被害者である刻晴の発案であるという事から君達の執行猶予の釈放が可決され、君達はここから出る事になるはずよ」
刻晴がそう告げると凝光も、その事について補足するようにそう告げる。
「そ、そんな事が、水面下で…!?」
「嘘だろ!?そんな事がか…!?」
「ほ、本気なのか!?俺達の為に!?」
「そこまでするのかよ!?本気で…!?」
反刻晴派の者達は、刻晴と凝光のその説明に驚きを隠せないと言った表情を浮かべながら、思わず叫ぶ。
「ふっ、本気よ。必ずやり遂げて見せるわ。君達と約束してあげる。反刻晴派の中でもこの牢屋の中に居る者達だけ、君達反刻晴派の急進派と強硬派に限っては、必ずこの牢屋から出してあげるわ。例えどんなに時間が掛かってしまうという事になったとしても、果てしない労力を費やす事となってしまったとしても、誰一人欠けさせることなくここから、必ず出させてあげるから」
「ふふっ、その通りよ。刻晴が、そして私がやるといった以上、必ず実現させるわ。そして貴方達がここから解放される日は、そう遠くない未来で訪れるという事をここで宣言してあげる。刑罰や課せられた罪が軽い順に釈放されていく事になり、おそらく最短で数週間、遅くて数か月から半年くらいになるけど…。まぁ、その期間は反省期間という事で我慢して頂戴ね?」
刻晴と凝光は彼らを安心させるかのような優しい微笑みを浮かべ、そうして力強くそう言いきる。
「そ、そんな…」
「ほ、本気で…」
「ど、どうして…」
「な、なぜなんだ…」
彼ら反刻晴派はその目を見開きながら、各々それぞれがそう呟く。そして一部の者は寛大な処置を施そうとしていた刻晴と凝光に向かって、そう疑問の声を口にする。
「ふふっ、本当に面白いわ。面白い事を言うわね、君達は。それは刻晴が言った『君達がいざと言う時に覚悟を決めて行動に移せる者達である』という事。それに加えて『刻晴自身が純粋に、君達反刻晴派の事を守りたかったから』に決まっているじゃない。それ以外に何があるのかしら?」
「なっ!?なんだと…!?」
「守りたかった…!?」
「刻晴本人がか…!?」
「お、俺達の事をか…!?」
凝光は一部の者が言い放った疑問の声に対して、面白おかし気にそう告げると、その言葉に反刻晴派の者達はより一層、それぞれが驚愕の表情を浮かべる。
「えぇ、その通りよ。より正確にはこの警備基地の地下牢に収容されることになった過半数の急進派達、そして一部の強硬派達はね。ここの牢屋の中にいる君達は、実は刻晴が強く温情処置を取るように私や煙緋に迫ってまで強く要望した者達でもあるのよ。ね、煙緋」
凝光は彼らに笑みを浮かべながらそう告げると、煙緋の方に視線を向ける。
「あぁ、その通りだな。凝光殿。刻晴殿の熱意に押されたあの時の私は、まぁ数人から十数人程度、百歩譲って反刻晴派の全体の一割程度であれば、減刑処置や温情処置等をしても良いと思ったのだが、まさかここに居る君達。半数程度の急進派達と一部の強硬派達、それにここには収容されてはいないが極一部の過激派の面々を合わせて、まさかの反刻晴派全体の四割程の者達に対して減刑処置やら温情処置を行いたいと言われて、本当にどうすればいいのやらと思ったぞ」
煙緋はその時の事を思い出したかのように、困ったような笑みをしながらそう呟く。
「えぇ、そうね。私も本当にどうしようかしらと思ったわ…。まったく、本当に今代玉衡は前代未聞すぎるわよ。こんな事をする玉衡なんて、歴代玉衡はおろか歴代七星の中でも刻晴、ただ一人しかいなかったと思うわ。そして今後もそんな七星なんて現れないわよ。ねぇ、煙緋」
「あぁ、まったくだ。凝光殿。そんな事を言いのけてくる者は、歴代の玉衡はおろか、七星達を担った過去の人物には誰一人たりともいなかったはずだ。そしてまた、今後の璃月の七星達にもこのような事をしようとする七星なぞ現れないだろう。歴代七星の中ではこんな事をするのは、刻晴殿ただ一人だけというのは、まぁ間違いないだろうな」
凝光と煙緋の二人は、笑みを浮かべたまま呆れたかのような口調でそう言い、そうして当の本人である刻晴の方に視線を向ける。
「そこまでの事を彼女は…」
「そんな事を、俺達の為に…」
「ほ、本気だったのか…」
「刻晴、は。いや、刻晴様は…」
そうして凝光煙緋の会話を聞いていた牢屋の中に居る反刻晴派の者達は、それぞれにそう呟きながらゆっくりと凝光と煙緋から刻晴の方に視線を向ける。
「_そうよ。私は本気で君達を助け出すつもりだったわ。凝光の言った通り、『君達反刻晴派の事を守りたかったから』ね。ただ、私は純粋にね。そして私は本当に納得が出来なかったのよ」
刻晴は彼ら反刻晴派の者達に視線を合わせると、真剣な表情を浮かべながらそう言う。
「なに?納得、だと…?」
「納得できなかった…?」
「いったい、何に対してだ?」
「ど、どういうことなんだ?」
刻晴のその言葉に反刻晴派の者達は、困惑したかのような表情と声を漏らす。
「えぇ、私はね。君達反刻晴派、ここにいる急進派達の者達と強硬派達の者達に関しては、このまま何もしなければ訪れる事になるであろう結末、この後訪れる事になるであろう君達の末路に対して私は、本当に納得する事ができなかったのよ」
刻晴はそこまで言うと一度区切り、そうして再び口を開く。
「君達は確かに私に悪意を抱き、そして謀反を企てたわ。だけど甘雨や煙緋達の話を聞くと、君達は第三者の者達からの間接的な干渉があったせいで、私への不安や不満といったそれらが増幅し、そしてそれが悪意や謀反という形にまでなってしまった、と私はそう考えたわ。そう考えると_」
刻晴はそう反刻晴派の者達に向かってそう告げると、彼女は少しだけ苦しそうな、哀しそうな表情を浮かべる。
「_私は君達に謝罪をしなければならないわね。こんなことになってしまった根本的な原因は、あの時の不甲斐なさすぎた私のせいよ。ごめんなさい、本当にごめんなさい。君達に散々迷惑をかけて、そして最終的に君達がこんな目に遭わなければならなくなってしまって、本当にごめんなさい。私の事は一生恨んでもいいし、私の事を赦さなくても構わないから」
刻晴はそう言いながら、彼ら反刻晴派に頭を深く下げる。
「なっ…!?ま、待ってくれ!!刻晴!!」
「おい!?や、やめろ!!やめてくれ!!」
「刻晴さん!!顔を上げてください!!」
「刻晴様!!謝らないでくれ!!俺達に!!」
刻晴に深く頭を下げられた反刻晴派の者達は一斉に、刻晴に頭を上げるようにそう叫び出す。
「そう?良いのかしら?私は、私は君達長い間、この璃月や璃月港を裏から支えてくれた者達、言うなれば人柱のような者達をこんな目に合わせて、苦しめてしまったわ。それに君達はなんだかんだ言って、どんなに私が誤った滅茶苦茶な指示を出してしまって私に罵倒したり悪口を言いながらも必死になって遂行してくれた。それに確かに言葉は酷かったけど、あの時は___」
頭をあげた刻晴はそこまで言うと、彼女が玉衡になった当初の頃を懐かしむかのような、少しだけ穏やかな表情を浮かべる。
「_私に玉衡としての色んな事を教えてくれたり、政務や執務をする際の注意をすべきことを教えてくれたりと、結果的に君達から玉衡としてのあるべき姿を指し示してくれたわ。そしてそんな君達は、私のせいでこの牢屋の中に居る…。こんなことになってしまったその張本人である私を、君達は張本人の私を赦してくれるのかしら……?」
そうして刻晴は僅かながらな苦しそうな表情、そして彼女は哀しそうな表情を浮かべながら、彼ら反刻晴派の者達にそう尋ねる。
「こ、刻晴、さん…!!」
「刻晴、様。刻晴様…!!」
「玉衡様、玉衡様ぁ…!!」
「刻晴様。お、俺達は…!!」
反刻晴派の者達は刻晴のその反応に、彼らは悶え苦しむかのように、悲痛な声でそう呟き始める。
そして_。
「_刻晴、様!!」
_その時、一人の反刻晴派の者が刻晴と自分達を分け隔てている牢屋の鉄格子に、まるで縋りつくかのようにしがみついた。
「刻晴様!!貴女様は何も悪くない!!むしろ悪いのは俺達だ!!俺達が刻晴様の事を見下し、そして貴女様の事をもっと理解しようと、もっと歩み寄ろうとしなかったから、こうなったんだ!!刻晴様は何も悪くない!!悪い事なんかしていない!!本当に申し訳なかった!!」
その者はそう言いながら、刻晴の足元で土下座するようにその場で膝をつく。そして額は地面に、頭を鉄格子に擦りつけて彼女に謝罪をする。
「_そうだ!!そうだ!!刻晴様は何も悪くねぇ!!本当に悪かった!!」
「_刻晴様!!本当に申し訳なかった!!本当にすまなかった!!」
「_玉衡様!!貴女は何も悪くない!!謝罪させてくれ!!申し訳ない!!」
「_悪いのは完全に俺達だ!!本当に申し訳ない!!こんなにも不甲斐なくて!!」
そうしてその者に続くかのように、次々と反刻晴派の者達が土下座をするようにその場に膝をつき、その頭を地面に擦りつける。
「き、君達…!!わ、私は、私は……」
刻晴はその者達の姿に驚き、戸惑いの声を上げる。
そしてあまりにも突然の事態に何を言おうか迷っているのか、言葉が詰まる。
「_いえ、そうね。分かったわ。私は赦すわ」
「ほ、本当ですか!?」
「良いのですか!?」
「こ、刻晴様!!」
「玉衡様ぁっ!!」
そして深く考えた刻晴は彼らにかけるべき言葉、言うべき言葉を見つけては彼らにそう言い、そうして刻晴のその言葉をかけられた反刻晴派の者達は、顔をあげながら彼女に向かってそう応える。
「本当よ。私は赦すわ。君達は犯してはならない間違いを犯し、赦されない罪を背負ってしまった。だけど例え、他の者達が君達の事を赦さなかったとしても、私は君達の事をこうして赦すわよ。…ねぇ、甘雨。君ならどうするかしら?甘雨も私と同じように、彼らの事を赦すかしら?」
刻晴は彼らにそう言うと甘雨に、あの日の夜に彼ら反刻晴派を守ろうとしていた刻晴の味方となってくれた甘雨の方に、視線を向けながらそう言う。
「はい、そうですね。刻晴さん。私であれば…」
甘雨はそう言いながら、牢屋の中で膝をついている反刻晴派の者達の顔を、一人ひとりしっかりと確認するかのように見渡して行く。
「「甘雨さん…」」
「「甘雨様…」」
そうして膝をついていた反刻晴派の者達もまた、自分達の事を見渡すように見ている甘雨の顔を見上げる。
「そうですね、刻晴さん。私も彼らの事を赦すと思います。刻晴さんが彼らの事を見捨てられらないというのは私にもよく理解できますし、そして彼らが完全な悪人などではなかったという事を、反刻晴派に潜入した私が一番分かっていますので。それに彼らの事をよく見てみると、彼らは全員が心の底から後悔し、そうして心底から反省しているように思えますから」
甘雨は彼らの顔を見渡しながらそう言うと、刻晴の方に視線を向ける。
「_そしてそんな彼らは、もう刻晴さんの事を裏切るような事はしません。彼らは誠実に刻晴さんに付いていき、そうして刻晴さんの政務や執務において、とても大きな力となってくれる事だと思います。私はそのような判断を、いえ私はそのように確信しています」
甘雨はそう言うと、優しい微笑みを浮かべる。
「えぇ、そうね。甘雨の言う通りよ。彼ら反刻晴派の者達は、私が璃月を前へと進めて行こうとする時に、非常に強力な力を手にする頼りがいのある者達になる筈よ。そしてこの璃月を前に推し進める仲間達として、私や七星達を支えてくれると確信しているわ」
刻晴は甘雨の言葉に同意するかのように、嬉しそうに笑いながらそう言う。
「甘雨さん…!!」
「甘雨様…!!」
「刻晴様…!!」
「玉衡様…!!」
そうして甘雨と刻晴の二人の話を聞いていた牢屋の中に居る反刻晴派の者達は、感激したかのように静かにそう叫び、そうして彼らは嬉しさのあまりに思わず涙ぐんでいた。
「ふふっ、まったく…。夜蘭、それに改めて煙緋や凝光。私は彼らの事を赦すけど、君達はどうするかしら?君達の場合だったら、彼らの事を赦して温情を与えたりしてあげたりするのかしら?」
刻晴はそんな彼らの様子を微笑ましそうに少しだけ苦笑をすると、あの日の夜に最後まで中立を貫いていた夜蘭と、刻晴に反対していた煙緋や凝光にそう尋ねる。
「私?そうね…」
そしてまずは、刻晴に問いかけられた夜蘭がそう呟くと、彼女はその視線を牢屋の中で膝をついている彼ら反刻晴派達に向ける。
「まぁ、私個人的には赦す赦さないはともかくとして、先ほどまでの出入り口前で凝光達と反刻晴派の者達の話を聞かせてもらった限り、特に嘘を吐いている様子や本心を誤魔化しているようなところはなかったから、少なくとも信用や信頼は出来る。そして彼らの刻晴への態度は誠意で満ち溢れていたわ。だから、そうね___」
夜蘭はそこまで言うと、どう言い纏めるかを考えるかのように視線を少しだけ上に向ける。
「_信用に足る者達。仲間として認められる者達とでも言えるかしら。そして赦す赦さないというのは、仲間になった彼らが、果たしてどれくらい私や仲間達のために、本気になって命をかけて動いてくれるか、という話になってくるかしらね。まぁでも、刻晴に対してそこまでの誠意を見せてくれた彼らだから、私は赦すと思うわね」
そして夜蘭は刻晴に向かって、そうして彼ら反刻晴派の者達にそう告げる。
「成程。信用に足る者達。仲間として認められる者達、ね…。ありがとう、夜蘭。君の意見はよく分かったわ。夜蘭らしい考えだと思うわね。それじゃあ煙緋は?それに凝光はどうかしら?」
刻晴は夜蘭のその言葉に納得したかのように頷くと、今度は煙緋と凝光の方に視線を向けながら、そう尋ねる。
「ふむ、そうだな。刻晴殿…」
煙緋はそこまで言うと腕を組みながら、その事を考えるかのようにその場で少しだけ黙り込む。
「_私は、私としては私の心情からして、きっと彼らの事を赦してしまうだろうな…。甘雨先輩が言った通り、彼らは全員が心の底から後悔し、そうして心底から反省しているように見えるし、そして彼らは完全な悪人ではなかったからな。完全な悪人であれば、刻晴殿のその件で心の底からの後悔や反省などしないだろう」
煙緋は冷静な様子のまま、刻晴に向かってそう言う。
「そうね。煙緋の言うとおりね。完全な悪人であれば、煙緋の言う通りに私の件で心の底からの後悔や反省などしないわ。だからもし煙緋の場合だったら、仮に煙緋が私達と同じ七星の立場であれば、彼らの事を赦すという事で良いのかしら?」
刻晴はそんな煙緋の言葉に同意するかのように頷くと、そのまま煙緋にそう問いかける。
「あぁ、そうだな。心の中ではな…。だがまぁ、しかしだ。こうして規則を破った者、法をおもむろにした者は、それ相応に罰せられなければならないと考えている。どのような理由であれども、それは公正、公平なものでないといけないと、な。であるからこそ、___」
煙緋はそう言うと、刻晴から反刻晴派の者達へと視線を向ける。
「_私なら上手い事、璃月の法を都合の良いように解釈しながら刑が軽い方を選択をするなり、法と法の穴を探し出してそこを突く事で、一気に重罪から軽罪な物へと転化させるだろうな」
「ぷっ」
煙緋はお茶目な様子でそう言うと、刻晴は思わずその言動に小さく噴き出す。
「ふふっ、煙緋さん。それは流石にだめですよ」
「ふっ、面白い冗談を言うわね。煙緋は」
そして甘雨と夜蘭は、煙緋の発言に微笑ましそうにしながらも窘めるように言う。
「ふ~ん。法律という事は、煙緋は私の天権の座を狙っているという事なのかしら?えぇ、面白いわね。実に楽しみだわ。良いわよ、煙緋。煙緋の私へのその挑戦、私はいつでも受けて立つわ」
そうして凝光はジト目になりながらも、冗談めかしながらそのような事を言い放つ。
「ははは、凝光殿。真に受けないで欲しいな。これはあくまでも、私が七星という立場に立ったらという話であったのだから。まさか私が本気で、凝光殿の事を天権の座から蹴落とすつもりだと思ってたのか?」
「いえ、まったく。でも貴女程の法律家だと説得力が全然違くてね。つい、そう聞こえてきてしまったのよ」
「ほぉ…?ははっ、ありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ。凝光殿」
「ふふっ、どういたしまして。煙緋」
そして煙緋と凝光は、互いに冗談めかしながらそう言い合う。
「ふふっ、本当に面白い事を言うわね。まぁ、ありがとうね。煙緋。さて_」
そして煙緋のその冗談に、刻晴は少しだけ笑いながらそう言うと、彼女は凝光の方に視線を向ける。
「_凝光。貴女なら、彼らをどうするのかしら?」
刻晴は真面目な表情を浮かべながら、そうして凝光にそう尋ねる。
「そうね、刻晴…」
凝光はそう言うと、改めて牢屋の中にいる反刻晴派の者達の面々を一人ひとりゆっくりと見渡していく。
「_正直私は、反刻晴派についてを書類のみでしか見ていなかった時は、この者達を赦してはならないと思ったわ。でもこの目で彼ら反刻晴派の者達の姿を、また自身の耳で彼らの話を聞いた結果、多少の心変わりがあったわ。特に甘雨が刻晴への正直な評価を尋ねた時や。彼らが自らの過ちを認めて刻晴に誠心誠意の謝罪を私に見せた時にね」
凝光はそこまで言うと、腕を組みながら彼らの処罰を考えるかのように、静かに目を瞑る。
「そうね。私なら執行猶予は与えないけど、刑罰を一段階引き下げるわね。そしてその上で_」
凝光はそこまで言うと、ほんの僅かだけだが微笑みを浮かべる。
「_投獄されている反刻晴派達の態度、それに受刑態度を長期的に観察してその観察結果に応じて、特例的にそれぞれの刑罰をそれぞれの段階へと更に引き下げる、という所かしらね」
「ふむふむ、なるほどね。それって、つまり_」
凝光のその答えを聞いた刻晴は頷きながらそう呟くと、彼女は凝光に向かって尋ねる。
「_実は凝光は、執行猶予期間中のここにいる反刻晴派の者達の様子を観察し、その観察結果に応じて更なる刑罰の引き下げ、もしくは執行猶予期間を短縮させて刑罰の効力を短くさせるつもりだったという事なのかしら?」
「あら、よく分かったわね。刻晴。えぇ、そうよ」
刻晴は凝光の話から推察した答えを彼女に向かってそう言うと、凝光はその推察に感心したかのような微笑みを浮かべながら、彼女のその考えを肯定する。
「ここにいるこの者達に限っては、十分に更生出来ると判断したわ。であるならばこそ、彼らの今までの功績や能力等も鑑みて、刑期や刑罰は引き下げた方が良いと思ったわ。刻晴の言う通り、この者達が月海亭や総務司の業務から離脱してしまうのは、璃月の痛手に繋がると思うからね」
凝光はそう言うと、牢屋の中で膝をついていた反刻晴派の者達の一人一人を見渡し、改めて刻晴の方に視線を向け直す。
「_そうね。仮に現時点の中心人物達に適用される最高刑の五十年程の有期禁錮刑だとしましょう。この最高刑が少なくとも五十年から四十年まで、刑罰を引き下げようかと考えているわ」
そして凝光は腕を組みながら、刻晴にそう告げる。
「成程ね。因みに、実刑が四十年にまで短縮されるという事は…?」
「えぇ、勿論。それに併せて執行猶予期間も五十年から四十年くらいまで引き下げようかと考えているわ。それに執行猶予期間中は厳しい制限や規制を行うつもりだったけど、多少は緩和しようと考えているわね。例えば予定では、執行猶予期間中の行動範囲は璃月港内に留める所を、少なくとも璃月港近郊や郊外にまで拡張、場合によっては璃月港に隣接している璃沙郊や瓊璣野といった地域全域や、モンドとの国境地帯がある石門辺りを除く軽策荘等の碧水の原辺りまでにね」
刻晴のその問いかけに、凝光は口端を上げながらそう答える。
「ふっ、成程ね」
そして刻晴は凝光のその答えに満足したかのような笑みを浮かべる。
「み、皆様…」
「俺達にそこまで…」
「こ、刻晴様…」
「天権の凝光様…」
そうして刻晴達とのやり取りを聞いていた反刻晴派の者達は、自分達への処遇に彼らはそう口々に呟きながら驚いた様子や感動しているような表情で、凝光や刻晴達の方を見ていた。
「ふふっ、別にそう驚く事ではないわよ。君達、反刻晴派の者達」
「えぇ、そうよ。これは貴方達が私達に誠意を見せた結果なのだから」
刻晴と凝光は笑みを浮かべながらそれぞれそう、牢屋の中にいる反刻晴派の者達に言う。
「ふふっ。そうね。間違いないわね。私ももう一度信じても良いんじゃないかと思ったわよ」
「そうですね。喜んでください。これは皆さんが刻晴さん達に、誠意を見せた結果ですよ」
「ははっ、そうだな。私も一度くらい、チャンスを与えてもいいのではないかと思ったぞ」
そして夜蘭、甘雨、煙緋の三人はそれぞれがそう、牢屋の中にいる反刻晴派の者達に笑みを浮かばせながら、それぞれは彼らに優しく語り掛けながら微笑む。
「み、皆さん…!!ほ、本当に……!!」
「皆さま…!!皆様……!!」
「あっ、ありがとうございます…!!」
「本当にっ、ありがとうございますっ…!!」
そうして彼ら反刻晴派の者達は、非常に感激した様子で皆一様に刻晴達に深く感謝の言葉を述べる。
「えぇ、どういたしまして。貴方達の誠意、しっかりと見させてもらったわ。さて…」
刻晴はそう言うと、牢屋にいる彼ら反刻晴派の者達へと背中を向ける。
「_凝光、煙緋。それに夜蘭、甘雨。そろそろ行くわよ」
「えぇ、行きましょう。刻晴」
「あぁ、行こう。刻晴殿」
「えぇ、そうね。刻晴」
「はい、行きましょう。刻晴さん」
そうして刻晴は凝光や夜蘭達にそう声をかけると、凝光や煙緋に夜蘭と甘雨はそれに頷きながら同意する。
「えぇ、行きましょう。皆。ただ、その前に_」
刻晴は彼女達の返事に満足そうに頷くと、完全に振り返らずとも視線だけを動かして、牢屋の中にいる彼ら反刻晴派の者達に視線を向けると、彼女はそのまま彼らに語りかける。
「_君達が執行猶予で釈放される日。そして君達とまた、働ける日々がやってくることを私はとても楽しみに待っているわ。だから釈放されるその日まで大人しくし、そしてここの者達の指示に従い、千岩軍達の調査や捜査に積極的に協力して彼らの身になって行動し、模範囚のような振る舞いをする事を切に願うわ。そうすれば君達が、月海亭や総務司等で活躍できる日々が早まるはずなのだから。君達が釈放され、月海亭や七星八門に帰って来る日を、私は楽しみに待っているわ」
刻晴は優し気な笑みを浮かべながら、牢屋の中の彼ら反刻晴派の者達に向かってそう告げる。
「あっ、ありがとうございますっ…!!刻晴様ぁっ……!!」
「玉衡様ぁっ…!!この御恩は、一生、一生忘れませんっ……!!」
「釈放されるその時まで、我々は自分という者を見つめ直します…!!」
「釈放されたら、それぞれの場所で精一杯働かさせていただきます…!!」
牢屋の中にいる彼ら反刻晴派の者達は、そう口々に言いながら何度も頭を下げる。
その目には大粒の涙が浮かんでおり、彼らの刻晴に対する忠誠心の篤さがありありと分かる。
「ふふっ、良い返事ね。えぇ、是非ともそうしてちょうだい」
刻晴は彼ら反刻晴派の者達に向かって、優し気な笑みを見せながらそう言うと改めて凝光や煙緋、夜蘭や甘雨の方に視線を向ける。
「_それじゃあ、行きましょうか」
「えぇ、行きましょう。刻晴」
「あぁ、行こう。刻晴殿」
「そうね、行きましょう。刻晴」
「はい、行きましょうか。刻晴さん」
そして刻晴が彼女達にそう告げると、彼女達もそう応え、そうして刻晴達は反刻晴派の者達が収容されていた地下の牢獄から出て行くのであった。
「_はぁ、本当に疲れたわね…。だけど、まぁ……」
(反刻晴派の者達と直接、話し合う事ができて本当に良かった…)
地下牢へと続いていた璃月港内の千岩軍の警備基地の通路を歩く刻晴は、心の内からそんな安堵のような声が漏れ出る。
「お疲れ様です。刻晴さん。本当に良かったですね」
そしてその時、刻晴のすぐ傍を歩いていた甘雨が笑みを浮かべながらそう言う。
「えぇ、そうね。甘雨…。これで、終わったよね。この反刻晴騒ぎは……」
刻晴はそう言うと感慨深そうに、そして安堵しているかのような笑みが自然と零れてくる。
刻晴が玉衡になったあの日から、今日に至るまでに彼女の周りで様々な事が起こっていた。
そしてそれは月海亭や総務司等の問題に収まりきらず、璃月港や璃月全体を巻き込みかねない事態になりかねない大惨事にと繋がりかねなかった。
だが彼女の周りに居た甘雨や凝光を始めとする彼女達が、自分の知らない所で様々な手を打ち続けた事により、こうして多くの者達の努力が絡み合って、今日というこの日を迎える事が出来た。
「_っ…!!」
刻晴の瞳に思わず涙が込み上がってくる。
様々な感情や思いが入り乱れ、刻晴自身でも色々なそれらの正体は分からない。
だが、それでも言える事としては決して悪いものではなく、むしろ自分がここまで歩んでこれた事に対する嬉しさと誇り、そうして自分の事を裏で支えてくれた彼女達に対する感謝と満足感。
それらの様々な感情や思いが入り混じった複雑なもので、刻晴は一杯一杯な状態であったのだ。
「ふふっ。刻晴は、今代玉衡はこんなにも涙脆かったのね」
「ははっ。そうかもしれないな。夜蘭殿。玉衡殿の意外な姿を間近で見られるとは」
そうしてそんな刻晴の様子を見ていた夜蘭と煙緋は、そう言葉を交わしながら刻晴に向かって優しい笑みを向けている。
「えっ!?あっ、こ、これは…!!」
夜蘭と煙緋の指摘に我に返った刻晴は、慌てて自身の目を手で拭いながら恥ずかしそうにする。
「ふふっ、別に恥ずかしがらなくていいのに。安心して、刻晴」
「あぁ、そうだぞ。刻晴殿。玉衡殿が見せてくれたそれは秘密にしておこう」
夜蘭と煙緋の二人は、刻晴に向かってそう優しく語りかける。
「あ、ありがとう。夜蘭に煙緋」
そんな二人に対して、刻晴はそう感謝の言葉を述べる。
「_本当に良かったわ。これで反刻晴派騒ぎはおしまい。表の問題は大方片付いたわ。そうすれば後は、“裏の問題の後処理”だけね」
そうして、そんな刻晴の事を微笑えましそうに見つめていた凝光は、静かにそう呟く。
「“裏の問題の後処理”…?」
(裏の問題ですって…?まだ何かあったということなのかしら……?)
そして凝光のその呟きを聞き逃さなかった刻晴は首を少し傾げる。
「ねぇ、凝光。裏の問題の後処理って何かしら?」
「あっ」
そうしてまた、凝光は失言してしまったと言わんばかりに小さく声を漏らす。
「凝光、私もその処理を手伝うわよ。その問題って、何なのかしら?」
「刻晴…。そうね。ただ、ねぇ…」
刻晴は凝光にそう言うと、凝光は少し困ったかのような表情を浮かべる。
「刻晴。ちょっといいかしら」
そしてその時、凝光に助け舟を出すかのようにそのやり取りを聞いていた夜蘭が、刻晴にそう呼びかける。
「あら、夜蘭。何かしら?」
そうして夜蘭に呼びかけられた刻晴は、その呼びかけに応じて夜蘭の方へと視線を向ける。
「凝光のその事なのだけれど、そうね_」
夜蘭はそこまで言うと、刻晴に対しどう説明すればいいのかを考えるかのように少し間を置いてから、刻晴に語り掛ける。
「_その事なのだけれど、その問題は私と凝光の私達の手で直々に解決しなければならないの。そうね。それは“少し厄介な面倒事”と言えるかしらね。だから刻晴が、玉衡が出る幕は無いわよ」
「“少し厄介な面倒事”…?」
(いったい、どんな面倒事よ…)
夜蘭は刻晴にそう説明すると、刻晴は夜蘭のその説明に対して少し訝しむかのように眉を顰める。
「………」
「………」
そして甘雨と煙緋はその“少し厄介な面倒事”に対して心当たりがあるのか、二人は無言で互いに視線をかわしあって頷きあう。
「ふっ、“少し厄介な面倒事”ね…。“璃月はおろか、確実に周辺国のモンド、フォンテーヌ、スメール、稲妻が多かれ少なかれ巻き込まれている厄介事”。そして今後の調査や捜査自体では“ナタやスネージナヤすらをも巻き込んでしまい、そうして今後の対応に少しでも誤りがあればテイワット全体に波及していく大問題に発展しかねない可能性がある事案”。それが“少し厄介な面倒事”、とはね…。ふっ、笑ってはいけないのに。思わず笑ってしまうわね……」
そうして夜蘭のその説明に凝光は皮肉気な笑みを浮かべ、そしてまた疲れ切った様子を見せながら、誰にも気づかれない程の静かな声でそう呟く。
「_まぁ、分かったわ。なら、私は凝光と夜蘭のその件には首を突っ込むのはやめる事にするわ」
刻晴は納得した様子は見せなかったものの、凝光のそれについて理解は示したのか、彼女は頷きながらそう答える。
「えぇ、そうしてちょうだい。その方が私達も助かるわ」
そして刻晴にそう告げると、凝光もまた静かに刻晴にそう返す。
「分かったわ。それじゃあ、本当にこれで…」
(私を巡るこの騒ぎは終わったという事なのよね…)
刻晴はそう言うと、感慨深そうに歩きながらそう小さく呟く。
「___ねぇ。甘雨、煙緋。それに夜蘭に凝光」
そうして刻晴は、煙緋や甘雨達に声をかける。
「_はい、何でしょうか?刻晴さん」
「_あぁ。どうしたんだ?刻晴殿」
「_えぇ。どうしたのかしら、刻晴?」
「_ふふっ、いったい何かしら?刻晴」
そして甘雨と煙緋、夜蘭と凝光はそれぞれ笑みや楽しそうな表情を浮かべながら刻晴にそう返事する。
「___ありがとう、みんな。私のために、ここまでしてくれて。今の私は、こういったお礼を言う事しか出来ないけれど、でも本当にありがとう。甘雨、煙緋。それに夜蘭に凝光の皆。本当に感謝しているわ」
刻晴は心の底よりの感謝の気持ちを込めて、甘雨や凝光達の四人にそう告げる。
「刻晴さん…。はい、どういたしまして」
「ははっ、別に礼はいらないぞ。刻晴殿」
「ふっ、どういたしまして。刻晴」
甘雨と煙緋、夜蘭は刻晴のそのお礼に対してそう言うと、三人は微笑みを浮かべる。
「ふふっ、別に良いわよ。刻晴。それよりも_」
凝光は刻晴に対して甘雨達三人と同じように微笑みながら刻晴にそう言い、そしてそのまま刻晴に告げる。
「_刻晴がお礼をすべき者達というのは私達だけじゃないわ。貴女の為に千岩軍の兵士達や、月海亭や総務司の職員達等を通じて、私達に力を貸してくれた“彼ら”にも、貴女は感謝するべきだわ」
「えっ?“彼ら”…?」
(いったい、誰の事かしら…?)
刻晴は凝光のその“彼ら”とはいったい誰なのか、と疑問に思ってその場で僅かに 小首を傾ける。
「ふふっ、そうですね。凝光さん。私達に協力してくれた彼らにも感謝しないといけないですね」
「ははっ、そうだな。凝光殿。彼らの協力もあって反刻晴派達を捕まえる事も出来たのだから」
「ふっ、そうね。凝光。彼らのおかげで反刻晴派の者達やその協力者達を抑えられたのだからね」
そうして甘雨と煙緋、夜蘭の三人はそれぞれそう言い合いながら、凝光のその言葉に同意する。
「え…?ちょっと待って。いったい、それって誰の事なのよ?」
(反刻晴派の者達やその協力者達を取り抑えたのに協力したって…)
そして彼女達のその会話に刻晴は困惑しながら、彼女達にそう問いかける。
「ふふっ、刻晴さん。彼らの正体はすぐに分かりますよ」
「あぁ、そうだな。甘雨先輩の言う通りだ。すぐに分かるさ」
「そうね。“彼らはこの建物の直ぐ近くで待っている”からね」
甘雨達は笑みを浮かべながら、刻晴に向かってそう告げる。
「えっ…?この建物の直ぐ近くで……?」
甘雨達のその言葉に刻晴はそう困惑する。
「_えぇ、そうよ。刻晴。貴女の“大切な者達”、同時に貴女の事を大切に思っている“彼ら”がね」
そうして凝光も笑みを浮かべながら、刻晴に向かってそう告げる。
「私の“大切な者達”…」
(それって…)
刻晴は凝光のその言葉、“大切な者達”という言葉に思わず息を呑む。
「ねぇ、凝光。それって…」
そして刻晴は凝光にそう語ろうとするが、言葉を言い切る前に凝光から小さな笑みを返される。
「ふふっ。それはもうすぐ分かるわよ、刻晴。さぁ、ここを出ましょう。そうすれば彼らと会えるわ」
そうしていつの間にか建物の出入り口の前まで歩いていた凝光が、刻晴にそう呼びかけながら建物の外へと出る。
「はい、そうですね。凝光さん。行きましょう。私達を待っている彼らの元へ」
「そうだな、凝光殿。行こう、彼らの元へ。そして私も改めて、彼らに礼を言わなければな」
「えぇ、そうね。凝光。行きましょう。私も煙緋と同じく、彼らに礼を言わないとね」
そして凝光のその言葉に呼応するかのように甘雨と煙緋や夜蘭も彼女にそう言うと、彼女達も凝光の後に続いて、建物の外へと出る。
「_そうね、行きましょう。行けば、誰の事なのかも分かるしね」
そうして刻晴は凝光や甘雨達がいなくなった建物の中でそう呟くと、凝光達の後を続いて建物の外に出ていく。
「_あら、これは…」
「_わぁ、綺麗ですね…」
「_おぉ、凄いな…」
「_ふふっ、良い景色ね…」
先に建物を出た凝光や甘雨、煙緋や夜蘭達はそれぞれがそう口々に感想を漏らす。
「___うわっ。これは…。凄いわね……」
(さっきまで凄い雨だったからなのかしらね…)
そうして建物の外へと出た刻晴も凝光達と同じように、彼女達の目の前に広がる景色に感嘆の声を上げる。
彼女達の目の前に広がるは、黄金のような輝きを放つ太陽が水平線の璃月港の海に沈まんとしていた光景。
そうしてその事により、空が鮮やかなオレンジ色に染まっている美しい夕焼けの暖かな空。
そしてその夕焼けを更に彩るかのような、大きな虹が璃月港の大空に架かっている光景であった。
「こんなにも美しい景色。璃月港でこんな景色を見れたのは初めての事かもしれないわね…」
「はい、そうですね。凝光さん。私もこんなにも綺麗な景色は、見た事がないかもしれません…」
「あぁ、そうだな。目の前に広がるこの幻想的な光景…。本当に素晴らしいものだな……」
「そうね。私もこんなに美しくて綺麗で、幻想的な光景というのは、初めてかもしれないわね…」
凝光や甘雨、煙緋や夜蘭はそれぞれそう言いながら目の前に広がる絶景に、それぞれが感嘆の声を上げる。
「えぇ、そうね。凝光、甘雨。それに煙緋や夜蘭」
(本当に綺麗…)
そうして刻晴は思わずもっと近くで見ようと、凝光達の前に立ってそのまま無言でその景色を眺める。
そしてその時であった。
「_あぁ!!来たよ!!刻晴!!刻晴~!!」
「_本当だ!!刻晴!!刻晴!!こっち!!こっち!!」
「_あそこですね!!刻晴さん!!刻晴さん!!」
「_本当に久しぶりだ…!!刻晴!!刻晴!!」
「_おぉ、間違いねぇ!!刻晴!!刻晴!!こっちだ!!」
「_ふっ。どうやら全てが無事に終わったようだな…。刻晴殿…!!」
その時、辺り一帯に響き渡る男女の六人の声が聞こえて来た。
「_えっ…!?」
(この声って、まさか…!?)
そして刻晴はその声、聞き覚えのある声達、その声の主達についてすぐに思い至って、そのままその方向に視線を向ける。
「刻晴~!!」
「刻晴ー!!」
「刻晴さん!!」
「刻晴!!」
「刻晴っ!!」
「刻晴殿!!」
そこには刻晴の友人である“胡桃”、“香菱”、“雲菫”、“行秋”、“嘉明”、“鍾離”達が立っていたのであった。
「嘘でしょ…!?きょ、協力者、それに“大切な者達”って言うのは……!!」
刻晴は目の前に広がる璃月港で知り合い、友人となった者達の姿を眺めながら、思わず驚きの声を上げる。
「_えぇ、そうよ。刻晴。協力者、大切な者達というのは彼らの事よ」
そして凝光は優し気な笑みを浮かべながら、刻晴に対してそう告げる。
「そ、そうだったのね。ほ、本当に…」
(私の為に、彼らもここまで…)
刻晴は声を震わせながら、凝光の言葉に対してそう答える。
あまりにも感激してしまったのか、ジーンと涙が滲んでしまっている。
「_っ…!!みんな、みんな……!!」
そして涙が滲んでいた刻晴は、すぐに涙を手で拭うとそのまま颯爽と地面を蹴って走り出す。
「あっ!!こ、刻晴さん!?ま、待ってください!!」
「っ!?刻晴殿!?それに先輩!?ま、待ってくれ!!」
急に駆け出した刻晴に対し、甘雨と煙緋は刻晴の後を追いかけるように彼女達は走り出す。
「あらあら、行っちゃったわね。さぁ、私達も行くわよ。夜蘭」
「ふふっ。本当に今代玉衡様は…。えぇ、行きましょう。凝光」
そして胡桃達の方へと全力疾走する刻晴の後ろ姿を、凝光と夜蘭は好ましげな笑みを浮かべながら、刻晴の後を追うように歩き始める。
そうしてこの時を以って。
璃月港の裏側で蠢いていた反刻晴派達の一連の騒乱関連は、その幕を完全に下ろしたのであった。
これにて第7幕もとい、4幕から7幕にまで続いてしまっていた刻晴の過去編は終了とします。
ここまでの長丁場に付き合ってくださいました皆様。
本当にありがとうございました。
作者自身もここまで、長くなってしまうとは思いませんでした。
刻晴過去編は活動報告にもある通り、群像劇の検証作業関連、また今回の刻晴過去編は本編でも繋がりがあるために、どんどん深掘りしていかなければという泥沼に嵌ってしまっていました。
ですが作者個人的には色々な収穫がありました(例えば群像劇を展開する時は、その時の展開スピードや書き上げる際の労力等を総合的に判断するに、今回の群像劇での中心キャラである“刻晴”、“甘雨”、“夜蘭”、“凝光”、“煙緋”達を中心とし、そこに一般人達代表の筆頭としての“胡桃”と“鍾離”の計7人から、理想は3人までに絞る。仮にどうしても大人数となってしまう場合は、どんなに多くても4人か5人までに収める。)。
しかしながら、早く本編の方を進めて欲しい方をおざなりにしすぎてしまっていました。
本当に申し訳ありません。
次回からようやく8幕に集中。
オリ主の瞬詠が中心の本筋の話を進めて行ければと思います。
それでは次回、第8幕の4話目の投稿までいましばらくお待ちください。
_無事に任務が完了。寝返った者や拘束された物達の粛清と彼女の部下達の殲滅が終了しました。
_こちらも同じく、任務完了したぞ。だがまぁ、璃月港を完全に陥れる事は出来なかったがな。
_そうか。報告ありがとう…。二人しかいないようだが、“彼”はどうした?
_はっ、“総統陛下”。彼はまだ拠点で後始末を、死体処理を行っているようです。
_あぁ、そうらしいな。“総統”。過激派の奴ら、俺らと直接やり取りしてた連中をな。
_成程、証拠隠滅中か…。そして今回の結果…。ふっ、璃月も捨てたものじゃなかったな。
_お言葉ですが、“総統陛下”。今回の結果は良くないものと思われるのですが…。
_ふんっ、別に構わん。璃月がこれで駄目になろうが、ならないだろうがな…。
_そうですか…。私には理解できません……。
_はっ…。おい、“カラス女”。実は総統は、璃月の事をそれなりに気に入ってるようなんだよ。
_そうなのか…?“白霧使い”。そんな事は初耳だが……。
_あぁ、そうだ。以前の総統は、璃月港に住み、そしてそこで暮らしていた時期があったんだ。
_なっ…!?そうだったのか……!!なら、なぜ。どうして璃月に、璃月港に攻撃を……?
_さぁな。俺がそんな事を知るかよ。本人がこの場にいるんだから、お前が聞けばいいだろ?
_…二人とも。これは攻撃ではない。これはちょっとしたテストだ。
_テストですか?総統。それは、どういう…。教えてください、総統陛下。
_なぁ、総統。そろそろ総統の考えや、最終的な目的を教えてくれても良いんじゃないか?
_そうだな…。理由は幾つもあるが…。大まかに言えば、見極めるためだな……。
_見極める…?いったい、何を……。
_何を見極めるつもりだ…?
_璃月に、そしてテイワットに訪れるであろう、“試練”を乗り越えられるかどうかについてだ。
_し、“試練”ですか…?そ、それはいったい…。テイワットに何が訪れるんですか……?
_はぁ、“試練”だと…?おいおい、想像の斜め下を行ったぞ。実にくだらないものだな…。
_…“御曹司”。そうは言うが、このテイワットに試練が訪れる事になるのは確実なんだ。
_はっ、そうなのかよ。俺にはそんなの興味はないね。
_まぁ、お前がそう言うのは仕方のない事かもしれないな。御曹司。
_当たり前だろ、誰がそんな事を信じられるか。じゃあ、具体的に何が起きるんだよ?
_…少なくとも、“500年前の惨劇レベルの災禍”がテイワットに襲い掛かって来るだろうな。
_500年前の惨劇、ですか…?
_500年前の災禍、だと…?
_500年前、ね。それは“カーンルイアの災厄”の事かい?
_っ!?
_っぅ!?
その時、不意に彼らの会話に割り込むかのように、第三者の声が響き渡る。
「今のはどこだ!?どこから聞こえた!?おい!!“レイヴン”!!分かるか!?」
そして総統に“御曹司”と呼ばれた男。
璃月の衣装を身に纏い、両手に男の特殊拳銃を握り締めた彼。
そうして彼自身の特異な力を行使したのか、男の身体から青やオレンジのようなオーブのような物と薄っすらな白い霧。
小さな水滴のように輝く青とオレンジの光球、水元素と炎元素と思われるそれら二元素の元素操作によって発生したのであろう白い水蒸気を立ち昇らせながら、御曹司はその狂気と正気が混じり合った瞳の焦点と、それと連動する形で両手に手にしていた男の二丁拳銃をあちこちと向けながら、隣に立つ女に向かって叫ぶ。
「正確な場所は割り出せない。だが聞こえてきた方向、あの声の響き具合から…!!」
そして御曹司に“レイヴン”と呼ばれた女。
暗殺者とも言えるようなフード付きの漆黒な装飾の格好をし、両手には彼女が展開したであろう鉤爪のような物を装着していた彼女。
そうして彼女自身も男と同じような特異な力を発揮させたのか、身体中から赤と紫のオーラを放ちながら彼女の肌に赤と紫の線が迸らせる。
それは炎元素と雷元素の粒子なのだろうか。
彼女の元素力が活性化された影響でそれぞれの元素の粒子を周囲に撒き散らしつつ、それでいてまるで動脈と静脈部分が発光しているかのように自身の肌に赤と紫の線を走らせて発光させながら、彼女は敵意と殺意に満ちた瞳と険しい表情を浮かべてある方向に睨みつける。
そして自身の鉤爪にそれぞれ真紅の炎と紫電を纏わせて戦闘態勢を整えながら、御曹司に向かってそう叫ぶ。
「どこだ!!姿が見えねぇぞ!!しかも俺はまだ、この力を極短時間しか使えねぇのに…!!もうとりあえずあの方向に連射すれば、問題は無いよな!?そうだよな!?カラス女!!」
「早まるな!!白霧使い!!軽率に動くな!!相手の正確な位置が割り出せず、それに相手が只者では無い事は確かだ!!総統!!危険ですので、貴方様は私達の後ろへと下がって下さい!!」
御曹司はレイヴンにそう叫び、レイヴンは御曹司にそう叫び返しながら、総統を庇うかのように一歩出ようとする。
「_待て」
だがその時、総統と呼ばれた彼は片腕を横へ伸ばし、レイヴンに顔を横に振る事によって静かにそれを制止する。
「なっ…!?総統……!?」
そしてその彼の仕草に、レイヴンは驚愕する。
「おい!!何やってんだよ!?ふざけてんのか!?今の状況が分かってんのか!?」
そうして御曹司も同じく驚いた表情を浮かべながら、総統に向かってそう叫ぶ。
「_レイヴン、御曹司。武器を下ろせ。そして、その力を今すぐ収めろ」
「えっ…!?」
「はぁっ…!?」
総統は鋭い眼差しを浮かべながら、驚愕の表情でその場に立ち尽くす二人にそう命じる。
「そ、それは…」
「ど、どうしてだよ…」
二人はそんな総統の命令に戸惑い、絞り出したかのような困惑の声をあげる。
「_今すぐ武器を下ろせ。そしてその力を収めろ。三度目は無いぞ…!!」
そうして困惑し、完全にその場で固まってしまっていた二人に対し総統は低く重い声、そうして殺気を放ちながら二人に再び命令する。
「っ!?…総統。も、申し訳ありません」
「っぅ!?…わ、分かったよ。総統」
そして総統の放つ濃厚で強烈な殺気を受けて二人は目を見開かせて身体を震わせ、そうして渋々と言った様子で二人は武器を下ろしては自身の特異な力、それぞれの身体から発していた粒子や水蒸気等をそれぞれを引っ込める。
「それでいい…。さてと、今の声。それに話し方、か。おそらく_」
総統は二人に対してそう呟くと、そのままゆっくりとした足取りでその声が響いてきた方角へと向かって、一歩前に踏み出す。
「_我々に敵対の意志は無い!!どうか我らの前に姿を現してくれないか!!黄金の錬金術師、レインドット!!もしくは生の執政、ナベリウス!!」
「黄金の錬金術師、レインドット…!?」
「生の執政、ナベリウス…!?」
総統は第三者の正体を明かすかのように、話に割り込んできた第三者のその名を叫び、そしてその正体を聞いた二人も目を軽く見開かせて驚きの声をあげ、総統の視線の先を追うかのようにその方角へと視線を向ける。
「_ほぉ?私の事を知っているんだね?それに私の中にいる“彼女”の存在についても、ね?」
そうして総統の呼びかけに答えるかのように先ほど聞こえてきた第三者の声、その女性の声が聞こえてくる。
「まぁな、レインドット…」
「っ!?」
「っぅ!?」
その女性の声、レインドットの声に対し、総統はその声の主に同意するかのように頷き、御曹司とレイヴンの二人はまたもや聞こえてきたその声に驚きの声をあげる。
「_ふっ。実に面白い。私の中に居る彼女がとても困惑している事も含めてね…。随分と久しい気がするよ。この未知の物、事柄に対する好奇心や探求心。知りたい、解明したい、そして知識として取り込みたい。私のこのような感情が、またこうして湧き上がって来る時がやってくるとはね」
そして彼女は歓喜に揺れるかのような声、そして好奇心に溢れているかのような声でそう呟く。
そうしてレインドットが姿を現したのは、その数秒後であった。
「___ふふっ、良いだろう」
「_礼を言う。成程、上か…」
「えっ…?なっ!?こ、これは!?」
「上だと…?はっ!?そ、空が!?」
レインドットの笑い声と総統がそう呟くと同時に、空を見上げるかのように顔を上に向けた三人の目の前に広がる月明かりの空、その空の一点が不自然に変色し始めては、そのまま歪んでいっては目の前が引き裂かれていくかのような超常的な現象が発生しながら、目の前に隙間、とある空間が現れ始める。
「っ!?これは、いったい…!?」
「おいおいおい!?嘘だろ…!?」
そして割れた空の隙間、そこから差し込む月の光とその光を反射しているかのように美しく輝いては水のように透き通る青い光と黄金の輝きを放つ空間。
「___ふふっ。こうしてテイワットの地に降りるのは、いつぶりになるんだろうね…」
そしてその中から彼女、まるで視認する事が出来ない階段をゆったりと降りるかのように、総統の元へと降りていく彼女の姿というのは、端的に言うなれば修道女に近い格好だと形容すれば良いのだろうか。
夜の闇、月の光に照らされる彼女の白と黒を纏う衣は、自身がこのテイワットにおいての上位な存在であり、遥か高位の存在なのだと主張せんばかりに煌びやかで、まるで神々しいかのようなものを感じさせる。
「_ふむ。総統、か…」
そうして黄金の髪が月の光に照らされ、反射しているかのように光り輝いていた事により、その神秘的な美貌を神々しく際立たせていた彼女、レインドットの青色と黄金のオッドアイの瞳が、その視界に捉えた総統と呼ばれる男を見据える。
「………」
そしてレインドットに見据えられた男、灰色の髪に澄んではいるように見えるが灰色の瞳、また灰色を基調とした衣装に身を包んだ男。
全体的に目立つ事のない印象の男、もしくは目立つことを避けようとしてきたような印象を受ける男で、目つきが少しだけ鋭く感じる男性こと、“総統”はレインドットと視線を交差させていたのであった。