名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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完成したので投稿。

今回は前回の予告通り、第8幕の続きとなります。


取り合えず、まだ今回の話では彼に関する詳細な描写等は一切行っていませんが、
ただ刻晴が彼の姿を目撃し、そして彼にどういう印象を抱き、そうして彼に対してどのような思いを持っていったのか、その全てがより鮮明に明らかとなっていきます。


それでは、8幕目の3話目をお楽しみください。


_立派な人というのは、何かを極めし人でもある

Side:刻晴

 

「………」

 

刻晴は孤雲閣上空で飛翔する“黄金の翼”、“灰色の者”の姿に目を奪われる。

 

 

「_刻晴さん…?どうしたんですか?」

 

そして刻晴の様子が気になった甘雨が刻晴にそう声をかける。

 

「…甘雨。あれを見なさい」

 

「えっ…。っぅ…!?こ、こんな短時間で!?もう璃月港上空から孤雲閣上空まで飛翔したというのですか……!?」

 

甘雨は刻晴が指をさした方向に視線を向けると同時に、黄金の翼が放つ煌々と輝く黄金色の輝きに気づき、そして大きく目を見開きながら驚愕の声をあげる。

 

「えぇ、そうよ。甘雨」

 

刻晴はそんな甘雨にそう肯定の言葉を言う。

 

「なっ、えっ…!?あ、あの者はいったい…!?わ、私は夢でもみているのでしょうか……?」

 

甘雨は信じられないと言った様子で、そう言葉をこぼしながら刻晴に尋ねる。

 

「私も驚きはしたわ、甘雨。でも、これは現実よ」

 

「そ、そうですよね。風の翼というのはあんな風に空を飛び回れるものだったでしょうか…」

 

「いえ、いくら風の翼でもあんな風には飛び回れないはずよ。でも、それが出来るという事は…」

 

「あの黄金の翼。あれが普通の風の翼ではなく、なにか特殊な仕様を施した風の翼なのでしょうか?それとも、単純にあの“灰色の者”の飛翔技術が並外れているという事なのでしょうか…?」

 

「あるいはその両方か…。実際はどうなのかは分からないけれど、少なくとも孤雲閣上空で旋回しているあの者は只者ではないのは間違いなさそうだわ」

 

刻晴はそう言いながら“黄金の翼”、“灰色の者”の姿を見つめる。

 

「はい、もう間違いありません。少なくとも、あの者が只者ではない事だけは、私にも分かります…」

 

甘雨も刻晴と同じ様に孤雲閣上空にいる“黄金の翼”、“灰色の者”の姿を見つめながら、彼女は刻晴にそう返答する。

 

 

「嘘だろ…。もうあんな遠くまで……!!」

「うん、どうした?なっ…!?」

「お、おい…。少し目を離してる間に、あんな所まで行ってるぞ……!?」

「なに!?おいおい、嘘だろ…!?本当にあんな遠くまで飛んでるじゃねぇか!?」

「はぁ!?…ほ、本当だ!?」

「も、もうあんな遠くまで飛んでいるだと…!?少し目を離した間でか…!?」

 

そうして先ほどの船隊の船乗り達や船員達の話に意識を集中していた璃月港の人々、労働者達や住民達、そして千岩軍の兵士達と七星八門の職員達は、その話に意識を集中していなかった者達の呟きをきっかけに、その者が孤雲閣上空へと飛んでいた事に次々と気づいて驚愕の声をあげ始める。

 

「本当に凄いです…。風の翼と言うのはただ滑空するだけの物の筈ですが、それを極めてしまえばあそこまでの極致に至れるとでも言うのですか……」

 

甘雨は孤雲閣上空で旋回しながら飛行するその者の姿を見つめながらそう呟く。

 

 

「極める、そして極致、ね…」

 

刻晴は甘雨のその言葉に思う事が有るのか、甘雨と同じように孤雲閣上空にいるその者の姿をじっと眺めながら、そう呟く。

 

 

 

「_何事も極めれば、極致に至る事ができれば。人は磨かれる。より洗練される、か…」

 

刻晴はそう呟きながら軽く目を伏せ、そうして再びその者の姿を見つめる。

 

「………」

 

その者は特に変わらず孤雲閣上空を旋回しながら飛行している。

大空を我が物のように、その者は風の翼を操って空を飛んでいる。

 

 

そしてその者を見つめていた刻晴は同時に、先ほど自分が呟いたその言葉について思考する。

 

 

 

なにげなく呟いたこの言葉、この言葉はどこで聞いた言葉だろうか。

どこで、誰が言った言葉だったのだろうか…。

 

 

 

 

 

「_あっ、確か…」

(この言葉って……)

 

刻晴は思わず目を見開きながら、そう言葉をこぼす。

 

 

 

そう、この言葉はかつての在りし日々。

刻晴の叔父が彼女に対して言った言葉だった。

 

 

「………」

 

玉衡の座に座る前の言葉。

刻晴の叔父がまだ存命だった頃、叔父が彼女に対して言った言葉であったはずだ。

 

 

 

あれはまだ彼女が幼かった頃。

刻晴が剣術の修練などを始めたばかりの頃。

 

先代玉衡であった叔父が倒れる前。

現役の玉衡として采配を振るう彼の話、そうしてそんな彼の姿や背中に刻晴が目を惹かれ、彼女のその瞳が輝いて彼に憧れていた在りし時。

 

そうして叔父との今までの問答の中で、刻晴の胸の内にとある願いや願望を抱いていた時。

それは『璃月をもっと、もっと誇りのある国にしていきたい、胸を張って誇れる国にしたい。長い歴史を紡いできた璃月という国家をもっとより良い国にしていきたい』という願いを抱き、無意識に『叔父のような立派な人物、彼のような立派な人』になりたいという願望。

 

 

そして胸の内にそれらを秘めていた頃の刻晴に対し、叔父が彼女にそう告げた言葉だったはずだ。

 

 

 

 

 

「_そう、私は…」

(憧れていた…)

 

刻晴は孤雲閣の大空を飛ぶその者、“黄金の翼”、“灰色の者”を改めて視界に捉えながら思考する。

 

 

 

立派な人。

それはつまりかつての彼女の叔父のような人物になるという事。

 

 

それは、意見をしっかり持った人。

自分の意見を明確に持ち、安易に他人に同調しない人物。

 

そしてそれは、常に公平な態度を取る事が出来る人。

自分の意見を伝えつつも、相手の意見もきちんと聞き、公平な態度で接することができる人物。

 

そうしてそれは、自らを律する事ができる人。

あらゆる欲望をコントロールする理性や、自分自身を律する力を持っている人物。

 

またそれは、いかなる時でも相手との人間関係を大切にする事が出来る人。

例え意見が異なって対立してしまったとしても、決して相手を一方的に敵視する事なく相手を理解しようとし、そうして相手を受け入れようと努力が出来る人物。

 

 

 

「そして何かを極めた人…」

 

刻晴はそう呟くと目つきが少しだけ鋭くなる。

 

 

 

極めた人。

 

 

それはつまり、特定の分野や物事を深く追求した者。

 

そしてその分野や物事に置いて最高レベルに達した者、常人や凡人では到底到達し得ない境地へと至った者。

 

そうしてその境地へ至るため、尋常ではない探究心や継続力、そして努力を惜しまなかった者だ。

 

 

そしてそれは___。

 

 

 

「_立派な人というのは、何かを極めし人でもある。何事も極致へと至った人物というのは、周囲から認められ頼られ、そうして自らに課せられた責務を最後まで果たしきることが出来る、唯一無二な存在へと躍進しきった人物となる。そして…」

(_様々な者達に一目置かれる事、そうしてその者が過ごして来た環境によってそれぞれ変容していき、いずれも悪意なき正しい方向であれば、いずれ立派な人物へと昇華する)

 

刻晴は言い聞かせるように静かだが、しかし強い意志が込められた声でそう呟く。

 

 

かつての叔父との話を思い起こし、そして叔父が彼女に告げた言葉を振り返り、そうしてその言葉の意味を、その真意を刻晴は再び思い出す。

 

 

 

極めし者と立派な者。

この者達と言うのは、それぞれ尋常ではない探究心や継続力の点がそれぞれ共通しているのだ。

 

 

 

そして探究心や継続力。

 

 

極めし者は特定の分野や物事を深く追求し、最高のレベルに達するために継続する傾向がある。

そして立派な者は自分の意見をしっかりと持ち、そうして公平な態度で人間関係を大切にする。

 

そしてそれら立派な者が持つ自らの意見を持つ事、公平な態度を取るという事、そしてそれと同時に『自らを律する力』という立派な者が持つそれら特性は、何かを極める過程で培われる継続力や探究心と重なる部分があるであろう。

 

 

 

そうしてまた、『自らを律する力』。

 

 

これもまた探求心や継続力並み、もしくはそれ以上に重要な力とも言えるだろう。

 

極めし者は自ら打ち立てた目標に向かって自己を管理し、そして高い集中力を維持する。

これを存分に発揮するには、自身の中の欲望をコントロールする理性を磨くことが重要だ。

そうして自らの目標に対して超長期的に取り組める強靭な強い意志が重要になってくるのだ。

 

 

そしてそれはつまり、『自らを律する力』は内面的な規律や目標達成への強い意志の力と言う事であり、この力は「極めし者」と「立派な者」双方が持つ特性に通ずる物があると言えるだろう。

 

 

そうであれば___。

 

 

 

 

 

「_探求、継続、そして自制心、もしくは克己心…」

 

刻晴は目を瞑りながら静かにそう呟き、そうして自問自答をするかのように心のなかで思考する。

 

 

 

玉衡になってからも刻晴は忘れていないし、諦めていない。

 

『璃月をもっと、もっと誇りのある国にしていきたい、胸を張って誇れる国にしたい。長い歴史を紡いできた璃月という国家をもっとより良い国にしていきたい』という思いを。

 

 

そして『叔父のような立派な人物、彼のような立派な人』になりたいという思いをも。

 

 

 

 

「………」

 

刻晴は目を瞑ったまま静かに思案する。

 

 

『立派な人物』になるためには、まずはどのような事でも構わないので『極めし者』にならなければならない。

 

『立派な人物』になるという事は、それと同時に『極めし者』になるという事であり、それはつまり『極めし者』の延長線上に『立派な人物』があるという事だからだ。

 

 

 

そうして玉衡になってからの刻晴は『立派な人物』となるため、『極めし者』となるための努力を決して欠かさず、また怠らずしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

玉衡の全てを極める為。

 

 

時には日々の政務以外にも過去の七星達の記録書を読み漁って七星の事を深め。

 

ある時は璃月のあちこちの現場に行っては、そこでの現実を間近で見てそれらを理解し。

 

またある時には、璃月の民や庶民達に混ざって彼らと同じ立場や視線に立って物事を考えたり。

 

 

彼女はあらゆる手段を用いて自らを磨き、そして研鑽に励んできた。

 

 

 

 

また同時に、幼い頃から護身の一環として身に着けた雲来剣法という自らの剣法を極める為。

 

 

 

時には、刻晴は朝早くから屋敷の中庭で剣を振るい。

 

時に、彼女は千岩軍の兵士達の訓練や演習に自ら参加して、剣技を磨き上げ。

 

そうして時には、彼女自らの修練のために璃月港郊外や周辺にて、刻晴は魔物達を相手にしたり。

 

 

これもまた、手段を選ばずあらゆる手段を用いて自らを磨き上げてきた。

 

 

 

 

 

 

「_いえ…」

(まだまだね…)

 

だがしかし不満足と言わんばかり、刻晴はその場で首を左右に振る。

 

 

 

 

 

まだ足りない。

まだまだ自分は『極めし者』にも、それに準ずるような人物にもなれていない。

 

 

 

刻晴は冷静に、そう自分自身に対して厳しい評価を下す。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

そうして刻晴は空を見上げる。

刻晴の視線の先には大空を我が物のように、孤雲閣上空を旋回しながら飛行しているその者、“黄金の翼”、“灰色の者”の姿がある。

 

 

「_やはり、私の理想は“あの者”だわ」

(私が辿り着かなければならない極致と言うのは、“あの者”の領域よ)

 

刻晴は静かに呟きながら、心の中でそう言う。

 

 

“黄金の翼”、“灰色の者”が見せる飛翔の技術はまさしく飛び抜けて高いという事、常人では決して届かない遥かな高み、孤高な高みであることが刻晴を含めて誰もが見て分かる事だ。

 

そしてそれは刻晴にとっては“あの者”、風の翼を用いた飛翔術を『極めし者』こそ、彼女にとっての理想であり、また彼女が辿り着かなけばならんとする目標の高さでもある。

 

 

 

「_ふふっ。あの者といつか、話をしてみたいわね」

(いったいどういう方、そしてどのような『立派な人物』なのかしら?)

 

そうして刻晴は思わずそう呟くと、大空を駆ける“黄金の翼”、“灰色の者”へと視線を送る。

 

 

 

彼女のその瞳には“尊敬の念”と“敬意”、そして純粋なあの者への“憧れ”といったような感情が込められており、その瞳はまるで恋焦がれた乙女のようなものとも言えるものとなっていた。

 

 

 

 

 

「っ…」

 

そして刻晴は耳を澄ます。

 

 

「_す、すげぇ。信じられねぇ…」

「_あ、あの者はいったい…」

「_私、夢でも見ているの…?」

「_あんな風に飛び回れるのか…」

 

刻晴の耳に入ってくるのは孤雲閣上空で悠々と旋回する“その者”を見た璃月港の住民達やこの場を訪れた者達、またここで働いている労働者の男達や職員達に千岩軍の兵士達の、まるで信じられないものを見るかのような驚愕の声と、そんなその者に対する畏怖が入り混じったかのような声。

 

 

「_もう着いたのか!?流石だ…!!」

「_おぉ!!本当だ!!本当に信じられないぜ…!!」

「_流石、“総大将の右腕の男”だ…!!今度こそ行けるぞ!!」

「_あぁ、そうだな!!俺達にはあいつもいるんだ!!本当に心強いぞ!!」

「_そうだ!!俺達には総大将、そして“あの男”がいる!!行けるぞ!!」

「_あぁ、そうだな!!あいつと俺達ならあの海の化け物に勝てる!!」

 

そうしてまた、南十字武装船隊やその船隊に合流した各武装船の船隊もとい、璃月艦隊の船乗り達の歓声や雄たけびが混じったような声が、それこそまるで勇者や英雄を称賛するかのような声が、璃月港の埠頭や桟橋に停泊している船舶達の各船から聞こえてくる。

 

 

 

「_ふふっ。あぁ、本当に凄いわ」

 

刻晴は思わずそう呟き、笑みを浮かべてしまう。

 

 

 

ここに居る者達、この騒ぎに気付いた璃月港の者達全員の意識が“あの者”、“黄金の翼”、“灰色の者”に集まり、注目している。

 

そしてその事、刻晴の理想、彼女の目標の高さを体現した“あの者”に対し、あの者のその姿を見た者全員の意識が集まり、そうしてここに居る者達は全員がその者を認めたかのような、それぞれのその反応が、まるで自分の事のように思えて嬉しく、そして誇り高い思いに刻晴はなってしまう。

 

 

そしてそれが一層、刻晴のその者に対する尊敬の念、そして憧れの念を増幅させていく。

 

 

 

 

 

「_刻晴さん?」

 

その時、甘雨が刻晴に声をかける。

 

「あら、どうしたの?甘雨?」

 

刻晴はそう返答すると、甘雨に視線を向ける。

 

「いえ、先ほどからぶつぶつと何か呟いていましたが…。どうかされたのかと思いまして」

 

甘雨はそう刻晴に返答する。

 

「あら、そう言う事?ふふっ。そうね。ただ、私は___」

 

刻晴は甘雨にそう返答すると、そのまま再び視線を“黄金の翼”、“灰色の者”へと向けてこう呟く。

 

 

 

 

 

「___“あの者”に憧れてしまった。それだけよ」

 

その刻晴の表情には、どこか誇らしげな笑みが浮かべられていた。

 

 

 

「憧れてしまった、ですか?刻晴さん?」

 

「えぇ、そうよ。甘雨」

 

甘雨のその問いかけに対して刻晴はそう答え、彼女は大空を駆ける“黄金の翼”、“灰色の者”へと視線を戻す。

 

「あの者を見て確信したわ。“あの者”、いえ船乗りたちの話を聞くに“彼”は、私の理想、そして私が辿り着かなければならない極致に立つ男。そしてそれはつまり、私の理想や夢を体現するかのような、そんな人だってことを」

 

刻晴はそう甘雨に言うと、彼女は“あの者”、南十字武装船隊達もとい璃月艦隊の面々が叫んでいた“あの男”に再び笑みを浮かべる。

 

「成程、そう言う事ですか…。刻晴さんの理想、極致…。そして刻晴さんが思い描き、なりたいと願い続けていた“立派な人”。それの理想像が“船員さん達が言うあの彼”という事なのですね……」

 

甘雨は刻晴にそう告げると、彼女も刻晴と共に“黄金の翼”、“灰色の者”へと視線を向ける。

 

「えぇ。その通りよ。甘雨。私の事、よく分かってるじゃない」

 

刻晴はそう言うと、甘雨に向かって微笑んで見せる。

 

「ふふっ。私と刻晴さん、半年以上の付き合いとはいえ、今の私達は今までの出来事のおかげでそれ以上ですからね。当然ですよ、刻晴さん」

 

甘雨も刻晴にそう答えると、刻晴に微笑んで見せる。

 

「えぇ、感謝しているわよ。以前の“反刻晴派の件”、その件を巡って甘雨は身体を張ってまでして、私やこの璃月を守ろうとしてくれた。本当に感謝しているわ」

 

刻晴は甘雨に感謝の言葉を告げると、彼女は照れくさそうに笑いながら刻晴に向かってこう返答する。

 

「ふふっ、お礼は結構ですよ。刻晴さん。それが私の使命と責務ですから…。それにしても_」

 

甘雨は笑みを浮かべながらそう言うと、彼女は再び“黄金の翼”、“灰色の者”へと視線を向ける。

 

 

 

「_“あの者”、“あの人”は本当に凄い人ですね…。是非とも、一度お会いしてみたいものです」

 

甘雨はそう言いながら、その者を見つめる。

 

 

「えぇ。私もよ、甘雨。私も彼と、あのとても“立派な人”と会って色んな話をしてみたいわ…」

(彼にどうやって“立派な人”になれたのか、どのようにその高みに上り詰めたのか。そうして彼はいったい、今までにどのような人生を送って来たのかを…)

 

刻晴はそう甘雨に語ると、彼女は甘雨と共に“あの者”を、“黄金の翼”、“灰色の者”こと“彼”をもう一度見つめる。

 

 

そうしてその時であった。

 

 

 

 

「_あら…」

「_あっ…」

 

刻晴と甘雨は揃って、唖然としたかのような声を上げる。

 

何故なら…。

 

 

 

「_す、凄い旋回ね!?」

「_凄い急旋回です!!」

 

孤雲閣上空で悠々と旋回していた“彼”が突如、まるで戦闘機動でもとるかのような急旋回を見せたからだ。

 

先ほどまで孤雲閣の外周をなぞるように大きな円を描くようにしながら飛翔していた彼は一気に小さな円を、少なくともその大きな円からおおよそ十分の一以下に及ぶ程の、とても小さな旋回半径でその小さな円を描くように、急激な急旋回を一気に彼はやってみせたのだ。

 

 

「_なんだ!?今の!?」

「_す、凄い!!なんて旋回だ!?」

「_おい!!今のみたか!?」

「_あぁ、見たぞ!!鋭い旋回だったな!!」

 

そしてその彼の突然の行動に璃月港の住民達やこの場を訪れた者達、そしてここの労働者の大男達や職員達に千岩軍の兵士達が一斉、彼に向かって歓声にも似た声を上げる。

 

 

「_うん!?急旋回した!?」

「_おい!!急旋回したぞ!!」

「_あぁ!!見たぞ!!という事は!?」

「_あぁ、間違いない!!確認が終わったんだ!!」

「_“彼”はすぐに俺達の上空へと戻ってくるぞ!!」

「_あぁ!!野郎ども!!準備急げぇ!!時間は無いぞ!!」

 

そうしてまた今度は、璃月艦隊の船乗り達のそんな叫び声が聞こえてくる。

 

 

「えっ、“彼”が戻ってくる…?」

「“あの人”がもう、ここに…?」

 

その叫び声を聞いた刻晴と甘雨は船乗り達の方に視線を向けながら、そう同時に声を発する。

 

 

 

 

「_え、嘘だろ…!?」

「_は、早い…!!」

「_一気に一直線で来たぞ…!!」

「_何ていう速さだ…!!」

 

そして今度は住民達や訪れた者達、そうして大男達や職員達に兵士達がまた一斉に声を上げる。

 

 

 

「___えぇっ!?ほ、本当だわ…!!」

「___ふぇっ!?し、信じられません…!!」

 

彼らの大声に反応した刻晴と甘雨の二人は、そうしてまた上空へと視線を向けて、大空を駆ける“彼”の姿を見つける。

 

彼は彼女達が気づかぬ間に璃月港のすぐ近く、丁度港湾区の船着き場や埠頭に停泊している船隊達上空の付近にまで来ていたのだ。

 

 

 

「な、なんて早さなの…」

(孤雲閣から璃月港までは、そこまでの距離は無かった筈だけれど…。それでもあんなに早くここまで来れるなんて……!!)

 

刻晴は大空を見上げながら、そう心の中で驚愕と感嘆の声をあげる。

 

 

「か、彼はいったい…。もうここまで来てしまうと…。これはもう既に、あの人の片足が人の域を超えつつあるかのように思えてしまいます……」

 

甘雨は唖然とした表情を浮かべながら、絞り出すかのようにそう刻晴に告げる。

 

「えぇ、そうね…。甘雨」

(本当に凄いわ…。本当に彼は、何者なのかしら?)

 

刻晴もまた甘雨と同じようにそう絞り出すかのような声で、そう甘雨に返答すると、彼女は“彼”を見つめる。

 

 

 

そうして刻晴はとある事に気づく。

 

 

 

 

 

「_うん…?」

 

刻晴は目を細めながら、飛翔する“彼”を見つめる。

 

 

「_あの船の上空で旋回をしている…?それに_」

(彼の身体、いえ、彼の腕や手が光っている…?)

 

刻晴は目を細めながら“彼”のその姿を注視する。

 

 

その刻晴の見た通りの、否、見て感じた通りだった。

 

“彼”は丁度とある船、“艦首に龍を模した装飾が施されていた璃月艦隊の中では一層大きな船”、それはまるでこの艦隊の旗艦とも言えるような船、その船の真上をゆっくりと旋回していた。

 

 

そしてそれと同時にその“彼”の腕、手から白い光が点滅するように光っていた。

 

それはまるで何かの信号か合図かのように。

 

 

「あれはいったい…。あの光であの船とやりとりをしているのかしら…?」

 

「あれは…。“発光信号”、という事なのでしょうか?それにあの船のマスト辺りも、なにか点滅しているように見えます」

 

刻晴と甘雨は上空の“彼”を見据えながら、そう呟く。

 

彼女達の視線の先には謎の二つの白い光のようなものが点滅しているように見えた。

 

 

 

「ふむ…」

 

刻晴は顎に軽く手を当てて、考え込む。

 

 

甘雨が述べた“発光信号”、おそらく間違ってはいないのであろうか。

 

彼とあの船はまるで交信でもするかのように、交互に点滅をしているのだ。

 

 

どうやって発光させたり点滅させているのかに関しては、刻晴はその原理や仕組みは分からない。

 

だがおそらくは太陽の反射を利用した反射鏡を重ね合わせる事であそこまで輝く光源を確保し、その上で何らかの方法でそれらの点滅をコントロールしているのだろうと、彼女はそう推測した。

 

 

 

「へぇ、成程ね…」

 

そしてそう考えながら彼とその船とのやり取りを見守っていた刻晴は、彼とその船から視線を外して辺りの様子を確かめるように辺りを見回す。

 

 

「_え…?あ、あれはいったい、何をしているの…?」

「_彼とあの船から光を発しているように見えないか…?」

「_うん?そうだな…。確かに、何か白い光を発しているようにみえるな…」

「_なんだなんだ?彼とあの船は、あの白い光を用いて何かやり取りでもしているのか…?」

 

その場にいる一般人達や庶民達、そうして大男達や職員達に兵士達はそれぞれ口々、そのような疑問の声を上げ始める。

 

 

そうして___。

 

「_おい、様子はどうだ?あの男は“死兆星号”に着艦する様子はありそうか…?」

「_いや、まだ分からんが。着艦する様子はなさそう、だな。着艦態勢に入ってはなさそうだ」

「_だな。とりあえず、“総大将のあの人”とあの男がやり取りをしているのは確かだ」

「_成程…。そうなると中止になる線は薄い…、という事か」

「_あぁ、そうだな。そうとなれば、おそらく予定通りに決行という事だろうな」

「_おい。もういつでも錨を上げられるように、帆を垂直に出来るように準備しておけよ」

 

 

_そして近くに居た船乗り達は、彼とその船の様子を見ながら船上にてそんな話をしながら、それぞれの準備に取り掛かっていた。

 

「ふ~ん」

(成程ね…)

 

彼らの声を聞いていた刻晴は、納得したかのように頷く。

 

 

やはり刻晴の思った通り、あの光というのは彼と“旗艦と思われるあの船”、彼ら曰くおそらく“死兆星号”の“総大将のあの人という人物”と発光信号を用いたコミュニケーションを取っていたのであろう。

 

おそらく先ほどまで孤雲閣上空で外周飛行していた彼は、その時の結果を“死兆星号”に報告をし、そうして発光信号を通じて彼こと、“総大将の右腕でもある彼”と“総大将のあの人という人物”は、今後の艦隊の動きについてのやり取りを行っていたのかもしれない。

 

「へぇ…」

 

刻晴は腕を組みながら、そう声を発する。

 

 

そう推測した彼女は、そしてそんな彼らのやり取りをただじっと見ていた彼女は、同時に次に起きそうなことを思案してみる。

 

 

「_あっ…」

 

そしてその時、甘雨の拍子が抜けたかのようのそんな声が、刻晴の耳に入る。

 

「うん?甘雨、どうしたのかしら?」

 

刻晴は甘雨に、そのように尋ねる。

 

「あ、刻晴さん。“彼”と“あの船”。“死兆星号”のやり取りが終わったようですよ。そして_」

 

甘雨はそう言いながら彼がいるであろうとある方向へと指さす。

 

 

彼女が指差した方向というのは、“ほぼ真上”であった。

 

 

 

 

「_えっ…?」

 

刻晴は甘雨の指さした方向へと顔を見上げて、彼を探し出すかのように目をこらすようにして見つめる。

 

 

 

 

「_あ…」

(居たわ…)

 

刻晴は見つけた、“彼”を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ、凄いわ…」

「本当に、凄いです…」

 

そうして刻晴と甘雨はそれぞれ、その“彼”の姿を見上げながら声を漏らす。

 

 

 

 

 

彼は今。

 

 

 

璃月港の船着き場や桟橋に停泊している船舶達の周りを旋回するように。

そうして刻晴達の上空を旋回するように飛翔していたのであった。




それでは次回はまた第7幕の続き、『_俺から甘雨殿に一つ、助言をしよう』の続きを行いたいと思います。

そうして第7幕はいよいよ最終局面へと突入していきますので、このまま第7幕を終わりまで導いて行けたらと思います。



それではまた、次回の投稿までしばらくの間お待ちください。
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