名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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完成したので投稿。


本格的に去年のこの頃と同じような状況下となりつつありますが、とりあえず三連休で纏まった時間が取れて良かったです。

ただこの感じだと12月は完全に更新ペースが低下。
もしかすると今後の状況次第ではまた、去年のように一時的に更新が停滞するかもしれないです。
(現状はまだ何とも言えませんが…。ただとりあえずまずは、本格的に停滞する前にこの第8幕だけは終わらせて、第1章最終幕の予定である9幕の凝光編の導入部分までは行きたいです)



それでは第8幕の4話目。

前回の刻晴達の頭上に彼が飛翔してきたシーンからです。





_璃月艦隊!!出港しろっ!!

Side:刻晴

 

「私達の上を、飛んでいる…?」

 

刻晴はそう独り、呟く。

 

彼女の視線の先には顔等の細かい部分は見えないものの、はっきりと“黄金の翼”、そして“全体的に灰色の格好をしていたその男”の姿が、彼女の視界には映っていた。

 

「そうですね、刻晴さん。私達の真上を飛んでいます…」

 

甘雨は刻晴の言葉に同意するかのように頷きながらそう言う。彼女の瞳には刻晴と同じようにはっきりと“黄金の翼”、そして“全体的に灰色の格好をしていたその男”の姿が、甘雨のその瞳に映し出されていた。

 

「えぇ、そうね。甘雨…」

 

刻晴はまたそう呟く。

 

 

「_あ、おい。俺達の上に飛んできたぞ…」

「_ほ、本当だ…。し、信じられねぇ…」

「_本当にこれって、現実なのかよ…」

「_あんな風に飛び回る事ができるなんて…」

「_極めればあのような事まで出来るとは…」

 

その場の一般人達や庶民達、そうして大男達や職員達に兵士達はそれぞれ一斉に口々、そのような驚きと感嘆の声を上げる。

 

そう呟く彼らの視線の先は全て、自分達の真上を自由自在に飛び回らんと飛翔する“黄金、そして灰色の彼”であった。

 

 

「す、すげえ…」

「し、信じられねぇ…」

「これは現実、なのか…」

「か、彼はいったい…」

「何者なのだ、彼は…」

 

その場に居る彼らは、ただひたすらにそう呟きながら、上空で翼をはためかせている“彼”のその姿を眺めている。

 

「本当に凄いわね…。本当に、信じられないわ……」

「はい、本当にです。このような芸当が出来るとは…」

 

刻晴と甘雨もまた、彼らと同じように上空を自由自在に飛び回る彼の姿を見ながら、そう呟く。

 

 

 

「_よし!!来たぞ!!彼が俺達の方にやって来たぞ!!」

「_あぁ!!そうだな!!彼がやって来たという事は!?」

「_あぁ!!そうだ!!予定通り決行というわけだ!!」

「_お前らぁ!!錨を上げろぉ!!急げぇ!!出港用意!!」

「_璃月艦隊!!出港用意!!出港用意!!抜錨!!抜錨だぁ!!」

「_帆の展開準備も忘れるな!!絶対に彼の合図を見逃すなよ!!」

 

刹那、璃月港の船着き場や桟橋に停泊している船舶達から男達の野太い叫び声が聞こえてくる。

 

 

「っ!?い、いよいよなの!?ここの船達が出航するのは!!」

「いよいよ出航するのですか!?ここに停泊している艦隊が!!」

 

刻晴と甘雨は突如、聞こえてきたそんな男達の野太くも大きな叫び声に驚きながら、そう声を上げる。

 

 

「っ!!おいおい!!本当か!?遂にここを出るのか!!」

「いよいよ出航するのか!!この数の船が一斉にか!?」

「一斉出航という事か!?いくら何でも危なくはないのか!?」

「っ!!写真機!!写真を取れ!!こんなの滅多にないぞ!!」

「おい!!もっとそっちに寄れよ!!見れないだろうが!!」

 

ここの労働者である大男達や職員達に兵士達、そうしてここを偶然通りかかった一般人達や庶民達は皆、一斉にその事に対して口々、そのような驚愕と興奮の声を上げる。

 

 

 

「_っ!!ふんっ!!回せ!!回せ!!回せぇ!!」

「_よしっ!!錨が上がった!!そのまま固定しろ!!」

「_よし!!こっちのロープの収納は終わったぞ!!」

「_終わったなら、こっちの方も手伝ってくれ!!」

「_観測員!!絶対に彼の合図を見逃すなよ!!」

「_分かってる!!目は常に開きっぱなしだぞ!!」

 

そうして璃月港に停泊している船隊の各船から男達の野太い叫び声。

また各船からの様々な音が響き渡る。

 

それは船の走り回っているのであろう船着き場や桟橋から聞こえてくる鈍い金属の擦れる音。

木造の船の床を軋ませながら走る足音。

そして男達がそれぞれを指示を出してそれを受けたり、また仲間に報告して他の仲間から助けを借りたりしているのであろう、そんな声。

 

 

それらの音や声が轟いてくる。

 

 

「こ、これは…。本当に……」

 

そして甘雨はそんな彼ら、南十字船隊の各船や彼らの元に集った協力者達の船達に乗っている人の動きを見ながら、そう呟く。

 

「本当に…。ここまでの大勢の人達が……」

(こんな大勢の人間達が一つの目標の為に、ここまで纏まって…)

 

そうして刻晴も、どこか感動したかのような、そんな声を発しながら見惚れたかのように目の前の光景に夢中になる。

 

各船の各人員、船乗り達が、それぞれ積極的に動き回っており、そんな彼らからは尋常ではない熱意や、底の見えない程のやる気が感じられた。

 

 

「ほ、本当に凄い光景だな!!信じられねぇよ!!こんな光景を見る事が出来るなんて!!」

「おぉ!!も、もう大半以上の船は錨が上がったみたいだぞ…!!凄いな!!早いな!!」

「お、思った以上に早いな…!!ここに居る者達は全員手練れという事なのか…!?」

「くそっ!!もっと!!もっと良いアングルが!!もっといい構図で取れそうなのに!!」

「すげぇ、光景だぁ…!!っ!!くそっ!!前に割り込むなよ!!俺にも見させろよ!!」

 

そしてまたここに居る大男達や職員達に兵士達、一般人達や庶民達、そう口々感嘆の声を上げては、そのように興奮する。

 

 

「ふふっ、本当に凄いわね。そしてこの大勢の人間達を取り纏めているのが_」

(確か南十字武装船隊の船長、北斗。そしてそれに加えて___)

 

刻晴はそう呟くと、自分達の真上の方に視線を向ける。

 

 

 

「_“灰色の彼”、なのよね…」

 

刻晴の視線の先には、自分達の真上を飛行する“黄金の翼で飛翔している灰色の男”へと向けられていた。

 

 

北斗と彼。それぞれがここに集った彼らの旗印であり、そしてもしもどちらが欠けてしまっては、こうして目の前に広がる光景は生まれなかったはずだ。

 

であるからこそ、そんな彼に対して刻晴は敬意や憧れ、そうしてそんな彼を一目見てみたいという好奇心、といったようなものが籠もった視線を彼へと向けらていたのであった。

 

 

 

「_はい、そうですね。刻晴さん。この船隊の船長である彼女もそうですが、私達の頭上で飛翔する彼の存在もあったからこそ。こうしてこの璃月港に大勢の船乗り達が集まり、そうして南十字船隊達は、璃月艦隊として大々的に璃月港を出航する事になったのだと思います」

 

そうして刻晴のその言葉に同意するかのように、彼女の隣に立っていた甘雨は頷きながら刻晴にそう言う。

 

「えぇ、そうよね…」

 

刻晴は甘雨の言葉にそう相槌を打つ。

 

「…そう言えば今、彼らはどこまで進んでいるのかしら?」

(彼らの出港準備の進捗具合は……)

 

そうして刻晴の興味は、今行われている出航準備の状況へと向けられ、彼女はそのまま視線を彼らの方に向ける。

 

「そうですね、刻晴さん。どうなっているのでしょうか?彼らの出港準備の進行状況は…」

 

そして刻晴のその呟きに反応するかのように、甘雨もそう刻晴に言いながら彼女も刻晴と同じように、彼ら船乗り達や南十字武装船隊達もとい、璃月艦隊の各艦の様子を確認するようにそちらに意識を向ける。

 

 

 

 

「_錨の固定が完了したぞ!!これでいつでも行けるぞ!!出られるぞ!!」

「_ロープなどの補助固定具の収容も完了したぞ!!他に人手はいるか!?」

「_帆も大丈夫だ!!いつでも展開可能だ!!いつ合図が来ても問題は無い!!」

「_(かい)衆の奴らも配置についた!!それに推進補助機も問題はないぞ!!」

「_よし!!どうやら他の船の奴らも問題は無いようだ!!いつでも出港可能!!」

「_もう艦隊の半数以上は出港準備完了のようだぞな!!後は彼の合図次第だ!!」

「_了解だ!!おい!!見張り!!彼はどうだ!?合図はあったか!?」

「_今の所、彼からの合図は無しだ!!だが、そっちこそ気を抜くなよ!!」

 

彼女達の視線の先には相変わらず騒がしく、そして活気的に船上で作業に勤しんでいる者達の様子が、刻晴と甘雨の視界には映っていた。

 

 

それぞれのロープ等を船内に運び終え、辺りの様子を見まわす者達。

引き上げて固定した錨の固定具合を確認する者達。

また船のマストの上等に立って、何やら監視でもするかのように空を見上げる者達。

そしてそのその者に向かって声を掛けて状況を確認する者達。

そうして旗を振る事で、手旗信号を通じて璃月艦隊各艦とのやり取りする者達。

そしてまた、そのやりとりの結果を即座に共有する者達。

 

そう言った多種多様な役割を持つそれぞれのその者達が、刻晴と甘雨の彼女達の視界の中では忙しなく動き回っていた。

 

「凄いわ。もう半数以上が出航できる状態だったのね。こんな短時間で、この大きな船を…」

「そうですね、刻晴さん。彼らは熟練の者達、本当に選りすぐりの人達ばかりなのですね…」

 

刻晴と甘雨はそんな彼らの姿を視界に収めながら、そのように感嘆の言葉を漏らす。

 

「えぇ、そうね甘雨…。後は_」

(_“彼からの合図”。それが来たら、彼らは一斉に出港するのよね……)

 

刻晴は甘雨にそう相槌を打つと、そのように心の中で呟く。

そして彼女は、そのまま頭上で飛び回っている“彼”に視線を向ける。

 

「………」

 

刻晴はただ無言で、璃月港の桟橋や船着き場上空で旋回し続けている彼の姿を見つめる。

ただただ、彼女の瞳の中には“彼”の姿が映し出されていた。

 

「…刻晴さん?あぁ…」

 

そうしてまた刻晴が無言で空を見上げていた事に気づいた甘雨は、不思議そうな表情を浮かべながら刻晴と同じように空を見上げると刻晴が何をしていたのかが分かり、そしてそう声を漏らしながら彼女も、刻晴と同じように自分達の上空を飛翔する彼の姿に目を奪われる。

 

_そして、その時であった。

 

 

「あっ…!!」

「これは…!!」

 

刻晴と甘雨の視界の先、その上空に停滞し続けていた“彼”に大きな動きがあった。

 

 

 

「_甘雨!!また彼の手が光っているわよ!!きっと何かを伝えようとしているんだわ!!」

「_発光信号です!!刻晴さん!!はい!!彼は彼らに何かを伝えようとしているようです!!」

 

刻晴と甘雨はそれぞれ興奮した様子を見せながら、そう声を上げる。

 

 

彼女達の視線の先にある“彼”は、先ほど艦隊旗艦と思われる死兆星号上空で旋回していた時に起きていた現象。

 

“彼”の手から白い光が点滅するように光る現象が、今再び起きていたのである。

 

 

「あっ!?おい!!また彼の腕、彼の手がまた白く輝き始めたぞ!!」

「彼の手が輝いているぞ!!何かを伝えようとしているみたいだぞ!!」

「なにっ!?ほ、本当だ!!こ、これが…!?彼らの言う……!!」

「これが合図という事なのか!?そ、それじゃあ、いよいよ…!!」

「あぁ!!遂にここにいる南十字船隊達、璃月艦隊が出航するんだ…!!」

 

そして刻晴と甘雨以外にも彼の事を見上げていた者達がいたのか、彼の手が光り始めた事に気づいた彼らは刻晴達と同じく興奮してそう騒ぐと、その声を聞いた一般人達や庶民達、そしてまた労働者の大男達や総務司等を始めとする職員達に千岩軍の兵士達は、皆一様に期待と興奮、そして楽しみに胸を膨らませていた。

 

 

 

「_来たぞ!!だが、あれは発光信号だぞ!?おい!!何かが、あったという事なのか!?」

「_事前の話と違うぞ!?俺達に聞かされた合図じゃない!!あれは!!どういう事だ!!」

「_何かあったという事なんだろう!!いったい、何が…。おい!!解読はどうなっている!?」

「_今やってる!!話しかけてくるな!!発光信号の解読は大変なんだから集中させてくれ!!」

 

そうして璃月艦隊の各船からも一斉にそのような声が上がり始める。

だがしかし、彼らにとっては想定外であったのか。少し混乱している様子を見せていた。

 

「えっと…。これは…。何か彼らに対し、不測の事態が起きたという事なのでしょうか……?」

 

そしてそんな彼らの様子を見ていた甘雨は、困惑したかのような表情のまま、刻晴に向かってそのように尋ねてくる。

 

「そうね…。まだ何とも言えないわね。何かが起きているのは、間違いないのだけれど……」

(うん。でもねぇ…)

 

刻晴はそう言いながら、彼らの様子を改めて観察する。

 

だがやはり、どの船の船乗り達は混乱しているようで、特に何かが分かった、もしくは何か進展や急変があったような様子は見られなかった。

 

「やはり、彼の発光信号の解読が終わるまでは、何も言えないんじゃないかしら?ねぇ、甘雨?」

 

「そうですね。刻晴さん。彼らに送りました彼のそれが分かるまでは、何も言えないと思います」

 

刻晴と甘雨はそう言葉を交わす。

 

 

そして彼女達は改めて、彼らの船達を見渡す。

 

 

「_そうね…」

(_あの船にしましょうか…)

 

そうして刻晴は、その内の自分達に近い位置に停泊していた一隻に目星をつけ、その船から聞こえてくる声や会話を聞き逃さないように意識を集中させる。

 

 

「_そうですね…」

 

そしてまた、甘雨も甘雨で刻晴と同じように、甘雨達に近い位置で止まっているその船の船員達の声や会話を聞き洩らさないように意識を集中させていた。

 

 

「_な、なんだ…!?どういうことなんだ!!あの男のあれは合図じゃないのか!?」

「_あれはどうやら合図ではないみたいだぞ!!そ、それじゃあ、いったい…!!」

「_どうやら彼らにとって予想外の事があったみたいだぞ!!何があったんだ!?」

「_そんなの分かるわけないだろ!!おい!!誰か、彼が何言っているのか分かるか!?」

「_それこそ分かるわけがないだろ!!お前はいったい、何を言ってるんだ!?」

 

そうして刻晴と甘雨が目を付けた一隻に意識を向けていた最中、彼女達の周りに居た彼ら一般人達や庶民達、そして大男達や職員達に兵士達がそれぞれの立場や役職を越えて、それぞれが思い思いに口を開き、今彼らが見ている艦隊の船乗り達や、見上げている彼に関してそのような声を上げる。

 

「「………」」

 

そしてそのような最中、刻晴と甘雨は周囲のその声達に意を介さず、ただじっとその船の船員達の会話を聞く事に集中し続ける。

 

 

_そうして、そう時間が経たない内であった。

 

 

 

「___っ!?そう言う事か!?」

 

その時、マストの上で空を見上げながら彼の発光信号を解読していた者が、彼の発光信号の解読作業を終えたのか、その者は驚きを以ってそう叫ぶ。

 

 

「_っ!?終わったようね!!甘雨!!」

「_っぅ!?そうですね!!刻晴さん!!」

 

そして刻晴と甘雨はその声を聞き逃さなかったのか、その声が彼女達の耳に入ると、刻晴と甘雨は同時にそう反応して彼らが繰り広げるであろう次の会話に耳を傾ける。

 

 

 

「___おい!!操舵手!!それに帆を担当する者達!!全員、注意しろ!!彼曰く!!もう少ししたらかなり強い陸風が天衡山から璃月港の港湾にかけて、吹き下ろす事になるみたいだぞ!!」

 

「_なんだと!?陸風だって!?」

「_かなり強い陸風がやってくるだと!?」

「_出港時にここを吹き抜けるという事か!?」

「_本当か!?そう言う事だったのか!?」

 

マストの上に立っていた者は船上に居るそれぞれの者達に向かって、そう叫んでその男が発した発光信号の内容を伝える。

 

そして彼のそんな言葉を聞いていた者達は皆、驚愕の声を発する。

 

「これから陸風がやってくるですって!?」

「天衡山から吹き抜けてくるんですか!?」

 

そうして彼らの声や話に意識を集中させていた刻晴と甘雨は、そのような言葉を聞いて璃月艦隊の船乗り達と同じように驚愕の声を上げる。

 

 

 

「_航海士!!今の情報に基づき、出港時の艦隊運動計画に陸風の影響を反映させるんだ!!」

「_操舵手!!出港時の陸風による操舵ミス、また他の船との衝突の危険性に注意しろ!!」

「_出港は予定通りだ!!だが急発進、急速航行する事になるから、全員注意しろよ!!」

「_帆は風を全面で受けないように調整しろ!!一瞬たりとも船の制御を失わないしろよ!!」

「_あぁ、分かった!!任せろ!!おい!!お前ら!!行くぞ!!気を引き締めろよ!!」

「_分かってる!!そっちこそもな!!お前達こそ、気を抜くんじゃねぇぞ!!」

「_ははっ!!強風だって!?まるで俺達の出港を盛大に祝福してくれているみたいだな!!」

「_浮かれるんじゃねぇぞ!!でもまぁ確かに、そうかもしれないよな!!やってやろうぜ!!」

 

そして刻晴と甘雨が目を付けていたその船の乗組員達や、またほぼ同じタイミングで彼の発光信号の解読を終えた他の船達からも同様に、そんな彼らの会話があちらこちらから飛び交い始める。

 

 

「_こ、これから陸風が璃月港に、ここにやってくるだと!?」

「_さっきのあの男の光は、それを彼らに伝えるためだったのか!?」

「_あの男はそれが分かったから、あの光を出したという事なのか!?」

「_いや待て!!そんな事、あの男はどうやってその事を知ったんだ!?」

「_そんなの知るか!!だが、どう考えても只者じゃない事だけは確かだ!!」

 

そうして彼ら、この場に居る一般人達や庶民達、大男達や職員達に兵士達はそれぞれその光の信号を発した彼、自分達の頭上を飛翔している彼の事を口々にそう言い合いながら、空を見上げる。

 

「はい、本当に凄いですね、彼は…」

 

そしてそんな刻晴の言葉を受け継ぐように、甘雨もそう呟く。

 

「………っ」

(さっきよりかは、だいぶ近くで飛んでいるけど。まぁ…)

 

刻晴は目を細めながら、遥か上空で飛翔する彼を観察するように見つめる。

 

だが、やはり距離がある事や風が強いのか。刻晴は目を細めても、あまり彼の姿がハッキリと確認出来ない事に少し不満そうに口をつぐむ。

 

 

彼女の視界の先に居る彼の姿というのは、ただ本当に灰色の服、そして背中から見える黄金の翼にしか見えない。

 

「…っ。本当に良く見えないわね…。唯一、_」

(_腰に何かをぶら下げているといった所かしら?もっと近くで飛んでくれたらいいのに…)

 

そしてそんな刻晴は諦めずに、よく目を凝らして彼の姿を捉える。

 

彼女の瞳に映る彼の姿は先ほどよりも多少は鮮明になっていたが、それでも彼の腰の部分に何かがあるといったような、その程度の事しか彼女には分からなかった。

 

 

「っ。本当に良く見えませんね…」

 

そうして刻晴の隣に立つ甘雨も、彼女と同じように甘雨の視界に映る彼の姿を凝視するが、やはり彼女も刻晴と同じく甘雨も良く見えないといった様子で、悲し気に表情を曇らせる。

 

「うん。そうね、甘雨…」

 

そんな甘雨の呟きに対して、刻晴はそう相槌を打つ。

 

 

「_っ!?」

 

だが、その時であった。

 

「えっ…!?」

(今の動きは…!?それに今の彼は何かを手にしているような……!!)

 

刻晴は目を見開き、驚いた様子を見せながらそう呟く。

 

彼女の視線の先にいた大空を飛翔していた彼は、バランス等を取る為に伸ばしていた腕を突然、片腕はどこかからか何かを掴むような動作、もう片腕は腰にぶらさげていた片方の何かを手に掴むような動作を取ったのである。

 

 

「っ!?今の動き!!何かを手にしたんですか!?刻晴さん!!見ましたか!?」

 

そうして刻晴の隣で同じように目を細めながら彼の姿を観察していた甘雨は、刻晴と同じように彼の取った動作を目視で確認し、そしてそう声を上げる。

 

「えぇ!!甘雨!!見たわ!!間違いないわ!!今の彼は何かを手にしているわ!!」

 

「そうですよね!!刻晴さん!!彼、あの人は何かをしようとしています!!」

 

刻晴と甘雨の目の前で、先ほどの彼の動作を目視した彼女達はそれぞれそう興奮しながら、会話を交わす。

 

 

これから何をしようとしているのか。それは刻晴と甘雨には、分からない。

 

だがしかし、これから行おうとしているのは彼女達にも予想が付かないような、何か大きな事。

 

 

彼女達の予想を遥かに超えるような事を、これから彼が行おうとしていると。

そう彼女達は直感する。

 

 

 

 

_そうして、そんな予感が彼女達の脳裏によぎった瞬間。

 

「_あぁっ!?」

「_わぁっ!?」

 

刻晴と甘雨は空を見上げながら、驚愕の声を上げる。

 

 

「_おぉっ!?あれは!!あの動きは!!」

「_孤雲閣で俺達に見せた旋回だぞ!!」

「_本当に凄い動きだ!!あんな急旋回…!!」

「_どうして彼はあんなことが出来るんだ…!!」

「_あの者は…!!彼はいったい……!!」

 

そしてこの場の一般人達や庶民達、大男達や職員達に兵士達もまた、それぞれがそう言い合いながら驚愕の声を上げていく。

 

彼女達や彼らの目の前で、彼は孤雲閣上空で彼女達に見せた急激な急旋回をやってのけてみせたのだ。

 

 

そうしてそれと同時に彼ら璃月港の通行人達や民衆達は“とある事を同時に行ったその事”以前に、彼が何かを手にした事に気づていなかったためにその事に対し気づかなかった。

 

だが彼の動きを注視し続けていた刻晴と甘雨達は彼のその、“とある事を同時に行ったその事”を見逃さなかった。

 

 

 

「_えっ!?彼って今、何かを投げたの!?」

「_あれは…!?いったい、あれは……!?」

 

刻晴と甘雨の二人は急旋回を行った彼から離れるように宙を舞う“何か”。

彼女達は確かに、“うっすらと太陽の光を反射している小さな何か”を遠目で目視する。

 

 

_そしてその直後の事であった。

 

 

 

「_あっ!?」

(何かを構えた…!?)

 

刻晴は目を見開かせながら、空を見上げる。

 

刻晴の視線の先で捉えたものというのは、急旋回をしていた彼が今度は彼が自身の身体を翻して反転しながら急降下を行い、そうしてそのまま彼の姿勢が上下左右が逆さまになっていきながら、彼の片腕が投げられた“何か”に向かって伸び、伸ばされていった瞬間であった。

 

 

「_っぅ!?」

 

そうして甘雨も甘雨で、彼が刻晴に見せた空中機動と彼がまるで何かを構えたかのような動作の前に、彼女も刻晴と同じようにその目を大きく見開かせながら、驚きの表情を浮かべた。

 

 

_そしてその次の瞬間。

 

 

 

「_っ!?」

「_っぅ!?」

 

 

 

刹那、璃月港の港中に響き渡る爆発音。

 

 

甲高い破裂音と衝撃音、そして閃光とその衝撃波が広がっていき、そうしてその唐突な出来事に刻晴と甘雨はそれぞれ驚愕の声を上げる。

 

 

 

 

「_い、今のは!?何かが爆発した!?爆発したの!?ねぇ!!ねぇ!!甘雨!!」

「_はい!!刻晴さん!!先ほど投げられたあれ、あれが爆発したように思えます!!」

 

彼女達はそう言葉を交わしながら爆発音や閃光が広がった、その空の一角へと視線を向ける。

 

 

「_ば、爆発しただと!?い、いったい!?何が起きたんだ!?」

「_な、何が起きたんだよ!?どうしていきなり爆発したんだ!?」

「_分からん!!だが、彼が何かをしたのは間違いないだろう!!」

「_いったい、彼は何をしたんだ!?なんで爆発を起こせたんだ!?」

「_っぅ…!?か、彼は俺達と同じ人間ではないという事なのか!?」

 

そして彼が引き起こしたその爆発により、その場に居合わせていた一般人や庶民達、大男達や職員達や兵士達も驚愕の声を上げながら、彼らもまたその空の一角へと視線を向ける。

 

 

 

「_っぅ!!」

(ま、待って…!!)

 

そしてその時、刻晴は先程の爆発の閃光より、とある事に気付く。

 

「ねぇ、甘雨!!あの爆発って…!!」

 

そして彼女は隣にいる甘雨の方を見ながら、そう声を上げる。

 

「はい!!刻晴さん!!間違いありません!!あれは_」

 

甘雨は刻晴にそこまで言うと、そのまま声を大きくして、刻晴に言う。

 

 

「_あの爆発は“過負荷反応”による爆発です!!間違いありません!!」

 

「_そうよね!!あの“赤紫の閃光”!!あれは元素反応による爆発よね!?」

 

甘雨と刻晴は互いに顔を見合わせ、そう言葉を交わす。

 

 

「はい!!そうです!!あれは間違いなく、過負荷反応でした!!」

 

「そうよね!!そうよね!!甘雨!!あの男のあれは!!となると…!!」

 

甘雨は興奮しながら刻晴の言葉に同意するように頷きながらそう言い、刻晴も興奮した様子を隠さずに改めて自分達の上空を飛び回るその男の姿を、目で追いながら視線を鋭くさせる。

 

 

「_過負荷反応という事は、炎元素と雷元素という事よね…?」

(それぞれの元素をそれぞれ衝突させたり等する事で、その元素反応を引き出した事になるわ…)

 

刻晴は先程までの彼が見せていたそれら動きを思い出しながら、そう考えていく。

 

 

 

「…甘雨。少なくとも、先ほど彼が行った“小さな何かへの狙撃”。あれがきっかけで、さっきのその爆発が起きたという事で、間違いはないわよね?」

 

「そうですね、刻晴さん。先ほどの“小さな何かを射抜いたという出来事”。あれが彼の爆発という現象、炎元素と雷元素の元素反応による過負荷反応の爆発現象を引き起こしたと見て、間違いないと思われます。おそらく、そうだと思います」

 

そして彼が引き起こした現象の仮説を導き出した刻晴は、隣の甘雨にそう確認を取るように声を掛ける。それに対して彼女もまた確信めいた表情で答え、刻晴はそれに頷く。

 

 

 

先程の“彼の姿勢が上下左右が逆さまになっていきながら、彼の片腕が投げられた“何か”に向かって伸び、伸ばされていった瞬間”のそれ。

 

それは“彼が上下左右が逆さまになった状態を姿勢制御しながら、狙撃態勢に入っていた瞬間”であった。

 

 

 

 

「…っ。炎元素と雷元素…」

(“彼が空中に投げた小さな何か”と“放たれた何か”。どちらかが炎元素でもう片方が雷元素という事かしら。あるいは…)

 

刻晴は先程目の前で起きた現象を自分なりに分析しながら、そう答える。

 

“小さな何か”と“放たれた何か”。

 

 

それらにそれらの元素を纏わせたり、あるいはそれらに元素液として格納して衝突させることで爆発を引き起こしたという事なのか。

 

あるいは放たれた何かというのは純粋に矢や弾丸であり、小さな何かの方にはそれぞれ触れていない状態や活性化されていない状態で炎元素と雷元素が収納され、その小さな何かが放たれた何かによって、小さな何かと放たれた何かが衝突し合った時にその二つの元素による元素反応が引き起こされたという事か。

 

 

 

 

「_分からないわね…」

(どちらも十分に可能性があるわ…)

 

刻晴は難しそうな表情で、そう考える。

考えれば考える程、どちらの可能性もあり得そうな話であり、またそれと同時に何かを見落としてはいないのかと、刻晴は思考を巡らせながら頭を悩ませる。

 

 

「_うーん。あの現象の正体というのは、いったい…」

 

そうして頭を悩ませていた刻晴の隣でまた、甘雨も刻晴と同じように頭を悩ませながら、そう呟く。

 

 

彼女も彼女で刻晴と同じようにそれら可能性やまだ気づいていないありとあらゆる可能性について思考を巡らせ、考察をしているようだった。

 

 

「_まぁ、分からないわね…」

(少なくとも、今の時点だとどのような方法で彼があの現象を引き起こせたのかは、私達には分からないわね…)

 

そうして刻晴は少し残念そうな表情を浮かべながら、改めて彼の方に視線を向けようと顔を動かす。

 

 

 

 

 

そしてその時、同時に“とある声”が辺り一帯に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___璃月艦隊!!出港しろっ!!

 

 

 

 

 

 

 

刹那、響き渡るとある男の一声。

 

彼のその号令は、南十字船隊達もとい、璃月艦隊全体へと響き渡ったのであった。

 

 

 




次回、いよいよ璃月艦隊が出港。

そして時間が一気に飛んでいき、第1章開始時点にまで進んで行きたいと思います。


それでは次回の投稿まで、気長にお待ちください。
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