「何か変なんだ、アイツら」
「なにか……って、何が?」
私は、ミレニアム最強の名を欲しいままにしている、目の前のメイド……美甘ネルに問い掛けた。ミレニアムに侵入してきた温泉開発部の一部を叩き返したばかりのミレニアム最強は、私の目の前にポケットから取り出したそれを置く。
「これ……ミレニアムで最近うちの子がエンジニア部と協力して作ってる手榴弾じゃない! 試作品だって報告は受けてるけど……これがどうしたのかしら」
「アイツらの使う手榴弾の威力がな、妙に高いんだ」
ネル先輩は、机の上に置いた手榴弾をコンコンとして見せながら言う。
「……それは、どのくらいなの?」
「クソッタレなことに、今使ってる『コレ』以上ときた」
天を仰ぐ。横にいる親友は、驚いたように目を見開いていた。私の親友……生塩ノア。遍く目に焼き付けたものを完全記憶する能力を持つノアは、その試作品の爆発の威力をありありと今も思い出すことが出来る。それ故に、それ以上と定義される爆弾の威力を思えば、驚くのも無理はないのだろう。
「ネルさん。それは……ただ1発で、ビルにヒビを入れるくらい、と考えても?」
「いや……ぶっといコンクリートと特殊加工で出来た防爆式の柱を2発でへし折るレベルだ。ケタ違いだよ、アレは」
「それは……調べる必要が、あるんじゃないでしょうか。ねぇ、ユウカちゃん」
少し考える。
私たちミレニアムの、最新品となるものを超えるスペック。そんな爆弾の出処は、果たしてどこなのか。それを特定することは、恐らく公的にもミレニアムとしても得を産むはずだ。あるいは、こちらで捕捉することが出来たのなら技術と引き換えに匿っても悪くない……まあもちろん、当人の人間性にもよるだろうけど。
とまで考えてから、私はネルの率いるメイド集団……C&Cに正式に依頼を出すことにした。
「……分かったわ。C&Cに正式に依頼を出させてもらう……それとエンジニア部、そして……あの子にも協力をお願いするわ」
「あの子……『コレ』の発案者か?」
軽く手榴弾を手にして、投げて、キャッチを繰り返しているネル先輩が、コレと言いながら手榴弾を見せてくるのに頷いてみせる。
「技術検証の側面からの協力者は多いに越したことはないと思う……だから、あの子……レモンに協力を求めるわ。ネル先輩たち、C&Cも協力して事に当たって欲しいの」
「了解だ……任せておけ。挨拶はまた次の機会でいいな?」
そう言って踵を返そうとしたネル先輩の目線の先、ドアが開く。
「おぁようございましゅっ……ふぁぁぁ……」
黒髪ロングストレートヘア、だらしなくよれたベスト。揺れる胸はその場の誰よりも大きく、インパクトがあるが今の彼女は猫背のためにあまりイメージに残らない。
その場で大欠伸をしながら、彼女はたまたま偶然そこに現れていた。
「「レモンちゃん!?」」
「んぇ……ぁ? ぉー……すいません美甘先輩。これはとんだ無礼を……おはようございます、瀬山です」
「今更取り繕ってもさすがにもう遅ェ……だがいいタイミングだなレモン」
ミレニアムサイエンススクール2年生。私たちの同期にして、その特異な研究の道中に見せた才能で新素材開発部からセミナーへと引き抜きを受けた……『瀬山レモン』。
話題に上がった彼女は、そこに立っていた。
少し話をして協力を求めると、レモンは笑ってその話を引き受けてくれた。
「なるほど、爆弾の威力が異様に高くなっている、と。で、私も協力してその爆弾を分解とかしてどうにか威力の高い理由を探る、と! 面白いですねぇ、協力させてもらいます。是が非でも、私を超える天才さんのアイデアは解析しませんと、えぇ」
「ほどほどに、ですよ。レモンちゃん」
「ん……まあ、頑張ります。ひとまずは……現品を確保したらまた連絡をください。私はエンジニア部に話をつけて検討会くらいしか今はできませんので……お願いしますね」
レモンちゃんはそう言って、180cmに近いその大柄な身体をネルの前で屈ませてその手を取って握り締めた。
「……任せろ」
若干のコンプレックスにネル先輩の頬が引き攣っているような、そんな気がした。
突然開け放たれる、我らエンジニア部の部室の扉。扉を開き、やぁやぁ! と声を張り上げる彼女の方に私は視線を向けて、少し驚く。思ったより早かったな、と思いながら挨拶に耳を傾ける。
「こんにちは失礼します、ウタハせんぱーい!」
「おお、レモンじゃないか! 話は先に書面で届いていたのを読ませてもらったよ、大変なことになっているそうじゃないか!」
「そうです、そうなのです。ちょーっと面倒事でして。……どうも、私を超える爆発物作りの天才がいるようなのですよ。それはー……私としてはいいことですけど、ミレニアムや、ひいてはキヴォトス全体からすると困り事ですよね」
彼女……レモンは笑いを真顔に変えてそう言った。私も頷いてみせる。
レモンの研究テーマは『爆薬、及び爆弾等に使用可能な新素材の開発』であり、エンジニア部の実験施設を借りての爆破研究も多い。故にこそ、私とレモンは仲が良かった。
技術者としては、異なる優れた技術には賞賛称揚、万雷の喝采をもってして歓迎をすべきだが、それはそれとして悪用されているとなれば話は別。
その技術を確かめ、超え、遥かに良いものを作り出し、悪用されないように鍵をする。それもまた、一興……いや、使命のひとつだろう。
「なかなかどうして困り事だ。爆弾の火力の増強……噂によれば、2発でミレニアムの幹線道路の柱をへし折ったとか。アレは我々も携わった防爆柱……ありえないことだと思っているが」
「どうも事実みたいです……私も、信じたくはないんですけれど……」
「とりあえず今は仮になにか案を出すしかない、か?」
「そうですね。しかし……その人……仮に『作者』としますが、『作者』の技術を利用するためには、まず『作者』の理論を知らなくてはなりませんから……難しいです」
レモンと私は机にだらしなくも真剣に肘をついて、考える。
「爆破の威力が高い……ということは、純粋な火薬量?」
「ううん……そうじゃない気がするね。質、かな?」
「
ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン、通称HNIW。キヴォトスではつい最近実用化された超強力な爆薬であった。
「アレを実用化するのは少々危険な気がしていたから私はちょっと反対寄りだったんだがね」
「しかし……カイザーグループがHNIWを利用した爆弾を作っていたのをこっそり回収したんですが手榴弾に仕込める量のHNIWではそこまでの威力はなかったような……」
「そう、か……うぅん、理論上存在しえるとされる爆薬、というものも存在はするんだ。だが……生成法が不明すぎる。とりあえず、そこにも焦点を当てつつかな……」
ここでレモンはひとつ、手を打った。
「一応、理論上の話になりますが……電子励起爆薬……?」
私もひとつ手を打つ。それがあったか。私は爆薬に関しては専門外だ……しかし、その理論に関しては聞いたことがある。確か……カイザーのライバル企業が理論だけは公表していた理論だったか。
「あのグループから出していた理論の爆薬だったか。しかし、眉唾物だと私は思っていたのだが……」
「そうですね。励起したヘリウムが準安定化する……という部分からそもそも怪しい気がします。しかし理論が成立するなら……有り得ますよ。とんでもない火力。えぇ」
その言葉に頷いて、私はひとまずの結論を導くことにした。
「とりあえず……モノを見ないと机上の空論に過ぎないということが分かったね……」
「……ですね! ひとまずは待ち、ですか……」
全ての可能性として起こりえないモノを除外して、最後に残ったもの。それは、如何に奇妙なことであっても真実である。
その信念に今1度立ち返るべきだろう。そう私は思いながら、立ち上がり暇を告げるレモンを見送った。
小さな気付きから始まり、世界を巻き込む大輪の爆華が咲く、そのキッカケはこのようにして始まったのだと、後にセミナー書記生塩ノアのノートと、白石ウタハの爆薬技術検証帳には記されていた。
新連載をさせていただきます。ふぃーあです。
仕事の息抜きですので更新頻度は不定期になってしまいますが……これからもご愛顧の程をよろしくお願いします。
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