発破温度:218°C   作:ふぃーあ

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3rd Day 《Teacher》

「はい、こんにちは」

 

 私はその声に、顔を上げた。聞いた事のない声だった。

 

「君が……」

「お初にお目にかかります、シャーレの先生」

 

 どこか甘やかなノアの声や、芯のある透き通ったユウカの声とは違う、明確に『作り上げられた』声に、私は少し驚いた。

 

「セミナー所属、ミレニアムサイエンススクール2年生」

 

 ノアと対比できるだろう美しい黒髪をその大きな背の膝裏まで届くくらい伸ばした彼女は、その背を真っ直ぐ伸ばして私に作り上げた笑顔を見せた。

 

「瀬山レモンです。今日は訪問の許可をいただき、ありがとうございます」

「ユウカやノアから君の話は聞いてるよ。ユウカやノアがこちらに来れるのも君の協力あってのことだと」

「一応、これでもミレニアム最高の書類処理能力を自負していますので……調月会長が居なくなられたので自負できている、というだけなのですが」

 

 リオが居なければ最も私が仕事が速い、と逆説的にそう言い切るレモンに、私は微笑んだ。

 

「ま、とにかく掛けてくれるかな。今飲み物を用意しよう……なにがいい?」

「手土産にケーキを用意しています。合う飲み物をお持ちいただければと」

「じゃあコーヒーかな。砂糖とかは?」

「んん……砂糖を2杯、ミルクはこちらで携帯していますので結構です」

 

 いそいそと彼女の手土産とコーヒーを丸い机上に並べ、既に切り分けられていたケーキを食べながらひとまずは話そう、とそういうことにした。

 

「ん、美味しいですね……さすがはC&C、甘味もなかなか」

「待ってこれC&Cの子に作らせたの?」

「ん? えぇ……昨日の夜、手土産になにか甘いものを持っていきたい、と言ったらアカネさんが焼いてくれました。美味しいですよね」

「やっぱメイドだから料理が上手なんだ……」

「アスナさんとかすごいですけど……ま、ネルさんが1番ですかね。流石に……トチ狂った武装集団なのに家庭的なんですよC&C、それが一番怖いですある意味」

 

 家庭的なメイドとしても一定以上の質で活動可能なC&Cという集団の恐ろしさ(というには優れている面なのであたらないかもしれない)を再度認識したところで。

 

「じゃ、聞こうか? 私を訪ねてきた理由をね」

「えぇ……っと。じゃあまぁ、そこの忍者さん話に入れちゃいましょうか」

「こんっ!?」

 

 驚き声に、私は軽く頭痛を抑えるように眉をつまんだ。今日の当番は確か……

 

「イズナ、居るんだろう?」

「はい! イズナ、主殿のおそばでお控えしておりました!」

「いやぁ、当てずっぽうに言ったんですけどマジでいるとは思いませんでした。言ってみるもんですねぇ」

「「えっ」」

「忍者も比喩表現だったんですけど。盗聴とか、そういうの。マジでいるんですか忍者? 驚きとかそういう次元じゃないです」

 

 レモンがあはは、と笑ってみせる。完全に盗聴者へのカマかけ、ゆさぶり以上のものではなかったソレに、イズナは釣られていた。そして私も。

 

「さて。そちらの忍者さんはまあ見た目的に百鬼夜行あたりの方だと思いますのでご傾聴を。先生は質問等ございましたら何時でもどうぞ。ではひとつ……」

 

 そうして、時折彼女がコーヒーを飲みながら話す。

 

 温泉開発部の爆弾の威力が極めて高くなったこと。美食研究会も同じ威力のグレネードを保有していたこと。美食研究会のグレネードの仕入先はブラックマーケットであったこと。そして、ブラックマーケットの品ならこれから『裏』では多く流通する革命的一般品になるだろうこと。

 

「だから、世界に波及する前に先生にはお知らせしなくてはならなかったんです。この爆弾は世界を変える……スケバン共がコレを握りしめれば慣れるまでの間爆風の回避にすら手間取ります」

「……直撃すれば?」

「特別頑強、とかじゃない限りですが……日常生活が怪しくなる程度の威力と言って良いでしょう。先生が直撃すれば肉片になること間違いなし、とかそういうブツです」

 

 イズナはそれを聞いて、考え込むような仕草を見せていた。私もまた、少し考える。これは、シャーレ全体として動くべき案件だ。だが、ブラックマーケットという危険地帯に生徒たちを巻き込む訳にはいかない。しかし、私の命を一撃で微塵としてしまう爆弾が量産されているというのなら、私ひとりでもなかなか何かは出来なかろう。

 

「……シャーレとしては、それは問題だと思う。私としても、生徒には傷ついて欲しくはない。ただ……諸般を考えたとき、シャーレでは動きがとり辛い……情けないが、なにをすればいいとかあるかな」

「ん……? あぁいえ、なにもしなくていいんです。えぇ。ただ、最近爆弾がヤバいので気をつけてくれ、と各校に情報を回していただきたいんですよ。それだけです」

「それだけでいいのかい?」

 

 レモンは軽く頷いた。コーヒーの最後の1滴を名残惜しげに見やりながら、ソーサーごと机の上に戻してから、口を開く。

 

「本件はミレニアムとゲヘナ、そして……これからトリニティにも協力を要請し、3校体制でブラックマーケットへ圧力をかける形にします」

「どうしてトリニティに?」

「政治的側面です。我々ミレニアム、そしてゲヘナ、トリニティは三大校と呼ばれています。うち2つが手を組む、というのには、政治的な意味が大いに付きまとうので……それが裏で交わされた密約であったとしてもです。トリニティを仲間外れになどしたら、多分後々とんでもない抗議文が送られてきますよ」

 

 レモンは頭が痛そうにそう呟いた。あそことは協力したくないんですけどね、と続けて笑う。

 

「なんで協力したくないなんて……」

「ブラックマーケットは裏社会ですが、表の権力者とも大いに繋がってます。そしてトリニティは表の権力者の令嬢とか、そういうところの集まりなので……言ってしまえば、あそこがあるからブラックマーケットが3校体制では取り締まれない、とかそういうもんなんですよ実質」

 

 私はその言葉を聞いて、どうしようもないものはあるものだと考えていた。いいところのお嬢様の集いであるトリニティは、即ち表の権力が裏で渦巻く陰湿な場であるとは愚痴のように正義実現委員会の生徒たちがこぼす言葉である。ここまで根深く、強靭に張り詰めた根が、こうも邪魔をするとはと思っていた。

 

「……まあでも今トリニティと事を構えるのは愚策ですから、やらざるを得ないんです。はぁ……」

「その……私がやろうか?」

「なにをですか?」

「交渉。密約は私が発起人ということにしてしまおうか」

 

 レモンはその言葉を聞いて、だんっと立ち上がった。

 

「よろしいのですか!?」

「あ、あぁうん。もちろん。君がそこまで大変だと思っているなら手伝えることはなんでもやるさ」

「えぇ、えぇ、発起人に先生の名前を借りられるならある程度融通が利きます! その方向で詰めましょうか!!」

「うん、分かったよ」

 

 熱量の塊たるレモンが近くにいて、ふとやけにイズナが静かだと思った。そこで軽く隣を見ると真剣な顔で真っ直ぐにレモンの顔を射抜く視線をイズナは送っていた。

 

 イズナがこちらの目線に気付いて、ふっと表情を緩めるが、しかしレモンに向ける険しい目線は最後まで崩れることは無かった。

 

「明日、ミレニアムで鹵獲品の研究を行います。先生も是非お越しください……ダメそうならリモートでやりますので。ゲヘナの風紀委員の方をお呼びしてます」

「分かった、必ず行くね」

 

 そんなやり取りで終結したレモンのシャーレ初訪問。レモンが立ち去ったあと、イズナがこちらに向いて1度も開かなかった口を開く。

 

「主殿。……あの人は、信用しちゃダメです。瀬山レモン……あの人は、きっと……」

 

 イズナの言葉を今でも覚えている。

 

「今日だけじゃなくて、ずっと……最初から最後まで、何かひとつ、とーっても大きな嘘をつき通しています」

「それにだって、寄り添うのが私の仕事だよ、イズナ」

 

 私は、その言葉にそう声をかけてから、イズナの頭を撫でて書類仕事に戻った。

 

 

 

 かくして、瀬山レモンはシャーレの先生と交流を持つに至った。この少女が先生の耳目とも言われる忍者……久田イズナに見抜かれた『嘘』。公開されるのは、ライターの私にすら分からないほど先の刊となりかねないが……読者諸氏のおかげで人気があるようなので、打ち切られることはないだろう。

 

 次号は、ミレニアムで行われた発破実験について、事件が起こったキヴォトス・ハイテック・コンクール……通称KHCの実行委員会を務めた生塩ノア書記にお話を伺っている。次号を、待て。

 

 ークロノスエンタメスクール発行『ウィークエンドキヴォトス 特別号 〜爆輪事件と先生独占インタビュー〜』より抜粋ー

 

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