召喚とかいう無から生物が出現する現象を個性の一言で片付けるのやばない? 作:そるしあ
話の続きを書こうとしたら、いつ間にか女子達がキャッキャウフフする話を書いていました。
私は悪くありません(天衣無縫)
「翔華ー。ぴこちゃんモフらせてー」
「ぴこちゃんに許可取ってぇー」
数学の授業を終え、終始宇宙猫の様相で現と虚の境目を反復横跳びしていた芦戸は、可及的速やかな癒しを求めていた。
雄英高校は、最高峰のヒーロー養成学校である前に、最高峰の教育機関だ。
当然、授業の内容もそれに相応しいものになっている。
最高にハイ(レベル)! ってやつだ。
数式と図形が高次元で入り乱れる雄英の数学は、あまり高性能とは言えない芦戸のCPUをオーバーヒートさせるに十分な負荷量を有していた。
それは、数世代前のミドルクラスCPUで最新の高グラフィックゲームをやろうとするも同然だった。
そりゃあ、
このままでは、次に控える比較的得意な科目の授業にまで尾を引いてしまうことは明白だ。
だが、芦戸は自己管理能力の高い自称 “できる女”。
こういった時には、負荷を相殺するだけの癒しがあればいいことを深く理解していた。
故に早急な癒しを求めていたのだ。
芦戸は両手を擦り合わせ、ぴこちゃんにお伺いを立てる。
「お願いします! ちょっとだけモフらせていただけないでしょうか!」
その様は、神に祈りを捧げる熱心な信者のようであった。
そんな敬虔な者の願いを一蹴するぴこちゃんではない。
とりあえず一考はしてやるかと、気だるそうに顔を上げたぴこちゃんは、じいっと芦戸の目を見つめた。
勘定や如何に。
ドゥルルルルルルル・・・・・・。
デン!
ぷいっ。
ぴこちゃんは顔を背けた。
「ヤだってぇ」
「そ、そんな!」
哀れ芦戸三奈。
救いを求めるその手が握り返されることはなかった。
「ぐぬぬ」
再び身を丸めてくつろぎ始めたぴこちゃんを、芦戸は恨めしそうな目で眺める。
たがそこはやはり “できる女” 芦戸三奈。
咄嗟に代替案を用意することなど造作もないことだった。
芦戸は、ぴこちゃんから視線を切るとおもむろに翔華へと近づき、少しギラついた目をしながらその目の前で立ち止まった。
「どんまいだねぇ」
その様子に気が付いていない翔華は、気の抜けた表情で半分揶揄い気味に励ましの言葉をかける。
「まぁ、ぴこちゃんがヤなら仕方ないさぁ。代わりと言ってはなんだけど、飴ちゃんあげるよぉ」
そう言いながら差し出したのはハッカ飴。
そんな翔華の言葉を聞き流し、その頭にスっと手を添える芦戸。
「ほぇ」
「・・・・・・こうなったら紗守名をモフるまでよ!」
勢いよく顔を上げ、カッと目を見開く。
そして、わしゃわしゃとその柔らかな髪をモフり始めた。
「うおぉおぉおぉ」
「うわぁあぁあぁ」
時にもみくちゃにし、時に顔を擦り寄せてその毛並みを確かめる。
その流れるような一連の動作は一種の芸術のようであった。
無駄に洗練された無駄のない無駄な動きだ。
そうして、モフソムリエ芦戸が初めに抱いた率直な感想は「普通にアリ」であった。
まず、髪質がとても柔らかく、毛量も多いため、その手触りはふかふか、もふもふといった感触で、存外に心地よいものだったのだ。
そして、翔華's もふもふの堪能を続けていくうちに、その感想は「普通にアリ」から「かなりアリ」に変化していった。
その触り心地はもちろんのこと、その匂いが癖になっていたのだ。
シャンプーの香りじゃないのかと言われればそれはそうなのだが、なんか、癖になる。
詳細に説明してしまうと変態感が漂ってくるので割愛するが。
「ね、ねぇ? ちょっと長くないかなぁ」
「ふごふご」
「ちょっ、嗅がないでぇ!」
慌てて距離をとる翔華。
髪の毛をモフられるだけならまだ許容できる範疇だったが、さすがに匂いを嗅がれるのは勘弁願いたかった。
翔華にも人並みの羞恥心はあるのだ。
「がるるぅ」
素早く離脱した翔華は八重歯を剥き出し、威嚇の唸り声をあげた。
徹底抗戦の構えである。
迂闊に近づいては噛み付かれてしまうことだろう。
手負いの獣は恐ろしい。
「とりゃー!」
「わぁ!」
だが、さすがに背後に潜んでいた透明人間である葉隠に気付くことはできなかったようだ。
不可視の腕が翔華の動きを封じる。
そうして捕らえられた翔華は再びモフられ始めた。
「ほんとだー! 触り心地最高だし、なんかめっちゃいい匂いする!」
「やめぇ!」
堪らず暴れ回る翔華だったが、葉隠の力が思いの外強く、手をバタつかせるだけで中々抜け出すことができずにいた。
そうこうしてる間に、他の女子達も集まってくる。
「どれどれ・・・・・・わっ、ほんとだ」
「もふもふ!」
「ほんと、いい匂いね。とても落ち着くわ」
そして他の女子達からも次々とモフられていく。
前世の記憶から大人としてのプライドを抱えている翔華にとって、女子達に囲まれて撫で回されるというのはそれなりに屈辱的な事であった。
ましてや匂いを嗅がれるなど、到底許容できる事ではない。
「うがぁ!」
翔華は激怒した。
この邪智暴虐の女子らを除かねばならぬと決意した。
*ケツイがみなぎった
もはやGルートも辞さぬ。
▶ たたかう
しょうかは ぐるぐるパンチをくりだした!
ミス! ダメージをあたえられない!
じょしAは しょうかをもふもふした!
しょうかは せいしんてきなダメージをうけた!
じょしBは しょうかをもふもふした!
しょうかは せいしんてきなダメージをうけた!
しょうかは ちからつきた!
「うぅ・・・・・・」
しんでしまうとはなさけない。
「そういえば、中学の時もいい匂いがすると言って囲まれていましたね」
「あー、なんか想像出来る。紗守名って小動物っぽいもんね」
「どゆことぉ」
ようやく解放された翔華は、しょぼしょぼした表情で呟く。
「いい匂いって言われるのは嬉しいけどぉ・・・・・・。まぁ、いい石鹸使ってるからさもありなん、なのかなぁ」
「・・・・・・え?」
その一言に、女子達の表情が固まる。
「・・・・・・もしかして、石鹸で髪の毛洗ってるの?」
「んー? そだよぉ。それひとつで全身洗えるから便利なんだぁ」
少し自慢げに語る翔華。
女子達は唖然とした。
「コンディショナーは!? ヘアミルクは!?」
「こん・・・・・・? よくわかんないけど、いい成分いっぱい入ってるやつだから大丈夫さぁ」
「嘘でしょ・・・・・・」
女子達は信じられないものを見るような目で翔華を見つめた。
のほほんとした表情が腹立たしい。
まぁ、翔華が呑気にしているのも無理もない事だった。
前世で石鹸しか使ってこなかった翔華にとっては、「女になったからにはもっといい石鹸使わなきゃね」なんていうズレた発想にしか至ることができなかったのだ。
女子達は顔を見合わせ、強く頷き、真剣な表情で翔華に迫る。
「翔華ちゃん、大事な話があります」
「はぇ・・・・・・。な、なんで皆そんな怖い顔してるのぉ・・・・・・」
女子達の異様な雰囲気を察した翔華は、少し怯えながら一歩後退する。
なお、男子達は持ち前の危機管理能力を遺憾無く発揮し、すでに女子達から距離をとっていた。
さすが雄英、判断が早い。
「乙女の嗜みというものを一から教えて差し上げます」
「みっちりしごいてあげるからね!」
「ひぃ」
背後に黒いオーラを放ちながらじりじり詰め寄る女子達。
身の危険を感じた翔華は、この状況を切り抜けるために思考を巡らせる。
男子達は・・・・・・正直言って役に立つとは思えない。
ぴこちゃんは丸まって眠りこけている。
最悪、廊下に飛び出して逃走するという手もあるが・・・・・・。
なかなか良い手が見つからないものの、刹那の間に思考を巡らせ続けた翔華は、ひとつの活路を見出した。
「あぁー! そういや緑谷君に話があるって呼ばれてたんだったぁ!」
「えぇ!? 僕!?」
「そんなあからさまな・・・・・・あ! 逃げた!」
翔華は、ほんの僅かに女子達の意識が削がれた隙に、すかさず緑谷の元に駆け寄った。
「ちょ、紗守名さ───」
「
「ぁ、あーーー!!! そういえばそうだったね!!! ちょっと場所を変えて話をしたいんだけどいいかなぁ!!?」
「おうともさぁ! というわけで、先約がいるのでまた今度ぉー!」
しょうかはㅤにげだした!
「え!? ちょ、ちょっと待って紗守名さん!!!」
みどりやはㅤにげだした!
しーん。
「・・・・・・なんだあいつら・・・・・・」
「くっ! 逃しましたわ!」
「きゃー! 二人きりで密談だって!」
「緑谷あの野郎! 女子を連れ出して “お話” だなんて許せねぇ!」
「あれ多分そういうのじゃないぞ」
二人が去った教室はにわかに騒がしくなった。
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ふぅ。
なんとか間一髪切り抜けることが出来た。
女子というもののなんと恐ろしいことか。
なにもコミュニティ単位で圧かけて来ることないじゃんか。
男子というのは得てして女子の圧に弱いもの。
俺かて前世は男の身。
つまり、俺もその例に漏れず女子からの圧力に弱いのだ。
タイプ相性不利である。
加えて、俺のなけなしの大人としてのプライドを躊躇無く踏み抜いてくる、その容赦の無さも脅威だ。
それもタイプ相性不利。
合わせて四倍弱点。
こうかはばつぐんだ!
そんな相手から一撃でも貰ってしまえば瀕死状態になる事は免れない。
きあいのタスキ?
生憎と根性論は嫌いなんだ。
そんな紙装甲極まる我が身だが、唯一素早さには自信がある。
Sに252、全振りだ。
素早さというのは回避にも逃げにも転用できる、最も信頼出来るステータスだと俺は思う。
誰がメタルスライムやねん。
そんなこと言ってない?
あ、そう。
話が逸れた。
とにかく、我が圧倒的な素早さによって窮地を脱することができたわけなんだが、失うもの無くして最善の結果は得られない。
つまりどういうことか。
息を切らした緑谷君がこちらを見つめている。
いろいろな感情を含みに含んだその視線からは、再び逃げることは許さないという強い意志を感じる。
いい目をしているな、それに度胸もいい。
増々気が滅入ったよ。
こうなれば先手必勝。
せめて話の主導権は握らせてもらおう。
素早いレスポンスと鋭い舌鋒は俺の十八番なんだ。
ふにゃふにゃとか言うな。
「あ、あの、紗守名さ───」
「緑谷君、先ずは謝罪させてねぇ。急に巻き込んじゃってごめんよぉ」
「え、い、いや! 全然大丈夫だよ! 僕も話したかったし! ほんと、気にしないで!」
わたわたと身振り手振りをする緑谷君。
「そう言って貰えると助かるよぉ」
緑谷君はなかなかなお人好しのようだ。
急にあんな風に巻き込まれれば、文句のひとつも言いたくなるもんだと思うが。
熱いハートも持っているようだし、少し弱気なところはあれど正にヒーローといった性格をしている。
さすがオールマイトが後継者に選んだだけはある。
あとは口の堅さがあれば完璧だったんだけどな・・・・・・。
「で、早速だけど、話っていうのは前に個性の秘密を聞いちゃった時のことだよねぇ」
「あ、うん・・・・・・。えと、紗守名さんはどこまで」
「バクゴー君に個性は人から授かったものだって話してたところから、君たちに気づかれるまでの話は全部聞いちゃったかなぁ」
「ほぼ全部・・・・・・」
緑谷はガックリ項垂れた。
「さっさと立ち去らなかったボクも悪いんだけど、ああいう話は人前でするもんじゃないと思うなぁ」
「だ、だよね・・・・・・ごめん・・・・・・」
「いやいや、こちらこそ不可抗力とはいえ勝手に聞いちゃってごめんねぇ。ここはお互い様ってことでひとつ、どうかなぁ」
「う、うん!」
よし。先ずは第一段階。
大事なのはここからだ。
「もちろん、聞いた内容は誰にも話すつもりは無いから安心してくれたまえよぉ」
「え、あ、うん! そうして貰えると助かるよ」
緑谷は、先程からこちらが望む話題を先読みするかの如く先んじて話し出す翔華に、僅かに舌を巻いていた。
話がスムーズに進むことに安堵する反面、なんだか言いようの無いやりにくさを感じるのだ。
翔華は、そんな様子にお構い無しに話を続ける。
「その代わり、ボクがその事を知っているという事も誰にも話さないで欲しいんだぁ」
「それは大丈夫だけど・・・・・・どうして?」
「そりゃあ、ねぇ。どう考えても厄ネタじゃないのさぁ」
「あ・・・・・・そう、だよね」
さもありなん。
悪しき人物に翔華が情報を持っていることを知られれば、その身柄を狙われることになるのは明白だ。
緑谷は、ここにきてようやく己の不用意さでクラスメイトを危険に晒したことを強く自覚した。
緑谷の拳が無意識に強く握られたのを翔華は見逃さなかった。
ふぅ、と一息。
「まぁ、知ってしまったものは仕方ないさぁ。せっかくだし、今後は秘密の共有者同士、愚痴や簡単な相談なら乗ってあげようじゃないかぁ」
「いや、さすがにそこまで迷惑をかける訳には」
そう、緑谷が断ろうとしたとき。
不意に、翔華が緑谷の頭を撫でた。
目の前の女子がとった思わぬ行動に、緑谷の心臓がドキリと跳ねる。
「構わないさ。悩める少年少女を導いてやるのも大人の役目だからね。迷惑だなんて思わず、気軽に頼っておいで」
その声は、不思議と緑谷の心に溶け込むように響いた。
それは、子を慈しむ母親のようでもあり、大きな背中で子を導く偉大な父親のようでもあった。
同時に、普段とは打って変わった精悍な顔付きと優しげな眼差しからは、オールマイトのように人を導き照らす輝きを感じた。
そうして放心している緑谷を後目に、翔華は普段通りの眠たげな表情で微笑むと、舞うようにクルリと身を翻して教室へと足を向けた。
「ほら、次の授業が始まるよぉ」
そう言って首だけ振り返った翔華の顔には、悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。
「焦れよ、緑谷ぁ」
一瞬呆けた緑谷だったが、直後にそれが相澤先生の下手くそな声真似だと気付き、思わず笑いが零れた。
対する翔華は自分でやっといて恥ずかしくなったのか、緑谷の表情が明るくなったことを確認すると、そそくさとその場を立ち去って行った。
ひとしきり笑った緑谷もその後を追いかける。
変わった子だな、なんて思いながら、なんとなく軽くなったように感じる足で教室へと駆け出した。
彼女が通った後には、陽だまりのようないい香りが残っていた。
翔華:少年の罪悪感を解消するついでに、自分が頼れる相手となることで彼のメンタルケアを図る。無駄にかっこつけた事を寝る前に思い出し、身悶えることになる。女子達からの追及は逃れたが、ヘアケアに関してはみっちりしごかれた。
緑谷:無意識に重責や焦燥感を抱えつつあったところに罪悪感まで襲ってきたが、翔華によって解消・軽減される。かつてないほど女子と接近した事を寝る前に思い出し、身悶えることになる。翔華の大人発言に違和感は感じつつも、特に気にすることは無かった。