召喚とかいう無から生物が出現する現象を個性の一言で片付けるのやばない? 作:そるしあ
今回はいつもよりちょっと短めです。
「へおぉ・・・・・・」
素っ頓狂な掠れ声が辺りに響く。
声の主は顔面を強打した哀れな少女、翔華ちゃんだ。
彼女は現在、顔面に走るあまりの痛みに耐えかねて、蹲りながら小刻みにぷるぷる震えていた。
地面がそれほど固くなかったのが不幸中の幸いだろうか。
それでも痛いもんは痛い。
顔面取れちゃったかもしれん。
前が見えねェ。
そんな翔華を庇うようにしてぴこちゃんが周りのヴィラン達に向けて威嚇している。
落下する時に大事に大事に抱きしめてたおかげか、ぴこちゃんにそれほどダメージは無かったようだ。
そして、それらを下衆な表情で取り囲むヴィラン達。
「おいおい、大丈夫かヒーローの卵さんよォ」
「こんなひょろっちいガキ一人と畜生一匹が俺らの相手とはな」
「ヒャッハー! 女だァ!!!」
その数はざっと六人程だろうか。
未だ痛む顔を押さえながら俯いているため、目視して数えたわけではないが、耳に届いた足音の数から推察するにそのくらいだと思われる。
雰囲気からして溢れんばかりの小物臭を漂わせる集団ではあるが、数の暴力というのは決して侮れるものでは無い。
戦いは数だよ兄貴!(?)
加えてこちらは既に手負いだ。
落下の衝撃か、顔だけではなく全身が痛んでいる。
オデノカラダハボドボドダ!
状況は限りなく悪いと言えるだろう。
だがしかし、俺の辞書には “不可能” という文字などちょこっとしか存在しない。
諦めたらそこで試合終了とは誰の言葉だったか。
こちとらこれでもヒーローの卵やらせてもらってるんだ。
卵だろうが玉こんにゃくだろうが、仮にもヒーローを目指してここに居る以上、俺が今すべきことなど決まっているようなものだった。
安西先生・・・・・・!
ちょっとよく分からない決意を胸に、翔華は痛む身体に鞭を打ってゆらりと立ち上がる。
フラフラながらも抵抗する意思を見せるその姿を見て、ヴィラン達はニヤリとその顔に嗜虐心を滲ませた。
「へっへっへ・・・・・・そうこなくっちゃなァ。それでこそなぶり甲斐があるってもん───」
だが、ヴィラン達は翔華の顔を見るや否や、言葉を失ったかのように吊り上がっていた口の端を下げた。
その様子を不思議に思った翔華は、ふと鼻の下に違和感があることに気付く。
そこへと指先を持っていくと、人肌程度の温かさをした何かが指の先に付着した。
鮮やかな赤に染まったそれは、紛うことなき自分の血だった。
命を懸けた戦いを前にして、まさかの鼻出血である。
「あぇ、ちょ、うえぇ」
途端にあたふたし始める翔華。
それを心配そうな表情で見つめるぴこちゃん。
先ほどまで僅かに漂っていた剣呑な雰囲気は既に霧散している。
意を削がれたヴィラン達はどうしていいかわからず、困惑した様子でそれを黙って見つめていた。
「あっ・・・・・・えへへ、ご、ごめん、ねぇ。これから、戦うって、いうのに、締まらない、よねぇ」
顔を上げた翔華は、涙目になりながらも何とか笑顔を取り繕った。
次々と流れ出る鼻血を一生懸命に拭い続けながら。
「んぐっ・・・・・・あうぅ・・・・・・」
それでもなお止まらない鼻血に焦燥感だけが募っていく。
恥ずかしいやら情けないやらで、視界が徐々に滲んでぼやけていく。
そうしている内に、なんとか抑え込んでいた恐怖や痛みも溢れてきてしまい、ついには涙さえぽろぽろと零れ出てきてしまった。
「・・・・・・っ、・・・・・・ぅ・・・・・・」
声を押し殺しながら、必死に涙と鼻血を拭い続ける翔華。
その温かな白い肌を汚すように冷たい赤色を広げていく姿が、只々痛ましい。
なんというか、悲壮感がエグかった。
今の翔華の姿からは、吹けば飛んでしまいそうな、触れれば崩れてしまいそうな、そんな儚さが感じられた。
その悲壮感たるや、それを見たヴィラン達が思わず固まって動けなくなってしまう程であった。
男達は生粋のヴィランである。
情などとうに捨ててきたはずだった。
だが、そのあまりにもあんまりな姿に、えも言えぬ感情に囚われてしまっていた。
今の彼女に追い討ちをかけようなどと、一体何処の誰が思えるだろうか。
「おい、誰か行けよ・・・・・・」
「・・・・・・俺には無理だ・・・・・・できねえ・・・・・・っ!」
「くそっ、心が痛え」
ヴィラン達は揃いも揃って及び腰になっていた。
「・・・・・・」
その内の一人に至っては、何故か遠い昔の記憶を想起していた。
───これは、小学生の頃の記憶だろうか。*1
『○○君の将来の夢は何かなー?』
教壇に立つ大人の女性がこちらに問いかけてくる。
この人は確か、まだ低学年の時の担任だったろうか。
今はもう名前も思い出せない。
・・・・・・将来の、夢。
『そんなの決まってるじゃん!』
ああ、そうだ。
そうだった。
なぜ今の今まで忘れていたのだろう。
記憶の中の自分が、眩しい程に明るい笑顔で答える。
『プロヒーローになって皆を助けるんだ!』
ああ。
いつからだろうか。
夢を諦め、社会を憎み、逃げるようにして悪の道へと堕ちていったのは。
この手は既に汚れきっている。
だが、思い出した。
くすんで真っ黒になっていた心に小さな火が灯り、暗闇の中で見えなくなっていた夢の欠片を照らし出す。
切り捨て、諦めたつもりになっていたそれは、確かに胸の内に残っていたのだ。
それを知覚した瞬間、男はハッとした。
今、目の前で女の子が泣いている。
傷付き恐怖しながら、それでも立ち上がろうとする健気な少女を、無情な悪鬼羅刹共が害をなそうと取り囲んでいる。
それを許してしまうのか、俺は。
また間違えるのか、俺は。
俺は、俺は・・・・・・俺は!!!!!
───そうしてその男が苦悩していたその時。
「ヒャッハー! その泣き顔たまんねぇぜ! もっといい顔させてやるよォ!!!」
唐突に、
「!?」
つい先程まで静止していたのとは打って変わって、荒々しく獰猛な表情と血走った目をしながら一直線に翔華へと飛びかかる。
元よりこの男だけは他のヴィラン達と違い、翔華に対して罪悪感や憐憫の情などは露ほども感じていなかったのだ。
ただ嗜虐心を刺激されまくって興奮に打ち震えていた故に不動を貫いていただけに過ぎなかった。
「うぇ・・・・・・?」
翔華は咄嗟のことに反応が追いついていない様子。
肝心のぴこちゃんも、ヴィランの警戒よりも翔華の心配を優先していたが為に、唐突な襲撃に対処する術を持ち合わせていなかった。
このままではこの健気で儚い可憐な少女は手折られてしまう。
そう思い至った瞬間、先程まで動けないでいた男の体は
「「「やめろ!!!」」」
ドガァン!!!
「ひでぶっ!」
そうして、翔華に襲いかかろうとしたヴィランは、
・・・・・・。
「「「ん?」」」
ヴィランをぶっ飛ばした
その男達は皆一様にして、翔華を庇うようにして個性や武器を構えていた。
なんと、先ほどぶっ飛んで行ったヴィランを除いた他のヴィラン全員が、咄嗟に翔華を守るような行動に出ていたのだ。
「えぇ・・・・・・」
そんな一部始終を見ていた翔華は、涙に濡れた顔にポカンとした表情を浮かべ、目をぱちくりさせていた。
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「鼻血はもう大丈夫か? ああ、そのハンカチは捨てちまっても構わねえからな」
「えと、ありがとぉ・・・・・・ございます?」
「いいってことよ!」
「よし、この子を安全な場所まで送り届けるぞ!」
「「「おお!!!」」」
目の前で、つい先ほどまで敵だった男達が何やら奮起している。
なんか、俺を安全なところまで送り届けてくれるらしい。
いやこれどゆ状況?
翔華は混乱している。
魔物使いならぬヴィラン使いの翔華ちゃん。
翔華ちゃんの血はちょっと特別なんです。