ラクレス王の騎士   作:傘葉

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キングオージャーも完結したのでぼちぼち更新していこうと思います


蘇る守護神

 

「ハァッ!」

 

 横薙ぎに振るわれた刃が前方の隊列を切り刻む。それと同時、目の前に崩れ落ちていくバグナラクの兵士達の残骸が生成されるが、気に掛ける事はしない。それは彼らとて同じようで、前衛の者達の屍を踏み越えるように次なる兵が遅い掛かってきた。

 

 こちらも返す刀で、再び剣で一閃を描く。そして今度こそ目の前の一部隊を壊滅させた。

 

「五、六、七……今のでまとめて十体か」

 

 俺が戦場に到着して数十分、シュゴッダム城下へと侵入してきたバグナラクとの戦闘は、敵味方入り混る大混戦を展開していた。数に限って言えばバグナラク側に分があるが、オージャカリバーを使用し王鎧武装した王達の方が個々の戦闘力は上だ。本来であれば、一般の兵士も加えたこちら側に利は傾くはずだった。しかし戦場がシュゴッダムの街中である以上、必然的に俺たちの反撃は緩んでしまっていた。

 

 避難が間に合わずに戦闘の余波で負傷した国民や、それを救助するためのイシャバーナの医療班の護衛。そちらにも人員を割く都合上、一般兵の大多数を主戦場に送る事が出来ないでいたのだ。

 

「こんな狭い場所じゃあシュゴッド達も満足に動けないし、ZEROの出番はお預けか」

 

 一度起動試験は行ったのだが、それでも実戦と試験では環境や状況が異なる。本命との戦闘前に一度慣らしておきたかったが、これから先もチャンスはあるだろうしバグナラクの巨大個体などが出ない限りはZEROには倉庫で眠っていてもらおう。

 

「■■■■!」

 

「よっと」

 

 背中に振るわれた一撃を受け止める。

 

 後ろにいたバグナラク兵サナギムは、不意を突いたはずだろうと言うように驚いたような声を上げた。

 

「大声出しながら襲い掛かればそうなるさ」

 

 振り向きざまに縦に一刀両断。脳天から足先まで到達した斬撃に倒れた兵士の肉体がビクッと震えたが、数秒立つとピタリと動きを止めた。

 

 以前ジェラミーから、バグナラクの民の肉体は激しい戦闘に耐えられるよう独自の進化を辿ったと聞かされていたが、どうやらその分他の部分の進化はお粗末らしい。その証拠に彼らは群れを成して襲い掛かっては来るが、動きに統率の取れた様子は全くない。数の力は確かに強力だが、それにばかり頼り過ぎるといつかは通用しなくなるものだ。

 

「とはいえ………」

 

 俺の周りには先ほどとは別のグループであろう編隊が無傷で、それも複数集まっていた。先ほどはあのような事を言ったが、流石にこの数を一人で相手取るのは効率が悪い。こいつらを全滅させる事自体はそれほど難しくはないのだが、俺がこの場で足止めされてる間に他への被害が広がらないとも言い切れない。

 

 しかし幸いにも、ここら一帯に人の気配はないようだ。そうなると無理してこの場に留まる必要もなくい。

 

「とりあえずは誰かと合流するか」

 

 前方に立ちはだかる数体のサナギムを切り刻み、進路を開く。そして空中に向かって、大きく跳躍した。ナイトカリバーの力を使い鎧を装着した俺の身体能力は、生身の時のそれに比べ数倍ほど底上げされている。そして脚力もその例外ではない。

 

 通常の人間では届かぬような何メートルもの空中へと飛び上がると、一番近くに位置していた民家へ降り立つ。

 

「よっとぉ」

 

 着地の際に膝を曲げて衝撃を吸収。さらに両足が屋根の上に着いたと同時に、再び上空目掛けて飛び上がる。ふと地上へと目を向けると、サナギム達がこちらを必死に指差している様子を確認出来た。周りの味方に俺の事を報告でもしているのだろう。しかし機動力はこちらが上だ。苦し紛れに時折り真下から登ってくる弾丸も、体を捻って最小限の動きで回避する。

 

 バグナラクからの攻撃を無視しながらいくつかの民家へ飛び移った後に、俺は付近で一番高い時計塔の天辺に降り立った。

 

 視界を遮る建物は一切なく、全ての戦場がよく見渡せる。そしてこちらに迫る大きな影も。

 

「■■■■!」

 

「巨大化………そこまで大きくはないけどさぁ」

 

 巨大化したサナギムのサイズはせいぜい数メートルほど。この程度の巨大化ならば、俺たちや王達の敵にはならないだろ。あくまで俺たちだけならば、の話ではあるが。

 

 手に持つ鈍器を俺の立つ時計台へと振るうサナギム。寸前でその場から飛び降りると、無数の瓦礫が目の前へ押し寄せてきた。剣を振るい、一つ二つと比較的大きな瓦礫から破壊していく。

 

 右に左に、或いは上から下に、休みなく腕を振り続ける。

 

 しかしそれでもいくつかは打ち漏らしてしまった。

 

「コガネ、コガネ!」

 

 着地と同時に、悲痛な叫びが聞こえてくる。救いを求める叫びが。

 

 周りに展開していたサナギムの隊列を切り倒しながら、すぐさま声の主の下へと駆ける。隊列の中を搔い潜り、土煙の中を駆け抜けると、三つのシルエットが現れた。

 

 一人はすぐに察しが付いた。一番手前で二刀の刃を振るう鎧の戦士カマキリオージャーことヒメノ・ラン。しかし残念ながら、残る二人は渦巻く土煙で顔が見えない。

 

「ヒメノ女王」

「っカサス!」

 

 こちらを振り向くと同時、いきなり彼女は胸倉を掴んできた。

 

「自分の国がこの有様だって言うのに、ラクレスは何をしているの⁉」

「我が主は今は動けない。だから私がここに来た」

「話を逸らすな!あの王は一体何で─────」

 

「………カサス?」

 

 ヒメノの怒号が響く中、足元からか弱い声の呟きが聞こえてきた。その声に俺もヒメノも注意を逸らされた。その声は先ほど助けを求めていた主と同じもの。その腕に傷付いた少女を抱えた青年が俺の顔を見つめていた。

 

「カサス、頼む!このままじゃコガネが!」

 

 青年の名はギラ。かつて養護施設で共に過ごした俺の家族のような、心優しい青年だ。しかし今は……………

 

「…………この子は任せろ。君も早く避難するといい」

「カサス……?」

「早くしろ。死にたくないのならな」

 

 冷たい対応だと自分でも思う。しかし今は、この手を使う他にない。

 

 剣を収め、呆然としているギラの手からコガネを抱き上げると、ヒメノを一瞥する。

 

「待ちなさい。まだ話は────」

「全てが終わった後に話す」

「なっ!……ああ、もう!」

 

 背の後ろに響くヒメノの叫びを聞きながら、俺は医療班が集まるキャンプ地へ向かった。

 

 

 

♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 

 

「はあ、はあ、はあ!」

 

 青年ギラは駆けていた。人が倒れ家が壊れ、火の手が広がっていく戦場を。ギラはただの一般人だ。この戦場で戦う力も技術も持ち合わせてはいない。

 

 しかし彼には、足を止めれない理由があった。

 

(なんでラクレス王がいないんだ。それにカサスはどうして僕の事を………!)

 

 疑問が頭を埋め尽くす。人々が傷付いている戦場、敬愛していた王への不信。そして昔慕っていた兄のような人物の態度。中でもカサスからの扱いは、ギラの心を大きく揺さぶっていた。

 

 

 

 カサスは養護施設に来たばかりの頃、周りの環境に慣れないギラによく声を掛けてきてくれた。その甲斐もあってか、始めはよそよしかったギラも一ヶ月もすれば周りの友達と気兼ねなく話せるような間柄になっていた。色んな事をやった。鬼ごっこ、縄跳び、かくれんぼ、そして王様ごっこ。

 

 いつも自分の前を歩くあの背中に憧れた。心優しく力強い、いつかあんな人間になりたいと。

 

 だが別れは突然訪れた。

 

 ある日の朝目が覚めると、カサスは養護施設から姿を消していた。みんなで必死に探した。日が暮れて辺りが暗くなるまでずっと。だがギラ達の努力も虚しく、結局彼を探し出すことは出来なかった。そしてそれ以降彼が自分たちの前に姿を現すことは無かった。

 

 園のみんなが泣いていた。それほどまでに、彼の存在は皆にとって大きなものだったのだ。だがただ一人、ギラだけは必死に涙を堪えた。それはいつの日かカサスの言っていた言葉を思い出していたから。

 

 寂しかった。悲しかった。辛かった。でもその言葉を思い出したら、鬱屈した感情なんてあっという間に吹き飛んだ。だから、必死に笑顔を作った─────早くそんな事なんて忘れられるように。

 

 カサスが居なくなったてから数週間、転機が訪れるのにそれほど時間は掛からなかった。

 

『親愛なるシュゴッダムの国民達よ。今日は諸君らに、喜ばしい報せを持ってきた』

 

 突如シュゴッダム全土に流されたラクレス王の演説。何でも今回、ラクレスの側近として新たな騎士が任命される事になったらしい。神の怒りの日から数年間、騎士と呼ばれる家の者達が表舞台に出てくる事はなかった。故に、国民は歓喜した。自分達を守ってくれる新たな人物の存在に。そして無論、その中にはギラ達の姿も。

 

『紹介しよう。彼の名は、カサス・アトラ。我が剣、我が盾となり私と共にこのシュゴッダムを守り抜く唯一の騎士だ』

 

 ラクレスの紹介と共に、画面にカサスの姿が映り込んだ。その瞬間、歓声が上がった。

 

『カサス兄ちゃんすげえ!』

『騎士って王様と一緒に戦う人だろ?なんでカサス兄ちゃんなんだろう』

『だって昔から喧嘩強かったもん。当たり前だよ』

『ああ~確かに!この前もギラ兄ちゃんとデボニカ姉ちゃんが喧嘩してたら、二人に拳骨をえいっ!ってやってたもん』

『だからいなくなったのかな?』

『うん。王様の秘密は守らないといけないんだよ。だから何も言わずに出ていったんだ』

『なるほど!』

『やっぱすごいよ。俺たちのカサス兄ちゃん!』

 

 園の子供たちも、次々に喜びの声を上げた。祝福をする子もいれば、カサスはすごいんだぞと自分の事のように熱い口調で語る子供も。ギラを含めた皆は、形は違えど新たな騎士の誕生を心の底から喜んでいた。

 たった一人、ある少女を除いて。

 

 そしてその時、ギラは気付けなかった。一つ、大切な事に。

 

 

 

(とにかく今は、僕に出来ることを!)

 

 走る。息を吐く。そして整える、頭の中を真っ白にするように。過去も後悔も今この瞬間はどうでもいい。ただ目の前の命を、取りこぼさないために。

 

 

 

♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 

 

「この子を頼む」

 

 イシャバーナの従者にコガネを預ける。ちらりと話を聞いた限りでは、どうやら命に別状はないらしい。しかし運び込まれる怪我人の数は、先ほどから衰える事を知らない。このキャンプ地もパンク寸前になっている。

 

 しかし、死者の数が想定よりも少ないらしい。これに関しては単純に喜ばしい事なのだが、その分だけここに運ばれてくる人数も増えているのだ。

 

「カサス様。報告が」

 

 横からシュゴッダムの兵が声を掛けてきた。確か彼は、少し離れた場所で小隊の指揮を執っていた者のはずだ。戦闘の影響か、鎧のところどころに傷や汚れが広がっており、おまけに本来なら腰に携帯しているはずの剣も紛失している。それに本人の顔も疲れを隠しきれていない。激しい攻防だったという事は、目に見えて明らかだ。

 

「各国の協力もあり、町に侵攻してきたバグナラク兵は八割方殲滅。しかし大門を突き破った巨大バグナラク兵が一体、コーカサスカブト城向けて進軍しております」

「こちら側の戦力は?」

「約四割の兵が負傷などにより戦闘不能。救助や医療班を護衛している者を除くと、現状戦闘が可能なのは約三割を下回るかと………」

「そうか………」

 

 巨大バグナラク兵が城に着くまで、まだ十分距離がある。他国のシュゴッド達に迎撃を任せたいところだが、それぞれの主である王様達が戦闘中であるのを考えると、迎撃は出来ても撃退は出来ない可能性がある。おまけに先ほどからヤンマの姿が見えない。奴の性格上逃げたという可能性は低いだろうが、あまり頼りには出来ないだろう。

 

 となると、

 

「………ZERO」

 

 ナイトカリバーのレバーを握る。あまりZEROの力を見せびらかしたくはないが、背に腹は代えられない。グッと、俺がレバーを押し込んだその時、

 

「なんだアレは?」

 

 近くにいる者達が、次々に空を見上げていた。俺もそれにつられて頭を上げる。するとそこには、一体の巨人が立っていた。

 

 各国のシュゴッド達が合体する事で誕生する、伝説の守護神。かつて五人の王と共に、人類を救ったとされる人類の切り札。その名は………

 

「キングオージャー!」

「ラクレス様だ………ラクレス様が我々を救って下さったのだ!」

「この戦い、人類の勝利だ!」

 

 歓声が上がる。それはまさしく、暗闇に降り注ぐ一筋の光だった。絶望的な惨状を打ち砕く圧倒的なまでの希望。

 

 そして、巨人が動いた。

 

 一振り剣を振るう度、バグナラクが後退し悲鳴を上げる。そしてその度に、人類側の歓声も大きくなっていく。まるて敵を寄せ付けないその様子を見る限りでは、勝利は確実だろう。

 

 しかしその戦いに見惚れている間もなく、頭に響く音が聞こえてきた。ラクレスからの連絡だ。

 

「ラクレス様、キングオージャーが………」

『人はいない。楽にしろ』

「それじゃあ、ちょっと待て」

 

 周りの様子をチラリと確認。皆キングオージャーに注意を逸らされているようだ。充分に周りに注意しながら、足早に物陰へと隠れた。

 

「それで?どうなってる。なんでゴッドクワガタが動いてるんだ」

『ギラだ』

「は?」

『……ギラが私の前に現れた』

「まさかあの後………あああ!あのバカァ!」

 

 思わず大声を出してしまった。しかし他の人間には気付かれていないらしい。一度咳払いをし、もう一度キングズホットラインに耳を近付ける。

 

『………何があったかは後で聞く。戦闘が終わり次第、ギラの身柄を確保しろ』

「良いのか?ギラには全部が終わった後、この国を任せると」

『悪いが計画変更だ。ギラの力が露わになった以上、下手に隠し通す事は出来ない』

「………分かった。他の王に取られる前に、あいつを連れて来ればいいんだな?」

『ああ、難しいとは思うが………』

「気にするな。いつもの事だ」

『………頼んだ』

「ああ、頼まれた」

 

 プツンと、通信が切れる。それと同時に近くの壁に体を任せた。天を仰ぎ、大きく一度息を吐く。

 

 いきなりの計画変更。流石にこれは予想外だった。本来の企てなら、ギラを戦わせる事など一ミリも考えていなかったのに。

 

 ギラの力は宇蟲王由来のそれ。それを上手く利用すれば宇蟲王の討伐も楽、とは言えないが幾分かマシになっていたはずだ。だがラクレスは当初、それを行おうとはしなかった。ギラには全てが終わった後のこの星の未来を任せようと。

 

 奴なりの優しさだったんだろう。しかしそれが今回裏目に出た。ギラはこれから、過酷な戦いに身を晒す事になる。

 そしてその過程でいつか気付くことになる。目を逸らしたくなる、自分自身の秘密に。

 

 一見平気そうな声をしていたが、ラクレス自身も内心ではかなり動揺しているはずだ。だがそれを押し殺して、あいつは俺に頼んできた。ならばこちらも、その頼みに応えるのは当然だろう。

 

 ただそれはそれとして、

 

「やっぱお前には向いてないよ。ラクレス」

 

 

 

♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 

 

「俺様が世界を支配する! みんなのために………」

 

 変身を解除したギラは、ゴッドクワガタへと振り返る。

 

 剣を持った瞬間に頭に響いた声。それに導かれるようにキングオージャーを操り、無事バグナラクを撃退した。なんとかはなった。町のみんなは守れたし、被害も少ないほうだろう。しかし問題は山積みだ。

 

「動くな!」

 

 いつの間にかギラの周りを兵士達が取り囲んでいた。皆面構えを厳しくし、剣を抜刀しておりいつ切り掛かられてもおかしくはない。しかし臆することはしない。

 

 一度息を吸い、ギラは彼らと正面から向き合う。その手に持つ王の証オージャカリバーを握ったときから、覚悟は決まっている。

 

 一歩踏み出すと兵士達に僅かに動揺が走った。この数相手に反抗するとは思っていなかったのだろう。だが、

 

「貴様がギラ。だな?」

 

 兵士達の後ろから、一人の男が近づいてきた。真っ赤に染められた王の側近である証の軍服を纏い、左腰には黒い魔剣を携えている。黒髪で、赤みがかった右目。

 

 幼い頃から見慣れていた顔。遠くにいても、ずっとずっと兄のように慕っていた男。

 

「カサス………!」

 

 言葉が出てくるよりも早く、足が前に出ていた。そして駆け寄って行くことは………出来なかった。

 

「カサス…?」

「生憎だが、お前のような野蛮人の顔に覚えはないな」

 

 ギラの眼前に剣が向けられる。他でもないカサスの手によって。

 

 見たことのないような冷たく厳しい瞳がギラを射貫き、冗談だろ?と茶化すような余裕さえ与えられない濃密な殺気が、その全身から放たれる。

 

 まるで親の仇とばかりに激しい憎悪をギラに向けたカサスは、短く、そして冷淡に言い放った。

 

「反逆者ギラ。ラクレス王の命により、貴様を連行する」





本作のラクレスはギラの行方を掴んでました。ただ争いには巻き込みたくないとのことで放置
まあ、そのギラの乱入で無駄になったんですけどね!

・ギラ
慕っていた昔馴染みと再会(ただし相手側は覚えてなかった)
昔馴染みに刃を向けられた(メンタルゥ)
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