ラクレス王の騎士   作:傘葉

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叡智の国で

「バグナラク………」

 

 ゴッドカブト内部のモニターに映る映像には、業火に包まれるンコソパが。シュゴッダムの時に比べれば小規模のようだが、それなりの数の戦力が押し寄せたらしい。

 

 あの時と比べれば戦力も環境も違う。一概には言えないが、それでも少なくない被害を受けているようだ。

 

「狙いは一体………ただの嫌がらせか偶然か、或いは………ギラか」

 

 反逆者ギラの演説は、既にバグナラクの耳にも入っているだろう。となればギラを狙いにしていた可能性も、低くくはないだろう。

 

 余裕は、意外にないかもしれない。

 

─────共に行こうか?

 

 操縦桿を傾けた矢先、頭の中で声が響いた。これはシュゴッドソウルが近くにある時のみに聞こえる、カブタンの意思だ。俺たち人間は、言語としての彼らの言葉を脳で理解する事は出来ない。しかし、()()()()()()は違う。原理が何かは知らないが、初めてカブタンに勝利した時からこの声は聞こえてきた。決して言語化する事は出来ないが、それでも意味は理解出来る。自分でも不思議なくらいに。

 

 詳しい事は俺も知らんがテレパシーのようなものだと、個人的には解釈している。それにもう慣れたもので、最近はカブタンの仕草を見るだけで、大体の考えは分かってきた。

 

「ひとまず待っておいてくれカブタン。あまり騒ぎにはしたくない」

 

 ゴッドカブトの名と逸話は、三大守護神の一柱として広く知れ渡っている。見る人間が見れば、一瞬で正体に気付くだろう。そうなれば、俺がわざわざ潜入してきた意味が無くなる。

 

─────分かった

 

 カブタンの意思は、少しばかり残念そうな気持ちを伝えてきた。久しぶりに日の下に来たのだ。暴れまわりたい気持ちも少なからずあるのだろう。仕方のない事ではあるのだが、こちらとしても少々忍びない。

 

「悪いな。もう少ししたら、お前にも会わせてやるかな」

 

─────楽しみにしている

 

「ありがとう」

 

 カブタンは納得したように、高度を低く飛び始めた。それに何やら鼻歌のようなものも聞こえてくる。よほど期待をしているようだ。あいつの事なら大丈夫だろう。きっとカブタンも気に入るはずだから。

 

「さて、まずは変装からかな」

 

 

 

♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 

 

「くだらんプライドのために、雑魚どもに滅ぼされることを選ぶのか?」

「くだらねえだと………ンコソパはな、ずっとシュゴッダムの下請け仕事をさせられてきた。それがムカつくから、俺は貧民街からパソコン1つでテッペンまでのし上がったんだ」

 

 ひとまずンコソパからバグナラクは退いた。しかしそれも一時の事。タイムリミットは今日の夜だそうだ。残念ながらンコソパは、シュゴッダムほどの軍事力を保有してはいない。先ほどは運が良かっただけ、再びバグナラクとの戦いになれば、無事に済む可能性というのは低いだろう。しかもそれに加え、もう一つ懸念すべき事態が、この国には迫っていた、

 

 それは、シュゴッダムからの圧力。

 

 シュゴッダム国王であるラクレスは、要求を飲まなければンコソパに防衛戦力を送らないと脅しをかけてきた。その要求とは、反逆者ギラの引き渡しと、ヤンマの謝罪だ。ンコソパはヤンマが王になる数年前まで、シュゴッダムの下請けをさせられてきた。その過程でどんな力関係が働いていたかは、言うまでもないだろう。

 

「それにな。シュゴッダムが気に食わねえってのは、俺だけじゃねえ。この国の奴らのほとんどが、あの国に恨みを持ってる」

「それはやはりラクレスが………」

 

 ギラは、悲痛な面持ちでヤンマを見る。先ほどの民衆達とのやり取りも薄々気づいていたが、ンコソパとシュゴッダムの軋轢は、とても深いもののようだ。これもやはり、賢王の皮を被った暴君ラクレスの仕業…………彼の悪行を目の当たりにするたびに、ギラのラクレスに対する怒りは、沸々と強さを強めていた。

 

「いや、違うな」

「え?」

 

 思いがけぬ返答に、思わず素っ頓狂な声が出た。

 

「確かにラクレスも嫌われもんだが、奴以上にこの国で嫌われてんのは、他にいる」

「他に………あいつ以上に残酷な奴が、この世にいるというのか⁉」

「ああいるさ。そしてそいつは、二年前にこの国を無茶苦茶にしやがった」

 

 ヤンマは、デスクに置いてあったエナジードリンクへと手を伸ばす。透明なビンの容器の中身は、もう半分ほどしか残っていない。口元へとビンを近づけ、一気にそれを飲み干すと、苛立った様子でデスクにビンを叩き付けた。

 

 あまりヤンマと関わりのないギラだが、彼の乱暴のいつもの様子とは違う、また別の怒りのようなものを感じ取った。

 

「カサス・アトラ。あいつは、危険だ」

「カサスがだと?」

「ああそうさ。ラクレスの命令とあらば、誰であろうとなんであろうと、剣を振るう事を躊躇わない。あいつはそういう奴だ」

 

「違う!」

 

 ギラ自身も驚くほどの大声が出た。しかしこれが怒りからなのか、それとも別の何かなのか、今のギラにはわからなかった。

 

「カサスはそんな事はしない!例えどれほど強大な力を持っていたとしても、誰であろうと手を伸ばす。決して無意味な犠牲を出す事はしない。奴はそういう男だ!」

「俺たちもそう思ってたさ。最初のうちはな。だから俺たちも信頼した。だが、奴はそんな俺たちの気持ちを踏みにじったんだ。奴はあの日この場所で、ゴッドトンボに喧嘩を売りやがった。そしてその結果、町一つが無くなった」

「それは………」

「それにてめえも、あいつに命を狙われた。なのに、なんであいつの肩を持つ?」

「あいつは、カサスは!」

 

 ギラは、ヤンマに口を割った。シュゴッダムで起きたこと、ラクレスの本性、そして、カサスとの過去を。

 

 

 

 

 

『ボシマールとドゥーガをそちらに送った。好きなように使ってくれ』

「助かるよ。だけどあちらさんも、そう簡単に白旗を上げるつまりはないらしい。さっきから城の中を盗聴してるが、ギラの奴、ヤンマとかなり意気投合してるよ」

『やはりあの男は危険だと?』

「ヤンマには、まだやってもらう事がある。それからでもまだ遅くはない。それにあいつは、お前の弟だぞ?誰かの操り人形になることを、そう簡単に了承したりはしないだろう」

『分かった。次の報告は三時間後に』

「了解」

 

 日が落ちるまで残り数時間。だが依然、ンコソパの城に目立った動きはない。バグナラクからも秘宝を渡せと迫られているらしいが、おそらくそちらになびくこともないだろう。そうなれば、今度こそこの国は終わりだ。

 ゴットトンボ以外にまともな戦力がない上に、最悪の場合、シュゴッダムとバグナラクの二大勢力から攻め入られると考えれば、早々に降伏をした方がまだマシだろうと思うだろう。

 

 ()()()()()()()

 

 だから敢えて、バグナラクから侵攻を受けたこのタイミングで、ラクレスは圧力を掛けてきた。真に国を、民の事を思うのならば、早急に折れてくれるだろうと。だが悲しいかな。

 

 ラクレス・ハスティーとヤンマ・ガスト。二人の王の在り方は、どうしようもなく違っていた。

 

 価値観の違いと言い換えても良いだろう。国も、環境も、守るものも、戦う動機も、目指す場所も違う。仕方がない事だ。むしろそれで完全に志が一致するのなら、逆に気味悪さすら覚えるだろう。そしてこの問題に、答えはない。どちらの王の在り方にも、間違いはないのだから。だが、だからこそあの二人は分かり合えない。

 

「今は。だけどね」

 

 現在のままの二人では、相性は最悪だ。手を組むなど以ての外だろう。だが、それでは駄目なんだ。

 

 ラクレスの計画は、確かによく練られていた。どれだけ時間が掛かろうとも、確実に宇蟲王を倒せる程には。しかしその計画も、ギラにより簡単にひっくり返された。確かにギラの力が強大なのは確かだが、ギラの影響で計画に支障が出始めているのも事実だ。

 もしこのまま当初の通りに進めるつもりなら、俺たち二人だけで宇蟲王を倒すのは、正直不可能だと思っている。

 

 だから必要なんだ。皆を救う為には、力関係も、過去のしがらみも越えた先にある新しい組織体制が。そしてそのためには邪魔なんだ。ラクレスや俺の置いてきた、負の遺産が。

 

「俺の仕事じゃあないんだけどな」

 

 我ながら酷くなったなとは思う。よりにもよって、主君の理想にこんな邪な考えを持つとは。父上が生きていたのなら、怒られるかもしれない。騎士としても、あまり好ましくはない考えだ。

 

 今は良いかもしれない。だがおそらくこのままでは、そう遠くない日に詰む。言い訳がましく聞こえるかもしれないが、それだけは、何としても阻止しなければならない。

 

 だからこそ、

 

「そろそろ出てきたらどうだ?」

 

 俺も、 独自(勝手に)動く。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ出てきたらどうだ?」

 

 ンコソパの裏路地は、薄暗い高層ビルの間に広がる狭小地で、視界が悪くほとんどの場所では、ほんの少し先も見通すことが出来ない。それに加え、表の通りに比べると治安も決して良いとは言えない場所だ。それ故、あまり一般人も近づくことはないのだ。

 

 しかし今ここには、二人の人物が足を踏み入れていた。一人は、潜入中のカサス・アトラ。いつものシュゴッダムの軍服ではなく、きらびやかに発光するンコソパ流の服を身に纏い、その上から、顔がバレないようにフード付きのマントを身に付けている。

 

 そしてもう一人は、その後方十数メートルで、物陰に身を隠していた男。

 

「すっすいません!」

 

 カサスに声を掛けられるとは、思ってもいなかったのだろう。慌てた様子で、頭を下げ謝罪してくる。

 

 服装は一目見てみると、一般的なンコソパのカラフルなもの。とてもではないが、こんな裏路地にいるような世界の人間のものとは思えない。

 

「どうして、俺の背中を狙っていたんだ」

「ねっ狙っただなんてとんでもない!ぼ、僕は、ただ、たまたま通りかかったら、あなたがいて、人がこんなところにいるのは珍しいと思って。それで………」

 

 たどたどしく弁解を行う男。しかしそのあまりの必死さから、逆に怪しい様子は感じられなかった。本当に偶然、物珍しさで尾行を行ったのだろう。

 

 それを聞いたカサスは、先ほどまでの険しい表情を解除。ニッコリとした笑みで、男に近づく。

 

「すまない。こちらも少し、高圧的な態度を取ってしまった」

「いえ、僕の方も勝手に尾行なんてしてしまってすいません」

「ああ、別に良いよ。こんな人間がこんな場所にいたら、気になってしまうのも無理はない」

 

 男との距離が、残り数メートルとなったとき、カサスは突如歩みを止めた。

 

「ただ一つ、解せないことがある」

「解せないこと?」

「ああ。君さ、噓ついてるだろ?」

 

 ピリッと、空気に緊張が走る。

 

「噓って何のことですか。僕は別に、何も隠してる事なん─────」

 

 てない。男がそう言い切る事出来なかった。

 

 前方から、彼目掛けて黒い刃が飛んできたからだ。

 

「ちょっ!」

 

 左手に逆手で握られたナイトカリバーの剣先が、男の首を掠める。しかし男は、後ろに体重を移動させることで何とか回避。今のはテクニックでも何でもない、ただの生物としての本能だ。しかし致命傷は回避出来たと、男は胸をなでおろすが、

 

「ふっ!」

 

 ナイトカリバーを右手に握り替えたカサスの切り返しが、男の体へと深く刺さった。

 

「があっ!」

 

 深々と、肩から左下へと向けて剣を切り下ろす。確実に心臓を傷付けた。通常の人間ならば、出血多量ですぐに死亡するレベルのダメージだ。だがしかし、一つの異変が起こった。男の体から、()()()()()()()()()()()()()

 

「やはりか」

 

 胸を切り刻まれ、上半身を後ろに倒していた男が、ゆっくりと体を起こし始めた。まず人間には出来ないような、関節や筋肉の働きを無視した動きで。そして次の瞬間、男の周りに()()が出来た。まるで石を落とした水面のように、周囲の空間に波紋が広がる。

 

「ウッフッフ。まさかこんなにも早く、バレてしまうとは」

 

 歪みが収まると、一つの人影が姿を現した。いや、コレを人と呼ぶには、少々適切ではないだろう。

 

 襟の長いコートに、何処か機械を思わせるような細長い顔。そしてその右手には、虫ピンを模した杖。どう弁解しようにも、人間というには、無理のある容姿の彼。

 

「バグナラクの宰相カメジム。いや、今はこう呼んだ方が良いかな。

宇蟲五道化が一人、虚飾のカメジム」





・カサス…………二年前に(キングオージャーZEROのデータ取りの為)ンコソパの街中でゴットトンボと戦闘を行い、大規模な被害をもたらした。これが切っ掛けでンコソパを出禁に。その後イシャバーナでも同じようなことをやらかし、ゴッカンで裁かれかけたとか何とか
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