ラクレス王の騎士   作:傘葉

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べダリアさん生きてたら絶対後々楽だったろうなって


城の秘密部屋

 思い出していた。私が、ここに来た時のことを。私が、始まった時のことを。

 

それは、数年前の冷たい夜のこと。その日は街中が大騒ぎだった。何でもその一帯を仕切っていた奴らの偽札製造がバレて、大規模な犯人捜しが始まったんだと。当時そこを仕切っていたのは、暴力至上主義の典型的なマフィア。激な魔女狩りになるという事は、誰の目をもってしても明らかだった。

 

 私の仲間たちも、直ぐに逃げようと提案してきた。奴らにはこれまでも、散々酷い目に遭わされてきたという彼らの言い分も理解できし、それに何よりも、自分の身が大事だというのは人間みんなが思うことだ。そこで本来ならば、私は彼らの手を取るべきだったのだろう。だが、私はその道を選ばなかった。

 

 どうしてもそこを離れられない理由があったからだ。どうしても守るべきものが、渡せないものがあったからだ。

 

 ただその決意も虚しく、それから十分と経たないうちに、私は冷たい路地裏で這いつくばっていた。

 

 奴らの犯人捜しは、見境なしに行われた。手当たり次第に、その場にいる人間に拳を振るい、情報を吐かせる。半ば、その情報が嘘か誠かなどは、どうでも良かったのかもしれない。偽札製造がバレて鬱憤が溜まっていたからか、或いはただそこにいたからか。信じられないかもしれないが、奴らにとって暴力を振るうのは、そんな動機で充分だったのだ。

 

 そして私の目の前にも、死が迫っていた。怖く、薄暗く、得体の知れない恐怖が、体中を駆け巡る。死にたくない、生きたいと、そう思った。

 

 だが、体は言う事を聞かない。別に私は、特別肉体が強かったわけではなかったし、相手は普段から喧嘩慣れしている裏社会の端くれ。どっちが勝つかなんて、火を見るよりも明らかだった。

 

 頭の中を駆け巡る走馬灯。そこでは、私の人生が淡々と、手短に上映されていた。始まりの国の研究者である両親の間に生まれ、昔話が好きだった子供時代。神の怒りで家族とバラバラになり、このテクノロジーの国に流れ着いてからの数年間の話、となった所で、私の物語は幕を下した。

 

 ああ、なんて薄っぺらいんだろう。

 

 こんなものなのか。こんな簡単に、私は終わるのか。

 

 私の問いに答える人物はいなかった。しかしその代わりとばかりに、鉄槌が振り下ろされる。

 

 目を瞑った。もうダメだと、受け入れようと、その瞬間を待った。

 

─────しかし、それは訪れなかった。

 

「大丈夫か?」

 

 聞きなれない声が聞こえた。先ほどまで私を殺そうとしていた人物とは違う、別の声が。

 

「無事、じゃあないようだが、まだ助かるぞ」

 

 そこには、一人の男が立っていた。黒い剣を腰に掛け、こちらに手を伸ばしていた。そしてその背後には、地面に倒れている無数の人々。状況的に十中八九、彼がやったと見て間違いなかった。

 

「立てるか?」

 

 私はその手を取った。ほとんど思考などしていなかったと思う。ただただ惰性で、腕を伸ばしたに過ぎない。しかしこの出会いが、私を変えたのだ。

 

 そうこれこそが、この私─────べダリアの新たな物語の始まりだったのだ。

 

 

♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 

 

「─────べ──アさん、──リアさん、べダリアさんってば!」

 

「あ~、どうも~」

 

 助手の青年────コフキに肩を叩かれ、私は現実に意識を戻された。振り向くと、私の上司の上司にあたる人物ラクレス・ハスティーと、その側近ドゥーガが険しい顔付きでこちらに睨みを聞かせている。機嫌が悪いであろうことは、目に見えて明らかだった。はっきりとではないが、理由にも多少心当たりはある。

 

 自分で言うのもなんだが、私は積極的には外に出たくないタイプの人間、所謂引きこもりと言われる人種だ。当然外で起こった出来事や事件にも、かなり疎い。しかし、そんな私の耳にも、今回の一連の騒動は速やかに入ってきた。バグナラクの侵攻、伝説の剣オージャーカリバーの強奪、守護神キングオージャーの復活、そして反逆者ギラの逃亡。間違いなく、『十五年前の神の怒り』以来の大騒動だ。連日の対処で、ラクレス様たちもてんやわんやになっているのだろう。ご苦労なことだ。

 

 手持ち無沙汰で噛み砕いていた棒付き飴を机に置き、ゆっくりと腰を上げる。

 

「王にわざわざ足を運ばせてその態度。一体────」

「別に私の直属の上司はラクレス様ではないので。命令に従っても、敬う必要はない。契約書にも書いてありましたけど?」

「なっ⁉貴様…………!」

 

 ドゥーガは、怒りに任せて剣を引き抜こうと構えた。私の取った態度が、気に食わなかったのだろう。王への忠誠が厚いのは良いと思うが、少々熱が入り過ぎだ。本気の殺意を放っている。コフキは、見たこともないほど、顔が青ざめているし、このままでは、本気で殺されてしまいそうだ。

 

「やめないか」

 

 しかし、ここで助け舟が出された。

 

 ラクレス様がドゥーガを諌めるように、私と彼の間に立つ。

 

「しかしラクレス様………」

「彼女をこの城に向かい入れる時に、私が合意したことだ。お前が口を挟む事ではない」

「…………失礼しました」

 

 渋々といった様子で、ドゥーガは剣の柄から手を離した。しかしその双眼は、未だに私に向けられており、納得はしていないぞという強い意思を感じる。それを是としたのか非としたのかは図りかねるが、一瞥して彼の緊張が解除されたのを確認したラクレス様は、今度は私へと振り向いた。

 

「それで、例のものは出来たか?」

「はい。このシールドの向こうに」

 

 空中投影ホログラム式のシステムを起動する。目の前に浮かび上がった立体映像のホログラムに私の右手をかざす。親指から小指までの五つの指紋を瞬時に解析したシステムは、それに連動し、この研究室の壁の一部となっていたシールドを開門。私の研究成果を惜しみなく晒し出した。

 

「これが…………」

 

 そこにいたのは、三機の漆黒と黄金の装甲を纏ったシュゴッド。これが、この数日で完成した、私たちの研究成果だ。

 

「ゴッドカブトZERO、ゴッドスコーピオンZERO、ゴッドホッパーZERO。全機、ロールアウト完了しました」

 

『三大守護神のコピーの製造』、それが数年前に命じられた私たちへの仕事だった。

 

 正直最初はどんな無茶振りかと投げ出しそうになったが、何とかなった。これもひとえに、何処からともなく様々なシュゴッドのデータを持ち帰ってくる私の直属の上司のおかげなのだが。

 

「カサス様の手懐けていたゴッドカブトは、何とかオリジナルと同等のものが出来ましたが、それ以外の二体は、交戦時の戦闘データのみを参考に建造。ですので、オリジナルと比べると多少性能は落ちているかもしれません」

「そうか。だが、これでようやく…………!」

 

 固く拳を握りしめたラクレス様は、剛健な眼差しで、三大守護神のオルタナティブを見つめる。その顔からは、目的を達成したという満足や安堵感を感じ取れた。だが、それだけではないようだ。

 

 その証拠に彼の目頭から、一筋の光がツーっと、落ちてきた。

 

「…………大丈夫ですか?」

 

 ラクレス様の頬についた水分を、そっと手で拭き取る。すると彼は、ほんの一瞬ではあるが、驚いた表情を見せた。自分でも泣いていたことに気が付いていなかったらしい。

 

「……ああ、済まない」

 

 残った雫をすぐさまふき取った彼は、私に背を向けた。その雰囲気は何処となく、寂しいような空気を漂わせていて、私に口を開くのを躊躇わせた。すると、代役になろうと言わんばかりに、ラクレス様が口を開いた。

 

 そこには、先ほどまで涙を流していた人間の表情はなかった。

 

「ところで、他の研究についてはどうなっている?」

「壁画の謎についての進捗はイマイチ。オージャカリバーZEROの復元は何とかあと一歩のところまでは。ただ、肝心の起動条件が不明でして………」

「なるほど。では、壁画については一旦ストップしておいてくれ。今は、オージャカリバーZEROの復元が最優先だ。カサスが不在の今、敵に攻められようものなら、この国も長くはもたん」

 

 確かに、軍事力は五王国の中でも抜きん出ているシュゴッダムでも、先日のバグナラク侵攻のようなことが今起これば、今度は無事で済むかは分からない。それに他の四ヶ国も、お互いにお互いの隙を探り合ってる情勢だ。一つのミスでも、そこから一気に窮地に追い込まれるかもしれない。まさに、綱渡り状態だ。

 

 ラクレス様は、部屋の中央に置かれたオージャカリバーZEROに目を向けた。この剣が復元出来れば、シュゴッダムは他国に対して、大きなアドバンテージを得ることが出来る。なにせ、伝説に伝わる王の剣に、それと同格の力を持つ騎士の魔剣が一国の支配下にあるのだ。単純な計算でも、他の国の二倍の戦力だ。そして、その黄金の剣を手に戦場に赴くのは、ここにいるラクレス・ハスティー、その人だ。

 

「そんな顔しないでください。せっかくのお顔が台無しですよ。」

 

 それから、「はい、飴ちゃん」と言いながら、私はラクレス様の服のポケットに紙袋に包まれた飴玉をねじ込んだ。

 

「なんだこれは?」

「飴ちゃんですよ。ああ~でも高級品なんで、食べる前にちゃんと感謝してから食べてください」

 

 

 

 

 

 

 

「べダリアさん。さっきの態度はどうかと思いましたよ」

「えっ?」

 

 ラクレス様たちが去った後、早速研究の続きを行おうとした私に、コフキが呆れたように声を掛けた。

 

「確かに僕たちの上司はカサス様ですし、この職場にべダリアさんと僕をスカウトしたのもカサス様です。でもラクレス様は、この城の主なんですよ。今は研究があるからまだ良いですけど、もしこれら全ての謎を解明したとき、どうなるかなんて─────」

「フフッ、コフキ」

「なに笑ってるんですか⁉」

「考え過ぎ。そうピリピリしてると、将来苦労するよ~」

「でもあの人おっかないですよ。ちょっと目が合っただけでも、寿命が縮みますって」

「あんたは考え過ぎだしビビり過ぎ。もう少し気楽に考えな」

 

 コフキからは「何ですか?」と言わんばかりの視線を感じるが、無視だ。だがそれにしてもこの助手は、ラクレス様を必要以上に恐れ過ぎではないだろうか。まるで、御伽噺に登場するバケモノやオバケを怖がる子供みたいだ。だが、それも無理はないのだろう。なにせコフキがこの城に来たのは、およそ半年前。私や他の従者達に比べても、新参も新参だ。まだ不慣れなところや、知らない事もあるのだろうが、それは、慣れてもらわなければ困る。

 

 

 

 

 だって彼には、私に何かあった時の、後釜になってもらわなければならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 机の前に戻り作業を再開する。彼の指示通りに、オージャカリバーZEROの復元を最優先目的として。ただ、中々突破口が見つからない。どうしたものかと頭を悩ませる。外部からの電力に衝撃や、中の一部回路を最新式にするなど、一通りの方法は試したのだが、相変わらず状況は変わらない。

 ただ、ずっと画面とにらめっこだけをしていても、何も変わらないことに変わりはないので、気晴らしにしかならないが、オージャカリバーZEROを握ってみた。

 

 すると、面白い事が起こった。

 

「光った………?」

 

 オージャカリバーZEROの刀身から、眩い光が溢れ出た。黄金色の刃に負けない神々しい光、それからはどこか、暖かい空気を感じ取ってしまう。

 

 そして、私の中で一つの仮説が立てられた。

 

「やはり起動に必要なのは、王家の………」

 

 なるほど。それならば辻褄は合う。なにせこのオージャカリバーZEROは、おおよその修復をしてからというもの、一度も本来の主であるラクレス様の手には渡っていない。

 

 そういうことか。であれば、直ぐにでも彼を呼び出さなければ。

 

 腰に忍ばせてあった端末に手を掛ける。後はコードを入力するだけだったのだが、それは、私の助手によって阻まれた。

 

「べ、べダリアさん!」

「どうしたの。今はそれどころじゃ───」

 

「侵入者です!もう、すぐそこまで────」

 

 直後、ガンッ!と体に響き渡るような音が、室内に響き渡った。思わず、扉の方へ目を向ける。この部屋は一面、特別頑丈な特殊金属で囲まれている。並大抵の衝撃ではビクともしないはずだ。だが、その希望は易々と砕かれた。数発の打撃音の後、扉に一つ、大きな凹みが出来た。するとそれを皮切りにするように、次々とクレーターが形成される。そして扉が原型を留めなくなったとき、一つの影が、部屋の中に入り込んできた。

 

「べ、べダ……べダリア………!」

 

「バッ、バグナラク⁉」

 

 何処か機械的なボディーをした黒い影は、おぼつかない足取りで、こちらに近づいてくる。たどたどしい言葉遣いで、まともに要領を得ない。しかしそのイントネーションなどから、何とかではあるが、私の名を口にしていることは理解出来た。

 

 その黒い影は進行するたび、周りの置物や積み上げられた資料の山を、手当たり次第に崩していく。そしてそれが通った後には、そのちっぽけなオブジェたちは、跡形もなく消え去っていた。

 

 体中に警鐘が鳴り響く。あれは危険だと。

 

「ど、どどど、どうします、べダリアさん⁉」

 

 あまりの恐怖で腰の抜けたコフキは、私に助けを求めている。だが、今の私たちに、あいつを退けるほどの力はない。それに、もしここにあるもの達を奪われたりでもしたら…………

 

 その考えが頭に浮かんだとほぼ同時、私の体は動いていた。

 

 プログラムを起動させ、コーカサスカブト城内全体の警報を作動させた。そして次に、この研究室に施された防衛装置を起動させた。部屋中に設置されているパイプから、煙幕が放たれた。

 

「これは、何がどうなって………」

 

「ごめん、コフキ」

 

 状況が呑み込めていない様子のコフキをその場に放置して、私は自分の机に駆け寄る。そして棚の裏に隠された

木製の小箱を手に取った。この中に入っているのは、手のひらに収まるほどのサイズの琥珀色の結晶。素早く箱のロックを解除すると、この結晶を頭上に掲げた。

 

「来て、ゴッドホッパー」

 

 その直後、城全体に振動が走る。そして私達の頭の上から、黒い巨大な影が降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 警報が鳴り始めた直後、ラクレスはドゥーガと共に、一番にべダリアの研究室に到着した。しかしその現場は、酷い惨状だった。天井には巨大な穴が開き、あちらこちらに研究資料や()()()()が散らばっている。そしてここには、本来いるはずの人間の姿が一人見えていなかった。

 

「一体何があった⁉べダリアは何処にいる!」

 

 すぐ近くで腰を抜かして驚いていたコフキに、ラクレスは駆け寄る。膝を曲げ、彼と目線の高さを合わせる。酷く怯え、小刻みに震えを刻んでいる彼の姿は、助けを求める小動物のようだった。

 

「ア、アイツが部屋に入って来て、べダリアさんが何かを頭の上に掲げたんです。そしたら、上から黒いシュゴッドが落ちてきて…………」

 

 恐る恐ると言った様子で、コフキは当時の状況を語った。彼の証言を基にするなら、おそらくべダリアはそのシュゴッドに連れ去られた、いや、自ら呼び出したのだろう。

 

 しかしコフキの口から聞いた黒いシュゴッド、もしもその正体が、()()()()()()()であるならば………

 

「べ、べダ……べダリア………!」

 

 しかし悠長に考えている暇はないようだ。体をねじった侵入者が、怪しげな光を発しながら、ラクレスの方へと向かってくる。

 

「ドゥーガ!」

 

 従者の名を呼んだ。するとそれに応えるように、ドゥーガは素早く剣を抜き、ラクレスの下に駆けてくる。意思疎通はバッチリだ。その場から動けないコフキを彼に任せ、ラクレスは丸腰で、侵入者へと立ち向かう。

 

「ああああああああ!」

 

 獣のような咆哮を叫びながら、腕を大きく振りかぶった侵入者。この部屋の惨状を見るに、まともに食らえばひとたまりもないだろう。だが、それは裏を返せば、当たらなければどうと言う事はないということだ。

 

「ふっ!」

 

 一歩踏み込みながら体を捻り、敵の腕スレスレで攻撃を避ける。そして侵入者と交差したと同時、ラクレスは床を転がり、そこに転がっていた黄金の剣へと手を伸ばした。

 

「オージャカリバーZERO…………」

 

 見た目だけならば既に復元は終わっているように見えるが、まだその報告は、耳に入ってきていない。だが今は、

 

「見せてみろ。伝説の力を…………!」

 

 これを使うしか、道はないだろう。骨董品であろうが故障品であろうが関係ない。己が王であるのならば、必ず応えてくれるだろうと、ラクレスは静かに、自分に言い聞かせた。

 

 胸の前で剣を構え、左手を中央のレバーに添える。そしてゆっくりと、それを下した。

 

 

オオクワガタ

 

 雄大なメロディーが聞こえる。

お前は王だと、逃れられぬと、振り返れぬと。王へと言い聞かせるように。ああ、確かにそうなのだろう。だが私は、逃げない。どれほど残酷であろうとも、私の運命を受け入れる。

 

「王鎧武装!」

 

Lord of the Lord of the Lord of the Shugod!

 

オオクワガタオージャー!

 

 

 現れたのは、薄墨色の鎧を纏った戦士。それは、黒にも白にも染まらぬという意志の現れか。あるいはどれほど汚れようとも、誉れなどいらぬという決意の象徴か。それは誰にも分からない。剣を握る、王本人さえも。

 

 だが一つ分かっていることはある。それは、この力は脅威を打ち払う為のものだということ。

 

 黄金の剣が光り輝く。その切っ先を、侵入者の首へと向けて。

 




キングオージャーZERO強化パッチ入りました
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