ラクレス王の騎士   作:傘葉

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黒き神、大地に立つ

─────思いのほか、勝負は呆っ気なく幕を閉じた。

 

「はあっ!」

 

 烈迫と共に振り下ろされたオオクワガタオージャーの一撃。対する侵入者は、両手で刀身を受け止めようとする。が、少々甘かった。たかが両腕を構えた程度の防御では、王の一撃は止められない。

 

 振り下ろされた一撃は、腕ごと侵入者の体を切り刻んだのだ。

 

「ああああああああ!」

 

 獣にも似た悲鳴を上げながら、侵入者はもがき苦しむ。床の上で這いつくばりながら、痛みを抑えようと切られた両腕を掴んでいる。敵ながら、中々に痛々しい光景だ。何も知らぬ者であれば、思わず攻撃の手を緩めていたかもしれない。

 

 だが、王は敵対者に無慈悲だった。

 

 再び剣を、相手の首元へと向ける。

 

「貴様…………一体何者だ」

 

「べダリア…………ど、こ……殺して………や……る」

 

 返ってきたのは、またも無機質的な声。どうやら、これ以上の問答は不要のようだ。

 

「そうか。ではまずその命、頂戴しよう」

 

 オオクワガタオージャーが、再び剣を振り上げる。今度こそ、目の前の相手の息の根を止める為に。狙うは首、確実に切り落とす。

 

「ふっ!」

 

 真っ直ぐに首元目掛けて下ろされる黄金の剣。一寸の狂いなく、絶妙な力加減で振るわれたこの刃にかかれば、誰であろうとも無事では済まなかったであろう。しかしこの剣が、侵入者の体を再び切り刻むことはなかった。

 

「なに?」

 

 オージャカリバーZEROが振り下ろされたと同時、侵入者の体がその場から、()()()()()()()。まるで、幻術にでも使ったかのように、跡形もなく。

 

「どういう事だ………」

 

 目標を見失ったオオクワガタオージャーは、辺りを見回した後に、武装を解除する。仕留めるべき敵を逃してしまった。これは戦士として恥ずべき行為だ。だが、自責の念に囚われている暇など、今の彼にはなかった。

 

 彼の目に映るのは、侵入者が先ほどまで転がっていた床に広がっている、謎の液体。おそらく、その侵入者の体液か何かかと考えるのが妥当だろう。とりあえずは、犯人追跡の手掛かりに役立つはずだ。

 

「ラクレス様!」

 

 離れたところで戦闘を見守っていたドゥーガが駆け寄ってくる。傍にはコフキも一緒だ。

 

「お見事です、ラクレス様」

「世事はいい。それよりも………」

 

 周りの惨状を見渡したラクレスは、キングズホットラインを取り出しながら、ドゥーガに指示を飛ばす。

 

「この研究室を閉鎖、現場保存を行え。兵士も数人ほど連れてこい。私は、ゴッカンに向かう」

 

 

 

♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 

 

「何がどうなってんのかねえ」

 

 ラクレスからの連絡は、耳を疑うものだった。コーカサスカブト城の侵入者に、べダリアの誘拐、オージャカリバーZEROの起動。情報がいろいろと錯綜しているが、ひとまず事態の収拾はついたらしい。城内でも情報規制が引かれ、城の外部にこの一件が知れ渡る心配は無くなった。だが、この件で二つ、重大な問題が発生した。

 

 一つは、城内に忍びこんでいるスパイの正体。襲撃されたべダリアの研究室の存在を知る者は、城内でも一握りの人物たちだけだ。となると、スパイに該当する人物達も、必然的に絞られてくる。そしてその中には、側近であるドゥーガやボシマールもいる。個人的には、彼らを疑いたくはないのだが、私情を持ち込むのはいかんだろう。ともあれこちらは、一旦置いておこう。今考えるべきは、もう一つの方。

 

 ゴッドホッパーの存在が露見したことだ。

ゴッドホッパーは、俺がラクレス達には秘密裏に接触し、シュゴッドソウルを手に入れたもう一体の三大守護神だ。()()()()()に備え、べダリアに渡していたのだが、まさかこんな早期に使用することになるとは、思わなかった。俺も見通しが甘かったらしい。

 

 ただ、まだ立て直しは効く。ひとまずは、ゴッドホッパーと合流したいところだが、案外早めに叶ったようだ。

 

 イシャバーナの端も端、まともに道の整備もされていない山岳地域に立つ俺の頭上から、黒い影が降下してくる。

 

「来たな」

 

 黒光りのボディーを輝かせたソレ、ゴッドホッパーは、ゆっくりと俺の真横に降りてきた。丁寧に、無駄な動きなどは一切せず、着地したゴッドホッパー。だがその巨体ゆえ、少なからず衝撃が起きた。俺の顔辺りまで土煙が上がり、小石やら枯れ葉やらが舞い上がった。

 

 そしてその中から、一つの人影が近づいてきた。

 

「いやー、ひどい目に遭いました。これって保険とか出ます?」

 

 茶色い革製のコートを着た女性、べダリアだ。何処か外傷はないか気になったが、………この状況で図太い会話をしてる時点でその心配は消え失せた。

 

「無事そうで良かったよ。君が死んだら、俺のここまでの苦労がパーだったからな」

「もしかしてですけど、この状況でまだやることあるんですか?」

「もちろん。と言っても、城にいた頃とは、別のだけどな」

「やっぱウチって、ブラックですねー」

 

 うわーと、わざとらしいリアクションを見せるべダリア。だがそんなことを言いつつも、先ほど真っ先に口にしたのが、保険というワードだったりのを、俺は忘れていない。空気が読めないというか、図太いというか、まあなんにせよ心身ともに問題はないようだ。

 

「そんなお前に嬉しいご報告だ。お前、死んだことになってるらしいぞ」

「…………どういうことです?いくらなんでも、早すぎませんか?」

 

 先ほどまでは余裕シャキシャキと言った彼女であったが、一瞬にして表情が歪んだ。少なからず、動揺は与えられたようだ。

 

「そうだな。情報統制に各方面への根回り、どれを取っても早すぎる。今回の一件が()()()()()()、だったらの話だがな」

 

「…………そういうこと」

 

 少し間が空いてからの呟き。普段よりいくらばかりか低いその声は、何か嫌な事を察した、暗い響きを持っていた。回転が良くて助かったよ。

 

「想定内の想定外、ってやつですか」

「その心は?」

「あなたとラクレス様は、私たちの研究所の存在を、過剰なくらいに秘匿していた。それはおそらく、城内にスパイがいると確信していたから」

 

 一呼吸置いた彼女は、黒い瞳で俺を見つめる。こちらの心のうちを見極めるような鋭さで。何も脅威は感じない。だが俺の背中には、心地の悪い冷や汗が流れていた。

 

「問題はそのスパイが誰なのか、そしてその目的は何なのか。破壊工作あるいは王の暗殺、もしくは、機密情報の横流し。敵の目的がはっきりしない以上、ピンポイントで対策を行うのは困難だった。だから、多くのトラップをあなたたちは貼っていった…………違いますか?」

 

 首を軽く縦に振り、肯定の意を伝える。内容は八割方当たっている。それにこの情報整理量からして、随分前から、当たりに気付いていたようだ。

 

「でも私にこの子(ゴッドホッパー)のシュゴッドソウルを渡したのは、は全く別案件ですよね」

 

 これ見よがしに、彼女は手のひらの琥珀の結晶を見せびらかしてくる。掌でそれを弄び様子は、マリオネットを操る人形師のよう。そしてそれは、俺自身の立場を暗喩しているようだ。下手に言い訳をするのは、悪手だろう。

 

「正解。ほとんど全部合ってるよ」

 

 無駄に弁解をするつもりはない。わざとらしく腕を上げて、降参のポーズを取る。すると彼女は、一瞬驚いた顔を見せた。

 

「…………意外でした」

「何がだ」

「こうも簡単に、あなたがこの話を認めるなんて」

「単に言い訳をしても分が悪いと思っただけさ。知っての通り、俺は分の悪い勝負は苦手な質でね。別に珍しい事でもないだろう?」

「…………」

 

 べダリアはまだ何かを言いたそうではあるが、なぜか口に出そうとしない。そうも疑問と不満を混ぜ合わせたような表情をされると、こちらも気掛かりになるんだがね。

 

「それで、そんなにペラペラ秘密を喋って、君はこのことを聞いてどうするつもりだ」

「どう、とは?」

「とぼけるなよ。自分でも分かってるはずだ」

 

 一歩踏み込むと同時、腰に架けてあるナイトカリバーに手を掛けた。抜刀と同時に、その切っ先をべダリアの首元に添える。

 

 これは単なる脅しのつもりだ。だが、刃と首の間には、数ミリの空間もない。俺が少し力を入れれば、彼女の首は簡単に吹き飛ぶだろう。それは、あちらも分かっているはず。現に彼女は無駄に抵抗をする素振りを見せていない。だがそれとは別に、やはり肝は座っているようで、両手を頭上に上げ、指をぶらぶらと揺らしている。

 

「君は今、公的には死んだ事になっている。だがそれはそれとして、君の知っている情報を何処かでふりまかれるのも不味い。ではどうするのが正解か」

「今、私の首を切る。それがベストな選択だと思いますが?」

「リスクを第一に考えればな。だが君は、ここで失うには惜しい人材だ」

「…………」

「とりあえず返答は、待っておいてやる」

 

 ゆっくりと、剣を首元から離す。そしてそれを腰へと納刀した。

 

 予想外の俺の行動に、べダリアが動揺しているうちに、足早にゴッドホッパーへ駆け寄る。

 

「俺はこれから一仕事してくる。その間に、どうするか考えておいてくれ。もちろん、どんな答えを選ぼうが、君の命は保証すると約束しよう」

「……随分とお優しいんですね」

「そうでもないさ」

 

 足を止め、ちらりと肩越しに彼女を見ると、良いものを見たと言った様子で、ニヤニヤとした笑顔を作っていた。そのような目で見られると、何ともむずがゆい気分になる。というか、あいつ本当はわかってるよな。

 

…………少しばかりふざけてみるか

 

 

 

「ああ、それと、ここから人の足で逃げるのは無理だ。下手に動くと死ぬかもだからな」

「ええー、じゃあ大人しくしときまーす」

 

 

 

♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 

 

「証拠不十分、釈放する」

 

 

 

 結果から言えば、ラクレスの急ごしらえの策は、充分な成果を残してくれた。まだ多少の疑問が残ってはいるが、現場の偽装工作、ラクレスのゴッカン連行などにより、バグナラクをおびき寄せる事に成功した。

 

 だが、おそらくこの進軍はおとり。派手な巨大戦力で目を引き付けている間に、小数戦力で本丸に潜入、といったところか。なるほど、筋は通っている。だがラクレスは、この件の節々から、言いようがない違和感を感じていた。今回の騒動は、所々に一見するとバグナラクが起こしたように捉えられる、がその事実は違うだろう。むしろ、そう見えるように()()()()()()()()()()ようで。

 

「いつ寝首を掻かれるか、分かったものじゃないな」

 

 自虐気味にラクレスは笑いを零す。十五年前に身に染みた、宇蟲王の脅威。あの時は夢のようだと思っていた、あのような巨大な存在と剣を交える事が、今現実になろうとしている。だがそれと同時に再認識するのだ。その強大な恐ろしさを。

 

「奴らは強い。我々人類の物差しでは、測りきれない程にな。だが私は、私たちは、負けない。

そうだろう?カサス」

 

 

 ラクレスの見上げるゴッカンの空。その雲の中から、一つの影が飛来してくる。青い軌跡を描きつつ豪雪のシャワーを掻い潜り、ラクレスの前へと降り立ったその影。その外見は、伝説の守護神の一角、ゴッドクワガタと瓜二つであった。

 

「来たか、ゴッドクワガタZERO」

 

 ゴッドクワガタZERO─────そう呼ばれた黒いシュゴッドから、ラクレスの待ち人が降りてきた。

 

「お迎えに上がりました、ラクレス様」

「首尾はどうだ?」

「問題なく。いつでも行けます」

 

「そうか……では、後は任せる」

 

 

 

♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 

 

「あれがバグナラクの…………」

 

 ラクレスから呼び出された俺は、その足でバグナラクからの進軍の防衛に入った。現在そのラクレスは、別ルートでコーカサスカブト城に向かっている。俺の役割は、ラクレスが城の侵入者に接触するまで、こちらの敵を引き付けておくこと。俺が彼らをあまりに早く倒しすぎると、却って彼らを警戒させ、そのまま撤退する可能性もあるため、出来るだけ粘って勝てという条件付きでだ。

 

 しかし、敵であるバグナラクの巨大戦力も、目に見える範囲で優に五体は越えている。キングオージャーZEROの武装試験を行えると思うと、申し分ない規模だ。

 

「伝説の贋作。いや、伝説を越える………その為のZERO」

 

 原点を越える新たな原点。世界をも敵に回す反逆の伝説。今日は、その新たなページが紡がれる。

 

 

「降臨せよ、キングオージャーZERO!」

 

 天高く掲げたナイトカリバーから、合体指令が発せられた。核となるゴッドクワガタZEROから伸びたコネクターに、次々とシュゴッドが接続されていく。

 

 煌びやかな詠唱も、喝采も必要ない。かの守護神が、人々の恐怖に打ち勝つ為の希望となる存在だったのなら、この人工神が与えられた役割は、全くの逆。恐怖を伴ってでも、ただ力を振るい続けるだけの、武力の化身。

 

 黒く、深く、その身を染めていく。

 

ZERO! ZERO!

 

KINGOHGER ZERO!

 

 数秒の儀式の末、黒き神は姿を現した。雲間から零れる紫電と共に、大地へと着地。

 

 その緑のデュアルアイで、敵の大群に狙いを定めると、大地を蹴り、駆け出した。






・カサス
俺たち、親友だろ!……的なことを言いながら、ラクレスに隠していることが山のようにある

・ラクレス
カサスが何か隠している事は勘付いてはいるが、『私の親友のことだ。何か考えがあるに違いない』と思い、詮索はしていない


・サナギム
念には念をで、動員数が増加
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