黒き巨人は、悠然と前に進み始めた。
サナギム達との相対距離は、約数百メートル。お互いに相手を目視可能な位置だ。
「■■■■!」
咆哮を上げながら、先手を取ったのは、サナギム達。両手で構える槍を逆手で構え、銃モードへと変形。一斉にキングオージャーZEROへ発砲する。
対するキングオージャーZEROは、全身のブースターを起動。ふわりと空中に浮上すると、軽やかに舞踊を踊るように、次々と砲撃を躱していく。
「ふっ!」
そして砲撃の合間を縫って、サナギム達へと接近。空中で右足を前に出し、蹴りのポーズを取る。標的にされたのは、一番手前で進んでいた一体。
「■■■■⁉」
見事にキックは、腹部に命中。まともに受け身を取ることも出来ないまま、隊列の後方にまで吹き飛ばされた。これに一番速く反応したのは、吹き飛ばされたサナギムのすぐ後ろにいた、二体の別のサナギムだ。
「■■■■!」
「■■■⁉」
二方向から挟み込むように、槍を振りかぶってきたサナギム。幸い、長物を振り上げるという動作の性質上、動きはそこまで速くはない。
足のブースターの角度を調整。少し右寄りに出力を調整すると、地面を滑るように回転しながら、手に持つシュゴッドソードZEROを盾のように横にして構え、攻撃を受け流す。これは、衝撃の緩和と、次なる一手へと繋ぐ所作を両立した防御。この防御の勢いそのままに回転を続け、シュゴッドソードZEROを、横薙ぎに払った。
「■■…■…■!」
「■■■■…!」
サナギム達が反応するその寸前、彼らの腹部を、ZEROの刃が切り裂いた。たったの一撃。小細工も何もしていないただの斬撃であったが、それだけで、彼らを仕留めるには充分だ。
背部のゴッドトンボのメインブースターと羽を展開。キングオージャーZEROが再び上空へと舞い上がったと同時、二体のサナギムが、光を放出しながら爆散した。
「やれる……やれるぞ!」
キングオージャーZEROのコックピットから、サナギムの編隊を見下ろすカサス。彼はこの巨人の力を、誰よりも強く感じ取っていた。通常のシュゴッド達とは違い、意思のない人工シュゴッド。彼らから返ってくるのは、意思でも、呼応でもない。ただ命令に応えるという、無機質で、機械的な反応のみ。そこに、勇気だとか愛だとか、ましてや使命なんてものが入り込む余地は一切ない。
だが、それでいい。このただの力こそ、彼らが求めた反撃の剣なのだから。
「行け!」
太陽を背に構えたキングオージャーZEROの各部から、小型シュゴッドが射出。胸部のゴッドクモZERO二体と、両腕のゴッドテントウZEROがそれぞれ一体ずつ、追尾式のミサイルのように、編隊目掛けて翔んでいく。このシュゴッド達には、キングオージャーZERO本体のような協力な武装は搭載されてはいないが、単独での自動操縦能力を保有している。
今もまさに、その複雑な軌道でサナギム達を翻弄。キングオージャーZEROへの注意を散らしている。
そしてそのコックピットの中で、カサスは戦場から離れた、遥か遠くの空を見つめていた。
「想像以上だ。これなら……!」
鎧の下で、ニヤリと口角が上がる。
先日、シュゴッダムをあわや壊滅の危機へと陥れかけたバグナラク。それを今や、手玉に取るように弄ぶことが出来ている。その事実が、カサスの胸を躍らせた。まさしく有頂天であっただろう。だがそこに、慢心はなかった。彼らが仮想敵としているのは、目の前のバグナラクよりももっと強大な敵。それに比べれば、彼らは文字道り、ムシケラでしかないのだから。
眼下で行われている戦いを見つめながら、もう一度この巨人のスペックを見つめ直す。例えば、ただの誘導用武装であるシュゴッドたちの遠隔攻撃であったが、想像以上に使える。使い方次第では、かなり化けるかもしれない。
そしてふと、カサスは苦笑を零した。
すぐさまこのような考えになってしまうのは戦士としての性だろうが、自分でも今のは異常だと感じてしまった。どうやら自分も、そうとう戦いに毒されているらしい。
「そろそろ試してみるか、あの力を」
射出したシュゴッドへ、ZEROへの帰還プログラムを実行させる。ピタリと攻撃を辞めた四体の小型シュゴッドは、再びZEROに合体。それを確認したカサスは、ナイトカリバーを使用し、新たなシークエンスを実行した。
守護神の口上を高らかに唱えたその直後、地平線の彼方から、三体のシュゴッドが舞い降りてきた。
初めの一体ゴッドカブトZEROは、腹部分から体が真っ二つに変形。大砲のような形となり、キングオージャーZEROの右腕へと装着。
続けて向かってきたのは、ゴッドスコーピオンZERO。全ての足と針を体の左に移動させ、巨大なクローへと変形、左腕に装着される。
そして最後の一体ゴッドホッパーZEROは、両後ろ足と本体が分離。足は両膝、体本体はVの字型に変形し、胸アーマーへと姿を変えた。
そしてZEROは、新たな
それはさながら、天より降り立った神の使い。
陽の光を背に、両腕を軽く広げた新たなキングオージャーZEROは、ゆっくりと地面に降下していく。
「─────!」
それに、この場にいた誰もが言葉を失った。伝説の一端として描かれた伝説の守護神の降臨。まさにその再現であるかのように、眩い光を放ちながら降りてくるそれに、敵であるはずのバグナラク達さえ、目を奪われ立ち尽くしていた。
ここが何かの儀式の場であったなら、その言動にも言い訳ができたのかもしれない。だがここは戦場、一瞬の隙が、終わりの時に近づく場所だ。
ドーンっと、地を割る轟音が響いた。
発生源はレジェンドキングオージャーZEROの右腕、カブトキャノン。発射された黄金の弾丸が、雨嵐のようにサナギム達に襲い掛かった。
「■■■■!」
回避が、一瞬遅れた。
その場から動くことも出来ないまま、上空から遅いくる弾丸にその身を晒す。オリジナルではないとはいえ、ZEROのエネルギー出力も相当なものだ。このまま撃たれ続ければ、いつ体が土に還ってもおかしくはない。
しかしその直後、地獄の業火は、一瞬にして止んだ。そしてそれと取って代わるように聞こえてきた、ブースターを吹かした轟音。
砲撃によって出来た黒煙の中、レジェンドキングオージャーZEROが、地面スレスレを低空飛行してきたのだ。
「まずはお前だ」
バグナラク軍の混乱の中、超スピードで向かってきたカサスは、手前にいたサナギムへと、左腕のスコーピオンクローを突き立てる。
「■…■…■■!」
自慢の針で、容易く体を貫通。そのままの勢いで体内に毒を注入すると、腕を振り回し、思いっきり地面に叩きつけた。刺突攻撃に加え、致死量にもなる猛毒の注入により、既に彼は虫の息だ。
「■■■■!」
無論他の仲間も、それを黙って見ていた訳ではない。
地面に転がる仲間の屍を越え、勇猛にもその槍を、黒金の巨人に突き立てんと奮起する。が、その怒りが、カサスに届く事はない。
「遅い!」
両足に装着されたホッパーアーマーを使い、脚技を繰り出す。巧みに攻撃を捌き、一瞬の隙を見せ、本体に蹴りを食らわせた。吹き飛ばした個体には見向きもせず、さらなる追撃を警戒する。
「■■■■!」
真正面から向かってくるサナギム。槍を頭上まで振りかぶり、袈裟斬りの要領で斬撃を放った。だがレジェンドキングオージャーZEROは、それを避けることをせず、あえて胸部で受け止めた。
鋼の防御を誇る胸部のホッパーアーマーで、難なくサナギムの攻撃を受け止めると、手足を動かすこともせず、そのまま軽く全身から、黄金のエネルギーを放出。正面からまともにそれを食らったサナギムは、後方数十メートルへ、大きく吹き飛ばされた。
佇むZERO。そしてその周辺に転がる、満身創痍のバグナラク侵攻軍。まだ僅かに息はあるが、このまま戦ってもどうなるかは、明らかだ。そして彼らを一瞥すると、ZEROはふわりと上空へと飛翔した。
眼前にてZEROを見上げるサナギム達。だが彼らはまだ、戦意を失ってはいなかった。手に持った戦槍を銃のように持ち、ZEROへと照準を定める。が、空中を浮遊しているZEROに、彼らの決死の攻撃が当たる事はない。一方のZEROは、空から彼らを見下ろしていた。まるで、子供のいたずらをあしらうように。
「これで、しまいだ」
ふと、ZEROが動きを止めた。そしてその全身から、黄金のエネルギーが溢れ出す。
ZEROの背後に出現した、巨大なシュゴッダムの
「行け!」
放たれたのは紫電を帯びた黄金の嵐。
レジェンドキングオージャーZEROの全身から溢れ出たそれは、空を巻き込み、大地を穿ち、賊を渦へと巻き込んでいく。風のささやきも木々のざわめきも、恐怖も、全てを得も言わせずにだ。全てをまとめて消し去って、その後に残ったものは─────
♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「終わりましたね」
「見てたのか」
例の山頂辺りへと戻ったところ、べダリアが出迎えをしてきた。その顔に憂いの色はない。彼女なりの覚悟は決まったようだ。
「あれだけ派手にやれば、流石に嫌でも目につきますよ」
そう言って彼女が見つめる先には、半径数十メートルに及ぶ巨大なクレーターが出現していた。先ほどの戦闘───というより、最後に放ったレジェンドキングオージャーZEROの最大出力の一撃で出来たものだ。
無論サナギム達は全滅。戦果としては申し分ない。
「どうでした?伝説の力は」
「恐ろしい。そう思ったよ。今まで見たどんな力よりも」
通常のキングオージャーZEROとは比較にならないパワー、スピード、出力。頼もしさを感じる反面、その全てに畏怖を感じた。もしも、この力が暴走することがあったりしてはと。
「ただ、やはりあれだけの力だ。リスクなしでどうにかなるものでもないな」
「リスク?」
「ああ。さっきの戦闘後、合体に使った全シュゴッドが動かなくなった。回路周りに結構な負荷が掛かったらしい。早いとこ改善しないと─────」
これが戦闘後だったから良かったものの、戦闘中に起きてしまっては笑い話では済まない。俺一人でもやれるだけのことは、
「それ、私がやります」
「なに?」
俺の声を遮るように、べダリアが口を開いた。はっきりと、強い意思を帯びた声を。
「色々考えました。でも、私には分からなかった。何が正しくて、何が間違いかなんて。でも一つ、はっきりしてることはある」
何かを回想するかのように、彼方の巨大なクレーターを見つめていたべダリア。その胸の内に湧き出ているのは、これほどの力を生み出した後悔か、或いは達成感か。どちらにしても、この戦場を作り出した一因には、彼女の力が関係している。それを受け入れるか、拒絶するか。
「私の行いで、救われた命があるという事」
どうやら彼女は、前者のようだ。
「正直、あなたとラクレス様が何をしようとしているのか、私には理解出来ません。でもそれは、今を生きる民のため、でしょ?」
「そんな不透明な理由で……」
「不透明でも不純でも、これが私の選んだ本音です。私は、あなた達に着いていきます。たとえそれが、修羅の道でも」
「くっ、くくくく………」
思わず乾いた声が出た。どうにも、天才と言われる奴らは、他人と考えていることがズレているようだ。
「馬鹿だな、君は」
「結構、真面目に言ったつもりだったんですけど」
「そうか?」
「そうです。ちゃんとこの目を見て下さい」
「そうか」
何とも晴れやかな顔で答える彼女に、憂いの色はない。それに感化され、俺も少し頬を緩ます。……自然と、右腕を彼女に差し出していた
「何はともあれ、よろしく頼むべダリア」
「これで仲良く共犯者、ですね」
指と指とがガッチリ絡み合う。俺とべダリアとを繋ぐのは、愛情でも有情でも、忠義でもない。しかし、ただの利害の一致、というわけでもない。
自分でも、何と言い表せば良いのか分からない。だがこの誓いは、嘘ではないと、不思議と感じられる気がした。
「というわけで、腕を出せ」
「ちょっと待って下さい。何ですかその注射器?」
「ゴッドスコーピオンの毒を解析したものだ。こいつを打ち込まれた人間は、一時的に仮死状態になる」
「……イヤーな予感が」
「大丈夫、痛みは一瞬。次目が覚めたら、何もかもが終わっている」
「………やっぱ前言撤回で──」
♦♢♦♢♦♢♦♢♦
────べダリアの遺体を発見した
ラクレスは思いのほか、その報に取り乱す事はしなかった。自分でも驚く程に。むしろ疑問という思考の方が、脳内の多くを占めていた。
城内の襲撃者は、警備に当たっていた兵士を依り代に、再びラクレスに刃を向けてきたが所詮は付け焼き刃。ラクレスのオージャカリバーZEROとキングスウェポンによる一糸乱れぬ堅実な攻防の前に、無惨にも敗れ去った。
そしてその後、
防衛戦からの帰路の山中で、べダリアの遺体を発見したとのこと。彼女の周りに争ったような形跡はなく、死因は不明とのこと。
そして彼は、べダリアの亡骸を持ち帰った。
それは、本当に綺麗だった。まるで心地良い夢を見ているかのように、安らかな顔で。体にも傷一つなく、死んだという事実が、嘘であるかのように。
「解剖はしないでくれ。これ以上、彼女を傷つけたくはない」
カサスは、一言そう言った。ラクレスは、何も言わなかった。いや、言えなかった。自分には、彼の裁量に口を出す資格はないと。
自分は多くの人々を利用し、傷つけてきた。無論、許されるなどとは考えてはいない。しかしそう思うと、自然と口が開くことは無かった。きっと、目の前の彼も同じだろうと。いや、彼女の上司である以上、カサスの方が、思うところがあるだろうと。
─────多少の不信感はあった。
分かっていたから。彼が意味もなく嘘をつくような人間ではないと、そう信じて。
しかし、もしも彼に足を掬われるようなことがあれば、
「この命を差し出すのも、悪くはない」
どうせ、こんなロクでなしの最期なんて分かりきってる。それを変えようとも、抗おうとも思わない。ならばせめて──────────
「何かおっしゃりましたかな?ラクレス殿」
「ただの独り言だ。気にする事はない。それより、例の件はどうなっている?」
「はっ、滞りなく。既に準備は整っております。あとはそちらのゴッドカブトさえお貸し頂ければ─────」
「焦るな。既に手筈は整ってある。とびっきりの助っ人もつけてな」
「それは心強い。では、早速取り掛かるとしましょう」
「これほどお膳立てをしたんだ。分かっているとは思うが、失敗は許されないぞ
──────────カグラギ・ディボウスキ」
「カ・サ・ス・さ・ま~これからトウフに行くのでしょう?なら~、届けて欲しいものがあるのですけど~」
「え、ヤダ」
レジェンドキングオージャーZERO
三代守護神の能力を忠実に再現し過ぎた結果、機体側が負荷に耐えられなくなりオーバーヒートした
カタログスペックだけなら本家レジェンドキングオージャーとほとんど同等だが、継戦能力の面で圧倒的に不利