龍騎外伝 仮面ライダーヒルツ   作:巽★敬

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※注意

本作品は仮面ライダー龍騎を題材とした二次創作です。

オリ主を中心に話が進みますが作風の都合上、主人公は非常に問題ある性格であり、嫌悪感を抱く言動や発言が数多く見られます。
また、特定の職業や立ち位置の人物を貶す場面も有りますが、あくまでキャラ表現の一貫であり作者自身の声ではありません。
寧ろ「こんな人間になったら終わりだ」と言う気持ちで書いてます。

更に“自殺“を扱う場面も含まれており、人によれば気分を害する可能性が有ります。
以上の事を了承出来る方のみ読んで頂けると助かります。


第1話 「零落」

200X年5月半ば 日本の某所

 

 夕暮れ時。とあるパチンコ店から一人の男が不機嫌な面持ちで出てきた。

 

「クソ、絶対イカサマしてんだろ此処の台!」

 

 ブツクサ文句を垂れながら下品にもその辺に唾を吐く男。どうやらスロットに負けたようだ。

あまり良い生活を送ってないようで、顔は実年齢よりも老けており、似合わない金髪メンズショートも相まって人を寄せ付けない柄の悪さを醸し出していた。

 

 男の名は、沼川彰悟(ぬまかわしょうご)。 41歳、独身。

 

 幾つも職を転々としてきたが何れも長続きせず、現在は職も付かず真昼間からパチンコと酒に明け暮れる日々を送っている。

両親は既に他界。父は中学の頃に亡くなり、その母も2年前に病死。

現在は母から多額の遺産を引き継いで生活をしている。上手くやり繰りすれば一生暮らせる程の額だったが、この男は愚かにもその殆どをギャンブルに使い果たし、ご覧の通りとても褒められる生活をしていない。

 

 今日はこのまま帰宅するつもりだが、かなりの額を損したので機嫌が治らない。

とりあえずストックが減ってる煙草とビールでも買おうと思い、沼川は最寄りのコンビニエンスストアに立ち寄った。

 

「いらっしゃいませー」

 

 レジには見慣れない若い女性の店員が立っていた。

顔立ちからして10代そこそこで、名札に研修中の文字が書かれてるから新人のバイトだろう。

店員の明るい挨拶を無視し店内で適当にビール缶を集めた後、会計に向かう沼川。

商品を計算中、何時も買う煙草を注文した。

 

「▲▲▲(タバコの名前)一つ」

「はい?」

 

 しかし、店員は一瞬戸惑ってしまった。

沼川は口にしたのは商品番号ではなく商品名だった。

 店員はまだ働き始めて日が浅くしかも女子高生。

煙草の知識などほぼゼロに等しい。

 

「...申し訳ございません、もう一度お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「▲▲▲」

 

もう一度商品名を言うが店員は尚も理解ずしどろもどろ。素直に煙草の名前だと言う事、及び商品番号を教えれば済む話なのだが...これが沼川の尺に触った。先程スロットで負けたストレスも相まって彼は声を荒らげる。

 

「▲▲▲って言ったら▲▲▲だろが!従業員なら商品くらい把握しとけよ!」

「も...もうし訳...ございません...」

 

店員は全身を震えさせたちまち泣きそうになった。10代そこそこの少女が40代の強面の男から罵声を浴びてるのだ。怖くない筈がない。それを良いように沼川は更に追い打ちをかける。

 

「何だその小さい声はぁ? 謝る気あんのか? 泣きゃ済むと思ってんのか? 仕事舐めてんのか、ああ!?誠意が見えないんだよ誠意がぁ!テメエみたいな使えない下っ端が多いから日本は悪くなる一方なんだよ!悪いと思ってんなら今ここで土下座でもするか、ああコラ?!」

「ひ……」

 

 店員の対応が気に入らないぐらいでここまで言う必要が有るだろうか?

この時代に動画配信サービスが流行していれば彼は隠し撮りされた動画で吊るされ確実にネットの玩具と化してただろう。

これだけ大声で叫べば野次馬も集まるが、皆怖気づき仲裁に入らない。

 

 実はこの沼川と言う男、今までも各地で似た様な迷惑行為を繰り返しており、近所では悪い意味で評判だった。

 例を上げると、スーパーや飲食店などの従業員に暴言を吐く事複数。負けた腹いせにスロット台に蹴りを食らわせ出禁になったパチンコ店は数多い。

他にも家の近くの公園で児童たちが遊戯の練習をした日には幼稚園に「煩くて昼寝の邪魔だ、周りの迷惑考えろ」等とどうしようも無いクレームを入れたり、

家の近くでマンション建設中があった時は「税金の無駄だし五月蝿いし家に影が出来て迷惑だから今すぐ作業を中止しろ」だのと工事現場と口論になったりと、兎に角自己中心的な事案ばかりで上げれば切がない。

 傷害や窃盗など重罪は犯してないので警察が来ても基本補導や厳重注意で留まってるのが何とも面倒である。その内ヤバい事件でも起こすのでは?と「凶悪犯罪者予備軍」のレッテルを貼る住民も少なからず存在し、周囲からは煙たがられてた。

 

 実際、このコンビニでも以前から度々カスハラ紛いな行為が行われ、店側は頭を悩ませていた。誰しもこんな人物と関わりたくないのが普通だろう。

 

 念の為書き記すが、金銭や土下座を強要する等、内容次第でカスタマーハラスメントは立派な犯罪行為となるのでコレを読んでる人はくれぐれも真似しないでもらいたい。

 

「お客様、私が対応いたします」

 

 そこへ30代前半程の男が割って入ってきた。沼川は男の顔に覚えがある。この店の店長だ。

 

「ああ、店長か。どんな教育してんだ?」

 

 沼川が事態の経緯を"高圧的に"説明し、店長は大人の対応を行う。

 

「大変申し訳ございませんでした。以後こちらからも指導を徹底します」

「はっ、指導だけじゃなくいっそ辞めさせろ。レジ打ちなんて底辺な仕事も満足に出来ん役立たずなんざ、社会で邪魔なだけだ」

「.......」

 

 側に居た女性従業員は深く傷つき何も言葉が出なかった。

 たかがレジ打ちと言うが、必要だから存在する立ち位置であり、接客業である以上従業員の対応はその店の顔となる立派な仕事である。

職業差別で人の優劣を決める等決してあってはならない事だ。まして大勢から軽蔑される者が人の仕事について偉そうに語る資格など無い。悪辣な態度を崩さない沼川に、いよいよ店長も憤慨した。

 

「ではお引取り下さい」

 

 店長の言葉に「はぁ?」と圧をかける沼川。だが店長は強気の姿勢を崩さない。

彼もこの男の悪評を把握していた為、前もって上層部に相談していた。そして"いざと言う時は追い返し出禁にせよ"と指示があったので今日まで身構えていたのだ。

 

「先程からそちらの言い分は最早ただの暴言です。他のお客様にも迷惑になります。直ちにお引取り下さい」

「何だぁその対応は!?店の人間がそんなんで良いのか!?俺はここの常連だぞ、客は神様だろうが!」

「貴方の様な神が居ればこの世の終わりです。もう一度言います、帰って下さい。これ以上続けるなら警察を呼びますよ」

「ッ!」

 

 沼川はもう一度喰ってかかろうとしたが、"警察"という単語を聞いた途端大人しくなった。

そして店長の薬指に結婚指輪が付いてるのが目に入り、更に言葉を募らせる。

 最後は舌打ちしながら何も購入せず店を後にした。

 

「ッチ、潰れちまえこんな店....」

 

 去り際の再、背後から店長が「貴方は出禁です!」と叫んだが酷く逆ギレしていた沼川の耳には全く届いてなかった。

 

 

 結局煙草もビールも買えず不機嫌なまま帰り着く沼川。

見るからに建て替えが必要そうな古びたアパートの扉を開き、自室に入るや否や散乱していたビールの缶を乱暴に蹴飛ばした。

部屋の中は至る所にインスタント食品の容器や新聞にアダルト雑誌などが散らばっており足の踏み場が無い。この男の醜い心を見事に表してると言えよう。

 

「クソぉあの店長、結婚してるからってイキりやがってよ! どうせあんなの外っ面だけだろ偽善者が!

あんなのと一緒になる女もとんだ能無しだ! 結婚すりゃ正しいだの幸せだの考えてる奴は皆毒ガスでも吸って○んじまえ!」

 

 既婚者と言うだけであの店長夫婦がここまで言われる筋合いが有るだろうか。少なくとも騒ぎをお越し周りを辟易させるも自分の非を改めないこの男よりは遥かに慕われる要素は多いだろう。

 例え幸福の形が様々であり結婚だけが正義でないにせよ、他の家庭を人格否定する権利などこの男にはない。

 

「......しゃあない、また適当なニュースかクソドラマでも吊るしあげっか」

 

 そう言って沼川は汚れたパソコンを立ち上げた。

 沼川にはギャンブル以外にもう一つ趣味が有った。それは自分が見た、知った映画やTV番組のレビュー、実際に起きたニュースなどをブログに書き記す事である。だが彼が今まで書いてきた記事は何れも酷い内容ばかりだ。

 

 彼はどんな映画に対しても然程興味が無く、飛ばし飛ばしで再生し禄に内容も把握せず「登場人物全員頭悪すぎ」だの「こんな映画を好きなヤツは頭がイカれてる」だの「大した学歴も無い奴が作って人気になりイキりちらしてる」だのと製作者やファンを侮辱する発言の数々、大量の差別用語やネットスラングが使用され、

 殺人や著名人の訃報など普通ならデリケートに扱うべきニュースにも馬鹿にしたようなアスキーアートを使って茶化す等、観覧した者を不快にしかさせない。

 

 今で言う「逆張り」「炎上商法」であり、あえて反社会的な内容を書き記す事で反感を買い観覧数を伸ばしていた。しかし、逆張りで伸びる観覧数など最初だけで今ではすっかり過疎状態だ。

 コメント欄で彼を指摘する者が居れば「個人ブログで何言おうが勝手だろうが。何時から日本は発言の自由が奪われた? 文句言う前に法律の勉強しろ〇〇(差別用語)野郎が」と、これまた名誉毀損されそうなブーメランで返信し馬耳東風。

 レビュー、日記とは名ばかりな憂さ晴らしのゴミ溜めである。

 

因みに現実の日本では2022年6月13日の午前をもって

インターネット上の誹謗中傷対策として「侮辱罪」を厳罰化する改正法が可決された。

今後、沼川の様な行為はより訴え易くなる。

匿名だろうがネット内でも自身の情報を完全にシャットアウト出来る訳でない。

それなりの責任を考えず無神経な発言は控えるべきである。

 

少しでも苛立ちを解消する為、沼川は冷蔵庫に残ってたロング缶ビール3本を一気に飲み干した。

 パチンコ店の騒音に慣れたせいか、文章を書く時に静かなのは落ち着かない。

テレビの電源を入れ適当にチャンネルを変えてると

毎週この時間に放送されてる音楽番組が目に入った。

そこでは3人の少女達がインタビューを受けていた。

ここ数年で人気が沸騰している『ミライツェル』と言う名のアイドルグループである。

映像の中でグループのリーダーである"シア"が司会の質問に答える。

 

『じゃあ、今回の曲の作詞はシアさんの案も入ってるの?』

『はい。最初はまさか自分の案を取り入れてもらえるなんて思ってませんでしたが、周りの人たちが凄く良いって言ってくれて』

『それは凄いね。何か聞いてくれる人へのメッセージとか有るの?』

『一言で言えば応援歌なんですけど、皆人それぞれに自分の応援歌を持ってると思うんです。

アイドルと言っても私はまだまだ人生の半分も生きてませんし、全ての人を元気付けるなんて偉そうな事も言えません。だから一緒に頑張ろうと無理に奮い立たせるんじゃなくて、色々辛い思いをして前に進めない人に寄り添う様な曲でいれたらなって、そんな想いがあります』

 

インタビューを終えると彼女等はステージに登りリリースしたばかりの新曲を疲労した。

曲が終わるとステージ拍手と歓声に包まれ画面には少女達の明るい笑顔が映し出される。

その画面を沼川は唐辛子の様に赤い顔で心底面白くなさそうに眺めていた。

アルコールの匂いを部屋中に充満させ、品の無い月賦や吃逆を繰り返しながら毒を吐く。

 

「へ、歌ごときで、ひっ、人生豊かに、ひっ、なりゃ誰も苦労しねえ、ひっ、よ経験浅い餓鬼が。

だいたい何がアイドルだ。 ひっ……どうせプロデューサーと枕でもしてんだろ、ひっ……チヤホヤされるのも……ひっ、若い内だけ。歳喰ってババアになりゃ皆ゴミ、ひっ、みたいに捨てられるってのに。応援してる奴らも同じだ。直ぐに飽きて…ひっ、忘れちまうんだろ、◯◯(差別用語)が…」

自分がうだつが上がらない人生だからといって、一生懸命な人間や応援する者をここまで侮辱し卑下する様になれば最早人として終わりである。

この愚か者にとって年老いるとは枯れる、朽ち果てると言う捉え方しか無い。

歳を取らなくては解らない健康の大切さ、働いてみないと解らない親のありがたみ、幼少の頃勉強した道徳心の重要性の理解など、コイツには皆無に等しい。歳や周囲を言い訳にして何もかもが無駄な物にしか写らない。だから頑張る者に対しこんな踏みにじる発言しか出てこない。

 

 そもそも沼川がコレまで仕事が続かなかった理由。

世の中人が退職する事情は様々だが、この男は殆ど原因が自分である。

まず彼は後輩には兎に角高圧的であり歳下に敬語を使ったり謝罪する事を極端に嫌っていた。

 20代の頃、入社して唯一1年続いたとある会社の飲み会では体質の都合上酒が飲めない新人に酒を無理やり浴びるよう飲ませ病院送りにしても、彼は家族や本人に謝罪一つせず傲慢な態度をとった事から速攻クビを切られた。

 他に入社した会社でも全くメリットの無いプライドが邪魔して周囲から反発されたのも一度や二度では無い。

 更なる再就職の為にとある合同説明会で職種の適正検査を受けた時、

「貴方は芸術家、クリエイティブな職種が向いてる」と結果が出され「俺には社会性が無いっつってんのか!?」と叫び担当者の胸ぐらを掴みかかった為これまた門前払いを喰らった。

 極めつけは極度のギャンブル依存症も大きな要因だ。

休日に向かうだけならまだしも、職業訓練校の昼休み時間中パチンコ店へ向かい結局戻って来なかった時は周囲から常識を疑われた。

 

「....若い内....か....ひっ…」

 

 沼川は次第にボロボロと涙を流し始めた。この男、ただでさえ性格がアレに加え泣き上戸だった。

 

「........ちくしょう.....ちくしょう........何で俺には.....何も無くて...ひっ.惨めなんだよ.....何でこんなガキ共が輝いて...俺はこんな....こんなんなんだよ.....ひっ...クソ!ぶっ壊してぇ! ひっ、こんな幸せ、皆ぶっ壊して地獄に叩き落としてやりてぇ....」

 

テレビに向かってビール瓶を投げつける。

画面のアイドル達を攻撃したつもりだかそんなのテレビが軽く傷付くだけで惨めな行為だ。

一生懸命努力出来る人間は眩し過ぎて、たまらず憎らしかった。こんな奴等の幸せを破壊してやりたい、そんな歪んだ考えばかり浮かんでくる。

しかし解っていた。自分は弱い、惨めな存在だと。

序盤から中々上手くいかない日々が続いたせいで、彼は何時しか自分を酷く卑下する様になり、自分よりも弱いと判断した人間を徹底的に攻撃する様になってしまった。

 

 先程コンビの店長の指輪を見て言葉を詰まらせたのも、良いパートナーと出会い自分よりも良い人生を送ってると勝手に悲観したからである。

 

 人を攻撃する理由も所詮は一方的な現実逃避。惨めな自分から背く為でしかない。

こんな日々を彼は20年近くも続けてきた。無論人生が好転する訳も無く誰一人味方も居ないまま、

何時しか心身的に自分を深く卑下するようになり、気が付けば初老近い歳。

 己を何一つ変えようとせず、不幸な理由を世間のせいだと押し付け、他者を攻撃し続ける人間などに誰が寄り添いたいと願うだろう。

 

 確かに老いる事は不便が多い。

見た目の消化だけでなく体力面や免疫力も若い頃と比べ落ち、様々な病気のリスクや社会的責任も多く背負う。自分の中でブームだった物が何時しか世間では忘れ去れさられ、時代の変化に合わせられず傷つき、楽しかった過去へ帰りたくなる事もあるだろう。

周りがどんどん成長する中で、ちっぽけな自分を比べ負い目を感じ生き辛くなる日々も有るだろう。

 

 しかしだからって他者を傷つけて良い理由には全くならない。

 

 それに歳を取らなければ解らない事が有るのも事実だ。

人生で最も幸福に感じる瞬間が何時来るかは人によって千差万別。遅いか早いか違いだ。

良い人生を送れたかどうか実感するのは結局自分であり、その結果は最後まで生きてみないと解らない。

ある程度勉強し歳を取らなければ常識は身についていかない。

今後生まれる人々が少しでも傷つかず辛い日々を送らぬ為にも、大人が常識を身につけ教えていく必要が有るのではないだろうか。

 

 .....などと助言を与えても、この男には馬の耳に念仏。やかましい、説教臭いと跳ね除けるだろう。

どれだけ道徳心や寄り添う言葉を送っても雑音にしか聞こえないのだ。

 

 故にコイツは今更になって悔やんでいた。

一体どこで間違ったのだろうか?と。

何故自分はこんなになってしまったのか?と。

自分が子供の頃はどんな人間だったろうか?と。

今では思い出せない。だが少なからずこんなみすぼらしい、何も無い人間になるとは予想してなかった筈だ。

 

「あー...やり直してぇ人生ぇ........ガキの頃からやり直してぇ....」

 

出来ないと解りきってるのに、無駄な欲求を口走ってしまう。

ふと、PCに目を向けるとブログに書かれた最新のコメントが目に入った。それはこういう内容だった。

 

【毎日毎日仕事もしないで悪口ばっか書いて恥ずかしくねぇの? お前みたいな底辺野郎とっとこの世から出てけよ】

 

言いたくなる気持ちは解るがこれではコメ主も沼川と同罪だ。管理人の言動が悪ければスレのモラル低下も必然的である。真っ当なレビューをしてればこんな酷いコメントも無かっただろうに。

何時もなら適当に揚げ足をとって反論するのだが、今の沼川の精神状態にはかなり応える一言である。

 

「.........ああ....そうだな....」

 

 

 

 10分後、沼川は首を吊る準備を終えた。

 元から必要な道具は取り揃えあった。酒に酔った勢いもあったが、何も変えれない自分を内心ずっと卑下していたので何時か実行するつもりだった。

しかし一向に勇気が出ず、時間だげが過ぎていった。

だがそれももう終わり。

 

疲れたのだ。

人を攻撃する事も、

自分を貶す事も、

考える事も、

人生にも。

 

気が変わらぬ内に早く済ましてしまおう。

 

「……どうせ俺には何も無い…………何も無い奴が消えた所で……何も変わらない………………

むしろ皆スッキリする筈だ…………………………………俺なんか居ない方が…………………………じゃあな………………………」

 

誰に言うでも無く、我が人生その物に別れの挨拶を交わした沼川。

そして天井に吊るしたロープの輪に首を通そうとした.....

その時だ。

 

突如 耳鳴りのような奇妙な音が鳴り響いた。と思いきや.....

 

『本当に、ここで終わる気か?』

「!?」

 

聞きなれない声に辺りを見回す沼川。そして驚愕し腰を抜かした。

部屋の中に見知らぬ男が立っていたのだ。

冬は当に過ぎたのにロングコートを羽織り、鷹の様に鋭い眼光。何処かこの世の者とは思えない、非常に不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「だ、だだ、誰だお前!? どどど、どっから入ってきたぁ!?」

 

動転し酔いが一気に冷め、上手く口が回らない。

窓や扉は全てロックしている。つい先程まで人の気配など一切なかった。コイツは一体どこか入ってきたのだ?状況が理解出来ない沼川を無視して男は再度質問する。

 

『もう一度聞く。本当にここで終わらせるのか? お前の人生を』

「...........う、うううっせえ、こ、こっちの勝手だろが....」

『どうしても死にたいのなら好きにしろ。だがもし、人生をやり直せるかもしれないと聞いたらどうする?』

「....あ?..........ひ、ひひ、ひ人ん家かかかってに忍び込んで...

..し、宗教か何かの、、かかか勧誘か?」

 

 沼川はとりあえず武器になりそうなその辺に有ったビール瓶を手に取り男に向けた。

これから死のうとする者が正当防衛とはおかしな話だ。

少なくとも誰かに利用されたり自殺の邪魔をしないでほしかったのもあるが、単純に目の前の男が不気味過ぎて反射的にとった行動である。

 しかし男は怯える表情一つせず、寧ろせせ笑った。

 

『無様なヤツだな。無駄に歳だけ重ね、他者を攻撃する事でしか己を保てない。お前はただの負け犬だ』

「う、うるせぇ.....うるせええええぇぇ!!」

 

 図星を刺され、沼川は男に向け力いっぱい便を投げた。だが不思議な事に、便は男に当たらず背後の壁にぶつかり砕けた。まるで便が男の体を体をすり抜けた様に見えた。一体何が起きたのか沼川は理解できず、更に後ずさり。

 

「い、い、い一体何なんだお前は!? 俺に何の用が有るんだ!?」

『お前にチャンスを与えてやる』

 

 そういって男はコートのポケットから何かを取り出し沼川に差し向けた。

見た目はプラスチックか何かで作られたのか、土色のカードケースの様な物だった。

 カードデッキと呼ばれたそれは、手にした者に超人的な力を与え、使い方によれば人にも悪魔にもなれるだろう。

 

「....な、何だよ、コレ....?」

『一度コレを手にすれば、命を掛けた戦いに身を投じる事ととなる。

同じものを持った人間が複数人居る。ソイツ等を全て倒した時、お前はどんな望みも叶えるであろう』

「どんな......望みも....?」

 

沼川は思考を巡らせた。こんな得体の知れない男の言葉を信じて良いのだろうか?

しかも今、命をかけた戦いとコイツは言った。普通ならこんな胡散臭い話誰が乗る物か。

だが沼川は何故か自分の中に一つの光を感じていた。

今までのつまらない毎日と比較にならない非現実的な事態が目の前に起きてる事が、自分を引き付けているのかもしれない。

 

「.......本当に....やり直せるのか?...人生を....」

『少なくとも、今よりは毎日が充実するぞ。確実にな』

 

どうせ自分には何も無い。

そもそも元から死ぬつもりだったのだ。今更命をかけた戦いに躊躇する理由があるだろうか?

仮にコイツがホラを吹いてとしても、どんな理不尽でも、目標を掲げ最後まで派手に生きるのも良いかもしれない。

 

人生をやり直したい。そんな目標を掲げて。

 

男は最後の選択を迫る。

 

『さあ選べ。負け犬のまま人生に終止符を打つか。

他者を犠牲にしてでも栄光を掴むか...

決めるのはお前だ.....』

 

 沼川はデッキを受け取った。

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