こんな気分の悪くなる作品に最後までお付き合いして下さった方、本当にありがとうございます。
仮面ライダーヒルツこと、沼川は死亡。
主が倒れ野生へ戻ったヘルザリーチも、体制を立て直した龍騎達により撃破された。
非常に厄介だったヘルザリーチにも弱点があった。
一度に数千匹以上の個体まで増える分裂能力だが、実は群れの中に一匹だけ統括する本体が存在した。それを叩けば分裂態全ての個体が消滅すると言う仕組みだ。
龍騎こと城戸真司は沼川の一言によって深い自責の念に苛まれたが、それでもヘルザリーチを倒そうと奮闘した。
どれだけ自分が傷ついても、目の前で危険な目に合う人々を見過ごせない。
城戸真司とはそう言う人間である。
人の皮を破った怪物が死に絶え、一件落着...
とはなればどれだけ幸せだったか。
問題はその後であった。
全校生徒800名以上が通うxxx小学校は、
今回の事件で教員を含む200人近い死傷者を出す大事件となり、当然全国で報じられた。
何よりも注目を集めたのがミラーワールドとモンスター、そして仮面ライダーと言う異形達の存在だ。
事件後、現場で警察が押収した沼川のデジタルカメラには、窓と言う窓から湧き出る蛭の群れが児童達を襲う悍ましい様子がはっきりと移され、ヒルツに変身した沼川の肉声が録音されたテープも見つかり、警視庁を大きく困惑させた。
あまりに刺激の強い光景に世間の混乱を恐れ警察は一丸となって「映像を公表すべきでない」としていたが、沼川が撮影した物とは全く別に事件現場の場映像がニュースに流れてしまう。
事件当時ヘルザリーチは校舎の外にも溢れ出し、それを何処かの通り縋りの一般市民が興味本位で撮影し、報道機関に提供してしまったのだ。
映像を受け取った一部のマスメディアは視聴率に目が眩みそれを特大ニュースとして大々的にお茶の間に放映。視聴者から猛バッシングを喰らう羽目になるが最早時遅し。
当然当事者である沼川彰吾の名前と顔は世界中に報じられ悪い意味で一躍時の人となる。
彼の望み通りとなってしまったのだ。
現実世界へ帰還した形跡も無いので、世間は鏡の世界の何処かで大殺戮者が彷徨い自分を狙ってるのではないか?と恐怖した。
沼川が住んでたアパートも直ぐに家宅捜査が行われた。
自分で証拠を幾つも残していたので直ぐに容疑者認定されるのは当然だが、
事件直前、沼川は自分の運営してるブログに犯行予告を行っていたのだ。
始めこそ逆張りで注目は浴びるもネチケットの欠片も無くすっかり敬遠され観覧数の落ちたブログであり、更に書き込まれた時間が事件発生から数分前である為、読み手は悪戯かどうか判断する暇も無かっただろう。
自宅を捜査した警察はある物を発見する。
それはヘルザリーチが今まで食してきた被害者達の遺留品だった。
見つかったのは近くのコンビニの店長が付けていた指輪、ミライツェルのリーダー・シアが身に着けていたイヤリングや衣装の飾り、他にも携帯電話や髪飾りなど多数。
ヘルザリーチは金属の用な鉱物は好まず、捕食後はそれらをミラーワールド内で定期的に吐き出していた。
沼川はそれらを態々かき集め、自室の押し入れに保管していたのだ。
全ては歴史的大殺戮者としての自分をアピールする為。
己の死後も残る歴史的快挙の証を残す為に。
何れの遺留品も血痕が付着しており、DNA鑑定により所持者が発覚。
遺体が無いので本来これだけでは死亡確定の絶対的な証拠とはならない筈だが、被害者の帰還を待っていた者たちは深い悲しみに包まれた。
皆、報道により鏡の中の怪物を認知してしまったからだ。
コンビニ店長の妻は愛する旦那の生存が絶望的と知るや否や後を追う様に駅のホームへと身を投げた。
シアの両親はあまりのショックにより憔悴、残されたミライツェルメンバー二人はリーダーの分まで活動しようと努力するも心の傷は深く、些細な事による衝突が増え次第に関係が悪化。チームを解散する羽目になった。
他にも、襲撃現場に居合わせた生存者にも二次被害を齎した。
鏡の中から夥しい量の蛭が湧いて出て子供を食い散らかす様を間近で目撃してしまった一部の児童はPTSDを発症。恐怖がぬぐえず窓やテレビと言った部屋中の反射物を新聞紙で覆い隠し引きこもりとなった。
一部の教師も鏡の中に自分を喰らう怪物が潜む恐怖に耐えられずこれまた自ら命を絶った。
それだけでない。
沼川は自分以外のライダー達にも、とんでもない置き土産を残していた。
直前に書いた犯行予告とは別に、彼はコートの男から貰ったライダー達の個人情報を数日前から複数の掲示板に書き込んでいたのである。
書かれたのは本名とライダー名並びに職場の住所、ミラーワールドやモンスターの存在、
自分ら仮面ライダーが何の為に存在するのか、
やれ「人を襲う為」だのやれ「命の奪い合いをする」だの、ある事ない事が記された文章だ。
別に事実がどうだろうが関係無い。自分以外のライダーが何かしら地獄を見れば沼川は満足だったのだ。
その書き込み事態、事件前なら誰もが妄言者の創作か悪戯で済ましただろう。
存在を知るや否や、世間は仮面ライダーに対する罵詈雑言に染まった。
一般市民に一切手を下してないライダーやその親族を標的に猛烈な中傷、または暴力行為を行う者も現れた。
沼川がやらかした事件も含め、恐ろしいモンスターを使役して欲望のままに殺し合うと言う実態がある以上、市民の仮面ライダーに対するイメージはあまりに悪い。
城戸真司、並びに仮面ライダーナイトである秋山蓮へは仮面ライダーである疑惑により職場に報道陣が詰め寄り、はたまた警察の捜査対象にされたり見ず知らずの人間から「お前が俺の家族を化物に喰わせたのか!?」と在りもしない非難を受ける羽目に。
仮面ライダー王蛇である浅倉威に対しては、彼がライダーである事を警戒した警視庁が「真面に対処するのは不可能」と判断し射殺命令が下る。
隠れ家まで押し入った警察に対し、浅倉は契約モンスターを駆使して応戦、多数の死傷者を出してしまう警察vs仮面ライダー王蛇と言う泥沼の抗争状態に至った。
ヒルツ達を不意打ちで砲撃したあの緑のライダーである人物も著名人だった事から非常に面倒な目にあったのは言うまでも無い。
インターネットも発展途上、SNSもない時代であっても沼川が起こした事件の衝撃は計り知れない。
「物理的に」殺すのが無理なら「社会的に」殺してしまえ。
弱者である自分が強者に出来る唯一の反撃策。ライダー同士の戦いすら無茶苦茶にしてやろうと言う最後の悪あがきだった。
その他にもニュース放送後、ガラスや自動車など反射物となる商品市場の株価が一時的に大幅下落。
更には自己防衛と称して店のショーウィンドウを叩き割る過激な一般市民まで現れる始末。
中には若気の至りで実物のミラーモンスターを一目見ようと自ら行方不明事件の現場に向かい二度と戻って来なかった若者も複数現れたと言う。
世の中は何処を見ても反射物だらけ。
何時何処で鏡から怪物が襲ってくるか解らない。
世界の混乱は広まる一方だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ミラーワールド内
とある高層ビルの屋上で金色の鎧を身に纏ったライダーが、一人佇んでいた。
仮面ライダーオーディン
13人のライダーの中で最も超越した力を有し、最後に勝ち残った者の前に現れるとされる存在。
『随分騒がしくなった物だ』
小さくつぶやくオーディン。
彼は今、ここまで響く程騒がしい現実世界の光景を監視していた。
ライダーバトルの主催者であるコートの男は今回沼川が引き起こした事態に対し酷くご立腹である。
下手にミラーワールドやモンスター、ライダーの存在が認知されてしまい、ライダー達は戦い所ではない状況に陥っている。
このままでは彼の計画が水の泡だ。
オーディンは男の分身でもあり戦いを管理する立場でもある。
『修正が必要だな』
デッキからカードを一枚引き抜く。
逆方向に針が進む時計が描かれたカード。
タイムベント
時間を逆行させると言う常軌を逸した効果を持つそれは、主催者が納得のいかない結末を迎える度に使われて来た。
発動すれば戦いを始める直前の日付まで一瞬で戻り、再びライダーバトルをスタートする。
いわばゲームのリセット機能だ。
バトルが継続不可能となればまたやり直すしかない。
手をかざすと長杖型の召喚機である鳳凰召錫ゴルトバイザーが金色の羽と光を散らしながら出現し、そこへカードをセットする。
何事も不測の事態は付き物だ。このカードはこう言う時の為にあるのだから。
慣れた手つきでオーディンは人知を超えた力を起動した。
《TIME VENT》
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
200X年5月半ば 日本の某所
夕暮れ時
「......ぐ.....ぁが..........」
この日、一人の男がアパートの自室で縊死した。
男の名は、沼川彰吾。
彼は常日頃から他者を攻撃し邪険にされていた。
うだつの上がらない人生に引けを感じつつ何かに責任転嫁し、決して自分を変えようとはしなかった。
そんな日々に嫌気がさし、遂には自ら命を絶った。
自分には何も無いと言い続け命すら捨て去った結果、正真正銘「 」と成り果てた。
そこには何の物語も存在しない。
ただ迷惑な男が死んだ。
誰からも象られずに。
それだけである。
いや、象られなかったと言うのは少し違うかもしれない。
彼の部屋の窓に二人の男が映り込んでいた。
一人は仮面ライダーオーディン。
隣にはコートを羽織った鋭い目つきの男。
神崎士郎
あらゆる人物にカードデッキを配り、ライダー同士を争わせた張本人。
二人は鏡の中で、沼川の事切れる瞬間を済ました顔で眺めていた。
時間を逆行する前、この時間は丁度沼川が自害を結構する直前だった。
彼が逸る直前に士郎はカードデッキを渡したが、今回はそれをしなかった。
よって沼川はライダーにならずそのまま死亡。
コンビニの店長やトップアイドルの失踪事件も、XXX小学校児童大量殺戮事件も起きない事となる。
以前の時間軸でのこの愚か者の手に落ちた者達は、今後も何時も通りの日々を過ごすのだ。
モンスターに襲われない限りは。
腕組みをしながら佇むオーディンが士郎に尋ねる。
『流石に、ヤツを選んだのは失敗だったか?』
士郎はさぞ呆れた表情で吐き捨てる。
『数合わせのつもりだったが.....宛が外れたな.....』
やがて二人は何事も無かったように窓から消え去った。
静かにぶら下がった遺体を残して.....
こうして、士郎は幾度と無く時間を逆行し戦いを繰り返したが
沼川をライダーに選ぶ事は二度と無かったと言う。
- 終 -
本編は終わりですが、最後にちょっとしたIF話も追加します。