「うわああああああああああああ!!! がああああああああああ!! 畜生ぉ! 畜生おおおおおお!!!」
ライダー達との乱戦から命からがら逃げ伸びた沼川は帰宅した途端発狂し、散乱したビール瓶や電気を叩き壊し、テーブル、電話など部屋中のあらゆる物を投げ飛ばした。
「何なんだよおぉ! 何なんだよアイツ等はあああ!? ライダーってのは皆あんな奴らばっかなのか!? 勝てる訳ねえだろクソがあああ!!! うわああああああああああああ!!」
絶望に包まれ頭を抱え叫ぶ沼川。
彼はもうライダーとして生き残る事を諦めていた。
完全に軽んじてたのだ。生半可な気持ちで茶地な希望を見出し殺し合いに参加した事を深く後悔する。
緑のライダーの砲撃は引き金に過ぎない。
一番ショックだったのは自分の実力が他のライダーに全く追いついてなかった事だ。
殺人童貞を捨ててまで挑んだ戦い。誰か殺したから強くなったと思った。契約モンスターも強化した。
だがこのザマである。
先ほど戦ったライダー達を思い返す。
あの赤と紺色のライダー。圧倒的に戦いな慣れて契約モンスターも強く非の打ち所がない。自分とは雲泥の差だ。
狂気の紫のライダー。あれだけ血を吸いつくされ、銃弾の直撃を受ければ生きてるとは思えない。だがあの凶暴さは自分を追い詰めるには十分過ぎた。
そして最後に現れた緑のライダー。あんな戦車や戦艦にでも使う様な武装を人間に向かけて撃ってくるとは。
仮に奴が何らかの手違いで死んだとしても、更に恐ろしく強大なライダーが待ち受けてる可能性は十分にある。
勝ち目など無い。 もう終わりだ。
元から自己評価が低く弱い者しか攻撃しない沼川に「じゃあ更に強くなろう」と言う向上心など持ち合わせていない。
極限まで精神が追い詰めら、カードデッキを窓に投げつける。
ガラスに当たってゴミまみれの床に落下するカードデッキ。
そのガラスの向こうでヘルザリーチが姿を現し沼川を睨みつけた。
まるで 「戦いを止める気か? なら食い殺すぞ?」 と警告するかの様に。
『シャアァァァ.....』
「っ!!」
慌ててデッキを拾い直す沼川を確認した後、ヘルザリーチは静かに姿を消した。
それから数時間が経過する。外は既に日没寸前。沼川はゴミが散乱した床で茫然と仰向けになっていた。
「..............................」
いくら泣き喚こうがライダーを辞める事は不可能。しかし最早やる気も起きない。
どんな願いも叶う、そんな甘い蜜に便乗して味わったのは凄まじい劣等感だった。
先ほどの強豪ライダー達の言葉が頭に響く。
【モンスターの方がずっと歯応えが有った。さてはお前、素人だな?】
【手応えが無さすぎる。もう良い、消えろ】
解っていた。そんなの自分が一番良く解っていた。
奴らの前では所詮自分など蟻以下の存在。改めて現実を叩きつけられただけだった。
「結局俺は.................何やっても弱ぇんだなぁ.....」
たった1度きりライダーと当たっただけで諦めるこの鬱屈さ。最後まで自分にすら勝てなかった。
いっそこのままヘルザリーチに喰われてしまうか。元から死ぬ予定だったのだ。今更抵抗する意味も無い。
ふと、顔面が僅かにむず痒い。
と言うかさっきから目の前を数匹の小バエが飛び回っている。碌に掃除しない部屋では出ない方が不思議だろう。
流石に鬱陶しく感じテーブルの上に止まった瞬間を見計らって叩き潰す。
手の平を見ると一気に3匹も潰された死体が確認出来た。
「あーあ....虫ぐらいなら簡単に殺せるのによぉ........」
虫なら殺せる.............
虫なら?..................
虫を潰した切欠に何かを考えついた沼川。
そして思い返されるのはデッキをくれたコートの男の言葉。
【本当にここで終わる気か?】
【お前はただの負け犬だ】
【選べ....負け犬のまま人生に終止符を打つか。
他者を犠牲にしてでも栄光を掴むか.......】
この瞬間、沼川の中で何かが渦巻き始めた。
どこまでもドス黒く、恐ろしい何か......
その恐ろしい何かは、今まで抱いてきた感情、経験してきた事全てが一対となり濛々と膨れ上がっていく
虫………
殺す………
栄光………
「………は………はは……はははは」
やがてドス黒い何かは、表情となって形を露わにした。何処までも不気味で恐ろしい笑みとなって。
「ふっはははは!あああっはははははははは!
そうだぁ……………どうせ死ぬなら……………………弱えなら……………………最後まで好きにすれば良いじゃねえか.........あーーーはっはっはっはっは! ははははははははは!」
何かが壊れた笑い声が、夕焼けのアパートから児玉する。
何処までも、何処までも、狂い散った笑い声が。
それから2日目、沼川は自室で延々とパソコンを眺めていた。
初のライダーバトルを切欠にある計画を思いつき、その予定を纏めているのだ。
彼の今の容姿は酷い物である。
まるで何かに取り憑かれたかの様に一晩中パソコンを操作した為か、
肌は荒れやせ細り、血走った目の下は隈が出来、無精髭はいつも以上に濃くなっている。
(国会にするか?いや駄目だ。老人ホームや障碍者施設....いやあれも駄目だ。社会の役にたっちゃ駄目なんだよ。もっと世間に衝撃を与えねえと...)
ぶつくさと呟きながらパソコンを弄る沼川。
彼が思いついた計画。
それは説明不要なほどシンプルかつ非常に恐ろしい物だった。
無 差 別 大 量 殺 人
テロの様な反政府的な思想など一切ない、ただの大量殺戮。
常人なら誰一人やろうとしない事をやり遂げれば世間が注目し、自分の名は大々的に発表されるだろう。
どうせ自分は殺されるのだ。ならば最後はド派手に大暴れしてした方が盛り上がる。
一人や二人程度では面白くない。100人、いや200人以上。
それだけ殺せば世界を震撼させた者として自分の名は永遠に語り継がれるだろう。
今までそんな大それた事する勇気もなかったが今ならそれが出来る。
このライダーの力を使って。
自分は弱い。その内他のライダーかヘルザリーチに殺される未来は避けられないだろう。
なら開きなって弱い自分を貫き通しちまえ。
どうせ死ぬなら最後に何かデカい事を成し遂げてから死のう。
自分より虫の様に弱い連中を片っ端から始末する。
今までずっとそうやって生きて来た。
自分には何一つ無い、底辺な人生を締め括るに相応しい超一大イベント。
これが沼川が最後に選んだ道。あまりに短絡的かつ恐ろしい結論。
しかし彼を止める者は誰も居ない。大切な物も親しい者も彼には無い。
只管標的候補を検索し続ける。
兎に角世間に大ダメージを与える場所が良い。
未来永劫人々に事件を記憶させるにははたして何処が良いか。
(...やっぱ、あそこしか無いよな...)
ネット検索でとある場所の画像を見つけた。
×××小学校
この付近にある一番大きな小学校だ。
昔、沼川は職を転々としていた頃に短い間清掃員として働いてた時期あった。
この学校にはその当時仕事で入った事が有り校内の造りはある程度記憶していた。未来ある子供を始末すれば社会的ショックは激しく、残された親は長きに渡り心の傷を残すだろう。
それにこの学校には個人的な恨みもある。
「.....よし、決まりだ....」
標的を決め、沼川は小さく笑った。
完全に人の心を捨て去った様な.....表現しがたい程邪悪な笑みだ。
ふと、あの耳鳴りの様な音が響いた。
振り返るとそこにカードデッキを渡したあのコートの男が立っていた。
「....何だ。アンタかよ....」
『ライダーとも戦わず何をしている?』
「....作戦を練ってんだよ。俺は弱えから、どうすれば上手く立ち回れるか悩んでんだ...」
『......』
その場凌ぎのホラをふくも、男は不審そうな目は崩れない。
マズイ、ここで俺の計画がバレたらコイツはどうする?
モンスターに人を襲わせる事を咎めはしないので害は無さそうだが何を考えてるか解らない奴だ。
さてどうする。
(....そうだ。面白れぇ事思いついたぞ)
何かを閃いた沼川は歪な笑みを浮かべ、男に"ある物が欲しい"と頼んだ。
それを聞き男は不審気な表情を崩さずとも
『戦いを進めるのなら好きにしろ』
とだけ言い、その"ある物"が記された一枚の紙を手渡し消えた。
上手く場を切り抜けた沼川はその紙を眺めながら狂ったように笑い出した。
「もうすぐ準備が整う....何もかも滅茶苦茶にしてやる...俺は.....歴史に名を刻むんだ...はは、はははは………」
こうして沼川はライダーとも戦わず着々と準備を進めていった。
確実に成功させるにはそれなりに契約モンスターを強化する必要が有る。
だが下手に人を襲撃したら他のライダーに邪魔されかねない。そこでヘルザリーチの特徴である分裂と吸血能力が役に立った。
このヘルザリーチは普通のミラーモンスターと違い、人間の生き血を好むという習性がある。
そして全身を小さく分裂させる事で一個体の接近音を極端に小さく出来る。つまり他のライダーに気配が察知しに難くなるのだ。小さな個体から血を吸われた人間は少し針が刺され立ち眩みする程度で済むため目立った被害は出ない。
と言う事で、餌は適当に通行人の血を与えて何とかやり過ごした。
隠密、暗殺に適したこの能力を広い範囲で行えばヘルザリーチの空腹はある程度満たす事が出来た。
とは言え生き血はあくまで栄養ドリンク、主食が無ければ満腹にはならない。
どうしても我慢出来ない時だけ、沼川はヘルザリーチに人間を食わせた。
他のライダーに気配が察知されないよう細心の注意を払ってだ。
ヘルザリーチの特殊能力、そして自分の顔が他のライダーに一切バレてない事が功を奏しスムーズに事を運べた。
計画実行日までに沼川は入念なイメージトレーニング、契約モンスターの強化を行い、コートの男に手渡された紙の情報をPCのメモ張に書き記し続けたのだった。
そして1週間後
遂に計画実行日。
時刻は昼の1時30分頃。
沼川は標的である小学校の校門の前に立っていた。
顔も隠さず特段怪しい服装でもなく、何時もの普段着で。
しかしその顔からはまるで生気が感じられない。
今から蚊でも潰すかの様に無表情だ。
左手にはこの日の為に通販で購入したビデオカメラを持ち、録画の準備は整っている。
昼休みなのか運動場では大勢の児童たちが元気に遊び回っていた。
これから強大な悲劇が起こるなど誰一人知る由もない。
沼川は無言でポケットからデッキを取り出す。
入り口前の掲示板のガラスにデッキが映った事でVバックルが腰に装着された。
「.......変身..........」
ポーズなど一切取らず、気だるい感じでバックルにデッキを装填する。
こうしてヒルツへと姿を変えた沼川。
カメラを片手に蛭の鎧を纏った狂気の怪物が今、進撃を開始した。
※ 補足
今回出てきた小学校は龍騎3,4話に登場した小学校とは全くの別物でありオリジナルの物です。
と言うか蓮と真司や玲子さんと居ましたが、あの時代の学校ってあんな簡単に部外者が出入り出来てたんですね。恐ろしい....
次回は私が今まで書いてきた物で一番最悪な話になります。