大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

ソフィア・チェーホワ(???)
サウダーデ・風間(30)
マリアベール・フランソワ(53)
アラン・エルミード(32)
レベッカ・ウェイン(84)


71年目-2 太平洋へ!!

 大ダンジョン時代もついに70年が経過した。世界には変わらず毎日無数のダンジョンが発生し、それを踏破する探査者達もまた、日々の活動に勤しんでいる。

 さてそんな中、予てより計画されていた一大プロジェクトがついに始動せんとしていた。大ダンジョン時代社会における一つのタブーとさえ目されていた禁断の地、太平洋ダンジョンに纏わる動きである。

 

 太平洋経済圏構想。大型客船を数多並べて連結して人工都市を築き上げるという荒唐無稽な計画が、この頃ついに動き始めていたのだ。

 まずは都市の中核となる部分の客船を10隻、第一陣として太平洋ダンジョンへと向かわせようというのである。

 

 大ダンジョン時代どころかもはや、人類史上にも稀なほどの大規模計画の始動──WSOを主導に数多の国家が投資しての大事業だ。

 そしてそこに乗じて、1000人からなる"住民"が移住を果たすのだ。根幹的な目的たる太平洋ダンジョン攻略のための先陣を切る、探査者達とともに。

 

 後のS級探査者であるサウダーデ・風間もまた、この計画における移民開拓者の一人として同行していくことになる。

 30歳の節目を迎えし頃合い。彼はまさしく前人未踏の地、生涯をかける戦いへと足を踏み入れようとしていた。

 

 

 

 スイスはジュネーヴ、WSO本部施設は大ホール。

 集められた探査者、約50人。S級はいないもののほとんどA級の、それもこの時代におけるトップランカークラスまで混じっている。

 

 いずれもみな、不退転の決意を秘めた顔つきで整列していた……これより向かう、はるか海原の地へ向かうために集められたのだ。

 並大抵の面子ではなかった。

 

「──みなさんにはこれより太平洋中心部、太平洋ダンジョンへと向かっていただくことになります」

 

 そんな面々を前にして語りかけるはWSO統括理事ソフィア・チェーホワ。横並んではレベッカ・ウェインやグェン・サン・スーン、マリアベール・フランソワにアラン・エルミードもいる。

 こちらもまた錚々たる面子だが、件の地点、太平洋ダンジョンへと向かうためにいるわけではなかった。太平洋経済圏構想の第一陣として赴くことになる同胞達を、見送るためにここにいるのだ。

 

 特にアランやマリアベールからすればこの壮行会は是が非でも参加せねばならないものだ。何しろ無二の親友であり弟子である男との別れを意味する会なのだから。

 サウダーデ・風間──クリストフ・カザマ・シルヴァ。この時点でA級トップランカーとして探査者界に名を轟かせていた彼もまた、太平洋を開拓する長き旅路に向かおうとしていた。

 

「目的は太平洋ダンジョン攻略のための拠点構築。ならびに実際の探査も並行して行っていただきます。言うまでもなくこれは超長期的プロジェクト……WSO主導の下、定期的な陸地への帰還や心身のケア、サポートなどはもちろん行いますが、基本的に年単位で大海原の上で生活していただくことになるでしょう」

「…………改めて聞くと無茶苦茶だねえ。たしかに30年放置していたダンジョンだ、いい加減なんぞしないといけないってのは分かるが」

「そうですね……全貌もよく分かってないダンジョンのために、事実上一つの都市だか国だかを作ってしまおうだなんて。それもそのために、クリストフのような類稀な探査者までもが駆り出されて」

 

 ソフィアの演説の傍ら、極めて小声でマリアベールとアランがやり取りする。二人とも、実のところ太平洋経済圏構想には懐疑的な立場だった。

 必要性は理解するものの、そこまでする必要はないのではないか、と。ましてそのようなことに十年規模で友人や弟子を赴かせることになるのだ、納得のいかない気持ちも当然のものだろう。

 

 他ならぬサウダーデ自身が参加したがっているがゆえに、黙っているのだが……本音のところでは行くなと、お互い近所で探査業を続けていこうと言いたいところである。

 複雑な表情を浮かべる二人をソフィアはちらと横目で見てから、レベッカに視線を向けた。

 うなずく彼女が、マリアベールとアランの背後に回った。

 

「二人とも。寂しいんだろうがサウダーデの気持ちを汲んでやるのも友の、師の務めってやつだぜ?」

「レベッカ婆さん。つってもねえ……」

「私からしても彼は大した探査者だ、マリアベールの嬢ちゃんやアラン坊にとってももちろんそうだろうさ。そんな立派なやつが命張って人生懸けて挑もうって難行なんだ、せめて笑顔で見送ってやるってのが……置いていく側にとってもきっと、嬉しいことなんだと私は思うよ」

 

 サウダーデのフォローに入りつつ、二人への理解も示す。どちらの言い分もよく分かるのがレベッカ・ウェインという探査者の懐の大きさだ。

 ドラゴン戦の折に知り合ったサウダーデには、かつてエリスに感じたような大器を予感して入れ込むようになり。けれどそのエリスに置いていかれて二十数年も彼女を案じ続けた者としては、彼の師と親友の気持ちもよく分かる。

 

 けれど、だからこそあえて背中を押してやるべきだと彼女は諭した。

 遠い昔、どんな形であれ消息を絶ったエリスに対して何一つも力になってやれなかったという、負い目からの個人的な感傷に過ぎないが……そのあたりの事情を知るマリアベールとアランには、レベッカの胸中は多少なりとも分かる。

 

 そもそもからして正論なのだ、やはり本人が行きたがっているのだから。

 はあ、と軽く息を吐く二人。せめて彼の無事を祈るべきかと思いつつ、ソフィアの演説に耳を傾ける。

 

「これはあるいは、大ダンジョン時代始まって以来最大の事業となるでしょう。そこに栄誉栄光があるかどうかさえ、あなた方の双肩にかかっているのです。多くの失敗、挫折、後悔苦難を乗り越えて。多くの成功、達成、歓喜僥倖を積み上げて! ……どうか、どうか大海原に新たなる大地を創ることを期待します! さあ! いざ、太平洋へ!!」

 

 永年の統括理事業務で培ったカリスマをフルに発しての号令。誰もがその言葉に胸打たれ、力強くうなずき応える。

 太平洋経済圏構想の幕開けであった。




ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 

 太平洋客船都市の話も出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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