大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

早瀬光太郎(63)


74年目-2 早瀬光太郎、最後の戦いへ

 第七次モンスターハザードの勃発──その兆しがいよいよ見えてきた。

 アメリカ全土に起きているスタンピードは日ごとに数を増し、ついに毎日100件という、大ダンジョン時代史上でも類例のないペースで起きるようになっていたのだ。

 

 不幸中の幸いか、ダンジョンから地上へとモンスターを誘導する謎の液体を用いているがゆえ、一件のスタンピードごとに対処せねばならないモンスターの数自体は極めて少ない。

 少ないのだがそれでもこうまで数が多いとやはり対応に追われてしまい、現地探査者から全探組、WSOに至るまですっかり疲弊する事態に陥りつつあったのである。

 

 これを受けてWSO統括理事ソフィア・チェーホワは第五次同様、世界各国の知己を頼り事件解決にあてることとした。

 歴代モンスターハザードの解決に貢献した立役者達はもちろんのこと、彼女の人脈をフルに用いて参戦できる者達を片っ端からアメリカ大陸に招集したのだ。

 

 極東アジアは日本の探査者、早瀬光太郎にあってもそれは例外ではない。

 御年63歳。もはや日本探査者界にあっては重鎮中の重鎮ともなっていた早瀬会の大親分は、この第七次モンスターハザードを人生最後の戦いであると定めて協力要請に応じるのであった。

 

 

 

 

 極東アジアは日本、中部地方にある早瀬会の総本山の屋敷。幹部格を一同に集めての大会合を前に、光太郎は妻の華と二人、茶を啜りながら縁側から空を眺め、ぽつぽつと語らっていた。

 先日、半世紀近くも前に起きた第三次モンスターハザードにおいて共闘した仲間でもあるWSO統括理事ソフィア・チェーホワから連絡が来た。

 

 何やら今度はアメリカ大陸にて、通算七度目ともなるらしいモンスターハザードが起きつつあるらしい。

 一つ一つの規模は極小なものの毎日尋常でない数のスタンピードが乱発しているだとかで、助っ人になりそうな探査者相手にも片っ端から声がけを行っているとのことだった。

 

 そろそろ引退を考えていた光太郎にとってはまさに天佑、あるいは天恵。

 最後に歴史に残るだろう大舞台でひと暴れして、己の探査者としての生涯に幕を閉じるなど最高の上がりだと、光太郎は狂喜乱舞して二つ返事で早瀬会の参戦を宣言したのであった。

 目を細めて遠くを見つめ、しみじみとつぶやく。

 

「後は終わり時さえ、きっかけさえなんかありゃあな、と思ってたんだが……なんともちょうどいいタイミングで騒動が起きてくれやがる、なんて言ったらヴァールさんにどやされっかねえ」

「かもしれませんね。でもどちらにせよ、それがあなたの嘘偽らざる本音なのでしょう? でしたら、きっと納得してくれますわよチェーホワ理事も」

「だといいけどなァ」

 

 永年連れ添ってきた最愛のパートナーと二人、老境を静かに過ごす。

 これまで必死に駆け抜けてきたがその果てにこうした穏やかさが待ってくれるなら、自分の人生もそれなり以上に素晴らしいものなのだろうと、光太郎は穏やかに微笑んだ。

 

 ──潮時だと、思い始めたのは数年ほど前のことだった。

 自分よりも二回り以上も年の離れた若手が、あざやかな手際でもってS級探査者へと至った報せを受けて光太郎はもう、自分が現役として第一線を張っていい時代ではないと静かに世代交代を受け入れたのだ。

 

 がむしゃらに探査者人生を駆け抜けてきた末に、なんの因果か国内屈指のクランの大親分などと言われるようになり。

 気付けば屋敷などあちこちに構えて、各地の政治家や大企業のトップにさえ顔が利くような大物然とした老爺に成り果ててしまった。

 

 気付けば若き日に夢見た探査者の姿からずいぶん離れた、それでいて案外近しいような立ち位置に登りつめてしまったと、そこについては苦笑いするしかないのだが……

 それさえ含めてもう、良いだろうと。後のことは若い世代に任せて、もう自分達の世代は身を引いても良いだろうと。そう思えたのだ。

 

「本当に、今までお疲れさまでした……と言っても最後に大仕事がありますから、どうか最後まで気を抜かず、油断せず。怪我なく無事にお戻りくださいまし」

「ああ、もちろんだ。思えばお前にもずいぶんな苦労をかけちまったが、この戦いが終わって隠居できりゃちょっとは楽させてやれる。無闇に地位と金はあるんだ、けったいな老害晒さねえ範囲なら、多少楽しく生きていっても許されるだろうさ」

「私は、いつでもあなたと一緒だったら楽しいですよ。これまでも、きっとこれからも」

 

 妻たる早瀬華もまた、老境にさしかかり白髪と皺の増えた姿に微笑みを浮かべている。若い頃から変わらず愛らしい、そして愛おしい笑み。

 いろいろ背負って来たが、第七次モンスターハザードを最後にそうしたものも後続に託す。残ったものがきっと光太郎にとって何より大切なもので、そこには間違いなくこの、最愛の女性もいてくれるのだ。

 

 これからは華に寄り添おう。華が自分に、寄り添ってくれたように。

 そう心に誓う光太郎は、だからこそ終わりはきっちりと格好つけて終わらなければならないと気合を入れ直す。

 

「へっへっへ……燃えてきたぜ、なんだか。モンスターハザードで始まりモンスターハザードで終わる、みてェなもんさ俺の探査者人生は。だったら最後に一発ニ発、どデケえ花火を咲かせてみるかァ!」

 

 豪語し、大笑する。もはや迷いなく、彼は己の槍を最後まで振り抜けるだろう。

 日本探査者界の重鎮、早瀬光太郎はかくして最後の戦いへと赴くのであった。




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 光太郎の孫も探査者として出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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