大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

マリアベール・フランソワ(59)
御堂将太(80)


77年目-4 御堂とフランソワ・5

 御堂将太の引退後も、マリアベール・フランソワは毎年の来日と御堂家への訪問を欠かすことなく続けていた。

 探査者として以前に人間として、もはや40年来にもなる付き合いの家との結びつきを大切にしていたのだ。

 

 特にマリアベール個人としては、やはり妻を失って以降ずいぶん老け込むようになった先輩、将太の毎年の健康を確認したい思いが強かった……

 多忙につき電話での連絡こそ取っているらしいWSO統括理事ソフィア・チェーホワからも、折に触れて機会があれば見舞うようにも言われている。

 

 そんな経緯もあり御堂家を訪ねるのが毎年夏の恒例となっているフランソワ家だが、今年は特に毛色が違った。

 将太の孫にして才蔵の息子、博が結婚して家庭を持ったのだ。それを受けて一族は湧き立ち、祝賀ムードの中にマリアベール達を歓迎することとなったのである。

 

 かてて加えてフランソワのほうでも同時期、マリアベールとヘンリーの娘エレオノールが学生の頃からの恋人ロベルトと結婚。

 仲の深い両家の長男長女がそれぞれ独り立ちしたということもあり、例年よりも格段に慶事めいた来訪となったのであった。

 

 

 

 極東アジア、日本は古都・京都。

 今年も夏の時期、御堂邸を訪れたフランソワ一家は旧知の仲である御堂将太と才蔵の親子に出迎えられ、居間にて寛いでいた。

 

「いやはや、めでたいことは続くもんだ! 愛弟子がS級になったと思えば、今度は博ちゃんが結婚するときた! うちのエレオノールのことも併せて、今年は本当に良い年だよ!!」

「愛弟子……サウダーデ・風間さんのことだね、マリー。前からずいぶん見込んでいたみたいだけど、本当に君に並び立つほどの逸材だったか」

「ファハハ、私にゃもったいないくらいですよ! 本名クリストフってんですがね、あいつぁ本当に昔っから立派なやつでしてねえ!」

 

 例によってビールといくらかの肴をテーブルに並び立てての、軽い──というにはいささか酒量が多すぎるが──宴会めいた歓待。

 特に今年はマリアベールにとって、愛弟子サウダーデがS級に昇級したり愛娘エレオノールが結婚したり、果ては将太の孫が結婚したりとめでたいこと続きの年だ。そのためテンションも高く、ひたすらにビールを呑んでいる。

 

 例年ならば将太なりヘンリーなりがそうしたマリアベールの飲み過ぎを嗜めるのが常であるが、この時ばかりはその二人も満面の笑みを浮かべて酒につまみを楽しんでいる。

 マリアベールだけでないのだ、嬉しいのは。まして将太など、7年前に最愛の妻を亡くし、4年前に引退して悠々自適とは名ばかりの虚無めいた余生を過ごしていたところにこの吉報である。

 涙ぐみさえしながらも、この年80歳を迎えた将太はグラスを傾ける。

 

「いやはや……長生きはするものだね。光江が死んでもう、心から喜べるようなことは生涯ないだろうと思っていたのだが、こんなにも幸福な気持ちを味わえるなんて。博、それに栄子さん。ありがとう」

「お祖父様……ありがとうございます」

「エレオノールさんとロベルトさんもおめでとう。君達の結婚もまた、我がことのように喜ばしい。もはや人生の晩年だろう私に、こんな嬉しい想いをさせてくれて感謝しているよ」

 

 涙を滲ませて喜ぶ将太に、一同も深くうなずく。近年は失うばかりだった気がしたが、こうして前に進み、得ることももちろんある。

 常にポジティブに生きていけるわけでは当然ないけれど、それでも、ネガティブなだけでないはずなのだと誰もが再認識する、そんな酒の席であった。

 

 しみじみと、マリアベールも感慨に耽る。

 気づけば将太も自分もずいぶんと遠い所まで来た。出会った頃は20歳手前と40歳手前が、今となっては60歳と80歳過ぎだ。

 つまるところ、40年……駆け抜けるように生きてきた人生を振り返れば、それだけの年月が経過していたのだと、今、改めて感じ入る。

 

 将太ももちろんマリアベールもすでに老境だ、遺された時間はそう多いとは言えないだろう。

 だからこそこれからの時間をより良い形にしていきたいものだと、彼女は先人達の姿を思い浮かべつつも内心で独り言ちた。何よりも彼女自身が抱える、生涯最初にして最大、そしておそらくは最後の謎についてもだ。

 

 

(私のファースト・スキル《ディヴァイン・ディサイシヴ》の謎も、何も分かっちゃいないからねえ……)

 

 

 13歳の時、ステータスが覚醒した際に入手したファースト・スキル。そこから半世紀近くが経つというのに未だ、封印中とだけ表示されているスキルだ。

 あるいはもう、死ぬまで解明できないかもしれないとさえ考えてしまう。けれどそんな弱気を押し殺して、マリアベールはいつかこのスキルの謎が判明する時が来るようにと生涯現役を貫くつもりでいた。

 

「ったく、楽しい人生だよ本当に……」

 

 苦笑いしながらもビール瓶を空にする。

 楽しい時間だからこそついつい、今後の展望について考えてしまいがちになる頭を、彼女はアルコールで吹き飛ばそうとさらにペースアップするのであった。




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 マリアベールの本懐叶う「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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