()内は年齢
御堂将太(24)
大ダンジョン時代の花形、それはもうなんと言っても探査者にほかならない。
特殊な能力を授かりダンジョンに潜り、モンスターを倒して多額の金を得る。
分かりやすく才能ありきの業界であり、また簡単に儲けられることから、大衆は一気に探査者や探査業界に羨望の目を向けるようになったのだ。
それはやがては転じて探査者個人への人気などにも繋がっていく……わかりやすい例で言うならやはりソフィア・チェーホワだろうか。
個性的なスキルを持って人類の敵と戦う、世界最大の権力者にして守護者というあまりにもヒロイックな存在である彼女は、まさしく創作物よりもなお人気が出る一種のコンテンツと化した。
半ばアイドル扱いされるようになったり、そうでなくとも有名人扱いされるようになるのも当然の話ではあった。
また、探査者となれば一代で財産を築けるというのもあり、成金探査者などと揶揄されるほどに金遣いの荒い者達やそれに群がる商売人達が悪目立ちするパターンもちらほらあり。
探査者とは現代に至るまでにすっかり金持ちで当然の、金のなる木同然の見方をされるようになったのである。
そしてそうした風潮に、この頃、大層苦しめられていた探査者が極東アジアは日本にいた。
24歳の若さで国内の探査者の中ではずば抜けた実力を誇る強者だ。また人望も高く政財界や大企業の重鎮などともすでに交友関係を持っていた、極めて有望な若手と言えよう。
しかして彼、御堂将太のプライベートは決して順調とは言えなかった。
彼の、御堂家の親族達がその功績のお零れに預かろうと……ことあるごとに金の無心をしに押し寄せてきていたからである。
いい加減こいつら全員、近くを流れる川にでも投げ入れてやろうか。
温厚な将太にしては珍しく、そんな激情さえもが脳裏に浮かんでいた。
「将太くん……君は親族に対しての礼儀というものを心得ていないのかね? 若者が、ちょっと金持ちになったからと言って増長してしまったかな」
「それはいけないわね、私達がちゃんとしたお金の使い方を教えて差し上げなくてはホホホ。どうせ若気の至りで馬鹿な使い方しかしていないのでしょ? それなら、私達親族みんなに配るのが正しい人の道ではなくて?」
「そうだ、そうだ!」
またしても押しかけてきて、居間に勝手に上がっては理不尽極まる要求をしてくる連中、親戚ども。
これまでろくに関わりのなかったくせに、将太が探査者として大成し一財を成した瞬間からさも古馴染みのように擦り寄ってきたこの者達に、彼も彼の家族も心底からうんざりしていた。
この頃には将太はすでに結婚しており、妻は当然幼馴染の光江だ。2歳になる息子、才蔵もいるのだが今は親戚からの嫌味や皮肉、あるいは直接的な干渉を警戒して自身の父や母、祖父母とともに彼女の実家に帰してある。
つまりはそのくらい、この親族どもというのは迷惑かつ傍若無人なのだ……しかし将太も負けてはいない。
毅然とした態度で、言い返す。
「礼儀知らずはどちらだ、血の繋がりだけで厚かましい連中が、恥を知れ!!」
「なっ……!?」
「財産に固執する気はないが、だからといってお前達にくれてやるほど値打ちがないとするわけでもない! 帰れ!! 金が欲しいなら、金持ちになりたいなら自分達で働いて自分達でお金を貯めてそうなるが良い!! 二度と御堂の敷居を跨ぐな!!」
「何をこのガキ、調子に乗って偉そうに──ッ!?」
大喝する将太に一瞬、気圧されるもののすぐさまいきり立つ親族一同。そこにあるのはプライドを傷つけられた怒りのみで、正当な理屈や論理はどこにもない。
駄々を叱られたことで逆上する子供めいた、そのような浅ましさがあった。
しかしそんな浅ましさごと、将太は一睨みをもって彼らの気勢を完全に押しつぶす。
ダンジョンに潜りモンスターと死闘を演じることすでに8年。スキルや称号、レベルのみならぬ経験というかけがえのないものを積み重ねてきた将太の戦時の視線は、すでに物理的な威圧さえ伴う凄味を帯びていた。
そんな睨みに、欲望に目が眩み金をくすねようとするだけのこそ泥達が抗えるはずもなく。親戚一同はすっかりと萎縮して尻もちをついた。
平時はこのような仕打ちは決してしない、誰に対しても穏やかな笑みと所作をもって振る舞うことから近隣からの評判もいい彼だが……最愛の家族を護るためなら鬼にもなるのだ。
「帰れっ!! お前達の道楽資金のために、この御堂将太は探査者をやってるんじゃないぞっ!!」
「くうっ……! 調子づいた成金風情が、覚えておけよっ!!」
「いずれ痛い目に遭うわよっ!!」
「そうだ、そうだ!」
完全に勢いでも負けてしまった親戚達が逃げるようにして帰っていく。捨て台詞まで吐いていく様は、まさしく悪役と言った風情だ。
ここまで言わなければ引き下がらない連中に深くため息を吐いて、将太は冷蔵庫からビール瓶を取り出し、探査者ならではの身体能力を駆使し、指で王冠を取り外してそのままラッパ飲みした。
特別酒飲みというわけでもないが、飲まずにはいられなかったのだ。
「んぐんぐ……ぷはあっ! まったく、とんでもない連中だよ揃って恥ずかしい! はあ、どうせほとぼりが冷めたと思ったらまた来るんだろうなあ、面倒くさい……!」
苛立ち混じりの愚痴は、あれだけ強く言って睨みつけさえしてもなお、ものの半年か一年もすればまた平気な顔をしてやってくるだろう予感がしたからだ。
その度にまた、今のような乱暴な真似をしなければならないのか……うんざりする心地に襲われ、将太酒を呷るしかなかった。
実際この後、実に10年にも亘り折に触れて親族がしつこく金をせびりに来ることとなる。
あまりのしつこさにいよいよ耐えかねた将太は、妻子ともども世界進出という名目で渡英することを決意。
その際に以前連絡先を知ったソフィア・チェーホワの援助を授かることとなり、さらにはロンドンにて後の大探査者マリアベール・フランソワと知り合うことになるのだが……
それはまた、別の機会のエピソードだ。
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御堂家の親戚達もちょっぴり出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
https://syosetu.org/novel/273448/
書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー