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アンジェリーナ・フランソワ(0)
マリアベール・フランソワ(62)
シェン一族にシェン・ランレイが産まれてから続けるようにして翌年、イギリスはロンドンでも一つの尊い命が産まれていた。
S級探査者マリアベール・フランソワの娘、エレオノールが夫ロベルトとの間に娘を持ったのだ。彼女が28歳、マリアベールが62歳頃のことだった。
なぜロンドンにて産まれたその娘が、中国の山奥で誕生したランレイと関連付けて語られるのか。
それは単純明快な話、現代においてその二人は探査者として、あまつさえ能力者犯罪捜査官コンビとしてタッグを組んで活動しているからだ。
大ダンジョン時代100年を迎えた現代において、若手世代最強格とも呼ばれる"虹の架け橋"御堂香苗に次ぐ形でその名を轟かせる剣客美女。
祖母マリアベールの刀を受け継ぎ華麗なる技を披露するその娘の名はアンジェリーナ。
すなわちアンジェリーナ・フランソワ。
現代ではA級トップランカー候補として世界を股にかけて活躍する、若き天才であった────
「ファハハハ……このマリアベール様もとうとうお祖母ちゃんってかい。ずいぶん遠くまで来たもんだよ、なんだか」
「そうだね、マリー。気がつけば私達も、結婚してもう30年近い。時の流れは早いものだねえ」
「違いない。あんな小さかったエリーが、人の親だもんねえ」
イギリスはロンドン、エレオノール・フランソワの自宅のリビングにて。
家主不在の間、留守を預かることになったマリアベールと夫ヘンリーは揃って酒を飲み交わし、つい先日に起きた慶事を反芻しながらしみじみと語り合っていた。
3年前にロベルトという婿を迎えたエレオノールの、妊娠が発覚したのが去年のことになる。
そこから十月十日を経て数日前にめでたくも彼女は母親となった。一人娘を授かったのである。
これにはマリアベールもヘンリーも喜んでコーンウォールから娘のいるロンドンまでを訪ねた。
そうして入院中のエレオノールとそれに付き添う夫ロベルトに代わり、新たに孫娘を迎える彼女らの家を護るべくこうして留守番をしているのである。
出産直後、母子ともに健康なことにホッとしつつもついに会えた孫の姿を思い返す。
本当に、信じられない心地だった……自分が人の親になったことさえ望外の喜びだったのが、しかも孫まで持てたのだ。
若かりし頃は剣に生き探査者としての道を貫き、戦いの中で死ぬことになるのだろうと、なんとなくそう思い描いていたのがまるで嘘のようだ。
人生分からないものだ、と心から感服せざるを得ない。ワインを浴びるように呑み、マリアベールは笑った。
「なんにせよめでたい! これでヘンリー、あんたもちったぁ元気出たろ? 私もだが歳を取ると元気が萎びていって困るが、こういう幸せがあるとなんだか若さを取り戻せるような気持ちにもなるし」
「まったくだよ……私もだけどマリーもなんだか、最近は酒を飲んだ後ちょっと具合悪そうだからねえ」
「そうかい? 自分じゃ全然いつも通りなんだけど」
首を傾げるマリアベール。具合が悪そうだと言われても、ハッキリ言えばドラゴン退治の後遺症もあり常時どこかしら体調は悪い。漠然とそんなことを指摘されたとて、いまいちピンと来ないのが本音のところだ。
しかしヘンリーからすると、最近のマリアベールは特に酒を飲んだ後、少し息があがり辛そうにしていることがある。
若い頃からほぼ毎日、樽一つ空ける勢いで呑んでいる妻だ。ヘンリーのほうも大概感覚が麻痺してしまっているのだが、それでも最近の彼女はどこかおかしいと思うところはある。
一方でマリアベールのほうも、最近やけにほっそりしてきた夫を訝しんでいるところがあった。食が細くなり、時折咳き込むこともあるのだ。
お互いにもう還暦、歳を取るとこうなるものかと苦笑いする。
そんな老境の自分達はさておいて、マリアベールは孫について夢見心地で語った。すでに名付けは為されている……アンジェリーナ。アンジェリーナ・フランソワ。それが孫の名前なのだ。
しきりにアンジェリーナの名をつぶやきつつ、上機嫌で酒を呷る。
「アンジェリーナ……アンジェだね。ファハハ、アンジェかあ」
「この家にやって来る日が楽しみだねえ。一応幼児服や子供用の玩具は一通り買ったけど、また何か買ってあげちゃいそうだ。エリーにも止められてるのに」
「つっても世の中ゴマンと良い服やら玩具があるからね。まだまだ買い足りないくらいさね!」
生まれて間もないアンジェリーナを、すでに猫可愛がりしてなんでも買い与えてやる気でいるマリアベールとヘンリー。
事前にそのような気配を察知した娘エレオノールからは"あまり甘やかすのも教育に悪いから止めてほしい"と言われているのだがなんのその、祖父母の使命はただ孫を猫可愛がりするだけだと豪語しかねないばかりに甘やかす気満々でいた。
「それにしても楽しみだ! ねえマリー、もしもアンジェリーナが探査者になったりしたらどうする? エレオノールはステータスに目醒めはしなかったけれど、もしかしたら隔世遺伝……なんてこともあり得るかも」
「はぁーん? 孫が探査者……夢があるねえー。そん時ゃ孫と二人でダンジョン探査に行くのも悪かないさね、ファハハッ!!」
「そしたら僕はそんな君達の帰りを待ちながら、そうだね……お酒の準備でもしておこうか。アンジェリーナも君の孫なら、成人したらきっと大酒飲みになるからね」
「いいねえ! そりゃ最高だ!!」
夢物語を話すヘンリーに、気分良く酒を飲みながら笑い応えるマリアベール。
親子ならぬ祖母孫での探査。ロマンがある話だがさすがに難しいだろう。ステータスが遺伝するなどという話は聞かないし、実際エレオノールは非能力者だ。
けれど、もしそんなことになったらと夢想するのも悪くはない。
ニヤニヤと笑いながら、二人は孫の行く末をいつまでもいつまでも語るのだった。
────結果としてこの夢想は15年後、アンジェリーナ・フランソワはステータスに覚醒して探査者となることで叶うこととなる。
しかしてその時にはもう、ヘンリーは病没しておりこの世を去っているのだ。
つまりこの時思い描いた荒唐無稽な夢物語は半分叶い、半分叶わぬこととなる。
けれど当然ながらそのような未来のことは、この時点でのマリアベールもヘンリーも、知る由がないのであった。
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祖母孫揃って活躍する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
https://syosetu.org/novel/273448/
書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー