大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

御堂香苗(0)
御堂将太(83)


80年目-5 御堂香苗

 現代における探査者界隈は、ある種これまでにない盛り上がりを見せている。

 ここに来てかつてないほどに若手層が厚くなったのだ。それは換言すれば極めて強力な、そして将来性のある若い探査者が次々に台頭しているのである。

 

 シェン・ランレイ、アンジェリーナ・フランソワ。愛知九葉、リスティ・セーデルグレン、早瀬葵。いずれも過去の名探査者達と比べてもなお、若くして肩を並べるほどの実力を持つ超新星達だ。

 上記メンバーのほとんどがA級トップランカークラスの実力をすでに誇り、愛知九葉に至っては史上最年少でS級探査者ともなったのだからその質の高さが伺えるだろう。

 

 そのような、歴史上を見てもありえないほどに天才が集うこの時代の探査者達。しかしてその筆頭と言えるのは、一人の女性探査者であった。

 

 ──その探査者の名は御堂香苗。

 苗字からも察せる通り、御堂将太の曾孫である。

 

 A級トップランカーとして出身の日本ばかりか、世界にまでその実力を轟かせることから、彼女と同期同世代の探査者達はまとめて"御堂世代"などと呼ばれるほどにその実力、活躍は際立っていた。

 

 そんな彼女が誕生したのが、現代から遡ること21年前。

 大ダンジョン時代到来から80年が経過した頃合いであった。

 

 

 

 ついに、自分も曾祖父などと呼ばれることになったか──

 嬉しさはもちろんのこと、苦笑のようなちょっとした複雑ささえ心中に抱いて御堂将太は空を見上げた。

 雲一つない真っ青な空は、彼が初めて探査者になった日に見上げたそれとよく似ている気がした。最愛の妻と永遠の別離を迎えた日に、涙を堪えて見上げた空にも、どこか似ている。

 

 数日前、御堂家には大きな喜びが訪れていた。将太の孫である御堂博とその妻、栄子の間に待望の第一子が産まれたのだ。

 女の子だ。その日のうちにその子には"香苗"という名前がつけられ、一族の誰しもが喜びに沸き立っていた。

 

 香苗。御堂香苗。

 曾孫の名をつぶやく度、将太の心には温かく優しい想いでいっぱいになる。

 自分と、光江の子供が孫を産み、ついにはその孫さえも曾孫を産んだ。受け継がれる血脈を実感として受け止めると同時に、受け継いできた自分までの祖先のことさえ敬意をもって心を馳せる。

 その上で、吐息混じりに彼は、万感の想いで言った。

 

「ずいぶん、遠くまで来た……」

 

 心から思う。この世に生まれ落ちて83年、なんと長い道のりだったことか。

 多くのものを得、多くのものを失った気がする。いや実際にそうなのだ、何かを手に入れる度に何かを失ったし、何かを失う度にまた、何かを手に入れてここまで来た。

 

 その多くの期間を、最愛の妻とも過ごした。

 彼女が死んでちょうど10年。未だに将太は健康そのもので、老化とそれに伴う体力や身体機能の低下はどうしても否めないものの、それでも非能力者の同世代と比べればはるかに元気でいられる。

 なんなら息子の才蔵のほうが老いて見えることさえあるほどだ。苦笑いをこぼす。

 

「才蔵も、そろそろ隠居と言うし……博が次の当主になる。私の代から妙に格式張ったことになったが、それでも存外それらしくなるものなのだなあ」

 

 栄子の出産を控えた頃、才蔵が唐突に"孫の誕生を期に博に当主の座を譲る"などと言い出したのも記憶に新しい。そして実際に香苗が産まれたことで、息子は孫にあれやこれやと引き継ぎを始めた。

 今も、才蔵の書斎では博が当主についての心構えや必要な知識等を教えられているだろう。元よりそのための教育を受けてきた孫だ、なんら問題なくスマートにすべてを受け継いでくれるだろうことが将太には予想できた。

 

 探査者として駆け抜けた果て、ついにここまで来た。

 驚くほどにやり残したこともない将太だが、それでもたった一つ、やはり消えない直感がある。

 すなわち"それ"をやり遂げるまでは死ねない、死ぬわけにはいかないという強迫観念めいた直感である。

 

 ファースト・スキル《究極結界封印術》。

 もう60年以上も前に手にし、そこから今に至るまでずっと封印中のこの謎のスキルだが……将太には自分が死ぬ時にはきっと、このスキルに対してなんらかの答えを出しているだろうという予感がしているのだ。

 

 そしてどうしたことかその予感は、産まれたての香苗の顔を初めて見た瞬間から爆発的に膨らんでいた。

 まるでそのスキルと孫娘に、なんらかの関係性があるかのように、だ。

 

「香苗に、何かあるのか? 《究極結界封印術》の謎につながる何かが……考えにくいが、しかしな」

 

 唸るように考え込む。常ならば確信を持って頼りにする己の直感であるが、今回ばかりはなかなか信じられないでいる。

 生まれたばかりの孫におかしなことをしたくなかったし、そもそもどう考えても曰く付きのスキルと何がしかの関係があるなど荒唐無稽が過ぎる。

 

 だからきっと、これは気のせいなのだ。年を取って予知めいた直感にも衰えが来たということなのだろう。そう思い込みたくて、将太は無理矢理に笑い自分を納得させた。

 

 ────結論から言えばここから13年後。長年の直感はついに的中することとなる。

 最愛の孫に与えられた、あまりにも重すぎる運命に少しでも対抗するために……将太は己に課せられた人生最後の使命を、果たすこととなるのだ。




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 御堂香苗がメインヒロインを務める「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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