大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

ベナウィ・コーデリア(25)


84年目-3 アメリカン・ベナウィ

 サウダーデ・風間の愛弟子、ベナウィ・コーデリアが武者修行の旅を終え、探査者として独立してから二年が経つ頃。

 彼はアメリカはケンタッキー州にて事務所と幾人かのスタッフを構え、一人前の探査者として活動していた。

 

 元より優れたステータス、スキルを保持していることに加えてサウダーデからの薫陶を授かり、その実力は若手の中でもトップクラス、すでにA級トップランカーとして界隈内でも有名な存在となっている。

 加えて言えば、その悪癖──スキル《極限極光魔法》を使用するにあたり、それなりの頻度で出力調整を失敗し、ダンジョン内の一フロアを更地にしてしまう──も揃って周知が広まり、"うっかりベナウィ"の愛称が世界的なものとさえ扱われるようになっていた。

 

 当時のネット掲示板などを覗けば、A級探査者の中でも最強は誰かを議論し合うスレッドなどが立っているのが確認できる。

 そこではベナウィについて"実力は文句なくS級相当、けれどうっかり癖があるから実際になれるかは微妙"と、忌憚ないレビューが多く寄せられていた。

 

 そんなベナウィだが、アメリカでの生活ははっきり言えば明るく陽気なものだ。

 師サウダーデとの旅路が極めてストイックなものだった反動もあり、また元々の彼の性格もあり……周囲の探査者や近隣住民とも気のおけないやり取りを交わして騒ぎ合う、ある種アットホームな探査者ライフを送っていたのである。

 

 

 

 ケンタッキー州のとある都市。人が多く行き交う繁華街から少し離れた、どちらかと言えば住宅地に近いところにベナウィの事務所はある。

 ガレージ付きの一軒家だ……自宅を兼ねているこの邸宅で彼は、何人かのスタッフとともに自らの探査者稼業を運営していた。

 

「ちょっと所長! また領収書切り忘れたでしょう!? 今月これで何回目ですか!?」

「所長ー、こないだ提出した納税関係の書類一式、不備があって突き返されましたー。どうします?」

「所長、こないだSNSに投稿した女優とのツーショット写真、あれめっちゃ燃えてるぜー? どうすんだー?」

「オウ、ノウ……」

 

 ベナウィが手ずから集めた有能なスタッフの男女三人に詰められ、落ち着いたデザインながら高級感のあるデスクに座るベナウィは両手で顔を覆い、思わず嘆いた。 

 季節は春を迎えるには少し早い頃合い。探査者であるなら誰もが恐れ、そして手に汗握り時には怒号や絶叫さえ響かせる時期でもある。

 

 確定申告。

 納税のために必要な各種収入状況をまとめて国に報告するこのイベントは、特に金の入りが良くそれでいて金勘定には疎い者が多い探査者界隈にとって、阿鼻叫喚の坩堝とも言えよう。

 独立して二年にもなるベナウィも例に漏れず、この季節になると毎回書類不備やら必要事項の記載ミス、その他諸々の不手際の対応に追われ地獄を見る羽目になっていた。

 

「いやちょっと待ってください最後の。ミスター・ブラウン? なぜに私のSNSが炎上を? こないだの投稿ってもしかしてアレですか、直接依頼を受けたミス・ジェニファーとのやつですか」

「そうそれー。ジェニファー・ヤーンったら熱狂的なファンも多い女優だし、それがいくらダンジョン探査の依頼絡みだからってツーショットなんて投稿したらこうなるのは当然だよなー」

「早く! 言いましょうそれを!? ねえSNS担当さん!?」

「いやこれ載せろって言ったの所長じゃーん」

 

 しかも今年は付随して、タイミングの悪い炎上騒動まで起きる始末だ。

 これだからネット社会は! と、ベナウィは天を仰いだ。普段は冷静な彼も、こうもトラブルが立て続けに起こるとなるとさすがにパニックに近い状態にまで追い詰められてしまっている。

 

 この時ばかりは泰然自若そのものと言える大探査者、師匠サウダーデ・風間の不動の姿が羨ましく思え、彼は嘆息した。

 

「師匠は確定申告とかどうされていたのやら……あの人も割合謎が多いんですよねえ、弟子の身から見ても」

「所長の師匠さんですか? そう言えばこないだ結婚したって手紙が来てましたよね、太平洋から」

「ええ、ビックリしましたよアレはさすがに。いきなり事後報告で結婚式まで挙げたっていうんですからあれも慌てさせられましたねえ。マリアベール様も同様らしく、先日メールで長文の愚痴が来ましたよ」

「あのフランソワさんの愚痴とか、おっかないですねー」

 

 所員の言葉に思い返すは数ヶ月前だ。あのサウダーデから不意に便りが届き、それによると好いた女性と交際の末、入籍したという驚きの話が舞い込んできたのだ。

 これはベナウィはおろか、サウダーデの師匠マリアベールにとっても寝耳に水だったようで……変なところで茶目っ気めかしてサプライズかましやがってあのトーヘンボクは!! と、まさかのメールで延々と愚痴をこぼされたのはベナウィにとっても記憶に新しい。

 

 最近では酒や夫を立て続けに失い、意気消沈しがちなマリアベールがそろそろ元気を取り戻したのはめでたいことだが。それはそれとして弟子の愚痴を孫弟子にするのは止めていただきたいところでもある。

 そう言って肩をすくめるベナウィだったが、すぐに所員達から再度の突き上げを食らうこととなる。

 

「……いや、それはそれとして! 領収書! 領収書どうするんですか、もう!!」

「書類不備についてのまとめをメールで送りましたんで確認お願いしまーす。あー、これ今日残業だなー……」

「炎上止まんねーんすけど。つーかこれなんか反応したら余計燃えるやつっすねこれ、どうします?」

「マイ、ゴーッド……!」

 

 忘れかけていた現実と向き合わされ、またしても両手で顔を覆うベナウィ。

 A級探査者トップランカーほどの実力派たる彼だが、戦闘の絡まないところではこの通り……相変わらずの"うっかりベナウィ"なのだった。




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 主人公の山形くんと確定申告の恐怖に怯える「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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