大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

エリス・モリガナ(80)
早瀬葵(4)
早瀬光太郎(74)


85年目-1 エリスと葵・1

 最愛の妹、ラウラを失ってからもエリスは旅を続けた。

 元より不老の身、やはり一つのところに留まれないというのもあるが、この頃になるとそれだけではなかった……ラウラの遺言、たとえ不老であっても出会いと別れを積み重ね、きっと幸せに生きることを標榜し始めたのだ。

 彼女の旅はもう、ただ逃避めいただけのものでないポジティブな性質のものへと変遷しつつあった。

 

 そんなエリスだが、スペインのとある町に訪れた際、思いがけない人物と再会を果たした。

 日本人探査者の大家、早瀬光太郎。引退して久しい彼がなんの因果か、家族連れで旅行に訪れていたところにばったりと出くわしたのだ。

 

 第七次モンスターハザードから実に10年ほどぶりの再会。

 そこでエリスは後々の弟子であり、能力者犯罪捜査官としての相棒となる少女と出会う。

 

 早瀬葵──光太郎の孫。この時未だ、4歳。

 二人の運命的とも言える因縁は、この時からすでに始まっていたのだ。

 

 

 

 よもやスペインで、日本人の知り合い一家と出会うことになるとはまったく思っておらず。エリスは目を丸くして心底から驚きつつも、けれど喜びを前面に表して再会を祝した。

 バルセロナの観光地でのことだ。能力者犯罪捜査官としての一仕事を終えてまた世界を旅していた彼女は旧知の友の姿をそこに見たのだ。

 

 元探査者、早瀬光太郎とその一家。妻の華もいれば息子、雄介夫婦とまだまだ幼い孫まで引き連れての家族旅行の真っ最中だった。

 市内の高級レストランにて、誘われるがままに食卓を囲みながら語らう。御年74歳ながらも精気溢れる光太郎が、酒を呷りつつ豪快に笑った。

 

「エリスさん! なんて幸運だ、まさか旅先でひょっこりと出会うとは! ぜひとも乾杯しましょう、あなたは儂ら早瀬家にとって最高の友人だ!!」

「夫は10年ほど前にお会いしたみたいですけれど、私などはもう、かれこれ30年はご無沙汰しておりましたね……! 本当にお変わりなく、と言って良いのかとうか……エリスさんの事情を知る私は、なかなか考えあぐねてしまいます」

「ハッハッハー、まあまあ華さんお気になさらず。ご覧の通りの有り様だけど、エリスさんはこれこの通りの元気ぶりだよー? ……光太郎くんも華さんも、本当に良い年の取り方をしたね。とても素敵だよ」

 

 光太郎はもちろんのこと、彼の妻である早瀬華に至っては30年越しの再会だ。

 つまりはそれだけの時間が経過しているわけであり、相応の年輪や風格を刻んだ夫妻の姿に比してかつてから一切変わることのないエリスは、我が身を鑑みて苦笑しつつも彼らを讃えた。

 

 夫妻の息子、雄介などはエリスの若々しい、少女然とした姿を目にしてこの子が本当に父母の恩人で、しかも80歳にもなる高齢の女性なのかと目を白黒させていたりもしたのだが……

 他ならぬ光太郎や華がこうまで敬いの姿勢を見せることから、そしてソフィア・チェーホワという前例がいたりもすることから、広い世の中こういう人もいるか、ということですっかり納得していた。

 こういうところは光太郎の血筋らしい、さっぱりと竹を割ったような性格だなと感心するエリスだ。

 

 そしてもう一人。

 これにはエリスもさすがに驚いたのだが、光太郎と華はついに孫を持つまでに至っていたらしいのだ。

 幼い子供が、彼女の隣に座って愛らしく笑いかけてくる。

 

「エリスおねーちゃん! これおいしーよ、お肉! えへへ!」

「ふふ……そうだね、葵ちゃん。お肉美味しいね、ハッハッハー」

「うん! はっはっはー! はっはっはー、はっはっはー!」

 

 自慢げに肉料理を頬張り、味をアピールして。エリスの笑い声を真似して、高らかに笑い声をあげる。

 早瀬葵。4歳の少女で、光太郎と華の間に生まれた雄介の子供……つまりは二人の孫にあたる女の子であった。

 

 とにかく明るく陽気で、そして好奇心が強く見知らぬ異国の土地であっても物怖じしない姿は、子供らしくもありつつ芯の強さも感じさせる。

 同時に年相応の幼い振る舞いがどうにも可愛らしく、相好を崩してエリスはすっかり笑顔で少女の相手をしていた。

 

「いやあ、葵ちゃんは可愛くて賢いねえ! マリーが孫を猫可愛がりしてるそうだけど、なんとなく分かる気がするよ。いや葵ちゃんは別に私の孫とかではないけどもねー」

「おお、マリアベールのお嬢さんももう孫が! そりゃあ、儂らも年を取るはずですなあ」

「たしか葵ちゃんより一歳年上だったかな? アンジェリーナちゃんと言うそうだよ。電話越しに惚気倒すマリーなんてエリスさん、始めて遭遇したよ」

 

 エリス、光太郎共通の後輩とも言える大探査者マリアベール・フランソワも孫に恵まれたことを、エリスは実体験をもって語った。

 ヘンリーを失った彼女も、孫を生き甲斐にして元気を取り戻しただけありすっかり立派な孫馬鹿だ。どれだけ可愛らしいか、というのを先日別の用事で電話した際、延々と語られてしまって正直辟易したというのは笑い話だ。

 

 孫どころか子供も、それどころかパートナーさえいたことのないエリスにはまるで縁のない話だが、それでも知り合い達が幸せそうにしている姿は素晴らしいと素直に思う。

 そんな彼女の話を聞いて、光太郎もまた、微笑ましいと優しく笑うのだった。




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 エリスと葵が師弟関係を結んでいる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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