大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

エリス・モリガナ(18)


23年目-3 初代聖女のとある結末

 からん、と乾いた音が響いた。エリスのナイフが、地面に落ちたのだ。

 彼女の顔色は青い。血の気が引いた、顔面蒼白の様相だ。外傷はじめ、なんらかの身体的異常があるわけでもない。

 ただ、たしかに彼女は致命傷を負っていた────精神的な部分に、である。

 

 

『あなたはスキルを獲得しました』

 

 

「あ、ぁ……あ、う。スキ、ル?」

 

 震える声で、今しがたのスキルを獲得したという声を聞く。同時に何か、取り返しのつかない大切なものが身体から抜け落ちる感覚を覚えた。

 第二次モンスターハザード最終局面。能力者解放戦線の首謀者から幹部までを捕縛しきり、最後のあがきとも言うべきスタンピードを仲間達と手分けして倒している最中のことだ。

 

 いつも通り《念動力》でナイフを強化して振るっていた。連戦に次ぐ連戦、すでに精も根も尽き果ててはいたがそれでも、それでもこれが最後だと力を絞り抜いた。

 もうすぐ戦いが終わる。そうしたら村に、家に帰れる。家族に会える。そしてまた、変わらない平和で穏やかな日常を過ごすのだ。新しくできた妹分、ラウラと一緒に。

 

 そんな想いで戦い抜いてきた、ところだった。

 今までにない感覚とともにエリスは、その声を聞いたのであった。

 

「す、す……《ステータス》」

 

 

 名前 エリス・モリガナ レベル193

 称号 聖女

 スキル

 名称 念動力

 名称 気配感知

 名称 環境適応

 名称 不老

 

 称号 聖女

 効果 任意の相手にこの称号を継承させる。継承後、元の保持者の称号が《元聖女》になる

 

 スキル

 名称 不老

 効果 このスキルを獲得した時点から以後、肉体的な加齢が停止する

 

 

「ふ、《不老》……肉体的な、加齢が停止?」

 

 確認した自分のステータスには、絶望が刻み込まれていた。

 《不老》。肉体的に一切の年を取らなくなる、極めて特殊なスキルである。

 

 本来であらばスキルにしても人間に与えられるものではない。これはエリスの戦いの果ての代償。

 想定されていない《念動力》の使い方を、己の限界を超え、生命さえも燃やし尽くすほどに遣ってしまったがゆえのある種の奇跡。

 

 知れば誰もが讃えるだろう。人間の見果てぬ夢たる不老不死の半分に今、エリスは手をかけたのだった。

 …………たとえ当の本人にとっては、残酷な結末でしかなかったとしても。

 

「あ、あ……年、取れない? わた、私は……私、一体、どうなってしまったの」

 

 呆然と、静かに取り乱す。己にしか見えないステータス、スキルの欄を、夢か幻かだと必死に言い聞かせて目を擦る。

 けれど夢は覚めず。幻は消えず。

 たしかにそこに記された《不老》の文面が、エリスの形なき中核、心を打ち砕いていく。

 

 

 親の手伝いをしつつ育ち、やがて大人となって社会を知り──

 

 

「嘘。うそ、ウソ。だって私、皆のもとに帰って、それで」

 

 

 たとえそれが狭い村の中だけのものだとしても、精一杯生きて──

 

 

「家のお手伝いをしながら、探査者として活動して……っ」

 

 

 そしてそのうちに誰かと恋に落ち、愛し合い、家族になって家庭を作り──

 

 

「そ、それで、そのうち。そのうち、恋した誰かの、お嫁さんになって…………!!」

 

 

 時間の流れに身を委ねるように正しく老いて、正しく死んでいく。

 そんな、思い描いていたずっと続くはずの幸せが、未来が。どうしようもなく消え失せて。

 

 

「ああ、あああ。ああああ────」

 

 崩れていく。身も心も。もはや立つだけの力をも持てず、エリスはその場に這いつくばった。

 思い出にヒビが入る。かつての幸せが壊れていく。これからの日々が消え去っていく。

 

 母も、父も。弟も妹も。ラウラも。村のみんなも。

 ソフィアも。ヴァールも。ラウエンも。妹尾も。トマスも。レベッカも。シモーネも。

 みんな。みんな。遠い彼方に過ぎ去るように、エリスはたった一人、今、この時。

 

 

 普通の人間のカテゴリから外れてしまった。

 決して老いることのない、何か別のモノへと至ってしまったのだ。

 

 

「ああああああっ! ああっ、あああああっ!! うわああああああっああっ! ──あああああああああああああああああっ!!」

 

 絶叫。そして狂乱。

 完全にパニックに陥ったエリスが、頭を掻きむしり悶え苦しみ、そして悲しみと絶望の中で叫び続ける。

 声を聞きつけたヴァールが止めに入るまで。彼女はそうして、これまでの日々に別れを告げるかのように泣き叫んだのだった。

 

 

 

 

 ────第二次モンスターハザード、終結。

 犠牲者はまたも広範囲に至ったものの、半年という期間で解決せしめたこの事件をもってソフィア・チェーホワとその関係者達は揃って名声を獲得。大ダンジョン時代史にその名を刻むこととなる。

 

 だがそこにエリスの名はない。

 

 不老という、能力者と比較してなおあまりに異質な超人となってしまった彼女はこの後、すぐに行方をくらませてしまう。

 そしてそうした顛末は、彼女にまつわる多くの人の心に暗い影を落とすことになったのであった。




 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 

 絶望を乗り越えたエリスが出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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