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アレクサンドラ・ハイネン(24)
ダンジョン聖教が、象徴的存在たる聖女に六代目を迎えてから早、4年ほどが経つ。
その間にもダンジョン聖教は世界的宗教として、驚くべき発展を遂げていた。
聖女アンドヴァリこと、アレクサンドラ・ハイネンの圧倒的な人望、人徳、魅力。
全盛期には"一度言葉を交わせばたちまち支持者となってしまう"とまで言われたその人誑しの能力を駆使し、彼女は各国の上層部に大きく影響力を持つこととなったのだ。
政治と宗教が結びつくことの危険性、その懸念さえもすさまじいカリスマ性で有耶無耶にして……ダンジョン聖教はこれまででも様々な国の幅広い世代に受け入れられてきたのを、いよいよ国教にまで指定するような国がいくつも現れるほどにしていったのである。
これにはアレクサンドラに否定的だった三代目聖女マルティナ・アーデルハイドも唖然としつつ、その手腕を認めざるを得ないほどであった──同時にそのようにして政治的影響力まで備えた宗教への危惧、懸念をも強く抱いていたが。
六代目聖女アンドヴァリ。その裡に抱える野心、野望とそれに見合ったカリスマ性の化身。
しかし意外なことに彼女自身は聖女という立場に対して極めて真摯で誠実だった。裏でつながりがある委員会などとは一切関係なく、心の底からダンジョン聖教をより良い方向に導くべくその辣腕を振るっていたのである。
「それでは、今後我が国としてもダンジョン聖教に対して最大限の援助を惜しみなくさせていたたきましょう! よろしくお願いします、聖女アンドヴァリ!」
「ありがとうございます、首相! 素晴らしいご決断、心より尊敬いたします」
固く握手する両者。アフリカは某国の首相とダンジョン聖教、六代目聖女アンドヴァリによる公式会談の中での一幕だ。
一国を代表する政治家と世界的宗教の象徴的存在。ともに大きな影響力を持つ二人がここに手を結んだことを、さっそくマスコミは大々的に国内外に向けて報じた。
これで何十カ国目になるだろうか。すっかり馴染んだ流れである。
アンドヴァリはにこやかな笑顔の裏でため息を吐いた。ダンジョン聖教の勢力を拡大するためにこの5年、ひたすらに駆け回って繰り返してきたことの一つが、こうした政治的活動であった。
聖女となる前から、構想は練っていたのだ。ダンジョン聖教を国教とするような国を増やすプラン。
決して不可能でないと確信していた……すでに前例とも呼べるモノがこの世界に君臨しているがゆえに。
(ソフィア・チェーホワ。不老存在にして様々な伝説を打ち立てた生きる神話。彼女率いるWSOこそ、ある意味では世界一の宗教とも呼べるようなものでしょう?)
彼女から見て、ソフィア・チェーホワとは一つの神話そのものであり宗教そのものであり、またそこで崇められる絶対唯一の神のようなものだった。
無論、皮肉である。
90年近くも世界を牛耳り好き放題に社会秩序を形成する一個人。しかもそれでいて独裁的でない、極めて民主的な組織においてカリスマでそれを成し遂げているのだから、そんなものは実際のところ神というしかないではないか。
マスコミの前でにこやかに微笑むアンドヴァリはしかし、胸中ではソフィアに想いを馳せないではいられない。アレと似たようなことをしている自分だからこそ分かることがあった。
──アレは、間違いなく人間ではない。
すなわち本当の意味で現世のモノでないのだと、確信に満ちた想いがあったのだ。
心当たりはあった。ダンジョン聖教の信者として活動する裏でつながっていた犯罪組織・委員会において授かった知識の中に、それはあった。
神や悪魔。妖怪、妖魔、はたまた妖精など。
宗教的、あるいはファンタジー的なモノ達が実は本当に存在しており、この世でない別の領域にいるのだということ。
委員会にもそうした存在はおり、自分達の総称を"概念存在"、住まう領域を"概念領域"と呼んでいることまで。
アンドヴァリは……聖女となる前のアレクサンドラ・ハイネンはこの世の真実の一端に触れていたのである。
だからこそ断言できる。ソフィア・チェーホワは概念存在だ。
そも不老の存在など人間であるはずがない。初代聖女エリス・モリガナも以前、聖女就任の儀にて面会した際には自身を人間と言っていたが同様だ。
おそらくは二人ともなんらかの概念存在であり、現世を支配すべくこの世に降臨して古くから動いているのだろう。
そしてそのために大掛かりなシステムまでもたらしたのだ──ステータスという、世界の在りようそのものを激変させる仕組みを!
(つまり……大ダンジョン時代そのものがあの二人、統括理事と初代聖女による壮大なマッチポンプ。永遠に在り続けられるモノ達による、この世を舞台とした一つのゲームと言ったところでしょうか。ふふ)
ゾクゾクと、背筋が泡立つような恐ろしさと興奮に笑みを深める。真実に到達した者特有の、優越感が脳内を駆け巡る。
彼女らの正体を突き止めたアンドヴァリは、それゆえに彼女らを模倣することにした。今こうしているようにダンジョン聖教を駆使して各国に接近し、より勢力を拡大させようとしているのだ。
当のWSO、統括理事とも友好関係は依然として保っている。自分も面の皮が厚いほうとは自覚していたがソフィアとエリスは桁違いだ。何十年と世界をたぶらかし好き放題し続けるなど、並大抵のことではない。
────アレクサンドラから見た、これが大ダンジョン時代の正体だった。それが本当の意味で真実かどうか、それはソフィアとヴァール、エリス以外でこの世に知る者はいない。
ただ六代目聖女にとってはそれが本当のことなのだ。それが彼女にとってのすべてである。
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アンドヴァリがある意味活躍する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
https://syosetu.org/novel/273448/
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