大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

エリス・モリガナ(85)
早瀬葵(9)


90年目-1 エリスと葵・2

 大ダンジョン時代もついに90年目を迎え、現代と呼ぶべき100年経過に至るまで残すところ10年となった。

 この頃になると旧き探査者達もその大勢が引退、隠居または前線を退き、新たなる世代、今現在にも活躍するニュージェネレーションが台頭するための準備が着々と進められる時期となっていた。

 

 しかしてそうした、時代の枠組みには一切収まることのない特異性を秘めた探査者もごく少数ながらいて。ダンジョン聖教初代聖女エリス・モリガナはその筆頭たる存在と言えるのだろう。

 スキル《不老》の影響により加齢しない、永遠の18歳となった彼女はそれゆえに常に世界各地を転々とし、孤独で自由気ままな放浪の旅を続けているのだから。

 

 彼女はこの時期、中国に滞在していた。旅館に永らく宿泊し、インターネットを駆使してバカンスを楽しんでいたのだ。

 遡ること第五次モンスターハザードの頃から、彼女はことさら漫画やアニメに熱中していたのだが。それはネットが発達して以降さらに加速していた。

 

 自前のスマートフォンやパソコンを仕入れ、各種SNSのアカウントを作り、好きなコンテンツのファンコミュニティに属するようになったりと……いわゆるオタク趣味を堪能するようになっていたのだ。

 この滞在中にあっても彼女は思う存分にそうしたコミックやアニメーション、ドラマやゲームを味わい尽くす日々を過ごしていた。もはやちょっとした趣味である。

 

 さてそんなエリスだが、旧知の間柄である早瀬光太郎の孫娘である早瀬葵の一家がこの頃、中国に滞在していたこともあり少なからず交流していた。

 亡き妹分ラウラの遺言を胸に、せめて昔馴染みとは多少交流したいという想いもあり、何より葵にせがまれたということもある。

 

 当初は軽く挨拶して済ませようとしていたのを、散々に駄々を捏ねてエリスの再訪をせがんだのが彼女だったのだ。

 さしもの初代聖女も泣く子には勝てない。ましてそれが自分を強く慕う子ならばなおのことである。そんなわけで中国に滞在中のエリスは、オタク・カルチャーにどっぷり浸かりながらも並行して、早瀬葵とも遊び過ごしていたのであった。

 

 

 

「ハッハッハー、たーのしーい!」

「はっはっはー! たのちーい!」

 

 二人並んで大笑い。滞在する宿の一室にて、エリス・モリガナと早瀬葵が横並んでテレビに向き直っていた。

 握るはコントローラー、行うはゲーム。葵が実家から持ち出してきたゲーム機で、二人は楽しく協力プレイをしていた。

 

 ──中国は上海の高級宿。しばらく世界各地を放浪していたエリスがこの地に滞在してもう一ヶ月になる。

 そろそろまた旅立とうかとも思っていた頃合いだったのだが、同じく日本からたまたま、観光旅行に来ていた早瀬雄介とその一家に出くわしたのである。

 

 彼の両親、早瀬光太郎や華とはそれなりに仲が良かったものの、雄介とはそこまで交流がなかったエリス。

 それでも多少は歓談し、最近ではすっかり苦手になってきた見知らぬ人とのコミュニケーションを頑張ってこなした末に、愛想笑いなどしつつその場を立ち去ろうかとしたのだが、そこに雄介夫妻の娘、葵が割って入った。

 

 9歳という幼さを全開にして、エリスに引き続いての滞在と交流をせがんだのである。

 5年前、スペインでたまたま出会っただけのエリスを、葵はいつまでも記憶しておりすっかり大好きになっていたのだ。

 

「エリスお姉ちゃん、抱っこして、抱っこ!」

「ハッハッハー、良いよー」

「はっはっはー! わーい!」

 

 幼い少女からの、まったく裏のない純粋そのものの好意を突きつけられて無碍にできるエリスではない。

 光太郎との誼もあり、恐縮する雄介を宥めつつこうして滞在を延期し、葵とふれあうことにしたのだった。

 

 ゲームを持ってきたり協力プレイをせがんだり、抱っこするように要求してきたりと……意外に押しの強い葵を微笑ましく思い、エリスは自分の腕の中でコントローラーを器用に動かす葵に笑いかけた。

 

「ふふ……葵ちゃん。君は将来、結構な大人物になるかもだねー」

「だいじんー? えらいのー?」

「偉い……かどうかはともかく、すごい人ではあるかもねー。いつかはこのエリスさんだって超えていっちゃうかもだ」

 

 キョトンと、丸い目を上向けて見上げてくる幼子に微笑む。今はまだ9歳のこの子も、当然ながら時が経てば年を取る。

 子供から大人へ。永遠を手にしたエリスには分かることのない経験を様々積んで、そして老いていくのだろう。それこそ、ラウラのように。マリアベールのように、光太郎のように。

 

 昔であれば、どうしようもない羨望を抱いていたのだろう。けれど今は違う、妹が遺してくれた言葉と想いがあるから、置いていく彼らを、置いていかれる自分をそれでも肯定的に受け止めようとはできる。

 それは、きっと素晴らしいことなのだ。少なくとも我が身を呪い、他者を羨み続けるよりはずっと。

 

「葵ちゃん……素敵な時間を過ごして、素敵な大人になっていくんだよ」

「むう……エリスお姉ちゃん、手が止まってる! ゲーム、ゲーム!」

「ハッハッハー! そうだねごめんね、今は今、だったね!」

 

 幼子に叱咤されて慌ててコントローラーを握る。

 なんだかんだとこのひとときも、かけがえのない思い出となってくれるのだと確信するエリスであった。




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