大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

マリアベール・フランソワ(73)
サウダーデ・風間(50)
ベナウィ・コーデリア(32)


91年目-1 三師弟と日本

 マリアベールとアランが太平洋を訪れた翌年。今度はサウダーデのほうがマリアベールに呼ばれ、太平洋を一旦離れることとなった。

 遠く離れつつも己のルーツの片割れである極東アジアの地、日本にて……弟子のベナウィ・コーデリアともども師匠に招待されたのだ。

 

 彼自身にとっては母方の祖国であり、マリアベールにとっても古くからの知り合いを訪ねて毎年、来日しているほどに馴染みの深い土地であり。

 この頃にはS級探査者としてすっかり大成したベナウィに至っては、この頃に結婚したパートナーの女性が日本人であるということから師弟3代に亘り、日本という国はなにかと縁の深い国になっていた。

 

 そんな国に三代師弟が集ったのはこれが初めての機会であり、現代に至るまではこれが最後の機会でもある。

 なぜマリアベールがこの地を指定したのか……それはつまるところ、数年越しのベナウィへの祝福にあった。

 

 4年前にS級探査者として認定されながらも、マリアベールがWSOの特別理事になったことによりなかなか、面と向かっての宴を開けずにいた件の大成を、ある程度落ち着いてきた今、改めて行いたい。

 そんな思いから三者揃って縁のある日本は首都、東京にて3人が一堂に会したのである。

 

 

 

「いやーすまなんだねベナウィ。アンタのS級昇格祝いをしたいしたいと思いつつ、揃ってなんやかや忙しくしてたらもう5年近く経っちまってた。今さら何をって話しだろうが、悪いけど祝わせておくれよ」

 

 東京都内、高級旅館にて。

 弟子のサウダーデ・風間、孫弟子のベナウィ・コーデリアを呼び出して一週間ほど滞在しているマリアベールは初日の夜、宴の席にてそう言って笑った。

 歳の頃、もはや73歳。すっかり年齢的にも立場的にも大御所となった元祖S級探査者兼WSO特別理事の、申しわけなさそうな苦笑いである。

 

 4年前にS級探査者として認定されたベナウィであったが、サウダーデはともかくマリアベールについては電話越しに祝いの言葉を述べるしかできていなかった。

 今は亡きレベッカ・ウェインの後を継いで座した特別理事の地位が、なってみれば思いのほかやることが多かったがゆえである。

 

 責任ある役職というわけでないにせよ、それでも権威的な立ち位置だ。世界各国を巡っては後進への指導や各地の大物探査者と語らう必要があったりと、存外忙しかったのだ。

 無論、これはこれで意外と楽しかったから悪い思いでもないマリアベールだったが……さりとて孫弟子の大成を直接祝えもしないまま数年を経過させていたのは、どうにも心のしこりではあったのだ。

 

 それゆえ一念発起して今回、彼と彼の師にあたるサウダーデを日本に招待したのだ。

 昨年、太平洋を訪問したこともあってサウダーデとは話がつけやすかったのも大きい。彼を介してアメリカに住むベナウィにもアポイントメントを取り付けられたのも、こうした宴を開くのに大きな追い風となっていた。

 

 茶の入ったグラスを──アルコールでないことを心底から惜しみつつ──語るマリアベールに、ベナウィはいえいえと笑顔とともに応えた。

 彼からしてみれば望外の誘いだ。敬愛する偉大な探査者達に呼ばれ、こうして祝してもらえることはいつになっても、いくつになっても嬉しいことだった。

 

「マリアベール様と先生にまでお呼びいただいて、こんなふうに祝っていただけるなんて嬉しいことこの上ありませんよ! いやー、私もなんだかS級探査者になったんだなーって実感が湧いてきました!」

「いつぞや、お前が太平洋に来た時に俺は祝わせてもらいはしたが……礼儀というものを考えれば本来、俺のほうが率先して祝うべきだったのもたしかだ。ゆえ、先生の提案は渡りに船だったよ、正直な」

「クリストフには去年、アランと一緒に会いに行ったからねえ。太平洋客船都市……見事なもんだったよ。まあ、行くことも滅多になかろうけどね。ファファファ!」

 

 純和風の彩り豊かな料理がずらりと並ぶ膳の前で、酒を飲み語るサウダーデにしても想いは同じだ。

 

 彼としてはマリアベールの弟子でありベナウィの師匠であるという中間の立ち位置であるからには、両者をなんとかして取り持ちたい気持ちは以前からあった。

 しかして自身が大陸からも遠く離れた太平洋に住むことから、なかなか動けないでいたことに焦れったい気持ちを抱えてはいたのだ。

 

 そんななか、先年に太平洋に招いたマリアベールからベナウィのS級祝いを行おうと提案された時には、これはもう何がなんでもやろうと即座に快諾したのだ。

 なんならその場に同席していた同じS級探査者のアラン・エルミードやロナルド・エミールも参加したがっていたが、来日するだけのスケジュール確保ができずに断念する形となった。

 

 刺身を食べ、日本酒を呷りつつもサウダーデがしみじみと弟子を見た。

 S級探査者になっただけでなく、彼は最近もう一つ非常にめでたいことがあったのだ。あえて、なんでもないような口振りで切り出す。

 

「日本という地には、先生も俺もベナウィもそれぞれ縁があるからな……そうだベナウィ、遅ればせながら結婚おめでとう。たしか去年だったかな」

「ありがとうございます! そうなんですよ、いやー観光旅行に来ていた妻に一目惚れしてしまって、もうひたすらアタックしましたよ! 想い通じて幸せったらないです!」

「ファファファ! 良いねえ、あんたも所帯を持ったかい! そのうち子供も持つだろうし、そっからもっと幸せになるよ」

「楽しみです、本当に……まさか私が、家族を持つとはねえ」

 

 はにかむベナウィ。そう、彼はこの頃になると日本人女性と家庭を持ち、度々彼女の実家を訪ねて来日したりもしていた。

 御堂家とのつながりで毎年来日しているマリアベール。母方の実家を訪ねているサウダーデ、そして妻の実家という縁を持ったベナウィ。

 なんの因果か三師弟揃って日本という国に対して、非常に強い関わりを持つこととなったのだ。

 

 そしてこの因果が、さらに強い結びつきへと変わるのは……これより後、10年が経過してからのこと。

 "救世主"と呼ばれる少年探査者の物語において、再び三師弟が日本に集結する時のことであった。




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 次に三師弟が集う物語、「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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