大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

御堂将太(97)
御堂香苗(14)


94年目-1 人生すべて、やりきった日

 ──夜天に星が煌めく、とある夏の日。御堂香苗は密かに一人、曾祖父たる将太の部屋を訪れた。

 今しがた自身に起きた極めて重大な、そして危険な事態について相談するためだった。

 

「ひいおじいちゃん、起きておられますか? 香苗です、折いってご相談したいことがあります」

「うん? ああ、起きているよ香苗。入りなさい」

 

 その訪問を受けた将太は、特になんの気なしに彼女を部屋に入れた。

 いつになく深刻な顔をした曾孫に、何かあったろかと首を傾げながら。

 

 静かに入室した曾孫、香苗は今年でもう14歳。大人びた、そして驚くほど整った顔立ちに珍しい白銀の髪を揺らしている。

 幼い頃からの、生まれつきの銀髪だ──将太の祖母が北欧系の外国人女性であり、その隔世遺伝による日本人離れしたルックスだった。

 

 そんな香苗がこの時ばかりは泣き出しそうな、焦燥に駆られた尋常でない様子でいる。

 一体何が? 訝しみつつ、将太はゆっくりと落ち着かせるように優しく言い聞かせた。

 

「まあ、座って落ち着きなさい。そしてゆっくりと、ゆっくりと息を整えながら何があったか、話してほしい」

「は、はい。すぅー……はぁー……ふぅー……じ、実は。ついさっき、頭の中に、声が聞こえまして」

 

 敬愛して止まない曾祖父に言われるがまま、深呼吸を繰り返す。それで少しは平静を取り戻して、香苗は語り始めた。

 頭の中に響く声。将太にも覚えのあるものだ。はるか80年前に、彼自身もそれを体感した。

 

 ──スキルの獲得。ステータスの覚醒。

 すなわち能力者へと至ったのだ、香苗は。

 

 

 名前 御堂香苗 レベル1

 称号 ノービス

 スキル

 名称 光魔導

 名称 ■■

 

 称号 ノービス

 効果 なし

 

 スキル

 名称 光魔導

 効果 光属性の魔導を放つ

 

 名称 ■■

 効果 ■■■■■■■■■────

 

 

「────なんだって?」

「ほ、本当なんですひいおじいちゃん。わ、私の目に映るステータスには、スキルにはたしかに、そんなふうに書いてあって」

 

 自らのステータスを詳らかに、余人に聞こえぬように囁やき語った香苗に、将太は齢97に至ってなお、初めての衝撃に言葉を、息を忘れた。

 《光魔導》ではない。もう一つ、聞いたこともないスキル《■■》のことだ。その名もそうだが、効果が、あまりにも。

 あまりにも、異質なものすぎた。

 

 信じられない。だが信じるしかない。

 香苗がこんな嘘を吐くとも思えないし、何より彼の直感が叫んでいる──

 

 

 "本当のことだ! 間違いなく! そしてそのスキルは曾孫を! 香苗をいつの日か不幸にする!! 香苗の未来を殺すスキルだ、《■■》は!! "

 

 

 ──と。

 これまでの人生でも最大、かつ最高の警鐘が心をかき乱すのを自覚しながら、将太は愕然と呻いた。

 

「そんな、そんなスキルがこの世にあっていいのか……? いや、それより、そんなことより……《■■》を手にした香苗は、香苗の今後は……」

「ひ、ひいおじいちゃん……っ」

「っ……な、んと……なんて、ことだ……っ!!」

 

 泣きそうな顔をする曾孫の、危惧が痛いほどに将太にも理解できた。その効果はまさしくその名にふさわしいものだろう……知ればありとあらゆる欲望と悪徳、悪辣が香苗めがけて襲いかかってしまうほどに。

 将太の身体中から汗が吹き出る。愛しき子孫、曾孫香苗の未来の暗澹たる様を直感的に目の当たりにしてしまい、息が短く荒くなる。

 喪われるモノを想って、震えが、恐れが止まらない。

 

 どうすれば良い? 将太は生まれて初めてに近いほどの震えと怯え、そして危機感に汗を流しながらも必死に考えた。

 齢97歳。もうそろそろ体力も気力も終わりに近しい彼にとってその作業は辛く苦しいものであったが、そんなことはどうでも良かった。

 

 ここでどうにか手を打てなければ、曾孫の人生が地獄で確定して終わる。

 見るも悍ましい狂気の欲望に晒され、その身体も心も尊厳さえも壊され、汚され、凌辱されつくしてしまうだろう。

 それだけの魔的な魅力が《■■》にはあった。誰かにとっての幸福が、そのまま香苗の不幸になる。これはそんなスキルでしかない。

 

 どうすれば良い?

 聡明ゆえ、そうした将太の危惧と似たような未来を思ってしまったのだろう。涙ぐむ香苗を前に将太は、脳を焼き切らんとするほどに回転させて考えた。

 どうすれば良い? どうすれば、どうすれば────!!

 

 

『────御堂香苗が、《究極結界封印術》の継承資格を獲得しました』

 

 

 不意に、将太の頭に、声が響いた。

 聞き覚えのある、温かみのある声だった。

 

「────────な、に」

『《究極結界封印術》を、御堂香苗に継承しますか?』

 

 それは、80年前に聞いたきりの声。

 スキルを獲得した時。ステータスに、能力に目覚めた時に聞いた声。

 

 呆然と、その声を聞き。その内容を静かに咀嚼して。

 将太は静かに、うなずいた。

 

「譲渡、する。香苗は、私の、希望なのだから」

「ひい、おじいちゃん……?」

「…………そうだったのか。この時のために、このスキルは。そして私は、今日この時まで」

 

 すべてがつながる感覚を覚えて、将太の胸に沸き起こったのは震えるほどの感動や慄然、戦慄……などではない。

 ただひたすらに願い祈る心のみ。どうかこの行いが、我が最後の使命が曾孫を、香苗を護り抜いてくれるように。

 その一心のみだった。

 

「香苗──今から、私はお前にとあるスキルを授ける」

「えっ……」

「私のファースト・スキルであり、永く効果と使用が封印されているモノだ。その特異性を利用して、《■■》の存在のカムフラージュとするんだ。本当に知られてはいけないスキルの、隠れ蓑にしなさい」

 

 もはや、将太は確信を抱いていた。今から差し出す《究極結界封印術》は、必ずや香苗の身を護ってくれるはずだと。

 あるいはファースト・スキルの真の効果とは、やがて生まれ来る曾孫を護るためのものだったのだとさえ、今の彼には思える。

 

 そしてもう一つ。

 湧き上がる最後の直感に身を委ね、半ば無意識に近い形で将太は、香苗に未来への希望を伝えた。

 

「そして、そして──いつか、そのスキルの封印が解かれる時が、必ず来る。解き放ってくれる誰かが、お前にとっての救世主が必ず現れる」

「私にとっての、救世主……」

「そうだ。その時まで、決して誰にも《■■》の存在は漏らしてはいけない。友にも、家族にも、誰にも。良いね、香苗……」

「は、はい」

 

 神妙にうなずく香苗に、一つ笑いかけ、将太は天井を見上げて静かに、深く、重く吐息を漏らした。

 

 

 ──終わった。

 

 

 言葉にならない。根拠もない。けれどたしかな実感としてある。終わった。すべて。

 人生のすべてを、やりきったのだ。

 

「光江……」

 

 最愛の妻の名を、一人つぶやく。

 もうすぐ会いに行けるよと、彼は内心でそう、語りかけた。




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 香苗が救世主と巡り合う物語、「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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