()内は年齢
御堂香苗(17)
青樹佐知(22)
S級探査者マリアベール・フランソワによるサンドアリジゴク討伐から一年。御堂香苗は探査者として飛躍の時を迎えていた。
弱冠17歳にしてA級探査者へと昇級。さらにはダンジョン探査の実績とその実力が認められ、トップランカーへの道も見えてきたのだ。
元より強力なスキル《光魔導》を駆使し、いかなるモンスターであれその場を一歩も動かずして殲滅する戦術が評価されていた彼女。
スキル使用時に周囲に虹が発現する特性から、いつの間にやら同期ばかりか世間一般にも"虹の架け橋"などと二つ名をつけられ……その美貌もあり、今や国内ばかりか国外にも人気沸騰、若手世代の代表格として扱われるような事態となっていた。
これには御堂一族も本家分家問わず喜び、香苗に探査者としてのいろはを教え込んだ師匠、青樹佐知も涙ながらにその大成を祝い喜んだ。
氷姫などと呼ばれるほどにクールで冷淡な言動も、ファンから見れば御愛嬌。むしろコレが良い、冷たく見られて踏まれたいなどとネット掲示板でのたまうようなコアな層さえ抱えて、香苗は現代探査者界隈におけるインフルエンサーとなっていった。
けれどそれは、当の香苗にとってはキッパリと邪魔なものでしかない。曾祖父将太が死んで後、香苗の心は閉ざされきったままなのだから。
いつか来るはずの、出会えるはずの"救世主"だけをただ、ただひたすらに望み続けて──香苗はずっと、暗闇の底をもがきながら迷い続けていたのであった。
「香苗ー! さすがだ香苗、私の可愛い一番弟子、愛弟子! こんなに早くA級探査者になるだなんて最高だ!」
「はあ。それはどうも」
拠点となる京都府中心街の全探組にて、奇声をあげて抱きつき、頭を撫で回してくる師匠、青樹佐知。
言ってもまったく聞かずに暴走する彼女の、なすがままになりながら御堂香苗は能面のような無表情、凍りついた目で更新されたばかりの己の探査者証明書を見た。
名前 御堂香苗 レベル605 A級
称号 霊体殺し
スキル
名称 光魔導
名称 暗殺術
名称 気配感知
名称 遠視
名称 環境適応
称号 霊体殺し
効果 物理攻撃が精神体にも命中する
スキル
名称 光魔導
効果 光属性の魔導攻撃を放つ
名称 暗殺術
効果 対象の意識外からの攻撃的中時、威力に補正
名称 環境適応
効果 いかなる環境においても運動性能が低下しない
かくのごとく、B級からA級になっている。この日、香苗はついに探査者界隈におけるメインストリームであるA級に到達したのだ。
これより上はまさしく人外魔境たるS級探査者いないという地点であり、一般的な探査者にとってはA級こそが目指すべき地点、とりわけその頂点であるトップランカーが目標であり理想というのが現代における風潮だった。
しかし青樹から見れば香苗のポテンシャルとはまだまだ、こんなものではない。
愛しの弟子が持って生まれた才能は、断じてそんじょそこらのA級で満足するような連中とは異なるのだと……極めて強い色眼鏡も込みにして、本気でそう思っているのだ。
「香苗は! 間違いなくS級にまで行ける器だよ! 私が保証するよ、師匠たる私をあっという間に超えていった香苗は間違いなく天才の中の天才! 私の最高傑作だ!」
「買い被りすぎです、青樹さん。S級探査者ははっきり言って次元が違います。去年のサンドアリジゴクの件でそれは嫌というほど身にしみて分かりましたから」
「いーやそんなの香苗の思い込みに過ぎないね! マリアベール・フランソワ? ミア・ハーウェイ? ノンノンノン! 君はそんな人達さえ越えてS級探査者のトップにだって至れる!!」
「またそんなことを……せめて自分のことで大言壮語は吐いてくださいよ」
あまりにも大それたことを言う青樹に、心底から呆れ果てる香苗。
昨年に彼女は、世界最強クラスの実力を目撃していた。マリアベール・フランソワが超神速の一刀をもって、S級モンスターサンドアリジゴクを仕留める場面を見ていたのだ。
あの姿は、正直に言えば探査者として憧れるものがあった。S級ともなればあれほどのことができるのだろうし、もしそうなれたなら……自分も今よりかは少しくらい、生きにくさを抱えなくて済んでいるのだろうかな、とさえ考えた。
けれど同時に、おそらく自分にはあそこまでの才覚はないだろうとも思ったのだ。否、正確には才覚があろうともそれを開花させるメンタルにはなれない。
香苗は今もなお、心を閉ざしきっている。曾祖父の言いつけを護りステータスの一部を隠し、誰にも言わず、そして気取られないように誰に対しても一定の距離を保ってうわべだけの付き合いをしてきた。
家族に対してさえもだ。それゆえに彼女はいつの間にか惰性と倦怠をひどく拗らせ、クールな外面の中には常に消え果てた熱意だけを抱えていたのである。
つまるところ、こういうことなのだ。
いつの日か、出会うかもしれない"救世主"など……そんなものだけを頼りにして生きていく中で、必要最低限のことしかしたくない。
ダンジョン探査さえ、持ち前の正義感と使命感が惰性をかろうじて上回るから、それなりの頻度でこなしているだけなのだ。そうでなくてはとっくの昔に、自室に引きこもって空想の世界に逃げ込んでいるだろう。
そういう意味では香苗はもう、抜け殻に近しい状態だった。
「……どうでも良いことです、級も、実力も、何もかも」
「香苗……」
「すみませんが放っておいてください。私を鍛えてくれた青樹さんのことは尊敬していますが、それでも私は一人です。一人でなくてはいけないんです」
踵を返し、孤独に帰る香苗。
その背中を、痛ましげに青樹は見つめるしかできなかった。
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