大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

シェン・フェイリン(13)
シェン・ハオラン(24)
シェン・ランレイ(21)
シェン・フェイオウ(67)
シェン・カウファン(63)
シェン・ラオタン(65)


100年目-2 完成されしシェン

 ついに100年目を迎えた大ダンジョン時代。それは同時に星界拳始祖シェン・カーンが一族とともに里を興してから、95年目を迎えたことをも意味する。

 始まりは小さな集落に過ぎなかった里も今や大きな里となり、周辺の町村や都市とさえつながりを持つようになっていた。

 

 数多の星界拳士、探査者、里長の試行錯誤と艱難辛苦、そして不撓不屈にして不断の努力を積み重ねて辿り着いたこの年。当代里長であるシェン・フェイオウはついに一つの答えを見出した。

 "完成されしシェン"……一族の悲願にしてWSO統括理事ソフィア・チェーホワと交わした遠い約束を果たすために目指し続けた星界拳の一つの到達点。それがついに生まれ出たと判断したのだ。

 

 シェン・フェイリン。フェイオウの三人目の子供であり、兄姉にも勝るほどの才覚を備えた天才拳法家だ。

 その素質たるや、弱冠13歳にしてあらゆる星界拳派生流派を習得。ステータスを持たない星界拳士が到達できる最高の段位"地覇"にまで登り詰めるほどのものだった。

 

 星界拳の腕前に限って言うならば姉にして探査者のランレイさえ超えており、兄にして"史上最高の星界拳士"と一族内で呼ばれているハオランにも届き得るほどであった。

 そんなフェイリンが、この年……ステータスに覚醒し、能力者となったのだ。フェイオウが"完成されしシェン"の誕生を確信したのも、無理からぬことであった。

 

 

 

「──ついに、時が来たということだろうな。それがまさか、儂の代で、儂の娘だとは思いもしとらんかったが」

「ですな」

「同感です、里長」

 

 シェンの里、運営に携わる一族の重鎮が揃う会議の場にて。

 里長シェン・フェイオウは古馴染みの探査者シェン・カウファン、シェン・ラオタンと語らっていた。

 

 話題は当然のこと、今しがた全会一致で認められた"完成されしシェン"……愛娘フェイリンのことだ。

 先日、彼女がステータスに覚醒し能力者となったことを受け、フェイオウは迷わず臨時の話し合いを開き提案したのだ。己が娘フェイリンこそが、一族がこれまで積み重ねてきた集大成。すなわち"完成されしシェン"であると。

 

 そしてそれに対しての重鎮達の反応も、清々しいまでの同意ばかりだった。

 ランレイの師たるカウファン、フェイリンの師であるラオタンの二人も諸手を挙げて賛同し、弱冠13歳の少女を一族の到達点であるとお墨付きを与えたのである。

 

 百戦錬磨の探査者であり、二代目里長シェン・ラウエンの弟子でもあったカウファン、ラオタンの二人が認めるほどにフェイリンはもはや、別格の才能を燃え上がらせていた。

 この歳ですでに既存の星界拳を隅から隅までマスターし、かつ肉体的にも過不足なく完璧に扱ってみせるのだ。純粋な星界拳の腕前で言えば師匠格二人や姉、ランレイさえ遥かに越える力量がある。

 しかもそこに加えて探査者にまでなったのだ。

 

 星界拳士としてならばフェイリンと互角以上のところにいる兄ハオランも十分"完成されしシェン"の資格を持っていたが、彼は能力者でないために星界拳士最高の位、"天覇"には至れないでいた。

 畢竟、彼に匹敵する腕前を誇るフェイリンが能力に覚醒したならば"天覇"に至るのは必然のことと言えよう。

 

 史上最年少の"天覇"到達。

 里の誰もが、一族の悲願がついに果たされたのだと悟るには十分であった。

 

「フェイリンは今後、里での修行を切り上げてダンジョン探査という実地での鍛錬に励むことになる。そしてレベルを上げていけば身体能力の強化もあり、さらなる潜在能力が引き出されていくだろう……正直、あの子で駄目なら悲願達成など不可能だ」

「うむ、あれこそはまさしくシェン一族の集大成。今後、さらなる発展はあるだろうがフェイリンほどの天才が生まれることはさすがに高望みが過ぎる」

「ハオランが能力者となっていれば、より良かったのだが……いや、彼は彼であのままで良いのだろう。フェイリンとは別の方向で隔絶された才能。ラウエン様の蒼炎をよもや、呼吸するも同然に発現させるなどとは、な」

 

 フェイリンの空前絶後の才覚、類稀なる"完成されしシェン"としての天才性をこれ以上ないほどに讃えつつ、けれど三人には同時にその兄ハオランの異質ぶりにも言及せざるを得ない。

 かつてラウエンが死に際に放った、超常的な蒼い炎、蒼炎。これまでに誰一人として再現できなかった、フェイリンにも未だ発現できていないそれを……ハオランはいとも容易く、息をするように放ってみせるのだ。

 

 すなわちそれは能力者としての枠組みにすら収まらない、まさしく異能。

 完成されず、けれども"史上最高のシェン"と呼ぶしかない特異極まる立ち位置。ハオランに自覚はないものの里の誰もが彼を敬い、慕い、そして次代の里長たるに相応しい男として認めていた。

 これでもう少しコミュニュケーション力があれば……ため息交じりにこぼしかけた愚痴をぐっと堪えて、フェイオウは続けた。

 

「ハオランはもう、シェンの枠組みにすら収まらぬ。天衣無縫ゆえ、儂らがどうこう言うべきモノではないのだろう。やはり、フェイリンだな」

「"完成されしシェン"……ついに、至ったか」

「さっそくチェーホワ統括理事に報告しよう。そして待つのだ、フェイリンの力が必要となる時を。きっと、その日は近い」

「うむ。始祖カーンより受け継がれし約束を、果たす時が来た……!!」

 

 厳かにうなずく三人。"完成されしシェン"がついに現れたとは言え、そこがゴールではない。

 100年前の約束を履行するのだ……ソフィア・チェーホワが保持しているという"救世技法"なるスキルを受け継ぎ、その力でもって断獄なるモンスターを討つ。そして世界にシェン一族の名を、星界拳の名を轟かせるのだ。

 すべてはそのためのこれまでだった。

 

 ──そしてこの後、一年後。約束は果たされることとなる。

 日本を訪れたフェイリンはヴァールとの約束を見事果たし、"救世主"や仲間達とともに断獄を討ちとることとなる。

 シェン一族の、途方もない努力と鍛錬、そして苦労がついに報われるのであった。




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 「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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