大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

ソフィア・チェーホワ(???)


41年目-2 太平洋ダンジョン、発見

 世界各地の至るところに発生しては、探査者によって取り除かれ、また別の地点にて発生するを繰り返すダンジョン。

 しかし大ダンジョン時代が始まって100年にもなる現代にあって、発見から60年ほどが経つにもかかわらずまったく踏破される気配のないダンジョンが一箇所、存在した。

 

 太平洋のとある地点、周囲数百キロには島どころか小岩の一つも見えない、見渡す限りの海だけが広がる地点。

 そこに直径10kmほどの巨大な穴が空いているのだ──超巨大ダンジョン、通称"太平洋ダンジョン"である。

 

 ヨットで太平洋横断にチャレンジしていた日本人冒険家によって発見されたこの巨大極まるダンジョンはすぐさまWSO統括理事ソフィア・チェーホワの知るところとなり、実際に彼女自ら何度か探査が試みられた。

 

 ところがそこから判明したいくつかの事実をもって、この太平洋ダンジョンは約30年もの間、事実上の放置扱いをされることとなったのだ。

 大ダンジョン時代を牽引する永遠の探査者少女をもってしても、このダンジョンの踏破は時間をかけて環境を整えねばできないと判断されたのである。

 

 

 

「頭の痛くなる話ですがこのダンジョンは現状、今の社会では対応できません」

 

 スイスはジュネーヴ、国連本部にて。

 当代事務局長アーヴィン・ベルスターを初めとする国連関連組織の長が集う会合の場にて、国際探査者連携機構WSOの統括理事ソフィア・チェーホワは短く断言した。

 半年前、ある日本人によって発見された太平洋内にできていた超巨大ダンジョンについての議題にて、開口一番のコメントであった。

 

 まさかの即答ぶりに沈黙が降りる。

 他の者ならば真面目にやれ真面目に答えろと言えるところだが、今や国連そのものに匹敵する巨大政治機構と化しているWSOの、それも幾度となく世界を護ってきた英雄がここまで言い切ったのだ。誰も反論できるはずがない。

 

 静かに超巨大ダンジョン、太平洋ダンジョンも銘打たれた件の地の踏破は今現在は不可能という認識を誰もが把握した上で、しかしアーヴィンはみなを代表して問いかけた。

 質問であり、確認。不可能なのは理解したが、何をもって不可能なのか、という点についての問いかけだ。

 

「チェーホワWSO統括理事。何故、断言されたのです? あなたがそうまで言うからには相応の理由があるはずです。お答えを」

「無論説明します。まず……第一に、ダンジョンの規模が桁外れに大きすぎるというのが挙げられます」

 

 言いながらWSOスタッフに資料を配布させる。太平洋ダンジョンを現時点で可能な限り調査し、ソフィア本人までもが探査に挑んだ末でまとめた報告書だ。

 それに目を通す各組織のトップ達へ、続けてソフィアは語る。太平洋ダンジョン、その規格外の規模を。

 

「一階層をある程度までしか探査できていませんのでそこまでの暫定的な調べとなりますが……通常のダンジョンと構造こそ一緒ながら道も部屋も大きさや広さ、幅は約10倍にもなっています。そして部屋はこの半年で10、踏破したものの未だ下層への階段も見つかっていません」

「まずはスケールが違いすぎるというわけですね。そも入口からして桁違いなのだから、そこは分からなくもありません」

「ええ。加えて件のダンジョンの部屋、そこにいるモンスターを一度倒しても……約一日ほどでまた発生するという現象が確認されています」

「なんですと!?」

 

 説明に目を剥き、資料を読み込むトップ数人。規模も大きくその時点で探査に時間がかかるのは分かるものを、しかも一度踏破した部屋であっても短時間でモンスターが再発生すると聞いては驚かずにはいられない。

 あまりに常識の埒外だったからだ。

 

 通常、ダンジョンの部屋はそこにいるモンスターを倒しきれば安全が確保されるのが常だ。

 再発生など滅多にあるものではないし、あった場合は"エラーダンジョン"として扱われ早期踏破を目的として探査者が派遣されるケースが多い。

 

 例外的に"倒しきった後、その部屋に誰も立ち入らない条件下で半年経過"という極めて限定的な状況ではまた、再発生することは研究の結果分かっているが……

 普通に考えてわざわざモンスターを倒しきった後、ダンジョンコアを確保せずに外に出てそこから誰も再踏破せずに半年も放置するなどまともな想定ではなく。

 ゆえに基本的にはモンスターの再発生など常識的に考えてまずあり得ない、というのが世間一般での認識である。

 

 それが件の大規模ダンジョンにあっては、問答無用で一日経てばまた、モンスターが再発生するのだという。

 先述の規模の大きさも併せ、これではとてもでないが探査など不可能だ。

 さらに言えば、とソフィアの絶望的な解説は続く。

 

「そもそも、探査をするのにあまりに不向きな環境なのです……見渡す限りの外が海。陸地も何もなく船で辿り着くのも一苦労なかのダンジョン。規模や再発生の問題も併せて存在する中、継続して探査を行える探査者などいませんね」

「な、なるほど……」

「あえてここを探査するというのなら、まずは継続的に探査を行える環境を作ってから……極めて大人数による探査をせねばならないでしょう。少なくとも一年二年で済む話ではありません。それこそ数十年単位の、そして多くの国を絡めての一大事業になるはずです。WSOとしましては、そのようなことだけに余力を割く余裕はないというのが見解です」

 

 どれだけの規模かも分からず、しかも半年かけて一階層をいくらか探査できるほどの広大さ。無制限、かつ短期間で再発生するモンスター。

 加えてダンジョン周辺の何も無い、本当に何一つないという環境。なるほどソフィアが匙を投げるはずだと、トップ達は揃って唸り、頭を抱えるのだった。

 

 結局、ここから数十年ほどは件の太平洋ダンジョンについては手出し無用として、単発的な調査を兼ねた探査が年に数回行われるのみであり。

 ソフィアの言う"継続的な探査を可能とする環境"──すなわち太平洋ダンジョン周辺に豪華客船を数百隻も連結させて擬似的な土地を構築する、太平洋ダンジョン経済圏の構築はこれより30年近くも後に本格化するのであった。




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 太平洋ダンジョンの話も出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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