大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

フローラ・ヴィルタネン(14)
神谷美穂(25)


55年目-2 神谷に預けられた娘

 唐突に次代聖女候補生たるフローラ・ヴィルタネンを預かることとなったダンジョン聖教司祭神谷美穂。

 その元凶たる三代目聖女マルティナ・アーデルハイドへの抗議と説明要求も虚しく、彼女は期せずして弟子のような存在を一人、持ってしまった形となった。

 

 とはいえマルティナの思惑は長年、ともにラウラの弟子として過ごしてきた身として当然理解もしている神谷だ。渋々ながらフローラを引き取り、四代目聖女となるにふさわしい教育を施すことにした。

 またフローラも臆病気味な気質ながらポテンシャル、モチベーションともに高く、神谷を師と仰ぎ修行の日々を今後4年ほど費やすこととなる。

 

 このフローラこそが後に第六次モンスターハザードにて活躍し、実に四度目ともなる委員会の野望を食い止めるのに主導的な役割を果たす存在になろうなどとは、この時。

 誰一人、彼女自身とて想像もしていない話だったのは言うまでもない────

 

 

 

 突然マルティナからフローラを預けられた神谷であるが、修行自体はそれなりに楽しく、充実したものを施せることに満足感を得ていた。

 弟子とした少女の才覚はすさまじく、スキルのラインナップはもちろんのこと、元から備えた探査者としての素質、戦闘の才覚も自分さえ遥かに超えていると早々に見抜けていたからである。

 

「《弓術》《狙撃術》《身体強化》……撃ちます!」

「──ぎぎぎぃぃぃぃぃ……」

 

 スキル《弓術》により弓を使った技術の精度を高め、《狙撃術》により遠く離れたところにいる敵を狙い撃つ。

 そしてとどめの《身体強化》をもって特製の──プラチナムアーマーが極稀に落とす特殊プラチナム合金をふんだんに使っている──弓を用いて矢を放つ。

 

 必殺技と自ら定めたわけでない、普段から当たり前のように放つ攻撃、射撃。

 しかしてその通常攻撃が、3つのスキルを組み合わせたことにより異常なまでの精度と速度、そして威力を誇る。

 

 フローラ・ヴィルタネンが放ちし一矢は、ダンジョン内の二階層目に入ってすぐの部屋からまっすぐ放たれていた。

 そして通路を抜けた先にある部屋をも抜けてさらなる奥、つまりは2つ向こうの部屋にいたモンスターに至るまで。およそ1km先の標的を貫き、光の粒子へと変じさせていた。

 

 遠くから、微かな呻きがあがるのを耳にする。

 これで3体目。この距離から、2つ先の部屋への遠距離狙撃攻撃。

 通常の探査者であってもなかなか難しいそれを、未だ15歳程度の少女はたやすくこなしていたのだ。

 その姿に神谷は、こういうことかと小さくつぶやいた。

 

「マルティナ。あなたの人を見る目はたしかに正しいようですね……」

「ラスト──!! これで終わりです、神谷先生!」

「構えを解かない。終わったと思った時が油断時です、厳戒態勢を整えたまま周囲を警戒し、何かあればすぐに反撃できるように矢を番えておきなさい」

「あっ……す、すみません」

 

 厳しい視線とともにフローラを戒める。多少自尊心の強い子ならばこのような物言いに反発しそうなものだが、素直で優しく、気弱ですらある彼女は師匠の言うことをよく聞き、その通りに周囲を警戒していた。

 その姿に、従順なのは良いけれど指示がなければ動けなくなってしまうところはまずいですねと内心、神谷は今後の育成方針に課題を一つ、追加する。

 

 優しい眼差しで少女を見つめつつ、神谷は弟子のステータスを思い返した。

 

 

 名前 フローラ・ヴィルタネン レベル59

 称号 魔弾の射手

 スキル

 名称 弓術

 名称 身体強化

 名称 狙撃術

 名称 気配感知

 名称 視覚強化

 名称 気配感知

 名称 気配遮断

 

 称号 魔弾の射手

 効果 遠距離攻撃の威力に補正

 

 

 スキルのラインナップそのものは大して特別なところはない。多少数が多い程度で、それにしたところで稀少性が高いとは言えないだろう。

 称号の《魔弾の射手》についても効果は強力で稀少性も高いが、そもそもレベルがまだまだ低い時点で、戦闘に強く影響するものではない。

 

 神谷が見るにフローラの強みとは、手にしたスキル、そして称号を可能な限り活かそうという強かさ。

 表向きの性格はずいぶん臆病なのだが、ひとたび弓を構えれば歴戦のスナイパーもかくやという眼光になるのだ。

 

「弓矢を使って大成した探査者。歴史的に見ても少ないですね、そういうのは……」

「せ、先生〜……今度こそ、問題なさそうです〜……」

「よろしい。良いですかフローラ、打ち終わりを特に警戒しなさい。古今東西狙撃手とは、カウンターに弱いものなのですから」

「は、はいっ! ありがとうございます!」

 

 考え込みつつつぶやく神谷のもとに、フローラが情けない顔をしながらも戻ってきた。

 マルティナに用意されたという、モンスターの素材を使った特別製の剛弓を大事そうに抱えた姿は儚げな美少女といったふうだ。

 けれど神谷は、この幼い少女が内に秘められた可能性を悟り、静かに微笑む。 

 

 極めて射撃特化、狙撃特化の探査者。

 遠距離系スキルは界隈において、一部稀少スキル以外はあまり目立った活躍ができていないのはこの時代までの事実だ。

 けれどこの子ならあるいは、それらを地力で凌ぐ領域にまで至れるやもしれない。自前のスキルと自前の弓矢、そして自身の天賦の才によって。

 

 ──歴史に名を残す、偉大な弓術探査者になれるかもしれない。

 なるほどマルティナがスカウトするわけだ。話によるとこの子の親はあまりよろしくない性質のようで、探査者として娘をこき使い、得た収入をほとんど全額奪い取っては豪遊していたのだという。

 

 そして困窮していたフローラに、あの三代目が手を差し伸べて引き取った、と。おそらくは会った時点で気づいていたのだろう、その才に。

 でなければいかな破天荒聖女とて、己の権力を行使してまで親と子を引き離すなどしなかったはずだ。正義感だけではない計算の匂いを感じ取り、神谷はこれだからあの女は怖いのだと肩をすくめるのだった。




 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 

 70歳を迎える神谷も活躍する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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