大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

マリアベール・フランソワ(38)
ヴァール(???)


56年目-2 復活のマリアベール

 頻発するスタンピード。そしてWSOが突き止めた委員会の3度目の暗躍。

 それを受け統括理事ソフィア・チェーホワおよび裏人格ヴァールは直ちに動き始めた。

 

 エージェントや能力者犯罪捜査官を世界規模で動員して治安維持にあたるとともに、各国の全探組とも連携。スタンピードの早期対応とその周辺捜査にあたったのである。

 そして同時に彼女は、過去に四度起きたモンスターハザードにおいてそれぞれ共闘した仲間達にも連絡をかけ、事情説明の上で協力、助力を請うたのだ。

 

 手始めにまず、ヴァールは所在が知れている上に現在進行系で交友のある探査者、マリアベール・フランソワへと電話をかけた。

 4年前に懐妊したことをきっかけに一時引退している彼女は、今も愛娘エレオノールの育児に奮闘中の立派な母親になっている。まさか戦えとは言うつもりもない。

 

 だが、かつて第四次の際にともに戦い抜いた友として同じようなことがまた起きていることは話しておきたいと思ったのだ。

 加えて連絡先こそ知っているものの、繋がるかどうか微妙な風来坊エリス・モリガナの今現在の行き先について何か情報を持っているなら聞いておきたい、という魂胆もあった。

 

 いずれにせよそうしたわけで、イギリスはコーンウォールに住むマリアベールに国際電話をかけたヴァールだったのだが────

 

 

 

「第五次モンスターハザード! そいつぁいい、私の復帰戦にゃお誂え向きってもんさね、ハハハ!!」

「待て、少し待て。誰もお前に戦えなどと言ってはいない。第四次の好として話しておこうと思ったのと、エリスの居場所について聞いておきたかっただけだ」

「いやーにしても4、5年ぶりかぁ。鈍りは戦いの中で解消するにしても、若い子達についていけるかどうかってところですねぇ。なんぞ有望株があちこちいるみたいですがヴァールさん、そいつらももちろん参戦するんでしょう?」

「いや、それは知らんが……そうでなく。ちょっと待て、話を聞け! お前は復帰しなくて良い、おい聞いているのか!」

 

 事情を説明したところ、間髪入れずに返ってきた言葉があまりにも乗り気なものであり……WSO統括理事ソフィアの影の人格ヴァールは、無表情にも焦りを覗かせて慌てて断りを入れた。

 予想外の反応だった。マリアベールの実子エレオノールの出産からまだ4年ほど、子育て真っ最中の時期だと言うのにこの好戦的な言動はどういうことなのか。

 

 マリアベールとは引退期間中もしばしば電話なり直接訪問するなりで親交を深めていた。

 それゆえ彼女が出産を期にずいぶん落ち着いたことも、娘であるエレオノールの教育に熱心なことも、夫ヘンリーと仲睦まじいことも当然、ヴァールは知っているのだ。

 

 それがなぜ、第五次モンスターハザードの話をした途端急に昔さながらの気性に戻るのか。

 声色こそ多少柔らかなものの、言動が一気に20年前の頃の雰囲気を醸し出したことに背筋が寒くなるものを覚えつつ、ヴァールは静かに、電話越しのマリアベールに語りかけた。

 

「……良いか? マリー、よく聞け。お前は育児中の母だろう。エレオノールはまだ幼い、母親の助けが要るのは明白だ」

「いやまあ別に、子育てしないってわけじゃないですよ? ただもうそろそろぼちぼち探査者活動も再開していきたいなーって話は旦那ともしてましたし。頻度は昔より当然減らしますけど、にしても何もしないってのもねえ? しかもそんな、モンスターハザードなんて話を聞いたら、ねえ?」

「だが探査中に不慮の事故があってはどうする! 探査業にいずれ復帰するのは良い、だがせめてエレオノールが学校に通いだして……いや、成人してから復帰するべきだ」

「前から思ってましたけどヴァールさん、意外にめちゃくちゃ過保護ですよね……」

 

 いくらなんでも娘の成人を待っていたら、その頃にはもう50代も半ばだ。そこまで待っていられるかとマリアベールはツッコんだ。

 エレオノールの様子を度々見に来るソフィアとヴァールだが、特にヴァールのほうが気を遣いすぎの傾向があった。

 

 何しろことあるごとに土産と称して、幼児用の玩具や絵本、飲食物を買って娘に与えたりするのだ。

 見かねたフランソワ夫妻やたまたま居合わせた時にはエリス、ラウラにも制止され、そこでようやく自分の距離感がおかしいのだと気づいたりしたほどだった。

 

 つまるところ根本的に赤子や幼児との接触経験が皆無に近いわけなのだが、反面ソフィアのほうは適度な距離感というか、微妙に慣れた様子でエレオノールを軽くあやしたりする程度に落ち着いており……

 同じ身体でも人格が異なればこうまで差が出るものなのか、とみんなで顔を見合わせて首を傾げたのも、記憶に新しい出来事である。

 

「とにかく! そんな話聞いて黙ってられるわけもなし、私ゃ誰がなんと言おうが復帰しますよ。エレオノールの教育をおろそかにするつもりはありゃしませんが、だからって探査者の使命や責務を放棄するつもりもないんですよ、こっちは!」

「マリアベール……!」

「大体、スタンピードがこのへんで起きたらどうせ巻き込まれるんだ、だったらこっちから動くのは当たり前でしょうが! これもエレオノールを守るためですよ、ヴァールさん!」

「む、うぅ……っ」

 

 相変わらずの意外さというかなんというか、と呆れと驚きを滲ませながらも、マリアベールは痺れを切らして言い切った。

 たとえヴァールや余人がなんと言おうが、絶対に復帰して第五次モンスターハザードに参戦してみせるという決意の表明である。

 

 ましてやそれが探査者の使命であり、かつエレオノールを守ることにも繋がると言われては……

 さしものヴァールも二の句が継げず、渋々ながら頷くしかなかった。




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 いつも子供に配る用に飴玉を持っているヴァールが拝める「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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