大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

60 / 210
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

マルティナ・アーデルハイド(31)
ヴァール(???)


56年目-3 三代目聖女とWSO統括理事

 ヴァールによる連絡、第五次モンスターハザード発生の報せはダンジョン聖教にも及んでいた。

 古くからの知り合いである二代目聖女ラウラ・ホルンとその後継たる三代目聖女マルティナ・アーデルハイドへと電話をかけていたのである。

 

 このうちラウラについてはすでに引退して久しく、今ではイギリスのウェールズ地方にて後進指導などに携わっている。

 そのため前線に出るような要請ではなく、彼女の姉貴分である初代聖女エリス・モリガナの所在について一応の確認を取るための連絡も兼ねていたのだ。

 

 一方でマルティナ率いる現ダンジョン聖教に対してもアプローチを仕掛けはしたものの、こちらはマルティナのほうがあまり良い反応を示さないでいた。

 その理由はと言うと単純至極なものであり……つまるところ個人的な感情によるWSO統括理事への隔意にある。

 

 要するに三代目聖女は、ソフィア・チェーホワを苦手としていたのだ。

 ソフィア・チェーホワもまた彼女には苦手意識を抱いていたことから、この時期、WSOとダンジョン聖教は若干ながら微妙な関係にあった────

 

 

 

 突然鳴った電話に出ると、世界で一番不気味で恐ろしい女からのものだった。

 かろうじてうめき声をあげなかったマルティナは、自分で自分を褒めてやりたいですねと内心、己を賞賛する。

 

 ダンジョン聖教は聖地内、大聖堂の聖女室。

 いつものように執務にあたっていた午後の一時、いきなりかかってきた電話。この時点で嫌な予感しかしなかったのだが、まさかWSO統括理事直々のホットラインとは夢にも思わない。

 

 神よ私が何かしましたか? してますねーいろいろ。

 引きつった顔で微笑みながらも、マルティナはおずおずと電話の主に応じた。

 

「……お久しぶりです、統括理事。なんのご用向きでしょう?」

「ああ、少しいいかアーデルハイド。昨今世界中で頻発しているスタンピードの件について、少しな」

「う"っ──」

「? どうした、アーデルハイド」

 

 聞こえてきた声の、無機質で無感情な声色に今度は完全に呻いてしまった。よりによってこっちですか!? と心の中でのみ叫ぶ。

 マルティナの、ソフィアを苦手とする理由の一つがこれだった。ヴァールと名乗る別人格が時折表出するという、特異体質とも言うべき状態の彼女達に対して……三代目聖女は強い恐怖と苦手意識があるのだ。

 内心にてつぶやく。

 

 

(ソフィアさんだけならまだ小喧しい年齢不詳の妖怪若作りで済みますけど! ……こっち、ヴァールとやらのほうは話していてもゾッとするんですよね、明らかにヒトじゃなさすぎてっ!!)

 

 

 ソフィアだけなら良かった。彼女も苦手だが、その感情は至って説明のつけられるものだからだ。

 聖女であると同時にマルティナの代で新設したダンジョン聖騎士団の騎士団長でもある彼女について、会う度に何かと小言や苦言を呈してくる少女、の皮を被った推定おばあさん。

 

 統括理事だからと、初代聖女の師匠に近い存在だからと自分にまで大口を叩いて子供扱いしてくる彼女は、自分の自尊心や優越感をひどく傷つける。

 そういった理由からマルティナはソフィアのことを嫌いなわけだが……ヴァールの場合はもはや理由さえない。

 

 むしろ武闘派な点、実際に今の自分でさえ足元にも及ばない力を有している点などは尊敬できるはずなのだ。

 思考の方向性も合理性を重視しており、時には強引にでもことを進めるやり口は自分の感性にも合う。

 

 彼女のほうは好ましく思えていてもおかしくないのだ……だが何故か、ソフィアよりもヴァールのほうがよほど恐ろしいナニモノかに思える。

 理由もないそんな感覚から、マルティナはソフィアも苦手だがとりわけヴァールをこそ、苦手としているのであった。

 

 ともあれそんな理由から本気で拒絶してしまうのは立場的にもまずい。相手は大ダンジョン時代の最高指導者とも言える存在ソフィア・チェーホワ。決して敵意も隔意も表にできない。

 そんな思いから必死に鳥肌や恐怖を押し殺して、マルティナはヴァールへと返事をした。

 

「だ、大丈夫です。少しものを落としてしまって。そ、それより珍しいですね、このようなお電話なんて」

「うむ。単刀直入に言うがモンスターハザードが起きていることが発覚した。昨今、世界中で頻発しているスタンピードが、人為的なものだと調査の結果断定できたのだ」

「人為的なもの……! 初代様や二代目様の時と同じ、モンスターハザードが今もまた!?」

 

 聖女の驚きに、統括理事はそうだとうなずく。モンスターハザード……ダンジョン聖教にとっても関わりがないとは言えない事件だ。

 何しろ若き日の初代聖女と二代目聖女が参戦し、その最終局面において初めて称号《聖女》の継承が行われたのが第二次モンスターハザードなのだから。

 

 そのため聖女を象徴的存在として崇め信仰するダンジョン聖教において、かの事件は現代における神話であり災厄でもある。

 聖女の継承が行われたという意味で意義と価値の大きい神話としつつも、またしても引き起こされることは絶対に防がねばならないと災厄ともしていたのだ。

 三代目聖女たるマルティナにも当然、その認識はある。

 

「……話は分かりました。我々ダンジョン聖教はWSOと連携する形で動きましょう」

「頼めるか? アーデルハイド」

「我らが神の敵、そして生きとし生けるものすべての敵モンスター。それが罪なき者を手に掛けること自体我々からすれば許せないこと。それを人為的に画策している者がいるというのであれば──我らは我らの教義によりて、断罪のために剣を取ることに迷いはありません」

 

 元よりモンスターが氾濫し無辜の民に牙を剥くスタンピードなどあってはならないものであるのだ。

 それをあろうことか人為的に引き起こそうなどというのは断じて許し得ぬと、彼女の正義感に火が灯る。

 

 こうなればヴァールに不気味さを感じている場合でないと、彼女は電話越しに統括理事へと宣言した。

 

「三代目聖女マルティナ・アーデルハイド。ダンジョン聖教並びに聖騎士団を率いて以後、第五次モンスターハザード解決のために行動します。よろしいですね、ヴァールさん」

「うむ、助かる。組織間の連携については追って正式な外交ルートを通して打診する。よろしく頼む」

 

 統括理事としてのヴァールの言葉にマルティナもうなずく。今は口約束でしかないが、数日中には正式な共闘関係として公の下に同盟が結ばれるだろう。

 第五次モンスターハザード。委員会との3度目の戦いに向けて、着々と勢力が形成されつつあった。




 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 

 最新時系列ではWSOとダンジョン聖教の仲もそれなりに回復している「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。