大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

64 / 210
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

アラン・エルミード(18)
ソフィア・チェーホワ(???)


57年目-1 アランの戦い

 第五次モンスターハザード。それを起こした委員会に対して様々な国の勢力が結集しことに当たろうと言う中で一人、独自の動きを見せるものがいた。

 若き日の大探査者アラン・エルミードである。彼も頻発するスタンピードに対抗するべく、単独行動を繰り返していたのだ。

 

 というのもこの年、スタンピードによって彼の師匠ユリアン・デューンが負傷。一命は取り留めたものの引退は確実となってしまった。

 これに弟子たるアランは激昂。半ば復讐さながらに師匠の制止を振り切り、単身各地に湧き出るモンスターを始末して回る孤独な旅を開始したのである。

 

 持ち前の超レアスキル《極限極水魔法》によりあらゆる敵を薙ぎ倒す彼はすぐさまその名をヨーロッパに轟かせた。

 まずはフランス、次にドイツ。はたまたポルトガルにオランダ、イタリア、スペインと各地を転々としつつも淡々とモンスターを制圧していくことから、彼は自然とこうした二つ名で呼ばれることとなる。

 

 ────"ハザードカウンター"。

 すなわちモンスターハザードに反撃する者。

 

 その名声は当然ながら、戦力を一旦スイスに集めようとしていたWSO統括理事ソフィア・チェーホワの耳にも入り。

 元より別口の事情から彼を探していたこともあり、すぐに彼女直々にアランの下へと向かったのである。

 

 

 

「《極限極水魔法》、メイルストローム・ディザスター!!」

 

 放たれたそのスキル。晴天にも関わらずどこからともなく雨が降り、風が吹きすぐさま嵐となる。

 暴風だ。極めて局地的なまさしくメイルストロームがあたり一帯を軒並み巻き込んで飲み込み──その場に屯していたモンスターの群れを、一瞬にして軒並み光の粒子へと変えていった。

 

 イタリア、フィレンツエ郊外の森の中。

 そこに発生した複数のダンジョンから同時に湧き出たモンスター達を、木々には極力被害を齎さない完璧な威力調整での一掃した見事なアランの腕前であった。

 ふう、と息を吐く。今日3度目の《極限極水魔法》の発動は、分かっていたが負担が大きい。思わず近くの木にもたれかかる。

 

「おかしい。いくらなんでもスタンピードが多すぎる。今日だけでもう、3度目だなんて」

 

 一人つぶやく。そう、ここ最近のスタンピードの頻度はあまりにも異常なものだった。

 

 師のユリアンを引退に追い込んだスタンピード。それを阻止すべく各地を巡り始めたは良いものの予想をはるかに上回る数の多さ。

 これには敵討ちを標榜していた彼としても、素で何かしらの異常事態を察知せざるを得なくなっていた。

 

 何しろ地元の探査者達が総出で取り組んでなお、対処できないところに外部からの助っ人的立ち位置であるアランが駆り出されるほどなのだ。

 ハザードカウンターなどと二つ名を付けられて調子づいていたがこうなると冗談ではない。一体何が起きているのかと、彼はぼやいた。

 

「おかしいだろこんなの……異常だ、普通じゃない何かが起きている。これは、なんだ?」

「──そう、これは紛れもなく異常事態。モンスターハザードなのよ、アラン・エルミードくん」

「っ、あなたは!?」

 

 そんなぼやきに反応する声一つ。まるで気づかなかったアランは全身に鳥肌を立てつつもすぐに身構えた。

 見ればすぐ近くの木の陰から女が一人、こちらを見ている。アランも知っている顔だ……いや、アランでなくともこの時代に生きる者ならば誰もが知る。無論その名も。

 

 WSO統括理事ソフィア・チェーホワ。

 大ダンジョン時代屈指の英雄にして大物が、どうしたことかそこにいた。

 警戒を緩めずにアランは問いかける。

 

「モンスターの擬態……!? シェイプシフターじゃないのか!? なんでこんなところにそんな、世界一の探査者がいるんだっ!!」

「世界一はあまりにも過言ね。私より強い探査者も今ではチラホラいてくれるわ。今のスキルを見る限り、きっとあなたもいずれはそんな領域に至るのでしょうね──そう、S級探査者に」

「戦いを、見てすらいたのか!?」

 

 愕然とする。今しがたのスタンピードを鎮圧するのに10分前後しかかけていなかったが、しかしそれだけの時間、傍で観察されていることに気付けなかったのだ。

 それたけでもすでに彼我の実力差は明白というもの。もし目の前の統括理事がモンスターの擬態としたら、あるいは勝てないかも知れない……!

 

 冷や汗が頬を伝うアラン。

 その様子にソフィアは、苦笑いしながらも懐から一枚のカードを取り出して彼に投げつけた。

 訝しみながらも彼はそれを受け取り、そして見る。

 

「探査者証明書? ソフィア・チェーホワ……レベル、589……!」

「たしかにシェイプシフターのように別のものに化けるモンスターはいるけれど、言葉を喋ったり身につけている小物までをもトレースするような種は現在確認されていないわ。私は正真正銘、WSO統括理事のソフィア・チェーホワです。驚かせてごめんなさいね?」

「…………! い、いえ。こちらこそ、とんだ失礼を」

 

 カード──探査者証明書に記された名はたしかにソフィア・チェーホワのものだ。同時に現在レベルのあまりの高さに、未だレベル100を少し超えた程度のアランは瞠目する。

 そんな個人的衝撃はさておき、こうして証明書を提示されたからには間違いなく眼の前の女はWSO統括理事なのだろう。にわかには信じがたいが、どうしたことかこんな森の中にまでやってきてアランを観察していてのだ。

 

 だが、なぜ? なぜ自分などに、そこまで注目を?

 混乱する頭。明らかに戸惑いの17歳の色濃い少年へ、ソフィアは茶目っ気めかして笑いかけながらも手を差し出し、言った。

 

「アランくん。あなたの師匠の頼みを受けて、私はここまでやってきました」

「!? 師匠って、ユリアンさんが、あなたに!?」

「厳密には彼女の先輩を通してですけどね。無茶をしている弟子を止めて、やるならせめてWSOに協力する形でスタンピードへの対処を行なうよう促しに来たのです」

 

 そう、すべてはアランの師であるユリアンの差配であった。負傷はしたものの意識ある彼女が、若かりし頃に世話になった大先輩マリアベール・フランソワの伝を頼ってソフィアへと依頼したのである。

 

 《極限極水魔法》を持つ探査者……その広範囲性、高火力性は必ずWSOの役に立つはずだから、彼の独断専行を止め、その代わりに上手く使ってやってほしい、と。

 そうすることでアランの面目を立てつつソフィアへのある種の報酬とすると申し出たのだ。

 

「一人でスタンピードをいくつも鎮圧した手腕は見事ですが、それにもやはり限界はあります。あなたに後方に下がれとは言いませんから、せめて我々の指揮下にて動いてください──WSO統括理事として命じます、アラン・エルミード」

「は……はい。よ、よろしくお願いします……」

 

 分かっていたが師匠に心配をかけてしまったことを申しわけなく思いつつも、それにしてもあの統括理事を動かすなどとはとんでもないと慄くアラン。

 さすが師匠というべきか、あるいは何してんすかというべきか……にわかに迷いながらも、それでも大人しく彼は彼女の手を取り、その指揮下に入った。




ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 

 最新話付近でアランの名前もしれっと出てきた「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。