大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

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本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

グェン・サン・スーン(27)
ヴァール(???)
エリス・モリガナ(53)
早瀬光太郎(47)
マリアベール・フランソワ(40)
アラン・エルミード(19)


58年目-1 サン・スーンと英雄達

 勃発した第五次モンスターハザード。その戦火は瞬く間に世界中に広がり、地球全土で探査者対モンスター、人類対スタンピードの光景が見られるようになった。

 

 そんな中、東南アジアが誇る英雄グェン・サン・スーンもまたタイやラオス、ベトナムなどで起きたスタンピードへの対処に駆り出され、己の探査者としての本分を遂げていた。

 この時28歳。探査者としてもA級目前の実力でありかつ、WSOの職員としても実績を積み重ねて30歳になる頃には支部長の座も見えてきているという、前途洋々たるエリート街道を爆進中の身である。

 

 しかしこのモンスターハザードは彼にとってさらなる躍進のきっかけであると同時に、あるショッキングな出来事に出くわすきっかけでもあった。

 若きサン・スーンには向かうところ敵なしという絶対的自信、傲慢にも似たプライドがあったのだが……それをものの見事に打ち砕かれる事態に遭遇したのである。

 

 折しもその時、ソフィア・チェーホワ率いる対委員会特別チームが彼の活動地域に訪れており。

 彼女はじめエリスや光太郎、マリアベール、アランと言った────世界クラスの英雄を目の当たりにしてしまったのだ。

 

 

 

 これが世界の、とりわけトップクラスの探査者達か。培ってきた自信に罅が入る音をたしかに己の内にて聞きながら、サン・スーンは眼前の戦いを見ていた。

 スタンピードが起きたとの報を受けての急行。ベトナムはハノイ近郊、拓けた荒野に取り巻きの弟子達ともども駆けつけた時にはもう、趨勢などとっくに決していたのだ。

 

 無駄足だったと嘆く余裕さえない。

 東南アジア随一の腕前を誇ると自他ともに認める彼をして、異次元の戦闘が繰り広げられていたのだ。

 見惚れるしかなかった……それさえ彼の自尊心を、大きく傷つけるものだったとしても。

 

「《念動力》! さあ、犯した罪に──等しき罰をってね!!」

 

 スキルによって強化されたナイフを一本、振るい続ける少女がいた。

 サン・スーンの槍術をもってなお長期戦を強いられかねないB級モンスター、シルバーアーマーの堅牢な装甲を一撃で切り裂き粒子に変える、恐るべき切れ味の冴え。

 

「ようしやるぞ!! 《槍術》、日本アルプス大万歳ッ!!」

「大親分に続けっ!! 早瀬会、突撃じゃああああっ!!」

 

 己と同じく槍を用いて、雄叫びめいた声を上げながら縦横無尽に振り回しては周囲のモンスターを薙ぎ倒す男がいた。

 己の槍ではあり得ない速度、しなやかさ、そして威力。男の部下だろう無数の探査者達の練度も高く、それそれがサン・スーンの目から見ても驚くべき強さを誇っている。

 

「《剣術》、大断刀・ビッグベン! ──他愛ないねえ! 次来な、ドンドン来なァッ!! モンスターども、地上に出てきたからにゃ逃げ場なんざあると思ってんじゃないよ、ええ!?」

 

 日本刀を鮮やかに振るい、目にも見えない神速の一撃にてモンスターを斬撃して叫ぶ烈女。あれは新聞やテレビで見た覚えがある。

 マリアベール・フランソワ。イギリスが誇る大探査者だ。強い強いとは思っていたがまさかこれほどとは……レベル300を超えるサン・スーンの目をもってしもなお、理解が追いつかない!

 

「《極限極水魔法》、サルトスラウメン・ディザスターッ!! モンスターめ、師匠の敵だッ!!」

 

 そして彼ら彼女らより大分離れたところにて一人、大災害とも言うべき豪雨を巻き起こす少年などもはや意味が分からない。

 アレはスキルなのか? スキルであれほどのことを、してしまえるのか? 天より授かりしスキルを才能と呼ぶのであれば、かの少年こそまさしく天才と呼ぶべきではないのか?

 弛まぬ鍛錬、地道な努力と実績の積み重ねの果てに今この場にいる己が、ひどく矮小なモノに見えてくる。

 

 そして、何より誰より。

 サン・スーンの心を砕く姿がそこにはあった。自身の最終目標に掲げ、いずれは彼女のいる地位を簒奪してやろうとさえ考えていた──WSO統括理事。

 ソフィア・チェーホワである。

 

「《鎖法》、鉄鎖乱舞、連撃収束──ッギルティチェイン!! モンスターの一匹たりとて逃さんっ!! この地上に、今の貴様らがいるべき場所などどこにもないと知れッ!!」

 

 両腕に巻いた鎖を、右腕から放射状に放ち左腕からは束ねて一点集中でそれぞれ、東西から迫るモンスターへと放つ。

 圧倒的だった。鎖はあらゆる敵を打ち抜き薙ぎ払い消滅させていく。先の4人にも勝る威力と範囲。

 

 ……これを、相手に。自分は、後を継ぐとか座を奪うとか言っていたのか。

 唖然として、次に羞恥。身の程知らずをこれでもかと思い知らされた若さが、悔しさともなってサン・スーンの心を押し潰していた。

 

「グ、グェン師匠! どうしましょうか、我々も加勢に!?」

「し、しかしあんな戦いの中に我々が入っていって、何をしようと言うのです!?」

 

 弟子達が不安に慄く目でサン・スーンを見ていた。師と同様に次元違いを感じつつ、それでもひとまず伺いを立ててみた──そんな様子だ。

 言っていることもひどく頼りないが無理もない、自分とてアレに加勢など、逆に足を引っ張ってしまうだけだと理解している。

 それほどまでに、彼我の実力差は大きく開いているのだ。

 

「これが、世界の広さか……!!」

「し、師匠?」

「いや……やれることはあるッ!! お前達、手分けして周辺の村々に警戒と避難を呼びかけるぞ! 俺達は俺達にできることを、一人でも多くの人々を助けるため、護るために動くんだ!!」

「しかしそれでは、我々は使命を果たせませんよ!?」

「探査者の使命は戦うだけでない、護ることも含まれている! ……悔しいが、今ここにいる俺達はせめて一つでも多くの生命を守ろう……!!」

 

 心底から悔しげに言葉を連ねるサン・スーン。

 しかしてその瞳はあくまで光を放ち、探査者としての使命をまっとうすべく今、己にできることを懸命に為そうとしている。

 

 ──力不足を嘆く彼であったが、第五次モンスターハザード終結後に行われた調査によれば、東南アジアに発生したスタンピード被害は他地域と比べて如実に低いとの結果が出た。

 その理由の大きな部分が、彼とその一門が戦闘のみならず、非能力者の保護や救助に尽力したためである。

 

 これには数年後、サン・スーンと親交を結ぶこととなるマリアベールやソフィアも感心しきりに彼を称え、東南アジアにグェン・サン・スーンありと認識するようになるのだが……

 それはまた、別の話である。




ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 

 実力面ではともかく政治面では大物になれたサン・スーンが出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
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