大ダンジョン時代ヒストリア   作:てんたくろー

78 / 210
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢

マリアベール・フランソワ(42)


60年目-2 マリアベールと居合術

 マリアベール・フランソワの後半生が、あるいは始まったのがこの頃だったと言えるのかもしれない。

 それほどまでに彼女が御堂邸にて触れた日本が誇るドラマ──時代劇というのは刺激的な影響をもたらしていた。

 

 元より加齢が進むにつれてこのままで良いのか、衰えていく体により適したスタイルを身につけるべきではないのかと悩んでいたマリアベール。

 そんな中みかけたテレビのヒーロー、とりわけ居合術という世界的にも類例のない特殊な技法を駆使して切った張ったを繰り返す剣士の存在はまさに天啓とも言える衝撃を受けるものだったのだ。

 

 これより以後、イギリスに帰国した彼女はさっそく居合の修得に励むこととなる。

 知り合いを頼って該当技術を修める探査者の達人と知り合い、基本を教わり後は我流で極めることとしたのだ。

 現代においてはマリアベールを象徴するスタイルの、始まりこそがこの時だった。

 

 

 

 納刀した状態から、体全体を駆動させ一気にトップスピードへと至り刀を引き抜く。徹底した脱力と己の身体、あるいは人体そのものへの深い理解。

 そして何より己が得物たる刀への習熟度が生み出すその境地に、当然ながら現時点でのマリアベールは辿り着けていない。

 

「《剣術》、大断刀・ビッグベン! ────ちいっ、こいつじゃねえ!!」

「ぐぎゃああえああああああっ!?」

 

 剛力と神速をもって抜き放った刃が瞬く間にモンスターを切り裂く。一撃必殺の剛刀、大断刀。

 当たり前のようにA級モンスター、オンリー蟻という名の虫型の化物を仕留めたマリアベールだがそこに達成感はない。

 むしろ不満と苛立ちとが垣間見える表情で舌打ちし、そして刀を鞘へとしまう。

 

「分かっちゃいたが難しい……さわりだけ聞いただけじゃなかなか本職の技にゃ届かねえって塩梅か。先は長いねぇ、まったく」

 

 独り言ち、腕組みして悩む。

 今はイギリスはロンドン、時計塔付近にできたダンジョンを一人探査している最中だ。現在の弟子であるクリストフ・カザマ・シルヴァは別行動だ。

 

 最近の彼は何やら調子が悪いようで、そのうち話を聞かねばならないとマリアベールは考えていた。

 と、そのようなことはさておき今しがたの技……いつもの大断刀を最近になって覚えようとしている新スタイル、居合を用いて放った感触を振り返る。

 

 御堂邸のテレビで見た時代劇に感化され、さっそくそれを身につけようと知り合いの居合術使いの探査者を訪ねて基本を教わった彼女。

 しかしてその知り合いも30手前、さらには数年前に探査者となった修行中の身だ。大先輩にあたるマリアベールに何をどう教えれば良いのか苦慮しつつも、基本となる型をひとまず教授したのである。

 

 しかしながらその基本からしてともかく難しい。モンスターとの実践の中で試し打ちと確認、反省と改善を繰り返しているものの、なかなかこれだ! と言えるような手応えを得ることはないまま半年ほどが過ぎていたのだ。

 腰を落として自然体のまま構え、鯉口を切る。マリアベールはうーむと悩みながらも、けれど獰猛な笑みを浮かべた。

 

「どーせやるんだ、こんくらい難しいほうがやりがいがある。楽しいねえ、ハハハ! ガキの頃、必死になって師範に剣道学んでた頃を思い出すさね」

 

 探査者になって間もなく、まだ彼女が純真無垢で先輩相手にも礼節を尽くしていた……そしてその先輩達のあまりの傍若無人ぶりに耐えかねて殴りつけるまでのわずかな頃。

 まだまだ小さなレディ・マリアベールをふと思い返して、今や42歳のマリアベールは目を細めた。

 

 何年経とうが何十年経とうが、学ぼうと思えばどこにでも機会は転がっている。

 そのことに気づいている自分はきっと果報者なのだろう。そう考えて、無性にやる気が漲るのを彼女は実感していた。

 

「まだまだ人生これからってことさね……!! 私ゃテメェのファースト・スキルの謎追いかけてんだ、そいつが解けるか死ぬまでか、どちらにせよまだまだ現役張らせてもらうぜ……!!」

 

 終生の目標と定める自身のファースト・スキル《ディヴァイン・ディサイシヴ》の謎。30年経とうが未だに理解不能のそれを解き明かすまでは……自分は現役探査者だ。それこそ死ぬまで、老いさらばえようと。

 だからこそ今、このタイミングで居合術を修める必要がある。このスタイルこそが今後、肉体的に衰えていく自分を技術面で支える新スタイルとなってくれる、その確信があったからだ。

 

 まったく探査者とは奥が深い。

 ダンジョン探査を行ういわゆる外勤としてはもう引退を考え出していてもおかしくない年にあってなお、彼女は気炎を纏い凄絶に笑った。

 

 ──後の世に、探査者マリアベール・フランソワの代名詞となる居合スタイル。

 彼女が42歳の時に試し始めたその技が、過酷かつ地道な研鑽をもって次第に馴染み、そして完全なる戦法として確立するまでには約8年ほどの歳月を要することとなる。

 

 そしてその暁にマリアベールは、自身の奥義さえも完成させることとなるのであった。




ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 

 居合術を完全に体得したマリアベールが活躍する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
 https://syosetu.org/novel/273448/
 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。