お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~   作:十二の子

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第壱章 黄金の輝きが新たな始まりを照らすから
#1 覚めない夢に堕ちる時


ー*-

 

 ユキコシ地方、トキトビ島。

 

 鉱山とひこうポケモンで有名なこの島の北、鉄格子で閉ざされた廃坑の前で、一人の少女が追い詰められていた。

 

 「さあ、早く盟約の指輪を渡すんだお嬢ちゃん。悪い話じゃあないだろう?」

 

 風にたなびく白い髪、ユキコシ地方の冬景色のように白い着物と袴ー純白の象徴のような姿の少女はしかし、すっかり土埃にまみれて汚れている。

 

 「い、いやですわ。例え貴方方が盟約を結んでいなくても、指輪を使えないとは限りませんもの。

 

 それに例えこの指輪がなんの意味もなくたって、わたくしたちにとってこれはいにしえから続く誓いの指輪!貴方方のような低俗な賊にはお渡しできませんわ!」

 

 後ろは鉄格子、前の草地は三方に暴漢、ポケモンに頼りたいところだがあいにく一体しか持っていない。ー絶体絶命の状態で、しかし彼女はしっかりと両手で大切な指輪を握り締める。

 

 「フン、テイゾクなゾクってか?ハハッしょうもねぇ。」

 

 いまどき博物館くらいでしか見られないような大ぶりの山刀を手に、男はさも面白そうに作り物の笑みを浮かべ、そして言った。

 

 「指輪を渡してもらえないなら仕方ねぇ。指ごと渡してもらうしかねぇよなぁ?まあうっかりばっさり手ごととか腕ごととかになっちまうかもだけどよぉ...

 

 …行け、バザギリ。」

 

 薄く透き通るような黒い斧を両手に下げ、真っ黒なバザギリが、少女を睨んだ。

 

 石斧がブンっと振るわれた瞬間、風の刃が飛び、少女の傍らの樹が倒れるーヒスイからはるか離れたユキコシの地に再び現れたバザギリは、刃を不可視としてすべてを一刀両断にできるのだ。

 

 「さあ、俺の気はそんなに長くないんでなぁ。高貴なお嬢ちゃんをその樹みたいに短くしちまうかもなぁ。」

 

 少女は袖口からボールを…通常のボールとは異なり赤と白ではなく赤と薄紫のボールを取り出した。

 

 「…手を切るのはごめんですわ。ですからわたくし、手札を切ることに致します…

 

 …お出で頂けますか、ディアンシー?」

 

 少女がそのポケモンを出した瞬間、少女とポケモンがきらめきに包まれるー特別なディアンシーの特性「きらめきヴェール」。光のヴェールがあらゆる特殊攻撃を緩衝する特性だ。

 

 「やはり出してくるかねぇ、盟約のポケモン。…まあ、ゴフク屋としては見ておきたかったってのはあるがなぁ。」

 

 ユキコシバザギリの持ち主の男が不敵に嗤い、残り2人の男はビデオカメラを構えた。ディアンシー、それも特殊個体ともなれば滅多に見られるものではない。しかも顔からして見るからに若い。寿命の長いディアンシーの代替わりなど滅多にないのだからここで撮らねば損というもの。

 

 「でもな、このトキトビ鉱山では古来より、地面は掘るもの岩は割るもの...って言われてるだろ?

 

 バザギリ、いわくだき!」

 

 「直視すること能わざる高貴なる輝きにひれ伏すのですわ...ダイヤストーム!」

 

 バザギリが目にも止まらぬ速さで飛び上がりーユキコシバザギリは原種バザギリよりも石斧が軽いためわずかな間なら飛翔さえ可能であるーディアンシーの直上を取って頭のダイヤを砕こうと斧を振り下ろすその瞬間、ピンク色の光が満ち溢れ、無数のダイヤモンドの渦がバザギリを呑み込んで地面へと叩きつける。

 

 「遠くからの攻撃はそのみょうちくりんな(きらめきヴェール)で、近づけばダイヤの竜巻で防ぐ...と。なかなかやるねぇ。」

 

 「あら、わたくしの切り札が、ただの鉄壁防御で終わるとでも思っていらして?」

 

 「…終わって欲しいねぇ。バザギリ、きんぞくおんだ。」

 

 磨き上げられた黒い石斧はさながら金属のような質感を持っており、こすり合わせればきちんとキーキー耳に刺しこむような金属音が鳴り響く。ただ...

 

 「うおっバザギリそっちじゃねぇ!ってだからこっちでもねぇ!俺にその音を聞かせるな!」

 

 むしろバザギリのトレーナーが耳をふさぐ結果になった。酩酊しているかのようにふらつくバザギリを見るに、目が見えていない。

 

 「直視すること能わざる高貴な輝き、と言ったではないですか。下賤の者の目がつぶれようとわたくしはかまいは致しませんわよ。

 

 ディアンシ」

 

 その時だった。

 

 少女の背後の鉄格子が突如ズレた。

 

 「何が…」

 

 少女が耳障りな異音を聞きとがめ振り返る。

 

 その場の誰もが、予期せぬアクシデントに頭が追い付かない。

 

 「もしかして、バザギリを出した時の脅しのしんくうは...!?」

 

 男が原因に気付いた時、すでに少女の頭上に、すっかり老朽化でさび付いた巨大な鉄格子が迫っていた。

 

 ガシャン!

 

 砂埃が舞った。

 

ー*-

 

 ディアンシーは、大事なパートナーが死んではたまらないと、とっさに鉄格子の下に潜りこんでいた。

 

 彼女の硬いダイヤの頭ならば、老朽化した鉄格子などなんのことはなかったであろうーただ計算違いがあったとすれば、ディアンシーの身長は0.7mしかなく多少浮遊したところで完全には鉄格子と少女の頭のクラッシュを防げなかったことか。

 

 少女の頭から血がつうと流れ、そしてふらりと横に倒れる。ちょうどそこには、ディアンシーの頭に載った後真横に滑って落下した鉄格子の残骸があった。

 

 真っ白な着物は茶色い錆にまみれ、白い髪に赤い筋が流れていく。

 

 「わたくし、は...

 

 わたくし...」

 

 少女の目が、一瞬、閉じられた。

 

 「わたくし...

 

 わたくし?」

 

 ディアンシーが傷口を手で撫で、そして、はっと何かに気付き、両手で口元を押さえた。

 

 少女は痛む頭を押さえていた手を下ろし、地面に手をついてふらつく身体を支える。

 

 「おっと、くたばるかと思ったが、気を持ち直したかぁ?」

 

 男が、バザギリをボールにしまい、少女ににじり寄った。

 

 「…は...

 

 …何、これ…?」

 

 華奢過ぎる腕、白すぎ、なめらかすぎる肌ー少女の顔に困惑が浮かぶ。

 

 「…これは…?」

 

 様子がおかしすぎる。

 

 「…あ?記憶でも飛びやがったか?」

 

 ディアンシーが、胸元で手を押さえ、そして、どこかつらそうな表情をして…斬られた鉄格子の向こう、廃坑へと飛び込んでいった。

 

 「あー…

 

 ハッハッハ、コイツぁ傑作だ。

 

 盟約は失われたようだな。お前は...家宝を守るバトル中に意識を飛ばすお前みたいなカスは、見捨てられたんだよ。

 

 盟約のない盟約の指輪なんてただの指輪だ、タダより高いものはないってやつだなぁ。依頼者も指輪でおままごとしたいわけじゃねぇだろ、ハッハッハ捨てられて命拾いしたな。」

 

 男が、少女の耳元で小声だが快活に嗤い飛ばし、もう用などないと去っていく。

 

 かくて、少女は取り残された。もはや少女を気に止める者など誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*-

 

 呆然と固まっているかに見えた少女は、頭から流れる血が固まるころになって、ゆっくりと立ち上がった。

 

 「…俺は...

 

 …なんだ、この声...」

 

 身体が軽い。

 

 声が高い。

 

 あとなんか胸のあたりが微妙に重い。

 

 ぺたぺたと胸を触るーどうやら見た目以上にかさがあるらしい。

 

 「えっ…

 

 …いやあの、うっそだろ?」

 

 それから少女は、周りを見回し、誰もいないなと何度も何度も確認して、そしておもむろに、袴の下に手を突っ込んだ。

 

 「いちおう、ふたなりって可能性も…あるいはめっちゃ女装が巧い男の娘...

 

 …」

 

 少女は空を仰いだ。

 

 「俺、女になってるゥゥゥ!?」

 




 バザギリ(ユキコシのすがた) むし/かくとう

 かつてヒスイと呼ばれた地方では、ストライクはくろのきせきによってバザギリに進化することができたが、シンオウ地方ではすでにくろのきせきは取りつくされ散逸・摩耗し、バザギリの姿を見ることはない。

 一方で、古代人が古くから海を渡り各地と交易していたユキコシ地方では、古ユキコシ人が遺していったくろのきせき製石器が、現代でも時折発見される。古ユキコシ人は着の身着のまま逃げ出したと推測されるため発見される石器の多くが未使用で鋭利なままであり、歳月が鍛えたこれらのくろのきせきで進化したバザギリは、原種と異なり黒い身体と透明な石斧を持つ。
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