お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
ポケモン原作に登場しない、ユキコシ地方。その巨大財閥の令嬢、アオバ・フロックス。彼女は妹のカグヤとともに、日本からの転生者中橋蒼玻を自分の中に取り戻し、ラスト団やホープ団と雌雄を決し、古代ユキコシ文明の脅威に立ち向かい、虚龍フィクトマキナから世界を救った。
あの旅から7年目、蒼玻/アオバは、1日限りの分離、日本の神と同名の伝説ポケモン、フロックス家を騙る使者といった、シンシュー地方の異変を察知した。
やってきたシンシュー最北の秘境ウコンタウンで、ジムリーダーのハナツメに勝利した蒼玻/アオバ。ついに、ハナツメの謎、シンシュー地方の謎が明かされる…!
ー*ー
「教えてもらえるかしら。
なぜわたくしたちフロックスの名を騙るような真似をして、そしてどうしてわたくしたちをここへ招いたのか。」
「私の名はハナツメ・フロックス…騙ってはいませんよ。」
すかさず、カグヤが詰問する。
「お姉ちゃんに嘘を付くの?
フロックス家は古代ユキコシ文明滅亡…してなかったけど…の唯一の生き残りレムリア・シバザクラ・コーシーから2000年、途切れずに続いてきた。その間にできた分家庶家はすべて繋がっているし、現代で有力な家は私たち本家とシンオウ地方のヒスイ分家しかない。
シンシューに分家なんてないんだよ。」
ハナツメは、一切の動揺を見せなかった。
「ああ、言い方が悪うございましたね。
こう言えば、どうして私のことを本家が把握していないのか、わかるはずです。
私の名は、ハナツメ・シバザクラ・コーシー。古代ユキコシ文明の、もう一つの末裔です。」
蒼玻/アオバの瞳が震える。カグヤが叫ぶ。
「グレイシア!」
古代ユキコシ文明…コーシーの一族は、あらゆる電設のポケモンを支配し、世界を征服しようとした。いや、「なかったことになった1巡目の世界」では実際にそうなった。もしその残党ならば見過ごせないし、そもそも今さらその名を名乗るとあれば聞いた者を生きて帰さないつもりかもしれない。
グレイシアとイーブイが、緊張をみなぎらせ構える。
「…忘れたのですか?
こちらはフーディンの『ディメンションハンド』でいつでもボールの中から先制できます。真面目に戦う必要はありません。」
身じろぎもせず、ハナツメは告げた。
「だったらなおさら」「…いや違うカグヤ。これは/戦うならいつでも不意打ちできた。今さら真面目に戦うつもりはない…そうかしら?」
「そうです。私が真名を名乗った理由と同じですね。
今さら正体を明かさなくて良かったんです。8年前の古代文明復活より前なら、いつでも名乗り出られました。警戒されるとわかっていてわざわざ真名を明かさなくてもどうとでもなりました。」
いくらでもお前らを料理できるんだぞー言外に秘めた意味に、カグヤが舌を噛む。
「名乗りは、喧嘩を売るためではなく…
…貴女たちの正体を知らないと話が始まらないから渋々、そういうことかしら?」
「そうです。
…2000年ぶりに擦り合わせましょうか。歴史の闇に消えた、もう一つのフロックスの物語を。」
ー*ー
コーシー一族。それはもともと、列島から遠く離れたカロス地方で王家に仕える神官だった。
時は3000年前。当時の王AZは、パルデアなどの隣国と戦争を繰り広げ…そして、大事にしていたフラベベを失う。
悲しみに暮れたAZは、ゼルネアスとイベルタルを手に入れ、フラベベの蘇生を行った。けれどその後、悲しみと怒りが収まらぬAZは、2人の腹心に命じてゼルネアスとイベルタルを「最終兵器」に転用した。
2人の腹心のうち、ゼルネアスもイベルタルもしょせん特殊なポケモンでしかないと軽んじていたサンジェルマンは、AZとともに最終兵器の光を浴び、不老不死となって3000年放浪、その果てにCG:フィクトマキナを創り上げて先日パルデア沖で自滅。一方でゼルネアスとイベルタルを脅威に感じたもう一人の腹心は最終兵器起動直前で袂を分かち、一族を連れ遠く列島へ。
当時未開の地だったユキコシ地方、その山岳地帯に居を構えたコーシー一族は、まざまざと見せつけられた伝説ポケモンの脅威を忘れられず、その制御に1000年間も血道を上げ…生贄を神格に押し付けその代価として調伏する呪法にたどり着いた。しかしそれが、パオジアンを従わせるために幼馴染レムリアの片腕を生贄にさせられた少年アトランティス・ヤグルマ・コーシーの妄執を引き起こす。
アトランティスは成長してコーシーの国の筆頭神官となり、世界中の伝説ポケモンに支配のタネをまき…そしてギラティナにユキコシ地方そのものを生贄として押し付け、コーシーの国を反転世界へ退避させる。すべては、レムリアの犠牲を強いた神々と世界への復讐のため…だがユクシー・エムリット・アグノムのせいでギラティナの支配に失敗し、彼らは反転世界で20年(外の世界では2000年)の雌伏を余儀なくされた。コーシーの国から唯一逃げ出したレムリアを除いて。
レムリアはディアンシーと「盟約」を結び、数十のポケモンを守り、ギラティナによるユキコシ地方破壊を耐えきった。そして、レムリアが身ごもっていたアトランティスとの双子の子どもが、フロックス家の始祖となった。
「…わたくしたちが家伝と古代ユキコシ文明復活事件から類推したのも、同じですわ。」
フロックス家の歴史を語られ、蒼玻/アオバはこくこくと頷いた。ハナツメが独自に同じような結論に達していることには驚いたが、それ自体は既に歴史研究でわかっていたことではある。本家で古代文明関係が抹消され失伝していた部分を知っていても、ただちにそれが分家の証明にはならない。
「レムリアの子孫が、フロックス家となりました。なら、私たちもフロックス家を名乗っていいのでしょう?
時空の根本から破壊されたユキコシ地方は、再創造を経てなお、現代よりずっと厳しい自然の中にありました。そんな中で、レムリアは子育てをした…3人の子を。」
「…わたくしたちの知る家伝とは違いますわ。双子のはずですわよ。」
「三つ子だった、けれど始祖のきょうだいはそれを語り継ぐ気にならなかったということでしょう。古代文明のことを忘れたいというだけではなく、そのこともあって、初代様の話はそちらでは失伝した…
…なんてったって、3人目の彼女は、フロックスの「
「コーシーの志を継ぐ…って、まさか。」
「神格ポケモンの制御。そのために、神祇を生業とした。それが、消えた3人目の正体です。
彼女が、ユキコシ地方を守ろうとして影に徹することにしたのか、コーシーの血の悪いところが出たのかはわかりません。ともあれ、ユキコシ地方を離れシンシューへ移った彼女は、ユキコシ側では消された。そして、シンシュー側では、野の血に交わり、現代まで血脈を繋いできた。」
けれどしょせんは人口の少ない秘境。遺伝子は薄まりにくく、先祖返りが起こることもある…ゆえに、ハナツメ・フロックスはアオバ・フロックスに似ているのだ。
「…なんだったら、盟約のディアンシーをお貸しいただければ、メガシンカができるはずですよ?それで、私の言うことが嘘ではないと確かめられるでしょう。」
フロックス家の特別なディアンシーは、お互いに代々絆を結びメガシンカできる。それはレムリアが始祖のディアンシーと血の盟約を結んだからで…レムリアの子孫なら、ディアンシーとメガシンカできる可能性がハナツメにもある…そう言いたいらしい。
「…ああ、いえ、それは無理ですわ。」
(今のわたくしたち/俺たちがディアンシーとメガシンカできるのは、盟約を結び直しているから、だからな…)
「お姉ちゃん、
ボールを出そうとするカグヤを、蒼玻/アオバが押し止める。ハナツメも、それで判断されては困ると声を上げた。
「そもそもユキコシリージョンフォームのギギギアルが世界にヒビを入れるのは、BREAK
うっかり世界の亀裂の向こうからギラティナが出てこようものなら、かつてのように暴走してはいなくとも、迷惑千万な事態になること請け合いである。
「…と、いろいろ言ってはみましたけれど、冗談ですわ。貴女にも誇りがあるのでしたら、わたくしにこんな壮大な嘘を騙らないですわね。本当のことと信じますわ。
だから、教えてくれるかしら?
もうコーシー文明のような悪だくみをしているわけではないのですわよね?なら、もう少し前に名乗り出ても良かったはずですわ。
ここ2000年で古代ユキコシ文明の名は最悪なまでになりましたわ。自称末裔のホープ団だけではなく、本当に復活して、ギラティナで世界を征服しようとしたことにより。なのに、なぜ。なぜ、今になって、私達の前に姿を現したのかしら?」
「そしてそれは、初代…私たち本家の歴史から消えた3人目が、シンシューに下った理由に、重なるんじゃないの?
古代ユキコシ文明の秘儀に頼ってでも何とかしないといけないかもしれない伝説ポケモンが、シンシューにいた。
それで、貴女たちの祖先、消えた3人目は、シンシューに…」
カグヤはそこまで口にして、ツバを飲む。…やっと繋がった。エクリプスタウン壊滅事件の顛末それに残る疑問も、ハナツメが自分たちをシンシューに呼んだ理由も。
「わかって、いただけましたか。
そうです。シンシューはカナサシ湖、そしてもう1体、コーシュー地方はナデシコシティの地下。
…いえ、眠っているのは、いいのです。私たちは本家が失ったものをまだ持っていますから。」
古代ユキコシ文明の秘儀「失墜」。伝説ポケモンに対し、冒涜的な象徴アイテムを生贄に捧げることで、伝説ポケモンを従わせる儀式。それがあれば、カナサシ湖のミシャグジ神も龍神レックウザも、コーシューの地下の何者かも、問題ではない。ハナツメはそう思っていた。
「伝説ポケモンはなんとかなる…ということでしたら…
…もしかして、伝説ポケモンが暴れたりすることではなく、伝説ポケモンの存在自体が…問題…なの…かしら…?」
「本当に、話が早くて助かります。
一回、外に出てください。そのほうが分かりやすいですから。」
+ー*ー
ウコンタウンは雪で白銀に染まっている。シンシューの山奥は世界有数の豪雪地帯なのだ。
「この景色が、如何したのかしら?」
「景色ではなく…そろそろ西の空が暗くなってきましたね。見てください。」
暮れなずむ空。白い雪山の背景が、青から黒へと変わっていく。
「あら一番星。」
蒼玻/アオバが、空を眺めるのも風雅なものだと目を細める。
「お姉ちゃん、一番星はあっちじゃ…あっち…?あれ…?」
カグヤが、差した指が姉とズレたことに首を傾げ…姉が指差す方の一番星を見つめてさらに大きく首を傾げた。
「…お姉ちゃん、そっちの一番星、ちょっと動いて…」
星の自転で相対的に動いているということではなく、わずかながら他の星に比べて動いている。
「あれは『凶兆の星』です。
あの星が落ちた時、この世界は、終わります。」