お嬢様ポケモン世界を往く! ~ポケットモンスターdarkcatastrophe⇔snowwhite~ 作:十二の子
※「転生ポケモン令嬢」側での掲載はこれが最終話です。続きは「転生ポケモンアイドル」第9章として掲載します。
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「お願いです。シンシュー、そしてコーシュー地方を征討してください。」
ウコンジムジムリーダー、ハナツメはそう言った。
フロックス本家、蒼玻/アオバとカグヤの姉妹は、ユキコシ地方ワカナエシティに急ぎ取って返し、フロックス・グループの情報網で裏付けを行い…そして決断した。
「お姉ちゃん、蒼玻くん、この作戦を実行するってことの意味、わかっては…いるんだよね?」
「ええ/ああ。
『力による一方的な現状変更』…これは軍事侵攻そのものだ。でも、やるしかない。10にバラバラのシンシューや、シンシュー征服に数百年燃えてあまつさえ先代の遺言まであるコーシューが、言葉で止まるわけがない…
/言って聞かないのなら、力で従えるしかない。単純で明確なルールですわ。だから…
…わたくしは
フロックス家2000年、最後の戦争を、始めますわよ!」
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ユキコシ新聞1面「フロックス家、シンシュー=コーシュー介入を提言」
フロックス家当主アオバ嬢は昨日、戦後5年なおも不安定であるシンシュー=コーシュー地方へ軍事介入することを、ユキコシリーグ、ユキコシ7おみや連合、ユキコシ政財界連絡協議会へ提言した。(後略)
シンシュー中央新聞国際面「ユキコシ地方、参戦準備!?」
フロックス家の軍事介入提案から一週間経ち、介入の標的とされた我が地方では波紋が広がっている。
8年前の戦乱ではユキコシ地方は「後背」とされ、実際に消極的な介入を試みては最終盤まで頓挫し続けていた。しかし、一方で、我が地方はユキコシ地方の仇敵であるホープ団の策源地であり、歴史的には対立関係にあったともいえる。
南方のコーシュー地方を意識しなければならない中で北方の強大なユキコシ地方をも脅威として抱えることは、我が地方の存続に影響する重大事態であろう。(後略)
ホープ団軍事日報「戦国シンシューの重大局面 ユキコシ介入の予察在り 全軍は兵備を怠るな」
昨今の情勢から、ユキコシ地方の対シンシュー軍事介入の公算が高まっている。我がホープ団はユキコシ地方に恩赦を受けており、またシンシュー地方シラアイタウンを最大の公然拠点としていることから、義・利双方の見地に於いてユキコシ地方によるシンシュー征伐に協力する義務があるだろう。またシンシュー地方は分裂し依然として戦国状態であり、コーシュー地方は覇権主義を高めていることから、防衛路線から積極攻勢路線に転ずることは合理と大義を兼ね備えている。
三軍首脳部は既にコーシュー・シンシュー再開戦を見据えて兵力増強を図っており、糧秣軍は兵糧の備蓄を加速している。構成各員におかれては、人・ポケモン双方の一層の心身強化を(後略)
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「ユキコシリーグの殿堂入りトレーナー総会は、対シンシュー軍事介入を否決した...か。」
そういうものだし、そうなるだろうと想定してはいた。このポケモン世界に転生してもう9年、いろいろこの世界の不可思議な制度について考えたけど、ポケモンリーグはただのトレーナーの集まりじゃなく、平和維持装置だ。
ほかの地方と戦争しようと思ったら、通常兵器が発達していない上に規制されてるこの世界でポケモントレーナーの協力は不可欠。でも、開戦時に徴兵される側からすればたまったものじゃない。だからポケモンリーグはただの「尊敬されるべき強いトレーナーたちの集まり」ってだけじゃなくて「軍事戦力」でもあり、ゆえに発言権があり、そしてその反対は戦争を始めるのに大きな障壁になる。おまけにポケモンリーグもトレーナーも地方を越える...だから、このポケモン世界は戦争が起きにくい。
「/蒼玻くん、思いをはせている場合ではありませんわ。
リーグに続き政財界も反対に回れば、たとえ7おみや協議会が賛成しても2/3...提案者のわたくしたちフロックスをくわえても2/4...介入軍は成立いたしませんわ。」
ほかの地方でのジムリーダーでありキャプテンでもある、ユキコシ7ぐうじ。彼ら彼女らは旅の中で深くかかわったしユキコシを救う戦いの戦友でもあるから説得できるだろう。しかしリーグの殿堂入りトレーナーたちと政財界は別だ。多くの構成員が異なる思惑で議決に参加するこの2つの組織は「頭のない怪物」とでも言うべきで、説得する手掛かりがない。
「/政財界の過半数をフロックス・グループで取ろうにも、フロックス家が持つ議決権がな...」
フロックス・グループは巨大財閥。当然、政財界に多大な影響力を持つ...ただし問題は、9年前のワカナエ大乱以降、グループの意思決定権はフロックス家・ユキコシ主要自治体・グループ各社で折半されているということだ。フロックス家が政財界にむやみに口を挟もうとすると、その2倍の雑音がなだれこむ。
「…紛糾すれば結論を導くことはできる。でも、そんな時間はない、か...」
夜空に輝く「凶兆の星」。言われなければその存在に気付くことができないというそれを見上げ、蒼玻はぼやく。
「…仕方ないな/そうですわね。多少の無理は、覚悟の上ですわ。チューリップだいぐうじを呼びますわね。」
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「ユキコシ7おみやの長として、サンゴジュおみやだいぐうじ、チューリップが、最強の名の下に、緊急動議を祭します。」
コンジキシティ、コンジキ大学本草学部ポケモン解析学科。その大教室で、ユキコシ7ぐうじが数年ぶりに対面で集結した。
「緊急動議ってアレだろ?シンシューとコーシューへ軍事介入するっていう。熱意があるのは良いことだけど、世論の情熱が足りないぜ。」
そうざっくばらんに言うワカナエぐうじオリザを、コンジキぐうじのカクミガシ博士は黙って見つめる。
(…わざわざ、大学から出たがらない私を対面で引きずり出すために、コンジキ大でのぐうじ総会…本当に、それだけか?)
「はい、まあ、そういうことですね。
提言者はアオバ・フロックス様。内容は、『フロックス家の指揮下にユキコシ連合軍を組織し、政情不安定なコーシュー=シンシュー地方へ軍事介入を実行、平和維持のための全土保障占領を行う』です。」
ガタッ!椅子を蹴り立ち上がる音。グンジョウぐうじのトチュウである。
「まやかしだ!グンジョウおみやは本提言を支持できないっ!」
(…彼の言う通りだな。「保障占領」とは条約等の履行を迫るために履行までの担保として占領すること。シンシューにもコーシューにも戦乱の講和会議以外に条約はないし、そもそも全土を占領して担保も何も無い…)
軍事占領という言葉すら生ぬるい。これは事実上の暫定統治化、保護国化…あるいは、併合、侵略と言うべきプランだ。
「フロックスの系列企業ながらも、私カンゾウも、反対です。
そのような計画は、制裁と孤立を招くでしょう。」
(ジョウト電力が半分を出資するグンジョウ原発のトチュウだけじゃない。カンゾウのトキトビ鉱業も、カントーやジョウト、その他の地方から孤立すれば大変なことになる。反発…するだろうな。)
「わたしたちウスベニおみやも反対なんだよ。戦争は呪詛の温床なんだよ。」
「儂らヌレバおみやも反対じゃ。老いぼれの言うことじゃが…何を急いておる?まさか野望に目覚めたわけでもあるまいし、単に南方の平和を求めるのならもっと穏健な策もあるじゃろぅ?」
「あー…熱意は評価する。空回りするほどの気合もな。けどよ、俺は、そこまで情熱を燃やす意味がわからねぇ。」
(…ぐうじのうち5/7が反対、と。私とチューリップくんの賛否にかかわらず、否決だな。)
「…そうです、か。
…悪く、思わないで、くださいね。」
「なに?」
ーユキツヌシカミの ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ!
ぱちん!チューリップが指を弾くとともに、大教室の窓という窓が弾け飛び、圧倒的な凍気が流れ込んだ。
キン!澄んだ音がして、すべてが凍りつく…チューリップとカクミガシを除き。
「…まったく、困るじゃないか。溶けて水浸しになったら大学事務から請求書が行くだろうね。」
「…私たち『最強』サンゴジュおみやの最高戦力の前で、なぜ無事で…?」
カクミガシの後ろで、メカアブソルが翼を畳んで座っている。
「ユキコシアブソルはこおりタイプだ。その規格外のBREAKワザは、こおりとほのおには通用しないからね。」
「…なるほど?ユキツヌシカミ様なら原種のユキコシキュウコンと違って神通力で監視してできるからと思ってたけど、あくタイプのユキコシアブソルはエスパータイプの監視から逃れられますね。
…で、どうするんですか?他の5人は凍っちゃったけど。」
(…確かにユキコシメガアブソルなら、タイプ的に範囲攻撃・確定命中・一撃必殺の「ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ」にもユキツヌシカミ自身にも有利…だが、チューリップだいぐうじがうちのメガアブソルのことを失念していたということは、考慮する必要のない雑魚としか思われていなかった…ということか。
無謀だな、このバトルは。)
「何を考えているだね?
強行採決をしたところで、いつまでもぐうじたちを氷漬けにしてもおけまい。アテぐうじに至っては御年90だ。…とはいえ殺すわけにもいくまい?
…5ぐうじを納得させなきゃ、採決はいずれ覆される。凍らせたのは悪手だぞ?チューリップくん。」
「いえ?
5/7なら、覆されるかもしれません。けれど、5/11なら、覆せないでしょう。そうですよね、カクミガシぐうじ?」
(後4人…?まさか。)
カクミガシ博士の頭脳は、オーキド博士のポケモン学に並ぶポケモン研究の体系であるユキコシ本草学のトップを担っている。その叡智はたちまち、結論を導き出した。
「…ユキコシに於けるぐうじは他の地方でのジムリーダーでありキャプテンだ。ユキコシでそのような立場にある人間が他にいれば、ぐうじ会議への参加は認められる。実際に直近400年でウスベニとトキトビの他にも出入りはあったしな…
…だがそれはパンドラの箱だ!キミたちはそこまでの覚悟があるのかね!?」
目を見開くカクミガシ博士、毛を逆立てるユキコシメガアブソル。その目の前で、チューリップだいぐうじはタブレット端末を取り出し、オンライン会議アプリの画面を見せた。
「…紹介します。
『ユキコシ地方に地盤を持つ勢力に所属し、ジムリーダーとしてかつ街のキャプテンとしての実力と実権を保有する』…ホープ団糧秣軍、モロコシ中将。それに、モロコシと同格であり現時点の最高位である、ウキクサ海軍中将、ハッカ陸軍中将、アルソミトラ空軍中将です。」
画面の向こう、4人の、ユキコシのかつての仇敵は、黙してこちらを見つめている。
「…なるほど、やってくれたね。」
カクミガシ博士は瞬時に、脳内で計算を巡らせた。新しいぐうじ4人の承認に必要なのはその時点で議決に参加できる全会一致。そして一度された議決を覆すのに必要なのは過半数。5人のぐうじがチューリップに反対して氷漬けにされた今、この数字が表すのは。
「チューリップくんが4人の承認と軍事介入に賛成なら、私が反対すれば承認は1/2でぐうじ解凍後の議決撤回は6/11。賛成すれば承認は2/2で議決撤回は5/11。
クーデターまがいの振る舞いに見せかけて、キミは、私にすべてを託しているわけだね?このユキコシ本草学博士兼コンジキおみやぐうじカクミガシに!」
なっはっは、カクミガシは笑ってみせ。
「…仇敵を迎え入れ軍事侵攻の強行採決を図る。
キミとその背後のアオバくんにカグヤくんには、そこまでしないといけない『裏』があるんだろうね。例えば世界の命運が秘密裏にかかっているような。」
ユキコシ一の天才女教授は、すべてを見抜くような瞳で、チューリップを見つめた。
「だがそれはレジュメで言えば序論だ。私たちぐうじの本論はやっぱりポケモンバトル。
私に、キミ自身のポケモンで、バトルで覚悟を示したまえ!実験開始だ、ヘルガー!」
ユキコシ一強いポケモントレーナーは、嬉々としてボールを投げた。
「全抜きしますよ、モスノウ!」
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カクミガシがボロ負けし、チューリップがコンジキ大学の研究棟一つぶんを弁償してから、2日。
ユキコシ地方の政財界の重鎮が集う、ワカナエシティの大講堂。
「7ぐうじは、シンシュー軍事介入に反対するどころか、こともあろうにホープ団から4人も『ぐうじ級』として認めよった。」
「抗議が必要ですな。」
「シンシューへの軍事介入も不要だろう。5年前とは情勢が違う。」
「至急の平和維持部隊が必要な状況ではまだなさそうですしね。」
「ボランティアの軍事介入ではなく野心があっての軍事介入…とカントーやジョウト、キタカミに思われれば、最悪、当地方は陸路海路ともに孤立します。」
反対意見、そして7ぐうじあらため11ぐうじへの糾弾が相次ぐそこへ、十数人のポケモントレーナーがなだれ込んだ。
「そこまでにしてもらうんだよ。」
ずっしりと重くなる、政財界の重鎮たち。「かなしばり」だ。
「な、何をするんだね…ウスベニの、イチシノぐうじだと!?」
「こっ、小娘が!」
「ならば、老翁ならば良いかのぅ?」
ウソッキーが大講堂の出口を「とおせんぼう」するその後ろで、アテだいぐうじがひょっひょっひょっと笑う。
「ぐうじども…乱心したか!?」
「ホープ団なんぞを仲間に招き入れ、戦争へと邁進する!もはやユキコシへの逆賊だぞ!」
「随分な言い方ですね。私たちには私たちで、マニュアルを破って翻意させられたというか納得せざるを得なくなった経緯、というものがあるのです。」
「不本意ながら俺もだ。チューリップも、その後ろのフロックスも、責任を背負う覚悟を見せているんだからな。」
パタンパタン、名札を机に倒し、トキトビ鉱業とグンジョウ原発のトップ…すなわちカンゾウぐうじとトチュウぐうじが立ち上がる。
「よ、4人まで…開戦に反対すると内諾していたはずでは…」
「バカなっ!」
「おっと、4人?
俺を忘れてもらっちゃ、気合が足りねえなぁ!」
天井の梁の上、オリザぐうじが堂々と立っていた。
「まあいろいろとこっちにもあるんだ。無理に無理を重ねて万難を排して、それでも突き進もうっていう、チューリップちゃんとアオバ嬢ちゃんの情熱、この俺に熱意の火をつけちまったからなあ!」
その一言で、数十人の政財界の猛者の目は、一点へと集まった。
1人が、モンスターボールをポケットに突っ込み、おもむろに尋ねる。
「…お前さん、何をやっておるのか、わかっておるのか?
外患誘致、クーデター、そして侵略戦争の企図。
御身を危ぶめるのみならず、ユキコシ数百万の人口と数億のポケモンを崖っぷちに立たせておるぞ。
アオバ議長。」
身じろぎ一つしない。悪役令嬢はゆっくりと口を開く。
「わかっていますわよ。その上でなお、この戦争は、必要な戦争ですわ。
言って聞かないコーシュー地方と、言う相手すら千々に分裂しているシンシュー地方。」
アオバは口にできない。彼女ほどの信用がある人間が軽々に世界の危機を口にしようものなら、「凶兆の星」のことを告げようものなら、ユキコシどころか世界経済が崩落する。
けれどここにいる人物は、いずれも皆、決して愚物ではない。政財界で一廉の地位を築くだけのことはある人々のはず…アオバはそれに賭けた。
「気づいても口にすべきではありませんわ。気づいたから間に合うかは五分五分ですしね。
ゆえにわたくしは、わたくしの意図に気づいていただく必要などないと考えておりますわ。わたくしの名にすべての業を背負わせてそれが叶うのなら、それがわたくしの
なんとしても、コーシュー=シンシュー地方を鎮定する。御賛成いただけるかしら?」
圧倒的な貫禄、盤面を強硬的にひっくり返しながらも決断は相手に委ねる胆力、あらゆる悪評を浴びる覚悟。…そしてその裏に透けて見える、なんとしても成功させないといけないという使命感と危機感と焦燥感。
だから彼は、それに応えることにした。
「…そうか、それほどか。ならば何も言わん。
絶対に、損をさせるなよ。」
「し、社長…
…わかりました…我が社も、従います。」
「本市も、あえて反対することはできない、な。」
次々と、手が挙がった。
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「アオバ嬢、『介入軍にユキコシリーグの協力は不要』トレーナーたちは反発(ワカナエ日報1面)」
「ユキコシ電力、ジョウト電力に対してグンジョウ原発買収を提案。原発に住むぬしポケモン『マイイカヅチ』の自由度向上が目的か?(ジョウト経済新聞3面)」
「農業系ポケモン大募集中!ポケモントレーナーのバイトならユキナビ!(とあるネット広告)」
「コーシュー地方は軍国主義によるシンシュー占領、収奪、圧政を8年前に試み、そして今度はシンシューばかりかその先の海、つまりカントー・東ジョウト・ユキコシのいずれかを目指しています。列島の目下の最重要課題はシンシューを脅威から解放しコーシューの体制を打倒することであり…(ユキコシ代表カグヤの演説、イッシュ地方で行われた国際会議の席上で)」
「ユキコシリーグは、フロックス家からのリーグとしての介入軍参加を蹴って、そして介入軍の参陣要請からハブられました。
その上に今回の、四天王・チャンピオンリーグ戦の開催提案です。もしこれを蹴ればポケモンリーグとしての威信が傾きますが、受け入れて仮にアオバ嬢かカグヤ嬢がチャンピオンになった場合、ユキコシリーグは陥落することになります。難しい決断となるでしょう(テレビ番組「時事雪論」にて解説員)」
「他の地方の、トレーナー権威と自治体権威を併せ持つジムリーダーーチャンピオン体制による離散的・自治的・合議的体制、またトレーナー権威と自治体権威と宗教的権威であるキャプテン体制とも異なり、長年ホープ団の脅威に対抗してきたユキコシ地方では特徴的な体制が形成されていた。
トレーナー権威であり、自治体権威であり、宗教的権威であるおみや。民衆力の権威である自治体政界。経済的権威である財界。その三者がそれぞれに合議を行い三者間でも合議を行いつつ、別格の名家であるフロックス家を立ててきた。その象徴が、ワカナエ大乱後のフロックス・グループ救済だろう。
状況はここ8年で変わり、そしてこの数週間でそれはさらに明らかになった。ユキコシ地方はおろか世界をも数度にわたり救ったフロックス姉妹は英雄となり、そしてここにきて急速におみや・政財界・リーグを手玉にとるように掌握しつつある。(論文「変容する現代ユキコシ情勢の行く末」序文より)」
「ユキコシ地方向けポケモン輸液・きずぐすり需要が増大中。製薬各社は株価堅調(イッシュストリートジャーナル株価面)」
「コーシュー地方軍大本陣、対シンシュー大規模侵攻を本格的に決定か!南シンシューに戦禍迫る(シンシュー中央新聞)」
「ともあれ、ロクショウ、カナサシ、コウジの3都市は滅ぼさなければならない。その他の7地域も同様である。シンシュー全土を今年中に併呑し、その先の海を目指さなければ、我々コーシュー地方に未来はない(コーシュー軍大本陣通達の一文)」
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「世論は決して賛成じゃない。ぐうじたちや政財界が賛成に回っても、だ。/『フロックス家のマジック』なんてメディアに言われても、内実はクーデターまがいですものね…」
決して褒められたことはしていない。なんなら目指す目標も褒められたことではない。けれど、やらなければ、こうしている間にも世界の終わりが迫っている。
「凶兆の星」は速度を速めたばかりか存在の可能性をも高めているらしく、いくつかの天文台が「なぜこれに気づかなかった?」と首をひねっているらしい。まだその意味に気づいていないことが幸いか。
慌てたフロックス姉妹だが、シンシュー地方への諜報ですぐに理由は判明した…シンシュー地方ロクショウジムジムリーダーかつコーシュー四天王マルス。彼が、占領軍のくせにコーシューの最新兵器たるGXマーカーをシンシュー中にバラまいているのだ。
「…トレーナーたちを超強化してシンシュー情勢をさらに不安定にしたかったんだろうが、いくらなんでも…
/最悪のタイミングですわね。シンシュー側からどころか、コーシュー軍本体からの言葉すら今や通じそうにない暴走具合が、また…」
頭を抱える。もっとも万に一つ、マルスを説得できたところで、流出してしまったGXマーカーの数的にはもう手遅れなのだが。
シンシュー数百万人の野に散ったGXマーカーの回収も、コーシュー数十万の兵力が戦力化しているGXマーカーの回収も、結局は全土占領でしか成し得ないことは明白。
そのためのプランニングをしているカグヤが、扉を開け、書類満載の台車を運び込んだ。
「できたよお姉ちゃん。」
カグヤのグレイシアが、4つの分厚い紙束を器用に加えて蒼玻/アオバの机の上に並べる。
ー7おみやとフロックス・グループ、その他の任意部隊から戦力を抽出し派兵態勢を整える、前段作戦「初雪計画」。
ー国際的な反発を抑え、侵攻を正当化する情報戦「小春日和計画」。
ーコーシュー軍のシンシュー全面侵攻にあわせ、シンシュー地方にシラアイ・ウコン2方面から電撃侵攻、シンシュー地方北半分を制圧する「積雪計画」。
ー残存するシンシュー諸勢力により消耗したコーシュー軍に、シンシュー中央部で決戦を挑み粉砕、そのままナデシコシティを制圧することでコーシュー地方全土とシンシュー南半分を占領する「豪雪計画」。
4つの計画により、コーシュー=シンシュー地方を短期間で制圧しつつ、「コーシュー地方の覇権主義からシンシューを『解放』しコーシューの軍国主義を打倒する」という最低限の正当性を確保している。
「お姉ちゃん、最後に、この4計画を束ねる、全体の作戦名を付けてほしいの。」
「作戦の名前は、前もって決めていたよ。ユキコシの降りしきる雪のように、すべてをあっという間に覆い隠す…厳しい冬のように辛いこともあるかもしれないが、やり遂げないといけない。
/雪解けののちには、何の憂いも残らずまた豊かな春がやってくる、そう信じることができるのではないかしら。ゆえに、本作戦を『オペレーション・ブリザードスルー』と命名いたしますわ!」
少し先の未来の「転生ポケモンアイドル」は…
憑依転生者の蒼玻と、憑依された令嬢アオバ、それにその妹カグヤが、ユキコシ地方の旅のすえに古代文明とメタフィクションポケモンから世界を救ってから、8年目。
シンシュー地方へコーシュー地方が侵攻し、カナサシおみやの依代歌姫アリア・カナサシが決起し、シンシュー地方を10に割っての3年に及ぶ大戦が惹起してからも、8年目。
軍国主義コーシュー地方の偉大なる王は、死の間際、3人の側近に告げたー「如何なる手を使っても、倅とともに、シンシュー地方を攻め落とせ!」
シンシュー地方では、日本が誇る稀代のアイドル言祝アリアが転生し、旅の中でポケモントレーナーとして開花しつつある。
そしてシンシュー地方ウコンタウンがジムリーダー、ハナツメ・フロックスは告げた…コーシュー・シンシュー地方を征討し、パワーアップアイテム「GXマーカー」を接収しなければ、世界は終わる、と。
蒼玻/アオバ・フロックスの指導の下、北の超大国ユキコシ地方は急速に戦時状態へと移行し、そして3地方は戦場にて相まみえる…!